BW 第 2 話
怪我の痛みと脱水症状で息も絶え絶えのカミリア。コンテナが開かれると目の前には積み上げられた金属のジャンクの山。無数の檻が置かれ中には人間や獣が入っている。
「オラッ! 降りろガキ! ……ボーマン、車を駐車場に止めておけ」「ヘイアニキ!」
荒々しく首輪の鎖を引かれコンテナから引きずり出されるマントだけを着させられた姿のカミリア。施設では嗅いだことの無い悪臭に満ち、周囲の人間は皆武装して攻撃的な目をしている。
「(外の世界はこんなに……)」顔をしかめるカミリア。
「よぉジーマン、今日は珍しく人間の獲物か?」
カミリアの鎖を引いている男に話かけたのはゴーグルをかけ棘の付いた肩パッドの男だ。
「ああ、弟のボーマンが運よく仕留めてよ。コイツは中々の上物だぜ良い値を付けてくれよな?」ジーマンは親指で後方のカミリアを差して言った。
「ここいらでは見ない信じられないくらいの上物だな。まさかとは思うがゴースの住民じゃねえだろうな?」
「いや、大丈夫だ。コイツの体にゴース市民のインプラントはねぇ。取り除いた形跡もない疑うなら調べてみるか?」
「ふ~ん……」
吐き気がするほどの悪臭を放つ肩パッドの男がカミリアの頬を掴んで強引に口を開かせて口内を観察する。
「こいつはおどろいた、歯も全部ナチュラルで揃ってやがる。肌の状態も下手なゴース市民よりも上質だ……ジーマン、コイツをどこで拾った?」
「サウス山脈の廃鉱近くで見つけた」
「あの場所は獣しか居ねえんだがな」
「ああ、俺たちはブラックウルフを探しに行ってんだ」
「近くに集落もキャラバンの交易所もねぇ……妙だな」
「なんだよジャック、そんなに気にする事か?」
「大ありだな。ゴース市民ならここにゴースの特殊部隊が殴りこみに来て壊滅だ。インプラント処置されてないのが気になるが……」ジャックと呼ばれたゴーグル肩パッドの男は腕を組み顔をしかめた。
「つまり……コイツを買い取ってくれないのか?」
「う~む……」
「あの……」カミリアは震えながら声を絞り出す。
「おっとガキ、黙ってな。何も聞きたくねぇ、話すならドクターに話しな。ジーマン、コイツはとりあえずドクターに預ける。詳しい検査をしなきゃならん買い取るかどうかは明日返事する、それでいいな?」ジャックは鍔を地面に吐き捨てて言った。
「……いいぜ」
ジーマンは踵を返し渋々帰っていく。カミリアはジャックに鎖を引かれてテントに連れていかれた。
「ドクター、コイツを調べてくれ」
「やぁジャック、なんとも珍しい子を連れて来たねぇ」
紫色の髪に眼鏡をかけた白衣の中年女性がペンを弄びながら言った。
「ゴース市民かもしれねぇ、もしかするともっとやべぇ奴のガキかもな」
「ふ~ん……まぁ調べてみるよ。人食い族とのあの事件以来慎重だねぇ」
「あれは手違いで……もう二度とあんなのは御免だ」
「人食い族にゴース市民を売っちゃった結果、特殊部隊に人食い族もジャックの部下もみーんな始末されたもんねぇ。あれはゴース市議会員の家出娘だっけ?」
「…… 1000 万 E の値が付いてあの時は舞い上がってたんだ。俺はたまたま別の用事で出かけてて命拾いしたがな。元の JJ ヤードは今や廃墟だ……」
現在の JJ ヤードは元々はサブ拠点の JJ ファームであった。メインが壊滅した為ファームの 3 分の 2 の農地を削り生き残った仲間と再建した。ドクターは元からファームに住んでいてこの場所がメインになってから忙しくなったと当時はぼやいていた。
「あんなことがあったし絶対にゴース市民は扱いたくないって訳だ。ゴース市民は死んだり生命の危機に瀕すると連絡が行くようになってるみたいだしねぇ」
「だからドクターにこいつがゴース市民かどうか診断して欲しいんだよ」
