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私は女になりたい(講談社文庫) - 文芸・小説(BOOK☆WALKER)この本を読んだ時、かなり動揺した。本当の恋があるの、本気の恋があるの、かと。これが恋……。そして、女になりたい。この「私は女になりたい」は以前、図書館で借りて読んでいる。2023.06.07 読書レビュー「私は女になりたい」窪美澄:著 講談社とても衝撃的だった。舞台というか主人公・奈美が院長を務める美容皮膚科が渋谷にある。SHIBUYAである。昨今、ハロウィンで人気がすさまじいSHIBUYA。スクランブル交差点が世界的景観になっているSHIBUYA、である。時代の最先端、TOKYOを代表する街である。主人公・奈美は47歳。14歳年下の公平・34歳と男女の仲になる。奈美は思った。”あれが私の人生最後の恋だった。と”(「私は女になりたい」文庫本・解説292ページ)この書籍が文庫本で発売されると聞いた時、読み直して見たい。買いたい!と思い、書店に赴き、買い求めた。この文庫本は文庫本棚の棚に並べられて1冊だけあった。文庫本の解説も読みたいと思った。唯川恵、私の好きな恋愛小説家だ。読み直すと大筋はわかっていても、こんな段落があったんだ。こんな情景があったんだと改めて認識し、感じ入りながら読んだ。読みながらふと私の元恋人はこの本を読んでどのように感じるのだろうかと思いを馳せた。初恋は成就しないものと言われている。最後の恋は成就するのだろうか。従業員(施術士)柳下さんとお客様の箕浦さんの心持がいい。私は女になりたい (講談社文庫) [ 窪 美澄 ]
2024.09.22
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『おばちゃんに言うてみ?』 泉ゆたか | 新潮社 (shinchosha.co.jp)サイコー!めっちゃ、ええやん!めっちゃ心に訴えかけてくるけど、これ、わいが大阪出身やらやろか。それも岸和田でっせ!それゆえこれほど心揺さぶられても岸和田(泉州)以外の人が感じることはないのかもしれない。そのような杞憂を感じた。一部の人を除いて、総じて好評なようで、この本の内容が合わない人もいるだろうし、まあまあ良かったと思える。5つのエピソードがあり、それぞれ主役となる人物は違うけれど全編に”大阪のおばちゃん”が出る。このおばちゃん、こんな人いるのかな?と思えるけれど、著者が取材した辻イト子さんというタレント兼主婦の人がモデルのようです。巻末の謝辞にあるように ”辻イト子さんは二〇二一年五月二四日にご逝去されました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。”とお亡くなりになっている。私からも、ご冥福をお祈りいたします。作者である泉ゆたかさんは”1982年神奈川県逗子市生まれ。大阪府岸和田市在住。早稲田大学大学院修士課程修了。2016年「お師匠さま、整いました!」で第11回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。2019年『髪結百花』で第8回日本歴史時代作家協会賞新人賞と第2回細谷正充賞を受賞。他の著書に『君をおくる』『おっぱい先生』『お江戸けもの医 毛玉堂』「お江戸縁切り帖」シリーズ、「眠り医者ぐっすり庵」シリーズなどがある。”(以上https://www.shinchosha.co.jp/book/355261/より)とあり、岸和田に住んで四年ほどでこれだけ地に着いた泉州弁の物語が書けるのはすごい。収録作「岸和田でヨガ」「代官山酵素スムージー」は東京で過ごしたこともある著者ゆえに岸和田と両地域の人物が描けていると思えた。「道頓堀の転売ヤー」も「宝塚のティッシュケース」も取材無くしては書けなかったと思うけれど「だんじり祭」にはしびれた。取材からの創作なのだろうか、と思いたくなるほどの内容である。私の心をえぐり取り、楽しませてくれた本。やっぱ、ごっついえらいわぁ。おばちゃんに言うてみ? [ 泉 ゆたか ]
2024.09.21
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「コンビニ兄弟」いいわぁ。コンビニ兄弟3では一作目の主役である志波はほとんど登場しない。(以下Amazonより)”第一話「推しが門司港を熱くする」門司港に大好きなアイドルがやってきた!大ファンの中尾は駆けつけるが、彼には悩みがあるらしい。第二話「ハロー、フレンズ」故郷を離れて暮らす若き主婦の新たなる一歩とは。第三話「華に嵐」コンビニ兄弟の次男坊・ツギの心を激しく傷つけた魔性の女が「偽装恋愛」を持ちかけてきた!?元気がもらえる3編の連作集。”(以上Amazonより)これに文庫用のプロローグとエピローグが登場する。第二話の「ハロー、フレンズ」に至っては門司港でなく場所は大分である。そんな堅い事こと言わなくてもと思えるが表題のサブタイトル門司港からは大きくずれている。ずれてはいるが内湯は心温まる素敵なものである。ツギのややこしい過去の恋愛関係に人間関係を知ることになるがとても重く激しい内容であった。何とも言えんあなぁ。読んで、堪能した。続きが早く読みたい。コンビニ兄弟3 ーテンダネス門司港こがね村店ー (新潮文庫nex(ネックス)) [ 町田 そのこ ]
2024.09.21
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(以下Amazonより)”築21年の三階建て一軒家を購入し、一階部分を店舗用に改築。美容師の美保理にとって、これから夫の譲と暮らすこの家は、夢としあわせの象徴だった。朝、店先を通りかかった女性に「ここが『不幸の家』だって呼ばれているのを知っていて買われたの?」と言われるまでは――。わたしが不幸かどうかを決めるのは、他人ではない。『不幸の家』で自らのしあわせについて考えることになった五つの家族をふっくらと描く、傑作連作小説。”(以上Amazonより)時系列がさかのぼる。今の住民から、その前の住民へ、またその前の住民へとさかのぼる描かれる。このさかのぼるということ秀逸に思えた。”不幸の家”と呼ばれる、その見かけ、状況は一目見た限りでは、小耳にはさんだ限りでは不幸なゆな気がする。しかし、その内実は当事者でなければわからない喜びがあった。素敵な物語、素敵な家族。一軒の家が新築から20年を経ることで移り住んでいった家族たち。一見不幸に見えても幸せに思える転居である。町田そのこさんの本、いいと思う。好きだなぁ。うつくしが丘の不幸の家 (創元文芸文庫) [ 町田 そのこ ]
2024.09.20
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いい。とてもいい。同じ時代を生きてきたからかとても良くわかる内容。F1が人気だった頃、アイルトン・セナは僕も好きだった。音速の貴公子。あぶなげないドライビング・テクニックだったのにゴールデン・ウィークのF1レースでクラッシュ!還らぬ人となった。セナがサーキットで死ぬなんて考えられない、それほどの素晴らしいドライバーだった。そのセナも登場する鈴鹿サーキット。僕自身のその頃の思い出も想起される。高校生の淡い恋心。目の前に立ちはだかる大学受験。阪神淡路大震災は東京では体感・実感することはなかったけれど、東日本大震災の影響で揺れに揺れた大都会東京で体験したことで、地震の恐ろしさは実感できた。その震災の出来事も書かれている。映画「ブルーピリオド」を見ていたので画家を目指し東京藝術大学を受験することがとてつもなく大変なことが分かっていたのでより親身に感じながら読んだ。読み終えて、書店員さんが解説を書いていることに驚き、その文章のみごとさに感心した。そして、このコーシローと呼ばれた犬が現実に存在し、高校で飼われていたことを知った。その事実を基に時代をずらして描かれていることを知った。その時々の時代性、トピックを織り込み反映して30年に及ぶ時代の変遷を描いた素敵な小説である。犬がいた季節 (双葉文庫) [ 伊吹有喜 ]
2024.09.12
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(以下、新潮社WEBより)“失恋をして居心地の悪さに高校をサボった永田詩乃は突然綺麗になった祖母と意外なところで出会う。バイト店員・廣瀬太郎は自分のことを退屈な男だと思っているのに、キラキラ美少女がその日常を乱し始める。親友と別離した村井美月は辛い現実を越えて新たな一歩を踏み出していく。大切な想いをささやかにつなぐ場所、名物店長と個性的な客たちが集う小さなコンビニの心温まる物語。” (以上、新潮社WEBより)前作を読み、続いて手に取った第2作。前作よりは長めの短編となり3話が書かれてある。この2ではフェロモンだしまくりの店長はわずかにしか登場せず。コンビニに関係する若者たち3人の思いや悩みを描き、解決や解消に向かわせる。前作同様、心が癒される物語である。ちょうど良い温度のお風呂に使っているような心地よい物語である。続きも読みたい。コンビニ兄弟2 ーテンダネス門司港こがね村店ー (新潮文庫nex(ネックス)) [ 町田 そのこ ]コンビニ兄弟 -テンダネス門司港こがね村店ー テンダネス門司港こがね村店 (新潮文庫nex(ネックス)) [ 町田 そのこ ]
2024.09.11
