全865件 (865件中 101-150件目)
「プロローグ」では、前巻で描かれた結界騒動の経緯を振り返ながら、 朔也の提案で『チーム澪人』を『OMG』と改称することが決定します。 第1章「憂いの夏色団子。」では、小春と澪人の間によそよそしさが漂う中、 ミス研1年・谷崎瞳が転居した家で起こる「嫌な感じ」の謎を見事に解明。 掌編「由里子と朔也の午後。」は、小春と澪人の関係を心配する由里子に、 朔也が澪人から直接聞き出した情報を伝え、安心させようとするお話。 第2章「町の拝み屋さんになった頃。」は、櫻井家に嫁いできた若き日の吉乃が、 『妖騒動』等を経て皆に慕われるようになった経緯を、吉乃の友人・西村弥生が語るお話。第3章「祭りの夕べに。」では、澪人が妖の力を手に入れた経緯が明らかになると共に、澪人が小春によそよそしい態度をとった理由も判明し、小春も一安心。「エピローグ」では、澪人が兄・和人に、自分が小春によそよそしい態度をとった更なる本音を打ち明けますが、これは「葵に対する清貴」を彷彿とさせるものでした。掌編「あの夜の続きの、秘密のお話。」は、「あとがき」によると、5巻のラストのその後をえがいたもので、6巻発売時に一部書店で配られた特典書き下ろしショートショートとのことです。 ***『続・京都烏丸御池のお祓い本舗』(平成30年4月12日初版発行)の「CASE3」では、審神者頭となった澪人が大活躍していましたが、今巻(平成30年5月25日初版発行)の「プロローグ」には、澪人が審神者頭となった経緯が丁寧に記されていました。また、この件については、今巻「あとがき」で、望月さん自身も触れられています。 ほんまは、人が多いんは苦手なんやけど、今は人がいっぱいいて良かったて思う(p.187)これは、澪人が小春に語りかけた言葉で、この時点では、小春はそこに込められた澪人の気持ちに気付けなかったようです。ところで、12月27日(火)のお昼にテレビを見ていると、『人混みが苦手です。』という番組が放映されていました。その中で『続・京都烏丸御池のお祓い本舗』の「CASE2」に登場した『狸谷不動院』が、「タヌキだらけのまるで清水寺みたいなお寺」として登場していました。さらに、同じ日に私宛に届いたメールの中に、READYFORからの「狸谷山不動院が自然災害でピンチ!安全な参拝のために修繕へご支援を」という内容のものがありました。次から次へと繋がっていて、何だかとってもスゴイ!!
2022.12.28
コメント(0)
『京都烏丸御池のお祓い本舗』の続編。 「2」ではなく、「続」なのは、シリーズ化は考えていなかったから? 前巻発行からわずか半年での発行は、比較的スピーディーだと思いますが、 『京都寺町三条のホームズ』とは、出版社が被ってますしねぇ…… ***「プロローグ」は、城之内、海斗、朋美の3人が、エネルギー補給について会話するお話。「CASE1『少女の秘密』」は、かつて火災に見舞われた洋館に現れる霊体のお話。「CASE2『私の前世は何ですか?』」は、自分の前世を知りたいという少女と共に3人が『狸谷不動院』を訪れ、海斗が自身の前世に気付きかけるというお話。「CASE3『愛しき回顧録』」は、海斗が『冥界の王子』の頃の記憶を取り戻し、さらにヤマタノオロチとの因縁の対決を経て、真の運命の相手に気付くというお話。「エピローグ」では、『京都烏丸御池のお祓い本舗』に、賀茂澪人と家頭清貴が相次いでやって来て、和やかなひと時を過ごします。なお、「CASE1『少女の秘密』」では、清貴の元カノ・和泉が夫と共に登場、「CASE3『愛しき回顧録』」では、審神者頭となった澪人が大活躍しています。(私が読書済みの『わが家は祇園の拝み屋さん7』より、時を経た時期のお話ですね)「あとがき」で、望月さんも言及されていますが、まさに夢のコラボです!!
2022.12.25
コメント(0)
御池通り裏手の古いビルの2階にある『城之内相談事務所』。 仕事がちっとも来ないので、仕方なく『探偵事務所』を開いていますが、 実は、さらにもう一つの顔がありました。 それは、お祓いを請け負う『京都烏丸御池のお祓い本舗』。 そこに集うのは、神を召喚する力を持つ宇治市出身の弁護士・城之内隆一と 『眷属使い』の高校生・高橋海斗に、高い防御力を持つ木崎朋美の3人です。「プロローグ」は、朋美が城之内の下で働くことになった経緯を、従姉・村上幸枝に語るお話。「CASE1『奇妙な事務所』」は、3人が作家・黒田勝邸で前妻の生霊を祓うお話。「CASE2『火が去る寺』」は、蟲毒に使われていた『呪いの壺』を浄化するお話。「CASE3『契約花嫁』」は、書道家・高坂功一の娘・亜希の異類婚姻譚。「エピローグ」は、朋美が亜希のその後について幸枝に語るお話。「CASE2『火が去る寺』」では、『京都寺町三条のホームズ』の骨董品店・『蔵』でのシーンが描かれ、家頭清貴や真城葵が登場しています。とても嬉しいですね。 *** こうした社寺は、エネルギー補給所なんや。 それは俺たちだけやい。 誰しもにそうなんや。 せやから、よく神社参りをしている人は運が強かったりするやろ? それは、他の人よりもエネルギーの補給ができてるからなんやで(p.164)これは、城之内が朋美に語りかけた言葉。「それは俺たちだけやい。」の部分で、私の思考回路が一旦停止。かなり時間が経ってから、「な」が抜けているのだと気付きました。「それは俺たちだけやない。」でしょうね。手元にあるのは2017年10月15日 第1刷発行のもの。第2刷以降が発行されているのなら、すでに訂正されているかな?
2022.12.25
コメント(0)
今年78歳になった忍ハナ。 60代に入ったら、男も女も絶対に実年齢に見られてはいけないと、 日頃から外見磨きに精を出し、そうでない同年代に冷ややかな視線を投げかける。 それ故、同期会で「ハナ、あなたって嫌われるでしょ」の捨てゼリフを頂戴する。 「忍酒店」三代目の夫・岩造は、スーパーやコンビニの相次ぐ出店による危機を、 伝説の商人・田所が太い筆で「平気で生きて居る」と揮毫した掛け軸を眺めながら、 妻・ハナが打ち出した新機軸によって踏ん張り、長男・雪男へと代替わりを果たした。 折り紙が趣味で、普段から妻を愛していることを気恥ずかしいほどに臭わせている。そんな、岩造が硬膜下血腫で急逝、その『自筆証明遺言』には衝撃の事実が記されていた。「次の者は、遺言者岩造と森薫との間の子である(中略) 右記森岩太郎は、成人した後も認知を請求しない。その旨の覚書は別添」これを機に、ハナたちの生活は一変していくのだった。 ***ここからの展開は、私が予想したり期待したりしたものとは随分異なるものでした。岩造と森薫との関係性については、もう少し別の形のものであれば……ハナと岩太郎とのかかわり方も、何かもう一つピンとこない……そして、雪男の妻・由美については、もうちょっと回収して欲しかった……あくまでも、私の個人的な希望、感想です。なお、本著は450ページにも及ぶボリュームのある一冊でしたが、大きめのフォントサイズを用い、1ページが35字×15行となっているので、とても目に優しく、読み進めやすかったです。
2022.12.25
コメント(0)
「坂下」停留所で朝7:23発のバスに乗る5人の乗客の物語。 バス停で「おとしもの」を拾った乗客は、 翌朝目覚めると、手首から肘にかけて「神様当番」の文字が。 そして部屋には、自らを「神様」と名乗る小柄でやせたお爺さんがいたのです。 *** 1番、印刷会社に勤務する水原咲良は、その仕事や上司の態度に不満を抱いていましたが、ハンドメードのワークショップでの喜多川葵との出会いから、その姿勢を変えていくことに。2番、小学6年生の松坂千帆は、弟・スグルの服装や行動に不満を抱いていましたが、ピアノ教室やうさぎの飼育小屋での出来事を通じて、弟を見る目を変えていくことに。3番、高校2年生の新島直樹は、自身がリア充になれないことに不満を抱いていましたが、ツイッターで知り合ったアザミとの出会いから、自らの行動を変えていくことに。4番、大学非常勤講師のリチャード・ブランソンンは、授業を受ける学生に失望していましたが、バス停に集う高校生、小学生、OLが交わす会話に、自身に足りなかったものに気付きます。5番、社員総勢8名の福永電工社長・福永武志は、普段からの高慢な態度などが原因で、作業員5人が一斉に会社を去り、新たに起業するという事態に追い込まれてしまいます。しかし、事務職の喜多川葵と出かけたストリップ劇場での愛和ネネやディーさんとの出会いや、久し振りのエアコン取り付け作業を機にして、裸一貫やり直すことを決意したのでした。その他、花屋で働くひかりさんや、直樹の友人・中田と沙百合が、複数話で登場していました。ひょっとすると、まだ他にいたかも?***巻末特典の「青山美智子&田中達也 特別対談」は、青山さんのファンなら必見。『木曜日にはココアを』の装画決定の経緯は、感動ものです。私も、『木曜日にはココアを』と『猫のお告げは樹の下で』、そして『鎌倉うずまき案内所』の装画を、改めてじっくりと見直すことになりました。さて、『鎌倉うずまき案内所』の記事の中で、その登場キャラクターの名前(鮎川茂吉)が、『月の立つ林で』の「2章 レゴリス」にも、複数回登場することを書きましたが、『ただいま神様当番』についても、そのことを気にしながら読み進めた結果、『月の立つ林で』の「1章 誰かの朝」に、樋口淳が登場していることを確認しました。それにしても、オンライントークショーに参加されていた方の記憶力は、凄すぎますね。
2022.12.18
コメント(0)
何をきっかけに本著を知ることになったのかは失念してしまいましたが、 目次を見て「読んでみたい!」と、即購入に至ったことだけは覚えています。 そのラインナップは、「第1章 キム・ジヨンが私たちにくれたもの」 「第2章 セウォル号以後の文学とキャンドル革命」 「第3章 IMF危機という未曾有の体験」「第4章 光州事件は生きている」 そして、「第7章 朝鮮戦争は韓国文学の背景である」等々。私の既読作品から始まって、隣国の節目となる主要な出来事が次々に登場。これはもう、読みたくなって当然の一冊でしょう。しかし、実際に読み進めていくと、私が勝手にイメージしていたものとは少々違いが……まず、著者の斎藤真理子さんですが、隣国作品を数多くの翻訳し、2020年に韓国文学翻訳院の韓国文学翻訳賞文化体育観光部長官賞を受賞した方でした。そして、本著はタイトルの通り「韓国文学」を主として扱ったものであり、各出来事については、一部を除いて文学との絡みの中で語られるに留まっています。 *** まず、国土のほとんどが戦場になり、苛烈な地上戦が行われたことだ。 日本の本土は、度重なる空襲や原爆という惨事は経験したが、 身近に敵が潜む中を逃げ惑う地上戦の恐怖は経験していない。 それを味わったのは沖縄の人々だけである。(p.180)これは、日本に生まれ育った人が、朝鮮戦争をイメージするときに重要なこととして、著者が示した一文で、その地上戦の様子は次のようなものだったと言います。 占領者がいつ入れ替わるかわからない日常の中で、 人々は相互に監視し合い、白か黒かを常に問われ、中間は許されなかった。 緊張の連続だったが、 しかし何にどう緊張したらよいか見当がつく人は少なかっただろう。 多くの人は、わけもわからないまま書類にハンコを押したり、 動員されて集会に参加して歌を歌ったというだけで、 不条理な死に追い込まれた。(p.186) 誰が敵で誰が味方か区別が困難な状況の中で、 子供・女性・老人までもが敵と見なされ、集団的に殺された。 同時に、密告と密告返しの連続の中で、私的な報復としての殺人も多く起き、 地域のコミュニティはずたずたになった。(p.188)しかも、この戦争はいまだ休戦状態で、終結していないのです。このことが、隣国に暮らす人たちのメンタリティや行動に現在も大きな影響を与えていることは、想像に難くありません。何かがスッと腑に落ちたような気がしました。
2022.12.17
コメント(0)
