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「カフー」とは「果報」。 沖縄の離島・与那喜島の方言で、「いい報せ」「幸せ」のこと。 そして、この作品の主人公・友寄明青(あきお)の飼っている犬の名前。 この設定がなされた経緯は『フーテンのマハ』に詳しい。 明青は、友寄商店という戦前から続く「よろずや」を一人で営んでいる。 裏には巫女のおばあが住んでおり、そこで毎夜食事を共にする。 おばあが話す言葉は、まさに沖縄の方言。 作者の訳注無しには、とても理解できるものではない。「ウシラシ(お知らせ)、あったかね」夕食後、明青が茶碗を片づけていると、おばあからそう尋ねられた。家に戻ると、郵便受けに一通の封筒が。差出人は『幸』、明青には心当たりがない。 遠久島の飛泡神社で、あなたの絵馬を拝見しました。 あなたの絵馬に書いてあったあなたの言葉が本当ならば、 私をあなたのお嫁さんにしてくださいますか。 あなたにお目にかかりたく、近々お訪ねしようと決心しています。(p.23)しばらくして、長い髪、白い帽子とワンピースの女性が、明青の目の前に現れる。「はじめまして、幸です」島のリゾート開発問題や、明青を残して島を離れた母親のその後、そして、おばあの入院などが絡み合いながら、お話は進んでいく。 ***お話が始まってしばらくは、その文章に初々しさを感じていたのですが、しばらくすると、もうページを捲る手が止まらない。やはりその筆力は、デビュー時から圧倒的なものがありました。さすが、第1回『日本ラブストーリー大賞』大賞受賞作品です。ただし、登場するキャラクターの行動については、「?」と、首を捻らざるを得ないものも見受けられます。なので、最後は少々モヤっと感を残したまま読了。まぁ、これは『でーれーガールズ』でも、ありましたが……。
2020.05.10
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史上初の女性総理、しかも最年少の42歳でその座についた相馬凛子。 その夫・日和は、日本を代表する大財閥相馬一族の次男で、38歳の鳥類学者。 美男美女である二人の馴れ初めや、政治改革に向け奮闘する日々を、 総理の夫・日和が日記に記していくという形で、お話は進んでいきます。 お話の中には、あの久遠久美も登場! 総理大臣に指名された翌日に、凛子は早速、所信表明演説の草案作りのため動き始めた。 内閣参与にも招いた「伝説の」スピーチライター・久遠久美という女性を我が家に呼んで、 政策秘書となった島崎君、その他内閣のブレーンを次々に呼び、 客間の一室にろう城して草案を練った。(p.92)こんな感じで、所信表明演説の段階から関りを持ち、その後は、施政方針演説でもその力を発揮しています。 まず、あの感動的な施政方針演説後のこと。(中略) だから、まず、国民にじっくり聴いてもらい、かつ、じっくり考えさせたという点で、 凛子のスピーチは評価されてもよい。 これは、凛子のブレーンである「伝説の」スピーチライター・久遠久美の、 縁の下の力によるところも大きかっただろう。(p.343)さらに、勝負の解散総選挙でも、もちろん大活躍。この時には、夫の日和にも例のアドヴァイスをしていました。 が、凛子のお抱えスピーチライターであり、 選挙演説のコンサルタントを務めた久遠久美さんに、 「最後まで、決して泣かないこと」と、厳しく言われていた。 「日和さんが泣き出したら、総理だって泣きたくなっちゃうでしょ」と。 総理のためにも、決して泣くなとのお達し。 「それに、いくらイケメンでかわいい旦那さまだからって、 さすがに四十男が男泣きしたら聴衆はドン引きよ」とも。 さすが久美さん、勘が冴えている。(中略) で、「最後まで絶対に泣きません」と久美さんとは確約して (この約束、幼稚園レヴェルな気がするが……)、 応援に駆けつけることとなった。(p.378)政界の様々な人物や政党名、さらには政局等々、その設定は『本日は、お日柄もよく』とは全くの別物です。でも、久遠久美というキャラクターに関しては、まさに久遠久美そのもの。こういう登場の仕方というのは、読者にとっては嬉しいものですね。そして本著において特筆すべきは、安倍昭恵さんによる巻末の「解説」。この作品の文庫版が刊行されたのは、2016年12月のこと。そして、朝日新聞が森友学園の売却価格について報じたのが、2017年2月のこと。少し時期がずれていれば、この「解説」は、誰か他の方が書いていたかもしれません。 日和はさっそく騒動に巻き込まれます。 出勤しようと自宅を出た途端、報道陣に取り囲まれてしまうのです。 そこにかけこんできたのが、 凛子が党首を務める直進党の広報担当者富士宮あやかでした。 彼女は、日和専属の広報担当。 日和は、彼女から日々の言動についても指示されます。 これは、私とは大きく違うところで興味深く読みました。 私には広報担当者がおらず、総理の外交行事の時以外は、 基本的に自分が会いたい人に会い、行きたいところに行っています。(p.449)「富士宮さんのような人がいたら……」今頃、晋三さんはそう思っているかもしれません。
2020.05.05
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『ツバキ文具店』の続編。 QPちゃんのお父さん・ミツローさんと入籍して守景家の一員となった鳩子。 QPちゃんは小学校に入学し、鳩子から習字の指導を受けるようになりました。 そして、鳩子の母親だと名乗るレディ・ババが、突然お金の無心をしに現れます。 その他にも、お盆休みにミツローさんの実家に帰省したり、 ミツローさんと、亡くなった前妻・美雪さんのことでケンカしたり、 癌を患った男爵が、死んだら妻・パンティーに手紙を書いてほしいと頼みに来たり、 ミツローさんが、新たな場所にオープンするお店で試食会を開いたり、等々。様々な変化が起こり続けますが、そこに漂う空気は穏やか。レディ・ババとの一件も、QPちゃんやミツローさんの言葉によって、ザワザワしていた鳩子の気持ちが、す~っと落ち着いていったのでした。またの続編もありそうですね。最後に、この作品の中で、私の心に残ったところをご紹介。まず一つ目は、ここ。 並んで歩いていたら、バーバラ婦人が教えてくれたキラキラの法則を思い出した。 大晦日の晩、除夜の鐘をつきに行く途中の道で教えてくれたのだ。 目を閉じて、キラキラ、キラキラ、と心の中で唱えるだけで、 心の暗闇に星が現れて明るくなると。 あれから私も、そのおまじないを実践するようになった。(p.136)私も唱えてみたいと思いました。続いて、二つ目はここ。 海からの帰り道、ミツローさんがぽつりと言う。 「ずっと、恨んできたんだよ。犯人を。 お前も、同じ目にあって苦しんで死ねばいい、って、ずっと思ってた」(中略) 「でもさ」 ミツローさんは続けた。 「どんなに相手の不幸を望んだって、 それで自分が幸せになれるわけではないんだ、って気づいたんだ。 手紙を書きながら。」(中略) 「生きていくしか、ないんだよね。 でもって、犯人に仕返しできるとしたら、 それは自分が幸せになることなんだって、気づいたんだ。 僕らが泣いてたら、相手の思う壺なんだよ」(p.325)通り魔の凶行により、突然最愛の妻を奪われたミツローの言葉です。深いです。
2020.05.03
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『でーれーガールズ』の岡山弁は、難なく読みこなしたものの、 『リーチ先生』の大分弁には、少々苦労した私でしたが、 本著はバッチリ。 何と言っても、普段使いの言葉ですから。 ***1995年1月17日早朝、神戸市長田区に住んでいた丹華(ニケ)は、突如大きな地震に襲われます。がれきに右足を挟まれ、身動きが出来なかった彼女を救ったのはゼロ先生。しかし、彼女の母親は、がれきに埋もれたまま炎に飲み込まれてしまいました。震災で父親も失った丹華は、兄の逸騎(イツキ)、妹の燦空(サンク)と共に、最初は避難所で、その後は仮設住宅で、ゼロ先生と一緒に4人暮らしを始めます。ゼロ先生は、心療内科の院長だった人で、震災後も診察を続けていたのですが、やがて、心臓の病に倒れ……。 ***ゼロ先生や心療内科研修医の由衣、そして仮設住宅に住む人々に囲まれ、たくましく成長していく丹華や逸騎、燦空を描いたお話ですが、その根底には、ゼロ先生とその息子である心臓外科医との葛藤が据えられています。先日読んだ、『猫を棄てる』に相通ずるものがあると感じました。また、本著タイトルにある「翔ぶ」の意味するところは、読み進めるうちに明らかに。ファンタジーの要素が、リアルの中に紛れ込んでいることに、少々の驚きと戸惑い。そして、私が本著で最も気に入ったのが、次の風景描写。マハさん、素敵です! 少しだけ開いた窓から、かすかに風が忍び込んでくる。 淡いベージュのカーテンが、ふわりと丸みを帯びて、 風のかたちに揺れている。(p.233)
2020.05.03
