音楽雑記帳+ クラシック・ジャズ・吹奏楽

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bunakishike

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2023年08月29日
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カテゴリ: クラシック音楽

今年も、恒例の藤倉大の自主レーベルでの作品集が発売された。
従来よりは小粒な感じのアルバムになっているが、筆者を新たな未知の領域へ案内してくれる点では、これまでと変わりない。
アルバムは小規模な編成のヴィオラ協奏曲と9曲の器楽曲から構成されている。
器楽曲は和楽器と西洋楽器が混在しているが、違和感はない。
藤倉の内面では和楽器と西洋楽器の区別はなく、どの音楽も藤倉特有の気分が感じられる。
タイトルチューンの「Wayfinder」は道しるべとでも訳すのだろうか。
ブックレットに書かれた作曲者の言葉によると、『ポリネシアの航海/星の航法や他の先住民族の航法の概念に触発されたヴィオラ協奏曲』とのこと。
具体的には自分の位置を知るために、海のうねり、風、太陽、雲の色と形、そして鳥の渡りを使用するというもの。

作曲者によると『オーケストラが奏でる音と音符は、星、海の波、風、そして太陽そのもの。
独奏者は舟に乗り、星々や他の自然の要素に導かれながら進んでいく。これこそが、まさに一つの航海なのだ』とのこと。
この解説を読んでみると、なるほど、海の気分が感じられ、マリンバが入ってくるところではトロピカルなムードも感じられる。
武満との近似性を感じさせつつも、木管を中心としたミクロの描写と海や風を思わせる大自然の壮大な描写には、いつもながら戦慄を覚える。
カデンツァは最後に配置され、細かな音符やフラジオレットが聞かれるが、静かで瞑想的な雰囲気が漂う。
漆黒を思わせるダークで充実したサウンドのヴィオラのソロが素晴らしい。
器楽曲は小林沙羅による委嘱の「夜明けのパッサカリア」以外は委嘱者自身の演奏。
「Chirping Bird」は日本語だと「さえずる鳥」という意味だ。
オリジナルは中村功とここでも演奏しているレオニー・クラインの二人の打楽器奏者のための作品「Chattering Birds for percussion duo」( Cattering Birds 現代打楽器作品集(wergo) 収録)で、それをもとに作曲者とクラインが共同で編曲したもの。
パーカッションの曲は大音量というのが付き物だが、ここではそれを逆手にとって音量をできるだけ小さくする方法を考えたそうだ。

半分以上がフィンガーシンバルが忙しなく鳴るガムラン音楽を思わせる音楽。
4'40"過ぎからガラッと変わって水笛?が主役となる。
何とも不思議な感じがする音楽。
「Yuragi(揺らぎ)」は、フランス国立ブルターニュ管弦楽団により委嘱された尺八協奏曲の一部。
尺八の高音がフルートみたいに聞こえるところが面白い。

コントラバスのための「ブラスト」
冒頭はピチカートの一種なのだろうが、コントラバスが高音域でキーキー鳴っているような聞いたことのないような不思議なサウンド。
途中からボーイングに変わるが、ハーモニックスを交え、ぎこぎこと何やらのイズっぽい音がでる。
再びジャズ風のウォーキングベースになると、俄然面白くなる。
線が細いとはいえ、クラシック畑のコントラバス奏者とは思えないような鮮やかな技巧のピチカートでびっくりしてしまった。
とっつきにくい外観だが、なかなか刺激的な音楽で、このアルバム中最高の聴きものだろう。
ピアノフォルテのための「パスト・ビギニングス(過去の始まり)」
河合楽器制作のAnton Walter 1795, Wienの複製楽器(1995)が使われている。
このアルバムでは敢えてピアノ・フォルテの膝ペダルの作動音も加えられていて、曖昧模糊としたサウンドが楽しめる。
最後はマンドリンによる「クイル」
藤倉のこの楽器のための初めての作品。
藤倉はこの楽器固有の脆弱で繊細な音の世界に魅了されたようで、この世界を保護したいとまで述べている。
柴田高明のマンドリンの演奏が大変すばらしい。
録音は、いつもながらのノイズ感の全くないもの。
器楽曲では楽器そのもの音が眼前で鳴っているような立ち上がりの鋭いサウンドが満喫できる。
協奏曲のサウンドもライブと思えないようなノイズ感のない厚みのある音で、器楽曲と遜色のない出来。
ということで、今回も新しい発見があり、楽しく試聴することが出来た。
分かりやすく、知的興味を刺激する音楽として、広く聴かれてほしい。

Dai Fujikura: Wayfinder
藤倉 大:
01. ウェイファインダー~ヴィオラ協奏曲(Ensemble Versio live)
02. チャーピング・バード
03. サンドパイパー
04. Yuragi (ゆらぎ)
05. ハーフムーン
06. ブラスト
07. Sawari(さわり)
08. ドーン・パッサカリア
09. パスト・ビギニングス
10. クイル/柴田高明

A.L.ランツィロッティ(va track 1)
アンサンブル・ノマド(track 1)
佐藤紀雄(cond track 1)
レオニー・クライン(per. track 2)
ジョシュア・ルービン(cl track 3)
藤原道山(尺八 track 4)
久保田晶子(琵琶 track 5)
佐藤洋嗣(b track 6)
本條秀慈郎(三味線 track 7)
篠原悠那(vn track 8)
小川加恵(p track 9)
柴田高明(mandolin track 10)





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Last updated  2023年08月29日 16時03分41秒 コメントを書く
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