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映画を観たあと、この本を手に取った。順番としては、それが正しい読み方であると、読んだ後に思った。そして、既観映画の人は是非、本書を読んで欲しいと思う。
ノンフィクションであるから、当然映画脚本の通りではないのは明らかだ。そうではなくて、(1)映画は様々な登場人物の名前からして違うし(鹿野以外)、第一「バナナ事件」は、当事者の性別も場所も経過も全て映画と違う。(2)映画に描かれていない多くの「事実」があるのは当然としても、映画では描き切れていない重要なテーマもある。(3)しかし、そうであっても、鹿野は正に大泉洋が演じたままのように思えるし、高畑充希のような女性は、結局ここに出てくるたくさんのボランティアの一面を代表していたと思う。だから、映画を観て本書を読むと、とてもイメージが湧いて面白い。
いい映画だったと思う。でも、原作はもっといいのである。
原作は、福祉も医療も門外漢だったフリーライターの著者が、筋ジストロフィー患者を取材したノンフィクションである。患者が自立生活する「シカノ邸」に入った約2年間で見聞きしたことをまとめた。
多くのボランティアたちが鹿野のワガママにも付き合い、体位交換をし、間違えれば命の危険もある痰吸引もし、買物代行もする。その中で彼らをは、何を考えてボランティアをするのか。それは映画でも答えにならない答えを描いていたが、原作は豊かにそれをほぼ550ページかけて描き尽くす。現在の私は福祉ボランティアこそしていないが、「金にならない労働」は週のうち多時間を割いているので、このような「様々なボランティアたち」を見て自分を見つめるきっかけになった。読者はきっと、1人は自分に似たボランティアを見つけることが出来るだろう。
鹿野は、思ったことをほとんど表に出す稀有な患者だった。それでも、死ぬ直前、最期に見せた鹿野のあまりにも優しく冷静な判断(著者の推測)は、この本を読んだぐらいで「筋ジス患者のホントの気持ち」なんて安易にわかったと思っちゃいけない。という気にさせる。
だからこそ、文庫化に当たって大幅に改稿追記された注釈や、中段部分の70ー90年代の鹿野の人生は、きちんと踏まえておくべきものだろう。筋ジス患者が自立生活するまでに、いかに多くの闘いがあったかを知るべきだ。実際、映画では原作内容を半分ぐらいしか使っていない。もっと面白いエピソードはたくさんある。この私でさえ、もう一本ぐらい脚本がかけそうだ。その時の題名はもう決まっている。「こんな夜更けにバナナかよ 青春篇」。
2019年1月11日読了
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