貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2006/12/09
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カテゴリ: 窓の記憶(旧)
「金糸雀は二度鳴く」「金木犀は嘆く」に続く『火消し』シリーズ新作、連載開始です!!


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「人でない者と人の子と」#01-1


朱雀は”人でなくなって”から夜の外出を好む様になった。それは本来のお役目である「異人狩り」の為でもあったが、夜のドライブが楽しかったのだ。竹生(たけお)と三峰(みつみね)は風に乗り、天翔ける事を好んだが、朱雀は彼の目には真昼も同然の闇の中を、愛車を駆り気ままに行くのが好きだった。

朱雀は”外”では表向きは大会社の社長であったから、それに相応しく外国車に乗っているが右ハンドルの車である。良くある独逸車ではなく、英国の深い森の色をした車である。内装も古き良き時代の香りがする。無味乾燥な合理性と機能性だけではなく、居心地の良さを感じさせてくれるのが、朱雀の好みに合っているのだ。

朱雀は八年余りを夫婦として暮らした加奈子を数年前に突然に亡くした。クモ膜下出血だった。台所で倒れているのを発見され、そのまま意識が戻る事無く帰らぬ人となった。余り苦しまずに逝った事がせめてもの慰めだと、義理の息子の和樹と語り合った。和樹はすでに大学生になり、親離れが出来る歳になっていた。朱雀と和樹は、加奈子と三人で暮らした部屋を出て、別々に暮らし始めた。

そして・・異人・鞍人(くらうど)とその妹の舞矢(まいや)に始まった佐原の村を揺るがす戦いで、朱雀はかつて恋人だった舞矢を自らの手で葬り去った。朱雀は加奈子の死後、和樹達と家族となる前に一人住まいしていた摩天楼のマンションに戻り、しばらく暮らしたものの、余りにも舞矢との思い出が多過ぎるこのマンションを結局は引き払い、今は別の場所で暮らしていた。やはり高層マンションの最上階で、広いベランダがあった。ベランダは”人でない者”達にとっては玄関の様な場所であった。そこから彼等は風と共に朱雀を尋ねて来る。朱雀の忠実な部下である進士は”執事”として、変る事無く朱雀の身の回りの世話をしていた。

和樹は堅実な青年であったから、朱雀の援助が充分にあろうとも、大学生に相応なアパートを借り、倹しく暮らしていた。食事も自炊で器用に作っていた。和樹は義父の朱雀の様に人目に立つ美貌ではなかったが、落ち着いて知的な、人々に好感を持たれる青年になっており、それなりに女の子の影も周囲にちらほらしていた。朱雀と和樹は、お互いをほとんど干渉する事はなかった。朱雀は、相談をされれば助言を与えるが、学校も進路も選択は和樹の意志を尊重した。和樹は大学で経済を学び、在学中から朱雀の会社の経営に携わる様になっていた。今では専務として、社内でも様々な事をまかされる立場になっていた。その分、朱雀は身軽になった。和樹は『奴等』との戦いより、会社の経営の方が向いている様であった。古参の社員達も、将来の社長としての和樹を頼もしく思っていた。

『火消し』の古本屋は、今も幸彦(ゆきひこ)が店主だったが、実際の切り盛りをしているのは三峰だった。幸彦と真彦の親子は古本屋のビルの二階で二人で暮らしていた。二人を守る為に、白神(しらかみ)を中心とした”盾”が同じビルにいた。そこには朱雀の会社の警備部の分室があった。白神と本社で警備部の部長となった磐境(いわさか)、佐原の村で盾の長となった久遠(くおん)等は密に連絡を取りながら、来るべき『奴等』との戦いに備えていた。幸彦と真彦の父子は、仲睦まじく暮らしていた。最愛の人であり母であった舞矢を失わねばならなかった痛みは残ったものの、「夢の力」を有する彼等は『奴等』との戦いを宿命付けられた自分達の事を受け止め、支えあい生きていた。三峰を始め、周囲の者達は二人を暖かく見守っていた。

三峰に幸彦の守護をまかせた竹生は、古本屋のビルの地下で三峰と共に昼間の寝所を持っていた。”人でない”彼等は、昼間は全身を激痛に苛まれる。それを少しでも和らげる為に漆黒の闇の中に身を横たえているのだ。そして地下にはもう一人、目覚めぬままに時を過ごしている者がいた。竹生はそれを見守っていた。



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『金糸雀は二度鳴く』主な登場人物の説明はこちらです。


『火消し』シリーズの世界の解説はこちらです。


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Last updated  2006/12/12 01:35:44 PM


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龍5777 @ Re:白衣の盾・叫ぶ瞳(3)(03/24) おはようございます。 「この歳で 色香に…
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