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村上さんがご自身の父親について記したエッセイ。 「文藝春秋」2019年6月号に掲載された作品で、 単行本化された本書は、わずか101頁というコンパクトなもの。 表紙や各所に挿入される高妍さんのイラストが、大きな存在感を放っています。 *** しかし自分が、その人生において果たすことのできなかったことを、 一人息子である僕に託したいという思いが、やはり父にはあったのだろう。 僕が成長し、固有の自我を身につけていくに従って、 僕と父親とのあいだの心理的な軋轢は次第に強く、明確なものになっていった。 そして我々はどちらも、性格的にかなり強固なものを持っていたのだと思う。 お互い、そう易々とは自分というものを譲らなかったということだ。 自分の思いをあまりまっすぐ語れないということにかけては、 僕らは似たもの同士だったのかもしれない。良くも悪くも。(p.84)村上さんのお父さんは、京都の安養寺というお寺の次男として生まれ、度重なる兵役を奇跡的に生き残った後、甲陽学院で国語の教師をされていた方。仏教の学習を専門とする西山専門学校を優等で卒業した後、京都帝国大学文学部文学科に入学したことからも、学業成績の優秀さは明らか。それに比し、村上さんの学校での成績はあまりぱっとしたものではなかったため、父を落胆させてきた、父の期待を裏切ってきたと、自らは記しています。お父さんは、西山専門学校入学後に俳句に目覚め、大学時代はもちろん、教師になってからも、俳句に対する情熱を持ち続けておられた方だったようです。 でも結論だけを言うなら、 僕が若いうちに結婚して仕事を始めるようになってからは、 父との関係はすっかり疎遠になってしまった。 とくにボクが職業作家になってからは、いろいろとややこしいことが持ち上がり、 関係はより屈折したものになり、最後には絶縁に近い状態となった。 二十年以上全く顔を合せなかったし、 よほどの用件がなければほとんど口もきかない、 連絡もとらないという状態が続いた。(p.85) このような状態となった経緯について、村上さんは詳細を記してはいません。お父さんとようやく顔を合わせ話をしたのは、お父さんが亡くなる少し前、入院中の京都の病院でだったそうです。お父さんは90歳を迎え、村上さんも60歳近くになっていました。それでも、こうやって、父親の生きた軌跡を様々な記録に当たりながら辿り、一つの作品としてまとめられたことは、お二人にとって本当に良かったと思います。そして、お父さんは、村上さんが想像しているものとは違う感情を持っておられたのでは?それは、やはり子を持つ親にならないと、なかなか実感できないものなのかもしれません。
2020.04.29
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プロローグは、1954年4月の大分県、小鹿田(おんた)。 『でーれーガールズ』の岡山弁は、何の苦も無く読み進めた私でしたが、 この大分弁には、少々手古摺りました。 意味は読み取れるのですが、スラスラ読み進めることは難しい……。 それでも、第1章からは、お話の舞台が1909年4月の上野に切り替わり、 読む速度は、ここから俄然ペースアップ。 高村光雲や光太郎、さらには岸田劉生、武者小路実篤、志賀直哉等々、 誰もが知るような著名人も続々と登場し、ワクワク感も高まります。 *** 亀乃介は横浜で生まれ、母ひとりに育てられた。 母は食堂で女給をしていたのだが、父親は店の常連客で、 亀乃介を自分の息子とは認めなかった。 母は幼子とともに店の二階に住み込みで働いていた。 そして、亀乃介が八歳のときに病気で亡くなった。(p.79)食堂の店主に引き取られた亀乃介は、10歳の頃からそこで働き始める。数多く訪れる外国人客の対応をするうちに英語を習得。そして、自ら描いたスケッチを食堂の壁に貼り出していたところ、高村光太郎の目に留まり、それを機に高村光雲邸で書生をすることに。その高村光雲邸に、亀乃介と同様、高村光太郎に紹介されてやって来たのが長身のイギリス人、バーナード・リーチ。この後、リーチは芸術家として次第に頭角を現し、亀乃介は、彼の助手として、長きに渡って時間を共にすることになる。 ***バーナード・リーチは、実在の人物ですが、亀乃介は架空の人物。そのあたりのことは、巻末の阿刀田高さんの「解説」に詳しく書かれています。第36回新田次郎文学賞受賞に相応しい作品。マハさんらしい、マハさんにしか書けない作品ですね。
2020.04.26
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原田マハさんの著書を読み始めて、まだ1か月も経っていませんが、 本著で5冊目ということになりました。 2011年9月に刊行された作品ということで、 2012年1月に刊行された『楽園のカンヴァス』の少しだけ前のものです。 ***まず、タイトルにある「でーれー」って何?ということに、普通ならなるんでしょうが、両親が岡山県出身の私にとっては、違和感なくスッと入ってくる言葉。作品中で登場人物が繰り出す岡山弁の数々は、とても心地良く響きます。おまけに、主人公の鮎子が生み出した架空の恋人・ヒデホ君は、私の出身大学に通っているという設定なので、否が応でも親近感が湧いてきます。描かれている時代も、マハさんと同年代の私には、とっても懐かしいもの。でも、お話の展開はというと、ちょっと……ヒデホ君に対する武美の思い入れ、そして、この思い入れの強さに端を発する鮎子と武美のすれ違い。これが、この作品の核なのですが、この武美の感情が、私にはイマイチピンとこない。武美の感情が「わかる、わかる」の人じゃないと、この作品は厳しいのかな……
2020.04.23
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史実を基に描かれたお話。 でも、登場人物の中で実在するのは、第2章のロバート・タヒナルだけ。 セザンヌの筆による《マダム・セザンヌ》をデトロイト美術館に遺贈した人物。 p.61には、彼の写真が掲載されています。 お話は、この《マダム・セザンヌ》を軸に展開。 この絵を深く愛したジェシカの夫であるフレッド・ウィル。 デトロイト美術館のチーフ・キュレーター、ジェフリー・マクノイド。 この二人の出会いが、デトロイト美術館の危機を救うことに。 ***2017年7月、深刻な不況によりデトロイト市は財政破綻。その負債総額は、全米で自治体としては過去最大の180億ドルに上った。デトロイト市は、財源確保のため美術館所蔵品の売却を検討。もはや、それは避けがたい状況のように思われた。ところが、所蔵品は街の歴史そのもので、未来に残すべき文化的資源であるとして、市民の約8割がその売却に反対。そして、国内外からの資金援助や市民の寄付を募ったところ、所蔵品は1点も売却されずに済み、美術館も独立法人として存続したのだった。 ***わずか100頁程の小品ですが、心に沁みる作品です。さすが、マハさんです。
2020.04.19
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『楽園のカンヴァス』、そして『本日は、お日柄もよく』と 読み進めてきた原田マハさんの作品。 3冊目に選んだのが、旅に関するエッセイ集である本著。 原田さんがいかなる人かを知るのに、絶好の一冊です。 *** 旅の最中、私はバスや電車など公共の交通機関での移動を何よりも好む。 移動しながら地元の人々の様子を眺めたり、 何気ないおしゃべりを耳にしたりするのが楽しいからだ。 どうってことのない会話にその人のキャラクターや暮らしぶり、 ときには人生がにじみ出ていることがある。 私は日の当たる窓際の席に陣取って、流れゆく景色を眺めながら、 前後左右から聞こえてくるローカルな会話を耳に、 その人の人生に思いを馳せたりする。 そういうときに、ふっと物語のかけらのようなものが浮かび上がる。(p.54)原田さんのデビュー作『カフーを待ちわびて』誕生の経緯が、本著「30 沖縄の風に誘われて」と「31 カフーは突然に」に記されています。このような、正真正銘の偶然の出会いを通じて、一つの素晴らしい作品が生まれ、優れた作家が誕生したことに、驚きと共に感謝の気持ちでいっぱいになりました。また、本著には、原田さんの幼少期や学生時代、さらには、会社員を経て美術関係の仕事に就いた頃の様子も記されており、原田マハという作家が、いかにして形作られてきたのかがよく伝わってきます。もちろん、作家になってからの取材旅行に関する記述も、とても興味深い。そんな中でも、特に「15 永遠の神戸」は、この街と深く関わり続けている私にとって、心に深く沁みこんでくる内容でした。
2020.04.19
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穏やかな日常。 もちろん、そこでも日々色々なことが起こり、変化がある。 それでも、時間の流れは緩やかで、 慌ただしさや刺々しさ、苛立ちといったものが前面に押し出されることはない。 『海街diary』、『ビブリア古書堂の事件手帖』、そして本作と、 鎌倉を舞台にした作品は、なぜか同じ空気感が漂う。 この心地良さは何なのだろう。 続編である『キラキラ共和国』も、読むしかないですね。 ***雨宮家は、江戸時代から続くとされる、由緒正しい代書屋。幼い頃より、祖母である先代の厳しい指導を受けてきた鳩子が、現在は、その職を受け継いで、ツバキ文具店を営みつつ、お悔やみ状から離婚報告の手紙、借金具申への断り状まで手掛けている。お隣さんのバーバラ婦人、その友人の小学校教員・パンティー、鳩子の幼少の頃を知る男爵、そして、5歳の女の子・QPちゃん。様々な人々との繋がりの中で、鎌倉の様々な場所を巡りながら、鳩子の夏、秋、冬、春と、一年の日々が過ぎていく。 ***このお話の核となるのは、やはり、鳩子と先代との関係性。そして、気になるのは、バーバラ婦人かな。
2020.04.18
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今年、1月に公開された映画作品のノベライズ。 私は、映画をまだ見ていませんが、 読んでいて、そのシーンが目の前に鮮やかに思い浮かんできます。 良い感じに仕上がっていると思います。 ***医療特化型のAI『のぞみ』。難病治療や診察のため、国内医療機関の90%以上に導入されている。その開発者・桐生浩介は、この度、総理大臣賞を授与されることになった。義弟・西村悟は、『のぞみ』の管理・運用を行う世界的企業・HOPEの社長である。その『のぞみ』が突然暴走し、人々の命の選別を始めようとする。桐生は、その首謀者として、警察に追われる身に。人工知能研究でMITの博士号を取り、帰国後最年少で理事官になった桜庭が、サイバー情報戦略部隊を駆使して桐生を追い詰める。 ***お話としては、ほぼ予想通りに展開、結末を迎えることに。途中、「ちょっと無理があるかも……」と感じる箇所もありますが、「なるほど!」と思わされるところもあります。映画作品も、見てみたいですね。
2020.04.12
