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たとえば、チャン選手の超高止まりの演技構成点について、「スケートがよく滑るから」「ひとかきでの伸びが違うから」などと、スケートの技術の素晴らしさを持ち上げての説明がされてきた。だが、グランプリファイナルで演技審判がチャン選手に与えた演技構成点を見ると、 スケートの技術8.71つなぎ 8.54パフォーマンス8.50振付 8.86音楽の解釈9.00と、「解釈」が一番高いのだ。音楽性に定評のある高橋選手(不調だったが)でさえ、8.25点。それを見事にぶっち切っている。チャン選手のスケートの技術の巧みさは褒める解説者が多いが、音楽表現をことさら賞賛している解説者はほとんどいない。Mizumizuにはチャン選手の表現は、わざとらしい顔芸やワンパターンな上半身のポーズを含め、「老けた劇団ひまわり」とでも言うのがぴったりに思える。にもかかわらず、チャン選手はいつの間にか、世界で比べる選手がいないくらい音楽の解釈に優れた選手に上り詰めたということだ。ここまで来ると、チャン選手を貶めたくてワザとキチガイじみた高得点を出しているのではと疑いたくなるくらいだ。実際、こうして高下駄を履かせれば履かせるほど、一般のファンはウンザリし、元来素晴らしい選手であるチャン選手の世界的な評判は下がっていく。選手を仕分けして勝者をコントロールしようとしているISUに対する、従順なるジャッジの嫌がらせですか?ソニア・ビアンケッティ氏は、転倒しても当たり前のようにチャンに与えられる破格の演技構成点について、「ISU規定のどこかに、お尻で直に着氷したジャンプを演技構成点で過大評価すべしという新しいルールがあるに違いない! そうでなければ、スケートカナダのショートとロシアカップのフリーで3回も転倒したチャンに何人かのジャッジが与えた8から9という得点を誰が説明できるだろう」と痛烈に批判した(全文はこちら)。日本では、ジャンプで転倒しようがパンクしようが世界一の得点を出すキム・ヨナについて、「尻もち加点」などと揶揄する声があったが、同じことをとうとう、オリンピックでジャッジまで務めたフィギュア界の重鎮が発言した。日経新聞の小塚選手のインタビューによれば、ジャッジは「目が合うと対話をしているようで、点をあげたくなる」と言ったらしい。そんなことで選手と対話をしているような気分になるとは、ずいぶん単純な感性のジャッジだ。おまけに点というものは、「あげたくなる」からあげるものらしい。さかんに解説者が、「目ヂカラ」だとか「ジャッジへのアピール」だとかが大切だと解くわけだ。だが、この感覚はそもそも間違っていないか。選手は何よりまず観客のために演技をする。それを公平に審査するのがジャッジのはずだ。そういえば、「ジャッジに愛されている」選手がいて、そういう選手は点が出るのだという。ジャッジの寵愛を受けるかどうかで出る点が変わるなど、いつからフィギュア界はハーレムになったんですか! 説明つかないデタラメ採点をしているから、こんなワケのわからない説明になる。どこまで適当なのか。いい加減にしてほしい。ソニア・ビアンケッティ氏は同じ記事の中で、「スケーティングで『自分は何を得られるか』ではなく、『自分は何を与えられるのか』に立ち帰らなければ、(フィギュア)の魔力は戻ってこない。スケーターはジャッジではなく、観客のために演技をすべきなのだから! スケーターは自由を制限するルールや規定すべてにうんざりしている。自分を表現したり、観客とコミュニケーションを取ったりする時間もない。そして、ISUがあくまでこのことを無視しつづける限り、近い将来私たちが観客を呼び戻すことはまずできないだろう」と強い口調で警告している。確かにヨーロッパでのフィギュアの人気低迷は、テレビの画面からもハッキリわかる。客をリンクに近くカメラに映りやすい席に固めて、そこそこ入っているように見せていることもあるが、カメラが切り替わるとそのほかの席はガラガラ。日本ではフィギュアの人気は最高潮に達しているが、それは素晴らしい選手が身を削るようにして頑張っている姿が感動を呼んでいるからだ。