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「どぶ鼠作戦」(1962)製作 田中友幸、角田健一郎監督 岡本喜八脚本 岡本喜八音楽 佐藤勝撮影 逢沢譲美術 育野重一出演 加山雄三、佐藤允、夏木陽介、中丸忠雄 中谷一郎、藤田進、砂塚秀夫、江原達怡、田中邦衛 ミッキー・カーチス、水野久美、平田昭彦、田村奈巳 本編102分 モノクロ シネマスコープサイズ 東宝の戦争アクション映画「どぶ鼠作戦」をレンタルDVDで鑑賞しました。 岡本喜八監督の「独立愚連隊」(59)「独立愚連隊西へ」(60)に続いて製作された作品で、1962年6月公開。 北支最前線の三元に駐屯する守備隊へ向かう連絡トラックが爆破されるなど、日本軍は出没するゲリラの後方攪乱に悩まされていた。そんな折、三元に師団司令部から新任の参謀 関大尉(夏木陽介)が赴任してきます。 若く実戦経験のない関大尉は三元より約25キロ先の老頭に進出するが、歓迎するふりをした八路軍の罠におちて、率いた小隊は全滅、関大尉は行方不明となってしまう。 師団長は大尉を救出するべく、特務隊の隊長 白虎(佐藤允)に依頼する。優秀な兵を選抜して連れて行けと云うのを断って、白虎が関大尉奪還任務のメンバーに選んだのは、軍法会議に送られることになっていた四人の兵隊。憲兵を殴って営倉入りしていた脱走常習犯の林一等兵(加山雄三)、食事を盗んだ兵を殴殺した空手三段の三好炊事軍曹(中谷一郎)、その軍曹を戦友の仇と狙って炊事場へ手榴弾を投げこんだ穴山上等兵(田中邦衛)、忍術研究中の佐々木二等兵(砂塚秀夫)たちだった。 軍籍を離れた日本人の男が白虎と名乗って、中国人を配下として特務隊を編成している。 新任の参謀大尉が中共軍の捕虜になってしまい、日本軍は作戦漏洩をふせぐために、その特務隊の隊長白虎に救出を依頼する。 参謀大尉は師団長(上原謙)の息子だという。戦死だったらこんな手数をかけずともよいのだが、捕虜になるなど日本軍の恥さらしだと。師団長は今回の任務は日本人だけで行ってほしいと白虎に云い、自決用の短刀を「息子が生きていたら渡してほしい」と頼む。任務を受けることを渋っていた白虎だが、師団長の心情を汲んで、4人のガラクタ兵をつれて関大尉を奪還に向かいます。 彼ら救出隊5人が関隊が全滅した老頭へ馬を飛ばすと、そこに敵ゲリラ隊の隊長 無双(中丸忠雄)が白虎を待っていた。白虎と無双はお互いに情報を交換して利用しあっていたのである。無双に関大尉が師団長の息子で身代金がかかっていることを教えた白虎は、関大尉が捕えられて四風の野戦病院にいることを知らされる。 白虎たちは、ある時は無双隊と偽り、ある時は八路兵に変装し、八路軍の本部がある四風にたどりつく。四風では八路軍の兵隊と村娘の結婚式でにぎわっていて、白虎たちはその群衆にまぎれこんだ。 正体が露見しそうになった時、突然の日本機の空襲で祝宴の席が大混乱、三好軍曹は味方の爆撃で重傷を負ってしまう。無双は病院から関大尉をうばって遁走する。三好軍曹は追って来る八路軍から仲間を逃がすために犠牲となって踏みとどまって戦死。白虎たちは八路軍の追跡を逃れ、いかだを組んで川を下って無双がいるだろう老頭へ向かいます。 子豚を抱いた林一等兵(加山雄三)が三元へ向かうトラックを止めて、乗せてくれとヒッチハイクする冒頭の場面。そのトラックの「42219、シニニイク」というナンバーを見た林一等兵が縁起が悪いと乗るのをやめると、走り去ったトラックが爆弾が仕掛けられていて木っ端みじんになり、乗らなくて良かった。「生きているのは良いことだなピー公、もう少しで焼肉になるところだったぜ」と子豚に語りかける。 三元の守備隊長 政宗少尉(藤田進)は山寺の和尚さん出身で、「やっぱ戦争するのはプロでないとならんな。わしのような者はダメだ。ここだけの話、わしは死ぬのが怖い」と正直に白虎に語ります。「ここだけの話、死んだら極楽ちゅうもんがあるんだろうか?」と。白虎は「ないでしょうな。死んだら灰と煙になって、それだけでしょうなぁ」と答える。死と隣りあわせの非情な軍隊の内で、この政宗少尉役の藤田進さんがとても人情味あふれる良い演技を見せています。 加山雄三さん演じる林一等兵の謎めいた正体。特務隊の隊長 白虎と中共軍ゲリラの隊長 無双が裏で情報のやりとりをしている密かな関係。白虎と無双が出し抜いたり出し抜かれたりして物語がすすんでゆくのですが、全体にコミカルなアクション映画として描かれるなかに、軍隊の非情さが表現されています。最前線においての兵隊は消耗品であり、見捨てられ、置き去りにされる。そして「生きて虜囚の辱を受くるなかれ」、捕虜になった者は生還しても許されないという非情さです。 日本軍の師団司令部では捕虜になった関大尉も、救出に向かった白虎隊も戦死したものとし、これ以上の戦線拡大は無意味とする新師団長(田崎潤)の方針変更で後方へ撤退することが決定されます。日本の軍籍にない白虎の手兵たちは撤退を援護するための捨て石とされ、三元に置き去りにされることになる。 戻って来た白虎たちは、三元に残された配下の特務隊が八路軍と激戦を交えているのを遠望する。いちど捕虜になったために部隊へ戻ることが許されぬ関大尉を白虎特務隊の新メンバーに加え、彼らは砲弾が炸裂する中へ馬で飛びこんで行く。命令で撤退の途中だった守備隊長 正宗少尉(藤田進)がそれを見て、「政宗少尉は戦死したと報告してくれ」と言い残して白虎隊の後を追う。残された部隊の指揮を託された見習士官(ミッキー・カーチス)は全隊に回れ右を命令すると、撤退命令なんかクソくらえ、三元を死守するのだと、戦闘隊形を整えて三元への道を白虎隊と政宗少尉のあとを追って突撃するのだった。 命令に反して、仲間のもとへ戻って死のうと決心し、砲煙弾雨の中に突っ込んで行く主人公たちの男の心意気を、勇壮に描いたエンディングに泣かせられます。
2021年05月30日
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「熱砂の戦車軍団」(1969) La Battaglia del Deserto製作 ミーノ・ロイ 、ルチアーノ・マルティーノ監督 ミーノ・ロイ脚本 エルネスト・ガスタルディ撮影 グリエルモ・ヴィンチオーニ音楽 ブルーノ・ニコライ出演 ロベール・オッセン、ジョージ・ヒルトン フランク・ウォルフ 本編85分 カラー シネマスコープサイズ イタリアの戦争映画「熱砂の戦車軍団」を鑑賞しました。 1942年の北アフリカ戦線。ドイツ軍の攻撃にイギリス軍は守勢に立たされていた。作戦本部で会議が開かれ、ブラッドフォード大尉(ジョージ・ヒルトン)に2日間で10万個の地雷を敷設する命令がくだされます。進撃してくるドイツ軍がその地雷原を避けて集中して進んでくるのをルエイサト山地で待ち伏せする計画が立てられる。 ブラッドフォード大尉は地雷敷設途中で本部との無線連絡が途絶えたことで、本部が敵の奇襲を受けていると察知し、至急に引き返してみると、本部はドイツ軍の戦車部隊に蹂躙されている真っ最中だった。 ただ見ているしかないブラッドフォード大尉たちだったが、発見されて逃げるのを敵の装甲車2台が追ってきて攻撃を受ける。一台をトラックから地雷を投げ落として破壊し、一台を車輪を撃って擱座させるが、味方もやられて生き残ったのは大尉たち5人になってしまう。無線機が破壊され、部下の一人は大腿部に重傷を負っている。彼らに残された道は600キロさきのルエイサト山地の友軍に合流するか、敵軍に降伏するかしかない。ブラッドフォード大尉は降伏を決意し、擱座したドイツ軍の装甲車のハインツ大尉(ロベール・オッセン)に申し出ようとするが、ところが先にハインツ大尉の方が白旗をかかげて来た。 英軍本部を攻撃したドイツの戦車部隊は引き上げてしまったという。味方に置いてけぼりをくったハインツ大尉と部下の2人のドイツ兵はブラッドフォード大尉たちといっしょに行動することになる。 熱砂の砂漠を、5人のイギリス兵と2人のドイツ兵が一台のトラックに乗ってイギリス軍のいる方角をめざして走り出す。一時休戦した両軍の兵士たちだったが、おたがいに信用できず疑心暗鬼、武器を持ってのけん制しあう旅がつづく。 やがて燃料切れとなってトラックは立ち往生。水は携行缶が1缶しかなく、このままでは全員が日干しになって死んでしまう。そこで両軍を代表してブラッドフォード大尉とハインツ大尉の2人が英軍に助けを求めに行き、残りはトラックの日陰で救助を待つことに決める。 砂漠の中で、生きるための貴重な水をめぐって人間の醜い争いが描かれます。水を独り占めするために仲間を殺す。そんな人間のエゴイズムを背景にして、イギリス軍、ドイツ軍の2人の大尉の立場と過去が描かれる。 ハインツ大尉には戦前、イギリス人女性の恋人(イブリン・スチュワート)がいたが、彼女はイギリスのスパイであり、恋のために祖国を裏切る決心をする。ハインツは彼女のスパイ仲間に会って解放するよう嘆願するが、彼女は殺されてしまった。そのことでイギリス人に強い憎しみを持っている。このロベール・オッセン扮するドイツ軍大尉のキャラクターが活かされているのに対して、イギリス軍のブラッドフォード大尉のキャラが薄っぺらなのは、両者の俳優としての力量の差なのだろうか。ロベール・オッセンの名優ぶりに比べるとジョージ・ヒルトンなど格段の差があるのかもしれません。 1968年から70年くらいにかけて、いくつか製作されたマカロニコンバットの一作です。 ラストで、ドイツ軍の戦車部隊を待ち伏せていたイギリス軍の戦車部隊が包囲して攻撃をかける場面があります。ここでようやく「熱砂の戦車軍団」の邦題らしくなるのだが、両軍の戦車が同じ型だし、どちらも塗装が同じ黄土色なので、どちらがどちらかわからない。敵味方の区別がつかないので戦いの場面がもりあがらないのは、アクション映画としていかがなものか。
2020年09月04日
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「突撃隊」Hell is for Heroes! (1962)監督 ドナルド・シーゲル製作 ヘンリー・ブランク脚本 ロバート・ピロッシュ 、リチャード・カー 原作 ロバート・ピロッシュ撮影 ハロルド・リップステイン音楽 レナード・ローゼンマン出演 スティーブ・マックイーン、フェス・パーカー ハリー・ガーディノ、ボビー・ダーリン ジェームズ・コバーン、ニック・アダムス アメリカ映画 本編90分 モノクロ ビスタサイズ スティーブ・マックイーン主演の戦争映画「突撃隊」をDVDで鑑賞しました。 マックイーンの映画では「荒野の七人」(60)の後にあたり、この「突撃隊」と同じ1962年に「戦う翼」があり、翌1963年の「大脱走」という順になります。 原題の「Hell is for Heroes!」とは「地獄は英雄たちのもの」みたいな意味でしょうか? おそらく1944年か? ドイツとフランス国境線に築かれたジークフリート防衛線にせまる連合軍。もうすぐ帰国できるという噂に喜んでいた兵隊たちに、突然、中隊が前線に移動する命令が下される。 補充兵として中隊にやってきたリース(スティーブ・マックイーン)は不愛想で無口な男。かつては勲章まで受けた下士官だったが酒に酔っての暴行罪かなにかの不行跡で二等兵に落とされたらしい。小隊長のパイク曹長(フェス・パーカー)とは北アフリカで一緒に戦った仲だった。 最前線にトラックに乗って移動した中隊は、兵力不足のために長大なラインの守備を命ぜられ、中隊は分散し、リースが属する分隊はわずか数名で敵と対峙しなければならなくなる。 なかば壊れたトーチカと、その付近の塹壕に陣取ったリースと、分隊長のラーキン軍曹(ハリー・ガーディノ)、ヘンショー(ジェームズ・コバーン)、コービー、コリンスキーたち。それにドイツ兵に強い復讐心をもつポーランド難民のホマー(ニック・アダムス)が無理やり頼み込んで加わる。 ドイツ軍のトーチカとはわずか数百メートルの距離でしかない。こちらがわずか一個分隊しかいないことを知られたら一気に攻めてくるだろう。 戦車のような走行音を出すように改造したジープを走らせて敵をだましたり、敵が仕掛けた盗聴器を見つけて、嘘八百のホラ話を聞かせたりするが、闇にまぎれて接近してきた敵の斥候隊との銃撃戦で手薄なことがばれてしまう。こうなれば先手を打って敵のトーチカを攻めるべきだとリースが提案する。反対する軍曹が敵の迫撃砲弾の爆発で死に、リースとヘンショーたちは独断で行動を起こします。 同じ年に公開された「戦う翼」もそうだったけれど、戦場にしか自分の居場所を見いだせない男をスティーブ・マックイーンが演じています。後方では他人迷惑な男だが、戦場では役に立ち頼りになる。しかしその独断的な行動が仲間を死なせてしまうことになる。怒った中隊長が「指揮官でもないお前にそんな権利があるのか。必ず軍法会議にかけてやる」と𠮟責する。このような役柄はマックイーンに似合っているのだろうか。 小隊長のパイク曹長(フェス・パーカー)と北アフリカで一緒に戦った旧知の仲という設定で、下士官の曹長が小隊長を務めているのは、少尉が戦死したので一時的に指揮をとっているのだろう。 このパラマウント社のDVDには日本語吹替え音声がはいっていて、マックイーンの声は内海賢二さんです。字幕の翻訳は日本語吹替えの翻訳と異なっていて(字幕は翻訳がヘタ)、日本語音声で見るほうが話がよくわかるし、面白いと思います。
2020年06月23日
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「モスキート爆撃隊」Mosquito Squadron (1969)監督 ボリス・セイガル製作 ルイス・J・ラクミル脚本 ドリーン・ソーン撮影 ポール・ビーソン音楽 フランク・コーデル出演 デヴィッド・マッカラム、スザンヌ・ニーブ デヴィッド・バック、デヴィッド・ダンダス ディンスデール・ランデン、チャールズ・グレイ、マイケル・アンソニー イギリス映画 本編90分 カラー ビスタサイズ 第二次大戦時のイギリス空軍の傑作機モスキートが活躍する戦争映画です。同じモスキートを扱った「633爆撃隊」は何度か見たけれど、こちらは今回が初めての鑑賞で、シネフィルWOWOWでの放送を録画したものです。 1944年。モスキートの爆撃中隊がフランスにあるドイツ軍のV1号飛行爆弾の発射基地を爆撃する。その際に直上からのメッサーシュミットの奇襲をうけてクイント(デヴィッド・マッカラム)の親友であるスコット(デヴィッド・バック)の機が撃墜されてしまいます。地上に激突して爆発するのを見届けたクイント機は帰還する。親友の死をその妻ベス(スザンヌニーブ)に知らせ、悲しみにくれる彼女をはげますうちに二人は愛しあうようになる。 フランス本土から海峡を越えて英国に飛来するドイツ軍のV1号飛行爆弾は、命中精度も悪く飛行速度も速くないので戦闘機で迎撃できるためそれほど脅威ではないが、迎撃不可能の音速を超える新型ロケット爆弾V2号の開発が進んでいるという。その研究施設がシャーロンの古城にあることを突き止めた英国情報部はクイントの爆撃中隊にその施設壊滅を依頼します。 さっそくピンポイント爆撃の訓練を開始するが、基地を攻撃に飛来した敵機が落としていった記録フィルムを見た彼らは、攻撃目標シャーロン城に多数の連合軍捕虜が収容されているのを知らされる。しかも、その捕虜のなかに死んだと思われていた親友のスコットの姿が写っていた。 味方の捕虜がいる攻撃目標をいかに爆撃するのか? ということと、死んだと思われていた親友が生きていた。すでにその妻と深い関係になってしまっていて、困ったことになったぞ。そんな映画です。 劇場用映画というより、もしかしてTVムービーではないかと、そんな感じがする作品で、モスキート戦闘爆撃機が見られることと、「0011ナポレオン・ソロ」で人気があったデヴィッド・マッカラムが出ているくらいが見どころです。 英空軍のデハビランド・モスキート。抜群の飛行性能と高速を誇った万能木製機ですが、ロールスロイス・マーリンエンジンと、優れた木材用接着剤と合板技術が確立していたことで成功した機体です。ご飯粒をつぶして接着剤にしていた当時の日本ではとても真似のできないことです。
2020年06月01日
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「レマゲン鉄橋」(1968) THE BRIDGE AT REMAGEN監督 ジョン・ギラーミン製作 デヴィッド・L・ウォルパー脚本 ウィリアム・ロバーツ リチャード・イェーツ、ロジャー・ハーソン撮影 スタンリー・コルテス音楽 エルマー・バーンスタイン出演 ジョージ・シーガル、ロバート・ヴォーン、ベン・ギャザラ ブラッドフォード・ディルマン、E・G・マーシャル ペーター・ヴァン・アイク、ボー・ホプキンス、ハンス・クリスチャン・ブレヒ ヨアヒム・ハンセン 本編116分 総天然色 シネマスコープサイズ 映画チャンネル「シネフィルWOWOW」で放送されたアメリカ映画「レマゲン鉄橋」を鑑賞。今月はこの日本語吹替え版も予定されていて、DVDソフト未収録の日本語吹替えが放送されるのは期待大です。 1945年3月。連合軍がドイツ軍を圧倒しライン川の西岸に追い詰め、さらに川を越えてドイツ本国へと侵攻しようとしていた時期。ライン川に架かるルーデンドルフ鉄道橋の争奪戦を描いた戦争映画です。 映画の冒頭で、オーバーカッセル橋に向かって川沿いの舗装道路を縦列を組んで突進するM24軽戦車とトラック、歩兵装甲車の群れ。対岸からドイツ軍が応射し、その猛烈な射撃を受けて大破擱座して戦列から脱落する車輛。ドイツ軍の負傷兵を満載した列車が橋を渡った瞬間、橋が大爆発する。「危うく敵に橋を奪われるところだったではないか」とドイツ軍のフォン・ブロック大将(ペーター・ヴァン・アイク)が上司の元帥から叱責される。敵を本土に一歩たりとも入れてはならないのだ。残るレマゲンの橋もすぐに爆破するのだ。と命令されたフォン・ブロック大将は、「しかし西岸にはまだ7万5000の友軍が残されています。彼らを収容せねば」と反論するが、上司は「総統の命令だ」といって爆破の強行を厳命する。 なんとか7万5000のドイツ軍を撤収させたい将軍は、部下のクルーガー少佐(ロバート・ヴォーン)をレマゲンに派遣し、爆破を送らせて鉄橋の死守を命令します。 橋の守備隊は1500名と聞いて赴任したクルーガー少佐だったが、精鋭はすでに移動したあとで、実際には老兵や志願兵などが250名ばかり。しかも橋を爆破するための爆薬も粗悪品ばかりだった。この心細い戦力で少佐はやがて押し寄せる連合軍を迎え撃とうとする。 一方、アメリカ第9機甲師団 第27装甲歩兵大隊のハートマン中尉(ジョージ・シーガル)やアンジェロ軍曹(ベン・ギャザラ)たちの中隊もレマゲンの町に侵攻し、橋に到達する。両軍のあいだに激戦が展開されます。 1968年作品で、日本公開は1970年3月。劇場公開ポスターに「0011ナポレオン・ソロ」で誰もが知っていたロバート・ヴォーンがドイツ軍少佐役のサングラス姿で大きく載っているのを見て期待がふくらんだ戦争映画です。 チェコスロバキアの都市が再開発で取り壊されるのを拝借して撮影がおこなわれ、実際に街や建物の破壊爆破ができたことで戦争映画として迫力ある描写が可能だった稀有な一編。 危険を顧みず無謀に突進した大尉が戦死したことで中隊の指揮を執ることになったハートマン中尉を演じるジョージ・シーガル。この人はやる気のないサラリーマンを連想させる俳優で、この戦争に疲れた厭戦的な中尉の役は適しているのか。上司の命令を唯々諾々と受け入れそれを自分の出世の機会とする少佐からレマゲン鉄橋の奪取を命じられ、その自殺的任務に反発しながらも従わざるを得ない立場をうまく演じています。 敵兵の戦死体の懐をさぐって金品や腕時計などを奪う部下のアンジェロ軍曹(ベン・ギャザラ)を軽蔑しながらも、彼とは過酷な最前線では馬が合うのか、腐れ縁というのか、きれいごとではない、兵隊たちを英雄視することもなく、戦争映画としての秀作になっています。 ドイツ軍のレマゲン鉄橋守備隊の指揮官クルーガー少佐が命令違反で逮捕され、銃殺刑になるラストが印象に深く残ります。
2018年12月09日
