貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2010/11/05
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「ああ、キミと同じだ」
「詩織さんに?」
「鍬見の容態が持ち直した。毒が消えていた」
「貴方、お願い」
「何だね」
「詩織さんの気持ち」
「困った事になったな」
「二人を引き裂く事だけはしないで」


安楽椅子の百合枝を軽く抱きしめると、朱雀は出て行った。

目が覚めると、詩織は寝台に横たわっていた。詩織は起き上がり、部屋を見回した。鍬見の病室と似たような部屋だった。違うのは、白いカーテンの向こうの、窓の外が明るい事だった。鍬見の病室で意識を失った後、ここに連れて来られたのだろう。同じ病院の何処かに鍬見がいる、生きている。その事実だけは確かめたいと思った。

「失礼致します」
一人の医師が入って来た。見覚えがある顔だった。百合枝の元に、鍬見に従って来たのを見た事がある。確か金谷(かなや)と言った。鍬見と同じく穏やかさと知性を感じさせる細身の男だった。白衣のボタンがきちんと嵌められていた。
「ご気分はいかがですか」
「少し、ぼんやりしています」
「頭痛や吐き気は?」
「ありません」
金谷は頷くと、手にしたファイルに何かを書き込んだ。
「金谷先生」
詩織が言うと、金谷は微笑んで言った。

「鍬見さんは、どうなったの?」
金谷の笑みが消えた。
「ご無事です。それ以上は、私の立場ではお答え出来ません」

詩織は、佐原の村への猛烈な反発を覚えた。百合枝と再会を果たしてからずっと感じていた不満が爆発した。
「立場とは何ですか?では幸彦様に連絡をして下さい。あの方が一番上なのでしょう?すべてあの方が命令しているのでしょう?鍬見さんを閉じ込めて、私を閉じ込めて」

「私は佐原の人間ではありません。幸彦様は佐原の村では偉い方でも、私を自由にする権利はありません」

「僕は、そんなつもりは・・」
二人は戸口の方を見た。花束を抱え、顔面蒼白の幸彦が立っていた。傍らに朱雀が居た。朱雀が素早い身のこなしで病室に滑り込んだ。深く豊かな声が優しく言った。
「少し気が立っているようだね、詩織」
朱雀は振り返り、幸彦に言った。
「私が説明致しましょう。控え室でお待ち下さい」
そして金谷に言った。
「幸彦様のお側に」
金谷は安堵の表情を浮かべて一礼した。


(つづく)






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Last updated  2010/11/09 12:23:44 PM
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