ラビット・アンダーグラウンド 21 話
――アンバーが置郷と接触する少し前。
なゆかはステージでラビットとして持てる限りのサキュバスハーフの力をふりまいた。どこまで自分の力が影響を与えるのか、自分の限界点はどこか知る為である。
「(ものすっごい! バスケの試合でゾーンに入った時に全てうまく動けた時の感覚に近い!)」
なゆかのサキュバスハーフの力がフロアーに満たされていく。客全員がラビットを見ている。
「(視線を感じる! 目を合わせたら何か感覚で繋がってる気がする! バスケの試合でアイコンタクトで通じるようなそんな感じ!)」
ラビットのステージは前座に過ぎず、照明の演出も生バンド演奏も無い。フロアーの照明も通常通り。途中で狐理子ことフォックスがステージに合流する。
「大丈夫?」
すれ違いざまに声をかける狐理子。
「うん、ちょっと目の奥がズーンとするけど……」
フロアーの後ろの方の客はラビットを見ていない。
「 20m 超えると効果は届かないっぽい……」
「はっきりと表情が見える距離程度か」
「どうもそうっぽい。私が相手の顔をちゃんと肉眼で見ないと駄目なのかも」
「例の幼馴染み警官が来てる」
「うん、なんで来たんだろう? 夜のお店とか嫌いそうなのに……」
「捜査の一環なのかも」
「え~……」
「一応ポポリンに客全員の顔を覚えさせといたらどうかな?」
「そうする、そんでラビットの事忘れられないように客に念送っておくね。これでまた来た時色々と動きやすいし」
「リスト化しておこう」
「……ねぇ狐理子ちゃん」
「どうした?」
「変な視線感じる。姿は見えないけど……」
「私には解らないが……コンキチも何も反応してないぞ。だが一応、 SliME 通信で皆に知らせておく。この場に不逞の輩が紛れ込んでいる可能性もあるからな」
この通信が功を奏しアンバーを向かわせた。置郷が LOKI のアジトに迫る前に阻止できたのであった。
怪我をした置郷は垓の影に潜み LOKI の追撃から逃れ LavaGarden から退散できた。
***
――翌日
「クソッ! クソッ! クソッ! クソッ! クソッ!」
大澤垓は警察署内にある射撃場に居た。命中率は悪い。
「なんだあの兎のダンサーは! 俺にはなゆかが居るんだ他の女などどうでもいい! なのになんであの兎が気になるんだ!」
新しいマガジンを装填し更に連射する。
「(とっ捕まえればいいじゃん)」
置郷は影の中から呟いた。垓にとっては心の中で響く声に聞こえる。
「そうか、そうだよなぁ……あの兎、とっ捕まえてやる! 徹底的に調べてやるぞ」
「(甘い甘いよ、なゆかへの思いを邪魔する存在なんだから排除しなきゃ)」
「ムショにブチ込んでやるか」
「(ダメダメ、執行猶予付いちゃうよ。私刑でいいよあんなビッチ。弾丸ブチ込んでやりなよ、正当防衛になる工作してさぁ)」
「ブチ込むのは弾丸か……この街で甘い事は言ってられないものな」
「(そうそう、ドンドン排除しなきゃ)」
置郷は垓を利用し LavaGarden と警察を衝突させ LOKI のメンバーをあぶり出す作戦を考えた。
――更に翌日の夜。
垓は LavaGarden に向かう。そしてラビットのステージを見終わった後、店の外で張り込む。
朝まで待ったがそれらしき人物は出てこなかった。
また翌日、今度は開店前から張り込む。ラビットに該当する背格好の女性二人にターゲットを絞った。警察の捜査用端末で歩き方のパターン等を入力。 LavaGarden のステージフロアーは持ち物検査が厳しく端末も持ち込めない為、垓は必至でラビットの動きを脳に焼き付けた。そしてステージが終わった後車の中で端末のデータと睨み合いをする。
「……」
数時間映像を見続け、兎川伊奈がラビットの動きに近いと確信を持った。
更に更に翌日。垓はステージ後すぐに店の外で兎川伊奈を待ち続ける。しばらくすると兎川伊奈ともう一人の女性が出てきた。近くの駐車場に向かって歩き出す。