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1963年外国映画興行成績 金額は配給収入1位「史上最大の作戦 」 8.9億円 2位「アラビアのロレンス」 5.9億円 3位「大脱走」 5.2億円 4位「クレオパトラ」 4.2億円 5位「北京の55日」 3.3億円 6位「地下室のメロディー」 2.4億円 7位「シャレード」 2.2億円 8位「隊長ブーリバ」 2.2億円 9位「鳥 」 2.0億円 10位「チコと鮫」 2.0億円 映画「史上最大の作戦」が日本公開されたのは1962年12月15日。当時は全国一斉公開ではなく、地方都市では数か月遅れが普通でした。金沢市での公開は何月だったのかは、そんなわけで私にはわからない。 まだ小学校の低学年で、映画を見に行かれる年齢ではなかったけれども、その映画が大ヒットして大きな話題になっていたのは知っています。ポール・アンカが「Many men came here as soldiers ♪」と歌う主題歌がヒットチャートに載って、ラジオやレコードで聴いた記憶があります。 私がこの有名な映画を初めて見たのは1968年10月(高校生になっていた)のリバイバル上映で、北国シネラマ会館(同時上映「牝猫と現金」)。70ミリ映画で、大スクリーンが湾曲したシネラマ上映。超大作ながらもモノクロなのがとてもセンスが良い印象があって、その当時の映画館の独特の雰囲気など(現在は失われた雰囲気)もあって、私にとっては思い出深い作品の代表的なものです。「史上最大の作戦」(1962) THE LONGEST DAY監督 ケン・アナキン ベルンハルト・ヴィッキ アンドリュー・マートン製作 ダリル・F・ザナック、エルモ・ウィリアムズ原作 コーネリアス・ライアン(ハヤカワ文庫刊)脚本 コーネリアス・ライアン ジェームズ・ジョーンズ、ロマン・ギャリー デヴィッド・パーサル、ジャック・セドン 撮影 アンリ・ペルサン、ジャン・ブールゴワン ワルター・ウォティッツ 音楽 モーリス・ジャール出演 ジョン・ウェイン、ヘンリー・フォンダ、ジャン=ルイ・バロー ロバート・ライアン、リチャード・バートン、ロバート・ミッチャム アルレッティ、ショーン・コネリー、ロッド・スタイガー、ロバート・ワグナー ジェフリー・ハンター、リチャード・ベイマー、ポール・アンカ、メル・ファーラー フェビアン、スチュアート・ホイットマン、スティーヴ・フォレスト サル・ミネオ、ロディ・マクドウォール、レッド・バトンズ、エディ・アルバート エドモンド・オブライエン、ケネス・モア、クルト・ユルゲンス ゲルト・フレーベ、ブールヴィル、クリスチャン・マルカン、イリナ・デミック マドレーヌ・ルノー、フランソワーズ・ロゼー、マーク・ダモン、フランキー・アヴァロン 本編179分 モノクロ シネマスコープサイズ「パリは燃えているか」(66)「バルジ大作戦」(65)「遠すぎた橋」(77)など、多数の大スター俳優を集めて出演させ、戦争の歴史的一局面を映像として再現させるという手法は、この「史上最大の作戦」が最初です。 1944年6月5日から6日にかけての、連合軍によるフランス本土反攻作戦「オーヴァーロード作戦」の待機、決行の決断、侵攻開始、戦闘、その第一日目が終了するまでを描いた大作映画。 英国本土で待機している連合軍が悪天候の中で上陸作戦を決行するかの判断に迷っている。海峡を挟んだフランス側ではドイツ軍のロンメル元帥が海岸砲台を視察して「連合軍が上陸してきても、この海岸で殲滅するのだ。最初の24時間で雌雄を決する。その日は連合軍にとっても我々にとっても最も長い一日となるだろう」と麾下の将軍たちに語っている。 これまでに映画館では、初鑑賞時に2回、1977年の再リバイバル上映で1回(金沢プラザ劇場)の合わせて3回見て、その後、テレビ洋画劇場、レンタルビデオ、レーザーディスク、DVDの購入、ブルーレイソフトを購入しての鑑賞など、何度も見ているのですが、いま何度目かを見て気づいたことがいくつかあります。 ジョン・ウェインが演ずるバンダーボルト中佐がその第2大隊を指揮する第82空挺師団が6日未明に交通の要衝サン・メール・エグリーズに落下傘降下する。降下は目測を誤って沼沢地に降りる兵や、市街地に降りて敵の銃火をあびる兵など多数の犠牲をだしてしまう。 実際の作戦には第82空挺師団のほかに第101空挺師団も参加していて、この映画では第82空挺師団だけしか出てこないと思っていたけれど、闇夜の混乱の中で迷子になった兵隊(リチャード・ベイマー)が第101空挺師団の兵隊と合流するシーンがありました。 この若い兵隊が出撃前日に兵舎でサイコロ賭博で2500ドルの大勝ちをする。以前にも賭博で勝った時に足を大怪我して2か月も動けなかったことを思い出した彼は、これはヤバい、不吉だと思い、賭博の輪に戻って勝った金を全部すってしまうことにする。そして彼の大勝ちを見て「俺も勝ってやろう」と思った兵隊(サル・ミネオ)が負けてスッテンテンになる。 その後、戦闘の中でこの2人の運命は大きく真逆になり、ジンクスを信じて勝った金をわざとすった者は最後まで銃を一発も撃つことがなく無事に生き延びる。彼が賭博で勝ったのを知って同じように儲けようと思ったがスッテンテンになったもう一人は、不運な勘違いで絶命してしまう。 このサル・ミネオが演じた、敵の銃の装填音を味方の合図音と勘違いしたことで撃たれてしまう兵隊。彼の不運な運命はリチャード・ベイマーの幸運と真逆になっている、というのは今回初めて気づいたことです。 それとレジスタンスのジャニーヌ(イリナ・デミック)がセクシーな格好で自転車に乗って検問所のドイツ兵をたぶらかすシーン。この検問所がある橋は、のちに英軍のグライダー部隊が降下して占拠に成功する橋であること。オーヴァーロード作戦、Dデイのシンボル的な存在になっている橋なんだそうです。 サン・メール・エグリーズの教会で神父が「夜の闇が深いときでも絶望してはならない。希望を持ち続けるのだ」と説法しているのを聴いている老婦人(アルレッティ)は、この後に夜中に庭先にあるトイレへ行こうとしたら空から落下傘兵が下りてきて、「シー」とされて驚くおばさんと同じ人であること、など。 この「史上最大の作戦」は見るたびに新たな発見がある作品です。 劇場公開された時の字幕翻訳は清水俊二さんだった(清水さんと双璧をなす名翻訳家 高瀬鎮夫さんではなかったような?)と記憶しているのですが、誤訳が気になる現在のDVDとブルーレイソフト(岡枝慎二 訳)ではなく、昔のちゃんとした翻訳でこの作品を鑑賞したいものです。 有名なヴェルレーヌの詩の一説「秋の日の ヴィオロンのためいきの」(中学校の国語授業で習ったので、この詩を知らない日本人はいないのでは?)。NHKのBSで放送されたときには「秋のバイオリンのすすりなき」とか訳されていて、まったく情緒がないものになっていました。これはNHK独自の字幕翻訳による悪い面がでた例でしょう。
2018年10月25日
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「ダンケルク」(2017) DUNKIRK監督 クリストファー・ノーラン 製作 エマ・トーマス、クリストファー・ノーラン 脚本 クリストファー・ノーラン 撮影 ホイテ・ヴァン・ホイテマ プロダクションデザイン: ネイサン・クロウリー 編集 リー・スミス 音楽 ハンス・ジマー出演 フィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン・カーニー ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズ、アナイリン・バーナード ジェームズ・ダーシー、バリー・キオガン、ケネス・ブラナー、マーク・ライランス キリアン・マーフィ、トム・ハーディ、ジョン・ノーラン、マイケル・ケイン(声のみ) 本編106分 カラー ビスタ&シネスコサイズ 映画「ダンケルク」のブルーレイソフトを鑑賞しました。昨年の9月に劇場公開され、「ワンダーウーマン」を見に行った時に予告編をやっていて、面白そうだと思って関心をもった作品です。 第二次大戦の1940年5月末から6月初頭にかけて、ドイツ軍のフランス侵攻によって英仏海峡のカレーの西方、ベルギー国境に近い港市ダンケルクの砂浜に追い詰められたイギリス大陸派遣軍とフランス軍の約35万人(英軍19万余、仏軍14万弱)が海峡を越えて脱出に成功した撤退作戦の模様を描いている。 砂浜と桟橋に長蛇の列をつくって本国からの船を待つ兵隊たち。ようやく乗った船が魚雷で沈められて海に投げ出される者たち。 軍の徴用をうけて英国からダンケルクに救出に向かう民間の小型船を操る親子。敵の空爆を防ぐためにダンケルクに向かう英空軍の戦闘機パイロット。 戦いの中に身を置く者たちの様々な視点から描かれていて特定の主人公がいない群像劇です。 ダンケルクの撤退をテーマにした作品では、1964年のフランス映画「ダンケルク」(監督アンリ・ヴェルヌイユ。主演ジャン・ポール・ベルモンド、カトリーヌ・スパーク。撮影アンリ・ドカエ)がありましたが、フランス人からの視点で、陽光で明るい避暑地の砂浜での戦争の破壊と絶望を描いた傑作でした。 今回の英国映画「ダンケルク」は完全なイギリス視点ですね。戦争映画というより、戦時下でのサバイバル映画というべきだろうか。救出される兵士たちの自分だけが助かろうとするエゴと、彼らを救出しようと、小型船であえて危険に飛び込む民間人親子の献身。スピットファイア戦闘機で、彼らを守ろうと敵機と空戦を展開する英空軍パイロットたちの、少ない燃料(航続距離が短い機体)での奮戦は、自分に課せられた義務と責務だろうか、が並行して描かれる。 本編106分は戦争映画としては短くて大作感はないけれど、うまくまとめられていて理解しやすく、面白い映画です。映画をストーリーを知る目的で見る人には向かないだろうとは思うけれど。歴史や戦記に興味がある人だったら、きっと面白く見られる作品ではないでしょうか。
2018年06月23日
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「大反撃」(1969) CASTLE KEEP監督 シドニー・ポラック製作 マーティン・ランソホフ ジョン・キャリー原作 ウィリアム・イーストレイク脚本 ダニエル・タラダッシュ デヴィッド・レイフィール撮影 アンリ・ドカエ音楽 ミシェル・ルグラン 出演 バート・ランカスター、ジャン=ピエール・オーモン アストレッド・ヒーレン、パトリック・オニール、ピーター・フォーク スコット・ウィルソン、ブルース・ダーン、トニー・ビル 本編105分 総天然色 ビスタサイズ(?) 今日4月6日は必見作、ぜったいに録画すべしという作品2本が放送されます。シネフィルwowow(旧イマジカBS)で午後3時30分からの「ドラキュラ血のしたたり」(72年英国 ジョン・ハフ監督)と、ザ・シネマで深夜1時30分からの「大反撃」(69年アメリカ シドニー・ポラック監督)です。「大反撃」の日本公開は1969年11月。金沢では駅前にあった都ホテル地下街の金沢ロキシー劇場で上映されました。 1944年12月。ベルギーの森を8人のアメリカ兵が乗ったジープがやってくる。彼らはドイツ軍の大反撃にあって壊滅した部隊の敗残兵たちだろうか。少佐から一等兵まで階級がさまざまな寄せ集めで、疲労困憊した様子。 近くに古城があり、森の中を黄色いマント姿の女性が馬を走らせていくのを目にする。このオープニングから戦争映画らしくない、不思議な雰囲気がただよいます。 指揮官のファルコナー少佐(バート・ランカスター)は、やがて押し寄せてくるドイツ軍をこの古城に立てこもって抵抗しようと考える。 城には伯爵夫妻が住み、絵画や彫刻などの多数の美術品が所蔵されている。ここで戦えばそれら貴重な美術品が破壊されてしまうと云って籠城戦に反対するベックマン大尉(パトリック・オニール)。 戦いを前にして、古城での一時の休息を楽しむ兵隊たち。近くの町に出かけて娼館へ行く者、パン屋の未亡人と仲良くなる軍曹(ピ-ター・フォーク)、ある兵隊はドイツの名車フォルクスワーゲンに夢中になる。 そして性的不能な伯爵は妻を少佐と寝させることで子種を得ようとし、その伯爵夫人と少佐は深い関係となる。 原題は「CASTLE KEEP」です。「城の天守閣」という意味ですが、字幕には「古城の望楼」とあり、このほうが趣があるようです。 KEEPの意味は「~を続ける」「~の状態にしておく」「~を持ち続ける」「~を守り続ける」「保持する」などが一般的だと思うのですが、徹底抗戦を主張する少佐には「城に立てこもって、敵の攻撃から城を保持する」という意味で、籠城戦に反対する大尉には「戦いの破壊から城と美術品を守る」という意味になり、妻を少佐に与えて子種を得ようとする伯爵には、「由緒ある城と家系を存続させる」という意味になる。「キャッスル・キープ」「城を保持する」という原題には、その登場人物それぞれの思惑がからんだ意味があるようです。 冬のアルデンヌの森にある古城を舞台にした戦争映画ですが、その戦闘場面にしても夢の中のできごとのような、幻想的な雰囲気がただよう。これはファンタジー映画ともいえる異色作です。
2018年04月06日
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「誇り高き戦場」(1967) COUNTERPOINT監督 ラルフ・ネルソン製作 リチャード・バーグ原作 アラン・シリトー脚本 ジェームズ・リー、ジョエル・オリアンスキー撮影 ラッセル・メティ音楽 ブロニスラウ・ケイパー出演 チャールトン・ヘストン、マクシミリアン・シェル キャスリン・ヘイズ、レスリー・ニールセン、アントン・ディフリング 本編106分 総天然色 シネマスコープサイズ 1968年1月に日本公開された戦争映画です。 かつてゴールデン洋画劇場で1976年10月1日に、月曜ロードショーで1982年7月26日に放送された。録画して持っていたVHSビデオテープは時期的にこの月曜ロードショーのものだったようで、何度もくりかえして見た記憶があります。 1944年12月、第二次大戦末期。ドイツ軍が撤退したベルギー戦線で米軍慰問協会によるクラシック音楽コンサートが催される。世界的に知られる指揮者ライオネル・エヴァンス(チャールトン・ヘストン)率いる交響管弦楽団が演奏を始めた時、突然にドイツ軍による反撃が開始されてアメリカ軍は大混乱におちいる。楽団もバスに乗って避難しようとするが、アメリカ兵に変装したドイツ兵に逆の方向へ誘導され、バスは敵に包囲されてしまい、ドイツ軍司令部のある古城へ連れていかれます。 エヴァンスは自分たちが非戦闘員であることを訴えますが、ドイツ軍のアーント大佐(アントン・ディフリング)は聞く耳を持たず銃殺刑にしようとする。その時、エヴァンスに気づいたシラー将軍(マクシミリアン・シェル)が銃殺を中止させます。 クラシック音楽の愛好家であるシラー将軍は楽団を捕虜として正当に扱う代わりに演奏を聞かせて欲しいと要求。コンサート・マスターのヴィクター(レスリー・ニールセン)たち楽団員は同意するが、気骨のあるエヴァンスは「敵のためになんか演奏しない」と、頑なに拒否する。 私にとって懐かしい映画であり、長らくDVDソフトは廃盤になっていたが、廉価版(AMAZONでは927円)が発売されたのを知って、日本語吹替え音声(月曜ロードショー)も入っているので購入しました。 映画「バルジ大作戦」で知られる1944年12月にベルギー アルデンヌ地方で悪天候をついておこなわれたドイツ軍による起死回生の大反撃作戦。その混乱に巻き込まれた交響楽団を描いていて、戦争映画としては異色作といえるか。 この作品についての情報をネットでいろいろ見ていると、妙な感想を見かけたのでひと言。「危険な戦場へオーケストラ楽団がでかけるなんてありえない。だからこの作品は嘘っぱちの愚作だ」という意見です。これはアメリカ軍の慰問協会を知らないとんでもない間違いです。 あの「ムーンライトセレナーデ」や「茶色の小瓶」で有名なグレン・ミラーが積極的に戦地に慰問演奏にでかけて、英仏海峡で乗機が行方不明になった最期も、この「誇り高き戦場」と同じ1944年12月でした。 マリリン・モンローだって朝鮮戦争の最前線に慰問に行っているし、ベトナムにはプレイメイトのお嬢さんたちが出かけて行って兵隊さんの喝采をうけています。 戦地への慰問団が捕虜になって、彼らはどうなるのかという意味でも、この映画「誇り高き戦場」は面白いし、名優チャールトン・ヘストンとマクシミリアン・シェルが「演奏をしろ」「ぜったいにするもんか!」という意地の張り合いを見せるというのも面白いです。
2017年07月18日
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1970年度外国映画興行成績です。 金額は配給収入。1位「続 猿の惑星」 1億6千500万円2位「サウンド・オブ・ミュージック」 1億5千万円3位「クリスマス・ツリー」 1億4千万円4位「女王陛下の007」 1億3千万円5位「ひまわり」 1億2千万円6位「ネレトバの戦い」 1億1千万円6位「シシリアン」 1億1千万円8位「シェーン」 1億円8位「チップス先生さようなら」 1億円8位「さらば夏の日」 1億円 第6位の「ネレトバの戦い」はユーゴスラビア(イタリア・西ドイツ・アメリカ合作)の戦争映画です。 日本公開は1969年12月。このような地味な映画は、現在ではとても商業性がなくて客が入らないのでは?それ以前に輸入されないだろうし、日本で劇場公開されないのではないかと思われますが、当時はそうでもなく、英国の「007」映画に引けを取らない健闘をしている。「ネレトバの戦い」(1969) BITKA NA NERETVI THE BATTLE OF NERETVA監督 ヴェリコ・ブライーチ脚本 ウーゴ・ピロ ラトコ・デュロヴィッチ ステバン・ブライーチ ヴェリコ・ブライーチ 撮影 トミスラフ・ピンター 音楽 バーナード・ハーマン出演 バタ・ジボイノビッチ、ロイゼ・ローズマン シルヴァ・コシナ、セルゲイ・ボンダルチュク ユル・ブリンナー、フランコ・ネロ、ミレナ・ドラヴィッチ クルト・ユルゲンス、ハーディー・クリューガー 本編144分 総天然色 シネマスコープサイズ この映画を劇場公開時に見たのですが(金沢ロキシー劇場)、家に帰ってからストーリーを思い出そうとしても、さっぱり覚えていなくて、翌日もう一度見に行きました。 あれから約46年ぶりにDVDでの鑑賞です。 高校2年生の3学期だった当時、この映画を見ても理解できなかった、というかストーリーがよくわからず戦闘場面だけしか記憶に残らないのは当然だったようです。 第二次大戦時のユーゴスラビアの歴史を予備知識としてある程度は持っていないと、この映画を見てもさっぱり面白くないだろうし、物語について行けないのではないか? 1943年1月のユーゴスラビア、ドイツ軍は頑強に抵抗するパルチザンの掃討を目的とした「ワイス作戦」を開始した。 作戦の指揮を執るのはドイツ軍のローリング将軍(クルト・ユルゲンス)で、モレリ将軍(アンソニー・ドーソン)のイタリア軍や王党派のチェトニックも加わった約15万人の大軍。 対するパルチザン側は約3万人。兵力で劣るパルチザン軍は東方へ撤退することとなる。「病人や負傷者を見捨てない」という方針で戦傷病者と大量の避難民を抱えているため、撤退は難渋を極め、多くの犠牲を出しながらも、ようやくネレトバ川へたどり着きます。 映画は、パルチザンがドイツ軍やイタリア軍と戦いながらの、この撤退行の成功を描いたものです。要するにユーゴスラビアが第二次大戦において圧倒的な敵から祖国を守り抜いたということを宣伝したい、誇りたいというプロバガンダ映画です。 たくさんのエキストラ人員を使い、多量の火薬を使った戦闘場面。 これだけではソ連の退屈な国策映画と大差がないのですが、異なるのはイタリア女優のシルヴァ・コシナさんがパルチザンの女性兵士役で出演、アメリカからユル・ブリンナーやオーソン・ウェルズ、イギリスのアンソニー・ドーソン。西ドイツのクルト・ユルゲンスとハーディー・クリューガーが出演していて、オールスター映画のような趣がある。 46年ぶりの鑑賞ということで懐かしく、ちょっと期待もあったけれども、現在の目で見るとそれほど価値のない映画でした。DVDはデジタルマスター版としているが、画質はお世辞にも褒められないもの。 1970年度アカデミー外国語映画賞にノミネートされたそうだが、こんな作品がなぜ?と不思議な感じがする。政治的な思惑があったのだろうか?
