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2008年03月20日
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カテゴリ: 洋画(08)
この国は人に厳しい

原作 : コーマック・マッカーシー
出演 : トミー・リー・ジョーンズ 、 ハビエル・バルデム 、 ジョシュ・ブローリン 、 ケリー・マクドナルド
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話の筋は麻薬がらみのカネをめぐる、男と殺し屋の追っかけ劇なのだが、コーエン兄弟監督の描きたかったのは、それではないようである。

話はそれますが、また映画の話に戻りますので、我慢してお読みください。
いま、 伊藤千尋の「反米大陸」 という新書を読み始めている。

その本のなかに「アラモを忘れるな!」という合言葉があるというくだりがある。「パール・ハーバーを忘れるな」「9.11を忘れるな」という合言葉の前にこの言葉が、アメリカ大陸を団結させ、どういう結果になったかを知ることは、この映画の舞台の裏事情を知る手助けになると思うので、少し紹介する。映画にもなった「アラモの砦」事件。この事件で「アラモのの砦」にこもった「英雄」たちは、メキシコ軍によって女性以外は189人の男たちはすべて皆殺しにされる。それにより、アメリカは義勇兵を募り、圧倒的な戦力でメキシコ軍を破り、メキシコの土地だったテキサス州を併合するのである。このように「リメンバー方式」で一気にアメリカ国内世論が高まる時には気をつけなくてはならないのだが、私の言いたいことはそのことではない。

「神と正義」の名のもとに強いものがが勝つのだ。それがアメリカの昔からのやり方であるし、今は特にそうだ、ということをいいたい。だからこの映画の舞台であるテキサス州には確実にメキシコとの「格差」が蔓延している。たとえ血だらけで国境線を通ろうとしても、殺人者に追われている男がアメリカからメキシコに行く場合には、泥酔者のふりをすればノーパスで通れた。メキシコからアメリカに行く場合には、厳しい審査がある。けれども、男がもし二度もベトナムに出征した愛国者ならば、国境審査はとたんにゆるくなるだろう。メキシコ移民たちはそのような差別をまるで当たり前のように使いこなしている。

「反米大陸」 でテキサス併合の時に「明白な運命」という言葉がマスコミで宣伝されたそうだ 。「「明白な運命」と訳されるのは、マニフェスト・ディスティニーという言葉だ。移民の増加で人口が増え続けるアメリカに対して、神は新しい領土を保障してくれるから、アメリカは天命に従って、迷うことなく領土を拡充していけばいいのだ。という考えだ。なぜ明白なのか、の説明はない。説明しようとしてもできないのだろう。これはたんに信念でしかないが、拡張を目指す国民には、まるで福音のような響きで迎えられた。」(P54) これは何と便利な言葉だろう。「なぜ明白なのか、の説明はない。」というところがミソなのである。しかしこの言葉の恐ろしさに賢いアメリカ人はやっとのことに気が付いている、のかもしれない。映画を見てそのように私は思った。

アカデミー助演男優賞を取ったハビエル・バルデムの演じる殺し屋は不気味な存在だ。普通あれほどの殺人をすれば、犯行手口からボンベの入手ルートが浮かび、犯人逮捕までいってもいものなのに、主人公の地方の保安官トミー・リー・ジョーンズをはじめ、FBIも逮捕できない。殺し屋はは長いこと正体もつかまれていないみたいだ。彼の過去に何があったのかは全くわからない。依頼人も平気で殺しているし、目的は金ではないみたいだ。彼に殺されるのは、当事者だけではなく、行きずりのドライバー、ホテルの支配人、単なる宿泊客、気のいい農家のおじさんたちだ。みんな一生村を出たことのない人や、つつましく暮らしてきた人ばかりだ。彼らは理由もなく殺されていく。

ある女は命乞いをする。
「私を殺す必要はない。」
「みんなそういう。殺す必要はないとね。」
「……」
「…それなら賭けをしよう。このコインは表か、裏か」
「私はその賭けはしない。その賭けは意味がない。」
女は正しい。あのかけには意味がない。殺し屋はときにはそのような偶然か運命とかで殺すのをやめた時もあったようだ。しかし、たとえコインの賭けに負けても、彼が殺したいのならば、殺すだろう。彼は神ではない。「得体のしれない意思」なのだ。あるいは「明白な運命」なのである。この圧倒的な不安感をコーエン兄弟は描きたかったのかもしれない。単純な筋ではあるが、脚本はよく練られていて、逃走劇は緊張の連続だし、映像も隙が見当たらない。作品賞、監督賞を受賞したのもうなずける。

殺し屋は決して不死身ではない。そのことはラスト近くに見せられる。つまり彼が消滅するチャンスならばいくつもあった、ということなのだろう。「ノーカントリー」希望のない国ではあるが、そこに幽かな希望を感じる。





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最終更新日  2008年03月20日 14時58分26秒
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