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先日読んだ『楽園のカンヴァス』とは、ずいぶん趣の異なる作品。 この『本日は、お日柄もよく』が発表されたのは、2010年のこと。 2005年に『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞した後、 2012年に『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞を受賞する前の時期です。 本作を読み進める際、私が感じたのは『図書館戦争』に極めて近い雰囲気。 軸となるお話はしっかりと描きながらも、 ベタベタに甘いシーンも、彼方此方に散りばめられています。 これも、原田マハさんの持ち味なのでしょう。 ***トウタカ製菓に勤務する二ノ宮こと葉は、寿退社する同僚・千華から、披露宴でスピーチをするよう頼まれる。そこで、先日行われた幼馴染・今川厚志の披露宴で、見事なスピーチを行った久遠久美という人物に会いに行くことを決意。久美は、伝説のスピーチライターと呼ばれ、亡き厚志の父、衆議院議員・今川篤朗(元民衆党幹事長)の代表質問等も手掛けていた。久美の下で修業を積んだこと葉は、千華の披露宴で見事なスピーチをやり遂げ、厚志の政界進出を機に、スピーチライターとして本格的に始動することになる。 ***スピーチライターという職業についてはもちろん、スピーチそのものについての興味が、俄然高まった作品でした。
2020.04.12
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『この嘘がばれないうちに 』の続編。 第一話『「ばかやろう」が言えなかった娘の話』は、 物心つく前に交通事故で亡くなった両親に、 自分を一人ぼっちにしたことに対する恨み言を言うため、過去へ戻った娘のお話。 第二話『「幸せか?」が聞けなかった芸人の話』は、 人気急上昇中のお笑いコンビにもかかわらず、失踪していた一人の男が、 5年前に亡くなった妻に、芸人グランプリ優勝を報告しに行くお話。 第三話『「ごめん」が言えなかった妹の話』は、 4か月前に余命宣告された妹が亡くなったため、睡眠障害や精神障害を患い、 婚約者とも疎遠になっていた姉が、妹に会いに行くお話。 第四話『「好きだ」と言えなかった青年の話』は、 お笑い芸人を目指す青年が、難病治療のため渡米した幼馴染の女性に会うべく、 一週間前に戻り、自分の気持ちを伝えるというお話。 ***今回の舞台は「フニクリフニクラ」ではなく、時田流の母・ユカリが店長を務める、函館の「喫茶ドナドナ」。この店も「フニクリフニクラ」同様、過去に戻れるという席が存在します。そして、その席にいつも座っているのは、黒服の老紳士。ユカリが急に渡米したため、現在、その代わりを息子の流が務めています。37歳になった時田数も、その手伝いをしており、数の母・要はユカリの実の妹です。そして、数と世界的に有名な写真家・新谷刻との間に生まれたのが、7歳になる娘の幸。「ドナドナ」で例の役割を果たすのは、この幸ということになっています。 ***先日、映画『コーヒーが冷めないうちに 』を見ました。そのスタートシーンを見て、NHK朝ドラ出演者だらけでビックリ!!『ひよっこ』の有村架純さん、『あまちゃん』の薬師丸ひろ子さん、『純と愛』の吉田羊さん、『あさが来た』の波瑠さん、そして、『スカーレット』の伊藤健太郎さんに林遣都さんと、これでもかという感じ。そして、原作とは設定の異なる部分が。原作では、流と計の娘が「ミキ」ですが、映画では、数と新谷亮介の娘が「未来」になっていました。後半は、もう別のお話、ということですね。
2020.04.05
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初めて原田マハさんの作品を読みました。 私が出会っていない、素晴らしい作家さんたちが、 まだまだたくさんいそうだと、改めて気付かせてくれる作品でした。 次は『本日は、お日柄もよく』を読む予定です。 ***現在、大原美術館で監視員をしている早川織絵は、26歳で博士号を取得し、かつて美術史論壇を賑わせたアンリ・ルソーの研究家。そんな彼女に、ルソーの『夢』を日本への貸し出す際の交渉窓口にとの依頼が舞い込む。彼女を指名したは、ニューヨーク近代美術館学芸部長、ティム・ブラウンだった。17年前、早川織絵とティム・ブラウンの二人は、伝説のコレクターであるコンラート・バイラーの邸で出会った。共に、バイラーの所有する『夢をみた』が、真作か贋作かを見極める鑑定人として。バイラーの指示に従って、二人はそれぞれに真贋を見極めるべく競い合う。 クリスティーズのポール・マニングの電話で猜疑心が生まれ、 インターポールのジュリエットの出現で衝撃を受けた。 「ルソーの下のピカソ」について知らされ、 さらには織絵があのアンドリュー・キーツの愛人であると聞かされて- 急速に、落ち込んだ。(p.268) ***バイラーの正体は、お話が進む中で、薄々気付くことが出来ましたが、ジュリエットについては、「なるほどね」という感じでした。しかし、本作はミステリー作品として以上に、ルソーやピカソを楽しめる作品です。美術史科を卒業し、その関係の仕事に携わった作者の経験が遺憾なく発揮されています。
2020.03.28
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2011年夏、銀座デパートの地下にサリンがまかれた。 首謀者は、当時7つの半グレ集団を率いていた優莉匡太。 デパ地下で買い物をしていた9歳の森沙津希は、目の前で両親を失ってしまう。 そして、その日、六本木にあった優莉匡太のアジトに機動隊が突入した。 劣悪な環境の中、父の課す課題をこなしながら過ごしていた9歳の優莉結衣。 警察に保護され、児童発達研究センターで担当者と面談をすることになるが、 その最中、結衣は自らが手にしていた鉛筆を、自身の首に突き刺した。 そして、17歳になった結衣は、丸子橋付近の玉川沿い河川敷で田代勇次と会っていた。武蔵小杉高校で、結衣と共に苦境を乗り切った濵林澪。そして、養父母に育てられ、17歳になった沙津希。二人は、富津市櫻部にある与野木農業高校に、KNS免除制度を受け編入することになるが、そこで二人は事件に巻き込まれ、澪は結衣にスマホでメッセージを送信。結衣が与野木農業高校に辿り着くと、そこには何とサリンプラントがあった。結衣は、そこでかつて父と共に活動していたコウイチやタキに再会。さらには、妹の凜香とも再会するが、彼女は田代槇人に与しているという事実が判明。結衣は、澪や沙津希を護りつつ、旧知の面々から逃走するも追いつめられてしまう。が、その時、自衛隊がサリンプラントに突入し、絶体絶命の危機を乗り切る。そして、澪や沙津希と共に富津を脱出した結衣が、次に目指したのは原宿。それは、凜香たちがサリンを撒こうとしていることに気づいたから。結衣は、大惨事が起こるのを防ぐことに成功する。 ***今回のお話では、結衣は悪夢のサリン事件再現を防ぎつつ、自分を陥れようとする公安の陰謀にも正面から立ち向かい、最期には見事な大逆転劇を見せてくれます。今後は、田代槇人・勇次父子との対決が見どころになっていくのでしょう。今日は地下鉄サリン事件から25年でした。
2020.03.20
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1年ぶりの新刊。 お話としては、さほど前進しなかったものの、 慣れ親しんだ筆致と、いつもながらの世界観にどっぷり浸りつつ、 「やっぱり、イイなあ」と思わずひとりごと。 ***壬氏の火傷を処置するため、宮廷外の離宮に赴いた猫猫。そこで、養父・羅門から外科処置の教えを請いたいと、壬氏に願い出る。そんな猫猫に、羅門は父・羅漢の屋敷の離れにある蔵書の中から『華佗の書』を探し出し、それを受け入れるという条件を提示する。その頃、壬氏の西都行きが決定し、猫猫はそれに同行することを求められる。鶏から始まった実技訓練は、絞首刑になった罪人の腑分けへと進み、やがて、猫猫が医官専用の官女として同行することが正式決定する。しかし、その一団の中には、父・羅漢もいた。西都へ向けて船旅が始まり、あの後宮医官「やぶ医者」が同乗していることも判明。亜南に到着し、夜宴が催された翌朝、その「やぶ医者」が行方不明に。石鹸屋の火事騒動に巻き込まれていたのだ。猫猫たちは、その事件の真相を解明し、「やぶ医者」救出に成功する。 ***さて、今巻の中で、私が一番印象に残ったのは次の部分。 『ははは、実技とな? 実技の実験台にされる患者の身にはなれませぬか? 医術は人を救うものですが、だからと言って常に救えるものではない。 時に失敗し、患者から、遺族から暴言を吐かれることもある。 心が強い者でなければ、すぐに折れてしまうでしょう』(p.161)劉医官が壬氏に述べた言葉です。
2020.03.08
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中学生たちを乗せたバスが、スキー教室に向かう途上で転落事故。 その後、バスの運転手が、男子中学生によって猟銃で撃ち殺される。 そして、その男子生徒・優莉健斗も、猟銃で自ら命を絶ったのだった。 弟が引き起こした事件の真相を解明すべく、優莉結衣が動き始める。 そして乗り込んだのは、極悪非道の韓国系半グレ集団が絡む清墨学園。 父・匡太の半グレ集団・クロッセスの因縁の敵・パグェの本拠。 結衣は、自らを追っていた公安の梅田、綾野と共に壮絶なバトルを展開。 迫りくる危機を凌ぎつつ、敵の殲滅を図る。 ***今巻は、結衣の幼少時の様子が語られる場面が挿入されると共に、武蔵小杉高校や塚越学園で起こった事件の真相が明らかに。そして、その黒幕の息子は、今後、結衣に大きく絡んできそうな気配。真の物語を始めるための舞台設定が、ようやく完成したようです。
2020.03.08