古ぼけた時計屋の端に掲げられた「鎌倉うずまき案内所」の看板。 矢印に従って外階段を地下へと降りていくと「はぐれましたか?」の声が。 そこには、双子の爺さんとアンモナイトがいて、薄い水色の甕を覗いた後に、 「困ったときのうずまきキャンディ」を一つプレゼントしてくれるのです。 ***「2019年 蚊取り線香の巻」は、退職思案中の出版社勤務・早坂瞬と上司・折江のお話。「2013年 つむじの巻」は、かつて歯科衛生士だった広中綾子が息子の進路で悩むお話。「2007年 巻き寿司の巻」は、田町朔也との結婚を控える中学校司書教諭・日高梢のお話。「2001年 ト音記号の巻」は、中学3年生の園森いちかと乃木君のアオハル物語。「1995年 花丸の巻」は、劇団「海鴎座」を主宰する劇作家・鮎川茂吉のお話。「1989年 ソフトクリームの巻」は、「浜書房」を営む浜文太のお話。2019年から1989年へと時代を遡っていく各話の中には、黒祖ロイドや紅珊瑚など、しばしば顔を見せるキャラクターもいて、夫々の人生の歩みが味わい深いです。「書き下ろし短篇 遠くてトーク」は、双子の爺さん・外巻と内巻とのやりとり。「平成史特別年表」では、こっそり登場していたキャラクターたちの姿も明らかに。 *** 「私もさんざん言われたよ。色気がないとか、下品だとか、ブスだとか、若くないとか。 でもこれが私なの。この私をいいと思ってもらえなかったら、ぜんぜん意味がないの。 審査員の好みに合わせて作り上げたものがたとえまぐれで認められたからって、 そのあと続かないよ。そんなの自分じゃないんだもの」(p.312)珊瑚が茂吉に言った言葉です。確かに、正しいです。 「違うよ、文太さん。 何かを残すためじゃなくて、この一瞬一瞬を生きるために、 私たちは生まれてきたんだよ。生きるために生きるんだよ」人魚が文太に言った言葉です。心に染み入ります。 ***先日、青山美智子さんのオンライントークショーに参加した際、『鎌倉うずまき案内所』と『ただいま神様当番』に登場したキャラクターが、『月の立つ林で』の中にも登場しているという話題が出ていたので、探してみました。確かに、本作のキャラクターは「2章 レゴリス」に複数回その名前がありました。『ただいま神様当番』の方は、近々読書予定なので、その際に探してみます。
2022.12.11
コメント(0)
「プロローグ」では、和人と映画に出かけた小春がコウメに感想を伝えます。 そして、和人は澪人に小春への想いを再確認するのでした。 第1章「太古の森と、朝露のしずく。」では、澪人率いるプロジェクトチームが、 結界の祈祷実行に向け、鞍馬にある三善酒造の保養所旅館で合宿を行うことに。 その前に、朔也はコウメに謝るため、小春と共に『辰巳稲荷』へ。 帰途、『さくら庵』に寄ると、そこには宗次朗と打合せ中の姉・八雲がいました。 合宿当日、貴船神社から鞍馬寺を経て宿舎へ到着すると、澪人の講義が始まります。 そして夕食後、屋外で対峙した太古の妖を、澪人が小春の助言で退散させることに成功。第2章「飴細工の結界と隙間に入る魔。」では、1回目の結界の補強が大成功。澪人は、陰陽師関西本部長から直々に、次期本部長候補者にと告げられます。一方、小春は度重なる自らへの嫌がらせの犯人を、紆余曲折の末に突き止めます。それは、1回目の祈祷で暴れ出した『魔』が引き起こした出来事でした。第3章「蛍火に見る夢。」では、朔也が由里子の協力を得て封印解除を行うことに。一方、澪人は小春と共に、約束していた下鴨神社の『蛍火の茶会』に出かけますが、母親からの電話で家に戻ると、和人が『魔』に取り憑かれ苦しんでいました。その『魔』は澪人へと乗り移りますが、小春が『見固め』を行い消失させたのでした。第4章「つながる想い。」では、『見固め』を行った翌朝、小春が目覚めると既に11時。プロジェクトチームによる2回目の祈祷開始予定時刻を大幅に過ぎていました。そして、前世のこと、和人との関係を語り、お互いの気持ちを確かめ合う澪人と小春。その頃、宗次朗は杏奈と共に結界補強コースを祈祷して回っていました。そのSNS投稿を見た多数のファンたちが同じように回ることで、結界は補強されたのでした。「エピローグ」では、神泉苑で若宮が安倍晴明と言葉を交わし、コウメを三尾に。そして、櫻井家には関係者が集まって宴会が行われ、澪人と小春が交際を報告したのでした。 ***望月さんが「あとがき」に記されているように、これまでのお話は今巻で完結しています。それでも、読者の期待に応えて、シリーズを続けてくれることは、本当に嬉しいですね。それにしても、最後は宗次朗が全部持って行ってしまいましたね。本当にカッコイイです!それでは最後に、今巻で心に残った箇所をご紹介します。まず一つ目は、こちら。 仕事を上手くいかせるためには、 プライベートをなおざりにしてはいけないということなのだ。 何もかも忘れて、自分の仕事に逃げられたら、どんなに楽だろう、 と思うのだが……。(p.12)全く、その通り。「ほんま、厄介やね」という澪人のつぶやきに、「ほんまやね」と語りかける自分がいました。二つ目は、次の箇所。 鳥の意識を覗き見た瞬間、自分は『信じられない』と思ったのだ。 それなのに、その切り取った映像だけで真実と決めつけて、 自分の感覚を無視してしまった。 鳥が見たものは事実だが、この事件の『真相』とは違っていたのだ。 一部だけを見て、全体を決めつけないようにしよう。 自分の感覚を大切にしよう。(p.167)これも、全くその通り。しかしながら、それが出来ていないことが何と多いことか。「自分は全てを知っているわけではない」ことを、常に念頭に置いておかなければ。そして、「自分の感覚」をより確かなものへと磨き上げていかなければ。
2022.12.08
コメント(0)
明治の元勲で、総理大臣も務めた松方正義の三男として生まれ、 エール大学で博士号を取得後、父の秘書官として働き、 神戸川崎財閥の創始者・川崎正蔵にその才覚を見込まれて、 川崎造船所の初代社長となった松方幸次郎。 彼は、日本に西洋美術専門の美術館を創設すべく、 莫大な私財を投じてコレクションを作り上げる。しかし、金融不安による業績悪化の責任をとって社長の座を退くと、国内に持ち帰られた作品は売却されて散逸。また、ロンドンの倉庫に保管されていたものは火災で焼失し、パリにあったものは第二次世界大戦後に行方不明となっていたものの、戦後に発見され、フランス政府に接収されていた。松方が鬼籍に入った翌年、内閣総理大臣・吉田茂は、ゴッホ、ルノワール、モネ等、数百点もの著名画家の名作の返還に向け動き出す。そして、コレクション蒐集に際し松方に協力した日本を代表する美術史家・田代雄一が、コレクション返還のための代理人となってフランスに赴くが、旧友・サルとの交渉は、その開始から思うように進展しない。しかし、元川崎造船所社員・日置釭三郎からコレクションのこれまでの経緯を聞かされ、気持ちを新たに粘り強く交渉を続けた田代は、遂に『寄贈返還』を成し遂げたのだった。 ***ボリュームと読み応えがある作品で、読了にはかなりの時間を要しました。作品としての色合いは『リーチ先生』に近いかな。そして、日置釭三郎の物語がとってもイイですね。巻末に掲載されている前国立西洋美術館館長・馬淵明子さんによる「解説」も秀逸です。
2022.12.04
コメント(0)
「プロローグ」では、小春が夢で見た詠み人知らずの歌に思わず涙します。 そして、朝の食卓では京都で最近嫌な事件が続いていることが話題に。 第1章「抹茶ケーキと、花の有平糖。」では、高校2年生に進級した小春が、 愛衣と共にミステリー研究会に入部、朔也や由里子も部室に顔を出すように。 陰陽師の血を引く由里子と愛衣に、小春は澪人に失恋したことを打ち明けます。 その頃、賀茂家には、澪人が『審神者(さにわ)』に選ばれたとの知らせが届きます。 そしてその夜、櫻井家で行われた小春の誕生日会には、コウメや若宮も姿を見せます。 そのことに心を乱した澪人に、宗次朗は「紫桔梗の飴細工」を手渡し、語りかけるのでした。第2章「お知らせと小鈴の落雁。」では、澪人が前世の記憶から小春に取るべき態度に苦悩。しかし、澪人は『ミス研』で話題になった異変を確認すべく、小春と共に出かけます。そして、そこに現れた精霊の姿と、小春が見た白日夢の中で陰陽師が語った言葉から、安倍晴明が京に張った結界が崩れかけていることに気付いたのでした。第3章「涙のくずきりソーダ味。」では、澪人が事態を解決すべく自身のチームを結成。メンバーは澪人、小春、由里子、朔也、愛衣で、コウメも協力に駆けつけ、上賀茂神社、銀閣寺、八坂神社、松尾大社、金閣寺の5か所に分かれ祈祷することに。そんな時、小春は和人に映画に誘われ、そのことを宗次朗に相談するのでした。第4章「水晶の想い。」では、杏奈がテレビのトーク番組でおねだりしたデートを宗次朗が快諾。一方、小春は昼寝をして前世の夢を見ますが、宮様やその友人、左近衛大将が登場。宮様に仕えた日から左近衛大将との結婚、そして帰ることのない人になった日までを振り返り、彼への本心を認めることを恐れ、傷付け続けたことを激しく後悔しているのでした。第5章「神のみぞ知る午後。」では、和人と澪人が小春との関係について言い争いに。翌日、和人は映画に出かけ小春に交際を求め、澪人は陰陽寮本部長宅を訪ねたのでした。 *** 『美味しいものは心を救う』というのは、宗次朗がよく言っている言葉だが、 まさにその通りだ。 暗い気持ちを引っ張り上げてくれる力がある。 今後も、人生において、どうしようもなく落ち込んでしまった時は、 無理してでも最高に美味しいものを食べるようにしよう。(p.172)食べることは大切ですね。私は、ルフィや『カリオストロの城』でのルパンのことを、すぐに思い浮かべてしまいます。
2022.12.02
コメント(0)
「プロローグ」では、澪人に振られ、自分の力を失った小春が、 風邪で三日間寝込んでしまいます。 第1章「梅花の香りと豆大福。」では、初演映画で主役に抜擢された杏奈が、 監督との不倫疑惑で窮地に追い込まれ、『さくら庵』へと緊急避難しますが、 宗次朗から、自ら行動することを強く促され、東京へと戻っていきます。 一方、小春は和人に誘われ下鴨の家へ行き、杏奈・和人・澪人の母・繭美と対面。 しかし、思いもよらず出会った澪人から、和人との交際を非難する言葉を浴びせられます。 そんな時、弓道部の安倍由里子が『コウメ』からの言葉を伝えてくれたのでした。 第2章「水中花の涙。」では、澪人が小春の力が失われた原因に気付きます。朔也は『密教僧』の流れを汲む三善家の末裔で、『祓い屋』として活動していたのです。小春と澪人は、『コウメ』の助けを得ながら、朔也に封印解除を行わせますが、その際、小春は朔也の苦難の日々を知ると共に、彼に亡き母からの言葉を伝えたのでした。第3章「桜と船出と。」では、朔也が三善家について語り、和人が澪人に恋敵宣言。澪人は前世で左近衛大将だった頃の想いを振り返り、和人は小春を誘って丸山公園へ。そして、澪人は櫻井家を訪ね、吉乃からあのオルゴールのシリンダーを預かったのでした。そんな時、テレビで杏奈の記者会見が放送され、宗次朗はそれを浅草で見ていました。第4章「椿餅とさくらマカロン。」では、澪人が前世での玉椿姫との日々を振り返ります。結婚後、姫が自分を受け入れてくれないもう一つの理由を知った時の衝撃。しかし、目の前に現れた若宮からは「あなたは、何も学んでいないのですね?」の言葉が。そして小春も、前世で左近衛大将に嫌われようと振る舞った日々の記憶が蘇ってきたのでした。 ***小春と澪人、そして玉椿姫と左近衛大将の関係が、次第に明らかになってきました。まさにファンタジーですね。
2022.12.02
コメント(0)
「プロローグ」では、東京に住む小春の両親が祇園の櫻井家を訪れ、 吉乃や宗次朗らと共に、楽しく年末年始を過ごします。 そして、小春の前にあの管狐が現れ『コウメ』と名付けられたのでした。 第1章「椿の回顧録。」は、小春が賀茂家で澪人の祖父・吉雄や兄・和人と対面、 自分が前世で『玉椿』という「三人目の斎王」だったことに気付くというお話。 小春は若宮と触れ合うことで、宮様に仕えた波乱万丈の生涯の記憶が喚起されたのでした。 第2章「課題と業と雪うさぎ。」では、ネット上で「妖情報」を募る『祓い屋』について、澪人と宗次朗が様子を探りに出かけますが、その力は圧倒的で、取り逃がしてしまいます。一方、三善朔也は、何かと小春に接近し、その距離感を縮めてくるのでした。第3章「水神様と陰陽きんつば。」では、引越後、家族に病気や怪我が絶えない女性宅に、澪人と小春が出向き、井戸がお祓いもせずに塞がれていたためと原因を突き止めます。一方、宗次朗は元カノでイラストレーターの八雲が開く個展に出かけるのでした。第4章「椿の花が落ちるころ。」では、小春がバレンタインデーに澪人に告白するも撃沈。さらに、前世で失職後、左近衛大将の妻となったことで神通力を失った記憶が蘇ります。そして、義理チョコを渡した三善朔也からは、突然の額へのキス。しばらくして、小春は特殊な能力が失われてしまったことに気付くのでした。 ***前世の記憶が、徐々に明らかになってきました。小春を巡る澪人と和人の関係や宮様の立ち位置も、やがて判明するのでしょう。そして、気になるのは、三善朔也と『祓い屋』、さらに弓道部の美女・安倍さんも。ところで、小春の行動も、三善朔也に劣らずかなり積極的なものですね。