「で、この子がゴース市民だったらどうするの? ゴースに返しに行く?」
「いや、俺のような人間があの街に近づくだけでズドンだぜ、死にたくねぇ。その場合リーヴに引き渡す、足元見られて二束三文になるかもしれねぇが」
「ああ、あの金持ちハーレム男ね。確かにあそこなら生命の危機はなさそうだ。リーヴもゴースの市民ではあるからね。市外に住んでいるくせに」
「……あの時、リーヴは家出娘に 100 万 E を提示してたんだ。人食い族の長は息子の成人祝いに欲しいって 1000 万 E を出すって言った。欲に目が眩まなければ……」
「リーヴは好みがうるさい癖にケチだからね、金持ちなのに。あんなに立派なタワーに住んでいるのに」
「本音を言うとリーヴもそうだがあのタワーの連中と関わるのは最低限にしたいんだ。奴らはマフィアだ、借りを作りたくねぇ。だからこのガキがゴース市民じゃなければなんの問題も起きない」
「そうだねぇ~この子の事はまかせてなよ」
「ああ、よろしく頼む」
テントを出て行くジャック。残されたカミリアとドクターと呼ばれた女性。カミリアの鎖はテントの中央に支柱に繋げてある。ドクターはカミリアをベッドに寝かせる。
「大人しいね君、名前は?」聴診器を胸に当てながら優しく微笑みかけるドクター。
「カミリア……カミリア・バーンランド……です」
「……へぇ。お父さんかお母さんはいるのかな?」
「ママが居ます……でも連れていかれました……」
「ふぅ~ん……で、どこから来たの?」
「施設……」
「施設? 施設ってどこの?」
「わかりません、ずっと施設の外から出た事なかったから。南側だって事しか」
カミリアはドクターの優しい雰囲気と清潔さから少し安心しスラスラと言葉が出た。
「南側かぁ~……よかったら何があったのか私に聞かせてくれるかい?」
カミリアはドクターに施設で起きたことを話した。話してる最中に涙が溢れてきた。
「……それは……大変だったねぇ……ふ~ん……」
腕を組んで考え込むドクター。
「これからどうしようかと……」ドクターにしがみつくカミリア。
「う~~~~~~ん……君だけが安心して暮らすのならリーヴタワーに行く事だね。自由はないけど生活に困る事は無いし。君のお母さんや友達を探すとなると難しいねぇ~私のしてあげられる範疇を超えている」
「あの……それじゃソットの街に行きたいです」
「ソットにねぇ……場所は教えてあげられるけど……まず君が自由にならないとね。君はハンターに捕まってこのヤードで商品として持ち込まれたから」
「私はどうなるの……」
「君がゴース市民だった場合、リーヴタワーに行くことになる。そこで上手く立ち回ればある程度外出はできるようになるだろうしママやお友達の行方を調べることもできるかも。違った場合、誰かに買われる事になる。どんな場所でどんな生活を送る事になるか私には解らないよ」
「……助けてドクター」
「そうしたいのはやまやまだけどね。私も私自身がかわいいしヤバい事はしたくないんだ……でもまぁ……」
カミリアのピンク交じりの赤髪と肌のきれいな顔を見る。
「君を見てたらもしかしたらって……思う事があるよ。今この時の選択を正しかったと、違うかもしれないし私が危険な目に合うかもしれない……でも」
ドクターはカミリアの両手を掴む。
「君の可能性に賭けてみたいかな」
「 ?? 」
ドクターはカミリアの体を調べていく。
「ブラックウェイストランドではあり得ないほど健康だね。ゴース市民のインプラントも無いし摘出した形跡も無い。君はこのブラックウェイストランドでは非常に珍しい個体って事になる。理由もいくつか考えられるし君のお友達も恐らくそうなんだろうと予測できる……となれば、君のママとお友達はゴース市に連れていかれた可能性が高いね」