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シリーズ3作目。 今巻の舞台は、突然日本を離れて東南アジアの離島へ。 世間の目が届かない場所という設定のため、 前巻までを遥かに凌駕する、ハードな活劇が展開されていきます。 ***武蔵小杉高校在学中に続いて、葛飾東高校在学中にも大きな事件が勃発し、それに深く関与していたのではないかと疑われている優莉結衣。そして、それ以前に在学していた栃木県立泉が丘高校での事件が新たに発覚し、角間良治が学園長を務める塚越学園での矯正を勧められることになります。同じ児童養護施設に暮らす理恵や奈々未との関係で、塚越学園に転校するという考えは、全く持ち合わせていない結衣でしたが、先日、駅のホームで偶然出会った腹違いの妹・凜香から「もうすぐ塚口学園に移る」と聞いていたことで、見学には行くことに。しかし、角間と共に乗り合わせたセダンが、学園に向かう途中で何者かに襲撃され、気が付いた時には、結衣は見知らぬ部屋の中にいました。そこは、三浦海岸にある塚口学園ではなく、東南アジアらしき場所にある学校。至る所に監視カメラが配置され、校則の逸脱行為は厳しく処罰される所でした。 ***今回も、黒幕の行動の背景となっている理由は、結構予想外のものでした。また、ハードなバイオレンスは、回を重ねるごとに激しくなっていますが、これまで、ほぼ結衣の単独行動によって行われてきたそれらの行為が、今回は、同志を集めての、組織的行動へとグレードアップしています。米軍まで巻き込んでの展開は、「千里眼シリーズ」を彷彿とさせるものですね。
2020.02.29
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シリーズ2作目。 前巻と同時に購入していたので早速読み進め、あっという間に読了。 読者を引き込む力は、さすが松岡さんと再認識。 今巻は、JKビジネスがテーマのお話。 ***武蔵小杉高校での事件後、優莉結衣は葛飾東高校に転校していました。そして、同じ養護施設に暮らし、同じ高校に通う奈々未が行方不明に。奈々未の妹・理恵に懇願された結衣は、奈々未の行方を追うことになります。そこには、JKビジネスと「特権階級」が絡み合う、闇の世界が待ち受けていました。 暴力の衝動に逆らえないという意味では、DVを働きたがるクズと変わらない。 幼少期から刷り込まれた下地のせいか、人を殺すのにためらいがなかった。 むしろ積極的に実行したくなる。 ほかに秀でていると自覚できるものがない、 ふだんからそう感じているせいもある。(p.131)上記のように、今巻も結衣の過去や実像が次々に明らかにされていきます。そして、今巻最大の見せ場は、横浜ランドマークタワーからのダイビング。高さ296mのヘリポートから、ウィングスーツを身にまとって飛び出すと、時速300kmのスピードで、横浜横須賀道路沿いの逗子山中を目指すというシーン。そして、またしても、結衣は一人で事件を解決へと導いてしまいます。今回登場した「辻舘鎚狩」という人物にについて、私は『ボイス』の「モ・テグ」を連想してしまいました。日本のリメイク版では「本郷雫」ですね。
2020.02.16
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『水鏡推理6』以来、およそ3年ぶりに松岡さんの作品を読みました。 もちろん、その間にも新作を色々執筆されていたことは知っていましたが、 ずっとスルーしていました。 水鏡瑞希は、浅倉絢奈は、どこへ行ってしまったんだぁ~!! ***さて、本作のヒロイン・優莉結衣は、これまでに登場した松岡作品のヒロインたちとは、かなり異なる生い立ちを背負った女子高生。父親は、平成最大のテロ事件を引き起こし死刑に処された男で、彼女自身もそんな環境の中に置かれ、様々な教育を施されてきたようです。 「想像したとおりだ。おまえは父親の血が濃厚だな」 「どういう意味?」 「人殺しを楽しんでやがる」 結衣は黙り込んだ。本性を見抜かれた。(p.381)そして、今巻は、結衣が通う武蔵小杉高校に総理大臣が訪れた際、突如として武装勢力が突入し、学校全体が人質に取られてしまうというお話。事件を仕組んだ黒幕の正体には、多くの読者が驚かされることになると思いますが、何よりも、次から次へと多くの人たちが惨殺されていくシーンに圧倒されます。もちろん、結衣の住む世界は、凛田莉子や浅倉絢奈とは全く異なります。それに比べると、紗崎玲奈には同じ匂いがしないでもありません。また、同じようにハードな局面が相次ぐものの、岬美由紀は全く異質です。そんな結衣が、危機的状況を一人で解決へと導いていくのです。 *** とはいえ授業態度がよくなったかといえば、まる当てはまらない。 コミュニケーション英語Ⅱの授業中、和美はぼんやりと感じた。 頬杖をついたり、よそ見をしたり、遠慮なくあくびをしたりする生徒が増えた。 突っ伏して堂々と眠る姿も男子に多い。 反抗的ととらえがちだが、事実は少々異なる。 みな性格はすなおなほうだった。 ただ目上の者への礼儀について、基準が大きく変わってきている。 教師があまり生徒を叱れないせいかもしれない。 考え方が自由かつ開放的になる一方で、打たれ弱くもあり、人の話に耳を傾けない。 それが最近の十代の特徴といえた。 和美は教科書の英文を読みながら、教室をゆっくりと歩き回った。 かつては教師が近づけば、顔をあげたり内職の手を休めたりするものだった。 いまは誰も意に介さない。 価値観が根本的に変容している。 結局は生徒の自主性にまかせるしかない。 教師にどう思われるか気にしないのなら、なにをいっても無駄だろう。(p.30)今巻、私が最も印象に残ったのは、この記述でした。
2020.02.16
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副題は「コーヒーカップいっぱいの愛」。 珈琲店タレーランのオーナー・藻川又次が狭心症で倒れ入院。 同店のバリスタで藻川の姪・切間美星は、大叔父からある依頼を受ける。 それは、40年前に亡くなった藻川の妻の謎の行動を明らかにすることだった。 美星はタレーランの常連客・アオヤマ、そして藻川の孫・小原と共に、 天橋立、そして浜松を訪れ、事の真相に迫っていく。 そこには、藻川の妻と画家の秘められたロマンスが…… そして、タレーラン開業の経緯も関わっていた。 ***今回の舞台は京都市街を離れ、京都府北部の天橋立。さらに、府外の浜松まで加わって、これまでのお話とは少々趣が異なります。注意深く読み進めていけば、途中で引っかかる部分は明らかなので、ミステリーとしては、読者にとって難解なものではないでしょう。それにしても、3年ぶりの新刊ですか。前巻も、1年半ほど間をおいての出版だったので、ペースとしてはゆっくりですね。それでも、途中で放り出さずに、作品を続けてくれることは、読者にとっては、とてもうれしいことです。
2020.01.13
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時代の寵児として首相の座に昇りつめた真垣統一郎。 しかし、現在は感染症を患い意識不明の重体。 そして、その事実は、政局の関係で世間には伏せられたまま。 内閣官房長官・樽見政純は、首相と瓜二つの劇団員・加納慎策を替え玉に据える。 荒唐無稽の設定。 どう考えても、現実にはあり得ないことばかりのお話なのに、 一つ一つのシーンには緊張感があり、何故かリアリティすら感じてしまう。 もちろん、現実の政治は、こんな単純明快なものではないだろう。それでも、首相の替え玉を演じる加納慎策を、ついつい応援したくなってしまう。閣僚や野党、官僚、テロ、そして国民という難敵に挑むど素人。その素人の純粋さに、彼と同じく政治の素人の私たちは親近感を覚えてしまう。そして、読み進める中で、時々ハッとさせられるようなフレーズに遭遇することになる。 政治というのは正しさの追求ではない。 意見が対立する者と擦り合わせ、妥協し、着地点を決めることです。 正論は正しいが、正論を振りかざすことは全く正しくない。(p.71)これは、樽見が慎策に語った言葉。次は、慎策が首相として、通常国会で野党議員に答弁した言葉。 この政策が失敗した時には、総辞職だろうが解散だろうが何でも従ってやる。 しかし他方、責任を問われない安全地帯で 好き勝手に喚きたてるのは控えていただきたい。(p.155)現実には、おそらくお目にかかることはないだろう痛快な一撃。でも、本当はこんな風に言ってやりたいと、歴代首相は思っていたのでは。 闘いではなく交渉。 論破よりも説得。(p.242)これは、慎策が衆議院本会議場で官僚出身議員の質問に答弁する際、心の内で自らを戒めるシーン。 だが、もし人質リストを公表しようものなら、どんな事態が発生するのか。 考えるだに鬱陶しい話だが、そうした家族に心ない仕打ちをする 卑劣極まりない輩が多数存在する。 匿名の下劣な野次馬、家族の悲劇を商品化しようとするマスコミ。 情報統制はそうした配慮による苦渋の選択だった。(p.320)これは、在アルジェリア日本大使館が、テロリストたちにより占拠された際の、官房長官による緊急会見のシーンでの記述。こういう状況は、これまでにも実際あっただろう。次は、防衛大臣が慎策に語った言葉。 本来自衛官は感謝されてはいけない存在です。 平時においては胡散臭がられ、恐れられ、遠巻きにされ、 時には非難や誹謗を受ける。 それでいい、身近な存在になってはいけない。 なぜなら、自衛官が国民から歓迎され感謝される時は、 外国から攻撃されて危急存亡の秋か国民が困窮している時だ。 自衛官は日陰者である時の方が国民や日本は幸せなのだ…… これは吉田茂元首相の言葉です。(p.395)これに続く、慎策の思いを述べた文章は次のようなもの。 公僕だから、税金で生活しているのだからというお決まりの文句が空疎に響く。 同じ公務員でも、霞が関でふんぞり返る連中とは抱く矜持も懸けるものも違う。 報われない仕事、感謝されない存在。 それでも彼らは日々汗を流し肉体を酷使するのを厭わない。(p.396)自衛官は本当に大変だ。でも、霞が関で働く者の思いにも、もう少し寄り添ってもいいのではないかとも思った。決してふんぞり返っている人たちばかりではないはずだ。