2022.11.30
コメント(0)
「プロローグ」では、祖母のような拝み屋さんになりたいと思った小春に対し、 吉乃や宗次朗の反応は薄いものでしたが、愛衣は修行のサポートを申し出ます。 そして、第1章「迷いの夜に行燈を。」で、小春と愛衣が『空也の滝』で滝修行。 小春は老神主から「リリヨウ殿によろしくお伝えください」と声をかけられます。 その帰路、女性にまとわりつく黒い影を祓ったため、生霊に取り憑かれた小春。 吉乃は、それを祓うと共に、拝み屋稼業ついて優しく説き聞かせるのでした。一方、澪人の兄・和人から、弟の様子がおかしいと聞いた宗次朗は、上賀茂の家へ。九死に一生を得た後も自らに残された力について、黒龍から道標となる言葉を得られず迷走を続けていた澪人に、宗次朗は自らの「芯がコンニャクになり代わった経験」を語り、吉乃から預かった新作の和雑貨「鳥籠形の行灯」を手渡したのでした。 第2章「祭りの騒ぎと、抹茶栗大福。」は、小春の通う学徳学園文化祭『楓祭』のお話。小春のクラスの『甘味処』は大盛況、澪人も弓道部で大活躍。そして、『オカルト研究会』で行われた降霊会で起こったトラブルも、宗次朗が即解決。そんな時、小春の前に姿を現したのが、同学年の三善朔也でした。一方、小春が「拝み屋」を目指すと知った澪人は、住み込みで家庭教師をすることに。 第3章「お香とサインとオルゴール。」は、若き日の吉乃を描いたお話。今も『最優秀作品展示室』に残る卒業記念作品『からくりオルゴール』は、吉乃と、彼女が想いを寄せていた東堂周平との共同作品でした。そして、そのオルゴールの5曲目のシリンダーは、澪人が使う部屋の押し入れにありました。澪人から預かったシリンダーに触れた小春は、吉乃の恋の行方を知ることになります。第4章「森羅万象のからくり。」では、吉乃の昔馴染み・大谷が『さくら庵』を訪ねてきて、インターネットで除霊を請け負う祓い屋に「管狐が憑いている」と言われたと澪人に相談。翌日、小春は澪人に伴われ伏見の大谷邸を訪ね、管狐から色々なことを教えてもらいます。その後、管狐は気配無く忍び寄った祓い屋に滅されるも若宮が救済、白狐として辰巳稲荷へ。小春は吉乃から祖父との馴れ初めを教えてもらい、澪人は賀茂の家へと帰って行ったのでした。 *** 「小春ちゃん、良いと言われることを伝えたとき、 こう言うてくる人は割とたくさんおります。 そういう時は、決して否定せずに、 『そうですね、あなたはそうやと思います。 そやけど、この話はそんなあなたにも何かがあった時に、 役立つかもしれへんから、心の片隅に留めておいてくださいね』 と言うてあげてください」(p.136)これは、澪人が小春に向けて話した内容に対し、「自分はそんなことをしなくても大丈夫だけど」と否定した宗次朗を脇目に、零人が小春に言った言葉。イイ受け流し方ですね。
2022.11.27
コメント(0)
先日、本屋さんに立ち寄ると、店頭にサイン本が。 よく見ると、それは青山美智子さんの新刊。 青山さんは、今、私が最も注目している作家さん。 早速購入して、表紙を捲ると、 「ありがとうございます 青山美智子」のサインと共に、 ボールで戯れている猫が描かれたスタンプが押されていました。とっても、嬉しい!! ***「一章 誰かの朔」3か月前に看護師の仕事を辞め、現在就活中の41歳・朔ヶ崎怜花は、ポッドキャストで、タケトリ・オキナの番組『ツキのない話』を聞くのが日課。弟・佑樹が隣家に住む樋口さんの飼い猫を預かることを引き受けたため、その世話もしている。佑樹は、神城龍が主宰する劇団ホルスの劇団員で、次の舞台での主役抜擢が決定。一方、勤務する病院で看護師長候補だった怜花は、新人育成で自信を無くし退職・失業中。そんな怜花が、ある日ハンドメイド通販サイトで「朔」と名付けられた指輪を購入。そして、指輪の作者「mina」とのメールのやり取りや、樋口さんが語った飼い猫を預けた理由、そして佑樹の頑張りの様子に、怜花は、リセットという新しいスタートを切ることを決意するのだった。 「二章 レゴリス」大学祭で、てっちゃんとコンビを組んで出演したライブでの高揚感が忘れられず、お笑い芸人になるため8年前、22歳で青森から上京してきた本田。養成所で知り合った朔ヶ崎佑樹と「ポンサク」を結成し、コンビ解散後はピン芸人として活動。しかし、思うように仕事は増えず、契約社員として宅配便のドライバー業務にも携わっていた。バイクショップで偶然出会った佑樹が、次回公演で主演することを知ってショックを受け、旧知の企画会社社長に頼まれた仕事をこなすもくたびれ損に終わって、意気消沈。しかし、帰省した青森で再会したてっちゃんの言葉に背中を押された本田が、ツイッターで前向きツイートを送信すると、貴重なフォロワー・夜風から「いいね」が付いた。「三章 お天道様」東京のはずれで二輪自動車の整備工場を構える高羽は、6月に突然結婚&妊娠宣言をした24歳の娘・亜弥が、翌月福岡へと旅立ってしまい、10月には、妻・千代子も娘の世話に行ってしまったため、独り暮らしの日々が続いていた。今は、取引先のバイクショップ従業員・朔ヶ崎が教えてくれたポッドキャストを聞くのが楽しみ。そんな時、娘の夫となった大手電機メーカーSEの内川信彦が、東京出張中に福岡土産の醤油を手にやって来て、アイパッドやパソコンの不具合を直してくれる。しかし、2人の間で会話が弾むことはなく、信彦は早々に立ち去ってしまった。翌日、通販サイトで購入した荷物を届けに来た宅配担当者・本田の仕事ぶりに胸を熱くし、千代子から信彦来訪の裏話を聞かされた高羽は、信彦との新しい関係の始まりを予感する。2日後、亜弥の陣痛が始まり、その最中の亜弥自身から感謝の電話に涙が止まらない高羽。翌朝には、千代子から女児誕生の知らせが届いたのだった。「四章 ウミガメ」逢坂那智は、ポン重太郎がツイッターで面白いと言っていたポッドキャストの『ツキのない話』を聴くようになっていた。那智は、中学生の頃に父が出て行った後、自分を嫌う母と二人暮らしを続けていたが、高校卒業後自立しようと中古のベスパを購入して「夜風」と名付け、その愛車に乗ってウーバーイーツの配達のバイトに励んでいた。そして、配達で神城迅の家に行ったことを契機に、迅の父・龍の劇団の内職を手伝うことに。しかし、母にバイトがばれ言い争いになった那智は、バイクで転倒、入院することになるが、それを知った母はすぐに病院に駆け付け、娘を抱きしめたのだった。動かなかったバイクも、迅から依頼を受けた佑樹が引き取り、高羽が修理して復活した。「五章 針金の光」「mina」の名でハンドメイドアクセサリーの作製・販売を行う北島睦子は、自身の本の出版が決まると、自宅近くに借りていたアパートで過ごすことが一層増えた。出版の参考にと、切り絵作家のリリカが開く展示会を訪れた睦子は、自分と同じ悩みを持ち離婚に至った彼女から、今も元夫や息子に会えない辛さを吐露される。そして睦子が、ポッドキャストでタケトリ・オキナが語っていた月の話をすると、リリカは、神妙な顔つきで瞳を泳がせたのだった。翌日、目薬と間違えアロマオイルを点眼してしまった睦子に、義母から電話がかかってくる。義母が教えてくれた救急医療相談窓口に電話すると、相談員の朔ヶ崎は落ち着いて症状を確認し、すぐに受診できる眼科を教えてくれた。睦子が、眼科に駆けつけてた剛志と共に帰宅後、ポッドキャストを聴き始めると、タケトリ・オキナが自分自身のことについて語り始めたのだった。 ***構成としては、『木曜日にはココアを』や『猫のお告げは樹の下で』と同様、様々なキャラクターが、5つのお話の中で様々に関わり合いながら、次々に物語が紡がれていきます。青山さんの作品は、初読の知識を頭に入れてから、2度目を読み直すのがとても楽しいですね。
2022.11.23
コメント(0)
「プロローグ」は、4か月ぶりに東京の実家に向かう櫻井小春が、 京都祇園での日々を振り返るもので、第1巻のお話をごく手短にまとめたもの。 そして、第1章「甘酸っぱい涼菓と、想いの裏側。」では、実家に帰った小春が、 京都で生活を続けたいとお願いするも、両親が断固反対の姿勢を崩さないため、 自分が外に出られなくなった理由を、感情的に強い言葉で言い放ってしまいます。 翌日、自身の行動を後悔する小春に、杏奈は自分が宗次朗から言われたことを伝えます。 そして、少年時代の父の思いに気付いた小春は、昨日のことを両親に謝罪するのでした。 第2章「塔の上の少女と栗茶巾。」では、小春が京都の私立高に通い始めます。17年前に生徒の投身自殺があり、幽霊が出ると噂の「塔」の掃除当番になった小春は、同級生・水原愛衣らと掃除する最中、この高校の卒業生でもある担任・早乙女典子が、自殺した親友の白川葉子と同じ男性を思っていたことを知ります。さらに、早乙女の話や、澪人が聞き出した愛衣の父の話、小春が葉子から受け取った想いや、龍神の子・若宮の力から、一連の出来事の真相に辿り着いたのでした。第3章「涙の決意と砂糖菓子。」では、宗次朗の書いたお札を持って除霊に出かけた澪人が、それが「神の先遣り」と気付くのに遅れたため、満身創痍で深夜に櫻井家に戻ってきます。澪人は、母親が自分を身籠った際、陰陽師に特別な祈祷をさせたことから短命になると知り、自身の得た力を出来る限り賀茂家のために使い、早く子供を儲けたいと考えていました。そんな澪人の危機を、小春の願いで現れた若宮が、その力を宗次朗を通じて受け渡し救います。 *** 「ひらパー知らないの?兄さんが宣伝しているのに」(p.204)これは、小春と言葉のやりとりする中での愛衣の発言。「ひらパー」は、『京都寺町三条のホームズ(9)』でも登場していましたね。
2022.11.20
コメント(0)
『京都寺町三条のホームズ』シリーズの最新刊を読み終えたので、 予定通り、このシリーズを読み始めました。 今年2月に15巻で本編完結後、9月に完結後を描いた『EX』が発行されており、 当分の間、望月さんの作品を継続して楽しむことが出来そうです。 ***「プロローグ」は、半年前、中学3年生の半ばに、学校に行けなくなった櫻井小春が、東京に住む両親の元を離れ、祇園にある和雑貨店『さくら庵』にやって来るところから開始。出迎えたのは、祖母・吉乃、はとこの賀茂澪人と父の弟で和菓子職人の叔父・宗次朗。小春が学校に行けなくなり、高校進学も出来なかったのは、どうやら血筋が関係している様子。第1章「香り袋と桜餅、秘密入り。」では、安井金毘羅宮で「縁切り碑」に抱き着いたため、具合が悪くなった女性を、吉乃がお祓いで回復させたことから、賀茂家の先祖が陰陽師で、その血筋を引く吉乃は、「祇園の拝み屋」として知られる存在であることが判明。小春は、突然自分の身に起こった不可思議な出来事との関連に気付き始めます。第2章「小さなあゆと、小さな依頼。」では、石田優子と名乗る女性が吉乃に除霊を依頼。亡くなった母親が「帰って来てくれた」と言い出した父親を心配してのことでした。吉乃が父親と面会を終えた後、同行した小春はこの一連の事の真相を知ることになります。石田夫妻の家族愛に触れた小春は、実家に電話をかけることを決心するのでした。第3章「消えたうさぎと水無月と。」では、東京でモデルをしている澪人の姉・杏奈が、『さくら庵』で購入した『タペストリー手ぬぐい』に描かれていたうさぎが消えてから、上手くいっていたことが急に上手くいかなくなったと、吉乃に相談にやって来ます。そして、宗次朗の言葉で自身の行動を振り返った杏奈は、今後の決意を固めるのでした。第4章「続く雨と涙のわけ。」では、小春が一人で辰巳大明神に詣でた際に現れた蛇から、「親からはぐれてしまったので家に連れて帰って欲しい」と頼まれ、神泉苑へと向かいます。そこで姿を変えた幼い龍神に、小春が「人の心の声が聞こえる辛さ」を打ち明けると、自分を愛してくれる人を信じ、自分を信じ、自分のことを知るよう諭されたのでした。 ***『京都寺町三条のホームズ』に比べると、オカルト的要素を交えた、かなりファンタジー色の濃い作品のようですが、そこから伝わって来る、心地良い優しさやほんわかとした温かさは同じ。著者である望月さんの人柄が表れているのでしょうね。