2016年07月07日
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「東部戦線1944」(2002) THE STAR監督 ニコライ・レベデフ製作 カレン・シャフナザーロフ脚本 ニコライ・レベデフ アレクサンドル・ボロジャンスキー エフゲニー・グレゴーリェフ撮影 ユーリー・ネフスキー出演 イゴーリ・ペトレンコ、アレクセイ・パーニン エカテリーナ・ヴリチェンコ、アレクセイ・クラフチェンコ 本編94分 総天然色 ビスタサイズ 3枚で500円のDVDです。 2002年製作のロシア映画で、日本未公開作品。 第二次大戦末期の東部戦線。ソ連赤軍とドイツ軍が対峙している最前線。 ソ連軍は、トラフキン中尉(イゴーリ・ペトレンコ)率いる7名の兵士を選抜。敵陣深く潜入してドイツ軍の情報を収集するよう命令をくだします。偵察隊のコード名は「スター」。 任務に出発する前にトラフキン中尉は女性通信兵カーチャ(エカテリーナ・ヴリチェンコ)と出会います。短時間の交流の後、トラフキンたちは出発してゆく。トラフキンの偵察隊とソ連軍本部と結ぶのは無線機のみで、本部で彼らとの通信を担当するのがカーチャです。 トラフキン中尉は偵察隊を率いて、ドイツ軍の内情を偵察するために敵陣奥深くへと潜入していく。彼らは、そのカムフラージュ装束からドイツ軍に「緑の幽霊」と呼ばれて不気味がられている。最初は身を隠しながらも偵察行動は順調だったが、やがて事態を察知したドイツ軍が彼らを追い詰めてゆく。 敵に追われ、無線機が故障する。仲間も一人、また一人と倒れていく絶望的な状況下、トラフキン中尉は最後まで任務を果たそうとする。 本部で彼の無事な帰還を願っている女性通信兵カーチャは「こちらスター、アース応答せよ」とのトラフキンからの連絡を受けていたが、その通信が途切れてしまう。 ラストでの、応答がなくなった無線機で呼びかけるカーチャは、悲痛です。 3枚で500円、1枚166円余で買ったDVDですが、これは掘り出し物でした。 手抜きの感じられない丁寧な描写。ストーリーも面白く、戦争映画としては正統派です。 ただ、この「東部戦線1944」という無粋な邦題はいただけない。 東部戦線というのはドイツ側から見たもので、ソ連側からだと西部戦線のはず。 独ソ戦の東部戦線を売りにしなくてもいいだろうに。 英題の「ザ・スター」だと誰も見ないだろうけれど、昔だったら「偵察隊応答なし」とか「乙女の祈り 嗚呼!偵察隊」とか、名付けるかも? しかし娯楽要素を採り入れた点で、かつてのソ連映画とは大きく変化しましたね。「戦争と平和」「ヨーロッパの解放」「カラマーゾフの兄弟」「チャイコフスキー」などの1960年代後半から1970年頃の、ソ連映画は国威発揚と芸術性が目的の退屈な長時間大作映画ばかりだった。 イタリアとの合作では「ひまわり」や「赤いテント」など、イタリアの俳優を主演にして娯楽要素を採り入れた作品があるが、これは海外へ売るのが目的だから商業性を必要としたものだろう。 近年は本作と同じようなロシア映画の日本未公開作が500円以下の格安DVDとして発売されていて、「限界戦線」「ソビエト侵攻 バルバロッサ作戦1941」「対独爆撃部隊ナイトウィッチ」など、かなり面白い。
2016年07月06日
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原題は「LOST COMMAND」。公開時の邦題は「名誉と栄光のためでなく」ですが、現在発売されているDVDは「ロスト・コマンド 名誉と栄光のためでなく」と、なぜか原題のカタカナになっています。「ロスト・コマンド」とは「失われた命令」という意味でしょうか? インドシナのディエンビエンフーでパラシュート連隊のラスペギー中佐(アンソンニー・クイン)たちは激戦の末に捕虜になり、休戦協定で解放されて帰国する。 ラスペギーは戦死した少佐の未亡人クレアフォン伯爵夫人(ミシェル・モルガン)を見舞い、彼女は素朴なラスペギーに好意を抱き、2人は親しくなる。 上官に批判的な態度を取るラスペギーの上層部の受けは良くなかったが、伯爵夫人の口添えで、新設された第10パラシュート連隊の指揮官としてアルジェリアへ赴任することになる。 インドシナでの気心が知れた部下たちとともに赴いた任地アルジェリアは、独立運動が起こり、山岳ゲリラ、都市ゲリラが出没する紛争地帯だった。「戦争」とは、本来は国同士がその正規軍をもって戦うことです。 法律上、許された殺し合いであり、そこにはルールがある。 お互いに軍人であることがわかるように制服を着用すること。 武器を隠さずに携行すること。戦争関係の国際法規を守ること、など。 このようなルールを守れば、捕虜になっても虐待されることなく正当な待遇を要求できるし、「同業者同士お互い様」であるとして捕虜に正当な待遇を与えなければならない。 この映画での主人公たちはフランス軍ですが、その戦う相手は軍隊ではなく、ゲリラ、テロリストです。一般民衆に紛れ込んでいて、こそこそと隠れて、隙を見てフランス兵をなぶり殺しにしたり、ホテルやレストランに爆弾を仕掛けて民間人を殺害する。 映画の中で仲間の兵隊を残虐な殺され方をされたフランス兵たちが、復讐のために村人を虐殺する場面があります。 仲間を惨殺した敵に対しての兵隊たちの怒りと憎しみ。このような怒りや憎しみは正規軍同士が国際法にのっとって戦った場合の敵に対する感情とはまったく種類がちがうものでしょう。 可愛い部下が身体を切り刻まれてなぶり殺しにされた指揮官の気持ち。仲間の兵隊たちの感情。「卑怯者め!、絶対に許さないぞ」と。 戦うなら正々堂々と軍隊として立ち向かってこい。それができないので民衆の中にかくれて、不意にフランス兵を襲って、追われると民衆の中に逃げ込む卑怯者の臆病者どもめ!と。テロリストどもは自分たち同胞の民衆の中に隠れ、彼らを盾にしている。 このような敵にたいする激しい怒りと憎しみの感情と復讐心があり、民衆がテロリストを匿っている(ように見える)。だから戦争での軍隊による民間人への「虐殺事件」が起こるのだろう。ベトナム戦争でのアメリカ軍の村人虐殺事件もそうなのだろう。 敵側の立場になれば、独立のために戦っているという大義名分があるかもしれないが、映画の中でゲリラの一人が言う。「フランス人の男どもを追い出して、奴らの女房や娘を可愛がってやろうじゃないか!」と、それに答えてみんながワッと歓声をあげる。 こんなゲスな台詞を吐けるのは、けっきょくは「独立」などは建前にすぎず、本音は「やられた恨みを晴らす」こと。自分の欲望を果たすために「独立」を掲げているだけではないか。 アラン・ドロンとモーリス・ロネはフランスの俳優。女優のミシェル・モルガンはフランス、クラウディア・カルディナーレはイタリア。主演のアンソニー・クインはメキシコ出身のアメリカ国籍。製作・監督のマーク・ロブソンはアメリカ人。国際色豊かな作品ですが、アメリカ映画です。 アラン・ドロンにとっては、アメリカ映画に出演していた時期にあたる作品ですね。
2016年06月29日
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「名誉と栄光のためでなく」(1966) LOST COMMAND監督 マーク・ロブソン製作 マーク・ロブソン原作 ジャン・ラルテギー脚本 ネルソン・ギディング撮影 ロバート・L・サーティース特撮 キット・ウェスト音楽 フランツ・ワックスマン出演 アンソニー・クイン、アラン・ドロン、モーリス・ロネ ミシェル・モルガン、クラウディア・カルディナーレ、ジョージ・シーガル ジャン・セルヴェ 本編129分 総天然色 シネマスコープサイズ 日本公開1966年7月のアメリカ映画です。 フランス映画の傑作「さらば友よ」(68)は、マルセイユ港に接岸された輸送船からアルジェリア還りの兵隊たちが続々と降り立つ場面から始まります。 多勢の兵隊たちの中にチャールズ・ブロンソンのアメリカ人傭兵と、アラン・ドロンの軍医中尉がいる。 そのアラン・ドロンがイザベル・モロー(オルガ・ジョルジュ・ピコ)という女に声をかけられる。「モーツァルトって人を知らないかしら?あなたと同じ軍医の」。アラン・ドロンは「知らない」と答えるが、その後でブロンソンが「俺だったら彼とディエンビエンフーでゴルフをやったと云うがね」と、せっかくきれいな女に声をかけられて「知らん」とはもったいない、という口ぶりです。 その後、ドロンが女と再会したときに、「彼とディエンビエンフーでゴルフをした」と云うと、「嘘よ。彼はそんな所へ行ってないわ」と女が笑う。 このような場面を見て、なぜマルセイユ港にたくさんの兵隊たちが帰還してくるのか?、またディエンビエンフーとは何なのか?を知っているのと知らないのとでは、同じ映画を見ても面白さの度合いに差ができてしまう。 アルジェリア戦争と、その前のインドシナ戦争が背景にあり、ディエンビエンフーとはフランス植民地だったインドシナ(ベトナム)の地名で、インドシナ戦争の勝敗を決定した激戦地です。 またサスペンス映画の傑作「ジャッカルの日」(73)はフランスの右翼組織OAS(秘密軍事組織)がドゴール大統領を暗殺するためにプロの狙撃者ジャッカルを雇います。なぜOASはドゴール大統領に対して激しい憎しみを抱いたのか? これも背景にアルジェリア戦争があり、フランスの植民地アルジェリア領有の継続を望むOASはその独立を認めたドゴール大統領を祖国の裏切り者として、決して許せないと激しい憎悪を抱いた。■インドシナ戦争 1946年12月~1954年7月 日本敗戦直後の1945年9月、ハノイでベトナム民主共和国が独立を宣言。フランスは46年3月に植民地ベトナムの自治を承認。しかし10月以降フランスが軍事占領を強行して、南部に傀儡政権を樹立したことでベトナム側が反発し、戦争となった。 ディエンビエンフーはベトナム北西部の町。1954年5月、ベトナム解放軍がフランス軍1万6000人を包囲撃滅し、フランスの敗北が決定的となった。 1954年7月ジュネーヴ休戦協定が調印される。北緯17度線を暫定的軍事境界線とすること、南北統一選挙を約束。しかし、アメリカと南政権は調印に参加せず、フランス軍が撤兵したあとはアメリカが南政権を支援し、ベトナム戦争へと発展してゆく。■アルジェリア戦争 1954年~1962年 フランス植民地主義に対するアルジェリアの民族解放闘争。 フランスは1954年インドシナの独立を認めたあと、地下資源が多く、多額の投資をしていた植民地アルジェリアの維持に全力で努めたが、独立運動が激化して泥沼化、多大な犠牲を出した。1958年にドゴール政権が誕生し、1962年独立を承認した。 OASがドゴールを憎んだのは、戦いで多くの仲間の血を流しておきながら独立を認めたから。仲間の犠牲は何だったのか、犬死にではないかと。 この映画「名誉と栄光のためでなく」は、インドシナ戦争の戦場から物語が始まり、アルジェリア戦争で戦うフランスのパラシュート部隊を描いた物語です。 明日につづきます。
2016年06月28日
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「砂漠の鬼将軍」(1951) THE DESERT FOX監督 ヘンリー・ハサウェイ製作 ナナリー・ジョンソン原作 デスモンド・ヤング脚本 ナナリー・ジョンソン撮影 ノーバート・ブロダイン音楽 ダニエル・アンフィシアトロフ出演 ジェームズ・メイソン、セドリック・ハードウィック ジェシカ・タンディ、ルーサー・アドラー、レオ・G・キャロル リチャード・ブーン 本編89分 モノクロ スタンダードサイズ「砂漠の狐」の異名で第二次大戦 北アフリカ戦線の英軍にその名をとどろかせた、ドイツ軍のエルヴィン・ロンメル将軍の最期を描いた作品です。 演ずるのはジェームズ・メイソン。敵である英軍将校からも武将として尊敬されたロンメル将軍が、その後1944年にヒトラー暗殺計画に関与したとして、最期は服毒自決を強制される。実際に暗殺計画に関係したかは不明だそうですが、ヒトラー総統に疎まれて有罪とされ、絞首刑になるところを、国民的英雄であるために、ひそかに毒をもっての自決を強要され、表向きには戦死と報道されました。 手塚治虫さんのマンガキャラクターに「メイスン」という人物がいます。手塚さんは大のジェームズ・メイソンのファンだったそうで、自作品での登場人物のモデルにした。手塚さんの作法はスター・システムで、まずキャラクターを創って、それを映画の俳優のように自分の作品にキャスティングしました。 そのメイスンを、私はいままでずっと「ロンメル」だと思っていました。ロンメルは別にいて、ジェームズ・メイソンとは似ても似つかないキャラ。なぜこんな勘違いをしてしまったのか? マンガ「ビッグX」(月刊誌「少年ブック」連載)の冒頭にベルリンのドイツ軍総司令部の場面があって、大きなコマの、中央にヒトラー総統、右にリッペントロップ元帥とロンメル元帥。左にヒムラーとゲーリング、ゲッペルスがいる。 このコマに描かれているロンメル元帥がメイスンです。この絵のために、ずっとメイスンをロンメルだと思い込んでしまったようです(隣にいるリッペントロップ元帥がロンメル)。 で、映画ですが、 ロンメルは「砂漠の狐」と言われる名将であり、捕虜に対しては国際法を遵守する騎士道精神をもって遇する。北アフリカ戦線で、捕虜の英軍将校が痛めつけられそうになるところをロンメルの鶴の一声で救われる場面。この英軍将校が遠くにいるロンメル将軍に尊敬をこめて敬礼し、ロンメルも指揮杖を持つ手をあげて返礼します。 この英軍将校を演じているのが原作者デスモンド・ヤング本人だとか。 彼の実体験で、戦後に尊敬するロンメル将軍の死の真相を、生存していた関係者たちを訪問し、話を聞いて書き上げた伝記だそうです。 戦争映画というより、ロンメルの後半生を描いた伝記映画。ロンメルを演じるジェームズ・メイソンが適役で好演している。彼にヒトラー排除の必要性を説得する旧友役セドリック・ハードウィックと、ロンメル夫人役のジェシカ・タンディも印象に残ります。 忠実な副官を演じているのはリチャード・ブーンですね、小さな役だけれども。
2016年02月22日
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「レッド・バロン」(2008) THE RED BARON監督 ニコライ・ミュラーション製作 ダン・マーク トーマス・ライザー ニコライ・ミュラーション脚本 ニコライ・ミュラーション撮影 クラウス・メルケル音楽 ディルク・ライヒャルト シュテファン・ハンゼン出演 マティアス・シュヴァイクホファー、ティル・シュヴァイガー レナ・ヘディ、ジョセフ・ファインズ、フォルカー・ブルッフ 本編129分 総天然色 シネマスコープサイズ 第一次大戦下フランス戦線。ドイツ空軍パイロットのマンフレート・フォン・リヒトホーフェン男爵の伝記映画といえる?、彼を主人公にしたドイツ映画です。「レッドバロン(赤い男爵)」と呼ばれるドイツの撃墜王リヒトホーフェンの名を知らない男子はいないのでは。子供の頃に読んだ少年雑誌や本で、その名を目にしたことがあるのではないでしょうか。 リヒトホーフェン(マティアス・シュヴァイクホファー)は撃墜した敵パイロットの葬儀がおこなわれると聞けば、その埋葬に飛んでいって敬意を表して上空から花輪を落とす。敵機を落とせばその墜落した場所にかけつけて、死んでいれば葬り、息があれば救助する。 空戦は敵機を落とすためで、そのパイロットを殺すのが目的ではないという。戦争は正々堂々と名誉と誇りをもって戦う騎士道精神にのっとったスポーツだと考えている。 軍は全軍の士気高揚のために「英雄」の存在が必要と考え、彼の撃墜王としての華々しい活躍にドイツ軍最高の栄誉プール・ル・メリット勲章を授与する。 真紅に塗装した戦闘機に乗るリヒトホーフェンを連合軍パイロットたちは「レッドバロン(赤い男爵)」と呼んで一目置き、恐れるようになる。 やがて彼は看護師ケイト(レナ・ヘディ)と知り合い、彼女に惹かれてゆくが、彼女はなぜか英雄の彼に冷たい態度をとるのだった。 第一次大戦は「西部戦線異状なし」(エリヒ・マリア・レマルク著 新潮文庫)で描かれているように、地獄のような塹壕戦がおこなわれた戦争です。 敵味方とも塹壕に立て籠もり、攻めたり攻められたり、陣地を取ったり取られたりが雨と泥とぬかるみの中で、兵隊たちが機関銃で腹を引き裂かれて内蔵をぶちまけて、のたうちながら死んでいった戦い。 そんな凄惨な戦いがおこなわれているのに、この空の英雄と奉られている若者リヒトホーフェン男爵は「騎士道精神にのっとったスポーツ」だと言う。 ヒロインの看護師が彼に冷たい態度をとるのは、「この人、なにを言ってるの?」という反感で、スポーツを楽しむかのように敵との殺し合いを繰り返す彼が理解できなかったのです。 彼女は彼を数ある野戦病院のひとつへ案内し、そこの現状を見せる。手足をもがれた瀕死の患者が多数収容されている光景を目の当たりにして、リヒトホーフェンは衝撃を受ける。 主人公が撃墜王として政治に利用され、英雄として祭り上げられるのは、かつての「ブルー・マックス」(1966年イギリス映画)があります。その中でも地上の泥の中を這いずり回る歩兵の視点から見た空軍パイロット(貴族階級の子弟)の騎士道精神批判が描かれていたので、目新しいテーマではありません。 この映画を見ていて気になったのは字幕(日本語吹替えも)が「看護師」「従軍看護師」と訳されていることです。看護師といわれるようになったのは2002年からで、第一次大戦時だから看護師ではなく「看護婦」とすべき。江戸時代の奉行所同心を「刑事」といったらおかしいのと同じです。
2015年10月28日
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本日10月15日(木)午後1時にNHKのBSプレミアムで放送された映画「ジャッカルの日」(1973)をご覧になったでしょうか? コードネーム「ジャッカル」を自称する正体不明の暗殺者がフランスの秘密軍事組織OASに雇われてドゴール大統領を狙撃しようとするサスペンス映画の傑作です。 その暗殺決行日が8月25日のパリ解放記念日。パリでは軍事パレードがおこなわれ、式典に出席するドゴール大統領をジャッカルが特注ライフルで狙撃する。 解放記念日の8月25日は、第2次世界大戦時1940年から4年間ナチスドイツ軍に占領支配されていたパリが解放された日。 解放の翌26日に、まだ居残っているドイツ兵の銃撃をうけたりしながらもシャンゼリゼ通りをパレードしたのが軍事パレードの始まりで、以来、8月25日にパリ解放を記念する式典が開かれているそうです(現在は軍事パレードは7月14日の革命記念日に行われる)。「パリは燃えているか」(1966)は有名な映画です。ラスト、電話の向こうでヒトラーの「パリは燃えているのか!?」と問いただす台詞がタイトルになっている。 これだけよく知られた作品なのに、見るのは今回が初めてです。フランス・アメリカ合作映画ですが、白黒画面なのとフランス側が中心であり、監督もルネ・クレマンなのでフランス映画らしい雰囲気が濃厚です。 映画ではレジスタンス組織のリーダー ロル大佐の指令を受けた部下がパリを脱けだして連合軍の前線へパリ侵攻を説得に向かいます。 その時に面会した米軍のパットン将軍(カーク・ダグラス)が「パリ解放は米軍の仕事ではない」という。 この時点では、連合軍はパリを解放する気がなかったようです。 その気がないというより、それだけの余力がなかった。連合軍がパリを支配下に置くと、パリ市民推定350万~400万人に対しての食糧や燃料を供給する義務が生ずる。パリ市民の生活に必要な物資を供給してしまったら連合軍は物資不足におちいって戦いが継続できなくなる。 さらにドイツ軍がパリ市街地を要塞化して立て籠もり、徹底抗戦に出たら市街戦が生じて、かつてのスターリングラードでのドイツ軍が苦杯を味わった二の舞におちいるのを恐れた。 連合軍はパリを包囲するだけにとどめて、ドイツ軍の降伏を待つつもりだったとか。 そんな連合軍のなかで自由フランス軍を率いていたドゴール将軍が、パリで共産党が主導するレジスタンスが蜂起して市内の一部を支配地域に確立したとの情報を得て、連合軍最高司令部にパリ解放を「自由フランス軍」でやらせてほしいと申し出たそうです。 このままでは共産党勢力が自分たちだけでパリ解放をやってしまう。そうなったら戦後の自分の政治的影響力が削がれてしまうとドゴール将軍は考えた。 このまま共産党のレジスタンス組織が独力でパリ解放を成し遂げてしまったら、戦後になって共産党とドゴール派の争いが起きる可能性がある。そこで連合軍は方針変更してパリ解放のために入城する決意をする。「パリは燃えているか」はオールスター映画で、当時の仏米スター俳優が出演しています。 アラン・ドロンとジャン・ポール・ベルモンド、レスリー・キャロン。 ジャン・ルイ・トランティニャンとベルナール・フレッソンの顔も見られる。 オーソン・ウェルズがスウェーデン領事の役で、これは良い役で得をしている。 もっとも印象に残るのはやはりヒトラー総統のパリ破壊命令を実行しなかったパリ防衛軍司令官コルティッツ大将を演じたゲルト・フレーベさんです。 総統命令に逆らうことは、反逆罪で逮捕されて自分だけでなく家族もろとも処刑されるかもしれない。それなのに、彼はヒトラーのパリ爆破命令を実行しなかった。 パリを破壊した男として後世に名を残すのか、それともパリを破壊から守った男としてか、どちらを選択するか。「パリを焼き払うことでドイツ軍が勝つのならともかく、ドイツは敗けるのだ。総統は狂っているのだ」と言い放ちます。スウェーデン領事のオーソン・ウェルズとの会談シーンなどとても良い雰囲気を出している。 007の悪役オーリック・ゴールドフィンガーでは怪優といった感じでしたが、この映画では名優です。さすが。
2015年10月15日
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「パリは燃えているか」(1966) PARIS BRULE-T-IL?(仏題) IS PARIS BURNING?(英題)監督 ルネ・クレマン製作 ポール・グレッツ原作 ラリー・コリンズ ドミニク・ラピエール脚本 フランシス・フォード・コッポラ ゴア・ヴィダル撮影 マルセル・グリニヨン音楽 モーリス・ジャール出演 ゲルト・フレーベ、アラン・ドロン、オーソン・ウェルズ ジャン・ポール・ベルモンド、レスリー・キャロン、シャルル・ボワイエ グレン・フォード、カーク・ダグラス、シモーヌ・シニョレ、ピエール・ヴァネック マリー・ヴェルシニ、ジャン・ピエール・カッセル、ジョージ・チャキリス ブルーノ・クレメル、イヴ・モンタン、アンソニー・パーキンス、ロバート・スタック 本編173分 モノクロ シネマスコープサイズ 大ヒットした「史上最大の作戦」(62)の影響を受けたと思われる、第二次大戦の歴史的局面をドキュメンタリー映画ふうに描いた超大作です。日本公開は1966年12月。 ドイツ軍占領下のパリを舞台に、連合軍による解放の裏で繰り広げられた秘話をオールスター・キャストで描いた作品。 物語は、パリに迫る連合軍の侵攻に対してヒトラーが命令した「パリ市街焦土化計画」と、ドイツ占領軍に解放のための戦いを挑むフランス地下抵抗組織の熾烈な戦い、連合軍のパリ解放までの過程が仏・独・米のそれぞれの人物を通して描かれています。 鑑賞した発売中のDVDソフト(特価990円)は英語版ですが、映画はフランス・アメリカ合作で英語版とフランス語版が作られたようです。 1944年8月、アドルフ・ヒトラー総統はパリ防衛軍司令官としてコルティッツ(ホルティッツとも)大将を任命。彼に連合軍の侵攻からパリを守れない場合は市内すべてを破壊してしまえと命令する。 6月にノルマンディに上陸した連合軍は各地で激戦を繰り広げながらもフランス北部の各地域へと進出。 ドイツ軍占領下のパリでは、レジスタンス組織のドゴール将軍派デルマス(アラン・ドロン)と、共産党主導の派ロル大佐(ブルーノ・クリーマー)が今後の方針についての意見を戦わせていた。 連合軍を当てにしないで一斉蜂起すべきだと言うロル大佐と、武器弾薬が不十分な現状での蜂起は危険であり連合軍の到着を待つべきだというデルマスの意見が対立します。 そこへ「連合軍はパリを迂回してライン河へ向かう」との情報が入り、ロル大佐の「連合軍を待たないで決起する」に多数決で決まり、レジスタンス組織の一斉蜂起が開始される。 コルティッツ将軍(ゲルト・フレーベ)は総統の命令を守って、セーヌ川に架かる70の橋とパリ市街地の大部分、エッフェル塔、凱旋門、ルーブル美術館、ノートルダム大聖堂をはじめ主要建造物、工場、記念碑、橋梁、地下水道などに爆薬を設置させて準備を完了させる。 パリ市内では市街戦が始まり、果敢に戦うレジスタンスは市の要所占拠に成功する。しかし戦いが長引けばドイツ軍の本格的な反撃をおさえることはできず殲滅されてしまうだろう。一時も速く連合軍をパリに呼んでこないとならない。 パリを爆破して廃墟にせよとの総統命令を受けているコルティッツ将軍の心は揺れる。ドイツ軍は勝てないだろう。それに歴史ある都市パリを焼け野原にするのは耐えがたい、と。 将軍はスェーデン領事ノルドリンク(オーソン・ウェルズ)と会い、彼が勧める一時休戦の案を受け入れる。 レジスタンスのロル大佐は腹心のガロア少佐(ピエール・ヴァネック)を連合軍司令部へ密使として送る。パリを脱出したガロアは米軍総司令部にたどり着き、パットン将軍(カーク・ダグラス)に面会するが、米軍の任務はパリ解放ではない、と言われ、自由フランス軍のルクレール将軍に会うように勧められる。 つづく。
2015年10月14日
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陸上兵器の王者といわれる「戦車」。 私のような者には実物を見る機会などそうあるものではありません。 海外の戦車博物館など行ける身分ではないし、陸自の火力演習の公開にしてもそう簡単には見られない。 私は小学3年くらいの時に小松で自衛隊の催しでM41(だったように思う)と、数年前に靖国神社の遊就館に展示されている九七式中戦車。 実物を見たのはそれくらいです。 そのようなわけで、動いている戦車を見るには「映画」しかありません。 写真はアメリカ映画「バルジ大作戦」(66)にドイツ軍重戦車として登場するM47パットン(アメリカ製)。 朝鮮戦争末期の主力戦車ですが、1955年には退役し、最終的に生産された約8000輌は海外に供与されたそうです。この映画が撮影されたのはヨーロッパのどこか?らしく、その国での借り物のようです。70ミリ映画の大画面を埋め尽くすように登場する戦車の群れは、本作の見所となっている。 戦争映画では、第二次大戦時のドイツ製戦車はほとんどが現存されていないので、その役をアメリカ製戦車とソ連製戦車が演じることが多いです。 海外に供与されて現存数が多いM4シャーマン中戦車とM24チャフィー軽戦車。M41ウォーカーブルドッグ。 ソ連製のT34/76とT34/85。ほとんどがこれらのいずれか、です。「史上最大の作戦」(62)は、M4が応援要請を受けてやって来る。「バルジ大作戦」(66)は、前記のM47と、米軍戦車役でM24軽戦車が走り回ります。「レマゲン鉄橋」(69)は、チェコスロバキアでロケ撮影され、街の再開発で壊される建物を実際に爆破したそうで、アメリカ軍のM24軽戦車が多数登場。石壁を乗り越えて前進するすごいシーンが見られる。「パットン大戦車軍団」(70)はM48がドイツ軍アメリカ軍両方の戦車として登場。これもヨーロッパでの撮影で供与品の現地調達らしい。「ヨーロッパの解放」はソ連映画で、T34が定番。「ナバロンの嵐」(78)はイギリス映画が東欧で撮影したらしく、これもT34で、キャタピラが泥だらけなのがリアルです。 M4は多くの作品で見ることができて、「戦略大作戦」(70)と「遠すぎた橋」(77)。新しいものでは「フューリー」(2014)。たまにドイツの鉄十字(黒十字とも)マークを描いてドイツ戦車として出てくることも(「抵抗の詩」ユーゴスラビア映画)。 テレビの「コンバット!」では決まってM41ウォーカーブルドッグです。 ドイツ軍の戦車でもアメリカ軍の戦車でも、どちらもM41。同じ車体を使い回しているようです。「わが心との戦い」「岩の上の敵」「戦車一台敵中を行く」「丘は血に染まった」「長い苦しい道」など。 M41は私の中学生の頃は戦車プラモデルの定番でした。1960年から自衛隊でも導入されたことで当時の注目戦車だったのが理由ではないでしょうか。「戦車」をなぜ日本で「戦車」というのだろうか? 英語では「タンクTank」ですが、第一次大戦の頃に戦地へ向けて鉄道輸送するさいに、秘密兵器として機密扱いで、「水のタンク」だとごまかしたことから「タンク」と称されるようになったとか。 タンクも戦車も力強さのある語感ではないですね。 日本の八九式中戦車に「鉄牛」という愛称がありますが、「戦車」より強そうです。「鉄甲装車」「鋼鉄箱車」でもよさそうなものなのに、なぜ「戦う車、戦車」なのだろうか?