だが、採点には誰もが疑問をもっているし、ウンザリしている。このまま、真面目にコツコツと努力している多くの選手や一般の素人ファンを嘲笑うような恣意的な採点を続ければ(続けるだろうが)、フィギュア人気はすぐに凋落するだろう。全日本で安藤選手のフリーに出た66.08点という演技構成点は、明らかにキム・ヨナ選手の去年のトリノワールドのフリーの構成点65.04点を意識している。66.08点という点は、過去の安藤選手の点としては高いが、去年のトリノワールドの夢遊病者のようなキム選手の演技の点から比べれば低いぐらいだ。あちらは世界選手権、こちらは国内選手権。今ごろになって国内大会で慌ててキム選手と同等の格付けにしても、国際大会で同じように出してもらえるのか。日本スケート連盟の「ロビー活動」のお手並み拝見といったところか(断っておきますが、もちろんこれは皮肉です)。
2011.01.08
今年の世界選手権の女子3枠が、誰に行くのか。Mizumizuの予想は、「安藤・浅田・村上」だった。浅田選手が自爆してしまえば「安藤・村上・鈴木」になることは、もちろん間違いないが、浅田選手がそこそこジャンプを降りれば、3つ目の枠は鈴木選手と村上選手の争いになる。日本スケート連盟がどちらを推すのか、演技構成点の出方に注目していた。 鈴木選手は世界ランキングこそ2位と高いが、昨シーズン、肝心のオリンピックとワールドのショートで自爆してしまい、国際的な評価を高い位置で固めることができなかった。日本スケート連盟としては、年齢的にも若くない鈴木選手より、ソチへの足固めとしてフレッシュな村上選手を「売り出したい」気持ちがあるのではないかと「邪推」していたのだが、去年の「鈴木・中野」両選手の闘い同様、演技構成点でさほどの点差をつけずに技術点の出方に勝敗を委ねたところは、わりあいに公平だったと言える。両選手の演技構成点は、 ショート フリー鈴木 29.76 60.64村上 29.28 60.32若干鈴木選手のほうが高く出ているが、0.48点差と0.32点差なので、ほぼ同等評価。だが、実際には、ショートとフリーで3回転+3回転を跳ぶことのできる村上選手のほうが技術点では有利なので、鈴木選手としては、実績を汲んでもう少し点差をつけてもらいたかったところだろう。こういう仕分けをされた場合、3+3のない鈴木選手は絶対にジャンプを自爆してはいけないのだ。特に得点の高いルッツ、それからフリップは決めなければ勝てない。フリーでは2A+3Tの3Tを認定までもって行きたいところだ。ところが、今季鈴木選手には不安があった。そう、E加減なE判定。「間違ったエッジwrong edge」でもないのに、(ジャッジに)不明確に見えたというだけでつけてくるEマーク。これが鈴木選手に対しては猛威をふるった。フリップとルッツ、どちらにEマークがつくかわからない。ときにはつかないこともある。両方についたこともある。「E判定をもらうと選手は気にしてしまい、自爆のスパイラルにはまる」と書いたが、そのとおりになってしまった。ショートでは3ルッツが回転不足のまま降りてきてしまい、これが回転不足判定より一段厳しいダウングレード判定。ショートではステップもレベル3、スピンもオールレベル4をそろえたたけに、この失敗は悔やまれる。フリーでは3フリップが2フリップに。フリーではショートの順位に気落ちしていたのか、ふだんのような精彩もなかった。最後は盛り上がったが、序盤はジャンプへの不安が顔に出ていた。プロトコルを見るとスピンやステップのレベルの取りこぼしもある。鈴木選手に対しては厳しくレベル判定した可能性も否定できないが、なんといっても、ジャンプ・・・それも基礎点の高い、ルッツとフリップの自爆が痛かった。フリーの2A+3Tの3Tも決まらなかった(回転不足判定)。つまり決めたいジャンプでモロにミスが出てしまったのだ。思えば、去年、中野選手がオリンピックの切符を逃したのも、ルッツの失敗が大きく響いている。今年は鈴木選手がルッツの失敗に足を取られる結果になった。