2022.11.13
コメント(0)
副題は「願いを叶えるマキアート」。 前巻から半年足らずで発行されたシリーズ十周年となる今巻は、6巻以来の長編。 京都コーヒーフェスティバルで発生した事件を、美星が解決へと導きます。 3巻で描かれた関西バリスタ大会に登場したキャラも再登場。 ***まずは、プロローグ。初読では、何のことだか全くわからなかったのですが、読み進めていくと、これが結構重要な描写であることに気付かされます。あるキャラクターがとる、不審を招きかねない行動の背景になっているからです。まぁ、それでも、このキャラクターに対する私の評価は劇的に下がってしまいました。もちろん、このキャラクターは、5巻で見せたような行動をとる人物設定なわけですが、それにしても、職場の鍵を預かる人間が、あのような状況を作ってしまうのは感心しません。店の責任者の、この件に関するこの人物への最終的対応は、多分に私情によるものでしょう。結局、事件はこの一件とは全く関係のないところで発生したものであり、また、解決されていくわけですが、エンディングを読んでいても、モヤモヤしたものが残り続け、「仕事」や「職場」に対する意識というものについて考えさせられることになりました。
2022.11.13
コメント(0)
今巻のお話の基軸となるのが、スーザン・フォワード。 彼女自身が、お話の中に登場するわけではありませんが、 彼女が1989年に出版した書籍で初めて使った言葉が、今巻のメインテーマ。 その日本語版の出版経緯は、水島広子さんの著作の中でも触れられています。 ***李奈の住むアパートに、兄・航輝と共に母・愛美が訪ねてきます。早速「小説は家でも書けるでしょ?」と切り出した母親は、これまでも機会ある毎に、娘に実家のある伊賀に戻ってくるよう促していましたが、李奈は、これまで同様、東京で一人暮らしを続けたいと拒否します。そんな李奈に、またしても警察から事件捜査への協力依頼が舞い込みます。南品川の住宅街で、改造ガスガンを使って50代男性・館野良純が殺害された事件では、男性の遺体の胸の上に、芥川龍之介の『桃太郎』が置かれていたのです。さらに、猿に似た70代男性・宇戸平幸之助と、犬一匹、スズメ一羽も殺害されていました。李奈は、芥川の『桃太郎』を繰り返し読み返すと共に、事件現場周辺の家々や館野の職場を刑事と共に訪ね歩き、情報を聞き出そうとします。自治会長・中山義昌、自治会副会長・坂崎湯治、館野の妻・清美と娘・稜楓、犬の飼い主・相葉美月とその息子・弘眞、駒井亮子、日村美枝子、「愛友心望」社員・永西志保美と支局長・有瀧雄造、館野の職場の後輩・渥川忠征、館野が通っていた古書店店主・池端和子、宇戸平の行きつけの飲み屋店主・鯨井等々。残りの紙幅が少なくなり、「このお話は次巻に続くの?」と思いかけた頃に、優佳が、李奈の母親について語った一言を契機にして、事件は解決に向けて一気に動き始めたのでした。松岡さんは、テーマをしっかりと意識し続けながら今巻を書き切りましたね。
2022.11.11
コメント(0)
桜宮サーガ作品群でお馴染みのキャラクターたちが、 これまでにない程、次から次へと登場してファンにはたまらない一冊! になってくれることを期待しながら、読み進めていたのですが…… カスタマーレビューを読むと、同じような思いをされた方が多いようです。 未だ収束を見ない新型コロナウイルスによる脅威ですが、 本作は、それが始まった頃の様子を、現実世界での推移を下敷きに小説化した作品。 ただ、そこに登場するキャラクターの中には、誰をモデルにしたのか一目瞭然のものがあり、 さらに、特定のキャラクターについては、強く誹謗中傷するような表現になっているため、 読んでいて気持ちの良いものではありませんでした。もちろん、『チーム・バチスタの栄光』以来、著者は、「Ai」を基軸に、現行医療行政に対して批判的姿勢をとり続けているわけで、そのスタンス事態に、決して異を唱えるものではありません。ただ、これまでは特定の個人を攻撃するような表現はしてこなかったように思います。このことがきっかけで、読者離れを生まなければ良いのですが……
2022.11.06
コメント(0)
「プロローグ」では、葵と香織が年始に北野天満宮などを巡りながら、 年末年始の過ごし方や、交際相手との価値観の違いについて語り合います。 第1章「うまい話には」では、小松探偵事務所をイーリンが訪れ、 香港の富豪の娘のガイド兼ボディーガードを依頼します。 第2章「近所の有名人」では、京都国立博物館で開かれる『若冲展』を前に、 清貴と葵が、裏寺町通りにある若冲縁の寺・宝蔵寺を訪ねます。 第3章「ミッションスタート」では、清貴らがお嬢様・梓沙をガイドしながら、 祇園の安井金比羅宮、幽霊子育て飴、法観寺矢坂の塔、南禅寺近くの湯豆腐の老舗を、 午後からは葵も合流して、八坂庚申堂、嵐山の『キモノフォレスト』や竹林を巡ります。第4章「アクシデント」では、田所敦子が、自身が所有するブルーダイヤが盗難に遭う前、ダイヤを売って欲しいと何度も訪れた男を見かけたので写真を撮ったと清貴に相談。そして、お嬢様のガイド2日目は、下賀茂神社を訪れた後、大丸京都店に買い物に。しかし、買い物を終えた後、梓沙はワンボックスカーで連れ去られてしまいます。第5章「昔取った杵柄」では、小松がかつて所属していた組織での能力を生かして、PCで各地のカメラに侵入し、ワンボックスカーの行方を追跡。そして、清貴は、梓沙の護衛・君島を伴って、車でお嬢様の行方を追いつつ、今回のセレブな誘拐劇について、事の真相を解き明かします。第6章「支える者」では、『若冲展』の内覧会で、円生が葵と若冲について語り合い、さらに清貴と言葉のやりとりをする中で、自身を見つめ、新たな一歩を踏み出すのでした。第7章「二人の価値観」では、葵と清貴が価値観について語り合い、「エピローグ」では、小松探偵事務所で『お疲れ様会兼新年会』が行われ、ユキや利休、秋人らも集まって、サプライズで円生の誕生日を祝う様子が描かれます。また、番外編「拝み屋さんと鑑定士[彼の胸の内]」は、「あとがき」によると、これまでに何度か登場した賀茂澪人が主人公の『わが家は祇園の拝み屋さん』の13巻に収録されたエピソードを加筆修正したもの。櫻井小春が澪人と共に『蔵』を訪れ、清貴に初めての出会った時のことが描かれています。 ***遂に最新刊まで追いつきました。これで、次からは続きが読みたくても、新刊が出るまで待つしかなくなりました。その間は、先日完結した『わが家は祇園の拝み屋さん』シリーズを順番に読んでいこうかなと思っています。
2022.09.24
コメント(0)
「加賀恭一郎シリーズ」の最新作。 今回は、加賀は裏方的存在で、従兄妹の松宮脩平が前面に出て活躍しています。 *** 汐見行伸は、小学生の娘・絵麻と息子・尚人を新潟県中越地震で亡くし、 不妊治療の末に娘・萌奈を授かるも、2年前に妻・怜子を白血病で亡くしていた。 一方、警視庁刑事部捜査一課の松宮脩平は、金沢の料理旅館の女将・芳原亜矢子から、 末期癌で療養中の彼女の父・真次が、松宮の実父でもある可能性が高いと知らされる。その頃、松宮は、カフェ『弥生茶屋』の店主・花塚弥生が殺害された事件を追っていた。主任である加賀恭一郎の支援を受けながら、カフェの常連客・汐見行伸や、花塚弥生の元夫・綿貫哲彦や、その内縁の妻・中屋多由子らに捜査の手を広げていく中で、汐見の娘・萌奈誕生の裏に思いもかけない事実が潜んでいたことに辿り着くのだった。 ***「なるほど」と唸るしかない展開で、流石に東野さんです。このお話も、いずれ映画化されるのではないでしょうか。
2022.09.23
コメント(0)
青山美智子さんの連作短編集。 [1枚目]ニシムキは、美容院勤務の21歳・ミハルと叔母・時子のお話。 [2枚目]チケットは、ガラスメーカー営業の耕介と中2の娘・さつきのお話。 [3枚目]ポイントは、就活中の大学生・慎とバイト先の先輩・竜三のお話。 [4枚目]タネマキは、元プラモデル屋店主・木下哲と息子の嫁・君枝のお話。 [5枚目]マンナカは、小4の転校生・深見和也と隣のクラスの担任・山根先生のお話。 [6枚目]スペースは、幼稚園児の息子がいる千咲と同じ園に息子が通う輝也のお話。 [7枚目]タマタマは、占い師・彗星ジュリアと地元の同級生ともやんのお話。そして、「ここだけの話」は、タラヨウの樹がある神社の宮司さんによる7人のその後のお話で、本著の全てのお話に登場するのが、ミクジと呼ばれる猫です。『木曜日にはココアを』同様、そのお話のどれもが全てとても優しい。安心して、読み進めることが出来ます。
2022.09.11
コメント(0)
『京都寺町三条のホームズ(6.5)』に続く、ガイドブック第2弾。 これまでのお話の中で、清貴と葵が巡った京都の様々な名所が、 春夏秋冬の季節ごとに、多数の写真を添えて紹介されています。 「ホームズさんが教える豆知識」も、イイですね。 そして、もちろん、今回も8つのエピソードが描かれています。 「第1話 ホームズと白隠禅師 -アニメオリジナルバージョン-」は、 著者の望月さん自らが書き下ろしたアニメ第1話の原作です。 お話の前後に、清貴と葵のやり取りを入れ込んでいるのも楽しいですね。「第2話 骨董店『蔵』と桜の道」は、バイトを初めて1週間の葵と店長・武史が、桜の咲く鴨川沿いを二人で歩きながら、色々と語り合うというお話。「第3話 あの夏の夜の後に……」は、清貴が秋人に「川床」について指南したり、葵の元カレが京都にやっていた時のことを振り返ったりするお話。「第4話 葵がはじめて『蔵』にバイトに来た日」は、家頭家の人々や『蔵』の骨董品紹介と、葵の置かれた状況や彼女のとった行動について、その背景となる心理から清貴が分析するお話。「第5話 秋のたわむれ」は、葵と清貴が「壁ドン」について、「第6話 少し早いクリスマスキャロル」は、クリスマスの過ごし方について語り合うお話。「第7話 葵がはじめて蔵にバイトに来た日 -清貴目線-」は、タイトル通りのお話。「番外編 新選組に想いを馳せる午後-清貴が大丸京都店へ修行に行っている時のお話-」は、『新選組』の映画のメンバーに抜擢された秋人が、新選組について清貴と語り合うお話。山南敬助は、大河ドラマでは堺雅人さんが演じていましたね。
2022.08.21
コメント(0)
村上さんが翻訳した、海外作家によるラブ・ストーリーに、 村上さん自身による「恋するザムザ」を加えた、全部で10の短編集。 各話の後には、村上さんによる解説が掲載されると共に、 「恋愛甘苦度」も示されるという、とてもユニークな構成の一冊。 しかしながら、読み終えるのに随分と時間がかかってしまいました。 翻訳したのが村上さんであっても、元々は英語で書かれた作品なので、 やはり、最初から日本語で書かれた作品とは、根本的に文章の構造が違い、 いつもの感じでスラスラと読み進めることは出来ませんでした。さらに、そこに記されている事象にも、日本の生活や文化との相違が多々あり、すんなりとは頭の中に入って来てくれない……まぁ、これは今回に限ったことではなく、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』や『グレート・ギャツビー』でも感じたことです。 *** 地球を3周したのちにようやく、 猛威をふるったその伝染病はひとりでに終息する。 それまでにはいくつもの村がこの地上から消滅してしまった。 1年間にその病のために死んだアメリカ人の数は、 第1次大戦の戦場で命を落としたアメリカ兵の数よりも多い。(p.176)本著に掲載されている、ローレン・グロフによる『L・デバードとアリエット - 愛の物語』の中の一節。村上さんの解説によると、この伝染病は「スペイン風邪」とのこと。「新型コロナ」は、いつ終息するのでしょうか。
2022.08.21
コメント(0)