2015年10月01日
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「スターリングラード 史上最大の市街戦」(2014) STALINGRAD監督 フョードル・ボンダルチュク製作 セルゲイ・メルクモフ アントン・ズラトポルスキー ディミトリー・ルドフスキー アレクサンドル・ロドニャンスキー脚本 イリヤ・ティルキン セルゲイ・スネシュキン撮影 マキシム・オサトチー音楽 アンジェロ・バダラメンティ出演 マリヤ・スモルニコヴァ、ヤニナ・ストゥディリナ ピョートル・フョードロフ、トーマス・クレッチマン セルゲイ・ボンダルチュク、ハイナー・ラウターバッハ 本編131分 総天然色 シネマスコープサイズ 第二次大戦でのスターリングラード攻防戦をテーマにした戦争映画です。 2014年ロシア映画で、日本未公開作。8月5日にソニーから発売されたブルーレイソフトを鑑賞しました。 かつてのソ連映画といえば、「誓いの休暇」「鬼戦車T34」や「戦争と平和」「ヨーロッパの解放」など芸術性、あるいは大物量を見せつけるような大作のイメージが強かったのですが、近年はハリウッド映画的な娯楽的描写もみられるようになりました。 500円DVDの「東部戦線1944」「限界戦線」「ソビエト侵攻」「対独爆撃部隊ナイトウィッチ」などを見ると、アクションとサスペンスが重視されていて、ロシア映画の変貌を感じます。 今作の「スターリングラード 史上最大の市街戦」(2014)は、市街戦がおこなわれている戦場で数人のソ連兵とドイツ兵たちを中心にして、彼らの行動を追っています。 VFX技術を駆使した戦闘シーンが多く、派手な戦争映画です。爆発シーンはウーファー周囲の床が震えるくらいで、最近の映画鑑賞では屈指の迫力。 1942年11月のスターリングラード市内。侵攻するドイツ軍と、ヴォルガ河を最終防衛戦としてスターリングラード市を死守するソ連赤軍の間で凄惨な死闘が繰り広げられている。 ヴォルガを渡河して市街に入り、ドイツ軍が守っている建物を攻撃して占領したソ連の斥候隊。彼らはその家でドイツ兵に殺されそうになっていたユダヤ人の少女を助けます。 若いソ連兵たちはカーチャと名乗るその18歳の少女を守り、建物を奪還しようと攻撃を仕掛けてくるドイツ軍と戦うことになる。 映画は数人のソ連兵と、敵であるドイツ軍の大尉を中心にして展開されます。このドイツの大尉は花も実もある軍人なのだが、地獄のようなロシア戦線へ来て人間が変わり「ケダモノ」になったと自分で言う。 ソ連人の女性を力ずくで愛人にして、しかし亡き妻の面影を彼女に見て、愛している。その愛する女性がソ連兵に狙撃されて殺された。それまでは戦争なんか糞食らえ、と厭戦的な気分だったのが、ソ連兵に対しての強い憎しみと怒りが爆発する。 地獄のような戦場で、建物や地点を取ったり取られたりの死闘がおこなわれ、ソ連兵たちは祖国防衛と殺された家族の恨みを晴らそうとして侵略者であるドイツ軍を撃退しようと懸命になっているが、ドイツ兵たちは遠い異国でのこんな戦争はもうイヤだと感じ始めている。 厭戦的気分とは逆に、敵に対する憎悪が戦闘を継続させ、終末点へと兵隊たちをあおり立てるように進ませる。 欧米の戦争映画ではアメリカやイギリス軍、あるいはフランスなどの地下抵抗組織が中心なのでどうしても英米の視点からになってしまうけれども、本作は現在のロシア映画の、自国からの視点で製作した第二次大戦の映画です。 アクション重視の戦争映画。日本ではこういうのは作れないだろうな、と思わせる作品。 東日本大震災の被災地で働くロシアの救援チームが瓦礫の下敷きになっているドイツ人女性を救助する場面から始まるのにはちょっと驚きました。映画はそのロシア救援チームの人が下敷きになっている女性を励まそうと語りかけつづける、母に聞いた話という回想形式になっています。
2015年08月06日
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「ゼロ・ファイター大空戦」(1966)監督 森谷司郎製作 田中友幸、武中孝一脚本: 関沢新一、斯波一絵撮影 山田一夫美術 北猛夫音楽 佐藤勝特技監督 円谷英二出演 加山雄三、佐藤允、土屋嘉男 中丸忠雄、玉川伊佐男、千秋実、谷幹一 久保明、藤田進、小柳徹 本編92分 モノクロ シネマスコープサイズ 東宝の戦争映画で、1966年7月公開。加山雄三さんの人気が最高だった頃です。「海の若大将」 1965年8月公開「エレキの若大将」 1965年12月公開「何処へ」 1966年3月公開「アルプスの若大将」 1966年5月公開「ゼロ・ファイター大空戦」 1966年7月公開「お嫁においで」 1966年11月公開「恋は紅いバラ」「君といつまでも」「夜空の星」「蒼い星くず」「お嫁においで」と歌が大ヒットし、私の友人が大ファンでシングルレコード盤を持っていて、私も一緒に聴いているうちに影響されてファンになりました。 私たちのカッコ良い男の理想像でもあった加山雄三さんがゼロ戦パイロットを演じる戦争映画ということで、公開時には新聞に大きな広告が載ったりして、すごく見たいと思った作品です。 しかし中学生は保護者同伴でないと映画館には入れなかったし、私たちが見られるのは春休みと夏休みの「映画教室」だけで、しかしこの「大空戦」は映画教室には回ってこなかったのか当時は見ることができませんでした。 そんなわけで、初めて見たのはずっと後年になってからのレンタルビデオが最初。今回はそれ以来の鑑賞で、昨年2月に日本映画専門チャンネルで放送された時の録画です。 加山雄三さんとしては「太平洋の翼」(1963)につづいての戦争映画であり空戦映画。 東宝戦争映画としては「太平洋奇跡の作戦キスカ」(1965)につづく位置にある作品です。 昭和18年。ラバウルとガダルカナルのほぼ中間地点、ブーゲンビル島にある日本海軍航空隊の前進基地ブインが舞台。 山本長官が戦死した弔い合戦だとか言ってると敵の空襲にあって、飛び立とうとした隊長(久保明)が戦死してしまう。その後任の隊長としてやって来たのが九段中尉(加山雄三)です。 ブイン基地といってもわずかゼロ戦が7、8機しかなく、彼ら「八生隊」と名乗る搭乗員8人ばかりの戦闘隊。司令(千秋実)と飛行長に参謀、通信士官、整備班長(谷幹一)以下の整備員、対空監視の兵たち、加えても20人ばかりの小さな世帯。映画の都合上の人数なのか?、本当はもっといたのだろうか。 で、八生隊は加賀谷飛曹長(佐藤允)、菊村上飛曹(土屋嘉男)を先頭にあらくれ者ぞろいで、着いたすぐの新米 前田二飛曹(小柳徹)が末端にいる。 彼らはアメリカ軍からも疫病神と恐れられる志津少佐が新隊長として来るとばかり思っていたのに、現れたのは、ちょっと気が抜けたような若僧の九段中尉。「縁起でもねえ名前だ。靖国神社からお迎えが来たみたいだ」と。 歴戦の部下が新しく来た隊長に最初は反感を持つけれど、しだいに見直して認めるようになってゆく、というのはこのような戦争映画では一つのパターンであり、話に新味はありません。 ガダルカナルに日本軍が逆上陸するので八生隊に協力要請が来るのですが、敵のレーダー基地がありそのままでは味方が全滅するというので加山雄三さんの隊長や佐藤允さんたちがレーダー基地を敵の不発爆弾をゼロ戦に着けて叩きに行く、というのがクライマックスになっています。 見ている間は気づかなかったけれども、考えると史実的におかしいです。 視察に飛び立った山本長官が乗る一式陸攻が敵のP-38戦闘機編隊の待ち伏せに遭って暗殺されたのが昭和18年4月18日。この映画の話はその後なので、だとするとガダルカナルがどうのこうのというのは変ですね。 ガダルカナル島から日本軍が撤収完了したのがこの年の2月だから、この映画の設定である18年5月ごろにはガダルカナル攻防戦は終わっているはずです。
2015年06月13日
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「太平洋奇跡の作戦 キスカ」(1965)監督 丸山誠治製作 田中友幸、田実泰良原作 千早正隆脚本 須崎勝弥撮影 西垣六郎、富岡素敬美術 北猛夫、渡辺明編集 藤井良平音楽 團伊玖磨特技監督 円谷英二出演 三船敏郎、山村聡、佐藤允 中丸忠雄、藤田進、田崎潤、西村晃 志村喬、平田昭彦、久保明、船戸順 土屋嘉男、黒部進、堺左千夫 本編104分 モノクロ シネマスコープサイズ 東宝戦争映画の傑作です。 公開は1965年(昭和40年)6月。私は翌66年に学校の春休みか夏休みに映画教室で見ました(金沢劇場)。 昭和18年5月のキスカ島撤収作戦を描いた作品ですが、手元にある地図帳(中学校の学習用)を見てもキスカ島が載っていません。もっと大きな地図でないとならないようです。 アメリカ合衆国アラスカ州のアラスカ半島から西に向かって伸びるアリューシャン列島。その西端にあるアッツ島から東のアラスカ方向に向けてアガッツ、セミナ、キスカ、アムチトカ・・・・と島が並んでいるのですが、要するにアリューシャン列島の日本よりにあるアッツ島とキスカ島。 昭和17年6月のミッドウェー作戦と同時におこなわれたアリューシャン作戦で、日本軍はアッツ島とキスカ島に上陸占領して守備隊を置きました。 それが昭和18年になってアメリカ軍の反攻が開始され、5月12日にアッツ島に上陸、29日に日本軍守備隊が玉砕します。このことで北太平洋の制海権、制空権はアメリカが握り、アッツ島よりアラスカ方向にあるキスカ島が孤立することになりました。 敵に包囲されたキスカ島は潜水艦すら容易に近づけず、食糧や弾薬の補給が絶たれていて、司令官(藤田進)以下、約5200名の守備隊は玉砕を覚悟せざる状況に陥っている。 大本営海軍部の作戦会議室では作戦部長(西村晃)がキスカ玉砕はやむをえないと言うが、第5艦隊司令長官川島中将(山村聡)は「キスカを見殺しにしたら後世に恥をさらす」と強く反対し、キスカ島守備隊を救出することを主張します。 キスカ撤収作戦には第5艦隊の第1水雷戦隊があてられ、新司令官に大村少将(三船敏郎)が南方から呼び寄せられる。 敵の重囲のなかにあるキスカ島からどうやって5000人以上の人員を短時間で撤収させるのか?、敵に発見されれば救出に向かった艦隊が全滅する恐れがある。 この時期のアリューシャンは何日にもわたって濃霧が発生する。その霧を隠れ蓑として島に接近することにして、大村司令官は旗艦である軽巡「阿武隈」を先頭に単縦陣を組んだ第1水雷戦隊(軽巡2隻、駆逐艦10隻、海防艦1隻)が千島列島の幌筵を発ってキスカ島に向かいます。 7月16日、艦隊はキスカ近海に達しますが、霧が晴れてきたために断念し引き返すことになる。ここまできたら強引に強行すべきという意見をさえぎって大村司令官は「今は引き返す。帰れば、また来ることができる」と言う。 いったんはキスカに接近しながらも泊地に引き返した大村司令官に対して「臆病風に吹かれた」と批難する者がいるのを聞き流して、飄々とした落着き見せる三船敏郎さんの名演技です。 映画は救出する側の艦隊と、救出される側のキスカ島守備隊の様子を交互に描き、敵に発見されないか、敵の上陸がおこなわれる前に救出できるのか、というハラハラする場面がつづきます。 霧の発生するのを待って再び艦隊がキスカへ向かって幌筵を出航。こんどは霧が濃すぎて探照灯と発光信号を頼りに、10人のめくらが一列になって手探りで歩くようなものだ、と。 戦争映画ですが、交戦場面はいちどもなく、「敵に見つかりませんように」と、ただそれだけをサスペンスたっぷりに描いている。 無理と判断すれば強行することなく、周りの評判を意に介さず、冷静沈着に行動する大村司令官は、これこそ「人の上に立つ者」のあるべき姿です。 軽巡「阿武隈」「木曾」以下の駆逐艦などを再現したのは円谷英二さんの特撮です。 霧に包まれた艦隊が行動する場面は模型を意識させない見事なものです。 三船敏郎さんの大村少将は、史実では木村昌福少将。山村聡さんの川島中将は河瀬四郎中将です。 三船さんの大村少将が着任して旗艦「阿武隈」に乗艦した時に、ヒゲの水兵が迎える、三船さんが「あだ名は何だ?」と問うと「はっ、司令官であります」と答える、このシーンでキスカ島の関係者たちを招いた試写会では拍手喝采が起こったそうです。 実在の木村少将のトレードマークが「ヒゲ」だったんですね。三船さんはヒゲがない。
2015年06月12日
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1959年のイギリス映画「ビスマルク号を撃沈せよ!」は、これまでに何度も見ているのですが、何度見ても面白いです。本編98分というのも、見易い長さでちょうど良い。「ビスマルク号を撃沈せよ!」についてのつづき、というより紅一点として出演しているダナ・ウィンターさんについてです。 イギリス海軍の軍令部作戦部長シェパード大佐(ケネス・モア)の下で働く有能な英国海軍婦人部隊の士官アン・デイビスの役がダナ・ウィンターさん。 写真に見えるように、彼女の制服の袖に二本の線と菱形の階級章が着いています。(ケネス・モアのほうの4本線に円環は「大佐」です) 海軍婦人部隊の彼女。階級は何でしょうか? 映画の中でシェパード大佐が赴任してきたときに紹介される場面での字幕は「デイビス士官だ。後任のシェパード大佐だ」となっていますが、「士官」は階級ではないので「デイビス士官」はあり得ない、ひどい翻訳です。 英語字幕を見ると「2nd Officer Anne Davis 」となっていて、「2nd Officer」は「中尉」かと勝手に思ったのですが、中尉でいいのだろうか? 英国海軍の尉官は2階級だそうで、大尉(Lieutenant)の下は中尉と少尉ではなく「Sub-Lieutenant」のみ。だとすれば「中尉」と「少尉」はなくて、大尉を補佐する「大尉補?」しかないことになります。だったらこの場合はどう訳せばいいのだろう?、「2nd Officer」は普通なら中尉です。 シェパード大佐のほうはすぐにわかります。4本線に円環は「大佐 Captain」。「円環」は正規の兵科将校で、アン・デイビス嬢のような「菱形」は前線に出ない婦人部隊を表しているようです。確実ではないけれども、とりあえず海軍婦人部隊の中尉にしておこう。 そんなわけでアン・デイビス中尉?。婚約者がいたけれど北アフリカで戦死したとか。愛する人を失ったのはシェパード大佐と同じで、彼女はしだいに大佐に心惹かれていくんですね。 ダナ・ウィンター Dana Wynter 1931年6月8日生まれ。ドイツのベルリン出身。 2011年5月5日没(80歳) ドイツ人の女優さんがイギリス海軍婦人部隊員の役を演じているのがおもしろいところです。 とても美しい女優さんです。正統派の美人女優。 映画ではあまり見たことがなく、「ある日あるとき」(55)と「大空港」(70)くらい。「ある日あるとき」は戦後すぐのベルリンを舞台にした作品でドイツ女性の役。「大空港」は猛吹雪に閉ざされた国際空港の群像劇で、バート・ランカスターの奥さん役。夫婦仲が冷め切っていて、旦那は家に帰りたくないので仕事に打ち込んでいる。 映画を見たのは少ないですが、テレビの「過去のない男」が印象に深く残っています。 東西冷戦の時代。ベルリンの壁があった頃。東ベルリンから西ベルリンに逃げ込んだCIA情報員ピ-ター・マーフィー(ロバート・ランシング)は自分と瓜二つの男 億万長者のマーク・ウェンライトを見かける。 ピ-ター・マーフィーを追ってきた東側の諜報機関員が間違ってマーク・ウェンライトを射殺。 ピーター・マーフィーは自分が殺されたことにしてマーク・ウェンライトに成りすますのですが、奥さんのエバ(ダナ・ウィンター)は夫が別人だとすぐに見破り、しかし彼女はピーターを夫として認めて、マークの癖や話し方、友人関係などを指南する。億万長者と西側スパイとしてベルリンでの危険な二重生活が始まる、そんなスパイ・ドラマでした。 金沢では毎週水曜の夜9時からで、30分間ドラマ。これはクールなロバート・ランシングさんが良かったし、奥さん役のダナ・ウィンターさんもクールな美しさでたいへん良かったです。細部は憶えていないですが。 テレビ・ドラマを編集して(それともパイロット版か?)一本の映画にして「地獄から来た男」(66)の邦題でも上映されました。金沢ロキシー劇場、「猿の惑星」と同時上映。
2015年05月11日
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「ビスマルク号を撃沈せよ!」(1959) SINK THE BISMARCK!監督 ルイス・ギルバート製作 ジョン・ブラボーン原作 C・S・フォレスター脚本 エドマンド・H・ノース撮影 クリストファー・チャリス音楽 クリフトン・パーカー出演 ケネス・モア、ダナ・ウィンター カール・メーナー、ローレンス・ネイスミス、ジェフリー・キーン カレル・ステパネック、モーリス・デナム、マイケル・グッドリーフ 本編98分 モノクロ シネマスコープサイズ 海戦を描いた映画としては「戦艦シュペー号の最後」(56)と共に「ビスマルク号を撃沈せよ!」(59)も傑作としてよく知られています。 これまでは入手困難だった「戦艦シュペー号の最後」が低価格DVDで発売され、この「ビスマルク号を撃沈せよ!」は以前から低価格化されていて簡単に入手できます。 戦争映画では陸上の戦闘を描いたものはたくさんありますが、海戦ものは比較的少ないようで、この2作品はイギリスらしい落着いた描写で、さすが海戦の本場?ならではの雰囲気と緊迫感を出しています。 1941年5月。ロンドンの地下深くにあるイギリス海軍軍令部 作戦室に、ドイツ海軍の戦艦ビスマルクが重巡プリンツオイゲンを従えて北大西洋へ通商破壊戦に出撃してきたとの情報を得て緊張が走ります。 ビスマルクは、基準排水量4万1700トン、全長250メートル。38センチ主砲8門、15センチ副砲、速力29ノット、巡航航続距離9300マイル。 この大戦艦がポーランドのゴーテンハーフェンを出航し、デンマーク海峡を経て北大西洋へ出ようとしている。追跡するイギリス海軍と、悪天候のなかを索敵と追撃をかわして突破しようとするビスマルクの行動が描かれます。 ビスマルクをなんとしてもデンマーク海峡で阻止しようとイギリス戦艦プリンス・オブ・ウェールズと戦艦フッドが迎撃に出て、両者の間に激しい砲撃戦がおこなわれる。ビスマルクの主砲の斉射をあびたフッドが大爆発をおこして轟沈。プリンス・オブ・ウェールズも大破して戦場を離脱する。 映画はイギリス海軍軍令部の作戦室長として赴任したばかりのシェパード大佐(ケネス・モア)を中心に、軍令部長や、作戦室で働く人たち、ビスマルクを追跡する現場での艦隊が描写されます。 新任のシェパード大佐は厳格な人物で、海軍婦人部隊のアン・デイビス大尉?(ダナ・ウィンター)は反感を抱くのですが、作戦室でビスマルク対策をとる緊張感をともにしている間に、しだいにこの厳格な上司を理解するようになってゆきます。 シェパード大佐は愛妻をロンドン空襲で失い、一人息子は空母アークロイヤルの搭載機で機銃手をしていて、自分にも部下にも厳格であることを要求する人物。 かつてシェパード大佐が乗っていた艦がビスマルクを指揮しているドイツ海軍提督リュッチェンス中将の艦に撃沈されたことがあり、彼は仇敵でもあるリュッチェンスの思考を推理し、イギリス海軍の手持ちの艦艇をその予測にしたがって向かわせる。 戦艦どうしの砲撃戦と、空母から飛び立ったソード・フィッシュ雷撃機によるビスマルクへの魚雷攻撃。「戦艦シュペー号の最後」は実物の艦船を使っていましたが、本作はミニチュア模型での海戦です。 模型でありながら、波を蹴立てて進む戦艦は雰囲気が出ているし、砲撃と爆発はなかなか迫力あるできばえ。この迫力はモノクロ映像ならではの利点かもしれません。「戦艦シュペー号の最後」には「007映画」のM(バーナード・リー)が出ていたし、この映画にも「007」で見た顔の俳優さんが何人も出ていますね。
2015年05月10日
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映画「戦艦シュペー号の最後」(1956)では、ドイツのポケット戦艦アドミラル・グラーフ・シュペー号の役をアメリカ海軍の重巡洋艦セーラム(CA-139)が演じて?います。 写真は映画のなかに登場するシュペー号ですが、艦首に描かれている艦籍ナンバー「139」がそのままはっきりと映っています。 撮影ではアメリカからの借り物だったから、ということらしいですが、せめてこの「139」だけでも消せなかったものか、と。 映画の中で、ラングスドルフ艦長が「アメリカの重巡に偽装しているのだ」と、捕虜のダフ船長(バーナード・リー)に、偽装がうまいだろうと自画自賛してみせているのが可笑しいです。 アメリカ海軍の重巡セーラムは戦後の1949年5月に就役したデモイン級の2番艦。 ドイツのポケット戦艦(ポケット戦艦は英国の言い方で、ドイツでは装甲艦)シュペー号に瓜二つとはいかないけれど、似た感じがするので撮影に使われたのでしょう。英海軍の4隻の巡洋艦は大戦当時のものらしいです。 ドイツ海軍の「通商破壊作戦」。よく知られているのは潜水艦Uボートによる連合国の商船を狙う群狼作戦ですが、戦艦とポケット戦艦を使っての通商破壊もおこなわれました。 シュペー号は、1939年8月21日ヴィルヘルムハーフェン軍港を出航。9/30 英商船クレメント(5000トン)を撃沈 以下、10/5 ニュートン・ビーチ(4650トン) 拿捕のち処分10/7 アシュリー(4222トン)10/10 ハンツマン(8196トン) 拿捕10/22 トレヴェニアン(5299トン) 拿捕のち処分11/15 アフリカ・シェル(1000トン)12/2 ドリック・スター(1万86トン)12/3 タイロア(7973トン)12/7 ストレオンシャル(3895トン)12月13日 ラ・プラタ沖海戦。英海軍3隻の巡洋艦隊と遭遇し、海戦になる。12月17日 モンテビデオ港外で自沈「アドミラル・グラーフ・シュペー号」は1万トンクラスの、重巡洋艦程度の艦体です。基準排水量 12,100トン。速力 26ノット全長 186m全幅 21.6m武装 主砲28.3センチ砲6門(3連装砲塔×2基)、副砲15センチ単装砲×8門。 排水量からみれば日本の重巡の、高雄型か最上型(1万トン~12000トン)で、全長はそれらの200mにも満たない。ただ重巡の20.3センチ主砲に比べると強力な28.3センチ砲を搭載している、ポケット戦艦の取り得はそれくらいのものです。 装甲艦。ポケット戦艦は敵艦と戦うのが目的ではないのですね。あくまでも一隻で行動し、各所に出没して通商破壊作戦に徹する。敵国の商船・貨物船を沈めたり拿捕するのが目的です。 敵艦隊に出会ったら、かなわないのでさっさと遁走する。海賊のようなもので、やばいとみれば戦いを回避して逃げるのが鉄則だったはずですが、シュペー号はイギリス海軍の艦隊(重巡1隻、軽巡2隻)との海戦にはいってしまいました。