2019.12.29
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久しぶりに荻原さんの作品を読みました。 これで5冊目になります。 今回も、表題作を含む6つの短編からなる一冊。 直木賞受賞作ということで、期待して読み始めました。 いつも通りの(?)ライト感覚。 扱っている内容は、結構重たいはずなのですが、 「ズシーン」とか「ドーン」とくる感じではなくて、 「ジワジワ」とか「スーッ」とくる感じ。この辺りは、読み手によって好き嫌いが分かれるかも。(私も、著者の作品を前回読んだのは8年も前だしなぁ……)まぁ、肩に力を入れずに、リラックスして読めるのは良いことだと思います。(内容自体は重たいはずなのに……) *** 大人になると、自分の親を客観視できるようになるものだ。 けっして特別な存在だったわけではなく、 良くも悪くも普通の人間だったのだな、と思える。 とりわけ記憶のときどきの親の年齢を自分が追い越してしまえば。(p.186)本著収録の『時のない時計』の一節で、今回、私の記憶に最も残った部分。よく分かります。
2019.12.07
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驍宗は自力で函養山の底から脱出。 一方、阿選の命により函養山に向かった友尚の軍は、土匪と戦闘状態に突入。 それを知った李斎は朽桟の救援に赴き、友尚軍を掃討。 そして、その最中、遂に驍宗との再会を果たしたのだった。 しかし、すぐさま、文州師と王師の軍が反撃に出る。 安全な場所を求め、李斎らと共に移動中だった驍宗は、 古戦場に涌くと言われている妖魔・賓満に憑かれた敵の急襲を受け、捕らえられてしまう。 その後、李斎らと共に行動していた勢力は瓦解する。「驍宗は天意を踏み躙って位を盗んだ。それを広く公にする必要がある」「禅譲の前に民の面前に引き出し、その罪を弾劾し、謝罪させる」そして、憤懣に流され、雪崩を打った民の投石で、驍宗は打ち殺される……阿選は、宮殿前を驍宗を屠る場として選んだ。残されたわずかな希望に賭け、驍宗奪還のため宮殿に集う李斎ら。その時、泰麒が側にいた兵卒の剣を奪い、その剣を兵卒の腹に突き立てた。正面の御簾を引き落とし、驍宗の下に駆けつけると、その膝をつく。すると、そこに鋼のような黒銀の体躯、額に真珠の一角の獣が姿を現したのだった。驍宗らは王宮を抜け出し、延王、そして延麒との対面を果たす。その後、阿選は驍宗らによって討ち果たされることになった。 ***久しぶりの「十二国記」でしたが、これまで最長のお話で、十分堪能させてもらいました。おそらく続編も書かれると思うので、今から楽しみです。また、陽子に会いたいな。
2019.11.23
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夜半、泰麒は黄袍館を抜け出し、 王宮の裏道を通って、阿選のいる六寝へと向かう。 その後をつける耶利は、「次蟾(じせん)」という、 人の魂魄を抜く妖魔を、そこで見つける。 泰麒は、阿選に民を救うよう懇願するが、黄袍館へと連れ戻される。 が、項梁・耶利と共に再度六寝に出向き、虜囚となっていた正頼に再会。 拘束されたままの正頼は泰麒に、馬州にいる草洽平(そうこうへい)に 「英章を捜して、不諱(ふき)を訪ねろ」と伝えるよう申し述べる。賊の侵入を知った阿選は、泰麒に「誓約」を迫る。麒麟は、王以外の者に平伏することが出来ないはずだったが、泰麒は、抵抗する力をねじ伏せ、暗黒に頭蓋をめり込ませた。そして遂に、玉座に着く阿選の脇に控えることとなる。一方、李斎は石林観本山主座・沐雨から、驍宗は身罷っていないと知らされる。そして、石林観の修験道に足を踏み入れ、驍宗の足跡を追ううち、7年ぶりに霜元との再会を果たし、これまでのことを語り合う。そして、驍宗は落盤によって函養山に閉じ込められている可能性に思い至る。 ***今巻の最後で、いよいよ驍宗が登場。そして、阿選は友尚に驍宗を迎えに行かせ、玉座を禅譲させる決意を固めました。クライマックスに向け、事態は急速に展開し始めました。次は、いよいよ最終巻です。
2019.11.17
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杏さんの書いたものを読むのは『杏のふむふむ』以来。 本著には、2013年1月から2016年7月までに書かれたものが掲載されている。 (「文庫版あとがき」は2018年11月に記されたもの) 相変わらず「上手いなぁ」と思わされる。 これらの文章が書かれた時期は、杏さんが大ブレークしていた時期。 TVドラマの「ごちそうさん」「花咲舞が黙ってない 第1シリーズ」 「花咲舞が黙ってない 第2シリーズ」「デート~恋とはどんなものかしら~」 映画では「真夏の方程式」「オケ老人!」と、私も見まくっていた。その頃の、作り手側の様子がしっかりと描かれていて、とても興味深い。そして、杏さんがそれらの作品に真摯に立ち向かっていった姿勢に心を打たれる。また、プライベートの充実ぶりには驚かされる。結婚生活や子育てについての記述も微笑ましい。 山が険しければ険しいほど、終わった後の達成感は大きい。 また、いつまで経っても思い起こして 「あの時はああだったねぇ」なんて語り合うことができる。 また一つ、皆で力を合わせて超えられた。 のど元過ぎれば熱さを忘れる。 山が無ければ超えることもない。 険しい山も、過ぎてみれば良い思い出だ。 険しい山の道中は、そんなこと決して思えないのだけれど。(p.214)全く、同感。
2019.11.17
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内田先生が自ら記した半生記。 幼少期から現在に至る歩みが、赤裸々に綴られています。 それは、想像以上に波乱万象の日々。 こうして、内田先生が内田先生になったんだなと気付かされます。 *** 父子家庭を始めたときに自分で決めたことが一つありました。 それは「仕事で成功する」ことをもう求めないということでした。(中略) 「家事育児のせいで、研究時間が削られた。子どものせいで自己実現が阻害された」 というふうな考え方は絶対にしない。 朝晩きちんと栄養バランスのとれたおいしいご飯を作って、 家をきれいに掃除して、服を洗濯して、布団をちゃんと干して、 取り込んだ洗濯物にきれいにアイロンかけして、服のほころびは繕って…… ということができたら「自分に満点を与える」ことにしました。 その「贈り物としての余暇」に本を読んで、翻訳をして、論文を書く。 そこで達成されたものは「ボーナス」のようなものだから、 あれば喜ぶけれど、なくても気にしない。 そういうふうにマインドを切り替えました。(p.147)「すごいな」と思いました。家事育児に対し、これほどの覚悟を決めて臨まれていたのですね。言うは易し行うは難し。それで、たくさんボーナスを手にすることになられたわけですから、本当にスゴイ。 それからまた数年したら、今度は大学の管理職になるという年回りになりました。 2005年に教務部長に選ばれたときも「しばらく研究は諦める」決意をしました。 自分が赴任してきたときに、先輩たちから「若いときは思い切り研究しなさい。 学務はわれわれ年長者がやる」と言われました。 その代わり、僕が彼らの年齢になったら、 今度は若い人たちの研究の支援をしなければならない。 こういう仕事は順送りです。(p.151)これも、内田先生らしいなと思います。こういうことで、世の中は回っているのだと気付かされます。 あらゆる仕事には、 「誰の分担でもないけれど、誰かがしなければならない仕事」 というものが必ず発生します。 誰の分担でもないのだから、やらずに済ますことはできます。 でも、誰もそれを引き受けないと、いずれ取り返しのつかないことになる。 そういう場合は、「これは本当は誰がやるべき仕事なんだ」 ということについて厳密な議論をするよりは、 誰かが「あ、オレがやっときます」と言って、 さっさと済ませてしまえば、何も面倒なことは起こらない。(p.154)『村上春樹にご用心』にも登場した「雪かき」の仕事のことですね。残念ながら、現実社会は真逆の方向に向かっており、仕事の押し付け合いです。
2019.11.03
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「私はあなたを怨んでいます。それでも貴方が王です」 泰麒の言葉の真偽を判断すべく、琅燦の進言を受けた阿選は泰麒に斬りかかる。 使令の守護を得られない泰麒は、斬撃をまともにくらい腕を切り裂かれてしまう。 これにより、泰麒は阿選に帰還を許され、仁重殿の一郭に居を移すことになった。 阿選が正式に登極するためには、驍宗に蓬山に向かわせ禅譲させることが必要。 泰麒のこの言葉に強く反発する張運に、琅燦は「一理ある」と諫める。 その後、泰麒の周囲にもわずかながら変化が。 州宰に阿選の麾下・恵棟が、項梁以外の大僕として耶利が着任したのだった。一方、琳宇で驍宗の足跡を追っていた李斎たちは、岨康でトラブルに巻き込まれ、函養山を牛耳る土匪の首領・朽桟に捕らえられてしまう。しかし、そこで朽桟から函養山一帯の様子を教えてもらうことに。李斎たちは、さらに北へと進み、驍宗の従者を務めていた臥信の麾下・静之と出会った。函養山、銀川、付近の廃里、白琅と何の手掛かりも得られない旅が続いていたが、古伯に近い小さな里・老安で、住人の数に比し必要な薬の数が妙に多いという情報が。しかしその後、その里で重傷を負った武将が亡くなったとの情報も入ってくる。「もしも驍宗様が身罷られていたら、私はどうするのだろう……?」 ***お話としては、前巻からほとんど進展がなかった第2巻。ただ、阿選の行動の裏には、何か隠された意味がありそうな感じが漂ってきました。また、琅燦や耶利らの女性陣が、今後のカギを握るような活躍をしてくれる予感も。第3巻、第4巻は一週間後、11月9日(土)に発売です!!