エッジ違反を含めて、グランプリシリーズのときから鈴木選手に対する点は奇妙に低かった。海外の掲示板では、「Suzukiの点が低すぎる。Murakamiは高すぎる」と書いているファンの意見も見たし、国内でもメディアをあげての村上選手売り出しに不信感をもつファンも多かった。こうした採点をされると、選手にも「伝わってくるもの」があるのだ。好意的な採点をされているほうは、モチベーションも上がる。厳しい採点をされている選手はストレスがかかる。判定や採点が自分に厳しいからこそ、失敗できない。そう思いつめると逆に調子を崩し、失敗する。村上選手のジャンプの失敗は一番点の低いダブルアクセルのみ。シーズン前半ではなかなか決まらなかった3フリップや3ループも決めた。これは素晴らしい。身体全体を使ったダイナミックでエネルギッシュな表現はすでに国際大会でも高い評価を得ている。裏で日本スケート連盟がロビー活動をしたという報道も一部の週刊誌にあったが、その真偽はどうあれ、ジュニアから上がったばかりの村上選手がシニアトップレベルの選手に負けない演技構成点をもらっているという事実は事実なのだ(その評価を納得するしないは、個人の主観次第だ)。だから、3枠目が村上選手に行ったのは当然だ。当然なのだが、なんともやりきれない気持ちだ。現実問題として枠は3つしかなく、グランプリシリーズでの勢いや全日本の出来からいっても、今回の選出結果に間違いはないと思う。だが、これまでさんざん、「鈴木選手の演技構成点が素晴らしい演技のわりに出ないのは、実績がないから」などと言われていたのだ。ところが、ジュニアから上がったばかりの村上選手は、シニアでの実績がなくても、いきなりかなりの演技構成点が出ている。村上選手の表現力は、確かに目を惹くものがある。全身を使った大きな表現。若々しいエネルギー。物怖じしないダイナミズム。「クラシックバレエで鍛えた」などというのは、あの姿勢の悪さを見れば的外れなのは明らかだが、フィギュアスケートで評価される表現力は、必ずしもバレエ的なものである必要はない。村上選手には他の女子選手にはないスケール感がある。ジュニアから上がったばかりだというのに、時間の長いシニアのフリープログラムを滑って疲れた様子も見せない。身体の強さといい、やや荒削りだが、野性的で自由な表現といい、瞠目すべき選手だ。だが、それを言うなら、鈴木選手の成熟したダンサブルな演技だって十分に魅力的なはずだ。ここ何年かシーズンを通してコツコツ実績を積み重ねてきたにもかかわらず、演技構成点では過去の実績を汲んだ点差を若手との間につけてもらえなかった。ここにもスポンサーの力が見え隠れする。メディアの持ち上げ方を見ても、これからは村上選手をフィギュア界のアイドルに仕立て上げたいという「大人の都合」があからさまだ。村上選手は素晴らしい才能の持ち主だが、絶大な人気を誇る浅田真央が不調の時期に、こうしたメディアによる一方的なプロモーションは、あたかもアイドルを挿げ替えようとしているかのようで、逆にファンの反感を招くのではないか。演技構成点というものは、結局のところ、出る選手には気前よく出て、出ない選手は何年頑張ってもたいして出ない。出る試合に自国の「(自分より)上位仕分けの選手」がいるかいないかによっても突然上下する。つまりは、順位の調整弁。理屈は後からくっつける。表現力が凄いとか、格が違うとか抽象的な文言で。そうやって「宣伝」すれば、見るほうは、「そういうものか」と半信半疑ながら納得させられるということだろう。評判は宣伝で作られるからだ。<明日へ続く>
2011.01.07
