仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2024.08.10
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カテゴリ: 雑感




現在の視点から見れば、「写真を撮る」とは文字通り自ら撮影することを指す。しかし、〔中略〕幕末から明治初年においては「撮影される、あるいは肖像写真を依頼する」ことを指した。写真を制作する行為は、一般からかけ離れた専門的なものだったのである。


保阪正康ほか『世界から見た20世紀の日本』山川出版社、2016年
(三井圭司執筆部分、写真史概説:明治から大正の写真を支えた技術)

何年か前だが、新型コロナのワクチンを「打つ」という表現に最初は戸惑った。打つのは医療関係者であり、一般人は「自分の腕に打ってもらう」はずなのだ。覚せい剤常用者じゃあるまいし。とはいえ、「皆さん打ってもらってください」「俺はもう打ってもらった」「勧奨されても打ってもらいたくない」などの語法は面倒でもあり、「打ってください」「もう打ったよ」「打ちたくない」と、自動詞的な言い方が定着した。

明治の写真の場合は、誰でもカメラで手軽に撮影できる現代と違い、被写体側はまさに撮影してもらうのであり、撮影するのは装置と知識を備えた写真師に限られた。それでも被写体側を主語にして「撮る」という言い方だったという。他人に注射されるワクチンなのに自分を主語に「打つ」というのと、似ている。

予防接種法をみよう。予防接種とは、ワクチンを人体に注射又は接種することと定義される(第2条)。そして、例えば定期接種であれば、市町村長が予防接種を行わなければならない(第5条)。他方で、打たれる側の一般人についての表現をみると、例えば定期接種の一部について「対象者は、これらの予防接種を受けるよう努めなければならない」とされる(努力義務、第9条)。さらにややこしいが、対象者が16歳未満などの場合は「保護者は、その者に〔中略〕予防接種を受けさせるため必要な措置を講ずるよう努めなければならない」とされ(第9条)、いずれにしても、予防接種を実施するのは市町村長、一般人は接種を受ける、という構図だ。



おそらく、「打つ」の用語法は、俗な言い方として始まって定着してきた。新型コロナ以前にも、季節性インフルエンザや子宮頸がんワクチンをめぐっても、(被接種者を主語として)「打つ」「打たない」語法はあったのだろう。

言葉の厳密さを気にする度合いは各人の感覚によるが、それでも一般に通用している意味はわきまえた方がいい。写真を撮る、ワクチンを打つ、などの「自動詞か他動詞(受け身・使役)か問題」に関しては、私がたまに気になるのは、次のような言葉だ。
・使用者
・労働者=被用者
 労働する側であり、雇用される側、なので納得できる。
・雇用者
これはちょっと微妙。本来は雇用する側(雇用主)を意味しそうだが、雇用された人を意味する場合がある。例えば、労働力調査(総務省統計局)では、「就業者」の内訳として、「自営業主・家族従業者」と並んで「雇用者」がある。簡単にいえばサラリーマン(死語か)だろう。また、今では「(非)正規雇用者」の語さえ通じているように思う。

用語法の変化の背景には、雇用される側に立って、その主体性を重んじる風潮があるのかもしれない。昔なら労使二元構造を前提に被用者固有の課題を認識し、その地位向上がテーマだったが、今や一緒により良い「雇用」の実現、より良い労働環境の整備、生産性の向上、さらに少子化や人的資源経営にも立ち向かって行きましょう、ということ。やや考えすぎだが。

生活保護の「被保護者(世帯)」、児童福祉における「要措置児童」などの他動詞受け身形の言い方も、変わっていくのだろうか。





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最終更新日  2024.08.11 14:26:39
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