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(以下、新潮社WEBより)“九州だけに展開するコンビニチェーン「テンダネス」。その名物店「門司港こがね村店」で働くパート店員の日々の楽しみは、勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡してしまう魔性のフェロモン店長・志波三彦を観察すること。なぜなら今日もまた、彼の元には超個性的な常連客(兄含む)たちと、悩みを抱えた人がやってくるのだから……。コンビニを舞台に繰り広げられる心温まるお仕事小説。”(以上、新潮社WEBより)気になっていた「コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―」を読んだ。読んだのは先月2024年8月だったのに読書レビューを書き忘れたらしい。思い出しながら書こうと思うが、読みながら作者町田そのこさんは小倉に住んでいるんだろうなぁ、と思った。住んでいるから土地勘があり、その土地に根差した風景・情景が地図を描くように書けるんだと思えた。そう背景の描写も良かった。“も”良かったというのは登場する人物たちに心象表現が素晴らしいと思えたから。老人たちが入居するマンションの一階にあるコンビニ。その店にはイケメン優男の店長がいた。得体のしれないフェロモンをまき散らしとてつもなく誰にも優しい。ゆえに住人のお年寄りの人気は絶大。そのコンビニに訪れた中学生が抱える悩みや苦境を聞き取り解決に向かわせる。他に出てくる変なおじさんの赤じいやなんでも屋のツギなど風変わりながらとてつもなく親切なおっさんたちもいる。袖すりあうも他生の縁ではないが心温まる交流を描くハートウォーミングノベルである。コンビニ兄弟 -テンダネス門司港こがね村店ー テンダネス門司港こがね村店 (新潮文庫nex(ネックス)) [ 町田 そのこ ]
2024.09.11
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もう30年くらい前だろうか。ホテルニューオータニのレストランだったか、岡田茉莉子を見かけた。遠目にも彼女とわかる大きく輝いた瞳だった。同席していたのは夫の吉田喜重らしい。お恥ずかしい話、映画ファンでありながら吉田喜重監督の顔を知らなかった。そんな思い出が沸き起こり、映画スターであった岡田茉莉子の自伝を読む。たまたまインターネットで岡田茉莉子の記事を読み、彼女が自伝を書いていたことを知り、読むことにした。彼女の生前、幼少期の戦中から始まり、新潟に疎開し、終戦後も6年間新潟にいて、高校卒業とともに東京に戻ってきた話から始まり、父が岡田時彦という無声映画スターだと知り、母の希望もあって映画女優の道を歩みだしたこと。亡き父のこともあってか巨匠たちにかわいがられたこと。映画産業全盛期にスター女優となったこと。立て続けに映画を撮っていて、映画出演100本を超えて記念映画として「秋津温泉」を撮影したこと。岡田茉莉子の希望で100本記念映画作品が決まるほどとてつもなくスゴイ、スター女優だったこと。斜陽となっていく映画、吉田喜重監督との結婚。フリーとなり映画出演は続くが、台頭してきたテレビにも出演。舞台にも出演。舞台の評判よくしだいに舞台が続く生活となっていく。岡田茉莉子の女優人生を綴った本ではあるが夫である吉田喜重監督について書かれたところも多く、映画監督で始めて、ドキュメンタリー監督となり、戯曲も書き、オペラも演出するという奇才な作家だったのだと知った。「女優 岡田茉莉子」はこのあとも自伝は続くということで終わっている。2009年の出版から15年、卒寿を超えた晩年までの足跡も読みたいと思う。長編であり圧巻であるこの自伝。読み応え十分、なかなかのものである。
2024.09.09
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ありえないペンネーム、今どきの書名。注目を浴びるには十分だろう。短編集である。今どきの意識高い学生はこのようなベンチャー(?)に挑むのだ。平成28年から令和5年の物語は斬新というかZ世代の物語なのだろう。ベンチャーで始まった話がレトロに回帰するかと思わせて現代型にシフトする……のは、やはり今どきなのだろうか。以下Amazonより”「まだ人生に、本気になってるんですか?」この新人、平成の落ちこぼれか、令和の革命家か――。「クビにならない最低限の仕事をして、毎日定時で上がって、そうですね、皇居ランでもしたいと思ってます」慶應の意識高いビジコンサークルで、働き方改革中のキラキラメガベンチャーで、「正義」に満ちたZ世代シェアハウスで、クラフトビールが売りのコミュニティ型銭湯で……”意識の高い”若者たちのなかにいて、ひとり「何もしない」沼田くん。彼はなぜ、22歳にして窓際族を決め込んでいるのか?2021年にTwitterに小説の投稿を始めて以降、瞬く間に「タワマン文学」旋風を巻き起こした麻布競馬場。デビュー作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』のスマッシュヒットを受けて、麻布競馬場が第2作のテーマに選んだものは「Z世代の働き方」。新社会人になるころには自分の可能性を知りすぎてしまった令和日本の「賢すぎる」若者たち。そんな「Z世代のリアル」を、麻布競馬場は驚異の解像度で詳らかにします。20代からは「共感しすぎて悶絶した」の声があがる一方で、部下への接し方に持ち悩みの尽きない方々からは「最強のZ世代の取扱説明書だ!」とも。「あまりにリアル! あまりに面白い!」と、熱狂者続出中の問題作。”(以上、Amazon)令和元年の人生ゲーム [ 麻布競馬場 ]令和元年の人生ゲーム【電子書籍】[ 麻布競馬場 ]
2024.09.07
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現代の今時の小説である。コロナ禍の始まり、コロナ禍を過ごし、落ち着いていくコロナ禍の生活。時と共に描かれるのは、先行きがわからず未来のないコロナ禍当初。死が目前に感じる恐怖感。それが、コロナ禍に慣れる頃になると生きていこうと思えるようになる物語。「違う羽の鳥」「ロマンス☆」と読んで、こんなので直木賞とるの?と疑問に思った。「憐光」を読んでこれなら直木賞?と思えるようになり。「特別縁故者」で展開の妙に納得し「祝福の歌」のワールドワイド感に感嘆。ラストの「さざなみドライブ」はあっぱれであった。コロナ禍を生き延びて見れば、生きていこうと思える世界なのかもしれない。ツミデミック [ 一穂ミチ ]ツミデミック【電子書籍】[ 一穂ミチ ]
2024.09.07
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映画「九十歳。何がめでたい」を見て、原作を読みたくなった。エッセイというか、雑誌掲載のコラムをまとめた本なので、映画原作という体にはなっていない。折にふれて、思ったことを書き綴っただけのもの。ゆえに、この本から映画化に際して、原作者である佐藤愛子の当時の生活を撮ることにしたのは良かったと思う。映画を楽しめば原作を読むまでもないと思えるが、それほど映画はよくできていたと思える。ゆえにヒットしたのだろう。原作の本を読めば読んだで佐藤愛子の思いや考えがしっかりとわかる気もした。続編「九十八歳。戦いやまず日は暮れず」も読もうと思う。増補版 九十歳。何がめでたい [ 佐藤 愛子 ]
2024.08.26
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図書館にてフランス文学のコーナーを見ていてルイ・エモンを発見。大学で仏蘭西文学科(フランスブンカガッカ)だったことでフランス文学、小説を読むようになった。本屋で手に取った文庫「白き処女地」。その題名に惹かれて読んだところ、カナダのフランス語圏の山間の村で年頃のマリア・シャプドレーヌという名の女性の結婚にまつわる話であった。年齢が近いこともあってか、異常に気に入り、作家ルイ・エモンについて調べ、他の作品も読みたいと思ったけれど、彼は若くして交通事故に遭い亡くなっていた。いくつかの作品はあったようだけれど、「白き処女地」以外は見当たらなかった。「白き処女地」の原題はマリア・シャプドレーヌ(Maria Chapdelaine)、主人公である女性の名前である。そもそも「白き処女地」はジャン・ギャバン主演の映画「白き処女地」として存在を知っていて、その原作本が読めるということで買い求めた。映画「白き処女地」を見ることなんてできなかったから。後年、2015.12.26に配信にて「白き処女地」を見たけれど、薄暗い映像に心は踊らなかった。Wikipediaを見ると三回映画化されている。”「1934年には、『白き処女地 (映画)(フランス語版)』としてフランスの映画監督ジュリアン・デュヴィヴィエによって映画化され、主人公のマリアを同国の女優マドレーヌ・ルノーが演じた[6]。他、1950年にはミシェル・モルガン主演でフランスの映画監督マルク・アルグレ(英語版)によって、1983年にはキャロル・ロール主演でカナダの映画監督ジル・カール(英語版)によって同名のタイトルで映画化されている。”(Wikipediaより)Amazon prime video[白き処女地]さて、「五つの小さな物語-フランス短編集」についてである。この本は五つの短編からなる。厳密にいうと五つ目の「パタシュ」は”一人の子供を描いた四十以上もの小話(ショウワ)(それぞれに題名がついています)から成る作品です。”(あとがきより)ミリアーヌ姫 アンドレ・リシュタンベルジェ作/堀内知子 訳風の返事 ルネ・バサン作/森孝子 訳ウィンスロップ=スミス嬢の運命 ルイ・エモン作/斎藤瑞恵 訳金色の目のマルセル アナトール・フランス作/山田佳志子 訳パタッシュ トリスタン・ドレーム作/森田英子 訳 挿絵 ひらやま なみ短編を読み終え、あとがきを読んだ時に衝撃が走った。《フランス文学原書講読会》という輪読会を始めて二十二年が過ぎ、できるだけ日本語訳がない作品を選んだということである。あとがきを書いておられるのが主催と思しき森孝子さん。訳者紹介の文に”関西大学大学院文学研究科修士課程修了(フランス文学専攻)教員生活の傍ら、1988年施設《あやこの図書館》開設。”(訳者紹介より) とあった。この方は、大学時代にフランス文学を習った森先生ではないだろうか?きっと、そうだ!確かめるすべはないけれど、ほぼ間違いなく同一人物だと思われる。望郷のかなたの作家ルイ・エモンの作品を見つけ、恩師の訳本を見つけた。短編の内容はその驚愕したことに消し飛んでしまって感想を述べることはできないけれど、とても嬉しくとても衝撃的であった。五つの小さな物語 フランス短篇集 [ あやこの図書館 ]