<きのうから続く> 安藤選手はルッツにE判定がつく心配がないのが、なんといっても強い。今季浅田選手より安藤選手のほうが強いのは、ルッツの差だとも言える。ちょうど昨シーズンの男子の勝敗を決めたのが、4回転ではなくトリプルアクセルだったように。トリプルアクセルが苦手なランビエールが4回転に頼ってオリンピックのメダルを逃したのに対し、4回転は跳べなかったがトリプルアクセルが強かった高橋選手がメダルを獲得したのと基本的には同じ理屈なのだ。トリプルアクセルという難度の高いジャンプを跳べる浅田選手は、だが、「完璧に回りきって降りてこれない」という小さな(とMizumizuは思う)弱点ゆえに、その強みを生かしきれない。そして、皮肉なことに安藤選手にとってのアキレス腱も、「難度の高いジャンプを跳べる」ことにあるのだ。そう、安藤選手がこだわっている3ルッツ+3ループ。グランプリファイナルでは、このジャンプの3ループがダウングレード判定され(この厳しい判定には正直驚いた)、さらに次のジャンプでも転倒があって、それもダウングレード転倒で点が伸びなかった。こうした「外的要因」に加え、安藤選手自身が抱えている問題。それはショートで最初の連続ジャンプにつまずくと、かなりの高確率(というか、安藤選手の場合はほとんど)で、次の単独3フリップに影響が出てしまうということだ。安藤選手の強みは、5種類の3回転ジャンプをすべて跳ぶことができ、「大いに不得意なジャンプ」がないということにもある。だが、あえて言えば、エッジを矯正したフリップは、回転が足りなくなりやすい。その前のジャンプで失敗して助走のスピードが取れないと、そのまま失敗が連鎖する。昨シーズンのオリンピック、世界選手権でもショートの連続ジャンプで失敗し、次の単独フリップに影響が出てしまった。今季のグランプリファイナルもそうだ。つまり、安藤選手がショートで失敗するのは、3ルッツに3ループをつけたとき(あるいはつけるつもりで連続ジャンプに入ったとき)なのだ。今季は見た目クリーンに降りた3ルッツ+3ループは1度だけ。それも回転不足判定されてしまい、3ルッツ+2ループで得た得点と結局0.5点ぐらいしか違わないという結果になった。本当に脱力するほど無意味なルールだ。セカンドに2ループをつけるのと3ループをつけるのとでは、難度に天と地ほどの違いがある。ほんの少し回転が足りないといっても、ちゃんと降りているし、スロー再生しなければわからない程度の微妙な不足に過ぎない。ジャンプの難度の違いを無視して、回転が足りないとイチャモンをつけ、ここまで減点する。繰り返すが、たとえ微細でも回転不足は回転不足なので、減点することには反対しない。問題はその程度。基礎点を減じるのではなく、GOEで減点すればそれで十分だ。日本スケート連盟も、「女子のショートにも単独3Aを入れてよいようにしろ」などと、浅田選手にしか関係のない、身勝手ともとられかねないルール変更を提案するより、この非常識な回転不足判定での大減点を撤廃するように動くほうが先だろう。そのほうが採点ははるかにマトモになり、かつ、浅田選手にとっても、安藤選手にとってもよほど有利になったのに。この状態で、安藤選手が世界選手権で3ルッツ+3ループに挑戦するのは、かなり危険だ。逆に全日本で見せた、3ルッツ+2ループに単独3ループをつけるジャンプ構成は素晴らしかった。突然単独ジャンプをフリップからループに変えて、あそこまでの完成度を見せる。そこがそもそも凄いのだが、安藤選手の単独3ループを見たとき、Mizumizuは思わず、「おうっ!」と叫んでしまった。垂直跳びになりやすいループで、あそこまできれいな放物線になるよう、距離と高さのバランスを取って跳べる女子選手が、安藤選手以外にいるだろうか? しかも、絵に描いたようなディレイド回転で、跳び上がって、放物線の頂上付近で細い回転軸で自然に、かつ速く回っていた。さらに完璧に回りきってから降りてきているから、流れも美しい。この単独ジャンプに加点「2」をつけたジャッジもいたが、さもありなん。一方、安藤選手のフリップはかなり回転がギリギリで、不足気味になりやすい。難度の高いジャンプに挑戦することを評価するなら、3ルッツ+3ループに3フリップというのが世界女王にふさわしいショートのジャンプ構成だ。ところが、ちょっと回転が不足すると、待ってましたとばかりに(ときに転倒以上の)減点をする現行のゆがんだルールでは、恐らく、3ルッツ+2ループに3ループのほうが、安藤選手にとっては点が出やすいし、本人の精神的な負担も少ないだろう。「トリプル+ダブル(3ルッツ+2ループ)じゃ意味がない!」