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2006年06月09日
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さて、この小説の大まかな筋はこうである。

一商船の船長が、インドネシア方面の海中で、山椒魚に似た奇妙な動物を発見する。彼は、この動物が人になれるうえに利口なことを知って、真珠採取に利用することを思いつく。そして、この仕事の企業化を、ある実業家にもちかける。山椒魚は、まず単純な海中作業に利用されるが、やがて、人間はさまざまな技術を教え、言葉までさずけて、彼らを高度な仕事につけはじめる。知識と技術を獲得した山椒魚はいろいろな権利を主張しはじめる。やがて彼らは自分たちの住処を確保するために地球の湾岸の大改造に取り組む。どんな軍事力も彼らには適わなかった。やがてほとんどの陸地が海に沈む。

世間話、奇談、学術論文、等々さまざまな体裁をとりながら話が進んでいく。一つ一つのエピソードは独立していて、壮大な大河小説のように読むことも出来るし、単なる人間社会への風刺のように読むことも出来る。

たとえば、山椒魚がしゃべり始めると当然『マスコミ』は殺到する。そのときこういうエピソードがある。ロンドン動物園のアンディは、「天気からはじまって経済危機や政治情勢に及ぶあらゆる話題で、彼と言葉をかわそうとする人々に取り巻かれた。ところが、彼は、そういう訪問者からチョコレートとか、ボンボンをたくさんもらったのがたたって、重い胃腸カタルにかかった。」結局アンディは「人気があだになって身を滅ぼした。名声というものは、山椒魚さえ堕落させるものなのである。」もちろん人類社会を皮肉っているのは明らかである。

山椒魚の最初の『使用価値』は湾岸労働力ではなく、彼らが真珠を探してくる能力であった。山椒魚たちはナイフと「交換」して相当数の真珠を船長と資本家が立ち上げた会社に渡していく。やがてその事業に陰りが見え始めると、資本家は『山椒魚シンジケート』という新しい会社を立ち上げる。株主からそのアイディアを誉められた資本家は山椒魚とは一体どんな生き物なのかと聞かれてこう答えるのである。「それは、わたしも申し上げられませんよ、ヴァイスベルゲルさん。山椒魚がどんなものか、この私に分かるものですか。それにどうして、そんなことを知っていなければならないんです?山椒魚がどんな格好をしているか、といったことまで、神経を使う暇が、いったい、このわたしにありますか?」このくだりを読んで思いだすのは、「資本論」だったか、最初は人間のかわいい子供として味方として生まれ落ちた「お金」であるが、やがて人間を脅かす『怪物』に育っていくというくだりである。(白土三平の『サバンナ』がこのくだりを見事に劇画化しています。)始めペットみたいに可愛かった山椒魚なのであるが、資本家はついにはその正体を知ることなく、育て上げてしまう。それが『怪物』に育ってしまうまで、その正体に気がつくことは無い。

この作品のテーマはだからといって資本経済批判なのではない。チャペックの意図はそこにもあったかもしないが、現代の私たちが読むとき、それは当時は無かった『核兵器』のことにも感じるし、『環境破壊』にも、あるいは未来の『情報社会』のことにも感じる。

私たちもいつの間にか、その本当の姿を知ることなく、最初は奴隷として、やがてペットとして、いつの間にか私たちを脅かす『怪物』として何かを育てているのではないだろうか 。(例えば、小泉、安倍)

『山椒魚戦争』は1936年に出版され、チャペックは1938年チェコで死亡している。チェコがミュンヘン協定をへてドイツ軍のために全土を占領されたのはその翌年1939年のことであった。






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最終更新日  2006年06月09日 18時30分44秒 コメントを書く


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