2024.08.25
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負のオーラにまとわれている。そう感じた作品だ。前向きに希望を持って生きていく、そんな物語がいい私にとって、明日をも知れぬ、今が生きづらい人たちの小説を好んで読むことはできない。「くもをさがす」を読んで、病に侵された自信をじっと見つめてありのままに書き記す。と思えた。何かを感じて西加奈子の作品を読んでみようと思った。手に取った「夜が明ける」はマスコミというか末端のテレビ制作会社で働く男が主人公の物語である。高校生の時代から大学を卒業して寝食せずに終日動き回らなければならない裏方の仕事を通して、学生時代に出会った言葉を発しない191cmの巨漢の同級生の生涯を書き記す。彼は同級生にフィンランドの映画、そして主演の俳優を知らせた。巨漢の同級生はフィンランド俳優との同一化を目指した。散文的な思いは記さず、事象を積み上げていく視線は辛辣であるようだ。読み終えて、暗澹たる思いがざらりと残る。夜が明ける (新潮文庫) [ 西 加奈子 ]
2024.08.24
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<集英社文庫・裏表紙>”「金がないことがこんなに心細く、息苦しいとは思わなかった」。憧れの東京で病院事務に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「割のいいアルバイト」だと同僚に卵子提供を勧められ、ためらいながらもクリニックに向かうと国内では認められていない<代理母出産>を持ち掛けられ――。女性の貧困と生殖医療ビジネスの倫理を問う衝撃作。第64回毎日芸術賞、第57回吉川英治文学賞受賞作。”現代社会、大都会東京で貧困にあえぐ20代の若者。手取り給料ではカツカツの生活しかできなくて、食費を削るしかない……。そんな暮らしの中、代理母出産……。この本では代理母だけでなく卵子も提供するというとんでもない設定。妊娠して以降、結末は予想した内容で終わっていたので、これは代理母に対する抵抗?アンチテーゼなのではないかと思えた。予測できた内容は衝撃的な内容で腑に落ちるエンタテイメントとしてはそうなるものと思えたからではないだろうか。貧困にあえぐ若者をターゲットとするのは裕福で名のある人たちである。その不条理。この作品を読んでふーむ、とため息をつくことしかできないのだろうか。燕は戻ってこない (集英社文庫(日本)) [ 桐野 夏生 ]
2024.08.18
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本屋大賞にノミネートされてたから読んで見た。三軒茶屋になじみはないけれど、行ったことはあるので、あの町の話と思いながら読んだ。十代の子たちが過ごした黄色い家。なんだろう。興味を持って読んだけれど、読みづらく、なんとか読み終えた。この主人公の暮らし、生活はなんとも言い難い。黄色い家 (単行本) [ 川上未映子 ]
2024.08.11
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長編小説第一作がこの作品。初めて書いた小説で、逢坂剛は、この作品を世に出したいがため、小説家になろうとした。ものすごい度胸であり、自身家である。傑作というか重厚な感じで風格さえ感じる長編。とても新人書いた物とは思えない。あまりの長さに出版のため主人公の仕事など設定を変えて、短くしたのだという。それにしても文庫で上下巻にわかれるほどの長尺。読みごたえも十二分な長編大作となっている。舞台は日本からスペインへとなっている。スペインは知らない国ではないがアメリカやフランスほど地理も歴史も知らないゆえ、フランコ政権云々のところはそうなんだと思いながら真偽のほどはわからないまま読んだ。フラメンコギターを中心にして、爆弾テロ犯人を探し出すという設定はミステリアスであり過激であった。クライマックスからラストへと目まぐるしい展開は非情な結果を知るにつれて、舌を巻いた。新装版 カディスの赤い星(上) (講談社文庫) [ 逢坂 剛 ]新装版 カディスの赤い星(下) (講談社文庫) [ 逢坂 剛 ]
2024.08.08
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ヤバイ!!毒薬だ!劇薬だ!やはり、読んではいけない本なのだ、と思えた。私の嗜好に反する“バカ”なんて言葉が入った本を読んで、一冊目に圧倒されて、続編まで読んでしまうとは。そして、その続編が前作よりも過激な毒が入った代物だった。なんてこった。おもしろおかしく描かれているので、ついというか思わず没入してしまうが、そこには肯定できるような内容はひとつもない。わが街(?)吉祥寺の書店が舞台となっているだけに親近感を覚え、いそいそと読んでしまうけれど、なんちゅう内容。そもそもこれほど店長という役職に値しない店長がいて、そこに努める契約社員上がりの正社員が、なんという境遇に追い込まれるのか……。刺激の強さが現代を感じさせるが、男性作家を名乗る女性作家というのは女性作家がいなかった200年前と同じ(ジョルジュ・サンドとかね)と気づき、新しいと感じたものが旧いものなのかも、と考えてしまう。新! 店長がバカすぎて (ハルキ文庫) [ 早見 和真 ]
2024.08.07
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なんなんだ、この本⁉今時、二段重ね。しかも文字が小さい。この読み手を尻込みさせる書式であるが、読み始めると思いのほか面白い。面白すぎて、読むことをやめられない、とまらない。とはいえ、仕事はしなくてはいけないし、寝なくてはいけないし。ただ、この本の先を知りたくてずいぶんと夜更かしをして読んだ。一日四時間睡眠で読み終えた。読む時間は行きかえりの通勤電車と深夜の1時間半くらいしかとれなかったから。足利幕府の初代将軍、足利尊氏が凡庸な人だったという始まり。鎌倉のはずれで、やることもなく、兄弟二人で海の波間を眺めていた子供時代。そんな兄弟が嫌々ながら京に上り、鎌倉幕府を滅亡し、室町幕府を作り上げるとは。しかも、その長たる旗頭である足利尊氏はなんら特技がなく運気のみ、とは。なぜ?という思いが興味を倍増させ、そのからくり、その理由がわかれば、なるほどと思いつつも狐につままれたような気もして、読み進めざるを得ないおもしろさ。存分に楽しんだ。これこそ直木賞に値する傑作と思えた。凡庸な足利尊氏を描いていると思ったものの読み終えてみれば弟・直義が驚くほどの成長を見せるし、信頼を置いていた直義と師直の仲違いもどちらにも道理があるゆえに無理からぬ結果。その関係も興味深い。登場する楠木正成、新田義貞、赤松円心たち、武功に優れた武将たちの活躍が小気味よい。なかでも尊氏の信頼を勝ち取った赤松円心はとても魅力ある武人であった。この本により始めて足利尊氏の人となりを知り、室町幕府にも興味を持ち、ぜひともNHK大河ドラマで映像化してほしいと思えたほどであった。この本、傑作である。極楽征夷大将軍 [ 垣根 涼介 ]極楽征夷大将軍【電子書籍】[ 垣根涼介 ]
2024.08.03
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この本は1981年講談社文庫版を2018年に光文社が松本清張プレミアム・ミステリーと題し発刊されたものである。解説によると「風紋」は1967年1月から1968年6月まで「流れの結像」のタイトルで「現代」に連載されたもので、1978年6月に講談社から刊行された、とある。私が古い人間なのか、本の中の時代性に古さを感じず、現代を感じながら読んだ。もちろん、時代内容は昭和を感じても私自身が生きていた時代なので、ありありと目の前に浮かび上がる。それは作家・松本清張の力なのかもしれない。とはいえ、有名著作に見られる壮大なスケールや問題性、仕掛け(ミステリーの妙味)はあるようでなく、クライマックスをクライマックスと意識しないまま、物語は終わった。なかなか面白く読み進んだ作品ではあったが、その結末が判然としないところで満足度はまったく足りなかった。しかし、松本清張の力量は感じられたのでまた別の作品も読んでみたい。風紋 (松本清張プレミアム・ミステリー 光文社文庫) [ 松本清張 ]