2019.11.02
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『風の海 迷宮の岸』に始まり、 『黄昏の岸 暁の天(上)』、 そして、蓬莱を舞台とする『魔性の子』、 さらに、『黄昏の岸 暁の天(下)』へと紡がれてきたお話の続編。 18年ぶりのシリーズ新作で、しかも全4巻。 愛読者なら、狂喜乱舞の状況。 そして、実際読み始めると、その格調高い文体はまさに『十二国記』。 時空を超えて、その世界に引き込まれてしまいます。 ***禁軍中軍師帥・楚の項梁は、二十代半ばの女・園糸とその三歳ばかりの幼子・栗と共に、放浪の旅を続けていた。一方、新王・阿選の登極に際し、その経緯に疑義を呈したため誅伐された瑞雲観。その残党である去思は、騎獣を連れた二人連れを追っていた。そして、この二人連れこそ、文州を目指していた泰麒と李斎。この三者が、江州墨陽山で出会い、驍宗の足跡を一緒に辿ることに。去思の案内で、泰麒、李斎、項梁は、街道を北に向かっていたが、その途上、泰麒は李斎らを残し、項梁だけを伴って白圭宮を目指す。泰麒と項梁が白圭宮に辿り着くと、王宮全体の様子が何かおかしい。阿選は王宮の奥に閉じ籠ったままで、国のことは全て、張運とその一派が好き放題に取り仕切っているという。一方、李斎と去思らは、琳宇で驍宗の足跡を追っていた。
2019.10.22
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映画を見たのですが、 ラストシーンがよく理解できなかったので、本著を読んでみました。 細かいとことまでは分かりませんが、映画のお話がそのまま活字になっています。 本著を読み進めながら、映画の各シーンが蘇ってきました。 そして、ラストシーン。 やっぱり、よく分からない…… でも、そういうことなのかも、と 是枝監督の『あとがきにかえて「声に出して呼んで」』を読んで、思いました。
2019.10.13
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月原一整は、店主から預かった桜風堂経営に勤しむ。 書店主の孫・透との生活も順調。 一方、銀河堂書店の書店員たちは、一整が推していた『四月の魚』を 様々な手段を用いながら、星野百貨店を挙げて売り出しにかかる。 卯佐美苑絵は、『四月の魚』の手作り帯やPOP絵を描く。 苑絵の母の友人である女優・柏葉鳴海も一役買う。 そして、三神渚砂は、地元FM局での作家・蓬野純也との対談を通して 『四月の魚』のPRをするが、その際、蓬野純也から一整が彼の従兄弟だと聞かされる。『四月の魚』の重版が決まった頃、著者・団重彦が桜風堂を訪れる。さらに、柏葉鳴海までが現れ、かつての脚本家と女優が久方の再会を果たす。 ***というわけで、上下二巻を読みましたが、結局、お話としては「序章」部分が展開されただけでした。桜風堂店主の正体・名前は伏せられたままですし、一整と苑絵、渚砂との関係性も大きな進展がないままで終わってしまいました。著者は、最初からこのお話を、シリーズものとして書き始めたようです。ちょっと肩透かしを食ったような気分ではありますが、今後の展開を待つ楽しみが出来たのも事実です。続編を気長に待つことにしましょう。
2019.10.06
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風早駅前にたつ古い百貨店、星野百貨店の本館6階にある銀河堂書店。 そこで文庫担当をしていた月原一整は、ある日万引きをする少年を発見。 逃げる少年を追いかけるが、その少年が乗用車にはねられてしまう。 一整の行為は、世間から非難されるところとなり、彼は店を去ることに。 失意の一整が訪ねたのは、ネットで付き合いのあった一人の書店主。 彼が経営していたのは、山間の小さな町・桜野町にある古い書店、桜風堂。 ところが、その店主は入院していた。 そして、一整に会うと「うちの店を預かってはくれませんか?」と言うのだった。 ***一整の銀河堂書店での同僚、卯佐美苑絵や三神渚砂のエピソードも交えながら、お話は進んでいきます(お話の進み具合は、かなりゆっくりです)。一整だけでなく、桜風堂書店主の家族関係や、桜野町町長・福本薫、『四月の魚』の作者団重彦らが、この後の展開に大きく絡んできそうです。
2019.09.23
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木暮涼世、木暮桃子、木暮紀江、沢田恭子、山崎瞳、中村静子、堤昌子。 この7人の女性の視点から描かれる、13話から成る老親介護にまつわるお話。 全13話中4話でメインを務め、この作品の中核となる存在が、木暮桃子。 東京でイラストレーターをしていた彼女は、夫の浮気が発覚して離婚。 その後、同い年で同時期に離婚していた木暮隆行と知り合い53歳で再婚した。 東京から九州の鳩ノ巣に居を移し、すでに5年の月日を経ている。その桃子の姑が木暮涼世。83歳の彼女は、認知症を患った夫・木暮守の介護に疲れ切っていた。彼女の左目はほぼ視力がなく、さらに右目は緑内障と診断されている。これ以上ストレスで眼圧が下がると、失明の恐れがあった。そこで、涼世は夫をホームに入れることを決意。しかし、ムラ社会が残存するこの地では、本家や周囲の目がとても厳しい。その本家の妻が木暮紀江78歳で、3人の娘を育て上げ、それぞれ独り立ちさせてきた。ただ、38歳になる長男がまだ結婚しておらず、そのことに心を痛めている。木暮守のホーム入所を巡っては、長男の嫁である桃子への風当たりも相当厳しかった。そのことで相談に乗っているのが、美大時代の友人・沢田恭子。彼女自身も、フリーのイラストレーターをしながら子育てをし、現在は、長男の嫁として、認知症になった元小学校校長の舅の世話をしている。鳩ノ巣信用組合勤務・山崎瞳は、上司が桃子の夫・木暮守課長。39歳での高齢出産による産後ウツ症状が出ているうえ、認知症の姑との同居が決定。夫は家事に非協力的で、夫の姉妹は二人とも海外暮らし。育児と介護のため退職を考えるが、課長の勧めで介護休暇をとることになる。中村静子は、夫をすい臓がんで亡くし、一人娘はすでに独立して家を出ていた。舅は、4年前に脳梗塞で倒れ左半身に麻痺が残っているが、それ以来、妻が自分の金を使ってしまうという妄想にとりつかれている。そこで、舅は、嫁の静子に預金通帳を預け、再三その残額を確認するのだった。舅は、現在背骨を骨折して市民病院に入院しており、しばしば静子を呼び出していた。そして、その頃、木暮守も体調を崩して同病院に入院中。舅の世話をする木暮桃子と中村静子は、その家族控室で出会い、言葉を交わす仲に。やがて、静子は娘の進言で、死後離婚を決意するのだった。堤昌子は、付き添いの代行業を行っている。この度、市民病院に入院中の木暮守の世話をすることになった。 ***読む者に「介護」の現実を突きつける作品。登場するどのキャラクターにも共感できる部分があり、「正解なんてどこにもない」と思わずにはいられない。これまで人類が経験したことのない超難問だということを改めて思い知らされる。また逆に、木暮守の姿には、「生きる」ことの難しさ、大変さを感じずにはおれない。
2019.08.10
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副題は「薬剤師・毒島花織の名推理」。 第1話が「笑わない薬剤師の健康診断」、 第2話が「お節介な薬剤師の受診勧奨」、 第3話が「不安な薬剤師の処方解析」、 第4話が「怒れる薬剤師の疑義紹介」という4つのお話からなる本著ですが、 初出時のタイトルは、それぞれ異なっていました。『『このミステリーがすごい!』大賞作家書き下ろしBOOKvol.21』に掲載された「恋するホルマンと笑わない薬剤師」、『『このミステリーがすごい!』大賞作家書き下ろしBOOKvol.23』に掲載された「消えたステロイドとお節介な薬剤師」、そして、書き下ろしの「奇妙なクレーマーと笑わない薬剤師の秘密」と「俺様院長の理不尽な処方箋と笑わない薬剤師の過去」が、元々のタイトルです。メインキャラは、神楽坂のホテル・ミネルヴァのホテルマン・水尾爽太と、どうめき薬局の薬剤師・毒島花織。どうめき薬局は調剤薬局なので、『マンガでわかる薬剤師』と同じ舞台設定ですね。(『アンサングシンデレラ』の舞台は、総合病院の院内薬局です)毒島花織は、私がイメージする薬剤師らしい薬剤師。新井薫や葵みどりに比べると経験を積み、冷静沈着で知識も半端ないです。でも、試せる薬は自ら何でも口にするのは、葵みどりや『薬屋のひとりごと』の猫猫らと同じですね。
2019.08.04
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副題は「わが子を殺す親たち」。 「厚木市幼児餓死白骨化事件」と「下田市嬰児連続殺害事件」、 「足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件」の3つのケースについて記したもの。 著者が自らの足を使って収集した情報を駆使し、事件の真相に迫る。 ***2014年5月、その日13歳の誕生日を迎えるはずだった幼児の遺体が発見された。場所は神奈川県厚木市のゴミであふれかえったアパートの一室で、近隣の住民にも、行政の職員にも気づかれぬまま、遺体は7年もの間放置されていた。逮捕されたのは、男児と二人暮らしをしていたトラック運転手の父親だった。2014年10月、死亡時期の異なる乳児2人の遺体が発見された。場所は静岡県下田市の住宅で、天井裏にあった発泡スチロールの箱の中と、押し入れにあった衣装ケースの中に遺体はあった。逮捕されたのは、母子家庭で3人の子供を抱え、2度の中絶をしていた母親だった。2014年6月、3歳の幼児の遺体が発見された。逮捕されたのは、東京都足立区に暮らす夫婦で、3歳の次男をウサギ用ケージに監禁して殺害、他の子供たち伴って森に行き遺体を埋めた。翌日、夫婦は家族でTDLへ遊びに行き、約1週間後に6番目の子供を出産していた。 ***俄かには信じ難い発想や理由から、自らの子供を死に追いやった親たち。しかし、そこには彼ら、彼女らなりの理由があり事情があった。そこに見え隠れするのは、彼ら彼女らの成育歴。それでも、彼ら彼女らのしたことは、決して許されるものではない。
2019.08.04
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『君は月夜に光り輝く』のfragment(断章)の数々。 『四月は君の嘘』でいうと『四月は君の嘘Coda 』。 『もし、キミと』は、扉を入れてわずか5ページの超短編。 卓也が「死ぬまでにしたいことのリスト」を全てやり遂げた日の描写。 『私がいつか死ぬまでの日々』は、まみずと卓也のあの頃。 まみず視点の描写部分が新鮮。『初恋の亡霊』は、香山がまみずとの出会い、そしてその後の経緯を語る。卓也との因縁も、しっかりと描かれています。『渡良瀬まみずの黒歴史ノート』も、扉を入れて9ページの短編。まみずが、自分の部屋から持って来てと、卓也に頼んだノートに書かれていたのは……。『ユーリと声』は、本著の中で最も長いお話で、香山の大学生活を描いたもの。もちろん、一番読みごたえがあるのですが、エンディング……どうでしょう?『抱きしめて』は、医学部に進学した卓也のお話。まみずへの想いが語られています。 ***『君は月夜に光り輝く』を読んだ方なら、十分楽しめると思います。『ユーリと声』は、独立したお話としても、面白いものでした。
