2005.09.24
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 ワゴンの屋根に上ったカラコはキャリアのエッジに足をかけてぷらぷらさせていた。スカートの中に穿いたスパッツの裾が小さなレース状になっていた。なにげない表情を撮影しようとカメラを向け取るたび、カラコは必ずカメラ目線になった。そして2回に1回の割合でピースサインになった。子供のころからカメラを向けられたらそうしなさいよ、と躾けられているに違いなかった。そのうちミミもルーフキャリアに上った。2人は飛んだり跳ねたり腰を振ったりしてワゴンを揺らし始めた。まるで子供のようにおおはしゃぎしているところにカメラを向けると、やはりカラコは動きをすぐ止め、カメラ目線でピースするのだった。
 高いところからカラコは、ポップコーンを焼くように命じた。こすりつけはキャンプファイアの炎に直接アルミをかざして調理に挑んだ。まだ燃えさかる炎の熱は高く激しく、アルミごと黒こげになってポップコーンどころではなかった。

 フランスは私が持ってきたデジタル一眼レフが大のお気に入りのようだった。
「おい、おまえ上半身裸になれ!キャンプファイアの向こう側に立って『飛び込んでこい!』っていってみろ!」
 またフランスが無茶な命令を私に課した。「なんだよそれ、なんのまねだよ。」と抵抗してみたが、もはや抵抗にもなっておらず、なかばあきらめ顔でシャツを脱ぎ裸になった。
「なんやよ、やあらへん、友和と百恵の『潮騒』知らんのかボケ、いいからはよう」
わけがわからず裸になって火のそばに立った。熱が直接素肌を照射して痛気持ちいい。1枚撮っては液晶を見てできばえを確認し、気に入らなければ調整してもう一枚、さらにもう一枚、ということを繰り返した。
「バカにしとったけど、結構便利やなこれ、おれもデジカメ買っちゃおうかなえへへへへ?!」
 フランスは《私の》デジタル一眼レフを、ひどくお気に入りのようだった。


 おぼろげな記憶と染み付いた感覚から、部分的にステップを思い出した誰かが「こうだったんちゃう?」「そやそや」とかいいながら見本を示し、リズムに乗せて踊ってみる。そうして8小節ほどの振り付けが完成した。
「決まったな、じゃ最初から通しでいこうか」
とまるでダンスレッスンのインストラクターのようにフランスが号令する。不思議と誰もが、「通し」で踊ることを楽しみにしている顔になっていた。フォークダンスを踊りたくて踊りたくて、仕方がないような気持ちになっていた。

「右に廻ってキック、左廻りでキック、はい前ー、うしろ下がってー、クラップキック、クラップキック」
 中央にキャンプファイアを据えて手を繋いだ7人の輪は極めて小さく、予想以上に火に近かった。そのためかなり苛烈な運動量を強いられることになった。「はい前ー」のところでは中央の火のごく近くまでひっぱられ、拷問のような熱さに耐えることになった。それでも必死にステップを踏んだ。火の回りをぐるぐると回り続けた。こんなに辛いのに、どういうわけかみんな笑っていた。ほとんど宗教的体験をしたといっていい。

 「オクラホマミキサー」ではまず男女一人ずつがペアになった。男が女を迎え入れてエスコート、やがてくるっとまわしてハイさようなら、を延々と繰り返す。これって実は非常に楽しいダンスだったんだな、としみじみ思う暇などない。なにしろ3組のペアしかおらず、それがキャンプファイアの周りを取り囲んで回転するから、ほとんどダッシュで移動しなければならなかった。もしかしたらもっとゆったりとした振りのダンスだったのかもしれないが、立ち戻って一から振り付けを検証し直そうとは、もはや誰も思わなかった。

「ジェンカ」だった。
 カラコが用意したCDには3曲立て続けに入っていて、一つのダンスが終わっても休む暇なく次のダンスを踊らなければならなかった。果たしてこれらをダンスと呼べるのかどうかとか、踊るという表現が適切かどうかは別にして、とにかく「ジェンカ」だった。肩に手をかけ数珠つなぎになって、「右、右、左、左、前、後、前・前・前」を延々と繰り返す。ジェンカってこんなにハードだったっけ?というほど消耗もしたが、目前に輝く白い光や幻をも見た。これが奇跡体験でなかったら、きっと酸欠だったに違いない。






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最終更新日  2005.10.09 00:10:56
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