とコーチに叫んでいる安藤選手の練習風景を見たが、そもそも3ルッツに2ループをつけることができ、しかもほとんど失敗しないというのが凄いのだ。それ以上に凄いことができてしまうから、本人は当然3+3をやりたい。ところがそれを阻む非常識ルールが待っている。世界選手権でどうするのか。もちろん本人の調子次第だが、もし挑戦するなら、準備段階でビデオを使い、「降りたつもりの3ループが認定される完成度のものなのか」を客観的にチェックしたほうがいいだろう。今回の全日本では大庭選手が2A+3Loを跳んで認定されたが、身体の軽い年齢ならできても、20歳をすぎた女性が3ループをセカンドにもってきて回りきるのは、奇跡に近いのではないか。それはさておき・・・安藤美姫の強さの「内的要因」の最たるもの・・・それは、精神面の充実だろう。今年の安藤選手はとにかく気持ちが安定している。自分自身に対してゆるぎない自信があり、それがリンクに上がったときから彼女を輝かせている。もともと華のある選手だが、成熟した女性としての落ち着き、アスリートとして練習を積んできたという確信が、全身からみなぎっている。今の彼女には往年の大女優、ソフィア・ローレンのような魅力を感じる(頬骨の高い顔立ちもちょっと似てませんか?)。フィギュアの表現力にはさまざまな裾野があるが、生身の女性の情感をあれほどまでに見事に表現できる選手はいない。ショートでは、どこかあどけなさのある、それでいて包み込むような優しい笑顔に魅了された。肩に不安をかかえ、腕の表現も制限されている中で、指や手首のちょっとした動きでハッとするような女性美を演出している。フリーのスパイラルでは、上げた脚より、風にそっとなびく草花のような、手首から先の緩やかな動きに目を奪われた。横顔のラインも美しい。こうした一瞬の小さなポーズで人を魅力できるのが、成熟したトップスケーターの証しだ。過去には演技中の猫背が気になることもあったが、今は姿勢もきれいになった。シーズン初めにMizumizuが感動したEXプログラムでの安藤美姫の表現力(こちらの記事)。それが今季は試合でも十二分に生かされている。フリーは音楽編集、特に動と静の組み合わせが実に巧みだと思う。全体的に重みのある曲で、安藤選手の存在感にぴったりだが、その中で、たとえばスローパートは細やかで優しく、それでいて包容力があり、まるで安藤美姫という女性の性格そのものを表現しているようにも見える。http://www.youtube.com/watch?v=Yoe5KKGZXtk個人的に大好きなのは、トリプルトゥループへ向かう前、3:13あたりでドラマチックに盛り上がる曲調。ジャンプが続き、体力的にもきついこのあたりで、まるでモロゾフが、「美姫、頑張れ!」とエネルギーを与えようとしているかのよう。選手と氷上でも一体になろうとする振付師の深い愛と情念に、胸が締め付けられるような感動を覚える。欲を言えば、ここで安藤選手のスケートがもう少し伸びれば・・・ 激しい感情をあらわにしたような音楽が演技を助けているという言い方もできるが、やや安藤選手のスピードと表現が音に負けているようにも思う。だが、最後の怒濤のクライマックスは、会場の拍手を巻き込んで実に感動的だ。腕を大きく使ったポーズにも貫禄と品位が漂っている。細かい音の拾い方にも無駄がない。全日本での安藤美姫は、まさに真の女王だった。グランプリファイナルでのガッツポーズもカッコよかったが、全日本での魂の底から湧き上がってきたかのような力強いガッツポーズには、思わず女性ながら惚れてしまった(苦笑)。昨シーズンは達観してしまったような部分があるようにも見えたが、今年は安藤選手のアスリートとしての闘争心が戻ってきたようだ。東京ワールドでも、是非あの、「見たか!」と言わんばかりの、身体全体を使ったガッツポーズの出る演技を期待したい。エレメンツで気になるのはステップ。グランプリファイナルでは問題なかったのに、全日本でレベルを落とされた。レベル3が取れるように準備をして欲しいと思う。対照的に痛々しかったのが、グランプリシリーズでの浅田選手。