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2007年07月07日
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「相剋の森」集英社文庫 熊谷達也
フリーライターの佐藤美佐子は熊狩りの取材を進めているうちに、いまだ残っているマタギ集団の「山は半分殺(の)してちょうどいい」という想いを知る。それは自然保護団体とは一線を画した想いではある。しかし私は、「邂逅の森」を読んだあとでは、そういうマタギの気持ちはよくわかる。

「山を半分殺す代わりに、おのれも半分殺す、すなわち自分の欲も殺す」神聖な山を前に、時には命を賭けるマタギたちの正直な想いである。

この本は 「邂逅の森」 より前の出版である。そして熊谷達也の「ウエンカムイの爪」の6年後の作である。「ウエンカムイ」で主人公だった吉本が成熟した動物写真家として現れる。「邂逅の森」の富冶と美佐子との思わぬ繋がりも明らかにされる。だから時系列としては「邂逅」→「ウエンカムイ」→「相剋」なのだが、もちろんそれぞれ独立した長編である。私としてはニヤッとしたり唸ったりした。どこに唸ったか、熊谷達也の作家としての文章が数年の間に驚くほど上手くなっている、と言うことに対してである。

「ウエンカムイの爪」を読んだときは「熊の生態等の未知の世界を教えてくれる教養小説の一面と、それでも熊に魅せられていく主人公たちの心の奥を探る小説」「導入の緊張と中盤のたるみ、そして後半部の盛り上がりで、一気に読ませてもらった。処女長編とは思えない上手さではある。」とメモに書いてある。処女長編としては凄いが、荒さが目立った新人作家だった。しかしこの「相剋の森」になると、終始緊張感が持続し、「人と熊のかかわり」と言うテーマを現代を舞台にして描ききっている。全然だれがない。六年間の人の成長をまざまざと見た。しかし、「邂逅の森」にいたり、熊谷達也はさらに飛躍する。多分「相剋」を書いていたころは「邂逅」の構想はほぼ出来上がっていたはずだ。よく文章を練ったためか、構成や文章の上手さもこなれ、結局見事なエンタメになった。そして雰囲気として、いい意味での緊張とロマンがあふれ出した。人はこのようにある時期突然に変貌する。

次回の「氷結の森」もどうやらちょいとばかりこれらの本の内容と被るところがあるらしい。


produced by 「13日の水曜日」碧猫さん






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最終更新日  2007年07月07日 19時45分50秒
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