2015年05月09日
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「戦艦シュペー号の最後」(1956) THE BATTLE OF THE RIVER PLATE製作・監督 マイケル・パウエル エメリック・プレスバーガー脚本 マイケル・パウエル エメリック・プレスバーガー撮影 クリストファー・チャリス音楽 ブライアン・イースデイル出演 ピーター・フィンチ、アンソニー・クエイル ジョン・グレッグソン、イアン・ハンター バーナード・リー、マイケル・グッドリーフ、パトリック・マクニー クリストファー・リー 本編114分 総天然色 ビスタサイズ 昨日の「暁の出撃」もそうですが、最近このような作品までが低価格DVDで発売されるようになりました。映画ファンには嬉しくありがたい時代になったものです。「戦艦シュペー号の最後」。イギリス映画で、日本公開は1957年1月。 私が見たのは1970年以前で、はっきり憶えてはいませんが、NHKのテレビ放送です。テレビがまだ白黒だった頃で、この映画も白黒だとばかり思っていました。DVDは色鮮やかなカラー。古い映画なのに、これだけの色彩で見られるのは、外国映画ならではです。日本映画は保存が悪いせいか劣化のはげしいものが多い。 1939年12月13日。南米のウルグアイ モンテビデオ港沖で自沈したドイツ海軍のポケット戦艦シュペー号の最後を描いた海戦映画の秀作です。 同年8月にヴィルヘルムハーフェン軍港を出航したシュペー号が南大西洋で連合国の商船狩りをおこなった末にイギリス海軍の巡洋艦3隻と遭遇し、海戦となる。 損傷を受けたシュペー号は中立国であるウルグアイのモンテビデオ港に逃げ込むのですが、最終的に港外に出て自沈することになる。艦長のラングスドルフ大佐は拳銃で自決。 この事件は、私が生まれるずっとずっと前なので知らないけれども、当時は世界的なニュースになったと思われます。日本でも新聞記事に載ったのではないでしょうか。 映画が作られた1956年はその16年後でしかない。現在の感覚では1999年あたりで2000年問題が言われていた頃だから、ついこないだのような感覚です。 映画が公開されたときは、観客のほとんどの人がその当時のことをよく憶えていたはずですね。 映画ではシュペー号が自沈したあともラングスドルフ艦長は生存していて、自決の場面は描かれていないのですが、観客はその結末を知っていたはずで、映画は艦長の自決をあえて描く必要がなかったのでしょう。 ラングスドルフ艦長(ピーター・フィンチ)が海軍軍人らしい武骨な紳士として描かれています。 シュペー号が撃沈したイギリス商船「アフリカ・シェル」の船長(バーナード・リー)を艦長室に招待して酒をふるまったり、艦内を見学させたりする。 捕虜に対して人道的であり、海戦のシーンも紳士的な描写です。 英海軍の提督(アンソニー・クエイル)が旗艦としている軽巡エイジャックスの艦長に、君がラングスドルフだったらどうする?と問う。敵の艦長の立場になって考えたら、君だったらどうする、私だったらどうする、というような会話があって、敵の艦長を同じ海の男として見ているのが、戦争映画として好印象な作品になっています。 つづきます。
2015年05月08日
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映画「暁の出撃」(1955)で、イギリス空軍爆撃隊の第617中隊がドイツ西部のルール工業地帯にあるダムを爆撃に向かう当日、夜食にハム・エッグが出ます。それを見た給仕の女性(空軍婦人補助部隊員)が「今夜出撃ですか?」とギブソン中佐に聞く場面があります。 英国空軍では出撃と帰還した時の食事に卵料理が出されることになっていたそうで、卵が貴重品なので、出撃する搭乗員たちへのねぎらいの意味なんですね。 映画ではそういう説明はないけれども、ギブソン中佐の攻撃隊で副中隊長のヤング少佐が冗談で「中佐が帰還できなかったら、次の食事の卵は私がもらいます」と言う。 そう言ったヤング少佐自身が未帰還となってしまうのですが。 この「暁の出撃」は戦後まだ10年しか経っていない時期に撮られた作品で、そのようなエピソードがさりげなく描かれています。 英空軍のアブロ・ランカスター爆撃機の実機が登場する映画はたいへん珍しいのではないでしょうか。 アメリカ陸軍の重爆B-17フライング・フォートレスは映画ではよく見るのですが、「頭上の敵機」(50)「戦う翼」(62)「メンフィス・ベル」(90)など、でもランカスター爆撃機を映画で見たのは今回、この「暁の出撃」が初めてです。「ナバロンの要塞」の冒頭で帰投した爆撃隊が不時着するシーンがあったけれど模型での撮影でした。「暁の出撃」では画面に3機以上のランカスターが映ることがないので、撮影に使われた飛行可能な機体は3機だったのか?(地上シーンでは4、5機が映っているけれど) アブロ・ランカスター爆撃機は全部で約7400機が生産されたそうですが、アメリカのB-17ほどには残っていなかったのかも。■B-17F全長 22.78m全幅 31.63m全高 5.85m全備重量 29.48トン発動機 ライトR-1820-97 空冷星形9気筒(1,380馬力)×4基最大速度 510km/h航続距離 約2400km(爆弾2300キロ搭載)武装 12.7mm機関銃×11、爆弾4.35トン乗員 10名■アブロ・ランカスター Mk.I全長 21.18m全幅 31.09m全高 5.97m全備重量 28.58トン発動機 ロールスロイス・マーリンエンジンXX V型12気筒エンジン(1,280馬力)×4基最大速度 450km/h航続距離 約2675km(爆弾最小搭載) 武装 7.62mm機関銃×8、爆弾10トン乗員 7名 アメリカ陸軍の重爆撃機B-17とイギリス空軍のアブロ・ランカスター爆撃機を比較すると、全長全幅など大きさはほぼ同じです。大きな違いは爆弾搭載量で、B-17の約4トンに対してランカスター爆撃機は最大10トンも積めること。 逆に搭載する防御機関銃はB-17の12.7mm機関銃 11挺に対してランカスターは7.62mm機関銃が8挺にすぎない。防御力を犠牲にしても、大量の爆弾を積むことが目的だったといえそうです。 この大きな爆弾搭載量によってダム・バスターズのような約4.2トンの跳躍爆弾を必要とするような特殊作戦に使う機体として適任だったようです。 ドイツ軍が爆撃にも耐えうるUボートの基地「ブンカー」をノルウェーやフランス沿岸部に建設し、イギリス空軍はこの基地を破壊するための特殊爆弾「トールボーイ」と「グランドスラム」を開発。「トールボーイ」は5トン、「グランドスラム」は10トンもの重量があり、このような重い爆弾を積載できるのは「ランカスター」のみだったそうです。 アリステア・マクリーンの冒険小説「荒鷲の要塞」(平井イサク訳 早川書房刊)は、腹にひびく四つの巨大なピストン・エンジンの轟音はボイラー工場のようであり、計器のならんだ操縦室の寒さはまさにシベリアのようだと。シベリアのボイラー工場は墜落したり山にぶつかったりしないので、そちらのほうがましだと、主人公のスミス少佐(映画ではリチャード・バートン)が操縦席で機長の中佐が悠然とかまえているのを見て思う場面から始まります。このいかにもマクリーン流の場面を初めて読んだ高校1年のときが私がランカスター爆撃機を知った時です(おそらく)。
2015年05月07日
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「暁の出撃」(1954)THE DAM BUSTERS監督 マイケル・アンダーソン原作 ポール・ブリックヒル脚本 R・C・シェリフ撮影 アーウィン・ヒリアー音楽 ルイス・レヴィ 出演 マイケル・レッドグレーヴ、リチャード・トッド ウルスラ・ジーンズ、ベイジル・シドニー ユアン・ソロン、ロバート・ショウ 本編125分 モノクロ スタンダードサイズ「暁の出撃」というと、私の年齢では1970年の「暁の出撃」、ブレイク・エドワーズ監督のミュージカル戦争映画というかスパイ恋愛映画の、第一次大戦下、ジュリー・アンドリュースさんがドイツ女スパイ役を演じて英軍パイロットのロック・ハドソンに恋をする「ダーリング・リリー」のほうを連想してしまいます。 そのジュリー・アンドリュースさんの「暁の出撃」ではなく、こちらは「ザ・ダム・バスターズ」。ダムを破壊する者たち、です。 1943年春の英国。ドイツ戦力の基を支えているルール工業地帯の電力供給源である巨大ダムを英空軍が爆撃によって破壊する計画と実行を描いた戦争映画です。 英国の総合兵器メーカー ヴィッカース社の技術者バーンズ・ウォリス博士が考案した計画で、ダム湖の水面すれすれに低空飛行する爆撃機が特殊爆弾を水面に跳躍させて、ダムの壁面に命中させる。壁面に沿って沈下した爆弾の爆発によってダムを決壊させる、というもの。 ウォリス博士(マイケル・レッドグレーヴ)はこのプランを関係各方面に提案するのですが、だれもマジメにとりあってくれない。粘り強く説得にまわった結果、ようやくハリス英空軍大将(ベイジル・シドニー)が興味を持って聞いてくれ、計画が動き出します。 実行部隊となる第617爆撃中隊が編成され、ギブソン中佐(リチャード・トッド)が指揮官に任命される。爆撃隊の超低空飛行の訓練がおこなわれ、ダムが満水になる5月に作戦が実行されることに。 「暁の出撃」(1955)予告編はこちら。 この映画は実話がもとになっていて、登場人物も実名です。 技術者バーンズ・ウォリスが考案した跳躍爆弾によるダム爆破決壊作戦が、試行錯誤のすえに現実化されて決行にこぎつけるまでが描かれる。 アメリカの戦争映画のような派手さはなく、イギリス映画らしい落ち着きのある作品で淡々と話が進むのですが、爆撃隊がダムを夜間攻撃する場面は緊張感があります。爆破の特撮は昔の映画なのでショボいけれど、それは仕方がないところ。 爆撃中隊はランカスター爆撃機が全21機。第1派9機は3機ずつ3編隊に分けられて主力となり、第2派5機、第3派5機。 1943年5月16日夜間、21機のランカスター爆撃機が3派に分かれて、ルール工業地帯へ電力供給する6箇所のダム群のうち三大ダムとされるメーネ、エーデル、ゾルベを攻撃目標として離陸。 21機のうち往路で故障と損傷で2機が引返し、作戦参加機は19機となり、さらに往路で2機が対空砲火を受けて撃墜され、攻撃と復路でさらに6機が撃墜される。 三大ダムすべてを破壊できなかったもののメーネとエーデル・ダムを破壊できたことで作戦は成功と見なされたのですが、全19機が出撃して喪失8機という大きな損害を出しました。ランカスター爆撃機は搭乗員7名なので撃墜された8機では56人となり、53人が戦死、脱出できた3人が捕虜となった。 映画のラストで、53人戦死という大損害の報告を聞いたウォリス博士が「これほどの損害がでるのがわかっていたら、この計画を推進しなかったのに」と言います。 それに対してギブソン中佐が「そうではありません。たとえ全滅したとしても我々は決行しました」と答える。それが私たちの仕事ですと。 ドラム缶を大きくしたような形の爆弾を超低空飛行の爆撃機から水面に投下し、ピョンピョンと跳躍させてダムの壁面にぶつけて沈下、水圧信管の作動で爆発させ、ダムを決壊させるという奇抜なアイデアと、それを提案しても聞いてくれない関係部署の旧弊な頭の固さ。 そのアイデアをかってくれた空軍大将の鶴の一声で計画が実行に移される。実行までに技術的にも試行錯誤があり、「プロジェクトX」を見ているような面白さがあります。そしてその成功の裏にはたくさんの犠牲があった。 邦題は「暁の出撃」ですが、前夜に出撃して翌朝に帰投するので、「暁の帰還」のほうが良いのでは。
2015年05月06日
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「メンフィス・ベル」(1990)MEMPHIS BELLE監督 マイケル・ケイトン=ジョーンズ製作 デヴィッド・パットナム キャサリン・ワイラー脚本 モンテ・メリック撮影 デヴィッド・ワトキン音楽 ジョージ・フェントン出演 マシュー・モディーン、エリック・ストルツ ジョン・リスゴー、テイト・ドノヴァン、D・B・スウィーニー ハリー・コニック・Jr、ショーン・アスティン 本編107分 総天然色 ビスタサイズ B-17爆撃機「メンフィスベル」号の有名な逸話を若い10人の搭乗員たちを中心に描いた青春映画でもあり、戦争映画でもある。 1990年の戦争映画で、日本公開された1991年2月当時、製作者のキャサリン・ワイラーさんがウィリアム・ワイラー監督の娘であるというのが話題になりました。 ウィリアム・ワイラー監督は1944年(第二次大戦末期)に同名のドキュメンタリー映画を撮っていて、その娘さんが同じ題材の作品を製作。 ウイリアム・ワイラー監督のオリジナル版はコスミック出版が500円DVDで発売しています。興味があるので見ましたが、42分の記録映画で、総天然色ですが色褪せている。古い作品なのでこんなものかと不足はないけれど、航空機ファンなら見ておいていいかと、それくらいの内容です。 で、1990年版「メンフィス・ベル」ですが、これは劇場公開時に見て、レンタルビデオで一度見て、それいらいの今回は3度めの鑑賞です(スターチャンネルの放送を録画したもの)。 1943年5月、イギリス本土のアメリカ陸軍航空隊(アメリカ陸軍第8航空軍)基地。 B-17Fの「メンフィスベル」号は爆撃飛行隊として24回出撃を果たしていて、あと1回、25回の爆撃任務を終えれば、みな故郷に帰れることになっています。 10人の若い搭乗員たちは最後の任務を前にして緊張気味。フランスなら楽だと言っていると、爆撃目標はドイツ本土ブレーメンの戦闘機工場だと知らされる。 ドイツ空軍の激しい迎撃が予想されるなか、爆撃隊は離陸し、編隊を組んでドイツへと飛行。 敵の対空砲火と戦闘機の迎撃にあって編隊の僚機が墜されてゆく。 目標上空に達したが、煙で目標の工場が見えない。機長のデニス・ディアボーン大尉(マシュー・モディーン)は旋回して再度爆撃コースをやりなおす決意をする。ようやく煙が晴れて指揮機のメンフィスベルが投弾、全機がそれにならって一斉に爆弾を落とす。 任務が完了して帰途につく爆撃隊を敵戦闘機が襲いかかります。 この作品は賛否両論のようです。 アメリカ軍の爆撃目標が敵の軍事施設や工場、鉄道などに限られ、市街地の一般市民に被害をおよぼすのを避けていたというのは笑止でありおためごかしだという意見。それを理由にこの映画を必要以上におとしめる人がいます。のちのドレスデン無差別爆撃や日本との戦争で東京大空襲をおこない、広島長崎に原爆を落としたアメリカが作ったプロパガンダ映画以外のなにものでもないと。 しかし、そんな単純な貧しい鑑賞しかできないのか。 この1943年当時のアメリカ陸軍航空隊がドイツ本土を爆撃する、その目標を軍需施設に限定していたというのは事実でしょう。 アメリカにはドイツ系の市民がたくさんいる。陸軍航空隊にもドイツ系の人たちがいる。「われわれアメリカ軍はナチと戦っているのであり、ドイツの民間人を相手にしているのではない」という姿勢をしめして国民感情と世論を考慮せざるをえなかったということです。 もちろん高空からのピンポイント精密爆撃が正確なはずがなく、誤爆もあるし、民間施設に爆撃がおよんだこともあるだろう、しかしそのことでドイツ系市民から爆撃反対が持ち上がることはなかったそうです。 この映画「メンフィス・ベル」は爆撃の是非を問うのがテーマではなく、その若い搭乗員10人を描くことにある。自分がその爆撃機に乗っていたらどうするか、どうするべきか、ということです。 いつ自分の機が墜とされるかわからない死と隣り合わせの生活のなかで、誰もが自分に与えられた任務として爆弾を落とすだろう、ということです。そしてその任務をやりとげて早く故郷に帰りたい、それが正直な気持ちではないのか。
2015年04月07日
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M4シャーマン中戦車は5人乗り。車長、操縦手、副操縦手(機関銃手を兼ねる)、砲手、装填手。それぞれが連携し、自分の役目と責任をはたすことで戦車が動く。 戦場の経験がない者がいきなり戦車に乗せられて戦えと。敵地を戦車が進む途中、新人ノーマン二等兵(ローガン・ラーマン)は森に敵兵を発見しながら、それが少年だというので報告もせず見逃してしまうのですが、そのためにその少年兵が発射したパンツァーファウスト(対戦車擲弾筒)で僚車が撃破されてしまう。 仲間たちは、こんな奴がいっしょだったらたまったもんじゃない、と。お前は俺たちを殺すつもりか、と。 相手が子供だろうと、女だろうと、赤ん坊だろうと、武器を持った者はみんな殺せ。生き残りたいならみんな殺せ。殺される前に殺せ。 戦いを知らない平和な本国から戦地へやって来たばかりの男の子ノーマン二等兵。敵兵を見ても撃つのをためらってしまうのですが、ブラッド・ピットの軍曹が「お前が殺さなければ、俺たちが殺されるんだ!」と。 戦闘中に戦車の窓から、撃たれた敵の兵隊たちが倒れているのが見える。すると隣にいる操縦手が「あれを撃て!」と言う。「でも、死んでますよ」と答えると、「お前は確認したのか!生き返って撃ってくるかもしれない、爆弾を持ってるかもしれないじゃないか、撃て!」と言う。 ノーマン二等兵は「もう、こんなとこにいられない!」「こんなこといやだ!」と取り乱してしまうのです。「自分や仲間が殺されないために敵を殺す」、このようなテーマはかつての戦争映画にはなかったものです。「アメリカン・スナイパー」(2014)という実在のアメリカ海軍のSEALに属する狙撃手クリス・カイル(敵戦闘員を160名射殺)を描いた映画が公開され、まだ見ていないのですが、その原作がハヤカワ文庫から出ています。 そのプロローグで、しょっちゅう訊かれる質問として、「そんなに多くの人間をイラクで殺して、気がとがめないものか?」 それに対して、私はこう答えている、「少しもとがめない」「本気でそう思っている。初めて人を撃つとき、いくらかは臆病になるものだ。本当にこの男を撃てるのだろうか?本当に撃っていいのか?しかしその敵を殺してしまえば、それでよかったのだと思うようになる」「そしてまた敵を殺す。ひとり、またひとりと。自分や同胞たちが殺されないために敵を殺す。殺す相手がいなくなるまで殺しつづける。それが戦争というものだ」と。「標的を殺すことで、大勢の仲間の命を守った」「今の私は、初めて戦争に行ったときの私ではない。 誰もが変わってしまう。戦場に赴くまでは純真な心を持っているが、突然世の中の裏側を目にする。 後悔はしていない。もう一度やってもいい。だが、戦争はまちがいなく人を変える。 死を受け入れるようになる。 SEALになることは、暗黒面に落ちることだ。完全に入り込んでしまう」と。 (クリス・カイル、ジム・デフェリス、スコット・マキューエン著 田口俊樹 訳)「フューリー」のデヴィッド・エアー監督には第二次大戦に従軍した二人のおじいさんがいて、彼らはついに戦争体験を語ろうとしなかったそうです。 おじいさんが深夜に黙って一人で食堂に座っている姿を見た、深夜にうなされて飛び起きる姿を見た。 おじいさんたちが戦争で何を体験したのだろうか?、それを描きたかったと監督が発売されたブルーレイソフトに収録のメイキングで語っています。
2015年04月05日