ジャンプへの不安を払拭できず、引きつったような顔でリンク中央に向かう姿には胸が痛んだ。フィギュアスケートというのは、こうした選手の内面がストレートに演技に出てくる。ジャンプの調子が悪いといっても、浅田選手はそもそも、あれほどまでにうつくしいのだからそれだけで十分闘えるのだ。あそこまで自分を追い詰める必要はないのに・・・はたから見ているとそんな無責任なことを言ってしまいたくなるが、準備がうまく行ったかどうかで選手の心理状態は変わってくるということだろう。世界を2度も制した、自分に厳しい選手となればなおさらなのだろう。だが、浅田選手も全日本でかなり調子を取り戻したと思うので、東京ワールドでは、彼女が本来もっている「この世のものとも思えないようなうつくしさ」に自信をもって会場のファンを魅了してほしい。浅田選手の魅力はジャンプだけではない。というより、ジャンプ以外の魅力のほうが今は大きい。
2011.01.06
全日本女子で3度目の女王に輝いた安藤美姫。今季、彼女の強さは傑出している。Mizumizuはこの結果は、内的要因・外的要因から当然だと思っている。まずは外的要因。つまり今季のルール変更だ。トリプルアクセル(3A)や4回転の基礎点が引き上げられた話は大きく取り上げられたが、現在3Aを跳べる女子は浅田選手のみ。こうした超高難度ジャンプの基礎点引き上げは、多くの女子選手にとっては関係のない話だ。それよりも、世界トップを争う女子選手に大きくかかわってくる変更点があった。それは、トリプルフリップ(F)の基礎点が下げられたため、トリプルルッツ(Lz)の価値が増大したということだ。基礎点の変更を見てみよう3A 8.2→8.53Lz 6→63F 5.5→5.33Lo 5→5.13S 4.5→4.23T 4→4.13ルッツの点が変わらないのに、3フリップの点が低くなり、3ループ(Lo)の基礎点と接近することになった。ルッツとフリップはE判定の絡むジャンプであり、ルッツが得意な選手はフリップのエッジにやや問題があり、フリップが得意な選手がルッツのエッジにやや問題がある場合が多い。つまり、これはルッツをエッジ違反なく跳べる選手には有利な改定なのだ。世界トップで戦える日本女子選手、安藤・浅田・鈴木・村上の4選手のなかで、ルッツのエッジにまったく問題がないのは安藤選手のみ。現行ルールでは減点ポイントのない選手が強い。同じジャンプを成功裏に跳んでも、エッジ違反を取られればGOEで減点、違反がなければ加点となり、見た目以上の点差が開く。安藤選手はルッツが得意で、フリーでは2度入れることができる。つまり、1つは基礎点が10%増しになる後半に入れることができるのだ。そしてルッツの「ジャンプとしての完成度」も高い。「跳びあがってから回り、回りきって降りてくる。空中ではきれいな放物線を描く」という現行ルールでは一番重視される完成度を備えている。これ以上の難度のジャンプを跳べるのは浅田選手のみだが、浅田選手の3Aは回転不足を取られることが多く、強みを発揮しにくい。たとえば、全日本のフリー。後半に入れた安藤選手のルッツの点を見ると3Lz (後半) 基礎点6.6 GOE=1.26(0をつけたジャッジが1人、加点1をつけたジャッジが1人、加点2をつけたジャッジが5人) 獲得得点 7.86ちなみにフリー冒頭に浅田選手がもってきたトリプルアクセルは、回転不足判定されたうえにGOEで減点だから、5.4点にしかなっていない(プロトコルはこちら)。相変わらずおかしな逆転現象だ。難度から言えば比べられないくらいの差のある3Aと3ルッツが、構成と質で得点が逆転する。しかも、「質」と言っても、浅田選手のフリーの3Aはさほど悪いジャンプではない。降りてからブレードが回ったという判断なのだろうが、むしろ認定されたショートの3A(獲得得点8.1点)よりよく見えるぐらいだ。さて、ルッツに話を戻すが、エッジ違反を取られた浅田選手のルッツは3Lz 基礎点6 GOE=マイナス0.42(0をつけたジャッジが3人、減点1をつけたジャッジが4人) 獲得得点 5.58安藤選手との単独ルッツ1つでの点差は2.28点。