BW第 1 話
「ハッピーバースデー!」
娯楽室に入った途端クラッカーが鳴らされた。困惑しているのは赤髪にピンクのメッシュ交じりのカミリア・バーンランド。本日 16 歳の誕生日を向かえた。
「おめでとうキャミィ」
そう言って微笑みかけるのはカミリアの母マリア。カミリアと比べかなり体格が良いのでいつも話かける時は少しかがんで目線を合わせてくる。カミリアは最近それが恥ずかしかったキャミィという愛称も含めて。
カミリアは小柄童顔で 16 歳には見えない。 4 歳年下のミューと同じ体格でミューにすら同年代扱いされている。
娯楽室の中央に鎮座するのはスポンジ 3 段重ねの巨大ケーキ。子供の誕生日にしか登場しない特別な物でカミリアはあと 2 年でこのケーキを作って貰えなくなる。勿論一人で食べるわけでは無くみんなで分け合うのだが誕生日の主役は好きな場所を取り分けてもらえるのだ。
娯楽室に子供は 4 人。カミリア、ミュー、ハル、ビリー。ミューは最年少で料理と裁縫が得意。ハルは 1 歳年下、機械いじりが好き。ビリーは一つ年上、格闘技好き。カミリアは広く浅くそれなりに器用にこなせるものの夢中になれるものは無く、しいて言えば走る事が好きだった。
「さあさ、ロウソクの火を」
マリアはそっとカミリアの背に手を回し促す。ケーキの前にはパテシエのマイクが満面の笑みでロウソクに火をつけている。
「さぁどうぞキャミィ」と言って離れるマイク。
テーブルの前に用意された台が否が応でも自分の身長ではロウソクに届かない事をわからされる。カミリアは少し抵抗して台の一番上には乗らずに 1 段目に乗り一番上の 2 段目には片足だけ乗せてロウソクに息を吹きかけ一気に消した。
「去年と変わってねーな!」とビリーは軽口を叩きながらカミリアの尻を指で突いた。
「ちょっと!」
「ケツは成長しているようだな! よく鍛えてる」
ビリーは自慢の胸筋を見せつけながら悪びれる様子もなく笑顔で言った。
「早く食べようよ~」
メガネの位置を直しながら小太りのハルが訴えかける。機械の次に甘い物が好きなハルは待ちきれない様子。
「キャミィ、ハルもお待ちかねよ。好きな部位を選んでよ」
ミューは取り皿をカミリアに手渡す。最年少だが妙にお姉さんぶる様子は彼女が世話焼きなのを物語っている。
「じゃあ一番フルーツが乗っているこの部分で……」
ケーキを取り分けるマイク。カミリア達は席に着き冗談を言い合いながらケーキを口に運んでいる。その様子を眺めているマリア。
「あの子が 16 歳か……早いもんだ」
「やっとるようだね」
現れたのはこの施設の最高責任者のチャールズ。短髪で色付き眼鏡に整えられた髭を蓄えている。
「施設長……」
「どうかな、あの件考え直してくれたかね?」
「は、はぁ……」
「あまり先延ばしには出来んぞ? この場所もいつまで持つかわからんからな……」
「解っています……」
「外での不穏な動きは君も知っているだろう?」
「ええ……」
「君が決断してくれれば東部の――」
マリアと施設長の会話は突然の停電によって妨げられた。すぐに非常電源へと切り替わる。
「なにがあった !? 」施設長は胸ポケットに取り付けてある無線で施設管理室のオペレーターに向かって叫ぶ。
「侵入者です! メインゲートのロックを破られました! 防火シャッターを降ろしましたが時間の問題です!」
「馬鹿な! 警備兵を向かわせろ! 第1警戒態勢だ! ! 」
【緊急事態発生 緊急事態発生 第 1 警戒態勢 第 1 警戒態勢 速やかに行動してください 繰り返します――】
館内アナウンスが響く。
「キャミィ、みんな! 倉庫に逃げるのよ!」
マリアはケーキを口に入れたまま呆然としている子供たちに向かって言った。
「みんな行くぞ!」年長者のビリーが机を叩くとカミリアたちは我に返り頷いた。
日頃から訓練しているとはいえまさか現実に起きるとは思っていなかった。ビリーは最年少のミューの手を引く。続いてハル、一番後ろはカミリア。
倉庫に向かって走り出す 4 人。銃声と爆発音、高回転のエンジン音が施設に響いている。
「あの角を曲がれば……」
突如目の前の壁が崩壊し吹き飛ばされるカミリア、床を転げる。
「痛ったぁ……」
「大丈夫かキャミィ!」
ビリーの声がする。 T 字の通路は崩壊して瓦礫で埋まっている。ビリーの声と顔半分だけが隙間から見える。
「危ないから瓦礫には近づくなキャミィ! 中庭から回って倉庫に来い!」
「わかった!」
立ち上がるカミリア。来た方向とは逆に走り出す。
「ああ……」
メイン通路には血まみれの警備兵たちが倒れている。カミリアは震える膝を叩いてメイン通路を横切る。
「キャミィ!」
警備室の前で武装したマリアと会った。
「なんでここに !? 」
「通路が崩壊して通れなくなって……中庭から行こうと……」
