2005.09.23
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 2機のコンロの一方はこすりつけが、もう一方はPCBがみていた。彼らは風を送って火力を強めたり、炭の位置を変えて隅々までいきわたらせたり、それぞれが起こしたコンロの火気管理責任者として働いていた。
 PCB機はカラコとミミが囲み、野菜やホイル焼きなどのどちらかというとサイドメニュー的な料理が置かれた。対照的にこすりつけ機のほうには、網の目がみえないほど全面に牛肉が敷きつめられ、肉汁が派手に音をたてていた。
 フランスは両方のコンロの中央に座していた。「野菜も食べなきゃダメよ?」などと周囲に諭されていたが、ほとんど牛肉にしか手をつけなかった。

 外で火を焚き、肉を串に刺して焼いて食う、のがスタンダードなバーベキューの楽しみ方であるとするならば、薄くスライスさせた肉を網の上であぶるこの食べ方は、どちらかというと「焼肉」に近い。しかも電子ジャーで炊かれた銀シャリが、ほとんど無尽蔵に出てくるという点が、従来のキャンプスタイルとはほど遠い。
 とはいえ食事はそれぞれが、好きなものを好きなように食べるのが一番おいしかろう。そこで私も豚肉のパックを開けた。これがバーベキューであろうと焼肉であろうと、牛肉だけが不動の主役の座をほしいままにしている。豚でも鶏でも、鮭や鱈があってもいいはずだ。とりわけ牛より豚のほうが好きな私にとって、牛肉至上主義を地でゆくような、こすりつけ機の状態はいかんともしがたい。
 そっと豚肉を忍び込ませた。一つだけ色や形の違う肉が中央で孤立したようになった。
「なんやこら、ここは牛専用ゆうのがわからんか、しっ、しっ」
 とフランスは、箸でなにか汚いものをつまむようにして、虎の子の豚肉をどこか向こうへ追いやってしまった。

 食事を楽しむために酒をたしなむか、酒を楽しむために食事をつまむか、私はまぎれもなく後者だ。しかし彼らはふんだんにある肉と白米で腹を満たすと「ああ食った」「もう食われへん」などと言って一人また一人とテーブルから離れていくのだった。そう言ってテーブルから離れても彼らは飲み続けた。飲みきれるか危惧したほど買ってしまったかと思われたおびただしい量の酒は、逆に残りの本数を心配しなければならないほどだった。


 中央に居座ったままのフランスが次々と命令を展開させていった。ギターの用意を命じられたのは私だった。キャンプファイヤーへの点火を命じられたジャージは、身長ほどの高さほどまで井桁状に薪を積み上げたキャンプタワーに灯油をかけていった。ギターを手渡されたフランスは独唱で「燃えろよ燃えろよ、ほのおよ燃えろ」と歌いだした。歌いだしからキーを設定し、旋律にあわせて次のコードを探していった。そうしてフランスは「もえろよもえろ」のコード進行を全て掌握した。
 姿勢を低くしたジャージがタワー点火した。チャッカマンの火は灯油をつたってまたたく間に燃え広がり、火柱となって全ての薪を覆いつくした。パチパチとした木の割れる音や、酸素が炎にからめとられる音がする。タワーの倍の高さまで舞い上がる炎の勢いに気圧され全員が固唾をのんだ。
「もえろよもえろーよ ほのおよもえろ ひのこをまきあげ 天までとどけ」
 フランスが覚えたてのコード進行でギターをかき鳴らしながら、ものすごい音量の声で歌い始めた。2番以降の歌詞があるのかないのか、知らないだけなのか、同じフレーズを延々とリピートするフランスにつられて歌の波は伝染してゆき、やがて森林のステージは「もえろよもえろ」の大合唱につつまれていった。夜空に鳴り響く大合唱とギターは森に影響し、キャンプファイアの炎が放つ光や熱量が人の感情に影響しているようだった。

「これほどのキャンプファイヤは、なかなか見られへんで、な?思い出になったやろ、な?」
 全ての手柄は自分にあるような口ぶりでフランスは自我自賛したが、キャンプファイヤを設計し、一連の構築を担ったのは全てジャージであり、フランスは命令していただけだった。ただ彼の強い意欲とリーダーシップがなければ、我々は果たしてこれを出来たかどうかわからない。
「ほんなら今度はプロ直々におまえらの写真撮ったる。キャンプファイアをバックにええ写真撮れるんとちゃうか?おいこら不思議、いつまで豚肉食ろうてんねん、おまえのペンタックス持ってこい」
 まだ名残惜しく残った肉を焼いていたが、フランスの命令が下ると拒絶できないようになっていった。網の上におき忘れた肉は、焦げて誰かに引き上げられた。

「おい、おまえわしのこと撮れ。」
 プロの技を見せるといってもってこさせたカメラにはまず自分が写りたがった。ハロゲンとキャンプファイヤの光量を照明にして、ギターを構え、視線を横にそらしたキザなポーズをフランスはとった。光量が少なくてシャッタースピードも遅くなった。写真はほとんど手ブレしている。手ブレがなくなるまで何枚も何枚も撮らせられた。何枚目かの仕上がりを見たフランスは「ま、この程度やな。」とだけ言った。それでも嬉しそうに「わし自分のことめっちゃ好きやねん」といいながら、背面の液晶に映し出された自分の姿を、何度も何度も確認していた。






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最終更新日  2005.10.09 00:10:10
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