「え?」
「仮説だけど……君のママは元ゴース市民だったのかもしれない。もしくは施設の人間の誰かが。施設で生まれ育ったのならゴース市民のインプラントは取り付けられていない。襲撃者の話を君から聞くに……そんな装備を用意できるのは限られている。ゴースの特殊部隊はブラックウェイストランドの傭兵達と違い貴重な銃を持っている。外から絶対に見つからないような施設が見つかったのは施設にゴース側の内通者が居た可能性が高い」
「……」
「私が君を買って助手にすれば……ソットの街に行けるよ。でもねぇ~折角こんな綺麗な体に奴隷のピアス開けるの嫌だなぁ……開けなくていいけどまたどこかでハンターに捕まった時にここに帰してくれなくなるからなぁ……それ以前にお金足りるかなぁ」
「ドクターの所有物になるって事ですか?」
「これが私のしてあげられる最大限かなぁ~そしてこれが私が後悔しない選択であり賭けかなぁ~」
「……ドクターが買って! ピアス我慢します!」
カミリアの目には決意と少しの恐怖の色が映っている。
「そっかぁ~……よし、私も覚悟を決めた。君を買おう!」
カミリアはドクターに抱き着く。
「おいおい、私が善人だと思い込むには早いよ? 悪い人かもしれないんだよ?」
「私を助けてくれる人なんだからどっちでもいいです! 外の世界の善悪は私は知らないんですから!」
「なるほどね。それじゃあ改めて自己紹介をしよう。私はダイアナ・ホワイト。ドクター D なんて呼ばれているこれからヨロシクね、敬語は無しでいいよ」
それからドクター D ことダイアナはヤードの支配人ジャックを呼びつけカミリアを買って助手にすると伝えた。驚いたジャックだったがゴース市民で無かったことにひとまず安心しカミリアの代金 100 万 E を請求。ジャックは 80 万 E を手に入れカミリアを攫ってきたジーマンには 20 万 E を支払った。
「これで私の財産はほぼ無くなったね」椅子にもたれてため息をつくダイアナ。
「そう言わんでくれよドクター。アンタだからこいつを 100 万 E にしたんだぜ? 他所なら 200 万 E で売ってた」ジャックは肩をすくめて言った。
「お行儀も良くて教育レベルも高いよこの子。計算も識字のレベルも他の知識もね。私の助手にピッタリって訳、お買い得かな」
「しかしこのガキは運がいいな。ジーマンの狩場はブラックウルフがウヨウヨいるしガキ一人が生き延びられる場所じゃねぇ。それに連れてこられた先がここでドクターが居た」
綺麗なシャツとショートパンツに着替えさせられたカミリアを見るジャック。左耳には赤い雫型のピアス、 D の刻印が施されている。
「今度ソットの街に物資の仕入れと往診の時この子を連れて行こうと思うんだ」
「ソットにはドクターの兄貴が居たな」
「ああ、この子を兄にも会わせてやろうかと思ってるよ」
「あのおっかねぇ男にね……」
「おっかないかなぁ?」
「(ダイアナのお兄さん怖いのかな……)」カミリアは微笑んでいるダイアナと眉間に皺を寄せているジャックを交互に見る。
「カミリア、食事がすんだらこの場所ジャックのジャンクヤード【通称 JJ ヤード】を案内しよう。拠点になるんだから知っておくんだよ」カミリアの頭に手を置くダイアナ。
「うん」
ダイアナは戸棚からクラッカーと冷蔵庫から出したスープを温めてカミリアに与える。
「美味しくもないのに……お腹空いてたんだね」
「昨日から何も食べてなかったから……」
「そうか……もっとあげたいけどあんまり余裕もなくてね。 JJ ヤードの畑の収穫率が最近下がっててスープもあんまり作れないんだ。昔はもっと畑も大きかったし余裕あったんだけど……」
「そうなんだ」