「そうだったの、でもここより先は敵がいる。隠れなさい」
「でも……」
「出て来ちゃ駄目よキャミィ、愛してるわ」
マリアはキャミィの頬にキスをすると警備室のロッカーに無理やりカミリアを押し込んだ。
「ママ!」
「大人しく待ってなさい、静かになるまで絶対に出たらだめよ!」
涙が止まらないカミリア。ロッカーは狭かったがこの時ばかりは自分の体が小柄で良かったと思った。
高回転エンジンの音と銃声、悲鳴と叫び声が近づいてくる。カミリアのロッカーのスリットからは正面の扉からメイン通路の一部しか見えない。
銃声が止みマリアが何か話している。もう一人男の声がした。マリアが銃を構えゆっくりと左から右に下がっていくのが見えた。その後にエンジンのアイドリング音を響かせ全身を流線形のアーマーで包み込んだ男がマリアにゆっくり向かって行くのが見えた。
「(ママ……)」
発砲音と高回転のエンジン音が鳴った。その後マリアを肩に抱えて歩いていくアーマー男の姿が見えた。
「――――――ッ !! 」
今すぐ飛びだしてアーマー男に向かってママを返せと叫びたかった。でもそれをママは望むだろうか? 隠れていなさいと言われた。いつでもママは正しくて賢くて優しかった。
カミリアは恐怖のあまり失禁し足には力が入らずロッカーの中で口を抑えて震える事しかできなかった。
気絶したカミリアが気が付いたのは襲撃があった 6 時間後であった。
非常電源の薄暗い警備室。ゆっくりとロッカーを開けて出る。警備室のモニターには動いている人物は居ない。
「……誰か、誰かいないの?」
モニターを切り替えるも映るのは横たわっている者達だけ。倉庫前のモニターを見てカミリアはビリー達が隠れているであろう倉庫に向かう事にした。
まだ敵が隠れているかもしれないとビクビクしながら中庭を通り倉庫に向かう。大人たちと警備兵が血まみれで倒れている血が渇きつつあることから死んでると考えた。生きている人がいるかもしれないとも思ったがそれよりもビリー達の事が先に頭によぎりひとまず置いていくことにした。
「はぁはぁ……」
ストレスで腹が痛むカミリア。
「誕生日で楽しくてケーキもおいしかったの何でこんな事に……」
倉庫にたどり着くと扉は僅かに開いていた。そっと覗くと中は荒らされ人影は何処にもなかった。
「ビリー、ミュー、ハル……」
返事は無い。カミリアは血痕が無い事に少しだけ安心した。
「他の場所に隠れているのかも」
カミリアはカラカラの口を倉庫にあるボトルの水で潤し警戒しながら倉庫から出る。
「そうだ、警備室のカメラ映像を巻き戻せば!」
警備室に戻るカミリア。カメラ映像を巻き戻して見ていく。
施設の入口に繋がるトンネルを歩く 5 人の武装集団。一人は流線形のアーマー男だ。襲撃者の一人が端末を操作して分厚い金属の扉を開けた。
「何でトンネルの扉を開けられたんだろう……」
カミリアは倉庫前を移しているカメラに切り替え早送りで見ていく。ビリー達が倉庫に入った数分後、アーマー男の仲間が扉のロックを解除して中に侵入。しばらくすると暴行を受けたのか怪我をしているビリーと泣いているミュー、ハルが手錠を付けられ連れていかれる姿が映っていた。
「みんなが!」
トンネル前のカメラに切り替えると、アーマー男はマリアを担ぎ、ビリー達は手錠を付けられ銃を突き付けられながら出て行く姿が映っていた。
「生きてる……ママもビリー達も……」
どうやってママたちを追うのか。カミリアはトンネルの外に出たことがない。トンネルの外は【ブラックウェイストランド】と呼ばれる砂漠と荒野が広がり凶悪生物や賊がウヨウヨしているのだと聞かされている。
物資は担当者の大人が他の施設や集落から仕入れてきているのだと聞いている。
「そうだ……生存者の確認を!」
カミリアはここでようやく生存者の確認を始めた。一人一人生きているか確かめていく。この施設には合計 50 人が暮らしている。
一人一人体をゆすって首に手を当てて確認していく。銃弾を浴び一目見ただけで無理だと思ったが誰か生きていればと希望を持って歯を食いしばりながら続ける。
「施設長が居ない……」
カミリアは銃弾で穴だらけの施設長室を探したが血痕すら見当たらなかった。
「施設長はどこかに逃げた?」
周囲を警戒しながらカミリアは施設長の端末を起動する。幸いパスワードは引き出しのメモ帳に書いてあったためクリア出来た。
「うーん……」
データの殆どは外付けの記録媒体にされていたのか本体の保存ファイルには役に立ちそうなデータは無かった。
「どこかに助けを呼びに行かないといけないのに……ママたちを探しに行きたいのに」
カミリアは施設の外によく取引に出ていた男、バズの部屋に向かう事にした。バズ本人はトンネルのすぐ近くで撃たれて死んでいる。