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2014年外国映画興行成績です。 金額は興行収入。1位「アナと雪の女王」 254億8000万円2位「マレフィセント」 65億4000万円3位「ゼロ・グラビティ」 32億3000万円4位「GODZILLA ゴジラ」 32億円5位「アメイジング・スパイダーマン2」 31億4000万円6位「トランスフォーマー/ロストエイジ」 29億1000万円7位「オール・ユー・ニード・イズ・キル」 15億9000万円8位「猿の惑星:新世紀(ライジング)」 14億2000万円9位「ホビット 竜に奪われた王国」 14億1000万円10位「ノア 約束の舟」 13億8000万円11位「インターステラー」 12億5000万円12位「プレーンズ」 11億5000万円13位「美女と野獣」 11億円14位「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」 10億7000万円15位「X-MEN:フューチャー&パスト」 10億3000万円16位「LUCY/ルーシー」 10億3000万円17位「LIFE!」 10億1000万円18位「フューリー」 10億円 第18位「フューリー」は昨年(2014)の11月28日公開された戦争映画です。 金沢ではまったく話題にもならず、見てきた知人が言うには「初日に行ったけれどお客が5人しかいなかった」と。このような戦争映画はまず女性は見ないだろうし、いまの若い人は関心すら示さないだろうと。興行価値がどれだけあるのだろうか?と疑問に思ったものです。 それがこの興行成績を見ると、意外なことに第18位で、10億円の興収を上げている。地域差があるのかと思うけれども、この成績を見る限りでは健闘したといえるのでは。「フューリー」(2014) FURY監督 デヴィッド・エアー 製作 ビル・ブロック デヴィッド・エアー イーサン・スミス、ジョン・レッシャー脚本 デヴィッド・エアー撮影 ローマン・ヴァシャノフ音楽 スティーヴン・プライス 出演 ブラッド・ピット、シャイア・ラブーフ ローガン・ラーマン、マイケル・ペーニャ、ジョン・バーンサル 本編135分 総天然色 シネマスコープサイズ 字幕翻訳:松浦美奈 吹替翻訳:久保喜昭 原題は「FURY」。 1978年に同じ邦題のブライアン・デ・パルマ監督のSFスリラー映画があり、その原題が「THE FURY」でした。「フューリー」とは「憤激」「激怒」「激怒の状態」「激しさ」「猛威」「狂暴」、 または「激しい興奮状態」「復讐の女神の一人」「怒り狂う女」「狂暴な女」「手に負えない女」 など。 デ・パルマ監督作品の場合はヒロインの超能力少女(エイミー・アーヴィング)が最後にすさまじい怒りを爆発させる、まさにタイトルどおりの「激怒、憤激」という意味だったのでしょう。 今回の戦争映画では主人公たちが搭乗する戦車、M4シャーマン中戦車につけられた名前です。 ふつうは愛車などに名をつけるなら女性名かと思うのですが、だとすれば「怒り狂う女」号といった感じだろうか?1945年4月、ライン河を渡った連合軍がドイツ本国へ侵攻し、ベルリンに迫ろうとしている。 ドン・コリアー軍曹(通称ウォーダディ、戦争おっさんという意味?)のM4シャーマン中戦車の乗員たちの物語です。戦死した副操縦手の代わりとして新兵のノーマン二等兵(ローガン・ラーマン)がやって来る。彼は司令部付きのタイピストに配属されるはずだったのですが、なぜか戦車隊に。 戦闘訓練も受けず、戦車に乗ったこともない彼が、最前線での戦車乗員になり、厳しい戦闘の中に放り込まれる。殺すか殺されるかの血みどろの、死との背中合わせの戦車内で、自分を見失ってしまうのですが。 つづく。
2015年04月04日
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「グローリー」(1989) GLORY監督 エドワード・ズウィック製作 フレディ・フィールズ原作 リンカーン・カースティン ピーター・バーチャード ロバート・グールド・ショー脚本 ケヴィン・ジャール撮影 フレディ・フランシス音楽 ジェームズ・ホーナー出演 マシュー・ブロデリック、デンゼル・ワシントン、モーガン・フリーマン ケイリー・エルウィズ、ジミー・ケネディ、アンドレ・ブラウアー 本編122分 総天然色 ビスタサイズ 南北戦争を背景にした、黒人で編成されたマサチューセッツ歩兵第52連隊の物語です。 戦争とともに南部からの逃亡奴隷の数が増え、北軍は彼らの志願を募って黒人部隊を作る。(実際は逃亡奴隷だけでなく北部の自由黒人たちの方が多かったそうです) その指揮官としてロバート・グールド・ショー大佐が任命され、演じるのはマシュー・ブロデリック。 初めて見たときは、どちらかといえばその童顔(お坊ちゃんタイプ)に口ひげと顎ひげが似合わない感じで部隊指揮官としては貫禄不足。年齢的にもミスキャストではないか?と思ったのですが、このショー大佐は実在人物で、実際にも25歳くらいの年齢だったとか。だとすればミスキャストとはいえないようです。 黒人兵の役でデンゼル・ワシントンとモーガン・フリーマンが出ていて、現在では両人ともアメリカ映画を代表する黒人スター俳優。この演技派2人の前ではさすがに若いマシュー・ブロデリックはかすんでしまいます。 指揮官と士官(中隊長や小隊長)は白人だが、下士官以下の兵たちはすべて黒人。しかし部隊が誕生したのに制服も軍靴も支給されない。 ショー大佐が物資担当士官を脅迫してやっと制服と靴を入手し、本格的に訓練を開始する。 厳しい訓練が続けられ、ショー大佐は、兵たちのリーダー格存在であるローリング(モーガン・フリーマン)や白人を憎むトリップ(デンゼル・ワシントン)、射撃が上手なシャーツ(ジミー・ケネディ)たちとの交流を通して、初めは反感を受けるが厚い信頼関係を築いてゆきます。 最初は後方での労働作業ばかり割り当てられていた第54連隊も、ようやく実戦に加わってその実力を認められる。 ショー大佐は、難攻不落の南軍のワグナー砦の攻撃を部隊の全滅を覚悟で志願します。 ワグナー砦を攻めるには海岸に沿って進むしかなく一個連隊しか近づけない。当然大きな損害を受けるのは必至である。 戦いの前夜、兵営で焚き火を囲んでゴスペルを歌う兵隊たち。彼らは自分の思いを語ります。「明日死ぬかも知れないが、俺たちは自由のために死ぬんだ」「俺は第54連隊が好きだ。俺には家族はいない。お前らみんなが俺の家族だ。俺は第54連隊が好きだ」「明日戦う俺たちには誇りがある。人間の誇りだ」「今まで家畜同然に扱われてきた、これは自分たちの誇り高い栄光のための戦いなのだ」と。 そして彼らは白人部隊の先頭となって海岸に築かれた南軍のワグナー砦の銃陣と砲列の前へ隊伍を整えて突撃してゆきます。 壮絶な死闘の末、ショー大佐は敵弾を受けて戦死。第54連隊は半数の死傷者を出して壊滅する。後続の白人部隊も多大な損害を出して退却し、ワグナー砦の攻略は達成できなかったという。 しかし第54連隊の勇敢な戦いは北軍に多くの黒人兵が参加するきっかけとなり、その勝利に大きく貢献したとされます。 白人の兵隊は給料が13ドルなのに黒人兵は10ドルで、被服費として3ドル天引きされて7ドルしか支給されず(どこかのブラック企業みたい)、黒人兵たちは受取りを拒否したそうです。 映画の中ではショー大佐もみんなと一緒に給与受取りを拒否し、黒人兵たちは大佐も味方だと認めるようになります。「戦争で死ぬのは白人も黒人も同じなのに、黒人だからという理由で給与に格差があるのは納得できない」と、彼らはその後も給与受取りを拒否し続けるのですが、映画ではそこまでの描写はありません。 主演のマシュー・ブロデリックは年齢が近いショー大佐(戦死した時は26歳)をよく演じています。実戦は甘いものではないということを兵たちに厳しく教え込もうとし、それが黒人差別のように受け取られて反感を受けるのですが、やがてその厳しい訓練に耐えることで鍛えられ、激しい戦いの中で生き残れるのだということを理解されてゆく。
2015年01月13日
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「サハラ戦車隊」(1943) SAHARA監督 ゾルタン・コルダ脚本 ジョン・ハワード・ローソン ゾルタン・コルダ撮影 ルドルフ・マテ音楽 ミクロス・ローザ出演 ハンフリー・ボガート、ブルース・ベネット ロイド・ブリッジス、レックス・イングラム J・キャロル・ネイシュ、ダン・デュリエ 本編98分 モノクロ スタンダードサイズ 1942年の北アフリカ戦線を舞台にした作品。製作されたのが1943年なので、ほぼ同時期のできごとを映画の題材にしています。 ドイツ軍の猛攻で英軍は壊滅的打撃を受ける。生き残ったアメリカ派遣軍のガン軍曹(ハンフリー・ボガート)のM3中戦車は、味方の前線に合流しようと砂漠地帯の突破をこころみる。 2人の部下と、途中で6人の英軍兵や、イタリア兵捕虜を連れたスーダン兵や、ドイツ人パイロットの捕虜などを加えて、熱砂の砂漠を進む一台のM3中戦車。 前半は砂漠を井戸を求めて進むサバイバル映画。後半は井戸のあるオアシスに陣取った主人公たちとドイツ軍との戦闘で、多勢に無勢、味方は一人、また一人と倒れてゆく。 砂漠ではいかに水が重要か、直接生命にかかわることをあらためて認識。攻撃側のドイツ軍も水不足に乾き、苦しんでいる。戦闘の結果、乾きに耐えかねたドイツ軍が集団で降伏してきます。 第二次大戦真っ最中に陸軍の協力を得て作られた作品で、戦意高揚目的という感じはなく、ハンフリー・ボガート主演のせいかけっこう硬派な映画である。 実物のM3中戦車が見られる貴重な作品。車体右側面に75ミリ主砲、車体に載った37ミリ砲の砲塔、その上に機関銃塔と、三段重ねの珍しいデザインで、お正月のお鏡餅みたいな面白い形をしています。側面ドアからの乗降や、内部の様子も描写される。 戦闘で部隊が全滅してしまい、生き残った兵隊たちが味方の前線に向かって敵中突破する道中を描いたもので、昨日の「アンツィオ大作戦」も同じだし、戦争映画の一つの定型ですね。 砂漠の中、井戸を求めてある廃墟に入るのですが、同じことはドイツ軍も考えていて、水を求めて大部隊が接近してくる。最初は滴がしたたるくらいだった井戸がやがて枯れてしまい、ドイツ軍には水浴びをしているふりをして水が豊富にあるように見せかける。 圧倒的な数の差がある戦いとなって一人また一人と倒れていくのですが、その時ドイツ兵たちが乾きに耐え切れなくなって銃を捨てて降伏。水がないのがバレたらどうなるん? ご都合主義のような結末だけれど、いかにも王道を行くクラシック映画らしくていいのではないか。 愛車にルルベルと名前を付けている戦車長のガン軍曹を演じるハンフリー・ボガートの、さすが映画スターらしい頼もしさが良い感じ。 部下の2人が何かというと5ドル賭けるのが可笑しいです。
2015年01月12日
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映画「アンツィオ大作戦」(1968)のDVDを再見したのですが、前に見た時よりおもしろく感じました。 主人公の従軍記者エニス(ロバート・ミッチャム)は7年ものあいだ危険な戦場に立って自らの目で兵隊たちの生死を見てきた。彼はなぜ人間は戦争をするのか?の答えを探しています。 人間が地球上に現れて集団生活を営むようになった時から現在にいたるまで、数十万年、数万年、数千年もの長いあいだ、お互いに争い、殺しあって来た、人間の歴史は殺しあいの歴史であり、闘争の歴史です。 なぜ人間は殺しあうのか?、なぜ人間は戦争をするのか? この映画では主人公の従軍記者が自ら銃を取って敵兵と向かい合うことで、その答えを得る。もちろんその答えがすべてではなく、一つの答えであるにすぎないだろうけれども。 彼は敵の狙撃兵と銃を持って向かい合うことで、それは命を賭けたゲームであり、スリルに満ちて面白いからだと。 登場人物の一人にピーター・フォーク演じる伍長がいるのですが、彼は戦場に立つことで生きていることを実感できる、それが病みつきになってしまったと言います。 人間が戦争をするのは、それが人間だからだと私は思っています。人間性とは、「自分と姿形が異なる者、考え(思想)の異なる者を許せない」「他人の持っているものを欲しがる、際限の無い欲望」「暴力と破壊を好む」「自分が中心であり、排他的」 このようなことが人間の性質だとすれば、人間が人間でなくならないかぎり、永遠に戦争が絶えない。 戦争は人間性を失うとか、人間性のかけらもないというけれども戦争こそ最も人間らしい行為だといえるのでしょう。 夏目漱石先生の「草枕」に「人の世が住みにくいとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ」とあります。 すべての人間が「人でなし」になることで、やっと争いのない平和な世界になるとすれば、人間とはなんと罪深い存在なのだろう。 銃など武器・兵器を持って戦うことが戦争ですが、人間の争いは戦争だけではない。私たちの日常生活のなかで争い事は茶飯事であり、ただそれを大規模にしたものが戦争であるにすぎない。「気に入らないヤツをやっつけたい。やっつけることで溜飲を下げる」 けっきょくはそのような人間の悪性がなくならないかぎり戦争のない平和な世界を実現できないのではないか。 映画「アンツィオ大作戦」にはもう一つテーマがあります。 戦場における指揮官の資質です。 ナポレオンの言葉だという、「部下を案ずる将軍は敗北する」。 イタリアのアンツィオに上陸した米英連合軍。予期したドイツ軍の反撃がまったくないことで、指揮官はそれが敵の罠だと判断し、内陸部への前進をためらって上陸地点の防備に専念してしまいます。 敵の姿がない今こそ好機であり、一気にローマまで軍を進めるべきだという部下の意見を退けてしまう。 虚を突かれた敵に体勢を立て直す時間を与えてしまったことで自軍が大損害を受けてしまう結果になるのですが、一気に攻勢に出るか守備を固めるかの判断、選択を一人の将軍に負わせるのは荷が重すぎるのかもしれない。 ドイツ軍の将軍が、連合軍が上陸地点から動かずに守備を固めていると聞いて「軍人の面汚しだ」と言います。 猪突猛進型の将軍と慎重型の将軍、どちらがいいのか?
2015年01月11日
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「アンツィオ大作戦」(1968) ANZIO!監督 エドワード・ドミトリク製作 ディノ・デ・ラウレンティス原作 ウィンフォード・バウハン・トーマス脚本 ハリー・A・L・クレイグ撮影 ジュゼッペ・ロトゥンノ音楽 リズ・オルトラーニ 出演 ロバート・ミッチャム、ロバート・ライアン ピーター・フォーク、アーサー・ケネディ アール・ホリマン 本編117分 総天然色 シネマスコープサイズ 日本公開は1968年7月。 劇場公開されたのは知ってますが、当時は見てなくて、初めて見たのはテレビのゴールデン洋画劇場(1973年1月12日放送)です。 この映画、妙な感じがしますね。監督はアメリカ人だし出演者もアメリカ人。しかし製作のディノ・デ・ラウレンティスはイタリア人です。撮影地はイタリア(チネチッタ撮影所か?)とスペインあたりではないかと。当時、アメリカ資本のマカロニ西部劇があったように、これもアメリカとイタリア、スペインの合作ではないだろうか。 1944年1月。米英連合軍はイタリア ローマの南にあるアンツィオに無血上陸しました。 ドイツ軍の抵抗がまったくないことを罠だと判断し、前進せずに腰を据えて防御戦の準備に取り掛かる。 従軍記者のエニス(ロバート・ミッチャム)はジープを借りてあたりを走り回るが、どこにも敵の姿がない。試しに道を北上してみると、敵の抵抗がないままローマ市内に入ってしまった。 出会った市民に訊ねるとローマにドイツ軍はいないと言う。エニスはその事実を司令部にもたらすが、敵の罠だと恐れる将軍(アーサー・ケネディ)は塹壕を掘るばかりで動こうとしない。 上陸から数日が無為に経過し、いなくなっていたドイツ軍が戻ってきて展開を完了してしまう。 その時になってやっとアメリカ軍はレンジャー部隊を前進させるのですが、敵との最前線は静寂に包まれていて、それこそが罠だった。野積みされた藁の山や薮に隠されたドイツ軍機関銃陣地の銃火を浴び、さらに戦車の群れが現われる。 戦闘の末、包囲された700人以上いたレンジャー部隊は瞬く間に7名になってしまう。その光景を目撃した従軍記者エニスは無線で司令部に連絡をとって、将軍に「臆病者め!お前のために部隊が全滅したではないか!」と罵ります。 生き残ったエリスと7名の兵隊たち(ピーター・フォーク、アール・ホリマンら)は連合軍の戦線まで戻ることになり、その途中でドイツ軍が強力な防衛線を築いている現場を目撃する。 その防衛線建設工事に徴発された父の帰りを待つイタリア人母娘と別れたあと、彼らはドイツ軍狙撃兵に狙われて釘付けになってしまいます。 ロバート・ミッチャム扮する従軍記者エニスは7年間も危険な最前線を渡り歩いてきた。彼はなぜ人間は戦争をするのか?と考えていて、その答えを自分が戦場に立つことで探している。 クライマックス場面で、彼は銃を取ってドイツ軍狙撃兵と向かい合うことでその答えを知ります。 明日につづく。
2015年01月10日
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映画「パール・ハーバー」(2001)には日本の零式艦上戦闘機の、飛行可能な機体が3機使われて撮影されたそうです。 アメリカのプレーンズ・オブ・フェーム航空博物館(POF)が所有している52型が1機。ロシアで新造された22型が2機。 この3機をもとにしてCGで大編隊に水増しされました。 開戦時の銀灰色塗装ではなく、後の南太平洋戦域で採用された濃緑色の迷彩塗装が施されていて(監督が濃緑色の零戦が好きだからという理由だとか)、航空機ファンの不評を買うことになったけれども、戦争映画において、復元機といえども実物の零戦がパール・ハーバー上空を飛び回るシーンはこれまでに見られなかったものです。 1970年に日本で公開された「トラ・トラ・トラ!」(70)では実際に飛行可能な日本機のレプリカが約30機、アメリカでの撮影に用いられたそうで、当時は日本でのロケ撮影でもレプリカ機の製作と撮影がおこなわれたようです。 「トラ・トラ・トラ!」予告編はこちら。 当時の航空自衛隊が使用していた(アメリカからの無償貸与)T-6テキサン練習機と海上自衛隊仕様のSNJ。 20世紀フォックス社が、これだけの大きな映画製作会社ともなればアメリカ政府にも顔が利くのか政治力を発揮。日本から返還するという建前とし、それを改造して「零戦」と「九七艦攻」のレプリカ機を製造しました。 日本中の自衛隊基地からT-6とSNJを合計18機集めて、飛行可能な九七艦攻を5機(完成したのは3機のみ)と零戦を1機、それと地上撮影機としての12機(零戦5機と九七艦攻7機)に大改造を施した。 福岡県の航空自衛隊芦屋基地近郊の海岸に戦艦「長門」と空母「赤城」の巨大なオープンセットが建てられたのは、当時大きなニュースになりました。 ほぼ実物大で作られた赤城の飛行甲板に並べられた零戦と九七艦攻。暁の出撃シーンで、零戦が発艦してゆくシーンは見事なできばえでした。 地上撮影機といってもちゃんとエンジンが始動してプロペラが廻るしタキシング(自力で地上走行すること)も可能な機体です。 飛行可能な機体は鹿児島湾での雷撃訓練シーンなどで使われたそうで、日本で撮影がおこなわれた映画では、このようなできごとは空前絶後なことですね。 それまでの東宝の戦争映画、たとえば「太平洋の翼」(63)や「ゼロ・ファイター大空戦」(66)などは、円谷英二さんの特撮(ミニチュア模型を使った)やハリボテの機体で、当時はともかく、現在になって見ると、とくに「空軍大戦略」(69)「トラ・トラ・トラ!」(70)や「パール・ハーバー」(2001)などの実機が飛び回る映画を見てしまった目には見るに堪えないものがあります(それなりの味わいはあるけれど)。
2014年12月11日
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昭和16年12月8日(現地ハワイ時間1941年12月7日朝)、日本海軍機動部隊がハワイの真珠湾を奇襲攻撃しました。 その作戦を描いたアメリカ映画では「トラ・トラ・トラ!」(1970)があり、これはアメリカでは興行的に大失敗し大赤字の結果になりました。 その轍を踏まないように、今度は恋愛物語に重点を置いた作品として製作され、未曾有の大惨事下における若い男女の恋愛娯楽映画とされて、今度は観客の評価はともかくとして一応の好成績を収めたようです。 この作品は史実と違うという理由で評判が悪く、その理由は非戦闘員への攻撃です。ハワイの非戦闘員を機銃掃射する日本戦闘機。海軍の病院施設への攻撃をとりあげて、日本軍はそんなことをやっていないというものです。 日本のハワイ真珠湾攻撃の結果、ハワイ現地での戦傷者の数はどれだけなのか? 戦死、行方不明、戦傷死海軍 2004人海兵隊 108人陸軍 224人市民 68人 合計2404人 負傷海軍 912人海兵隊 75人陸軍 360人市民 280人 合計1627人 日本軍は非戦闘員を絶対に攻撃していないという人たちは、市民に被害が出ているこの数字をどう見るのでしょうか? 開戦劈頭、ハワイの太平洋艦隊を大きく叩いて、アメリカ国民を戦意阻喪させる、これが山本五十六長官の目的だったといわれます。 ところが意に反して、アメリカ国民は一致団結して「パール・ハーバーを忘れるな!」と、奮い立たせる結果になった。それまでは日米開戦に反対していた人たちまでもが、このハワイ攻撃のために開戦に積極的に賛成するようになったそうです。 外務省の不手際のために開戦通告(宣戦布告ではなく、内容は日米交渉打切りの通告)が攻撃のあとになってしまい、そのことでアメリカ国民が怒ったのではなくて、後になろうが間に合っていようが関係なく、攻撃されてだまっているような腰抜けであるはずがない。「やられたらやりかえせ!」ということです。 このハリウッド映画は日本軍の真珠湾攻撃を「9.11」のようなテロ攻撃と同等にあつかっているようです。 降ってわいた大惨事として国民に多数の死傷者が出た。こんなことをされてだまって引っ込んでいられるか!やられたらやりかえせ!と。 そんな大惨事下での若い陸軍航空隊パイロットと海軍看護婦との恋愛を描いた映画「パール・ハーバー」です。あくまでもお気楽娯楽ファンタジーとして見るべきで、史実がどうのとか零戦の塗装がちがうとか(まだ採用されていない濃緑色に塗られている)、それを言えば零戦の型も違うのだし、そんなことはどうでもいいのではないか?
