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2023.06.12
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カテゴリ: 観照

西側の廂部分の再現だけに省略されています

東の対は、寝殿が横長であることに対して、南北方向に対して長い建物です。
中央の母屋部分(北側に塗籠、南側に昼御座)、その周囲に廂と呼ぶ室内空間が広がり、南と東にはさらに孫廂を張り出し室内空間を広げています。つまり、大幅に建屋を簡略に縮小再現しています。 (資料1)

この東の対の廂の空間は、 「四季のかさねの色目に見る平安王朝の美意識」 というテーマでの具現化展示です。 装束のかさねの色目を展示する ことは、いわばこの風俗博物館の定番展示品目です。
色々な観点からテーマ展示がくり返されてきていますが、今回は「四季のかさねの色目」ということで、オールシーズンの代表的なかさね色目がをコンパクトに展示されたことになります。

「日本独自の和様の文化が育まれた平安時代には、日本特有の細やかに移ろいゆく四季の彩りをいかに機微に捉えて装束の色目として表現するかという文化」が登場しました。装束の色には、 「染織・織色・かさね色目」の三種類 (資料2)
 染色:白絹織物を染料で染める色彩表現
 織色:染めて置いた色の異なる「経 (たていと) 」と「緯 (よこいと) 」で一枚の
    布を織りあげる色のこと
 かさねの色目 ⇒ 「布」のかさねと「衣」のかさね
  「布」のかさね:一枚の装束で、異なる色の表地と裏地のかさなり具合を楽しむ
  「衣」のかさね:幾枚も重ね着をした装束の襟元や袖口の色のグラデーションや
          コントラストの妙を楽しむ

それでは、四季のかさね色目を見ていきましょう。
梅かさね


                          
                                 紅梅を活けた花瓶のミニチュアが置かれています。

桜かさね
「布」によるかさねの組み合わせの代表的な装束 。表地は白、裏地は赤花。この裏地については、濃色 (こきいろ) (えびいろ) 、二藍 (ふたあい) など諸説があると言います。
「表地の白色に裏地の紅がほのかに透けた様が、夕暮れに仄白く浮かんで見える桜の美しさを象徴的に表しています」 (説明パネルより)


若菖蒲かさね
菖蒲の「根」と「葉」の色の対比を表現したかさね色目。着用時期:旧暦4月~5月

「菖蒲はその音が『尚武』『勝負』に通じることや、菖蒲の葉の形が剣を連想させることから、後世には端午の節句は勇ましい男の子の成長を祝う行事となり、現在へと受け継がれています」 (説明パネルより)

白撫子かさね

撫子 (なでしこ) は夏から秋にかけて咲きます。そこから古名で 「常夏」 とも呼ばれました。
着用時期:旧暦4月~6月

「大和撫子」という言葉があります。手許の辞書ではナデシコの異称です。
「唐撫子」とい言葉もあります。こちらはセィチクの異称だそうです。 (『新明解国語辞典』三省堂)
セキチクも撫子科の花です。

女郎花かさね


                  女郎花は秋の七草の一つです。
このかさねの色目は、表が黄色で裏が青の袿 (うちぎ) を5領重ねたもの。緑味を帯びた黄色を表しています。着用時期:旧暦7月~8月頃。

雪の下かざね


「降り積もった雪の下にも、春を待つ紅梅と新芽を思わせる、生命力あふれるかさねの色目です」( 説明パネルより)
春を待ち望む気持ちをかさねの色目で表現したのでしょう。
着用時期:旧暦11月中旬より春頃まで。

松かさね

常緑の松は長生きの木と考えられ、常磐木 (ときわぎ) でめでたさに通じるとされました。
四季通用で祝いに着る色として使われました。
「千歳に変わらぬ常緑葉の萌黄色の美しさと、雌花の蘇芳色に子孫繁栄を表したかさねの色目です」 (説明パネルより)

五葉松は正月の 子の日の小松引き という行事で使われました。小松から根を引き抜いて健康と長寿を祝う子の日の遊びです。 「ねのび」 (「根延び」を掛ける)とも言うそうです。 (説明パネルより)

脇道に逸れますが、手許の書から、年中行事としての 「若菜・子の日の遊び」の項 を引用して、ご紹介しましょう。
「正月初子の日に、内蔵寮や内膳司から若菜を供じることが『北山抄』に記されている。また実際に野に出て若菜を摘み、小松を引いて楽しむようになった。『河海抄』には嵯峨天皇弘仁四年(813)に正月子の日に内宴が行われたことが注記されている。この日に岳に登れば、陰陽の精気を得て煩悩を除くことができると伝えている。若菜の羹 (あつもの) は春の精気に満ちており、小松引きは長寿を願う信仰を有している。『初音』の巻においては、六條院の明石の姫君の住まいで小松の引き若菜が献上されている。『若菜上』巻においては、玉鬘が光源氏に若菜を贈り、四十賀と正月の子の日を合わせて、いっそうのめでたさを創りあげている」 (資料3)

