再出発日記

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2006年10月31日
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2006年9月10日午後4時ごろ、私は韓国の水原駅からソウルに向かう電車の切符を買った。1400W。日本円にすると180円くらい。ゼロをひとつ間違えてはいないだろうか。私は唖然とした。釜山から長い旅をして10日目、私はいつの間にかソウルにそんなにまで近づいていたというのだろうか。

電車は一号線を北上していく。客車も対面式の椅子である。木曜日の夕方、学生や会社員が増えていき、五時を過ぎて九老という大きな駅まで来ると客車はいっぱいになる。隅の椅子に座っていた私は、前の主婦があまりにも私のことを睨むので、おかしいなあと思っていたら老人専用の椅子であった。逃げるように席を離れると、私より少し歳のいった初老の方が優雅にあとを腰掛けた。夕染めの街を電車は走り、工場労働者と学生がどっと入ってくる。恋人は電車に入っても二人だけの世界を濃密に作る。彼らは隣りにはむすっとした冴えない中年がいるが無視する。もはや私は旅人ではない。一人の冴えない異邦人に過ぎない。私は新吉という駅で2号線に乗り換える。もうここからは地下鉄だ。すでに電車は大都会のソウルの中心地に入ろうとしていた。新吉駅のひとつ手前に永登浦駅というのがあった。今から思えば、あの電車から見た景色は、申京淑が16歳の頃鬱屈した思いを抱きながら毎日見ていた景色の一部だったのだろう。

離れ部屋
離れ部屋」申京淑著 訳:安宇植 集英社

長い前振りで申し訳ない。
21世紀のソウルの郊外の下町が、小説を読みながらしだいと私の中で26年前のソウルと重なってきたので、少し旅の思い出も書いてみた。
この小説は田舎からやってきた16歳の少女が、九老工業団地で働きながら、永登浦夜間女子高校に通った四年間を自伝的に描いたものである。時代は1978年から81年。朴正煕大統領の暗殺、80年光州事件があり、徹底的な労組敵視会社運営、それに対する激しい闘争があった。しかし小説の視点はつねに『16歳の私』『17歳の‥‥‥』というものである。文章は散文、あるいは詩的。
たった22日間の旅では見えないものがここにある。
韓国人のイメージは常に前向き、声が大きいというものなのだが、この主人公は恥ずかしがり屋であまり声をださない。
いろんな時代、いろんな生活、いろんな韓国人がある。当たり前のことではある。

肌のにおいがするような文章を読んで、私は次の旅では必ず永登浦駅と九老工団駅で途中下車しようと心に決めたのであった。





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最終更新日  2006年10月31日 23時53分09秒
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