2024.07.27
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なんて題名だ。こんな題名は嫌なので決して読まない…はずだった。「笑うマトリョーシカ」があまりに秀逸だったので、興味を持ってしまい、この下劣な題名の本を読んで見ようと思い立った。なんだ!これは!?書店員の本としては「書店ガール」があり、シリーズ全作を読んで、感動した。この下劣な題名の本に感動するようなことがあるかと思っていたが、感動とはいかないがおおいに感じ入るものがあった。2020年の本屋大賞第9位になるくらいだから感じ入る書店員さんも多かったのだろう。それにしても「書店ガール」もこの本も所は吉祥寺。作家が注目する街は吉祥寺なのだろうか。そして吉祥寺駅は日々乗り降りするところなのでなじみがある。さて、吉祥寺に本店を構える武蔵野エリアの地域書店に勤める契約社員女子が主人公であある。女子といっても20代後半アラサーである。薄給で正社員とアルバイトの板挟みで仕事のしわ寄せを受けてしまう。そんな彼女が店長や版元の圧力に抗いながら孤軍奮闘、いろいろな思いや悩みを抱えながら仕事に励む姿勢が綴られている。それぞれの章で驚くこと感心することが描かれ、ふんふんと読んでいくと最終章に至ってあらゆることが点や線でなく円で繋がっているように集約される。とても意外で聡明な本であった。であるが、やはり「店長がバカすぎて」とう題名はイヤだ。店長がバカすぎて (ハルキ文庫) [ 早見 和真 ]
2024.07.25
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Twitterでつぶやいた人に感謝である。その反響により再販はならずとも文庫として出版されたのだから。そして、ベストセラーに、話題になった。この本を読むまで彬子女王のことはほとんど知らなかった。皇室でオクスフォードに留学され、博士号を取ったことも知らなかった。立命館大学に勤務されていることも知らなかった。彬子女王の事を知り、孤軍奮闘されたオクスフォード留学のことを知り、大学院にて博士を取ることの大変さを知り、日本芸術のことも知ることが出来て、とても良かったと思える。この本が文庫本で出版されて、感謝である。読み終えた今、彬子女王にお会いしたい、講演などあれば拝聴したいと思える。また出来るならば桜井香雲の金堂壁画の模写を見たい。四字熟語で章を立て、時折々の留学記をまとめておられるので読みやすく、一期一会ではないが交流を持たれた方々との親交と思いやりに感じ入った。大家族と称されていたけれど、留学の経験とともに彬子女王にとって人生の宝物だと思われた。とても素敵な本であり、終わるにつれ、あとがきなども読むと涙ぐむ私がいた。赤と青のガウン オックスフォード留学記 (PHP文庫) [ 彬子女王 ]
2024.07.18
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さすがの大沢在昌である。800ページを越える長編、文庫本で上下巻。読みごたえがあり、展開がどうなっていくか、はまって読んだ。どんどん読んだ。主人公は片田舎の廃れた港町に身寄りを訪ねてきた干場という中年にさしかかった男。この男の登場で穏やかだった田舎町が煽り立つ。”東京からほど遠くない場所に位置する山岬市、母が捨てた故郷にアメリカ育ちの干場功一は帰ってきた。お殿さまと呼ばれた大地主の伯父、干場伝衛門は全財産を市に寄付して六年前に亡くなっており、お陰で財政破綻寸前の港町は立ち直ったという。そこへ突如、遺産相続人が現れたことで、かつて利権に群がった政治家や企業は色めき立ち──。閉塞感漂う田舎町で疑心暗鬼の人間ドラマが幕を開ける。”Amazon.co.jp: 罪深き海辺 上 (集英社文庫) : 大沢 在昌: 本 より途中、干場は身分証明書類を取るために東京へ。もう一人の主人公というべき、刑事の安河内の捜査で展開していく。”大地主の遺産相続人、干場を懐柔しようとする者や、排除しようとする者があとを絶たない。様々な思惑が交錯するなか、悪徳警官や大物弁護士らの不審な死が立て続けに起こる。暴力団の抗争は激化し、進出企業の陰謀が露見。干場の存在を巡って、潜んでいた毒虫たちが動き出す。本当の悪は一体誰なのか。定年間際の刑事、安河内は命を懸けて真相解明に挑む。緊迫の長編サスペンス。”Amazon.co.jp: 罪深き海辺 下 (集英社文庫) : 大沢 在昌: 本 よりクライマックスは大事件となり劇的な展開を見せる。干場の真実は衝撃的であった。圧巻!!罪深き海辺 上 (集英社文庫(日本)) [ 大沢 在昌 ]罪深き海辺 下 (集英社文庫(日本) 罪深き海辺 上) [ 大沢 在昌 ]
2024.07.12
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コンサバターシリーズの第二弾。「コンサバター 大英博物館の天才修復士」に続く物語。書き下ろしで文庫となっているので、すごいなぁと思う。今回も面白く読んだ。大英博物館とヒースロー空港にアフガニスタンの美術品。入り組んだ物語でワールドワイドな展開はどこまでが事実でどこからがフィクションかわからない。今回登場する二つの絵。幻のひまわりとフェルメールの真作。どちらも実際にあるのかしら。読み終えた今はそのことが気になる。ゴッホは昔からだけれど、フェルメールなんてこの数十年で名前を知った画家である。今ではゴッホに負けないくらい人気なフェルメールである。作品として主人公のコンサバターであるスギモトに荷を負わせすぎなのではないだろうか。複製画を作ることは現実的でないし、キーマンであるエースが登場しないというのもすっきりしない。とはいえ、ワクワク、ドキドキしながら読んだので、なかなかの物語であった。コンサバター 幻の《ひまわり》は誰のもの (幻冬舎文庫) [ 一色 さゆり ]
2024.07.10
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「笑うマトリョーシュカ」は文庫が出ているんだね。単行本で読んだ。男子高校生時代の優秀私立における独特な校風が生徒に与える尊厳がユニークで興味が深まり、友達を必要としない主人公たちの独立性もまた興味深かった。舞台が愛媛という地方であったことも良かったと思う。知らない世界の知らない生活は読者に興味を抱かせる。政治家、代議士を目指す男が傀儡であるという、そして、ロシア人形が象徴的なものとしてマトリョーシカが飾られているのも意味深であった。操り操られ、支配していたと思われる者が実は踊らされていただけ、となる展開は驚くとともにならば誰が、という考えに発展し興味が尽きない。第一部から第三部までは小説雑誌に掲載されていたから一貫性があったけれど、第四部の書下ろしでは趣向が変わったように思えた。それはすなわち傀儡と思われていた代議士が実は……という展開にうすうす気づいていて誰が捜査者なのかと思いめぐらせていた。その結果が第四部なのだが、その第四部はしっくりこない締めであった。私は結末に期待していたのだろう。笑うマトリョーシカ (文春文庫) [ 早見 和真 ]
2024.07.07
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『ホワイトラビット』 伊坂幸太郎 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)より”仙台の住宅街で発生した人質立てこもり事件。SITが出動するも、逃亡不可能な状況下、予想外の要求が炸裂する。息子への、妻への、娘への、オリオン座への(?)愛が交錯し、事態は思わぬ方向に転がっていく――。「白兎(しろうさぎ)事件」の全貌を知ることができるのはあなただけ! 伊坂作品初心者から上級者まで没頭度MAX! あの泥棒も登場します。”伊坂幸太郎の小説はこのようなものなのか。「レ・ミゼラブル」を引用しながら、その作家・ビクjトル・ユゴーの形式をもって書いているとした本書「ホワイトラビット」。それだけで私の読書意欲は大きくなえた。しかしながら、詐欺師集団と誘拐が絡み、オリオオリオという不明な人物を探して、読み手の興味をそそる。誘拐犯に対峙する刑事、ネゴシエーターの思惑・行動なども興味深い。二転三転、物語が進行するにつれて次々と明かされる事実に驚きながら次の展開に翻弄される。虚々実々、荒唐無稽でいて波乱万丈なてんやわんや物語である。痛快であったが感心しない文体に、どう感じればよいのかと思えた読後であった。ホワイトラビット (新潮文庫) [ 伊坂 幸太郎 ]
2024.07.05