「おい! 警察だ!」
垓は後ろから声をかけた。
「え?」「警察?」
驚く二人。垓は ID を見せながら拳銃を抜いた。
「動くな! 兎川伊奈、一緒に来てもらおうか?」
「えっと……どうしてですか?」
「逆らうのか? 公務執行妨害で逮捕しても良いんだぞ?」
「逮捕状も無いのに任意同行できません」
「ごちゃごちゃうるさい……弾丸ブチ込まれたくなければ来い!」
垓は発砲する。近くのゴミ箱に命中した。
「撃った !? 」「え、マジで……」
「俺の引き金は軽いぞ? さぁ来い兎川伊奈、もう一人のお前は黙ってろよ? 少しでも騒ぐと撃つ」
兎川伊奈の横の女性は無言で頷いた。
「さぁ来い兎川伊奈!」
銃を向けながらゆっくりと近づく垓。対する兎川伊奈は――。
「止まって!」
瞳が桜色に輝いた。
「ぐぅむ……」
手で頭を押さえながら呻く垓。
「嘘、止まらない!」
「止まれねえだよ俺は !! 」
鼻血を出しながら目を血走らせて銃を向ける垓。引き金を握りこむ。
「あっ……」
弾丸が兎川伊奈の肩を掠めた。しかし次の瞬間体をコマのように回転させ手裏剣を投げ込み垓の拳銃を叩き落した。
「なん……だと !? 」
垓は次に電磁警棒を取り出した。
「公務執行妨害だ!」
置郷に支配された垓は止まらない。警棒で殴りかかるも軽く回避され、稲妻のように鋭い後ろ蹴りを腹に受けてうずくまる。
「ごぇえええ……」
兎川伊奈にこれ程の格闘センスが合ったのか、と考える置郷。真実は――――。
***
ステージを終え買える準備をしているなゆかと狐理子。 SliME でなゆかは兎川伊奈に変身を始める。
「ちょっとまったなゆか、兎川伊奈は私が変装する」
「フォックス忍法なりきりの術で?」
「ああ。今日は何か嫌な予感がする、なゆかは私の仮の姿に変身してくれ」
「わかった」
***
垓が襲い掛かったのは狐理子。訓練を積んでるとはいえ数々の実戦経験のある忍者の狐理子に垓が勝てるはずもなく一方的に叩きのめされた。なゆかのサキュバスハーフの力は SliME を通して狐理子のコンキチに伝えられそこから発せられていた。
「(ちぃ、こいつはここまでか! ならば!)」
置郷はぬるりと垓の影から飛び出し垓の頭上に覆いかぶさる。まるで着ぐるみのように。その姿はオキゴンドウの怪人となった。
「何者!」「え !? 」
狐理子となゆかは構える。
「クックック……どうせお前らはここで死ぬんだ教えておいてやろうか。私は院瀬見六騎衆(イセミ・シックスナイツ)の一人イプシロン」
「イセミ・シックスナイツ!」「ええー !? 」
「クックック……この警察官の男の命が惜しいだろう? 攻撃できるかな? 私への攻撃は全てこの男に伝わるぞ? 警官に危害を加えればどうなるか解るよな?」
「そうか……」「垓……」
ゆっくりと落とした拳銃を拾うオキゴンドウの怪人イプシロン(置郷)。なゆかはその様子をサキュバスハーフの力を解放して見つめ続ける。
「クックック……魅了の魔眼かなにかしらんがその力はすべて中の警察官が受けている。そしてこの男は偏執的に拘っている女がいるから効かないのだ」
「えっ……」
ここでなゆかは考える。
垓が異常なまでに自分に拘っているからラビット(兎川伊奈)の魅了の力が通らないという矛盾に首をかしげる。
「(私はなゆかでラビットで兎川伊奈なのに効かないってどういう事 !? )」
『ポポにも解らないよ』
「(……だったらさぁ。なゆかとして垓に魅了をかければ効くって事かな)」
『それは危険だね。この先ずっと垓はなゆかに付きまとう事になるよ』
「(……それもさぁ、一つ考えがあるんだよね。映画とか小説でよくある展開のね)」
『一体何を?』
イプシロンの攻撃をさばき続ける狐理子の後ろで思考を巡らせるなゆか。
「(垓はもう戻れない可能性もある……私への未練だけ残っても可哀想。ならどうすればいいか……ってね)」
『なゆかはもう垓を見捨てる気?』