2014年12月10日
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2001年の外国映画興行成績です。 金額は興行収入。1位「A.I.」 97億円2位 「パール・ハーバー」 68億8000万円3位 「ジュラシック・パークIII」 51億3000万円4位 「ダイナソー」 49億円5位 「ハンニバル」 46億円6位 「PLANET OF THE APES 猿の惑星」 45億円7位 「バーティカル・リミット」 39億円8位 「ハムナプトラ2 黄金のピラミッド」 37億円9位 「キャスト・アウェイ」 32億7000万円10位 「アンブレイカブル」 29億4000万円 日本軍の真珠湾攻撃を描いた「パール・ハーバー」が第2位に入っていて、興収68億8000万円の好成績。 マイケル・ベイ監督が「これは戦争映画ではなくラブ・ストーリーです」と言っているそうですが、そのような戦時下での恋愛映画として見る限り、面白く見られる作品になっています。日本での大ヒットも、「タイタニック」の悲劇的恋愛とおなじような目的を持って見られた結果なのでしょう。 この映画について、史実とちがうとか日本軍の描写が気に入らないとかの悪評がありますが、その人はどんな目的で鑑賞しているのだろう? 娯楽映画を見て歴史を学ぼうとするほど日本人は馬鹿ではないと思うけれど。「パール・ハーバー」(2001) PEARL HARBOR監督 マイケル・ベイ製作 マイケル・ベイ、ジェリー・ブラッカイマー製作総指揮 スコット・ガーデンアワー脚本 ランドール・ウォレス撮影 ジョン・シュワルツマン特撮 ILM音楽 ハンス・ジマー出演 ベン・アフレック、ジョシュ・ハートネット、ケイト・ベッキンセイル ウィリアム・リー・スコット、グレッグ・ゾーラ、ユエン・ブレムナー アレック・ボールドウィン、ジェニファー・ガーナー、ジョン・ヴォイト 本編183分 総天然色 シネマスコープサイズ 1941年。陸軍航空隊の若いパイロット レイフ(ベン・アフレック)とダニー(ジョシュ・ハートネット)。 レイフは恋人の海軍看護婦イヴリン(ケイト・ベッキンセイル)をダニーに託し、ヨーロッパの戦地へと向かう。やがて、軍からハワイ転属命令を受けたダニーとイヴリンのもとにレイフ戦死の知らせが届きます。 ダニーとイヴリンは互いの悲しみを癒すべく支えあい、いつしか結ばれる。しかし、日米間に暗雲がきざし始めた12月6日、イヴリンの目の前に死んだはずのレイフが現われる。 この作品は評判が悪いですね。 その悪評の大きな要因は、日本軍を悪役として描いていることと、日本軍がハワイの軍港や航空基地など軍事施設だけでなく、医療施設をも攻撃していることで、それをあり得ない、絶対にそんなことをしていないという理由からです。 日本軍を悪役にするのは、これはアメリカの娯楽映画だからしようのないことではないか。 そして日本軍がハワイの民間施設や病院など医療施設に絶対に爆弾を落とさなかったとは、はたしてそう言い切れるのか? 攻撃目標を決めるのにはあらかじめ得た情報をもとにしているのだろうけれど、その情報を誤認することだってあるだろうし、誤爆することだって大いにあるはず。 現代の湾岸戦争やイラク戦争などハイテク航空地上攻撃だって、ピンポイント精密爆撃といいながらも誤爆が頻繁におこなわれたことは周知の事実です。ましてや70年以上も昔の日本軍の航空攻撃がそんなに正確だったろうか? 長くなるので、明日につづく。
2014年12月09日
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12月8日は日本海軍がハワイの真珠湾を奇襲攻撃し、太平洋戦争が始まった日です(ハワイ現地時間は12月7日)。 1970年外国映画の興行成績ベスト10です。1位 「続 猿の惑星」 1億6192万円 2位 「サウンド・オブ・ミュージック」 1億5467万 3位 「クリスマス・ツリー」 1億4014万 4位 「女王陛下の007」 1億3950万 5位 「ひまわり」 1億2667万 6位 「ネレトバの戦い」 1億1715万 7位 「シシリアン」 1億1633万 8位 「シェーン」 1億992万 9位 「チップス先生さようなら」 1億778万 10位 「さらば夏の日」 1億767万円 この年の外国映画興行成績トップ10に「トラ・トラ・トラ!」が入っていませんね。 ユーゴスラビア映画の「ネレトバの戦い」(1969年12月公開)が6位になっているのに、「トラ・トラ・トラ!」はそれ以下だったということです。 日本公開は1970年9月25日。ハリウッド製作の戦争映画大作なのに、日本での興業はかんばしくなかったのでしょうか? アメリカでの興業も良くなかったようで、製作費2500万ドルもかけたのに興行収入が1450万ドル。劇場の取り分を差し引くと800万ドルぐらいの利益しかあげていないことになって大赤字です。のちにビデオ発売やテレビでの放映権などである程度は回収できたようですが。 この映画「トラ・トラ・トラ!」を高く評価する人が多いようですが、私はそれほどの作品だとは思っていません。 確かにその戦闘シーンは現代のCGによるものではなく、実写と合成、ミニチュアによるものでさすがに見応えのあるものになっているし、最後まで一気に見せてくれる迫力があって面白い映画ではあります。 しかし気に入らないのは、演技や演出ではなくて、山本五十六長官の「眠れる巨人を起こしてしまった」というラストシーンの台詞。この台詞はいったいどういうつもりでの発言なのでしょうか? 山本五十六がハワイの真珠湾を奇襲攻撃した目的とは、いったい何だったのか? このことについて2011年8月16日にこの雑記帳で書いているのですが、以下はその再掲です。 ・・・・ 映画「トラ・トラ・トラ!」のラストで、山村聡さんが演じる山本五十六聯合艦隊司令長官が日米交渉打ち切りの通告をアメリカに渡すのが遅れて攻撃の後になったのを知ります。この時に、浮かぬ顔で「眠れる巨人を起こしてしまった」と言います。 山本長官は日本がアメリカと戦争をするには、「開戦劈頭、敵の主力艦隊を猛撃攻撃破して、米国海軍および米国民をして救う可(べ)からざる程度に、その士気を阻喪せしむること是(これ)なり」として、ハワイ作戦の実行を主張したそうです。 まず開戦早々に敵に大きなダメージを与えて、敵国民の士気を阻喪させて講和に持ち込む。この速戦即決しか勝ち目はないと。 でも真珠湾の奇襲攻撃には成功したものの、開戦の通告(実際は交渉打ち切りの通告)が送れて攻撃後になったために、米国国民を怒らせてしまった。これで米国国民は団結をして日本に立ち向かってくるだろうと、眠れる巨人を起こしたとはこういう意味です。 これを逆に考えれば、もしも通告が予定通りに行われていたならば、アメリカ人は本当に士気を阻喪して日本との戦争を避けようとしただろうか? アメリカ人も見くびられたものです。 この考えの根底には日本人によるアメリカ人蔑視があるのではないでしょうか。 当時の日本人全般がそのように考えていたかは知りませんが、政治家や軍人のなかにはアメリカ兵は弱いと考える者がいたそうです。 「今度の敵は支那人以下の弱虫だ。勝つに決まっている」と。日本兵が突撃すればアメリカ兵は泣いて逃げると本気で思っていたそうです。 山本五十六聯合艦隊司令長官がそんなふうにアメリカ人を見ていたとしたら、いわれるような名将なんかではありません。「物量豊富なれど闘志にみるべきものはない。民主主義の政治機構は国家総力戦には向かない」と、このような希望的観測をもとにして戦争に踏み切ったとのだとしたら、なにをかいわんや、です。 ・・・・・ 真珠湾攻撃の目的がアメリカ国民の戦意を阻喪させることだったとすれば、そんな馬鹿なことがあってたまるか、と私は思うのですが。
2014年12月08日
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原題が「KELLY'S HEROES」、邦題が「戦略大作戦」。 公開当時も思ったのですが、妙な邦題で、「戦略」の「大作戦」とは意味不明です。 原題の「ケリーの英雄たち」では興行的に不適だし、他に良いのがあるか?と聞かれたら困るけれども、何か他に適当な邦題がなかったものか?「特攻大作戦」、「空軍大戦略」。それならば「戦略大作戦」にするか、というような派手なタイトルで客を呼ぼうとしただけだったのでしょうか? 右の写真は映画に出てくるドイツ軍のタイガー戦車。ネットで調べると旧ソ連の「T-34/85」を改造したものだとか。確かに大きな五つの転輪はT-34らしいけれども、T-34/85だという根拠は何か?、T-34/76ではないのか?、または後継のT-44の可能性はないのか?、私は戦車の知識が乏しいのでわかりません。 実際に走るのを見ていると、少々馬力不足のような感じがするけれども、雰囲気を出していて良くできています。 本物のタイガー戦車のような3枚の転輪を交互に重ねたものではないが、足回りはそれらしく見えますね。 当時の戦争映画ではアメリカ製のM41やM47に鉄十字や塗装を施してドイツ軍戦車に見せかけたものが多かった(というよりほとんどがそうだった)のですが、そんな時代にわざわざ改造車輌を製作して撮影したのは特筆すべき点です。 改造タイガー戦車についてはよく知られていますが、いま改めて鑑賞すると、登場人物たちの野戦服に着いている師団標識や階級章も考証がなされているようです。 ビッグジョー(テリー・サヴァラス)たちアメリカ軍の兵隊たちの上腕部に着いている「丸に十字」の、薩摩 島津家の定紋のような師団標識。これは第35歩兵師団の標識です。 左の写真はビッグジョーのテリー・サヴァラスさん。青の丸に白い十字がデザインされた師団標識と曹長(ファースト・サージャント)の階級章が着いている。 戦車兵のオッドボール(ドナルド・サザーランド)の上腕部には三角形の黄・赤・青3色と数字の6の標識があって、これは第6機甲師団のものです。 第35歩兵師団と第6機甲師団は同じ第3軍に所属しているので、これは考証的にも合っています。 やたらに張り切っているコルト少将(師団長。名前は架空)の幕僚たちの軍服には「丸にA」の第3軍の標識が着いている。つづく。
2014年09月19日
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6月6日、フランスのノルマンディーで「ノルマンディー上陸70周年」の記念行事が開かれたそうです。 新聞記事によるとウィストレアム(ノルマンディーの要地)でのメイン式典には20カ国の首脳が参列したとか。 1944年6月6日午前6時30分。英米連合軍がノルマンディーのユタ、オマハ、ジュノー、ゴールド、スウォード、五つの海岸に一斉に上陸を開始。 これら地上部隊の敵前上陸に先立って、落下傘とグライダーによる空挺部隊が、重要な道路や橋、町を確保してドイツ軍が海岸に向かうのを阻止する任務を与えられて闇夜に降下。 この欧州本土侵攻作戦名が「オーバーロード作戦」、決行日を「Dデイ」といいます。 このノルマンディー上陸作戦は映画の題材にもなっていて、有名なものでは「史上最大の作戦」(62)と「プライベート・ライアン」(98)、「最前線物語」(81)がある。 テレビ映画でも「コンバット!」の第1話や、「バンド・オブ・ブラザース」の第2~3話でこの作戦が背景になっています。 映画「史上最大の作戦」(日本公開1962年12月)は全世界で大ヒット。製作者ダリル・F・ザナックが倒産危機にあった20世紀フォックスに貢献したということで新社長に就任する。 この映画は1968年のリバイバル上映時(北国シネラマ会館)に初めて見て以来、77年のリバイバル上映(金沢プラザ劇場)、テレビ放送やレンタルビデオ、レーザーディスク、DVD、ブルーレイなどで何度も見ています。 本編178分の長い映画で、細部までよくできているのですが、開巻部分のドイツ軍の軍団長ロンメル元帥がノルマンディー海岸を視察している場面(写真)、ここだけは編集と画面合成がうまくいっていないのが残念。 ロンメル元帥が「静かで平和なながめだが、この海峡の向こうに怪物が潜んでいる。連合軍の百万の軍勢と艦船、航空機がやがて殺到するだろう。しかし一兵たりとも上陸させない。波打ち際で撃滅するのだ。最初の24時間がすべてを決する。連合軍にとっても、われわれにとっても、その日こそはもっとも長い一日になるだろう」と言う。 この場面の途中でロンメル元帥がパッと消えるのは編集の不手際か?、背景との画面合成もけっして上手ではなく、もう少しなんとかならなかったのか、惜しいところです。 第二次大戦欧州戦線における決定的な一日を描いた歴史映画です。 丁寧に撮られたモノクロ画面の美しさもあって、最高に好きな作品ですが、字幕翻訳の(DVDでは)岡枝慎二さんはベテランのはずなのに軍事用語は苦手なのか誤訳があって残念。 ジョン・ウェイン演じるベンジャミン・バンダーボルト中佐を「師団長」としている。スチュアート・ホイットマンの中尉が「師団長がお見えだ」というシーン(日本語吹替えでは「中佐が」と正しく翻訳されていて、こちらは宇津木道子さん)。 降下時に足首を骨折して荷車に乗って指揮するバンダーボルト中佐は第82空挺師団の大隊長であり師団長ではない。中佐の階級で師団長などあり得ないことです。 劇場公開時は名翻訳家 清水俊二さんの字幕スーパーだったのに。清水俊二さんが翻訳した外国映画は、現在では数点(「西部戦線異状なし」と「誰が為に鐘は鳴る」。他にもあるか?)しか見られなくなっている。
2014年06月06日
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映画「バルジ大作戦」についてのつづきです。 この作品はアメリカ軍、ドイツ軍、両軍を公平な視点で描いています。 従来のアメリカ製戦争映画ではつねにドイツ軍は悪役でしたが、この「バルジ大作戦」(65)あたりから、この前の「史上最大の作戦」(62)あたりからか、ドイツ軍も健闘したのだという公平な視点が見られるようです。 ドイツ軍の大反撃作戦での戦車旅団の指揮を任されるへスラー大佐(ロバート・ショウ)。この人は戦争キチガイなのですが、この歴戦の勇者に長年にわたって仕えてきたコンラートという従兵がいます。演じるのはハンス・クリスチャン・ブレヒ(写真)。 ハンス・クリスチャン・ブレヒ Hans Christian Blech 1915年2月20日生まれ、1993年3月5日没。ドイツ、ヘッセン州出身で、ドイツの俳優です。「史上最大の作戦」(62)「レマゲン鉄橋」(69)でもドイツ軍人の役で出ていました。 映画のなかで、この人がへスラー大佐に食事の席で、「おまえの本心が聞きたい」と言われて、話すシーン。「私はこれまで立派な方々に仕えることができて運が良かった」と。そして、「ひとつ学んだことがあります。すべてを失っても希望を失わないこと。それは偉いと思います」と。 いつでも次のチャンスがあると思う、しかしそれは「幻想」です、と言う。そしてへスラー大佐に「今度の任務は幻想です。忘れたほうがいい」と言う。 幻想だと言われて、へスラー大佐はポーランド侵攻作戦では1週間でポーランドを征服させたぞ、電撃戦では39日でパリを陥落させた。それが幻想か!と反論するのですが、コンラート従兵は「かつてあなたに従ってきた古参兵はいまどこにいるのか、いないではないか」と言う。 現在、あなたにつけられた部下は実戦経験のない若僧ばかりではないか、そんな部下が信頼できるのか、と。 これまで敵を蹴散らしてきたあなたには歴戦の部下がついていた、いまは彼らは存在せず、たとえ最新鋭の重戦車を与えられても、はたしてどれだけ働けるのか、ということです。 このドイツ軍の大反撃作戦は、悪天候下でしか行動できない限定的なもの(制空権がないので、晴れると空から攻撃される)で、しかも燃料にも乏しい。けっきょくは燃料切れと天候回復によって作戦は失敗することになるのですが、この作戦不成功は最初から予測できたものであり、すべてが「幻想」だった。 ヒトラー総統がなけなしの兵力と備蓄燃料をこの「幻想の作戦」に賭けた。 このヒトラーの大ばくちによって、英米連合軍の将兵の生命が救われたとされます。 なぜか?、もしもこのバルジ大作戦で使われたドイツ軍の精鋭兵力が温存されてドイツ本国の防衛にまわされていたら、第二次大戦のドイツ降伏までの戦いはもっと過酷なものになったであろう、ということです。
2014年05月03日
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1966年外国映画興行成績です。 金額は配給収入。1位 「007サンダーボール作戦」 10億1857万円2位 「メリー・ポピンズ」 4億2900万3位 「バルジ大作戦」 3億9134万4位 「グレート・レース」 3億2791万5位 「戦争と平和(第一部)」 2億7300万6位 「ネバダ・スミス」 2億955万7位 「テレマークの要塞」 1億8695万8位 「ドクトル・ジバゴ」 1億6900万9位 「巨大なる戦場」 1億5224万10位 「砦の29人」 1億3926万円「バルジ大作戦」(1965) BATTLE OF THE BULGE監督 ケン・アナキン製作 ミルトン・スパーリング、フィリップ・ヨーダン 脚本 フィリップ・ヨーダン、ミルトン・スパーリング、ジョン・メルソン 撮影 ジャック・ヒルデヤード音楽 ベンジャミン・フランケル 出演 ヘンリー・フォンダ、ロバート・ショウ、ロバート・ライアン チャールズ・ブロンソン、テリー・サヴァラス、ダナ・アンドリュース ピア・アンジェリ、タイ・ハーディン、ジェームズ・マッカーサー ハンス・クリスチャン・ブレヒ 本編169分 総天然色 シネマスコープサイズ 字幕翻訳:高瀬鎮夫 吹替翻訳:新藤光太 日本公開は1966年4月。地方公開は遅れて、金沢は8月か? 私が見たのは高校3年の時。1970年の何月だったかは忘れたが、北国シネラマ会館でのリバイバル上映です。 映画「バルジ大作戦」は第二次大戦末期、1944年12月16日早朝、雪と霧におおわれたベルギーのアルデンヌ地方で開始されたドイツ軍の起死回生の大反撃作戦と、不意を突かれた連合軍が混乱から立ち直って反撃にうつるまでを描いています。 1944年12月。連合軍首脳部はドイツに対する勝利を確信していて、ドイツの降伏は時間の問題だと考えている。 これはドイツ軍の上級指揮官たちにとっても同じで、彼らもドイツが敗けるのは必定だと感じていて、あとはこの戦争をどのように終結させるかという問題のみ。 そのような状況の中で、ドイツの勝利を諦めていないのはアドルフ・ヒトラー総統と、ごく一部の狂信的な者だけになっている、ヨーロッパ西部戦線での、そのような時期にヒトラーの立案構想で決行された大反撃作戦。ヒトラーは「ラインの守り」と名づけ、アメリカ軍は「バルジ(突出部)の戦い」と呼んだ約1週間の攻防戦です。 戦争は近いうちに終わるだろうというアメリカ軍の楽観と、追い詰められた敵に反撃はあり得ないという希望的観測と想像力の欠如を描き、そんな中で、戦争前は刑事だったというカイリー中佐(ヘンリー・フォンダ)だけが「刑事の勘」でドイツ軍が反撃を企んでいると予感している。 案の定、突如、森の中からドイツ軍の重戦車の群れが現れてアメリカ軍は大混乱におちいることに。 長くなるので、つづきます。
2014年05月02日
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アメリカ軍の将兵は階級章を、士官は制服の襟に、下士官・兵は袖に着けることになっています。 右写真は映画「バルジ大作戦」(65)の登場人物であるカイリー中佐(ヘンリー・フォンダ)とグレイ少将(ロバート・ライアン)です。 グレイ少将は鉄兜に階級章を着けていますが、カイリー中佐の鉄兜は階級章なし。2人とも野戦服の上着には階級章を着けていません。(DVDでよく見ると、カイリー中佐が着ているジャンパーやコートは肩に小さな階級章が着いている) この映画は戦後20年の1965年の製作。第二次大戦経験者が多く存在した時代でもあり、映画製作には実戦経験のある顧問が参加しています。アメリカ・ドイツ両軍共に将兵の挙措動作、服装など正確を期するためにアドバイスを受けているそうです(DVD特典のドキュメンタリ映像) どうもカイリー中佐、グレイ少将、2人とも意図的に階級章を隠しているような感じがします。 他にチャールズ・ブロンソンが演じる少佐なども上着には階級章がなく、下に着ているシャツの襟に階級章が見られます。 軍曹や伍長などは野戦服の袖に山を重ねた階級章がはっきりと遠目にもわかるように縫い付けられているのは、下士官の場合は直接に分隊員を指揮するための必要性からだと思われます。 それに比べて将校の場合は遠目には下士官・兵と見分けがつかない服装をしている。戦場での将校たちは兵と同じ野戦服を着ています。これは将校は敵にもっとも狙われやすいということの警戒からで、敵からの狙撃対策なのですね。 その点、ドイツ軍の将校たちの、あのいかにも将校でございますといった、これ見よがしな服装は時代遅れなのでしょう。
2014年05月01日