「プロローグ」では前巻を受け、敦子が智花と佐田の仲を裂こうとし、 清貴と葵が、春彦の香織に対する気持ちを確認していきます。 第1章「動き始めた歯車」では、葵が『蔵』の2階で『風雅』の絵を見つけ、 佐田が「敦子が智花との仲を裂こうとする理由」の調査を、清貴に依頼します。 第2章「取材と調査」では、展覧会に向けて、葵が円生に色々と訊ね、 小松が清貴に、敦子の前夫・佐藤浩史の調査結果を伝えます。第3章「過去のしがらみ」では、かつて円生が贋作づくりをしていた頃の仲間が、円生の弱点を「清貴」と知らされ、清貴と利休を襲撃しますが、瞬殺されてしまいます。また、家頭邸では葵が展覧会の準備を進めていましたが、そこに現れた神戸切子の坂口が、円生が実の弟のように大切にしていたユキだと、清貴から聞かされることになります。 第4章「光と陰の傷跡」では、贋作づくりの仲間から「お前は所詮、二次創作作家」と言われた円生が自信を喪失し、展覧会開催を断念。円生の心を折ったのが『風雅』だと気付いた清貴は、彼について葵に話します。葵は円生を訪ね、展覧会の招待券を渡すのでした。第5章「たった一人の展覧会」は、円生のためだけに開かれた展覧会のお話。会場に現れない円生の居場所を突き止めた清貴は、自らの思いを思い切り円生にぶつけます。会場に足を運んだ円生は、展覧会開催の許可を葵に伝え、ユキとの再会を果たします。そして後日、清貴は敦子が佐田と智花を引き離そうとする理由を解き明かしたのでした。「エピローグ」では、展覧会成功を祝うパーティーの様子が描かれ、清貴に促された葵が、大学卒業後にサリーの許で学ぶことを決意します。また、掌編「幼馴染との語らい」では、パーティー会場に現れなかった円生と、化野念仏寺で彼を見つけたユキが、2人で語り合います。番外編「二人のクリスマス」は、パーティー翌日の家頭邸で、イチャイチャする清貴と葵の様子が描かれます。 ***「あとがき」によると、今巻は7巻、10巻、14巻に続く区切りの一冊とのこと。ただし、シリーズは、まだまだ続くようなので一安心。私の読書も、最新刊にいよいよ迫ってきました。
2022.08.15
コメント(0)
シリーズ初の巻またぎ前編。 「あとがき」によると、当初はその予定はなかったそうですが、 書き始めると思いの外ボリュームが出てしまい、分冊にされたとのこと。 それだけに、色々なことがしっかりと描かれ、中身の濃いお話となっています。 ***「プロローグ」では、香織が円生を「オッさんみたいな人」と言ったことに葵が驚いたり、サリー・バリモアの英文インタビュー記事を、清貴が葵に翻訳してあげたりします。第1章「船岡山プロジェクトと玄武の願い」では、田所敦子が華道教室の生徒・浅井智花を伴って『蔵』を訪れ、智花の婚約者の素行調査を清貴に依頼したり、『光岡さん』と呼ばれる女性が清貴を訪ねてきて、葵をやきもきさせたりします。そして、梶原春彦がリーダーを務める”京の町をもっと素敵にしたいプロジェクト”に、香織と共に参加することになった葵が、船岡山近辺を『恋人たちの聖地』とすべく、ボランティア活動に尽力するイタリアンレストラン経営者・佐田に会ったり、清貴からアドバイスを受けたりしながら、様々な社寺を巡り歩きます。第2章「絡まり合う縁と過去」では、葵が『アサヒビール大山崎山荘美術館』を訪ねます。そこで、『神戸切子』のメンバーで、仲間から「ユキちゃん」と呼ばれる坂口由貴に出会い、サリーのアシスタントである藤原慶子から、展示会に向けてのアドバイスをもらうことに。そして慶子は、サリーの許で働くことを、改めて葵に勧めるのでした。第3章「梶原家の秘密」では、春彦が献血をした際に自分の本当の血液型を知ったことから、事の詳細を知る兄・秋人が、その事実を春彦に伝えることを清貴に丸投げ。その後行方不明となった春彦でしたが、香織が自転車で探し回り、鴨川沿いで発見。後日、倉科と綾子が春彦を鞍馬の山荘に招き、しっかりと説明をしたのでした。第4章「新たな謎」では、敦子が小松探偵事務所を訪れ、智花と婚約者・佐田の仲を裂いて欲しいと言い出します。番外編「相笠くりすの憂鬱」では、『華麗なる一族の悲劇』に葵が登場しないことに、清貴がクレームをつけたため、くりすがボツ原稿を清貴に見せますが…… ***確かに、色んなお話がギュウギュウに詰め込まれているものの、省いてしまえるところが見つけられない……それ故、これを一冊の中に納め切るのは難しい。分冊となった理由を納得させられました。
2022.08.15
コメント(0)
表紙には李奈の隣に莉子。 清原紘さん自らが描いたものではないのは残念ですが、それでも嬉しい。 しかも、本編を読むと、莉子は二人の子供の母親になっています。 永遠の28歳の岬美由紀とは違い、莉子の周りでは年月が流れていました。 また、お話の中では『万能鑑定士Qの事件簿Ⅳ』が取り上げられたり、 名前だけですが、紗崎玲奈がp.137に、浅倉絢奈がp.246に登場したりしています。 『高校事変』に玲奈が登場したように、『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』でも、 莉子の再登場や、玲奈、絢奈の登場があるかもしれませんね。 ***日本小説家協会の懇親会が開かれていたホテルで大規模火災が発生し、宴会ホールにいた参加者たちのほとんどが死亡。救出されたのはベテラン小説家で車いす使用者の藤森と女性従業員・有希恵の二人だけでした。そして、この火災には放火殺人の痕跡が残っていたのです。救出された二人や、懇親会に出席しなかった小説家たちに対して警察や世間から疑惑の目が向けられるようになり、李奈も同様でした。そして、人気作家・櫻木沙友理から放火犯人の特定に力を貸して欲しいと頼まれると、藤森と有希恵に会うべく、入院中の病院を訪れるのです。ここからは、本著副題の「信頼できない語り手」によって、李奈は翻弄され続けます。懇親会に出席していた部外者、破られたサイン本、沙友理宅への侵入者等々。そんな時、沙友理の紹介で李奈は莉子に会い、以後様々なアドバイスをもらうことに。そして、韓国映画化オファーや出版再契約、KDPなどに目を向けていくと…… ***p.288から始まる、サイン本トリックの説明については、私は一度読んだだけでは全く分からず、何度も読み返すことになりました。動画による解説であれば、瞬時に理解できたかもしれませんね。文章で表現することの難しさを、改めて感じさせられました。
2022.08.12
コメント(0)
今巻の軸となるのは、あの相笠くりすが書いた 『京都探偵事件簿 華麗なる一族の悲劇』です。 『プロローグ』は、円生が小松に探偵事務所2階を間借りさせて欲しいと頼み、 清貴に自らが描いた『夜の豫園』を『蔵』で預かって欲しいと頼むお話。 続く第1章『それぞれの歩みと心の裏側』は、歌舞伎役者・市片喜助が、 宝塚出身の女優・浅宮麗から贈られてきた懐中時計を清貴に見せ、相談するお話。そして第2章『劇中劇の悲劇』は、相笠くりすが『蔵』を訪れ、清貴をモデルにしたミステリー作品を読んでもらうところからスタート。清貴や秋人などが実名で登場していますが、出版の際には変更するとのこと。作品自体はエラリー・クイーンの『Yの悲劇』のオマージュになっています。 ***大富豪『花屋敷家』当主・義春の水死体が大阪港に上がったことを受け、妻の華子、長女・薔子、次女・蘭子、長男・菊男と妻・正子、その間に生まれた息子・菊正と菊次郎、さらに、華子と前夫との間に生まれた異父姉・百合子の8人が住む屋敷を、秋人の兄で警察官の冬樹の依頼で、清貴と秋人が訪れます。屋敷では、百合子のため食堂に用意されていたミルクティーに毒が混入されたり、華子が自室でバイオリンで襲われ、意識が戻らないままだったりと事件が相次ぎます。緻密さと杜撰さが入り混じる状況に清貴は苦戦を強いられますが、義春の研究室の火事を契機に、事件は解決に向けて一気に動き始めたのでした。 ***『エピローグ』では、葵が円生に『夜の豫園』を描いてくれたことへのお礼を述べ、自らが作ったプリンと陶器の湯呑をプレゼントし、展覧会開催のお願いをします。そして、掌編『鏡の法則』では、清貴が円生との関係性について語りますが、もう最後は、いつものごとく葵にメロメロです。 「それって、かつての岡嶋二人先生のような?」 「ああ、岡嶋二人先生の作品も最高でしたね。 お二人が解散してしまったのが残念です。 できれば企画で良いので、 もう一度、書いていただけたらと願っているんですが……」(p.280)エラリー・クイーンについて語っている際の、葵と清貴の言葉です。『クラインの壺』は、私の中では未だに衝撃度No.1の作品です。
2022.08.07
コメント(0)
前巻刊行から、1年3カ月を経ての新刊。 カバーには、猫猫と幼女、そして鏢師が描かれ、 そでには、鏢師と「何かあったら自分の命を最優先に考えてください」の文字。 一方、帯には『彼女の「正体」を知ると9巻から読み返したくなる』との記述が。 そして、冒頭「序話」の内容は、初読ではちんぷんかんぷんなのですが、 今巻を最後まで読み終えた後で、再度読み返してみると、 そこに記されていることの意味合いが、明確に分かるようになっています。 その時、「9巻から読み返したくなる」というわけです。 ***玉鶯の死後、都を離れるわけにはいかない玉袁は、玉鶯の直系に西都を治めてもらうことを望んでいました。該当者は長男・鴟梟(シキョウ)、次男・飛龍(フェイロン)、三男・虎狼(フーラン)。しかし、玉鶯の異母兄弟たちは、無頼漢の長男を廃嫡し、優秀な次男を陸孫の、三男を壬氏の側に置き、政治を学ばせようとしていたのです。公所に隣接する本邸へと拠点を移した壬氏と、一緒に引っ越した猫猫は、玉鶯の妻や、長女・銀星(インシン)、かつて外科手術を施した小紅(シャオホン)、鴟梟の息子・玉隼(ギョクジュン)らと、そこで接することになりました。猫猫は、葡萄酒醸造所で発生した集団病の謎を解決したり、異国娘の頭痛の原因を見極め治療したりするなど、ここでも大活躍。そして、吹き矢で命を狙われた鴟梟の応急処置をすることになってしまった猫猫は、その場に現れた雀に従い、鴟梟、小紅、玉隼らと共に身を潜めねばならない状況に。鴟梟が去った後は、女鏢師に従って、猫猫は小紅、玉隼と共に幌馬車に乗り移動を開始。一方、壬氏はというと、鴟梟を亡き者としようとしたのが虎狼だったことを知り、鴟梟と協力して、西都内に潜んでいる理人国第4王子の行方を追うことを決意します。猫猫たちは、目指す町の手前で、女鏢師が馬車を離れた時、追手に追われることに。猫猫は、そこに現れた護衛に玉隼を託しますが、自身と小紅は町へと連行されてしまいます。宗教建築物が建つ町は、鴟梟に恨みを持つ盗賊の頭領・独眼竜に支配されていました。猫猫が独眼竜たちの夕餉に蛇毒等を混入し場を混乱させると、鴟梟が鏢師たちを伴って登場。そして、盗賊たちを一掃すると、猫猫に事の詳細を語り始めたのでした。その後、西都に向かう馬車の中で、猫猫は独眼竜に襲われることに。それを身を挺して庇った女鏢師は独眼竜を倒しますが、自身も重傷を負ってしまいます。そして、ここから、彼女の波乱万丈の壮絶な日々が語られていくのです。彼女の母親や、『馬の一族』『巳の一族』の存在も明らかにされます。そして、西都の後継者問題は決着し、壬氏と猫猫らは戌西州を後にしたのでした。 ***巻末には、「家系図 楊家 玉の一族」が掲載されているので、これを見ながら、読み進めるとイイですね。もちろん、ここには書かれていない情報も色々あるので、その都度、登場人物の人間関係を整理しておかないと、話の流れについていけないかも。
2022.08.07
コメント(0)
前巻に引き続いての海外編。 今回は、葵がニューヨークで大活躍。 序章『迷える心』では、香織がパースへの短期留学や小日向、店長について語り、 葵がニューヨーク行きの経緯や、清貴への気持ちの変化について語ります。 その契機となったは、上田が「曜変天目」を『蔵』に持ち込んだこと。 葵はそれを見て激しく動揺したのに、清貴は瞬時にそれを再現品と見極めたのでした。掌編『出発前夜』でも、葵の清貴への気持ちは落ち着かず、清貴からの「僕としては、今すぐでもあなたと結婚したい気持ちですよ」という言葉に、「どうしよう」「困る」に近い感覚を抱いてしまいます。葵は、恋する人の才能に嫉妬しているのでした。本編『摩天楼の誘惑』では、葵が好江、利休と共にニューヨークへ。まずは、利休の幼馴染み・一ノ瀬遥香の父が営む和傘店を訪ねます。そして翌日、サリー・バリモアが招いた「キュレーターの卵」たちは、いきなり、彼女の特待生となるための試験に臨むことになります。その中で、葵は持てる力を存分に発揮し、見事3人の特待生のうちの一人に選ばれ、3人で「アーティストの卵の展示会」の一角をプロデュースすることに。一方、サリーは、フェルメールとその贋作師・メーヘレンの展示会に注力。そんな中、清貴が修行の際世話になったトーマス・ホプキンスが現れます。美術界の権威・ホプキンスから、愛弟子であるサリーと篠原陽平とが仲違いした理由を、調べてほしいと頼まれた葵は、会員制の闇オークション会場に潜入します。そして、さらに聞き込みを進め、篠原が所有する「フェルメールらしき絵画」を見ることで、サリーと篠原とが決裂に至った事の真相に辿り着いたのでした。葵たち特待生のプロデュースは、高い評価を得ることが出来、サリーは、どうしても展示したかった絵画を展示することに成功します。そして、サリーは葵にニューヨークでの修業を勧め、そのサポートを申し出ますが、清貴へのモヤモヤした気持ちを吹き飛ばした葵は、清貴の側にいると決意したのでした。そして、掌編『流した想い』では、香織が鴨川河川敷で秋人の弟・晴彦に出会い、互いを慰め合います。続く『エピローグ』では、清貴目線で今巻における葵の感情の推移を振り返ると共に、葵目線で前巻と今巻の海外編の顛末を振り返ります。 ***今巻も、前巻序章の中で秋人が述べた言葉に集約されていきました。登場するキャラクターたちが、お互いを認め合い、競い合い、高め合っていくのがとてもイイですね。