2019.07.27
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読む前に想像していたお話とは随分違っていました。 『君の膵臓をたべたい』とも違うし、 『また、同じ夢を見ていた』とも違う。 住野よるさんの新たな一面が見られる一冊。 夜になると化け物になる安達くん。 その姿で自分の教室に忘れ物を取りに行くと、 そこには、矢野さんがいた。 それ以後、二人は夜の教室の時間を共有することになる。矢野さんは、昼の教室では、一人ぼっち。彼女からあいさつをすることはあっても、それに対する返事は一切ない。と言うより、彼女に関わること自体が、教室ではタブーとなっている。もしその暗黙のルールを破る者がいようものなら……読んでいて、とても胸が苦しくなるお話。『聲の形』に匹敵するレベル。あちらとの違いは、こちらの方が最後までより救いがないこと。そのため、カスタマーレビューでの評価も、低いものが目立ちます。しかし、『聲の形』が「いじめ」の主体となった者視点からのお話なのに対し、『よるのばけもの』は、主体とは言い切れないものの「いじめ」にはしっかり加担していた者視点のお話であることに価値があり、また、よりリアリティに溢れているように思います。だからこそ、安易な解決に落とし込まず、読む者を嫌な気分にさせたまま、考えさせることを余儀なくさせる構成に、私自身は、とても意義があると感じました。
2019.07.21
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渡良瀬まみずは、私立中高一貫校の高校1年生。 発行病という、原因不明で治療法未確立の難病を患って、現在入院中。 中学1年生の5月から登校していないため、その存在を知る者はほとんどいない。 新担任の芳江は、クラスで寄せ書きを書かせ、それを彼女に届けるよう指示する。 その役割を引き受けたのは香山。 しかし、その香山は、日曜の朝に岡田卓也に電話をかけ、自宅に呼び出す。 卓也は、「風邪を引いた」という恩人・香山の頼みを断ることが出来ず、 知らない女子の見舞いに、かわりに行くことになったのだった。 「ねぇ、卓也くん。またそのうち遊びに来てくれる?」 「それから、お願いがあるんだけど」 「アーモンドクラッシュのポッキーが食べたくて」 「ダメ?」香山の再度の依頼で、再び病室にまみずを訪ねた卓也だったが、二度目の見舞いで用意していたポッキーを渡し損ね、三度目の見舞いに行くことに。すると、まみずは病室で「死ぬまでにしたいことのリスト」をまとめていた。そして、それらの事柄を、卓也がまみずに代わりやっていくことになったのだった。 ***もう、ここからはお約束通りの展開で、読む者の期待を裏切ることが全くありませんでした。『君の膵臓をたべたい 』と同じような流れ。私は『四月は君の嘘』がお薦めです。
2019.07.14
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ラングドンとアンブラは、遂にパスワードを探り当てる。 そして、迫りくるアビラを退けると、 バルセロナのスーパーコンピューティング・センターへと向かう。 二人は、そこでウィンストンと再会、カーシュのプレゼン配信に成功する。 われわれはどこから来たのか。 そして、われわれはどこへ行くのか。 カーシュは、その問いに対し「生命は物理の法則に従って自然に発生した」、 そして「新たな種がわれわれを吸収する」と語る。その頃、バルデスピーノ司教は、フリアン王子と共に「戦没者の谷」にいた。そこには、最期の時を迎えようとしていたスペイン国王も。父は息子に数十年に及ぶ秘密を打ち明けると共に、ある依頼をする。後刻、国王は息を引き取り、司教もその後を追ったのだった。 ***そして最後に、この一連の出来事を背後から操っていた真犯人、monte@iglesia.org、そして宰輔の正体が明らかになります。巻末の「解説」を書いた松尾豊さんは、AI研究の最前線を行く方。今回は、お話はシンプルだったけれど、色々と考えさせられる作品でした。
2019.07.14
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ラングドンとアンブラは、 今日の公開されるはずだったカーシュのプレゼン動画を 遠隔操作で公開するために必要なパスワードの手掛かりを求めて カーシュが住んでいたバルセロナの「カサ・ミラ」に向かう。 その頃、ユダヤ教ラビのイェフダ・ケヴェシュは、何者かにより命を断たれ、 バルデスピーノ司教は、フリアン王子と共にマドリードの王宮を脱出した。 アビラは、ラングドンとアンブラを追ってバルセロナに向かい、 近衛部隊隊員フォンセカも、ディアスと共に二人を追っていた。王宮では、近衛部隊司令官ガルサが、カーシュ殺害に関与したとして部下たちにより捕らえられ、広報コーディネーターのモニカ・マルティンがその声明文を読み上げた。そして、ラングドンがアンブラを拉致したとし、所在の情報提供を呼び掛けた。二人の前に、近衛部隊隊員フォンセカとディアスの乗ったヘリコプターが現れる。しかし、未来の王妃・アンブラの指示によって、ヘリコプターは王宮ではなく、パスワードの手掛かりのありそうなサグラダ・ファミリアを目指す。が、そこでディアスが、何者かによって殺害されてしまったのだった。 ***今巻では、ラングドンとアンブラとを追うアビラが、パルマール教会の熱心な信者になり、カーシュ殺害に至った経緯が詳しく記されています。このパルマール教会と教皇クレメンテがキーを握っていそうです。
2019.07.06
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エドモンド・カーシュは、コンピューター科学者であり、未来学者でもある。 そんな彼が、スペインのグッゲンハイム美術館に各国からVIPを集め、 世界中の宗教信者に深刻な影響を与える重大発表を行うことになった。 彼の師であるロバート・ラングドンも、そこに招かれる。 それに先駆け、カーシュは三人の卓越した宗教指導者に会っていた。 カトリック教会の司教であるアントニオ・バルデスピーノ、 ユダヤ教のラビであるイェフダ・ケヴェシュ、 そして、イスラム教の法哲学博士であるサイード・アル=ファドル。発表を前に、アル=ファドルは、ドバイの砂漠の最奥で息を引き取る。そして発表最中の会場で、カーシュ自身も殺害されてしまう。彼に銃弾を放ったのは、スペイン海軍退役提督のルイス・アビラ。自らの使命を果たしたアビラは、会場から逃走する。そして、殺害現場に集まって来た近衛部隊。ラングドンは、教え子の望みを叶えるため、当日のイベントで司会を務めていた美術館館長のアンブラ・ビダルと共に、カーシュが設計したAIのウィンストンの力を借りながら、美術館を脱出する。彼女は次期国王であるフリアン王子の婚約者でもあり、王子からの伝言で、アビラが会場に入ることを許可した張本人だった。その頃、バルデスピーノは、ケヴェシュをマドリードにおびき寄せると共に、スペインにおけるカトリックの地位を堅守すべく奮闘していた。 ***今回も逃走、そして暗号の解読です。『インフェルノ』を読んでから約2年。さて、今回の結末は誰もが納得いくものになっているのでしょうか。それでは、中巻の読書に突入します。
2019.06.30
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コース料理を楽しんでいて、 次はいよいよメインディッシュだと待ち構えていたら、 いきなりデザートが、さらに矢継ぎ早にコーヒーが出てきた気分。 何……これ? ショパンコンクールで カイの演奏シーンがない『ピアノの森』なんてあり得ない。 東日本ピアノコンクールで 公生の演奏シーンがない『四月は君の嘘』なんてあり得ない。確かに、本選には残れなかったコンテスタントの一人である明石だけでなく、彼のドキュメンタリーを撮影している雅美や、審査員の美枝子、亜夜の傍に寄り添う奏、ステージマネージャーの田久保など、コンテスタント以外の視点から描き出されるコンクールには、とても新鮮さを感じました。けれど、直木賞と本屋大賞をW受賞した作品も、私の中では『チョコレートコスモス』を超えるものにはなりませんでした。まぁ、これも私が『ガラスの仮面』を読んだことがないから、そう思ってしまうのかも。逆に『ピアノの森』を読んでいるから、本作に対しこのように思ってしまうのかも。「天才を描くのが上手い」と言われる恩田さんなら、最後まできちんと天才を描き切って欲しかったです。それをしないまま、連載時には明かされなかった「審査結果一覧」を、出版に際し、巻末に入れてしまったのは……残念です。
2019.06.16
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芳ヶ江国際ピアノコンクールは3年毎に開催され、今回が6回目となる。 ここで優勝した者は、その後著名なコンクールで優勝することが続き、 新しい才能が現れると注目を集め、近年その評価を高めている。 今回も、様々なコンテスタントたちが、そこに集う。 風間塵は、パリ国立高等音楽院特別聴講生で、 ユウジ・フォン=ホフマンに5歳から師事していた16歳の少年。 ホフマンは世界中の音楽家や音楽愛好者から尊敬される伝説的存在だったが、 今年2月にひっそりと亡くなっていた。「僕は爆弾をセットしておいたよ」ホフマンは亡くなる前、知人にこんな言葉を残していたが、それが風間塵。自分のピアノを持たず、養蜂家の父と共に移動生活をしながら、行く先々で、そこにあるピアノを自己流で弾かせてもらっていたという。 栄伝亜夜は、内外のジュニアコンクールを制覇し、CDデビューも果たしていた逸材。しかし、彼女が13歳の時、最初の指導者であり優秀なマネージャーでもあった母が急死。それが原因で、彼女はある地方コンサートホールのステージから突如姿を消してしまう。そんな彼女が大学に進学する際、手を差し伸べたのが名門私立大学長・浜崎だった。高島明石は28歳の楽器店店員で、妻と保育園に通う子供がいる。音大を卒業したもののプロの道を目指さず、「普通のところ」を選択した。今回のコンクールでは、高校の同級生・仁科雅美の依頼で、彼にスポットを当てたTVのドキュメンタリー番組の撮影が行われている。マサル・カルロス・レヴィ・アナトールは、ペルーの日系三世でジュリアード在籍。人気ピアニストのナサニエル・シルヴァーバーグの秘蔵っ子で、今回の優勝候補。彼は5歳から7歳まで日本に住んでおり、その際、ピアノに出会ったのだが、その切っ掛けをつくったのが幼き日の栄伝亜夜で、二人は今回偶然の再会を果たす。 ***上巻は、パリでのオーディションから始まり、第一次予選での4人の演奏と、第二次予選での明石とマサルの演奏まで。この作品の主人公は、「蜜蜂王子」ことカザマ・ジンだと思われますが、私としては、アーちゃんに頑張ってほしいな。それでは、下巻の読書を開始します。
2019.06.09
