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2014.01.25
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カテゴリ: 読書案内
【白石一文/私という運命について】
20140125

◆流される人生と流れに身を任せる人生のどちらもが運命

何となく本でも読もうかなと思った時、この作品は持って来いだ。
新書タイプのハウ・ツー本にも飽き、かと言って小難しい純文学には触手が伸びないと言うあなた、『私という運命について』を騙されたと思って読んでみたらどうだろう?
私が特に目を引いたのは、文庫本の背表紙にある作品の紹介文である。
〈---女性にとって、恋愛、結婚、出産、家族、そして死とは? 一人の女性の29歳から40歳までの「揺れる10年」を描き、運命の不可思議を鮮やかに映し出す〉とのこと。
これは読み応えがありそうだと期待を抱いて読み始めたところ、その予想は外れなかった。
長編小説であるにもかかわらず、一気に読了!
とにかく圧巻の筆致だ。
著者の白石一文は、早大政経学部卒で、代表作に『一瞬の光』『この世の全部を敵に回して』などがある。
白石一文の小説は初めて読んだが、クセがなく、まるでドラマを見ているように場面場面が鮮やかな印象を受ける。(解説によると、これまでの作品は「独特の思索的で哲学的な文章」とのことで、『私という運命について』に限っては、「らしくない」作品のようだ。)


本来ならここであらすじを紹介したいところなのだが、物語上、一人の女性の歴史を追っているような手法なので、年譜のようにして紹介したい。
主人公は冬木亜紀。
細川連立内閣が成立した1993年からスタートする。
男女雇用機会均等法の成立により、亜紀は女性総合職として入社する。

29歳---以前の婚約者である康が、亜紀の職場の後輩と結婚する。

33歳---東京本社から福岡に転勤となる。そこで、年下の工業デザイナーの純平と出会う。

34歳---亜紀の弟・雅人の妻である沙織が病死する。

37歳---香港に滞在する康と再会する。康が肺癌を患って、その後、克服したもののすでに離婚していたことを知る。

一読して思ったのは、人生にはどうしようもないことがあるものだ、ということである。

運命とは努力して掴み取るものであるとか、自身で選択するものだとか、いろんな考え方があるけれど、「決してあらがうことができない出来事が訪れる」ものだと描かれている。
せっかちな読者のため、あらかじめ断っておくが、この小説のラストは一般的に言われるようなハッピーエンドではない。

自分の思うような未来ではなかったとしても、そういう人生を選択した自分を責めるのはよそうではないか。
運命とは、そんなに単純なものではない。
計画通りになんかいかない。
どうしようもないことがいくつも壁となって、行く手を遮るのだ。
流される人生が最良とは言わないけれど、流れに身を任せる人生も、それはそれで良いのではと思うわけだ。



『私という運命について』白石一文・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.110)は吉田修一の「横道世之介」を予定しています。


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★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.01.25 05:58:02
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