食べ終わったあとカミリアはダイアナに連れられ JJ ヤードを歩く。悪臭に耐えながら檻の並んだ通りを過ぎる。
「市場を抜けると東側に工場、西側に畑、このヤードのジャンク壁に沿ってぐるっと内側いっぱい並んで建ってるボロの建物とテントが住民の家だよ」
「あの中央の大きな機械は?」
「発電機だね。高価なSニウムバッテリーをみんなが買えるわけじゃないから共同で使うんだよ。住民の家の電気はここから送られてるんだ」
「Sニウム !? 」バズのメモで書かれていた名称だ。
「ブラックウェイストランドの中心部のホワイトグレイブタウン地域でしか取れない鉱物だよ。あの地域はとんでも無く危険だからSニウムも高価なんだよ」
「そうなんだ……あっちの大きなタンクは?」
「貯水タンク。住民は 1 日 18L まで自前のタンクで汲んで良いんだ。違反者は厳しい罰則。水は貴重だからね、ちなみに生では飲めないから絶対沸かす事」
「ふ~ん……ねぇダイアナ、畑を見に行きたい」
「いいよ」
トウモロコシ、トマト、玉ねぎ、ジャガイモの畑があった。ダイアナは畑の作業員に挨拶をしてカミリアを中に入らせる。
「このトウモロコシは株が多い……トマトは水あげすぎで……玉ねぎは土がちょっと乾燥してる……じゃがいもはもっと土を……」
つぶやきながら畑を回るカミリア。
「何か解ったの?」
「ダイアナが収穫量減ってるって言ってたから気になって。施設で学んだ事を生かせるかなって」
「問題はあった?」
「ちょこちょこと。メモある?」
「どうぞ」
カミリアは畑の今現在の状態と改善提案を書いて見せた。
「これは……凄いね。君は農業の知識もあるのか」
「少しだけ……ママに教わったの」
「なるほどね。このメモは畑の管理者に渡しておくよ。次に見ておきたい場所はある?」
「工場を……」
「よし行こう」
トタンの屋根と壁の工場からは機械音と金属の切削音、打撃音が響いている。
「よおドクターここに来るなんて珍しいじゃねえか新しいメスでも欲しくなったか?」
声をかけてきたのは白髪の男性。ヨレヨレの作業エプロンをしている。
「やぁサム、この子がちょっと工場を見たいんだと。新しい助手さ」
「こいつはまた……訳アリそうな子供だな」
サムはカミリアの顔を見て一瞬ハッとした表情を見せた。サムの様子を見てダイアナはほんの少し目を細めた。
「発電機の S ニウムの劣化が見られると今日点検した者から聞いている、ホワイトグレイブタウン地域にそろそろ誰かに行ってもらわんとな。局所活動装甲鎧は 2 体修理済みだってジャックに言っといてくれんかドクター」
「了解」
カミリアは工場の奥に吊られている局所活動装甲鎧を見る。図鑑で見た潜水服や宇宙服に戦車の装甲を付けたようだと思った。ツギハギの修理跡だらけでかなり酷使されているのが分かった。
「じゃあ戻ろうかカミリア、私のテントに戻って助手の仕事をしてもらうよ」
「わかった」
「ドクター」
帰りかけの二人に声をかけるサム。
「どうかした?」
「今ヴァレスのレンジャーがこの JJ ヤードに来たらどうなるか……」
「東部の街ヴァレスのレンジャーねぇ……その時はその時だよ。ブラックウェイストランドは歴史の転換期に来てるのかもしれない」
サムとダイアナがカミリアを見ている。
「俺は老い先短い人生をこのまま JJ ヤードで過ごしてくたばるもんだと考えていたが……わからねえもんだな」サムは髭を触りながら言った。
「そうさ人生なんてどうなるかわからないのさ。私だって子供の時はまさかこんな JJ ヤードで過ごすことになるなんて思っても見なかったし」ダイアナは頭を掻いて言った。
続く
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