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2014.01.26
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カテゴリ: 映画/ラブ
【愛を読む人】
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「人は“収容所で何を学んだか”と訊くわ。収容所はセラピー? それとも一種の大学? 学ぶものはないの。それだけはハッキリ言える。彼女への許しが欲しいの? 自分の気を軽くしたいの? カタルシスが欲しいなら・・・芝居に行くか本を読んで、収容所なんか忘れてちょうだい。何も生まれない所よ・・・何も」

本作はドイツ人作家であるベルンハルト・シュリンク原作の『朗読者』という小説を映画化したものである。
シンプルなオリジナル・タイトルと比較すると、「愛を読む人」という邦題は、実にドラマチックで興味をそそられる。

メガホンを取ったのはスティーブン・ダルトリー監督で、代表作に「めぐりあう時間たち」などがあるが、アカデミー賞9部門にノミネートされるなど非常に評価の高い作品を手掛けている。
さて、本題に入る。
本作「愛を読む人」のテーマは、ズバリ、“状況判断”ではなかろうか。
もっと噛み砕いて言うと、“その時、もし自分がその人の立場にあったらどうするか”。

それを視聴者に問いかけているような気がする。
ポイントとなるのは、刑に服すハンナの面会に出掛けたマイケルが、ユダヤ人収容所でのことをどう思うか、その後何を学んだかなどをハンナに問いかける場面がある。
おそらくこの時マイケルの中では、「とても反省している」などのしおらしいハンナの返答を期待したに違いない。

マイケルにはその時、ハンナの収容所における看守としての立場など想像も出来なかったであろう。
ハンナが与えられた職務を全うしたところで、ドイツのユダヤ人に対する仕打ちは常識的に許されざる行為であった。
その後、ハンナが自殺することで、マイケルは少しずつハンナの置かれた立場、つまり状況を理解してくことに努める。
このくだりは実に興味深い。
マイケルがハンナとの過去の甘い記憶を胸に秘め、刑務所にいるハンナにせっせと朗読テープを送る献身的な面を持ち合わせながらも、一方でハンナの身元引受人を依頼する連絡には戸惑いを隠せないでいる。
この苦悩は幸いにも、マイケルを単なる偽善者にさせない、人間の本質的な心理を追求することに成功している。
そんなところからも、吟遊映人はこの作品を単なるラブ・ロマンスとして捉えるには余りに短絡的ではなかろうかと考える所以なのだ。

第二次世界大戦後のドイツが舞台。
15歳のマイケルは、気分が悪く、道端で嘔吐しているところを21歳も年上の女性であるハンナに助けられる。
猩紅熱で何ヶ月もベッドに伏していたマイケルは、回復後にハンナのアパートを訪れる。

その後、2人は年齢差を越えた愛欲に溺れていく。


それは、「オデュッセイア」であったり「犬を連れた奥さん」といった作品である。
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ある日、いつものようにマイケルはハンナのアパートを訪れると、そこはもぬけのから。

訳も分からずマイケルは自分が捨てられたのだと傷心の日々を送る。
やがてマイケルは、ハイデルベルク大学の法科生となる。
授業の一環として、ナチスの戦犯の裁判を傍聴することになったところ、なんと被告席にハンナが座っているのだった。


この女優さんは不思議にこの手の役柄を演じると、見事にハマってしまう。
何とも薄幸な雰囲気がそこかしこから漂うのだ。
言うまでもなく、本作でアカデミー賞主演女優賞を受賞している。
大学の教授役としてブルーノ・ガンツがチョイ役で登場する。
ヒトラー~最期の12日間~ 」での存在感たっぷりの演技は、ここでも健在だ。
「愛を読む人」は、吟遊映人の心を掴んで離さない。
人がその時、持てる力で状況を判断し、だが結果として相手を傷つけてしまったら・・・。
挫折や後悔のない人生なんてない。
苦悩を抱えて、人は生きてゆく。

人はいつも、相手の置かれた立場を理解できずに過ちを繰り返すのだから。
涙なしには観られない、重厚なテーマを扱う作品であった。

2008年(米)、2009年(日)公開
【監督】スティーブン・ダルトリー
【出演】ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ、ダフィット・クロス

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最終更新日  2014.01.26 05:58:10
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