前半か後半かという構成の問題もあるが、1つのジャンプでこれだけ獲得点数が違ってくる。2人のルッツに対するGOEが甘いか辛いかという点に関しては、誰のどのジャンプと比べるかで主観的な印象は変わってくる。Mizumizuの目には、安藤選手のルッツは非常に質が高く、浅田選手のエッジ違反は非常に軽微に見える(エッジ違反というより、乗っているエッジが安定していないという印象だ)。キム・ヨナ選手のジャンプに気前よく与えられるGOEを考えれば、安藤選手への「2」はまったく妥当だと思えるし、浅田選手のルッツのE判定への減点がこの程度であるのもごく真っ当(もしかしたら、もっと減点は少なくてもいいようにすら思う)だと感じる。国際大会に出たら、安藤選手の加点は抑えられ、浅田選手への減点はもっと厳しくなるかもしれない。だが、これはあくまで感覚的な判断になるが、キム選手やチャン選手のジャンプに対する国際大会での加点の気前良さを思えば、全日本くらいのGOEの「按配」のほうがむしろ公平でないかとさえ思う。 そもそも、国際大会での安藤選手のジャンプへの加点の「しぶさ」は信じられない。元一流選手である解説者が何の疑いもなく、「加点も1点以上つくようないいジャンプ」と言ってしまっているのに、雀の涙のような加点しかついていなかった。そちらのほうがおかしいだろう。Mizumizuが最も呆れ果てたのは、トリノワールドショートのキム選手の単独フリップに対するGOEだ(プロトコルはこちら)。ダウングレード判定されたにもかかわらず(昨シーズンは今とルールが違い、「<」マークが基礎点が1つ下のジャンプに下がるダウングレード判定)、GOEを「0」としたのが2人、「1」としたのが2人、あろうことか加点「2」としたのが1人いる。計5人が減点しなかったのだ!真っ当に減点したのが4人(マイナス2が2人、マイナス1が2人)と、そちらのほうが少ない。これもルール(プラス要件の総数からマイナス要件の総数を引いてGOEを出すという建前)からすれば、不正でも何でもない。だが、着氷でこれほど詰まって前傾姿勢になってしまった質の悪いジャンプを減点しないなど、非常識にもほどがある。この動画の1:25当たり。同じジャンプでマイナス2からプラス2までがいる。まさに「猫でもできるジャッジング」の典型だろう。これが世界選手権という格式の高い試合で演技審判がやったことだ。こうしたデタラメな加点に比べれば、安藤選手の単独ルッツに与えられる加点が「2」というのはごくごく常識的な判断だ。いいものにはどんどん点を与えるようにするというのがジャッジの指針なら、質のいい安藤選手のジャンプにもどんどん加点しなければ、逆におかしい。昨シーズンまで、浅田選手もそうだが、国際大会での安藤選手に対するダウングレードは、「えっ」と思うほど厳しく見えた。「ちょっと低いかな?」と思った程度でもうダウングレード、つまり3回転を2回転ジャンプの基礎点にされてしまう。今年の安藤選手は、それに対する対策が徹底している。1つ1つのジャンプをきっちり回りきっておりるという意志が明確に感じられる。ファイナルでも全日本でもフリーで回転不足判定されたジャンプが1つもなかった。実際、ややギリギリかな? と一瞬思えたのは2A+3Tの3Tだけ(だが、よくよく見れば回りきって降りているのは間違いない)。他のジャンプは回転不足判定したくてもできないくらい完璧に回ってきている。ある特定の選手に対して判定が甘かったとしても、それは選手にはどうにもできない。だが、文句をつけようがないくらい回りきって降りてくれば、回転不足判定はできない。そこを安藤選手はきっちり抑え、やりきっている。これがフリーでできるのは、冒頭に3ルッツ+3ループを「跳ばない」せいかもしれない。安藤選手は過去にグランプリファイナルで4回転サルコウを降りたものの、後半のジャンプをじゃんじゃんダウングレードされて点がまったく伸びなかったことがあった。後半のジャンプまできちんと回りきって降りてこられるように体力配分をする・・・そのためには、大技は入れないほうがいいのだ。