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(Amazonより)”十年前、洋食屋を営んでいた父親が通り魔に殺されて以来、母親も失踪、それぞれ別の親戚に引き取られ、不遇をかこつ日々を送っていた小林姉妹。しかし、妹の妃奈が遺体で発見されたことから、運命の輪は再び回りだす。被害者であるはずの妃奈に、生前保険金殺人を行なっていたのではないかという疑惑がかけられるなか、妹の潔白を信じる姉の美桜は、その疑いを晴らすべく行動を開始する。”Amazon.co.jp: レモンと殺人鬼 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) : くわがき あゆ: 本なんなんだこれは!?と思えるほどの展開の三重織り込み。伏線(?)だらけで展開が二転三転、またまた展開と目まぐるしい。あまりの奇妙さに読んでいる者も疲れるほどだが、その興味と好奇心を掴んで離さない。犯人はどこ?あなたは誰?読みごたえはあるけれど内容の盛りだくさんに集約するのが大変で結果十分納得のいく結末といえないものとなっている。しかし、ここまで練り込んだ物語はなかなかの力作である。レモンと殺人鬼 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) [ くわがき あゆ ]
2024.06.30
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(Amazonより)”累計340万部突破のベストセラーシリーズ『神様のカルテ』を凌駕する、新たな傑作の誕生!その医師は、最期に希望の灯りをともす。【あらすじ】雄町哲郎は京都の町中の地域病院で働く内科医である。三十代の後半に差し掛かった時、最愛の妹が若くしてこの世を去り、 一人残された甥の龍之介と暮らすためにその職を得たが、かつては大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望された凄腕医師だった。 哲郎の医師としての力量に惚れ込んでいた大学准教授の花垣は、愛弟子の南茉莉を研修と称して哲郎のもとに送り込むが……。”Amazon.co.jp: スピノザの診察室 : 夏川 草介: 本とある。この本を読んでいて先に読んだ「水車小屋のネネ」と同じく、その空間、その時を共に過ごしたいと思い続けた。温かみを感じるいい塩梅の作品である。作者・夏川草介は「神様のカルテ」を書いた時にこの版元である水鈴社から”医療物で”というただ一点のしばりのある依頼を受けた。その後、多忙を極めた筆者が依頼された作品を完成したのは14年後であったとのこと。それが本作「スピノサの診察室」である。大学病院の医師から妹の死により学童である甥っ子を引き受けることになった敏腕医師・雄町哲郎は町医者として診療所の医師に転身した。在宅患者への訪問医療、末期患者の見取りなど、終末医療に携わることによって死生観、医師としての概念もかわっていったようである。地域医療の意義、必要性、存在感を患者との関係が密になることで近づきすぎない離れない距離を保つ。そのことを読み感じる登場人物たちの思いに恐れ入った。感服である。とてもとても素敵な本。おすすめである。スピノザの診察室 [ 夏川 草介 ]
2024.06.29
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「ポトスライムの舟」を読んだとき、ああ、この人の本はこの先読まないだろうなぁ、と思った。この「水車小屋のネネ」は谷崎潤一郎賞を受賞し、本屋大賞2位となった。「第4回 みんなのつぶやき文学賞」国内編 第1位! 「本の雑誌」が選ぶ2023年上半期ベスト 第1位! 「キノベス!2024」第3位!とアマゾンにあった。手に取ってみるとなかなか分厚い本。著者・津村記久子の最長の本とのこと。 第一話 1981年 第二話 1991年 第三話 2001年 第四話 2011年 エピローグ 2021年から成る物語。それぞれの話は長く、その一年、そのひと時を描いている。もとは新聞小説とのこと。1年かけての掲載である。四季ごとに年代がかわっていったかどうか知らないが、およそ三か月で一話を綴っているのであろう。最後のエピローグはこの単行本のための書き下ろしである。よって、想像だが、2011年を終章として構想し書いたものがと思える。2011年は東日本大震災があった。この本の中でも地震にあい、そのときの状況、その後の人々が描かれている。ここに帰結するためにそれまでの物語は綴られ、いろいろな人との交流がある。第一話を読んだだけで悲惨な状況に陥った姉妹が出てくるのだけれど、なんか素敵な本に思え、この「水車小屋のネネ」好きだなあ、と思えた。読み進むうちに、ますますその思いは強くなり、読み終えるのがとても切なく惜しく思えた。いつまでも読んでいたい。いつまでも律やネネを見ていたい。そう思えた。この本でヨウムという鳥がいることを初めて知った。オウムより一段、賢そうである。寿命も50年と長い。家族というものではないけれど、家族のように感じる登場人物たち。袖振り合うも多生の縁とでいうように出会いを大切に、他人のことに踏み込みすぎない程度に大いにかかわって、その関係性が心地よい距離間のままである安堵感、安心感。読んでいてほっこりする感じがとても良かった。とても素敵な本である。水車小屋のネネ [ 津村 記久子 ]
2024.06.24
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同じ作家の上間陽子氏の本「海をあげる」。その本の内容は忘却の彼方だ。何を書いていたか思い出すには、もう一度読み直すしかない。本著読んで「海をあげる」の記憶は上書きされたように思う。それほどこの「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」の内容は凄まじかった。十代で夜キャバで働くシングルマザーたちにインタビューしてきた内容を書いた本である。ここでは十代、しかも中学生で妊娠してしまった女の子たちが登場する。中学生で妊娠し、誰の助けも得られず遁走してしまう女の子たち。一人で立ち向かうしかない状況が悲惨な状況を生む。 読み終えて、沖縄の現状を憂いだ。読み終えて、国会議員に読んでほしい。国会議員が読むべき本だと思えた。沖縄の基地の現状を大なり小なり知ってはいても、沖縄で生活するシングルマザーの状況を知っている人はほとんどいないのではないだろうか。著者・上間陽子氏はこの本の売り上げの一部をシングルマザーたちを助ける活動に提供したと聞く。また、彼女たちを手助けする運動を始めたとも聞く。良いことだと思うけれど、沖縄に住む十代シングルマザーを援助するのは行政の責務であるとも思う。支払い義務はないのに…「思いやり予算」1年で1974億円 子どもの貧困対策152年分相当 78年からの累計は7兆円超える - 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)琉球新報の記事を見た時に、この「思いやり予算」の0.1%でもあれば十代シングルマザーはどれだけ救えるか。(0.1%でも1億9千万円)また、この本を読んで日本全国の労働者が寄付ではないが寄付の気持ちで一人千円支払えば良いのではないかと考えた。労働人口が約6000万人なので1,000円×60,000,000人=60,000,000,000円。600億円にもなってしまう。驚いた。ならば、一人100円にかえて60億円。強力な支援ができると思う。まもなく終戦から80年。沖縄で生まれた時から米軍基地があるという人がほとんどだろう。基地がある暮らしが騒音や犯罪を生んでいるのだから、沖縄住民は国からの手厚い補助を受けて悲惨な目に合っている10代シングルマザーを保護すべきではないだろうか。何をすべきか、何ができるのか。そのことを考える前提として、この本をぜひとも国会議員に読んでほしい。いや、読むべきだ。そのための図書費は国負担で良い。衆議院465人、参議院248人で合計713人。一冊1,870円(税込)なので1,870円×713人=1,333,310円。読書後、感想もいいが、10代シングルマザーたちに何ができるか、提案してもらいたい。この本を読んでとてつもない衝撃を受けて、最後の章「さがさないよ さようなら」を読み、筆者の思いの深さを大きく大きく感じた。裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち [ 上間 陽子 ]
2024.06.22
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14歳〈フォーティーン〉 満州開拓村からの帰還 (集英社新書) | 澤地 久枝 |本 | 通販 | Amazon(14歳〈フォーティーン〉 満州開拓村からの帰還 – 集英社新書 (shueisha.co.jp)より”わらしは軍国少女だった。満州での敗北、難民生活と壮絶な引き揚げ体験。自身の「戦争」を、いますべて綴る。「昭和」を見つめ、一貫して戦争や国家を問うてきた著者の原点となったのは、一九四五年、十四歳での敗戦体験だった。家族と渡った満州・吉林。敗戦後の難民生活は一年に及ぶ。「棄民」ともいうべき壮絶な日々、そして一家での日本への引き揚げ……。 十四歳という多感な少女が軍国少女となり、日に日に戦争に巻き込まれていく様を、自身の記憶と膨大な資料から丁寧に回顧し綴る。[著者情報]澤地久枝(さわち ひさえ)ノンフィクション作家。一九三〇年東京生まれ。四九年中央公論社に入社。六三年「婦人公論」編集部次長を最後に退社。著書に『妻たちの二・二六事件』(中公文庫)、『昭和史のおんな』『滄海よ眠れ ミッドウェー海戦の生と死』(ともに文春文庫)、『火はわが胸中にあり 忘れられた近衛兵士の叛乱 竹橋事件』(岩波現代文庫)など。八六年菊池寛賞、二〇〇八年朝日賞。”(以上、集英社文庫WEB より)澤地久枝氏が記憶だけを頼りに書いた終戦前後の満州にいた少女の見聞きしたこと。ありのままを書いたのだと思う。そこに悲惨さや悲愴というものはなく、あたりまえとも受け取れる当時のそのところの日常がある。新聞もラジオも手紙もなく、世の中がどう変わったのか、自分たちの置かれている状況がどういうものか、全く分からない情報のない暮らしの寂莫とした感じを感じながら読んだ。14歳〈フォーティーン〉 満州開拓村からの帰還 (集英社新書) [ 澤地 久枝 ]