展示フロアーの北西隅には、 「竹取物語」の具現化展示 が常設されています。
以前にも触れていますが、ここでもご紹介しておきましょう。
かぐや姫が昇天する場面 です。 



まず、午前零時ごろに、竹取の邸の周辺が真昼以上の明るさになります。そこにいる人間の毛穴までみえるくらいの明るさと記しています。そこへ「 大空より、人、雲に乗りて下り来て、地より五尺ばかり上がりたるほどに立ち連ねたり 」という状況が現出します。
内外なる人の心ども、物に襲はるるやうにて、相戦はむ心もなかりけり 」人々は天人と戦う意欲を喪失してしまいます。

立てる人どもは、装束の清らなること、物にも似ず、飛ぶ車一つ具したり。羅蓋さしたり 」という情景です。飛ぶ車を一台伴って来ていて、その車には羅蓋、つまり、薄絹を張った傘がさしかけてあったのです。
竹取のじいさん(造麻呂)は王様と思われる天人と舌戦を交わします。だが、その意地も虚しいものになります。「 立てこめたる所の戸、すなはち、ただ開きに開きぬ。格子どもも、人はなくして開きぬ 」物置部屋に閉じ込められていたかぐや姫は、たちまち開いた戸からするりと出てきます。
かぐや姫は、じいさん夫婦への手紙をしたためます。その後帝への手紙を書き、薬の壺を添えて、頭中将に帝への献上として、天人を仲介に渡します。中将がそれらを受け取った直後に、天人の一人が「 ふと天の羽衣うち着せ奉れば、翁をいとほし、かなしとおぼしつることも失せぬ。この衣着つる人は、物思ひなくなりければ、車に乗りて百人ばかり天人具して昇りぬ 」かぐや姫は、天の羽衣を着せ替えられた瞬間に、人間らしい思いを消失してしまい、昇天するということになります。 (資料4)


王らしき天人の冠が煌びやかです。『竹取物語』の本文には、この天人の王の冠についての描写はなさそうです。
中国の皇帝らが着用した 冕冠 (べんかん) という冠が、日本では古代から天皇の冠として用いられて来たそうです。 孝明天皇の冕冠と称されるものを範として創られている ように思います。 (資料5)





竹取の邸で、 じいさん夫妻が歎く姿や、かぐや姫の昇天を見送る侍女たちの姿 が具現化されています。

序でながら、 『竹取物語』は、かぐや姫の昇天で終りではありません 。その後にじいさん夫妻の歎きを記し、頭中将に託された手紙と不死の薬壺を受け取った帝の嘆きと決断を述べています。帝は大臣上達部たちに一番天に近い高さの山はどこかと尋ねます。ある人が、駿河の国にある山ですとこたえました。帝はかぐや姫の形見をその山の山頂で焼却するように指示したのです。
この物語は、「 その由承りて、兵どもあまた具して山へ登りけるよりなむ、その山を『ふじの山』とは名付けける。その煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ言い伝えたる 」で締めくくられています。
最後は、「富士山」の名前の由来譚というオチになっています。

沢山の兵士が登ったので、 「士に富む」という意味での「富士」 と由来を説く読み方と、不死の薬の壺の 「不死」がいつしか「富士」に 転じたという由来を解く読み方もあるとか。いつしか、「不死」由来説が一般的になったそうです。
なお、『竹取物語』の成立よりも古い『万葉集』には、たえず天に立ち昇る噴煙の姿を眺めて 「不尽」 と詠んだということが語源とする解釈もあるようです。おもしろい。 (資料4)



最後に、この『竹取物語』の具現化展示のところには、 奈良時代以降の装束の変遷 について、簡略に説明したこんなパネルが掲示してあります。興味深い図解資料です。

つづく

参照資料
1)『源氏物語と京都 六條院へ出かけよう』 監修・五島邦治 編集・風俗博物館
2) 当日いただいた小冊子:展示の解説ガイド(令和5年2月~ 展示)
3)『源氏物語図典』 秋山虔・小町谷照彦編 須貝稔作図 小学館
4)『竹取物語(全)』 ビギナーズクラシックス 角川書店編  角川ソフィア文庫
5) ​ 冕冠 ​    :ウィキペディア

補遺
カワラナデシコ(河原撫子):白花3号ポット ​ :「engei net 園芸ネット本店」
カワラナデシコ ​  :「花と緑の図鑑-Garden vision」
石竹(せきちく) 唐撫子 ​  :「季節の花300」
日本服飾史 ​  ホームページ (風俗博物館)
装束の知識と着方 ​  :「綺陽装束研究所」

  ネットに情報を掲載された皆様に感謝!

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)

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Last updated  2023.06.18 16:35:37
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