バズの部屋は本と小物で溢れていた。カミリアは取引先の手掛かりを探す。吊るされていたカバンから取引内容が書かれたメモを見つけた。
【ソット……塩、水、 S ニウム】
「施設はソットと呼ばれる街か集落と取引してたのか……でもこのソットってどこにあるんだろう?」
バズのカバンには水筒、方位磁石、地図、ナイフが入っている。
「地図……広げてもこの施設がどこかわかんないしどの印がソットかわかんない……」
地図には黒山脈に囲まれたブラックウェイストランドが描かれている。北の山脈の傍にある湖の隣に大きな街が描かれている。
「まさかここがソット?」
大きな街を目指すにしても現在地を知る必要がある。カミリアは施設の中庭でしか太陽を見たことは無い。トンネルを通り抜け外に出て朝日の方向で大体の位置が知れるかもしれないと考え朝を待つことにした。
寝れなかったカミリアは着替えて旅の準備をして過ごした。倉庫から食料と水、バズのカバン、方位磁石、地図、水筒、ナイフ。恐らく外の世界で使っているであろう通貨のコイン。銃を持っていくか悩んだ結果、一番小さくて軽いリボルバーにした。唯一カミリアが射撃訓練で撃った事がある銃である。着替えにフードマント、ゴーグル、マスク、双眼鏡で詰め込むとかなりの荷物になった。
「バズはこれプラス取引の荷物持って歩いてたんだよね……凄い」
施設長を除く全員の遺体にシーツや毛布をかぶせたカミリア。他の街や集落から人を呼んでくるまでの我慢だと全員に言いきかせた。この状況でじっとしている時間は耐えられなかった。
準備を終えカミリアはトンネルに向かう。生まれてきて初めてトンネルに入り外に出る。鼓動が高鳴り汗がにじむ。トンネル出口の操作盤のレバーを引くとブザーとランプが点滅。目の前の壁と思っていた金属の扉がゆっくりとスライドして開く。
「あ……ああ……」
カミリアの目の前に広がるのはゴツゴツとした岩の荒地。風が強く吹き付け轟音が響いている。後ろでトンネルの扉が閉まる。完全に岩肌と同じカモフラージュがされていて閉じた後は何処までが扉か分からなくなった。
「これが外の世界……あ、太陽は……」
肌を刺すような強い風と、遮るもののない広い空。生まれて初めて見る本物の太陽にカミリアの胸は高鳴った。バズの残した地図を頼りにすれば、きっとみんなを助けられる。その希望に胸を膨らませ手をかざしながら朝日の太陽を確認、左方向に見える。後方には岩山、バズの地図では現在地が東西のどの位置かは解らないがここがブラックウェイストランドの南部である事は判明した。
「南側には……印がある! まずはここを目指すのがいいかも」
川の近くに記されている場所に向かう事にした。川を探して南の山脈を背に地図を見れば最初の目的地に行ける気がした。
カミリアは注意深く岩山を降りていく。途中獣の遠吠えを聞いて身をひそめたが姿は見えなかった。下まで降りると焼けるように暑かった。細かい砂が舞い視界を遮る。
双眼鏡を取り出して周囲を見渡す。すると前方にテントが見えた。カミリアはすがるような気持ちで小走りでテントに向かって走っていく。
「はぁはぁはぁ……」
きっと人がいる、ソットの場所を教えてもらえるかもしれない。なんなら付いてきてくれるかもしれないそんな希望を持ってテントに近づく。
「えっ……」
突如左肩に鋭い痛みが走った。手で触ると金属の細い棒が突き刺さっていた。
「あああああああああっ……」
その場にうずくまるカミリア。
「ひゃはははははー! こんな場所に新鮮なチビが居やがったぜ!」
砂の中からマントを着込みボウガンを持った痩せた男が現れた。
「おい、人間はすぐ死ぬんだ、無闇に撃つなっていっただろう? 売れなくなるぞ?」
大柄でゴーグルをかけた男がテントから現れた。
「すまねえアニキ! ハンターの癖でつい!」
「それにしても驚くくらい上等なガキだな……ゴース住民か?」
「いや、こんな辺鄙な場所に居ねえでしょう。どっかで飼われてたのが逃げ出したんじゃ?」
「だとするとかなりの金持ちか。飼い主が見つかってもこのまま売るにしても儲かりそうだな」
うずくまるカミリアを蹴って仰向けに転がすアニキと呼ばれた男。
「女じゃねえか益々高く売れるぜ!」「ひゃーははは!マイホームの夢が近づきますね!」
ボウガンの矢に毒が塗ってあったのかカミリアはそのまま意識を失った。
目が覚めるとフードマント一枚だけを身に着け鎖付きの首輪。暗いコンテナの中のような場所に居た。揺れている事から移動しているとカミリアは考えた。
「……」
目覚める寸前、全部夢で起きたら誕生日の次の日でママもみんなも居て日課の野菜プラントの世話をするんだ。とカミリアは考えていた。現実は違った更に絶望が襲ってきた。
続く
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