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映画は、まだ観ていません。 野村萬斎さんの顔が怖すぎて、ちょっと引いてしまう…… 本著を読んで私が持った八角さんのイメージとは、かなり乖離。 及川光博さんが、原島というのも違うなぁ…… さらに、片岡愛之助さんの坂戸も、ピンとこない。 そんな中、朝倉あきさんの浜本優衣はイイと思います。 まぁ、映画になった時点で、もう原作とは別の作品なんですから、 こんなことで、グチグチいうのはダメですね。 ***大手総合電機メーカー・ソニックの子会社・東京建電。そこで起こったデータ偽装事件を軸に、お話は展開していきます。第1話は、営業二課課長の原島万二、第2話は、東京建電の下請ネジ工場であるねじ六社長・三沢逸郎、第3話は、営業四課の浜本優衣、第4話は、経理課課長代理の新田雄介、第5話は、カスタマー室長の佐野健一郎、第6話は、営業部長の北川誠、第7話は、副社長の村西京助、そして第8話は、営業一課係長の八角民夫の視点で、それぞれ描かれています。それぞれのキャラクターの視点から見た東京電建が描かれるだけでなく、それぞれの生い立ちやその家族についても言及されていて、「サラリーマン人生」について考えさせられる作品です。これも池井戸さんの代表作と言える、素晴らしいものでした。
2019.05.03
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村上さんがこれまでに翻訳してきた作品を紹介した一冊。 1981年から2017年まで、30年以上に及ぶ期間の仕事について、 村上さん自身が振り返り、記したものだけに、 どれもこれも興味深いものばかり。 カーヴァーの作品がやはり多いが、 フィッツジェラルドやサリンジャー、チャンドラー以外にも、 本当にたくさんの作家の作品を翻訳してきたことに驚かされる。 また、これを好きでやっていると言えるところもスゴイ。翻訳業の師匠役・柴田元幸さんとの対談も素敵だった。 「どんなに難しい内容でも、 一回読んで内容がいちおうすっと頭に入るというのが、 優れた翻訳だと思うんです。 読者をそこでいったんストップさせてはいけない。 流れを止めてはいけない。 もちろんもう一度じっくりその文章を読み返したいと思って 読み返すのはいいんですが。」(p.115)村上さんが翻訳し、初めて活字になった作品である『サヴォイでストップ』は、全文掲載されており、それについての村上さん自身の文章も添えられている。手元に置く資料としても価値ある一冊。
2019.05.03
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村田さんの作品を読むのは、『コンビニ人間 』に続いて2冊目。 今回の作品は、お話の展開自体はスッと頭に入って来るけれど、 作者がこの作品を通じて伝えたかったことを十分理解できたかと問われると…… 巻末の「解説」も、私には今一つピンとこないものでした。 *** 「昔はね、朔くんみたいによそに女を作るほうが、 ずっといけないことだったのよ。 妻とセックスするくらいいいじゃない。 あんただってそれで生まれたのよ」 「今は違うわ! 結婚するときは、絶対に互いを家族として扱うこと、 つまり性的な目で見たり恋愛対象にしたりしないことを誓い合うのよ。 それを破るのは酷い裏切りよ」(p.153)これは、主人公の雨音の母親と、雨音自身との会話。この作品の世界では、夫婦間の性的関係はタブー視され、子どもは人工授精で産むのが当然とされています。雨音の元夫は、その裏切り行為により雨音から離縁されてしまいました。雨音は、その後、朔と再婚したのですが、もちろん二人の間に性的な関係はなく、逆に、それぞれに異性の恋愛対象がいて、そこには性的な関係もあります。雨音は、この世界では異質な誕生の仕方をした人間ということであり、そのことが、彼女に様々なことを考え、悩ませる要因となっています。そして、夫である朔が、恋愛対象の女性と離別することになったことを契機に、雨音と朔は「恋のない世界」、実験都市・千葉へと逃亡していくのです。 『家族(ファミリー)システム』は、 知能が高い動物には不向きな繁殖システムであることは、 各研究所の論文により証明されています。 『楽園(エデン)』では、全員がすべての『ヒト』の子供であり、 『おかあさん』です。(中略) 『ヒト』の子供を育てるための餌と巣はすべてセンターが提供します。(中略) 『楽園(エデン)』での大人たちの義務は二つ。 一つ目の義務は、葉書がきたら年齢・男女を問わず受精して、 繁殖に肉体的に協力すること。 二つ目の義務は、子供たちの育成に精神面で協力すること。 具体的には、すべての大人が、 子供たちに『愛情のシャワー』を浴びせる存在になることです。(p.201)これは、雨音と朔に施されたセミナーでの説明。そこは、『すばらしい新世界 』を彷彿させる世界です。朔は、出産を通じて、この世界にすっかり順応していくことになりますが、雨音はと言うと……ラストシーンは難解
2019.05.01
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史上二人目の七冠保持者であるプロ棋士・取海創。 そして、AI研究で注目を浴びる東都大学理学部情報工学科教授・相場俊之。 二人は24年前、小学2年生だった時に将棋を通じて仲良くなり、 隣町の将棋クラブや遠方の将棋道場で実力を高め、4年時に奨励会に入会した。 その後、二人は順調に昇格し、史上初の小学生プロ棋士を目指すまでに。 そして6年時の9月、三段リーグ最終戦での二人の対戦は、取海が勝利。 同率2位となった二人は、どちらかが小学生プロ棋士になることになるが、 相場は、父との約束に従って、奨励会を退会することを宣言する。 相場は、4年生から難関中学受験に向けて、学習塾にも通い始めており、そこで、塾長に数学の能力を見出され、算数オリンピック出場を勧められていた。私立中高一貫学校に進学後、数学クラブとコンピュータ・クラブに所属した相場は、国際数学オリンピックに出場し、中3時に銀メダル、高1時に金メダルを獲得する。その後、相場は東都大学理学部数学科に進学し、大学院博士課程を終えようとした時、アメリカのICT企業から、特別研究員ポストの話が舞い込んでくる。そして、MIT情報工学科で共同研究をした後、人工知能の第一人者として母校に戻り、最年少で教授になってからは、将棋ソフト開発を進める学生の指導にも当たっていた。 ***お話は、過去と現在が行き来しつつ進行していきます。現在のお話は、相場の父が経営する工場への米国企業による研究協力提案話と、将棋ソフトと七冠保持者・取海との対戦実現に向けての動きを軸に展開し、最後には、取海と相場が久しぶりに対局することになります。さすがに高嶋さんの作品だけあって、読みごたえは十分。それにしても、相場、スゴすぎ。
2019.03.24
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猫猫の父・羅漢は、碁の達人。 彼に勝てるのは、今上陛下の指南役である棋聖くらい。 そんな羅漢が、これまで指してきた碁の棋譜を掲載した書を出版。 これが契機となって、宮中では碁が一大ブームに。 そして、都の北にある劇場で、碁大会が催されることになりました。 その参加料は銅貨十枚で、羅漢に挑戦するには銀十枚が必要。 しかし、羅漢は囲碁が強い人間に対しては、比較的敬意をもって接する人物です。 壬氏は、羅漢に挑み勝利すべく、棋聖の指南を受けることにしたのです。今巻は、高順の息子であり、馬閃の兄・馬良と、その姉・麻美(マーメイ)が登場。どちらも優れた能力を持ちますが、馬良は人前に出ることが苦手で、麻美は超勝気。麻美は母親似らしいので、高順の家庭での立場も容易に想像されます。二人は、壬氏の側で仕える役どころで、今後も頻繁に登場することになるでしょう。そこに、刑部高官の三つ子の息子たちの女性問題が絡んできます。さらには、玉葉后の父・玉袁や、現在父に代わり西都を統括する兄・玉鶯、そして、玉鶯の養女(異民族の娘)等々。この玉葉后周辺の動きが、今後のお話の核になっていきそうです。さて、壬氏は羅漢との対戦で、勝利まであと一歩のところまで迫りましたが、例の三つ子問題に関わる突然のハプニングで、対戦は中断してしまいます。そして、日を改めての継続戦では、羅漢に優勢を一気にひっくり返され、敗戦。羅漢は「何が目的か知らないが、手段は面白かった」と言い残し、去って行きました。その後、壬氏は、主上、玉葉后、猫猫の前で、帝の臣下となることを願い出ます。そして、思いもよらぬような行動を断行します。その上で、「よほどの信用できる女でなければ、妻にできなくなった」の一言。それにしても、何と強引な……
2019.03.10
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『マスカレード・ホテル』の前日譚。 山岸尚美が登場する「それぞれの仮面」と「仮面と覆面」、 新田浩介が登場する「ルーキー登場」、 そして、二人が共に登場する「マスカレード・イブ」の4つの短編で構成。 本著タイトルである「マスカレード・イブ」は、 開店したばかりのホテル・コルテシア大阪が舞台となっており、 そこで起こった事件に、尚美と新田が関わっていくことになります。 ただし、二人がこのお話の中で、直接絡むことはありません。そして、その「エピローグ」部分のお話は、まさに『マスカレード・ホテル』のお話の発端となるエピソード。ですから、『マスカレード・ホテル』を既に読んだ方は間違いなく楽しめます。4つの短編は、いずれも「さすが東野さん!」といえる完成度。もちろん、後日譚未読の方も、何の支障もなくお話を楽しむことは出来るはず。そして、読後には、ぜひ『マスカレード・ホテル』を読むことをお勧めします。
2019.02.10
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映画が公開中なので読んでみました。 映画はまだ観ていませんけれど…… でも、新田浩介の役は、キムタクにピッタリだと思いました。 山岸尚美を長澤まさみが演じるのは……まぁアリかな。 お話の舞台は、都内で起きた3件の連続殺人現場に残された暗号を解読した結果、 次の犯行が予想されるホテル・コルシア。 その女性フロントクラークが山岸尚美で、 そこに潜入捜査にやって来たのが刑事・新田浩介。事件に関係のありそうな、怪しげな人物が次々にホテルにやって来ます。そして、そのそれぞれが「なんだ、関係なかったのか」と思っていたら……ラスト30ページ程になってからのスリリングな展開は絶品!!さすが東野さんです。さて、お話の面白さはもちろんですが、それ以上に、私がこの作品で深く印象に残ったのは、次の言葉。 「そのお気持ちだけで十分です。 私共は従業員全員でお客様へのサービス提供に努めております。 いわばチームプレイなんです。 ですから、お客様に喜んでいただけたとしても、 誰か一人の功績というわけではありません。 逆にいいますと、もしけしからん従業員がいて、 お客様にご迷惑をおかけするようなことがあった場合も、 その者一人ではなく、ホテル全体の責任だと考えております」(p.71)山岸尚美は、かつて大学受験のためにホテル・コルシアに宿泊しました。ところが、受験当日、母から渡された合格祈願のお守りを、ホテルの客室に忘れてしまったのです。にもかかわらず、そのお守りが、なんと試験開始前に会場に届いたのです。尚美は、試験が終わってからホテルに戻り、礼を言おうとしますが、誰に言えばいいのかわからず、1階でぼんやりと立っていました。そこに近づいてきた男・副総支配人の藤木が、尚美にかけたのが上の言葉です。藤木は、やがて総支配人となり、尚美はその下で働くようになったのでした。そこら辺のビジネス書より、ガツンと来ました。
2019.01.27
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