「(実験でもあるよ。垓は私に拘り続けている。中身は私で見た目はラビットの私がサキュバスハーフの力を使っても私の中身に気が付かずに垓の中の私に強い感情を向けている。これってさぁ垓の中にいる私だけしかサキュバスハーフの力が効かないのか実際の私の姿を見せて垓の頭の中で合致させれば効くのか気になるよね?)」
『まさかここで正体を晒すの?』
「(うん、それでもう垓との関係を終わりにしたいの。失敗した場合私はこの街でずっとまた違う姿で生きる事になるけど……)」
『決めたんだね』
「(私はこの力と向き合って生きて行く。今までのようにずっと自分を抑え続けて苦しむのはもうごめんなの)」
『わかった、ポポはなゆかをサポートするよ』
なゆかはゆっくりと垓と狐理子の横に回り込む。イプシロンと狐理子の攻防は圧倒的に狐理子の優位でイプシロンの息は既に上がっている。
「ぜーはー……おかしい、いくらこの男が弱っているとはいえ LOKI の幹部でもないただの忍者のお前が何故ここまでやれる……」
「私はこの街に来てかなりの実戦経験を積んだ。フォックス忍法により脳内シミュレートを何度も繰り返し強者たちの良い部分を取り入れ常にアップデートしている。仮にお前がこの場を逃げおせても次は無い」
狐理子はイプシロンのスタミナを削るように回避しさばき打撃を入れては付かず離れずを繰り返している。なゆかは狐理子に目で合図する。
「ぜーはーぜーはー……クソ、体が重い……」
「イプシロンだったっけ? こっちを見なさい」
なゆかはターンして SliME ポポリンを全身から解除する。現れたのは黒いワンピース姿の私服のなゆか。
「 !! 」
イプシロンの体が硬直する。イプシロンに包まれている垓の心拍数が上がり大量の汗が流れ始める。
「ウ……グウウウウ……」
膝から崩れ落ちるイプシロン。
「垓、私はラビットなの。貴方が思っている人間じゃないしこれからもこの街で好きなように生きて行くの。だから私の事は忘れて?」
なゆかは頭の痛みに耐えながらサキュバスハーフの力を全開放する。桜色のオーラが頭部に巻き角、背中に羽根、腰に尾の形をとり、肌には紋様が現れる。
「ガアアアア……アガアアアアアア……」
イプシロンの中の垓の目、鼻から血が噴き出す。口からは血泡、胃は痙攣し全身は震え全ての感覚は消えていく。脳は萎縮し思考停止寸前に。
「私はサキュバスハーフなの、今まで隠しててゴメンね。さようなら」
なゆかはイプシロンの頭を両手で掴んでじっと桜色に輝く目で見つめる。
「ナユカアアアアアアアアアアアアアアアアア……」
大の字になって倒れこむ。全身から体液をまき散らして気を失う垓、イプシロンはここでようやく泥のようにズルズルと垓の体から離れ始めた。
「クソ……なんとしても逃げて報告しなければ……」
「逃がすと思うのか?」
狐理子が掌のブースターを崩れかけた粘土のようなオキゴンドウ姿のイプシロンに向ける。
「おまえは暗殺諜報専門のイセミ・シックスナイツだな。こうなってはどうしようもない」
「ケケケ……自分を倒しても第二第三のイプシロンが現れるだけだ……」
「……そうか」
狐理子は SliME ネットでクリムゾンに報告する。
「これからお前は尋問される……もう会う事も無いだろう」
「ケケケ……早く殺せよ。拷問官を乗っ取って脱出するかもしれんぞ?」
「お前の処遇を決めるのは私ではない」
狐理子の目の前でイプシロンが地面に沈み始める。
「何……これは……」
「テメェはオキゴンドウらしいな? シャチの恐ろしさ味合わせてやるよ」
半シャチ姿のハートが液状化した地面から顔を出しイプシロンを地中に引きずり込んだ。残されたのは気絶した垓、狐理子、なゆかであった。
続く
ラビット・アンダーグラウンド22話 Jul 21, 2026
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