再出発日記

再出発日記

PR

フリーページ

お気に入りブログ

「有名であること」… New! 七詩さん

『女と男の大奥』1 New! Mドングリさん

台湾旅行。出発~Qス… New! はんらさん

源氏物語〔2帖帚木 … New! Photo USMさん

小早川家の秋★午前十… New! 天地 はるなさん

カレンダー

2010年07月29日
XML

『七人の侍』と現代 四方田犬彦 岩波新書
今年は黒澤明生誕100年。日本映画専門チャンネルでも一年をかけて黒澤明特集をしている。そうこともあり、この本を買ってみたのだが、色々と発見があって楽しかった。

この本の狙いは冒頭の「エピローグ」でうまいこと語っているので、そのまま書き写して本の紹介に代えたい。



 同年のゴールデンウィーク直前に公開されるや「七人の侍」は虚無的な結論を嫌われ、農民を侮蔑したものだと批判される。またその一方、再軍備問題を説くフィルムとして賞賛される。ヴェネツィア国際映画祭における受賞が全てを変える。今日ではこのフィルムは日本映画を代表する名作であるとみなされ、幾重にも栄光の神話に取り囲まれている。物語は世界のいたるところで翻案され、ナショナリズムと抵抗闘争を説く装置として機能している。だが黒澤明が差し出した、虚無に通じる問いかけは、ここでは等閑にされてしまった。
 日本が敗戦を経験して九年後に製作されたこのフィルムに、今こそもう一度照明を当てるべきではないだろうか。誤解と思い込みの上に成立した過剰な栄光をひとまず払いのけ、それが製作された時代の社会的文脈と、延々と続いてきた日本映画の中の時代劇の文脈の交差点に立って、作品そのものを虚心に見つめなおす必要があるのではないだろうか。


冒頭の予告編は私も何度も目にし、耳にした。そういわれてみて、初めて気がつく。「彼らのやさしい心と勇ましい行為は今なお美しく語り伝えられている」しかし、実際の映画は最後の場面、農民たちは侍たちにひどくそっけなかった。一度は契りを交わした志乃も勝四郎を無視し、田植えに忙しい。侍たちの役割は終わった、もうどこにでも行っておくれという態度であり、「美しく語り伝えよう」という態度は微塵も無い。最初の脚本には、偽侍の菊千代を称える台詞、あるいは「侍はな…この風のように、この大地の上を吹き渡って通り過ぎるだけだ…土は…いつまでも残る…あの百姓たちも土と一緒にいつまでも生きる」という官兵衛の台詞があったらしい。しかし、本編ではそれは削られている。なぜか、もうここでは侍の戦いの意義は無視される。ただ、土饅頭の上を風か吹き抜けるだけだ。そこにあるのは、仏教的な無常観のみ、あるいは敗残兵に対する服喪の感情のみである。「我々は何の為に生きているのか」そういう問いであったといってもいい。しかし、この服喪の感情は、その後の「七人の侍」の栄光の中でみごとに無視された。ずっとあった予告編と本編との違和感を今回初めて正体を知ることができた。

その他、プロローグで述べられた問題意識全て面白いもので、日本映画専門チャンネルでは10月に「七人の侍」をするようだが、楽しみである。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2010年07月29日 07時56分52秒
コメント(4) | コメントを書く
[読書(09~ノンフィクション)] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

永田誠@ Re:アーカイブス加藤周一の映像 1(02/13) いまはデイリーモーションに移りました。 …
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
生まれる前@ Re:バージンブルース(11/04) いい風景です。 万引きで逃げ回るなんて…
aki@ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) 日本有事と急がれる改憲、大変恐縮とは存…
北村隆志@ Re:書評 加藤周一の「雑種文化」(01/18) 初めまして。加藤周一HPのリンクからお邪…
ななし@ Re:「消されたマンガ」表現の自由とは(04/30) 2012年に発表された『未病』は?
ポンボ @ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) お元気ですか? 心配致しております。 お…
むちゃばあ@ Re:そのとき 小森香子詩選集(08/11) はじめまして むちゃばあと申します 昨日…
KUMA0504 @ Re[1]:書評「どっちがどっち まぎらわしい生きものたち」(02/26) はんらさんへ 今気がつきました。ごめんな…

バックナンバー

・2024年06月
・2024年05月
・2024年04月
・2024年03月
・2024年02月
・2024年01月
・2023年12月
・2023年11月

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: