2004.10.09
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10月9日、こすりつけとカラコの結婚式が行われた。
式は荘厳で、宴は盛大で、二人は凛凛しく美しかった。
夜はいつまでも続き、笑いや歌声や祝福は途切れることがなかった。
とてもよかった。招待してくれて、本当にありがとう。


ところでオレの招待状には、「祝辞を頂戴したい」という旨の紙が入っていた。
祝辞ぐらい簡単にいえる、などと高をくくり当初プレッシャーは全く感じなかった。
ところが10月に入り、原稿を書く作業にとりかかる頃になるとにわかに身体が
緊張の反応を示すようになった。

原稿が思うように書けない。

しかも「気持ち」が十分に伝わるような文面というふうに限定されてしまうと、
指が思うように動いてくれない。

祝福の手紙を読むという形式にしたらいい、ということを思いついたのは、
2000字クラスの原稿を、2回破棄した後だった。
そしてBGMはおしゃれカンケイの「16小節のラブソング」のテーマにして、
文体も古館がいつも読んでいるようなあの感じにしたらいいんじゃないかという
アイディアが浮かんだ。
これを思いついたとき、背筋にちょっと電撃が走った。

披露宴のスピーチは、3分程度がちょうどいいとどこかのサイトに書いてあった。
そして3分に収めるための原稿の文字数は900字だという。
その情報を知った時点で、オレの原稿は2000字を少し超えてしまっていた。


一方、おしゃれカンケイのサントラCDも購入していた。
2曲目の「過ぎ去りし永遠の日々」という曲が16小節のラブソングのテーマだった。
曲の長さは、ちょうど3分半。
2000文字を、最低でも1000文字以内に切り詰めることは至上命題となった。

織り込むエピソードを3分の1に減らし、その中の行数を半分ぐらいカットしていった。

オレにとっては書くことよりも、消すことのほうが困難らしい。
それでもなんとか、全体を確定させてプリントアウトした。
出発の前日で、もう文面をいじくりまわしてる時間がなかった。

金曜。仕事を終えると東京駅へ向かった。
黒いスーツで3日過ごすことにしたのは、靴を替える手間を省略したかったからだ。

京都でフランスと合流し、居酒屋のカウンターで「16小節のラブソング」の
アイディアを打ち明けたとき彼は無遠慮に、「さぶっ!」を連発した。
東京で仕事仲間などにこのアイディアを話したときには、ほとんど全員が
「おー、それいいかも!」というような前向きな感想を示してくれていて、
少し得意になっていたのだったが、関西へ到着したとたん、完全に否定された。
オレは急激に自信を喪失した。

失意のままホテルに戻り、「過ぎ去りし永遠の日々」を流しながら3回ぐらい、
手紙を読む練習をした。隣の部屋に聞こえないように、小さな声で練習した。
フランスと飲んで酔ってはいたが、緊張の度合いは緩まることはなかった。
ビールを半分以上残したまま、寝た。


式当日になった。
オレはほとんど新郎新婦と同じぐらいじゃないかというほど緊張していて、
胃のあたりがきりきりと傷んだ。
落ち着かない。
ただ書いてきた手紙を読めばいいだけだから、アタマの中が真っ白になるという
心配はないはずのに、ものすごく緊張していた。
二人を祝う気持ちは正確に伝えなければならない。
手紙の内容が会場の雰囲気に合っているのかわからない。
でも他の招待客にも100パーセント、祝福の気持ちを説明したい。
緊張していることを少しでも誰かに悟られてしまったらオレは負けだ。

フランスのクルマで大阪へ向かった。
車中、フランスと話しをした。少しでも緊張を紛らわせたかった。
話をしている間はリラックスしたが、少しでも沈黙が訪れると胃が痛くなった。
シーズン最多安打記録がかかったイチローも胃が痛くなるほどのプレッシャー
と戦っていたというが、彼はそのプレッシャーを楽しんでいるとも言っていた。
オレはイチローのように、重圧と戦うことを楽しいと思えているだろうか。

そのときフランスが、複雑な表情になっているオレを慮ってか「ガム食うか?」
と言って板ガムのパッケージを差し出してくれた。
気休めぐらいにはなるかも知れないと思い、一枚取り出した。
「パチン」
という音とともに、親指に鈍い痛みが走った。
オレがガムと思って取り出したのは、いたずら用のおもちゃだった。
フランスは大笑いした。

式場の最寄駅近くでコビックと合流した。
長身の彼は細身のスーツを着ていて、デルピエロのような髪型をしていた。
「イタリア度」でちょっと差をあけられてしまった格好になった。

フランスとコビックは余興の打ち合わせのため、カラオケボックスに入るという。
オレもそこで声を出す練習をしようと思い、便乗させてもらうことにした。
二人がカラオケを流している間中、オレは手紙を朗読する練習をした。
普段の音量で発声したのはこのときが始めてだったが、
カラオケのボリュームにかき消されて、自分の声はほとんど聞こえなかった。
フランスとコビックはダンスのステップを合わせていた。
コビックはビデオで完璧に振り付けを覚えてきていた。
一方フランスは、コビックに振り付けを教えられるという体たらくだった。

やがて二人の打ち合わせは一段落したらしく、彼らはもう酒を飲み始めていた。
「お前飲まんの?」
コビックに酒を勧められたが、まだ身体はアルコールを欲しておらず、
オレの前には手付かずのオレンジジュースだけが置かれていた。
「どんなこと言うのか、一回マイク持ってここでしゃべってみたらええねん。」
「そや、俺らの前でいっぺんやってみろや。やるとやらんのでは、違うぞ?」
意を決して、カラオケボックスのマイクを持って壇上に上がった。
フランスとコビックの二人を客にしたリハーサルが行われたのは、
こすりつけとカラコの結婚式が始まる1時間前のことだった。





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最終更新日  2004.10.11 17:24:42
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