2024.06.16
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(アマゾンより)“日本史上最大の危機である元寇に、没落御家人が御家復興のために立つ。かつては源頼朝から「源、北条に次ぐ」と言われた伊予の名門・河野家。しかし、一族の内紛により、いまは見る影もなく没落していた。現在の当主・河野通有も一族の惣領の地位を巡り、伯父と争うことを余儀なくされていた。しかしそんな折、海の向こうから元が侵攻してくるという知らせがもたらされる。いまは一族で骨肉の争いに明け暮れている場合ではない。通有は、ばらばらになった河野家をまとめあげ、元を迎え撃つべく九州に向かうが……アジア大陸最強の帝国の侵略を退けた立役者・河野通有が対峙する一族相克の葛藤と活躍を描く歴史大河小説。“内紛による没落。御家復興のために河野家当主・河野通有は村に市をたて、通航する人々、物を寄せ集める。その中に奴隷というか金の髪・青い瞳の女がいた。また、日本人に似て異なる男もいた。男は高麗人、女はキウイから来たというのでロシア人かウクライナ人(なのだろうか)。ウクライナとロシアが戦争中であるがゆえに興味が掻き立てられる。そんな者たちを買い求め、引取った。これら外の国の者との交流、お家騒動の行方、読んでいて惹き込まれた。おっしてクライマックスが元寇。二度目の元寇、九州への出兵である。表題である「海を破る者」の章がクライマックスなのか、その後の戦いは熾烈であり、神風と呼ばれた野分(台風)の後の処理は、河野通有の気持ちはわかる反面、お家や領地・領民のことをないがしろにしているので疑問も感じた。終章を読んでも、河野通有の境地には達しなかった。この終わり方、どうとるか。どう感じるか。海を破る者 [ 今村 翔吾 ]
2024.06.15
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大英博物館の修復士ということで芸術に関するもので書かれているので、興味深く読んだ。北斎の浮世絵が贋作なのか複製画なのか本物なのかと試行錯誤、真贋見極めるところなど、なかなかおもしろく、惹き込まれてしまう。一度保管したものは手放さないという大英博物館の規則など、知らないことがちりばめられっていて面白かった。(Amazonより)”世界最古で最大の大英博物館。その膨大なコレクションを管理する修復士、ケント・スギモトのもとには、日々謎めいた美術品が持ち込まれる。すり替えられたパルテノン神殿の石板。なぜか動かない和時計。札束が詰めこまれたミイラの木棺。天才的な審美眼と修復技術を持つ主人公が実在の美術品にまつわる謎を解く、豊潤なるアート・ミステリー。”コンサバター 大英博物館の天才修復士 (幻冬舎文庫) [ 一色 さゆり ]
2024.06.13
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刑事物語でありながらリケジョ(理系女)が出てくる。読みどころ、読み応えがあり、スリルもサスペンスも味わえる、なかなかの小説である。デビュー作である前作「北緯43度のコールドケース」も読みごたえのある骨太ともいえそうな刑事小説であったが本作もまた傑作である。爆破爆死事件という非情な出来事で始まり、その捜査に警察と公安の確執があり、警察内部の問題や捜査現場の軋轢や捜査員の感情をないまぜにしながら事件解決へと悪戦苦闘する主人公。女性ながらジェンダーバイアスで見誤ったと気づくことで事件の真相にたどり着く。読みだしたら先を知りたくなるいい小説だと思える。Amazon.co.jp: 数学の女王 電子書籍: 伏尾美紀: Kindleストアより”かっこいいのに等身大、警察小説の新ヒロインふたたび。第67回江戸川乱歩賞受賞作『北緯43度のコールドケース』のシリーズ2作目!博士号を持つ異色の警察官・沢村依理子は、中南署から本部の警務部に異動となる。とある出来事で監察官室に目をつけられている沢村は、これは報復人事ではないかと疑う。そんな中、新札幌に新設されたばかりの北日本科学大学で爆破事件が発生。これを機に沢村は突然捜査一課に異動となるが、ただし警務部付ーー果たしてこの人事の意味は何なのか。一方、爆破事件はいつまで経っても進展がない。まさか北海道でテロ事件が起こったのか。公安との駆け引きの中で進めていく捜査、しかも沢村は突然班長を任されることに。新天地でまだぎこちない沢村は、新参者の班長に対して心中複雑な班員たちをどうまとめていくのか。そしてなかなか実態がつかめない爆破事件の犯人は、いったいどんな人物で、どんな目的があったのか。事件の謎を解く鍵は「数学」「研究者」「ジェンダーバイアス」そして「名声への飽くなき執着」ーー。女性研究者として博士課程まで進み、アカハラによって恋人を亡くすという経験をした沢村だからこそたどり着ける真相が、そこにはあった。”以上、Amazon.co.jp: 数学の女王 電子書籍: 伏尾美紀: Kindleストアより数学の女王 [ 伏尾 美紀 ]
2024.06.08
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著者・柴門ふみが2013年に出版した本の文庫本(2018年)。文庫本後書きに50代を過ぎ、60代となった著者の言葉が書かれている。やりたいように生きた50代は最高だったようだ。私も60代になってしまっているので、今更50代を自由気ままに生きられるわけもない。人生において子育てに縛られる(?)時期があるので、若くして子を持った人ならば40代を謳歌でき、やや遅く子を持ったならば50代を謳歌できると思える。私のように遅くに子を持った人は60代を謳歌するとなろう。とはいえ、40代が初老と言われるように、老化は始まっていて50代最後の年にシニアグラス、いわゆる老眼鏡をかけるようになり、チラホラみられた白髪が普通に混じって生えてくるようになった。ショートスリーパーとなり朝の目覚めがいいというよりも気がつくと起きてしまっている。そのくせ昼は居眠り。やはり体力に不安を感じない50代くらいまでに元気に飛び歩けばよかったのだろう。さて、本書はエッセイなのだろうか。柴門ふみが感じたものを過去のことを書いている。記憶に残っているものを上げると、気に入った服と着て似合う服は違うということ。私もずいぶんと前、若い時にオレンジのロングコートが映えてマネキンが来ていた。いいと思い試着したところオレンジの輝きが浮いて見える。試しに茶系のコートを着てみるとしっくりと似合った。というか違和感がない。オレンジのコートは美しいが、私には似合わず購入を諦めた。その記憶がよみがえった。「東京ラブストーリー」の原作者として崇める柴門ふみの著書を読めたことを嬉しく思う。そうだ、やっぱり愛なんだ 50歳からの幸福論(1) (角川文庫) [ 柴門 ふみ ]
2024.06.08
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フランス文学の現代作品を読みたくて、ググってはみたものの適切なものがわからず、166pと手軽そうなので読んで見た。読んで見たが、理解するにはなかなかの私小説、純文学(?)だった。10歳年下の異国の男性と逢瀬を重ねながら、音沙汰がなくなり別れを実感していく日々が書かれてある。彼を思い出しては、昔を思い出して胸詰まる思いにとらわれる。その気持ちを書いている。過去の事件も書いている。そして、本文もさることながら、あとがき、そして解説を訳者が長文掲載している。恐れ入ってしまった。どのように捉えていいのかわからず、ググってみると、ノーベル文学賞のアニー・エルノー「シンプルな情熱」 担当編集者が語る、今読むべき理由とは?|まいどなニュース (maidonanews.jp)に行き当たった。このまいどなニュースを読んでようやく少しわかった気がした。なかでもオートフィクション(自伝的なフィクション)という言葉を見つけて、そういうことなのかと了解した。最近の映画もそうだが20世紀では現実ネタを“true story”として描いていたが、今では“inspired by the true story”実話に基づく話としてフィクションであるとしている。この本は実話をネタに小説として書いた話なのである。衝撃的な内容も含まれているけれど、だからなんなのだ、とも思えてしまい。私の理解や共感が足りないと思えた。また、驚いたことに作家・アニー・エルノーはノーベル文学賞受賞者だった。(以下、まいどなニュースより)“アニー・エルノーは以前からフランス語圏では人気作家として知られていましたが、「Les années(歳月)」の英訳が2019年にブッカー国際賞の最終候補になったことから、英語圏での人気に一気に火が付きました。また、数年前から必ずノーベル文学賞の発表前は受賞候補として名前があがっていたため、いつか受賞するのではないかと早川書房内でも期待がありました。2022年6月に、アメリカ合衆国の最高裁で、1973年に認められた人工妊娠中絶の権利が破棄されたことや、女性の中絶の権利が危うくなってきている世界情勢の中で、エルノー自身の中絶体験が色濃く反映された「事件」がふたたび注目を集めたことなども少しは影響しているのかもしれません。“(以上、まいどなニュースより)そしてまた驚いたのは第78回ベネチア国際映画祭にて金獅子賞を受賞したフランス映画「あのこと」の原作「事件」がアニー・エルノーの本であることだった。映画「あのこと」を見てもなんだかなぁ、としか感じられなかったけれど、映画の舞台となる1960年代フランスでは中絶が犯罪であった。映画は「望まぬ妊娠をした大学生の12週間にわたる日々」を描いたものである。その時代の閉そく感、妊娠・中絶の当事者となった絶望感、悲壮感を十分に感じられなかった私であった。原作者アニー・エルノーは主人公同様、あの時代に中絶を体験している。そして、それを小説に書いた。小説に書けたのは中絶が犯罪でなくなり、憲法で中絶を容認するようになったからであろう。とはいえ、フィクションにしたが実体験を書き公表したことは驚くばかりである。シンプルな情熱 (ハヤカワepi文庫) [ アニー・エルノー ]シンプルな情熱 [ レティシア・ドッシュ ](DVD)
