小説を書こう!

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2007.10.08
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「え?」
 私は、目をぱちくりさせて周りを見回す。すると、地べたに座っている私の左側の驚くほど近くに白い車が鴨志田橋を通りたそうにしていたのだ。バス通りから曲がってやってきたらしい。
 プップー、プップー。
 私は、自分の足が邪魔になっていることに気付いて急いで足を曲げた。
 車は、私を馬鹿にするようにことさらにエンジンをふかして私の前を通り過ぎていった。そして突き当りまで行くとウィンカーをパチパチと点灯させて、私がやって来た方向とは逆の右側へ曲がっていった。
 私は、動くボールを追う猫のように、その車の動きを目で追う。右側へ消えていくと、私の視線は標的を失ってしばらく右の角に立っているねずみ色の電柱の当たりを、不安定そうに行ったり来たりした。
 車の無愛想なクラクションの音は、記憶の中に潜水しようとしていた私を簡単に水面の上に弾き飛ばしてしまった。しかも、水面の上のさらに上の黒い空まで飛ばされてそこから落下していくかのような気分の悪い無重力感が私の胸の中に押し寄せる。
 私はたまらず、両腕で、折り曲げたばかりの足を抱きしめた。手のひらが私の細いすねに触れる。足は地面に熱を奪われてしまったのかひやりと冷たかったけど、そこに私の足が存在することが分かって少しだけ安心した。なぜなら足があるということは、その下に地面があるということなのだから。
「生きることって、皆も私と同じくらい辛いのかな……」
 私の小さな呟きは、地面にすぐに吸い込まれてしまう。そして地面をすり抜けて橋の下に落ち、黒く汚れたドブ川に流れに流されていく。
 その時だった。
「ああ、カッタルイ!」
「ホント、カッタルイよネー」
「学校がサボれなかったら、誰があんなヤツの葬式なんかに行くかってカンジだよネー」
 私の背後から、まだ幼さの残る舌足らずさと投げやりな響きを含ませた声が聞こえてきたのだ。その声から判断すると、まだ私とその声の主との間の距離はありそうだった。
 私は顔を橋のへりの上に少しだけ出して、へりの向こう側を見る。私の家へやって来たあの三人の女子生徒だった。川に沿った舗装されていない細い砂利道を、茶髪の二人が前を歩き、その間の少し後ろ側を黒い髪がおもねるようについて歩いている。
 私は急いで頭を引っ込めて、息をひそめた。自然と私は橋のへりの裏側に隠れるような格好になって、その三人は私に気付かないのか、自分以外のすべてを馬鹿にするような声が次第に大きくなる。
「でも、オマエにはホント、ビックリさせられたヨ」
「ホント、ホント、なんでオマエあそこで泣けるんだよ」
「私も私自身にオドロキってカンジだよ。なんか、あの葬式の雰囲気が私のおじいちゃんの葬式を思い出させたっていうのかナー。なんか、その時のことを思い出したら、いつの間にか涙がポロリってカンジ」
「オマエ、役者になれるよ」
「ホント、役者でも目指そうカナ。演技派女優ってヤツ?」
 アハハハハとはじけるような、だけど作り物っぽい笑いが会話に挟みこまれる。
「ホント、笑いをこらえるのが大変だったヨ。アイツを追いつめた元々の張本人が泣き出すんだから」
「私も私も!」
 二人の声は私のすぐ後ろまで近づいてきた。
 サーと風が吹いて、足を抱え込む腕の下でスカートが揺れる。
「もう、『ゲーム』、できなくなっちゃったね」
「あ……」
 私は、しまった、とひざを抱えたまま左手で口をおさえたけど、一度口から出してしまった言葉は取り返せなかった。口の中で食い止める事と、口から一度でも出す事は百八十度違うことなのだ。顔を、端のへりに置かれた銅像にでもなろうと、ふせて、足は腕で体の中心にギュッと押し付ける。
 だけど、三人の会話は止まったままで、足音ですら私の耳には聞こえない。
 私は恐る恐る顔を持ち上げて、右上を仰ぎ見た。
 三人とも目を大きく見開いて驚いて声が中々でてこない様子だったけど、茶髪は怒ったような顔をして驚き、黒い髪は泣きそうな顔をして驚いていた。






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Last updated  2008.11.03 20:49:24


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