2022.07.24
コメント(0)
今巻は、清貴が京都を飛び出して海外で大活躍。 Introductionでは、葵と共にジウ・イーリンがコマツ探偵事務所に現れ、 彼女の父親が上海で開催するという美術展示会の展示品鑑定を依頼します。 そして、続く序章『まるたけえびすに、気を付けて』で、 秋人の事務所の後輩、紅子と桜子からの相談を速攻で解決すると、 清貴、円生、小松の3人は上海へと飛び立ち、本編『麗しの上海楼』が始まります。 ***イーリンの父、ジウ・ジーフェイが各国から招いた鑑定士たちが集まる上海博物館で、清貴たちは、現在、世界に3つしか残存しない漆黒の茶碗・曜変天目の全てを目にする。上海楼では、イーリンの義母兄、ジウ・シュンエンが、鑑定士たちに曜変天目を披露。しかし清貴は、それが贋作であることを瞬時に見破る。そんな清貴のスマホに、菊川史郎から、ニューヨークにいる葵の写真が送られてくる。史郎は清貴に、美術収集家・高宮が寄託した蘆屋大成の絵画を持ち出すよう要求し、その絵画が、家頭誠司が贋作であることを見破れなかったものだと知らされる。清貴は、葵の身の安全を確保し、祖父の汚名を晴らすべく行動を開始するのだった。 ***その後、清貴は高宮に会い、ジウ氏がファンであるアイリー・ヤンに会い、蘆屋大成の『胎蔵界曼荼羅』『金剛界曼荼羅』という対の作品を目にしますが、次に、蘆屋大成が描いた中国の街並みの絵を目にした途端、事の真相に気付くのです。そして、円生に、葵を救うために蘆屋大成の絵を用意して欲しいと頼むのでした。 「『どうがんばっても、俺はお前にはなれない』って気付いたことが最初かな。 それに対してムカつくというより、 『自分には、どんなにがんばっても決してなれないものがあるんだ』 ってことを悟った。それぞれに役割があるっつーか」(中略) 「俺のブレーンはお前だと思ったら、 自分の出来の悪さとかコンプレックスとかなくなったんだよ。 だから、もし、自分にはどうしても解けない課題があった時は、 俺は迷わずにホームズの見解を聞く。そのことにためらいはない。 それは、ホームズという友達がいる俺の力だと思ってる」(p.60)序章の中で述べた秋人の言葉ですが、これが見事な伏線となって、円生の新たな一歩へと繋がっていくのです。ミステリーの要素も含めて、これまで読んだ中で、シリーズ最高の一冊だと思います。
2022.07.23
コメント(0)
シドニーの情報誌『月刊ジャパラリア(Japaralia)』公式サイトに、 2015年6月から2016年5月まで連載された小説 『12 coloured Pastels ~12色のパステル~』を改題、加筆修正し 単行本として刊行されたものを文庫化したのが本著。 著者の青山美智子さんは、小説家デビューとなる本作品で、 2020年に第1回宮崎本大賞を受賞し、 本屋大賞では、『お探し物は図書室まで』と『赤と青とエスキース』が、 2021年と2022年に史上初の連続2位を獲得したというスゴイ方。 ***マーブル・カフェをひとりできりもりしつつ、栗色の髪の若い女性客に片思い中のワタル家事担当の夫・輝也に代わって、幼稚園に通う息子・拓海のため奮闘する朝美拓海の通う幼稚園で副担任を務めるえな先生と泰子先生泰子先生の高校からの友人で、オーストラリアで新婚旅行を楽しむ理沙理沙が新婚旅行で出会った、結婚して50年の美佐子とその夫・進一郎マスターに勧められシドニーのボタニックガーデンに「緑色を描きに」やって来た優ボタニックガーデンでサンドイッチ屋を営むラルフと、彼の隣室に住んでいたシンディシンディが小学校の課外授業で出会ったグレイス先生と、高校の頃出会った交換留学生マコグレイスと出会い翻訳家となったアツコと、その夫でインテリアデザイナーのマークアツコと幼なじみでランジェリーショップを営む尋子(進一郎・美佐子夫妻の娘)かつて自分の家でホームステイをしていたマコとエアメールを交わすメアリーそして、マーブル・カフェのいつもの席で、そこで働く店員に恋文を書くマコ ***これらの人々が、12の短篇の中で様々に関わり合いながら、物語が紡がれていきます。そして、そのお話のどれもが全てとても優しい。さて、次は本著の続編となる『月曜日の抹茶カフェ』を読むべきか、それとも先述の、本屋大賞2年連続2位の2作を読むべきか……私の読書傾向も、芥川賞の選考結果同様、最近は女性作家の作品を手にすることが、とても多くなってきたような気がします。
2022.07.21
コメント(0)
2016年10月2日から2018年3月25日まで 毎日新聞「日曜くらぶ」に掲載された、小川糸さんのエッセイをまとめた一冊。 ドイツ語の勉強や犬の散歩、買い物や料理等、小川さんのベルリンで生活や、 路上ライブや物々交換システム等、そこに住む人たちの暮らしが綴られています。 「第2章 母のこと」には、お母さんとの関係が赤裸々に記されており、 二人の関係が、一筋縄ではいかないものであったことが伝わってきます。 それでも、色々なことがあって、色々な心境の変化が生じて、 紆余曲折の結果、小川さんが現在のような心境に至ったことが救いです。 *** 月曜から金曜日まで語学学校に通っていると、本当にあっという間に一日が終わり、 一週間が過ぎ、一カ月が終わってしまう。(中略) けれど、そういう生活を送っていると、 あまりに日々が単調に過ぎ去ることに気づいた。 それで、一週間の曜日それぞれに、 自分でご褒美をあげることにしたのである。この後、小川さんは一週間の曜日それぞれのご褒美を紹介していくのですが、これは、なかなかいいアイデアだなと思いました。私も、最近は日々単調に時間を浪費してしまっているように感じていたので、一日一日にメリハリをつけるべく、曜日それぞれにご褒美を考えてみます。 日本では、いつから、「お客様は神様」みたいになってしまったのだろう。 お金を払う側が圧倒的に偉くて、 お金を受け取る側はしもべのようにサービスしなくちゃいけない。 本来、対等であってしかるべきなのに、 サービスを提供する側は、いつ苦情が来るかと戦々恐々として怯えている。(p.137)してくれて当り前、してもらって当たり前。もしそうしてくれなければ、徹底的に糾弾されて当然。この関係性は、日本の至る所で見られます。そして、その関係性は、ますます刺々しさを増してきているように感じます。 人生は双六のようなものだと思っている。 そこまで駒を進めなければ、見えない景色があるんじゃないか、 と信じているのだ。(p.213)確かに。実際にその年齢に達してみなければ、また、実際にその立場にたってみなければ、気付かない、分からないことは、これまでに多々ありました。
2022.07.18
コメント(0)
清貴の修行も、今巻でいよいよ最後。 その修行先は、私立探偵・小松勝也が祇園で営む探偵事務所。 清貴が自身の意向で呼び寄せた円生も加わって、 いよいよ本格的に探偵業に挑みます。 第1章『最初の依頼』では、20年前の高辻家の婿養子・洸一の階段転落事件と、 芸妓・ほの香と舞妓・もも香のストーカー疑惑と幽霊騒動の真相とを一挙解決。 第3章『パンドラの箱』では、祖父が遺した鉄製金庫を解錠する暗号解読の依頼主と、 浮気調査対象女性が通う華道教室の経営者との繋がりを突き止め、その全容を明らかに。一方、清貴は、第2章『矜持の証』では、秋人と共に京都文化博物館と平安神宮を訪ね、そして第3章では、円生と共に清水三年坂美術館を訪ねます。清貴は、平安神宮創建に込められた京都の住む者たちの思いや、七宝焼の作家である並河靖之と濤川惣助の『二人のナミカワ』について語りながら、控えめにではありますが、秋人や円生に心を込めてエールを送るのです。これまでの中で、一番カッコいい清貴でした。 ***ところで、第11巻の中で登場した真夏の永観堂。これを読んでどうしても訪れてみたくなり、先日行ってきました。青紅葉も美しかったですが、中には既に赤く色付いている樹が結構あってビックリ。そして何より『みかえり阿弥陀』の神々しさに圧倒されました。
2022.07.16
コメント(0)
入院中の某大企業重役を狙撃した疑いで警察官に確保された隠舘厄介。 いつものごとく今日子に助けを求めるも、そこに現れた彼女の頭部を銃弾が貫通。 術後、再び姿を現した今日子は、意味記憶を喪失していた…… しかも、執刀医によると、彼女が頭部を撃ち抜かれたのは2度目だという。 忘却探偵が記憶喪失であることを忘れるという事態に、 これは今日子を狙った殺人事件ではないかと、厄介は疑念を抱く。 そして、真実を解明すべく、狙撃手がいたと思われる場所に足を運ぶも、 そこで地雷を踏んでしまい、身動きできない状況に陥ってしまう。厄介からのSOSに反応した今日子は、彼を救出することに成功したものの、探偵事務所のあるビルディングは戦車に砲撃され、無残にも解体されてしまう。そして、自宅に戻った厄介を、白いスーツをまとったブロンドの小男が出迎えた。その男、FBI捜査官ホワイト・バーチは、厄介にこの件から手を引けと言う。狙撃手から逃れるべく沖縄へ飛んだ厄介は、ひめゆりの塔で漫画家・里井有次に出会い、彼女と共に美ら海水族園を訪ねると、その後、沖縄からビルディング跡地へと引き返す。そして、その地下室でギリースーツに身を包んだホワイト・ホースに遭遇。今日子と瓜二つの容貌の彼は、今日子が引退した後を引き継いだ武者だという。 ***この後、厄介とホワイト・ホースのやり取りが続くのですが、忘却探偵の活動履歴を語り聞かせた厄介に、彼は18歳からの今日子の履歴を披露します。そして、彼の真の目的は、彼女を戦場に引き戻すことではなく、自身が「掟上今日子」になることだと打ち明けるのです。そんなホワイト・ホースに、厄介は「あなたは掟上今日子になれません」。そして、次のように述べるのです。 「僕でもなくあなたでもなく、真実は、この文庫自体が、 今日子さんのバックアップだからです - どんな風に本を読んできたかが、その人間を形成する」(p.219)この後、さらに丁寧に、この言葉の意味を説明していくのですが、これが、何ともなかなか良いのです。『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ ~扉子と虚ろな夢~』でも、記憶を失った古書店の店主・康明について、こんな言葉が出てきてましたね。 「自分が持っていた千冊の蔵書、それを片っ端から読んで、 過去の自分がなにを好んで、なにを考えていたのかを学んでいったんです。 康明さんの蔵書はね、あの人の頭の中と一緒だ。 あの人そのものなんですよ」(p.170)さて、『掟上今日子の設計図』に続いて刊行された本著ですが、いったい『五線譜』や『伝言板』はどうなったのでしょう?「あとがき」には、これらの作品名が登場するものの、詳細は不明です。『掟上今日子の忍法帖』が、今年6月には既に発行されているというのに……
2022.07.01
コメント(0)
