再出発日記

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2006年02月12日
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カテゴリ: 邦画(05・06)
月一回、映画好きが集まっておしゃべり会をしている。今日は午後から三々五々やってきて、最終的には老若男女8人が熱心な話をした。本当に映画を好きな人間が思いっきり映画のことを話すことの出来る場所というのは、実はほとんど無い。私の知り合いはみんな私が映画を良く観ていることを知っているので、「今面白い映画ない?」とは聞いてきてはくれる。時には観た映画の感想を交換することはある。しかし、さらにもう一歩突っ込んだ話をしようとすると、「私そこまで真剣に映画は観ていないのに……」という顔をするので、それ以上言えなくなるのである。そのことで失敗もいくつかした。

この会は純粋に自説を30分延々としゃべってもいやな顔はされない。今日は例えば「単騎、千里を走る。」で意見が真っ二つに分かれたけど、しこりは残らない。お互いの意見を尊重するからである。しかも映画音楽に関してはこの人、昔の映画については、ハリウッド映画については、ジョニーデップについては、と、それぞれ得意分野がある人もいて勉強になる。

(というわけで前置きが非常に長くなりましたが)能の話に詳しい女性から 「博士の愛した数式」 についての講義を伺った。まさに講義だった。何しろ資料を五枚もコピーしてきてくれたのだから。

この映画に関しては映画にうるさい全員が絶賛していた。小泉監督は原作を上手いこと換骨奪胎し、わかりやすく奥深い世界をつくっていた。謎として残されていたのは、最終場面である。浅丘ルリ子の義弟(この呼び方についても「おとうと」と言わないのは意味があるだろう)寺尾聰に対する態度は、非常に複雑なものがある。そこに現れた深津絵里、齋藤隆成親子。深津も実は禁じられた恋の体験者である。そして浅丘には無い子供をもうけている。「潔い足のサイズだ」と寺尾に誉められる深津は足を怪我している浅丘にできなかった行動力で寺尾の心を開いていく。浅丘が中尾と深津親子の仲を裂こうとしたときに出てくるのが、「オイラーの公式」である。

私はこの公式の意味がわからなかった。しかし、とりあえず映画としての意味はすっきりわかった。

オイラーの公式を示された浅丘はなぜか深津親子が中尾の世話を再開するのを認める。その場面の間に出てくるのが、中尾と浅丘が事故をする前に見たという能の場面なのである。

能は「江口」という題目である。諸国一見の僧が江口の里を訪れ、西行法師と遊女とのやり取りを思い出す。そこへ里女、実は遊女・江口の君の幽霊が現れ、そのときのやり取りを回想する。西行法師は一夜の宿を遊女に求め、断られる。しかし、それは遊女が出家に対して世捨て人を思う心からで、宿を惜しんだのではないと弁明する。今江口の君はそのときを回想し、仮の宿であるこの世への執着を捨てれば、心に迷いも生じないし、人との別れの悲しさもないと仏教の悟りを開く。そしてその姿は普賢菩薩と変じ、西方浄土に去っていく。そういう「筋」であるが、講師は「後半は言葉では説明できない。」という。たから少し長いと思える能の場面をじっくり見て感じるしかないのである。

映画で使われた能の場面は後半のクライマックスである。地謡は以下の如し。

心となむ人をだに諌めしわれなり
(映画ではここで二人は手をつなぐのである。)
これまでなりや帰るとて、
即ち普賢菩薩とあらわれ、
(能ではここでシテは普賢菩薩になる)
舟は白象となりつつ光とともに白砂の
白雲にうちのりて西の空に行き給ふ
ありがたくとぞ覚ゆる
ありがたくこそは覚ゆれ

オイラーの公式のe(πi)+1=0は調和の0悟りの0でした。
能「江口」はオイラーの公式の「解」だったのです。

だから彼女は「仮の宿」という執着を捨て、木戸を開いたのです。

私はこの説明でものすごくすっきりしました。
言葉では説明できない何かを感じたような気がしました。
0は確かに「無」ではない。博士はこの公式を悲しんだのではない。
やはり愛していたのだ。








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最終更新日  2006年02月13日 00時06分23秒
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