2024.06.07
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(Amazon.co.jpより)”自分らしい生き方を見つけて輝いている60歳以上の女性51人をインタビュー。人生100年時代を生き抜くヒントが見つかります。【目次】PART1 60歳からは好きなことを仕事にするPART2 60歳からの新たな挑戦PART3 いくつになっても自分らしく働くPART4 60歳からの自分らしい暮らし【出版社からのコメント】60歳でモデルデビューをした女性、73歳で自分のお店を持った女性、62歳で人生のパートナーに出会った女性、60歳をすぎてから上京した女性…さまざまな女性が登場します。彼女たちの生い立ちや経歴、考え方などから、年齢を言い訳にせず、いくつになっても輝き続けられる生き方が見えてきます。”(以上、Amazon.co.jpより)60歳を過ぎて、ためになるというか面白そうな本だと思えて、読んで見た。ほとんどの人が息子、娘はいながらも独立したようで、夫とふたり、もしくは一人暮らしである。皆それぞれ自分自身がしたいことをやり、積極的に行動しているようである。中でも”77歳で周4日フルタイムで就労支援の相談員として勤務している”人には驚いた。77歳で現役である。定年のない東京都で働き続けているとのこと。5年更新らしいが”80歳まで働き続けることが目標”とあり、実現してもらいたい。
2024.06.01
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高校の課題図書なのか。わからないでもない。読んでみて想起したのは映画「遠い空の向こうに」だ。さびれた炭鉱の町の高校生が宇宙の夢に魅せられて、やがて大学へ進み、NASAで働く者も出て来る実話ネタである。この「宙わたる教室」も定時制高校の生徒たちを中心にして、大学の研究員でもある理科教師のもと科学部で火星のクレーターの再現と検証を行い、研究発表の全国大会に出場し、発表をする。しっかりとした内容を感じるのはこちらも実話ネタだからである。小ネタやエピソードは作者の創作なのかもしれないが大筋は実話としてあるのだから肉付けをすればいい。とはいえ、これだけの濃密な内容のものに仕上げたのには骨が折れたであろう。参考文献はハンパない数あった。ミステリーやエンタメの作品とは違って骨太でリアルな感じがとてもいい。それゆえ課題図書にもなったのかも。科学にまつわる実のある話、読み応えあり。宙わたる教室 [ 伊与原 新 ]
2024.05.30
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お気に入り作家、新川帆立で未読だったので、読んでみた。一読、やはりおもしろい。視点も発想も多面的で読んでいてためになるというか、別の角度から見ることを知って、驚く。Amazonより”最良の離婚、請け負います!家族はもっと、いろんな形がある。前を向く元気をもらえる、新時代のリーガル・エンタメ!夫のモラハラと浮気に耐えられなくなった聡美は、子供を連れて実家のある北鎌倉に避難する。そこで出会ったのは、縁切寺として名高い「東衛寺」の娘で、離婚専門弁護士の松岡紬。勢い込んで紬に離婚相談をした聡美だったが、思いがけないことを言われ……。離婚したいと思ったらまずは何から? 財産分与と親権の争い方は? 熟年離婚、同性カップル、離婚前後の泥沼トラブル。切り抜け方は……? 知っておいて損なし! 上手な縁の切り方、教えます。可愛らしくも方向音痴で意外と天然(?)な紬先生をはじめ、個性豊かなキャラクターが織りなす、温かなヒューマン・ドラマにして、スカッと痛快なリーガル・エンタメ。”縁切り上等! 離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル [ 新川 帆立 ]
2024.05.29
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こういう作品を何といえば良いのかと迷ったがノンフィクションなのだ。いつもフィクションばかり読んでいるので、とまどう。”深夜3時42分。母を殺した娘は、ツイッターに、「モンスターを倒した。これで一安心だ。」と投稿した。18文字の投稿は、その意味するところを誰にも悟られないまま、放置されていた。2018年3月10日、土曜日の昼下がり。滋賀県、琵琶湖の南側の野洲川南流河川敷で、両手、両足、頭部のない、体幹部だけの人の遺体が発見された。遺体は激しく腐敗して悪臭を放っており、多数のトンビが群がっているところを、通りかかった住民が目に止めたのである。滋賀県警守山署が身元の特定にあたったが、遺体の損傷が激しく、捜査は難航した。”母という呪縛 娘という牢獄 | 齊藤 彩 |本 | 通販 | Amazon より主人公・あかりの日記・手紙・LINEなどを基にして、裁判の記録も本人との交流(手紙など)を経て、完成した本である。10年に及ぶ受験勉強は熾烈で地獄だったのだ、と思えた。常軌を逸した犯罪行為であるが、抑うつされた境遇を思うとあかりに気持ちを寄せてしまう。母という呪縛 娘という牢獄 [ 齊藤 彩 ]
2024.05.26
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”ハンチバック”が”せむし”の事とは知らなかった。また、カバーデザインの絵が”せむし”を表しているとは気づかなかった。衝撃的な内容である。なんという世界。しかし、身体障害者の性について思うと映画「セッションズ」を思い出した。ヘレン・ハントがセックスパートナーの役を演じた作品だ。衝撃的な内容であった。さて、本書「ハンチバック」は生まれながらの障害女性が親の遺産でグループ・ホームを経営(?)。コタツ記事を書きながら暮らす、人工呼吸器と電動車いすを利用する40代の女性が性体験をしたいと……。圧倒されてしまった。ハンチバック [ 市川 沙央 ]
2024.05.26
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伊予原新「月まで三キロ」を読んだ時に「<対談 逢坂剛・伊与原新>馬力がある小説」という章が巻末にあり、馬力がある小説として逢坂剛を読みたくなり読んで見た。読書レビュー 「月まで三キロ」伊与原新:著 新潮文庫冒頭からなかなか惹きつける導入部で読みごたえもあった。内容は充実していて展開も早いので飽くことがない。悪徳刑事とまではいかないが、己の規範しか持ち合わせない短躯(たんく)<背の低い人>ながら異様に肩幅が広い最悪の刑事・禿富鷹秋が主人公。彼は腕っぷしが強く敏捷である。出て来る女たちは魅力的だ。血も涙もない非情な暗黒社会を単独で捜査する強面。読み始めて「新宿鮫」を想起したが、鮫島はよりステイリッシュで情がある。情け無用のハゲタカは強烈な本だった。ただあまりに強烈なので映像化されていないのかなぁ。映像化されている百舌シリーズを読むかなぁ。「カディスの赤い星」も読まねばなるまい。禿鷹の夜 (文春文庫) [ 逢坂 剛 ]
2024.05.26
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本屋大賞を受賞の作品。大言壮語なことをいう成瀬。この題名「成瀬は天下を取りに行く」も大言壮語である。200歳まで生きる!誰も思わないそんなこと。しかし、言霊なのか、有言実行ではないが、言っているうちにかなうこともある。という。さて本書は、ありがとう西武大津店膳所(ぜぜ)かた来ました階段は走らない線がつながるレッツゴーミシガンときめき江州音頭(ごうしゅうおんど)の6つの章からなる。期待を寄せて読んだ「ありがとう西武大津店」は中学生14歳として、向こう意気の強さが出て良かったが、期待しすぎたのか、心躍るまではいかなかった。続く「膳所(ぜぜ)かた来ました」で漫才挑戦とは意表を突かれた。「階段は走らない」には郷愁が感じられて「線がつながる」とはそういうことかと感心した。この中で一番心に響いたのが「レッツゴーミシガン」であった。映画「ちはやふる」を見ていたこともあり、かるた鳥の場面が目に浮かんだ。ミシガンに私も乗船したい。ラストの「ときめき江州音頭(ごうしゅうおんど)」では成長して別れを意識するが、繋がっていることを再認識して心温まる。軽いタッチで描かれていながらいろいろと縦横無尽に展開され、いろいろな人の思いを知り、感じることが出来た。西武大津店はなくなった。そして、対比として登場した西武池袋本店であったが、この西武池袋本店も消えゆく運命である。時の流れの非情さを感じる。西武池袋本店が閉店するとき、成瀬は立ち会うのだろうか。成瀬は天下を取りにいく [ 宮島 未奈 ]