今巻は、『序章』前に添えられた作者自らの言葉通り、 「前巻からの続き」+「これまでの振り返り」のお話から成る一冊。 『序章』は、円生が預かっていた瓶を『柿右衛門様式のマイセン』と葵が鑑定、 さらに絵を描くことを勧める葵に、円生が2年前の行為を謝罪するというお話。 第1章『天の川と青い星々』は、清貴と葵、清貴の先輩・日野が永観堂を訪れ、 日野が想いを寄せる女性にプロポーズすることを決意するというお話。第2章『月夜の宴』は、清貴が修業をしていた大丸京都店の店長や営業推進部の面々が、清貴と葵の婚約を祝って先斗町のお茶屋でお祝いをしてくれたというお話。第3章『似て非なるもの』は、前巻の掌編『宮下香織の憂鬱』の後日譚。香織と店長・家頭武史の、2人の関係の進展と終息が描かれます。掌編『家頭誠司の憂鬱』は、7巻の第2章『砂上の楼閣』の後日譚。葵に別れを告げた後の清貴の姿を、オーナー・家頭誠司が振り返ります。第4章『円生の独白』は、90頁余の紙幅を費やした今巻の中核となる部分。これまでの全話を通じて円生が絡む部分を、円生自身が振り返ります。第5章『あの頃の想い』は、第1巻の序章『ホームズと白隠禅師』を清貴目線で描き直したもので、第6.5巻でも見られたパターン。『あとがき』の後の掌編『北山デート』は、京都府立植物園や北山通りを歩きながら、清貴と葵が、かつてそこを訪れた頃の二人を振り返るというお話です。 ***今巻の目玉は何と言っても、第4章『円生の独白』。これまでの中でも最高クラスの出来映えのお話で、圧巻です。ところで、第4章を読み終えた後、何気なく本作のアニメ(第1話)を初めて見ました。そして、その後第5章を読み始めてビックリ。さっき動画で見たばかりのお話が、まさにそこで再現されていました!(アニメ第1話では、第2巻の序章『夏の終わりに』のシーンも描かれていました)
2022.06.18
コメント(0)
副題は「シンデレラはどこに」。 今回は、あの『シンデレラ』の原典探しを軸に、物語が展開していきます。 *** お話は、再考ゲラの修正を巡るトラブルを、李奈が解決するところからスタート。 その一件がネットニュースに掲載されると、 李奈のもとには、様々な作家からの相談が舞い込むことに。 その中には、RENという作家との揉め事がありました。2年ほど前に現れたRENは、年間20冊以上の新作を刊行し、そのいずれもがベストセラー。ところが半年ほど前に、その小説は全て他の作家の盗用だとする声がネット上で拡散し、以後、そのブームは失速し始め、20人以上の作家から訴えられるという裁判沙汰に。しかし、同一表現はないために、著作権侵害を問うことは困難な状況でした。一方、李奈のもとには、佐田千重子を名乗る人物から、1週間以内に『シンデレラ』の原典を解明しなければ、身内か親しい人に禍がもたらされるとの脅迫メールが届きます。李奈は誰にも相談できない状況の中で、一人動き始めるのでした。以後、著作権をめぐる問題と『シンデレラ』の原典探しが並行してお話は進んでいきます。特に『シンデレラ』の原典探しについては、かなりの紙幅を費やして記述されており、最終的には「文学テキストマイニングツール」による分析を試みるという展開に。「著作権侵害」と「原典探し」が次第に絡み合っていく様は、実に見事です。 ***前巻は、クローズド・サークルをテーマにした作品でしたが、今巻は、1巻や2巻とも違った新たな展開で、十分に楽しむことが出来ました。私は「テキストマイニング」については、全く知りませんでしたが、色んなことに応用できそうで、とても興味深いものですね。「著作権侵害」については、「あとがき」の中に出てきた『<盗作>の文学史 市場・メディア・著作権』を読んでみようと思っています。
2022.06.17
コメント(0)
古書店・虚貝堂の店主・杉尾康明が亡くなり、本好きの彼の千冊に及ぶ蔵書は、 別れた妻との間に生まれた一人息子・樋口恭一郎が相続するはずでした。 しかし、康明の父・正臣は、その蔵書を古書即売会で売りに出そうと…… 恭一郎の母・佳穂が、その相談に栞子を訪ねてきたところからお話はスタート。 恭一郎は、母に内緒で、古書即売会のアルバイトを3日間することを祖父と約束。 そこでは、彼の通うことになる稲村高校の先輩・扉子も手伝いをしていました。 そして、別の仕事で不在の栞子に代わり大輔が、康明の蔵書売却の件を正臣に話します。 しかし、正臣は恭一郎本人からも同意を得ていると、売却の意思を曲げません。 そして、その3日間に、映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』や樋口一葉の『通俗書簡文』、夢野久作の『ドグラ・マグラ』に関わる事件が次々に発生。それらを扉子が、そして3日目には姿を見せた栞子が解決していきます。さらに、虚貝堂には、栞子の母・智恵子も姿を現して……智恵子は、後継者に何をさせようとしているのでしょう?恭一郎は、どうなってしまうのでしょう?そして、扉子は?そんな二人を、そして母を、栞子は守ることが出来るのでしょうか? ***前巻発行が、2020年7月。随分待たされましたが、興味尽きない展開と安定の筆力に今回も脱帽!今巻登場した『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』は、映画館で観ました。パンフレットは……購入したかもしれませんが、現在手元にないことは確かです。
2022.06.17
コメント(0)
ロシアのウクライナ侵攻が始まる少し前に本著を読み始めました。 その時には、こんなことが起こるとは夢にも思っていませんでした。 そして先日、随分時間がかかりましたが、ようやく本著を読み終えました。 しかし、ロシアによる侵攻は、まだ収束が見えてきません。 本著は、女優・中谷美紀さんの2020年5月1日から7月24日までの日記です。 ドイツ出身で、ウィーン国立歌劇場管弦楽団とウィーン・フィルハーモニー管弦楽団で ビオラ奏者を務めるティロ・フェヒナーと、2016年秋に国際結婚したことから、 近年は、1年の約半分をオーストリアのウィーンとハンブルグで過ごされています。文庫本で460頁余りに及ぶ本著には、オーストリアでの生活が赤裸々に綴られています。住まいとする山荘での庭造りや、日々の食卓やヨーロッパで流行の食事法、夫が前のパートナーとの間に授かった幼少の娘さんとの関り、夫やその周辺の音楽家たちの演奏活動や日々の生活の様子について等々。さらには、オンラインクラスを受講しながら進めるドイツ語学習や、自身の女優としての活動や身体のケアに励む様子には、そのストイックさに感心しきり。そして、人々の気質、考え方、姿勢についてや、日欧それぞれの文化に関する記述には、「なるほど」と唸らされる箇所がとても多かったです。中でも、今現在の社会情勢の中で、とても印象に残ったのが次の一文。 旅をするほど、未知の文化に触れるほど、 自分の価値観のみが正しい訳ではないということに気付かされる。 かつてのインド旅行で学んだことも、 「誰かにとっての正義が他の誰かにとっての正義とは限らない」 ということだった。(p.133)さらに、ドイツ映画「帰ってきたヒトラー」についての次の記述には、色々なことを、深く考えさせられることになりました。 コメディーでありながら今日の右傾化する世の現実をシビアに映し出し、 かつてのナチによる侵略や大虐殺もヒットラーひとりでは決してなし得ず、 民衆が求めたからこそヒットラーがヒットラーたり得たことを 痛烈に描いている。(p.325)
2022.06.12
コメント(0)
今巻は、清貴と葵が、葵の20歳の誕生日記念旅行に出かけた際のお話。 『プロローグ』の前頁には、次のような一文が。 これまで本作品には、 作中に登場する社寺や施設などを実名で紹介してきましたが、 今巻においては、第2章から登場する乗り物や施設の一部を、 実在するものをモデルに名前を少し変えさせていただいております。 公式に掲載許可のお願いをしたところ、 『名前を少し変えていただいて、あくまでもうちはモデルとしての登場に』 という先方のご意向によるものです。というわけで、「あとがき」にも記されている通り、今巻のお話は、JR九州の『ななつ星in九州』をモデルとした豪華寝台列車『七つの星』や『天空の森』をモデルとした『天空の鳥』、博多駅のラウンジ『金星』をモデルとした『VENUS』等を舞台に展開していきます。さらに、プロローグの前の一文には、次のような記述も。 また今巻は、物語の展開上、 どうしてもこれまで以上に恋愛色が強くなっております。 あらかじめ、ご了承ください。物語開始前から、テンション上がります。こういった仕掛けが、望月さんは本当に上手いですね。そして『プロローグ』では、米山の『枝垂れ桜と鶯』と『鼠』の2作品盗難事件について、清貴が独自に調査を進めることになった経緯が描かれます。続く第1章『京の三弘法と蓮月の想い』では、葵と共に『京の三弘法詣り』に出かけた清貴が、有名女優が二人の娘に遺した『蓮月焼』の茶器に込められた想いを解き明かします。掌編『宮下香織の決意』では、明日20歳になる香織が、誕生日に自分の想いを店長に伝えようと決意する姿が描かれます。第2章『二人の旅立ちと不穏な再会』では、清貴と葵が『七つの星』車中で雨宮史郎に再会。そして、史郎が所持していた『枝垂れ桜と鶯』と『鼠』を取り戻すべく、彼に同伴していたイーリンが在籍する大学で起こった事件の真相を解き明かす展開に。しかし、それが出来なければ、葵は自身の髪を史郎に差し出さねばならなくなり……第3章『瞳に映るもの』では、車中で清貴に振られた女性の仕組んだ葵への嫌がらせを、清貴がものの見事に見破り、翌日は『天空の鳥』で二人の時間を過ごします。掌編『宮下香織の憂鬱』では、香織が店長に想いを伝えた際の様子と、その後、小日向とカフェで会うことになった経緯が描かれます。そして『エピローグ』では、清貴にイーリンから『枝垂れ桜と鶯』と『鼠』が届きますが、葵には円生から真っ赤な花のアレンジメントとメッセージカードが届きます。掌編『秋人は見た~一触即発の夜~』では、旅行から戻った清貴を多くの人が出迎えます。清貴の部屋では、何と円生が待ち受けており、一触即発の修羅場が展開することに。それにしても、今後も、葵を巡って清貴と円生のバトルが、さらに繰り広げられることになるのでしょうか?
2022.06.12
コメント(0)
今巻は、プロローグ、第1章から第3章の本編と各章間に掌編、 そしてエピローグにあとがきという構成。 目次の前に、前巻までは見られなかったイラストページが登場。 表紙絵と同じタッチで、お話の舞台とキャラクターが描かれています。 ***『プロローグ』は、円生が骨董市で購入した備前焼を『蔵』に持ち込んできたお話。一人で店番をしていた葵が清貴に代わって鑑定に挑み、その実力の片鱗を見せてくれます。第1章『花と酒と恋の鞘当て』は、宮下香織が所属するフラワーアレンジメント・サークルで、新たなイベントを企画・開催するのを、葵が手伝うというお話。伏見の酒造会社で修業中の清貴が、そのサークルメンバー内で発生した人間関係の縺れと、酒造会社で起こった家宝である徳利盗難事件を一挙に解決します。そして、掌編『答え合わせ』では、清貴が葵に手を出さない理由に思い至った円生が、その正誤を確認すべく酒造会社を訪ねたことで、2人の間に火花が散る展開に。第2章『金の器と想いの裏側 ~清貴 13歳になった日~』は、オーナー・家頭誠司が13歳の誕生日を迎えた清貴に、2日の間に、110万円で美術品を買ってくるよう命じるお話。清貴は、パリのアンティークショップで見かけた絵を入手すべく奮闘します。そして、掌編『宮下香織の恋路』では、小日向圭吾からデートに誘われた香織が、自分と向き合って、結論が出たらバレンタインの日にチョコを渡しに行くことを決意。第3章『復讐のショータイム』は、秋人の1日マネージャーを務める清貴が、ひらかたパークで行われた『ご当地レンジャー』のイベントに、何者かによって仕組まれた『復讐ショー』の真相を解き明かします。この番組の新たなプロデューサーとなった清水は、あのときの……さらに『エピローグ』では、またしても円生が『蔵』を訪れ、葵に鑑定の結果を報告。葵が仕事について円生に語り掛けるシーンが、一番の見所となっています。 ***第3章では、その舞台が京都を離れ大阪府枚方市にあるひらかたパークへ。とは言いながら、実際には前巻で葵と香織が松花堂庭園・美術館に行く際に、京阪電車のプレミアムカーで『樟葉駅』まで行き、そこからバスに乗っているので、この時点で既に、枚方市に足を踏み入れてはいたのですが。ひらパーには、私は数えきれないほど行っていますが、幼い頃には『菊人形』のイメージしかありませんでした。そのイメージが大きく変わったのは、やはり『ひらパー兄さん』の登場でしょうか。小杉さんが着任した時も結構インパクトがありましたが、やはり岡田君は超スゴイです!