こうしたルールがジャンプ技術の向上を阻んでいることは、すでに内外の識者が指摘している。高難度ジャンプのわずかな回転不足で、ときには転倒以上の減点にされるのでは、挑戦する意味がなくなってしまう。大ブーイングを受けて、「回転不足判定は基礎点70%」に減点が緩和されたが、それでもまだまだルールのゆがみは残っている。というか、わざわざ「安藤・浅田に勝たせない」ために、こうした非常識なルール運用(わずかな回転不足がその下のジャンプの失敗と同じ点になる)をゴリ押ししたのだから、「ゆがみが残っている」もへったくれもない・・・と、Mizumizuは個人的には思っている。この「安藤・浅田に勝たせないぞ」ルールで、被害が大きかったのは、実は浅田選手より安藤選手のほうなのだ。セカンドに持ってくる3ループが武器にならなくなったのは2人とも同じだが、2人がもっている他の女子には真似のできない大技。4回転サルコウ(安藤)とトリプルアクセル(浅田)。この完成度では、明らかに浅田選手のほうが上だった。だから、浅田選手は試合に入れている。安藤選手は試合では使えない(ここ数年で試合に4Sを入れたのは、1度かそこらだろう)。だが、浅田選手のトリプルアクセルだって、そもそも立つのさえ難しい超難度の大技だ。実際に決めてもさかんに回転不足判定されているのが現状だ。浅田選手は、セカンドに3ループをもってくることもできるし、3トゥループをつけることもできる(ジャパンオープンでは2A+3Tをやって転倒はなかった)。難度の高い多彩なジャンプを跳ぶことのできる能力では世界一だろう。ところが、セカンドの3回転はどちらも回転が足りない。だから今季はJO以外の試合では入れていない。入れたところで回転不足判定の餌食だろう。ショートに入れようとした3ループ+3ループも、そもそも3ループ+2ループで最初のジャンプが回転不足になりやすいのだから、3ループ+3ループをやってしまったら、両方回転不足判定されてしまう確率が高い。3ループ+3ループというのは、誰でもできる連続ジャンプではない。跳べるジャンプの希少価値を評価するルールなら、3Aに加えてセカンドに3ループと3トゥループを跳べる浅田選手は強い。今季はルッツも入れて来ているし、まさに世界最強、誰もかなわないだろう。だが、現実にはその強みが生かされず、逆に弱みになっている。今は「回りきるかどうか」が何より評価されるという、アホらしいルールだ。転倒しても、「回りきって転倒したか」「回転不足判定で転倒したか」「ダウングレード判定で転倒したか」で点が違ってくるという、フランケンシュタインルール。回りきることさえできれば、3トゥループ+3トゥループのような難度の低い連続3回転ジャンプでも、加点ばっちりで点が稼げるのだ。ジャンプの回転不足対策を徹底させた安藤選手に対し、浅田選手はジャンプのリフォーム中でもあり、そこまでの完成度にもっていくことができないでいる。浅田選手の点が伸びない理由はそこだ。だが、フリップにしろ、ルッツにしろ、アクセルにしろ、去年とは跳び方が明らかに変わってきている。短い構えから、流れが一瞬止まることなくスムーズに跳びあがり、かつ垂直跳びではなく、距離を出して放物線を描くジャンプになるようジャンプを改良してきている。短期間にこれだけできるということ自体、驚異ではないか。安藤選手のほうは3ルッツに3ループをつける連続ジャンプこそうまく行っていないが、2A+3Tはかなりの完成度になっている。試合でセカンドに3回転をもってこれない(跳ぶことはできるにもかかわらず)浅田選手は、またもトリプルアクセルに頼らざるをえない。3Aはただでさえ難しいジャンプだ。それをフリーに2度となると、かなりイチかバチか。矯正中のルッツも万全ではなく、連続ジャンプの回転不足問題もある。あちこちに不安を抱えた浅田選手の全体のジャンプ(そして演技全体)の完成度は、勢い不安定化せざるをえない。これが今の日本のトップ女子選手に起こっていることだ。<明日に続く>
2011.01.05
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