2024.05.24
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いま、驚いた。ググったら「平場の月」映画化、とあった。第32回山本周五郎賞受賞ということで気になり読んで見た。埼玉に育ち、上京し、埼玉に戻り、細々と暮らす。アラフィフ、男と女。ともに独身。寡婦だったり、バツイチだったり。中学生の時に男は女に告白した。勢いでか?病院で再会するというのは体にガタがきた中年ならではであろう。なんとなく飲みに行き……なんとなく飲みが続き……なんとなく……多くを語ることなく、なにかを構築することなく、老後があるものと……でも……愛って、あったのかなぁ。嫌いではないよな……。情熱はどうだろう……。読み終えて、感覚のない感覚を感じた。
2024.05.23
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短編集「惨者面談」「ヤリモク」「パンドラ」「三角奸計」「#拡散希望」と5作品。冒頭の「惨者面談」があまりに秀逸で想像を上をずいぶんと越えていく作品なので驚いた。超傑作といえそうなくらいの作品だ。この作品に打ちのめされて、あとの4作品は出来が良くても感動や意外性の極致を越えていかない。一作目のインパクトが強すぎて、そのあとの衝撃がわからない(苦笑)とはいえ、どれも驚きの展開が待っていた。#真相をお話しします [ 結城 真一郎 ]
2024.05.19
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不覚であった。この本、前に読んでるじゃないか。数十ページ読んで気づいた。振り返ると”感動も共感も特にはない”と書いた2022.11.30の読書レビュー「星のように離れて雨のように散った」島本理生:著 文藝春秋 であったが、今回読んだ文庫本では大いに共振していた。感ずるものがあった。文庫本では最後のところが改稿しているとのこと。作者のあとがきも、解説・柴崎由香の文も感心できる内容であった。2024.05.15の読書レビュー「白いしるし」西加奈子:著 新潮文庫とは違う恋愛小説だけれど、自分探し、自立する物語なのかも。主人公のその思いに共鳴し、今回は記憶に残る本になったともう。島本理生の本に出会った時に感じたことを改めて思う。彼女の本、好きだなぁ。星のように離れて雨のように散った (文春文庫) [ 島本 理生 ]
2024.05.18
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やっぱり、すごいな新川帆立。国会議員を描いて、事件物。唸ることしかできないほど、巧妙であり予想外の物語だった。幻冬舎の新刊案内から”文藝編集者人生ベスト3に入る小説です”この新刊案内の一文を転載しようかと思ったけれど、冒頭の事件の内容が書かれているので、断念した。筋書きはクライマックスだけわからなければよいというものではなく、この予想外の事件?事故?さえも予断が出来ないことが衝撃でありミステリー感が深まると思う。ゆえに、何も知らないまま読み進めてほしい。読書中も感じたが著者・新川帆立のストーリーテリングは絶妙である。先を読みたくなるストーリー、裏打ちされる現実感(リアリティ)。政治好きの者ならば、さらに快感を味わえる内容であった。あっぱれ!あっぱれである新川帆立。次の新作もぜひとも読みたい!!!!!女の国会 [ 新川 帆立 ]
2024.05.18
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裏表紙に”女32歳、独身。誰かにのめりこんで傷つくことを恐れ、恋を遠ざけていた夏目。間島の絵を一目見た瞬間、心は波立ち、持っていかれてしまう。走り出した恋に夢中の夏目と裏腹に、けして彼女だけのものにならない間島。触れるたび、募る想いに痛みは増して、夏目は笑えなくなった――。恋の終わりを知ることは、人を強くしてくれるのだろうか? ひりつく記憶が身体を貫く、超全身恋愛小説。”とある。全身全霊をかけた思い、好きという感情。行動はそれを発露するほどのものではなくて、とはいえ、突発的に逆上するような行動となったりもする。”好き”という熱波は体内に膿んで、体を束縛する。好きな人に”好きや”と言ってもらえて、好きな人に”好き”と言える。2人で会えても彼には彼女がいて、恋愛感情のない男と彼に首ったけの女のトラブルに巻き込まれる。白い白い白い絵白地に白い絵。白い絵の具を手に取る。関西出身の女子が東京で暮らして、関西弁でしゃべる。面白さを持ち合わせない関西人の心境がわかり、読んでいて苦笑し親しみを覚える。なんか、好きな本である。なんか、好きな本。わかると思える。「白いしるし」白いしるし (新潮文庫 新潮文庫) [ 西 加奈子 ]
2024.05.15
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読み応えあり。話の展開が、あちこちへと移り、事件そのものから離れていくようで、沢村刑事の日常を切り取っていく話となる、と思うと事件に戻ってきた。そして、事件の真相に迫っていく。作家のことを知りたくなったが、これまでの経歴は出ておらず、北海道生まれ、北海道在住、この本で江戸川乱歩賞を受賞。これしか、わからない。主人公、ノンキャリ警察官の沢村依理子が登場する2作目「数学の女王」が出版されている。読みたい!北緯43度のコールドケース (講談社文庫) [ 伏尾 美紀 ]
2024.05.12
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ガリレオの第十作「透明な螺旋」この”透明な螺旋”が何を意味するものかわからないけれど、ガリレオ・湯川学の生い立ち、過去が明らかにされる。驚きの内容である。本筋である事件と並行して徐々に明かされる湯川学の系譜。今まで知らなかったことと思えない内容で、知ったことに驚きを感じた。事件に関しては犯人が明らかになっていくにつれて、そこに至るまでのエピソードが次々と覆されていく。そのことに圧倒され、東野圭吾が描く内容に恐ろしさを感じ震撼する。良き人がいない内容に暗澹たる気持ちになる。それにしてもスゴイ、すごすぎる小説であった。ここにきて湯川学を白日の下にさらす。その理由はなんであったのか。続く、第11作に期待する。透明な螺旋 [ 東野 圭吾 ]
2024.05.11
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「海をあげる」沖縄のことが書いてあった。沖縄の事件……。沖縄の若年女性出産を調査している。十代で子供を産む……生活の困窮。風俗で働く女性たち。家族からの性被害。沖縄はいいところだね。観光で訪れる人々はそう思う。しかし、事件に巻き込まれたら、そう言えるのか。帰宅途中、米兵に襲われ、殺されてしまった女の子。小学生である。この犯人たちは、何か処分されたのだろうか。沖縄は新兵を訓練するところのようだ。二十歳そこそこの血気盛んな若者たちがたくさんいる。その一部が外出時に無茶をするのだろうが、その標的となった被害者は……。事件が起こった時、日米地位協定の不条理が犯人たちを擁護する。日本の法律で裁けない。ドイツもイタリアも敗戦国で地位協定があったけれど、日本以外の国は自国の法律で米兵をさばけるように地位協定が改定された。日本だけ、不条理な地位協定のままだときく。きいた時から数年がたった。普天間から辺野古への基地移転、距離は東京の三鷹から東京湾と同じとこの本に書いてあった。近くはないけれど、遠くでもない。車を走らせれば、1時間にもかからないかもしれない。それくらいの距離。沖縄の基地移転は沖縄の外へという希望は叶わなかった。沖縄の基地周辺では米軍機の発着により轟音、爆音が鳴り響く。著者が東京で暮らしたときに、この轟音、爆音がないことを知った。東京の人は観光でない沖縄を知ってはいても実感はないのではないだろうか。湘南の海、その海上に飛行機ない。旅客機はない。米軍の飛行区域のため、民間機は飛ばないのだそうだ。米軍がいるから轟音が鳴り響く、米軍がいるから飛行機はとばない。この本とは関係ないが、日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落した事故を思い出した。東京―大阪の飛行ルートは迂回しているときいた。湘南の海の上を飛べたなら、もっと短時間でとべるだろうし、もし、墜落して海上なので、助かる人は多かったかもしれない。本に戻ろう、十代でホストをしている女の子のようにかわいらしい男の子が登場する。この男の子が彼女に何をしたか、何をさせたか。読んでショックであった。本土に住む人たちはこの本を読むべきだと思う。海をあげる [ 上間 陽子 ]海をあげる【電子書籍】[ 上間陽子 ]
2024.05.10
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