2004.01.22
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司馬遼太郎の「国盗り物語」は全四巻。
坊主が京の油屋を乗っ取り、今度はその財力を基盤に「国盗り」を計画、美濃をその拠点に定めた。一介の牢人から天才的資質で、出世し人望を集め、主君を騙し裏切り、やがて美濃の国主まで登りつめた「斎藤道三」の生涯を描いた「道三編」が1、2巻。
道三の実質的な後継者として教育された明智光秀と、道三が果たせなかった天下統一の夢を託された織田信長。二つの強力な個性と対照的な資質、二人が「本能寺」で激突するまでを描いた「信長編」が3、4巻。

道三と信長の英雄物語であると同時に、あるテーマを浮き彫りにしていて、それは、勝ち上がるために必要なのは、運や勇気や人気ではなく、精力的かつ緻密に「準備」することと、勝てる条件が揃ったら一気に攻める「決断力」である、というようなことだ。
「気運(しお)が来るまで気長く待ちつつ準備する者が智者。気運がくるや、それをつかんでひと息に駆けあがる者が英雄。」という一節が直接そのことを言っている。
昭和46年刊行というから、オレが生まれる1年前。娯楽のための歴史小説としてはもちろんのこと、当時のサラリーマンにはビジネス書としても読まれていたとかいないとか。

ある日ツタヤに行くと、「本日旧作100円均一」と書かれていて、これは安いと思い、なにかシリーズものを借りようとするあたり貧乏根性丸出しなんだけれども、いかに1本100円で10本借りたとはいえ、10本のビデオを観るにはそれなりの時間が必要であることを差し引くと、100円がお得だとは簡単には言い難く、どのシリーズをチョイスするか悩みに悩んだ。
結局借りたのはNHK大河ドラマ「国盗り物語・総集編」の上下巻。
このビデオは以前から借りるかどうするか迷っていたのだが、高橋英樹の織田信長にあまり魅力を感じず、いつも見送っていたのだった。1本100円なら最悪つまらなかったとして、最後まで見なくても損した気分にならないぐらいの金額設定なので、思い切って借りることにした。


高橋英樹の信長も、顔が違うことを除けば思ったほど悪くなく、秀吉の火野正平がちょっと江口洋介に似ていた。
原作でも信長編は道三編に較べてパワーダウンするんだけれども、ドラマのほう後編では、なぜか「梟の城」の葛篭重蔵が出てきたり、「功名が辻」の山内一豊のエピソードが強調されていたりして、どちらかというと司馬作品のいいとこ取り、という感じがして楽しかった。

信長の背後を脅かす最強の存在「武田信玄」がついに上洛を目指した。進軍中、浜松城で篭城作戦を採ろうとした家康を信玄の軍は素通りし、家康は仕方なく野戦せざるを得なくなった。「三方ヶ原の戦い」である。
戦う前から敗色濃厚だったにも関わらず、体面やプライドを重視した家康は出陣し、惨敗する。
この敗戦が家康にとって教訓となり、軍団の教育や後の戦闘作戦に大きな影響を与えるわけだけれども、このエピソードをドラマでは、
「負けて全てがなくなったとしても、命があればやり直せる。だが名を失えば、取り戻すことはできない。だから負けると判っていても行く、これで徳川を笑うものは、一人もいなくなる。」
と家康に言わせたように、表面的な損失を恐れるよりも、名声や信用を得ること、つまり後の政治的影響力や周囲との関係の重要性を選んだ家康の、政治家としての周到性を強調した演出になっていた。

戦国時代にはまだ「武士道」という概念は確立されておらず、援軍わずかにして圧倒的に劣勢の「三方ヶ原」で、例えば家康軍が戦闘を放棄したとしても、大して非難は受けなかったはずだ。それなのに家康は「実」よりも「名」を重要視し、多くの犠牲と莫大な損害を出した。
「実」とはいわずもがな戦力や金のことであり、「名」はプライドや信用のことだ。
このエピソードでNHKが伝えたかったことは、最終的に家康は天下を手中にしたが、それは「名」を重んじてきた立ち振る舞いと、その裏側にある、例えば「人心掌握」といったような政治のための周到なアプローチが背景にあったからであり、最終的に家康は政治家として成功したが、それは「実」より「名」をとったから、つまりプライドや信用を大切にしていると、いつかいいことがあるよ、という教訓だったのではないだろうか。

昭和48年といえば、ちょうど日本は高度経済成長期が終わりを告げ、オイルショックにより激しいインフレに襲われ、消費者は買いだめ、企業は売り惜しんだ、そんな時代だ。


歴史小説を読んだり大河ドラマを見たりしながら、よく今と、その風習や文化、価値観などを較べてみたりすることがある。
ふと、現代でプライドや信用といった「名」にあたるものが「実」より軽んじられているのは、必要ないからなのではないか、と思うことがある。
確かに、プライドが無くても仕事にありつけるし、プライドを持ってみなぎってるような奴をなかなか見かけないし、ツタヤのバイトは何をもってプライドを維持しているのか想像もつかない。信用が無くても集団の中にいられるし、金もアパートも借りられる。性格が悪くても仕事さえこなしていればいいし、友人からの信用を失った子どもはひきこもっていればいい。

成人式で大騒ぎする若者は、戦国時代の若武者が功名を立てたがるのとよく似ている。金も知識も技術も言葉も持たないから若者は、武功で名を挙げるしかない。個人としての信念が確立されていないから、徒党を組んで群れたがり、群れの中でも功名を争った。
壇上で派手なパフォーマンスを繰り広げて名声を高めたい心理は戦国のそれと似ていなくもないが、一つだけ違う点は、成人式には、リスクが全く無いということだ。戦国では、若かろうが古かろうが、常に命のやり取りの中にいた。派手なパフォーマンスをすれば確かに名声は上がるかもしれないが、派手であるということは同時に、標的にもなりやすく、つまり非常にリスキーな行為でもあった。今と昔で若者の構造が変わらなくても、賭けているものが全く違う。


カタチは変わっても、人の歩みは繰り返すのだということを、歴史をひも解くことで、気付くようになるかもしれません。

その時歴史は動いた、今日はこのへんで。





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最終更新日  2004.01.22 19:50:19
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Re:国盗り物語(1/22)  
初めまして!イザビさんのところから「国盗り物語」にひきつけられてやってきました。
NHKの大河でやっていたのが、ちょうど小学校5年生でした。これをきっかけにすぐ買って読みました。戦国時代にはまりました~。特に火野正平さんの演じた豊臣秀吉、近藤正臣さんの明智光秀・・・。司馬さんの作品では、次に「燃えよ剣」が大好きです。今年は、新撰組で盛り上がるのでしょうね! (2004.01.23 08:08:07)

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