貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2007/10/24
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「カナと和樹の事もお前に任せっぱなしだったな。礼を言う」
「和樹はすっかり会社経営が板についてますよ」
「元々戦いに向いていなかったからな」
神内の声が深くなった。
「カナも幸せだった様だな」
亡くなった妻の事を言われ、朱雀は目を伏せた。
「幸せであってくれたなら、良いのですが」
神内は拳骨にした右手の人差し指の関節で、コツコツと机を叩いた。
「遠回しの会話はやめよう。お前だって気が長い方ではあるまい?」

「さすが『火消し』ですな」

神内はずばりと言った。
「御影百合枝の事だろう」
「ええ、まもなく姓が変わりますが」
「らしいな」
朱雀は尋ねた。
「彼女も『仲間』ですか?前の私、黎二郎の妻、艶子の生まれ変わりですか?」
神内はすぐには答えなかった。二人は互いの目を見詰め、どちらもそらさなかった。

朱雀の目を見詰めたまま神内は言った。
「彼女の容態はどうだ?」
「遠まわしな会話をやめようと言ったのは貴方ですよ、神内」

「彼女が運命を受け入れるなら」
朱雀の目が燃えた。魔性の輝きが瞳を赤く染めた。
「私が彼女を守ります」
神内は言った。
「その為にお前は、一人であの異人を倒しに行こうとしているな」

朱雀は即座に答えた。強い決意がその声にあった。

「それは『火消し』の戦いではない」
「解っております。ですから貴方に加勢はお頼みしません」
「すべてを断ち切って、次の戦いへ臨むと言う事か」
「はい」
神内は両手を頭の後ろに組むと、椅子の背にもたれた。ギイと椅子が鳴った。
「俺達の仲間はとても少ない。これほどに少ない事は今までになかった」
朱雀は顔をそむけた。
「私には解りません」
「お前には無事でいて欲しい」
朱雀は身構えた。
「行くなとおっしゃるのですか」

神内は唇を尖らせた。椅子を左右に小刻みに回転させた。ギイギイと椅子が鳴った。神内は正面を向くと両肘を机に着き、両手で顎を支えた。
「生きて帰って来い、死ぬ事は許さん」
神内の瞳の中には黒々と踊る楽しげな感情があった。
「どうせ、止めても無駄だろうしな」
朱雀は立ち上がると深々と頭を下げた。



(続く)
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Last updated  2007/10/24 05:30:56 PM


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