2022.05.29
コメント(0)
今巻は、プロローグ、第1章から第3章の本編と掌編、 そしてエピローグに、定番となった著者あとがきという構成。 副題の通り、大学院を卒業した清貴の修行先各所での奮闘が描かれると共に、 大学生となった葵との関係が、ますます進展していきます。 ***『プロローグ』は、『蔵』のオーナー・家頭誠司が清貴に、店を継ぐ前に10社を回り、1年半から2年弱かけて修行してくることを申し渡すお話。第1章『一生に一度は』は、清貴が松花堂庭園・美術館で最初の修行をしながら、石清水八幡宮の『目貫きの猿』の釘が抜かれた謎を解き明かすというお話。第2章『小さなホームズ』では、清貴の修行先となったUEDコンサルタントで、上田邦光社長が、約17年前の幼かった清貴のことを「ホームズ」と呼んだ日を振り返ります。さらに、妻との離婚に、実は清貴の母・清美が関係していたことや、無名作家の絵を高額で売り付けられようとしたのを清貴が阻止したエピソードも。第3章『聖母の涙』では、メトロポリタン美術館での修業を終え帰京した清貴が、葵と共に訪れた教会で、マリア像が血の涙を流すという事件を解決します。そして、掌編『宮下香織の困惑』では、『蔵』を訪ねた香織が、店番をしていた店長・武史と言葉を交わすうちに……さらに『エピローグ』では、柳原の弟子となった円生の祇園にある料亭の宴会場でのお披露目会の様子が描かれます。 ***石清水八幡宮は、小学生の頃に何度か訪れているのですが、エジソンンのエピソードばかりが印象に残り、『目貫きの猿』のことは全く記憶に残っていません。次回訪れる際には、しっかりと見たいです。
2022.05.22
コメント(0)
前巻を受け、冒頭からいきなり緊迫した戦闘シーンが展開。 結衣が架禱斗に挑みかかるも、架禱斗は途中でその場を離脱してしまいます。 その後、結衣は凜香、篤志、智沙子らと共に東京湾観音へと向かい、 友里佐知子が遺した武器類や様々な情報を入手することに成功したのでした。 その頃、江ノ島の西約5kmの海岸近くに建つ森本学園には、矢幡元総理を始め、 これまでに起きた数多くの事件の中で結衣に命を救われた者たちが集まっていました。 ところが、そこは架禱斗が差し向けた武装勢力によって制圧されてしまいます。 そして、結衣たちが姿を現すと、これまでにも増して激しい戦闘が開始されることに。一方、架禱斗は日本国政府を降伏させ、シビックによる新政権樹立に成功。在日米軍をも制圧すると、中東やアフリカの武装勢力艦隊を日本に集結させ始めます。必死に抵抗を続ける結衣たちは、捕らえられていた矢幡元総理らを発見しますが、シビックの艦隊や戦闘機軍により、森本学園が砲撃されることを知らされるのでした。結衣は、架禱斗が矢幡元総理に残した全国のラジオ放送と10秒だけ繋がるマイクに向け、「美咲、優莉結衣だけど、森本学園でまってる」と語りかけます。そして、艦隊の一斉砲撃が始まると、相模湾にメタンの泡と電磁波が広範囲に発生。さらに、潜水艦から発射された核ミサイルを、イエメンから飛来したSu30が撃墜します。その後、結衣は米軍輸送ジェット機C17の中での架禱斗との壮絶な闘いを制し、高度1万mからの帰還にも成功、翌年春には武蔵小杉高校の卒業式を迎えます。その開始前には、紗崎玲奈と岬美由紀にも出会って言葉を交わし、式では、卒業生代表として皆の前であいさつの言葉を述べたのでした。 ***とても綺麗なエンディング……裏表紙にも「ついに激動の最終巻!」とあります。しかし、本編終了後の広告部分には「最後のパズルのピースか、新章か-高校事変XⅢ」とも。いったいどうなるのでしょう?
2022.05.15
コメント(0)
1995年2月に単行本が刊行され、1998年3月に文庫化された作品。 その後、映画化され、2019年5月に全国公開されています。 『元彼の遺言状』を読み終えた後、次にこの作品を読み始めましたが、 流石の安定感で、安心して最後まで一気に読み進めることが出来ました。 ***敦賀崇史は、親友・三輪智彦から恋人を紹介される。それは、大学院時代に通学中の電車で見かけ、好意を抱いていた津野麻由子だった。崇史は智彦から、麻由子も2人と同じバイテック社に勤務することになると聞かされる。ところが、ベッドの上で目を覚ますと、麻由子が2人分の朝食を用意していた。あれは夢だったのかと思いながらも、違和感をぬぐい切れない崇史。その違和感は次第に大きなものとなっていき、崇史はその理由を追うことに。すると、智彦が姿を消し、崇史の追及を阻止しようとする動きも見られるようになる。しかし、崇史は協力者を得ながら、遂に事の真相へと辿り着くことに成功する。 ***何と言っても、四半世紀以上も前に書かれた作品ですから、今となっては、多少古めかしさを感じさせられる部分もありますが、当時としては、かなり斬新な内容だったのではないかと思います。科学技術の進歩の速さには、やはり驚かされるものがありますね。
2022.05.15
コメント(0)
第19回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。 そして、現在TVドラマ放映中(豪華キャスト!!)。 しかし、私は現時点でドラマは全く見ていません。 ということで、お話については全く予備知識なしでの読書開始です。 ***森川製薬の創業者一族の一員である森川栄治が亡くなった。その遺言書には「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」とあった。元彼の死を知った弁護士・剣持麗子は、大学のゼミの先輩で栄治と交友の深かった篠田の依頼により、彼を犯人に仕立て上げ、その代理人として森川家に乗り込むことになる。 ***作者の新川さんは、1991年生まれの弁護士さんとのこと。なるほど、その筆致には弁護士さんらしさが漂うと共に、初々しさが溢れています。メインキャラも随分尖っていて、好き嫌いが分かれるかも。カスタマーレビューへの書かれようも、やむを得ないでしょうか。
2022.05.08
コメント(0)
今巻は、プロローグ、第1章から第4章の本編とエピローグに加え、 締めの著者あとがきという鉄板の構成。 『高校生編』の完結という位置づけであると共に、 好敵手・円生との対決に一応の決着がつくという、節目の一冊になっています。 ***『プロローグ』は、清貴とオーナー・家頭誠司の恋人・滝山好江とのやりとりに、葵が一人でやきもきさせられるというお話。第1章『その心は』は、利休の祖父・斎藤右近の後継者の座を巡り、父・左京と叔父・司が茶会の茶室作りで競い合い、清貴がその審査をするというお話。第2章『砂上の楼閣』では、誠司から結婚を断られた好江に、清貴がその事情を説明。その後、円生が『蔵』に現れ、持ち込んだ白磁の香合の鑑定を清貴に依頼します。しかし、後日、葵は学校帰りに突如現れた円生によって危機に追い込まれます。清貴が駆け付け難を逃れたものの、それを機に清貴は葵に別れ話を切り出すのでした。第3章『言葉と言う呪』では、店長・武史が葵に『家頭家の呪』について語り、第4章『望月のころ』では、葵との別離後、兵庫へ行っていた清貴が帰ってきます。そして、円生と『蔵』で対峙する清貴は、あの白磁に秘められた出来事について語り始めます。その後を描いた『エピローグ』では、『蔵』に円生が描いた蘇州の風景画が届いたのでした。 ***今巻でお話は一区切りついたものの、シリーズはまだまだ続きます。この第7巻が刊行されたのは、今から約5年前ですが、現在では、シリーズ全体で20巻もの書籍が刊行されています。とても良いペースで巻を重ね続けていますね。
2022.05.08
コメント(0)
これまでにも他の作品のガイドブックは多数読んできましたが、 (『すずちゃんの鎌倉さんぽ』、『ツバキ文具店の鎌倉案内』等々) 本著は、それらと比べると出色の出来映え。 何よりも、著者自らがしっかりと作りこんでいるところがスゴイです。 まず、特別書き下ろし番外編「バースデーの夜に」は、 シリーズ既刊でも、1章分程のボリュームに当たる66頁にも及ぶ紙幅を割いたお話。 第6巻の「エピローグ」の完全なる続編で、 家頭邸で開かれた葵の18歳の誕生パーティーの様子が丁寧に描かれています。そして、「舞台案内」では、これまで葵と清貴が巡った様々な名所について、葵視点で描かれたいたものが、清貴視点で書き改められています。これは、なかなかいいアイデアだなと感心させられました。2冊目のガイドブック出版の際にも、ぜひお願いしたいです。さらに、特別掌編は、いずれも数頁程の超短編ですが、どのお話も、いつも通りほっこりとした気持ちにさせられるものばかり。このように、本著はガイドブックと言いながら、スピンオフ的存在の一冊で、まさに「6.5」というネーミングがピッタリです。
2022.05.07
コメント(0)
1巻、2巻は、李奈がノンフィクションを書くため奔走する姿が描かれましたが、 今巻は、副題の通り「クローズド・サークル」を描いたお話。 *** 彗星のごとく出現した二十代半ばの女流作家・櫻木沙友理。 日本中に大ブームを湧き起こした2作の書き下ろし小説は、 いずれも中堅どころの出版社である爽籟社から刊行されており、 その文芸は、榎嶋裕也という敏腕編集者が一人で担っていました。 その爽籟社が、第二の櫻木沙友理を発掘すべく、新たに新人作家募集を開始。李奈は、那覇優佳と共に応募すると、総数8万超の難関を突破し、最終合格者の一人として、瀬戸内海に浮かぶ汐先島に招かれます。そこには、他の6人の合格者と共に榎嶋や沙友理、フリーカメラマン、調理師がいました。そして、沙友理を除く面々が集う宿泊施設で、榎嶋が毒殺されると、タブレット端末や手紙を通じて、次々にメッセージが送られてきます。その内容は、感想文や短編小説を書くことを要求するなど、何か違和感が付き纏うもの。それでも最後には、李奈が事の真相を暴き出すことに成功するのでした。 ***私は、アガサ・クリスティの作品は一冊も読んだことはなく、また、それを映像化した作品も全く観たことがありません。もちろん、他の作家の方々が書かれたクローズド・サークルをテーマにした作品は、読んだり観たりはしていますが……パッと思い浮かぶのは、ハルヒの「孤島症候群」や「掟上今日子の叙述トリック」でしょうか。
2022.05.07
コメント(0)
今巻は、前巻までの短編連作とは異なり、初の長編。 『蔵』のオーナー・家頭誠司の旧友・柳原茂敏の倉庫で仏画が盗難にあうと、 名の通った鑑定士や美術収集家の蔵や倉庫でも同様の被害が出ていたことが判明。 そんな時、清貴は探偵・小松から行方不明になった娘の捜索を依頼されることに。 清貴と葵が、16歳の女子高生読者モデルの行方を追い、 小松が盗難事件の調査を進めていくなかで、 有名高校の生徒が大麻所持で逮捕されるというニュースが流れると、 やがて、それらが一つのまとまりに集約されていきます。 ***今回のお話では、清貴たちが三十三間堂を訪れる場面が出てきます。ここも、私のお気に入りポイントの一つで、これまでに何度も訪れており、きらびやかな仏像が延々と立ち並ぶ様には、葵と同じようにいつも圧倒されています。そして、政治家のパーティーや自己啓発系セミナーのシーンも面白かったですね。さらにエピローグは、思いもかけぬキャラクター視点でのお話ですが、読む人の誰もが、スカッとした気分になれること間違いなし。「あなたが目利きじゃなくて、本当に良かった」(p.310)清貴の心の底からの言葉でしょう。
2022.05.01
コメント(0)
副題は「悲しみの底に角砂糖を沈めて」。 前巻から2年4か月ぶりの続編は、4巻以来の短編集。 7つのお話から構成されていますが、 いずれも、タレーランを訪れた人々に生じている問題を美星が解決する展開。 中でも、第6巻刊行記念サイトに掲載されていた「歌声は響かない」や 『3分で読める! コーヒーブレイクに読む喫茶店の物語』として書かれた 「フレンチプレスといくつかの嘘」、 そして、本著書き下ろしの「拒絶しないで」は、とてもとても短いお話。「あとがき」によると、その他の4話は全て実際の出来事を題材にしたものとのことで、ビブリオバトル決勝大会、ハネムーンのお土産、死期の迫った母との再会、プロポーズを保留し続ける恋人について描いたミステリー。超短編も含め、どのお話もライト・テイスト&ライト・インパクト。 7巻が、シリーズ読者のためというよりは 作者の好きに書かせてもらった一冊になってしまったので、 8巻は全身全霊を尽くして、 読者の皆様に喜んでいただけるような作品を書きたいです。(p.294)無事、8巻が発行されることを願っています。
2022.05.01
コメント(0)
全865件 (865件中 101-150件目)