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映画「ウインドトーカーズ」(2002)のDVDをブックオフにて500円(税込み)で購入。 8年ぐらい前に買った通常版(1枚組)を持っているのですが、特典ディスク付き2枚組なので、特典映像を見たくて買いました。 映像特典として「ドキュメンタリー ナバホ通信兵の偉大なる功績」「ドキュメンタリー ジョン・ウー リアリズムへの挑戦」「戦闘シーンの舞台裏」「俳優のための新兵訓練キャンプ」「ブラボー・スペシャル」「歴史の中の英雄たち ナバホ族に敬意を表して」、他にインタビュー集など。 1944年、太平洋戦線サイパン島での日米軍の戦い。アメリカ先住民族「ナバホ族」の言語を暗号として、彼らを通信兵として用いたアメリカ軍海兵隊。そんなナバホ通信兵と彼らの護衛をすることになった白人兵士たちとの交流と葛藤を描いた戦争映画です。「ウインドトーカーズ」(2002)WINDTALKERS監督 ジョン・ウー脚本 ジョン・ライス、ジョー・バッティア撮影 ジェフリー・L・キンボール音楽 ジェームズ・ホーナー 出演 ニコラス・ケイジ、アダム・ビーチ、クリスチャン・スレイター ピーター・ストーメア、ノア・エメリッヒ、フランシス・オコナー 本編134分 総天然色 スネマスコープサイズ 字幕翻訳:松浦美奈 吹替翻訳:平田勝茂「ウインドトーカーズ」とは「風と話す者たち」という意味でしょうか? 映画はモニュメントバレーの広大な風景から始まります。浸食された巨岩がそびえ立つ茶褐色の大地に風が吹き渡る。先住民ナバホ族の人たちが自然とともに生活する土地。 そしてナバホのベン・ヤージー(アダム・ビーチ)がバスに乗り込んで出征してゆく。バスにはおおぜいのインディアンたちが乗っており、彼らは「コードトーカー(暗号通信兵)」として訓練を受ける。 1997年の「プライベート・ライアン」以降、戦争映画が大きく変わったとされ、この「ウインドトーカーズ」もご多分に漏れず戦闘シーンは迫力あるものです。これほどたくさんのアメリカ兵が死んでゆくのはかつてのアメリカ戦争映画にはなかったもので、敵弾だけでなく味方砲兵隊の誤射によって、跡形もなく、肉片すら残さずに吹っ飛ばされる。 太平洋戦争におけるサイパン島の戦いが描かれるのですが、日本軍の描写は、こんなに強いのか?と疑問に思うほど過大に描かれています。日本将兵の軍装などはかなり正確なのではないかと、でもちょっと元気が良すぎるような気もする。 「ウインドトーカーズ」予告編はこちらです。 コード (code) とは、メッセージを特別な知識や情報なくしては意味が分からないように変換することであり、暗号の一種。 コードトーカー(Code talker)とは、大戦中のアメリカ軍において、盗聴される可能性の高い無線交信に英語ではない、先住民族語を用いて偵察報告や命令伝達するために登用されたアメリカインディアンのことです。 彼らを決して敵の手に渡してはならない、ということでジョー・エンダーズ軍曹(ニコラス・ケイジ)が護衛任務をうける。いざとなったらどんな手段を用いてもけっして敵の捕虜にさせてはならない、ということは危急の場合は射殺しろということで、そういう立場におかれた軍曹とナバホ通信兵との関係がテーマです。 もしかしたら殺すことになるかもしれない相手。できるだけ親密にならないようにしようとするが、いつも身近にいればそうもいかず、家族の話や、戦争が終わったら何をする、とかお互いのプライベートなことを話してしまう。 戦争映画としては「コードトーカーズ」の存在を教えられたことと、もう一つの「男の友情」という点では、もっと熱くなってもよかったのでは。中途半端というか、物足りないものが残ります。
2014年04月22日
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1986年 外国映画興行成績です。 金額は配給収入 1位 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」 36億9000万円 2位 「ロッキー4 炎の友情」 29億8000万 3位 「グーニーズ」 19億2900万 4位 「コブラ」 17億5800万 5位 「コーラスライン」 14億5000万 6位 「エイリアン2」 12億 7位 「愛と哀しみの果て」 11億3000万 8位 「コマンドー」 11億 9位 「ポリス・ストーリー香港国際警察」 10億400万 10位 「サンタクロース」 10億円 映画「エイリアン2」(86)をブルーレイソフト(1490円 税8%込)で鑑賞しました。 第1作「エイリアン」(原題ALIEN)の日本公開が1979年7月。監督はリドリー・スコットで、これはホラー映画でした。シリーズ化された第2作目の「エイリアン2」ですが、原題は「ALIENS」と複数になっている。 第1作ではたった1匹のエイリアンに宇宙貨物船の船員たちがほぼ全滅するという大苦戦だったのが、この第2作では原題のとおり、無数のエイリアンが登場。宇宙海兵隊がそのエイリアンズと戦うことになる。 監督は「ターミネーター」(84)のジェームズ・キャメロン、製作は同じくゲイル・アン・ハードさんです。 第1作はホラー映画、第2作は戦争映画ですね。 西暦2144年。57年間の冷凍睡眠から覚めたリプリー(シガニー・ウィーバー)は、音信不通となった植民惑星LV-426の調査のため海兵隊とともに出発。その惑星でリプリーと海兵隊員たちは襲いかかる無数のエイリアンの群れと戦うことになる。 「エイリアン2」予告編はこちら。監督 ジェームズ・キャメロン製作 ゲイル・アン・ハード 脚本 ジェームズ・キャメロン撮影 エイドリアン・ビドル 特撮 スタン・ウィンストン 音楽 ジェームズ・ホーナー出演 シガーニー・ウィーバー (リプリー) マイケル・ビーン(海兵隊ヒックス伍長) キャリー・ヘン(植民団生き残りの少女ニュート) ランス・ヘンリクセン(アンドロイドの ビショップ) ポール・ライザー(バーク) 1986年アメリカ映画 総天然色 ビスタサイズ 本編 劇場版138分 完全版155分 劇場公開時に見て以来、これまでテレビ洋画劇場やレーザーディスクやDVDで何度も見ているけれど、今回のブルーレイでの鑑賞は劇場で見た時と同じような興奮を味わえました。さすがブルーレイで、現在この映画を見るなら絶対にブルーレイがお薦めです。 ヒロインのリプリー(シガニー・ウィーバーさん)と惑星植民団の生存者である少女ニュートとの母親と娘のような心のつながり、信頼感がとてもいい。アメリカ映画の子役ってなぜこんなに上手なのか。日本映画の子役はしらけるばかりですが、アメリカ映画の場合は俳優層の厚さでしょうか、「SUPER 8 スーパーエイト」(2011)のように潜在的な映画少年少女たちがたくさんいるのでしょう。 戦争映画としては海兵隊員たちの結束とチームワーク、そして指揮官の資格というか、指揮官はどうあるべきかが描かれています。惑星調査隊として海兵隊が派遣され、その指揮官のゴーマン中尉(ウィリアム・ホープ)は実戦経験がなく、部下の危機にただうろたえるだけ。的確な指示を与えることができず、そのために部下が死んでゆく。 海兵隊のハドソン上等兵を演じているのはビル・パクストンさん。先日見た「ターミネーター」(84)ではターミネーターに殺されて服をとられる3人組チンピラの1人。うっかり見ていると印象に残らない人ですが、一度憶えてしまうと、忘れられない顔? 大ヒット作「エイリアン」(79)の第2作として、同じような路線をあえて継がず、戦争アクションにしたジェームズ・キャメロン監督。何度でも再鑑賞に堪える傑作として映画史に残る作品です。
2014年04月09日
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2004年のドイツ映画(オーストリア、イタリア合作)「ヒトラー 最期の12日間」をブルーレイで鑑賞。 原題は「DER UNTERGANG」。英語題名は「DOWNFALL」で、「急激な落下、転落」。または「没落、滅亡、失脚」という意味もあり、この映画の場合は後者のほうですね。 日本公開は2005年7月で、石川県で上映されたのでしょうか?、商業性が薄いというので上映館がなかったのかもしれない。 監督 オリヴァー・ヒルシュビーゲル 原作 ヨアヒム・フェスト、トラウドゥル・ユンゲ 出演 ブルーノ・ガンツ、アレクサンドラ・マリア・ラーラ、ユリアーネ・ケーラー 155分の長編ですが、見ている間は時間を感じさせなく、一気に見てしまいました。 物語は1942年12月、首都ベルリンの総統官邸でトラウドゥル・ユンゲ(アレクサンドラ・マリア・ラーラ)という実在の女性がアドルフ・ヒトラー総統(ブルーノ・ガンツ)の秘書として採用されるところから始まる。 話は彼女の視点で進み、すぐにそれから2年半後の1945年4月にとんで、4月20日のヒトラー総統56歳の誕生日の朝にベルリンがソ連軍の砲撃を受ける場面になります。 タイトルの「最期の12日間」というのは、この4月20日から、ヒトラーが自決する4月30日を経て、トラウドゥルが総統官邸地下壕からソ連軍の重囲を抜けて、脱出に成功する5月1日までのことです。 ベルリンに迫るソ連軍の先鋒との戦闘が始まっていて、首都陥落は時間の問題。 側近や防衛軍の将軍たちはヒトラー総統に脱出を進言しますが、「ここを出ても無意味だ」と断固拒否。 自分の命が大切だとばかり、内心では早く逃げたくてたまらない者たちや、あくまでも総統と運命を共にする決意をしている者たち、この映画は両者の者たちの様子を、主人公のヒトラーや秘書ユンゲ以上に細かく描いています。 ヒトラーは現状把握ができていないのか、それともソ連軍が迫っている現状を認めたくないのか、すでに壊滅状態にある防衛軍の師団の来援を期待している。その師団さえ到着すればソ連軍なの押し返せるのだと。 机上での作戦を実行するように将軍たちに命令するのですが、将軍たちは実行しようにもそんな軍が存在しないことを知っている。しかし誰もそれをヒトラーに直言しようとしない。 ヒトラーは、作戦を実行しない将軍たちに、「なぜ言うことをきかないのか、お前たちは裏切り者の腰抜けだ!」と罵る。 絶望を認めたヒトラー総統は、エヴァ・ブラウンと結婚式を挙げ、そのあとに服毒と拳銃で自決します。2人の遺体はその命令どおりに総統官邸の庭に掘られた穴に横たえられてガソリンで焼却される。 「ヒトラー最後の12日間」予告編はこちら。 トラウドゥル・ユンゲという女性がヒトラーの秘書として、総統官邸地下壕で身近に仕え、その体験記が映画化されたものです。 彼女はヒトラー自決後、親衛隊の兵士たちとともに脱出。途中で出会った男の子と行動をともにし、自転車で故郷へと帰る、このエンディングは凄惨な戦場からの解放感があって救われる気持ちがする。 20世紀最大の悪役というと、アドルフ・ヒトラーに相場が決まっているようなものですが、かつては怪物のような世紀の極悪人としてのみしか描かれることがなく、彼を一人の人間として描くのはタブーだったとか。 2000年以降になって、「アドルフの画集」(03)や「わが教え子、ヒトラー」(07)など、アドルフ・ヒトラーの人物に焦点をあてた作品が作られるようになった。 よく知られることですが、ヒトラー総統は自分に仕える秘書や料理人など、使用人には細かな気遣いをみせ、優しかったとか。 この映画でも秘書のユンゲに対して、気味が悪いくらいに優しい。給仕の女性に対しても「おいしかった、ありがとう」と礼を言う。 ベルリン陥落の時にも、彼らと最後の別れを交わすとき、秘書の女性たちに「早く逃げなさい」と。 現在の平和な日本の日常生活において、これだけの気遣いを女性に見せる男がどれだけいるのか?、それを考えるとヒトラーという人物の二面性は、映画でも言っていましたが、私生活では優しい人だけれど、「総統」の立場では冷酷で厳しいと。 ホロコースト、ユダヤ民族大虐殺をおこなった一方での、女性や使用人に対する優しさ。 人間の心の複雑さ。池波正太郎さんが何かで書いていたけれど、人間ってやつは悪いことをしながら良いこともするものさ、です。 そしてヒトラーを極悪人とする。それでは彼のおこなった暴挙や残虐行為を許した当時の国民に責任はないのか、ヒトラーだけを悪人にしていいものか、という問題もある。 普通の平凡な人間が巨大な権力の座を手に入れ、他人の生殺与奪が自由になるとしたら、同じような残虐行為をおこなわないとは、誰にも言えないのでは。 第二次大戦でのナチス支配下で、虎の威を借った狐ども、総統の命令と称して悪行をおこなった者たちがたくさんいたということも。このようなことは古今東西の歴史では他にもあるのではないか。
2014年01月10日
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戦争映画のベスト10を決める投票をすれば、きっと上位に入るだろう作品。 サム・ペキンパー監督のイギリス・西ドイツ合作映画の「戦争のはらわた」、日本公開は1977年3月です。 西部劇の「ワイルドバンチ」(69)を映画館で見た当時、この血しぶきが上がる銃撃戦で戦争映画を撮ったら凄いのができるのではないか、と思ったのですが、そのサム・ペキンパー監督による初の、唯一の戦争映画が本作品。 原題は「CROSS OF IRON」で、ドイツ軍の勲功章「鉄十字章」の意味だとされているけれど、そうではなくて、そのまま「鉄の十字架」ではないか? 勲章名では「OF」は入らないと思うし、「鉄十字章」にこだわる者たちの墓標を意味するのか、または鉄十字章の背後にある物を象徴したタイトルではないだろうか。 邦題の「戦争のはらわた」も評判良くないけれど、私はけっこう内容をうまく表した題名だと思います。戦争の内面、その「はらわた」ですね。 第二次大戦の東部戦線。その最前線でドイツ軍とソ連軍が対峙している。 ジェームズ・コバーン演じる主人公のシュタイナー軍曹はドイツ兵です。 1977年の西側国が作った戦争映画でドイツ軍が主役というのはひじょうにめずらしい。監督がサム・ペキンパーとなれば、ありふれた戦争アクションではない、ということか。 偵察小隊の腕利きの軍曹。彼と深い絆で結ばれた戦友たち。そこへ新たに赴任してきた中隊長(マクシミリアン・シェル)は貴族出身の大尉。彼は鉄十字章欲しさに、そのような勲功をたてる器でもないのに名誉心ばかりが強く醜悪な行動をとる。 この中隊長と、将校を軽蔑している主人公の軍曹が対立します。 鉄十字章獲得の邪魔になる軍曹を目の仇にする中隊長は、ソ連軍の総攻撃がおこなわれ味方が撤退する際に、彼らを敵中に置き去りにする。 ジェームズ・コバーンさんは名脇役として印象に残るスターですが、主役となるとパッとしない作品が多い。そんな主演作のなかではこの「戦争のはらわた」がもっとも成功していますね。 軍曹から曹長に昇進になっても喜ばない。将校を軽蔑し、昇進なぞ望んでいない。戦うことだけが義務だと思っているような男です。 負傷して後送された病院で、きれいな看護婦さんに世話されて、彼女がこのまま私と一緒に長期自宅療養しようと言うのを黙って断り、早々に前線に戻ってくる。 最前線の、仲間たちがいる戦場こそが自分の居場所だと思っているような、そんな武骨な男です。 ながらく廃盤になっていた作品で、1498円でブルーレイが発売され、それを見ました。 気になったのは、字幕で何度か出てくる「連隊司令部」という言い方で、この場合は「連隊本部」とすべきだ。「司令部」が置かれるのは旅団以上であり、連隊から以下の大隊、中隊の指揮所は「本部」です。全体に、日常会話としても不自然な言い方が目立ち、もう少し自然な翻訳ができないものかと不満が残ります。 このブルーレイソフト、名作だし画質は上々なのに字幕翻訳などの仕様がいまひとつです。せめて日本語吹替音声でも入っていれば。
2013年12月02日
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1958年の外国映画興行成績です。 金額は配給収入。1位 「十戒」 3億5550万円 2位 「バイキング」 1億4639万 3位 「大いなる西部」 1億4553万円4位 「野ばら」 1億4542万円 5位 「愛情の花咲く樹」 1億2811万 6位 「眼下の敵」 1億1542万 7位 「百獣の王ライオン」 1億1387万 8位 「若き獅子たち」 1億1218万 9位 「武器よさらば」 1億244万 10位 「ゴーストタウンの決斗」 9797万円 第9位の「武器よさらば」はアーネスト・ヘミングウェイの、有名な戦争小説を映画化したものです。ヘミングウェイの映画化となれば、観客が入って当然かもしれない。「武器よさらば」(1957) 日本公開1958年4月。 (原題 A FAREWELL TO ARMS)製作 デヴィッド・O・セルズニック監督 チャールズ・ヴィダー脚本 ベン・ヘクト撮影 オズワルド・モリス ずっと昔にテレビのNHKで放送したのを見て以来、数十年?ぶりにDVDで再見したのですが、この映画はお世辞にも褒められません。 第一次大戦の北イタリアを舞台に、アメリカ赤十字の傷病兵搬送車部隊のフレドリック・ヘンリー中尉(ロック・ハドソン)という青年が主人公。 前線で負傷し、イギリス人看護婦キャサリンと熱烈な恋愛をする。 傷が回復したフレドリックは最前線に復帰するがイタリア軍は退却し、その敗走を敵前逃亡と見なされ、憲兵に銃殺されそうになるところを脱走する。 キャサリンと再会したフレドリックは二人でスイスへ逃れるが・・・。 YouTubにある「武器よさらば」(57)予告編です。 ヘミングウェイの原作小説は傑作なのに、その原作をまったく生かし切れていないのはいったいどうしたことか? 脚本のベン・ヘクト、撮影のオズワルド・モリス、共に名手のはず。とくに撮影がすばらしく、北イタリアの雪を戴いた山岳地方の風景は絵画のように美しい。その撮影が物語の進行上あまり役に立っていない感じがします。 この映画がつまらないのは、もしかすると、ヒロインの看護婦キャサリンを演じるジェニファー・ジョーンズさんの(失礼ですが)魅力のなさと演技力?のなさが原因かと。 個人的趣味の問題というだけかもしれないけれど、もしも他の清楚で可憐な女優さんが演じていたら、もっと違った印象になったのではないかと。 しかし、キャサリン役を他の女優が演じることは、この映画に関しては絶対にあり得ないことですね。なにしろジェニファー・ジョーンズさんは製作者のデヴィッド・O・セルズニックの愛妻(スキャンダルまみれの元愛人)で、彼女のために撮った映画だから。 そんなわけで、見ていて、もう少し何とかならないかと思うような、惜しい映画でもあるようです。
2013年11月29日
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ドイツ軍が登場する映画では必ず見られるエルマ・ベルケ(俗称シュマイザー)MP40ですが、イギリス軍が登場する映画で必ず見られるのがステンガンです。 1940年5月フランスで敗退したイギリス軍がダンケルクから英本土に撤退しました。そのさい装備をフランスに遺棄したことで、イギリス軍は早急に大量の銃器を生産する必要に迫られました。 構造が簡単で大量生産しやすい銃が求められ、短機関銃(サブマシンガン)のステンガンが開発されることになる。 1941年に制式採用されたステンガンはMkIからMk VIまで6種類のバリエーションがあり、最も多く造られたのがMk IIで、1945年までのあいだに375万挺も生産されたそうです。 水道管のパイプにプレス加工の部品をくっつけたような格好の短機関銃。 町の小さな工場でも製造できるような簡単な構造と外見をしています。「STEN」の「S」と「T」は設計技師のレジナルド・シェファードとハロルド・タービンの頭文字と、製造会社のエンフィールド社の「EN」を合わせた名称です。全長 762ミリ重量 3キログラム使用弾薬 9ミリパラベラム弾装弾数 32発(着脱式箱形弾倉) 英軍だけでなく、欧州各地のドイツ軍に占領された国の地下抵抗組織(レジスタンス)への供給品として、イギリス軍が夜間に輸送機や爆撃機から弾薬といっしょに落下傘を着けて投下したそうです。 映画では、よく知られた作品では「史上最大の作戦」(62)、「鷲は舞いおりた」(76)、「暁の七人」(75)、「遠すぎた橋」(77)など。「史上最大の作戦」では、夜間にグライダーで敵地に強行着陸して、上陸部隊の内陸進出に必要な橋梁確保をめざすイギリス軍コマンド隊が使っています。 1965年のスパイ・アクション映画「殺しの免許証(ライセンス)」では、主人公チャールズ・バイン(トム・アダムス)を待ち伏せた敵が持っていました。「女王陛下の007」(69)でもアルプス山上のスペクター基地を急襲する時に使われていたし、イギリス映画の短機関銃といえば、やはりステンガンが筆頭ですね。
2013年11月27日
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2008年のアメリカ・台湾・日本・中国合作映画「レッドクリフ」。 原題「赤壁 RED CLIFF:」で、「PART I」が2008年11月、「Part II」が2009年4月に日本公開されました。 地名の「赤壁」を「レッドクリフ」と言っていいものか? は疑問があるところだけれど「Part II」に「未来への最終決戦」とサブタイトルが付いているのは意味不明ですね。「三国志」において「赤壁の戦い」は最終決戦ではないはずです。 漢王朝が衰退し、北方を平定して勢力を伸ばした曹操が朝廷を操り、「丞相」の位に着いて権力を我が物にしている。 曹操の次の目標は江南で、荊州討伐の軍を起こす。この時、荊州の劉表が病死し、あとを継いだ劉そう(漢字表示できず)が曹操の威勢を恐れて荊州を無血開城してしまう。 荊州の強力な水軍を手に入れた曹操は、その勢いを駆って江東の呉をも平定しようとする。 曹操の天下支配の野望の前に、荊州を逃れた劉備玄徳が呉の孫権が同盟して立ちふさがる。 80万人の兵と2000隻の軍船を率いて長江を南下してくる曹操軍の大軍を、赤壁で待ち受ける劉備と孫権の連合軍。 野戦と水上戦、攻城戦が展開し、軍師諸葛亮孔明の奇策と、呉の大都督周瑜との友情、周瑜と小蕎との夫婦愛。獅子奮迅の働きをする関羽、張飛、趙雲。孔明と孫権の間を取り持つ魯粛。小蕎と孫権の妹、尚香たち女性の活躍。 三国志の熱烈ファンは完璧を求めすぎるのか、彼らには評判がイマイチ良くないようだけれど、私は大いに楽しんで見ました。「三国志」の映画化としてはこれは良くできていると思うし、出演者も魅力があります。野戦や攻城戦の大スケールと迫力はこれで充分に満足です。「女がでしゃばりすぎる」とか、「恋愛は不要」だとか、「話が三国志と違う」とか、いろんな不評があるようで、でもこれは小説やゲームとはちがうし、映画にするには映画オリジナルの見せ場を入れなければならないはずで、それにはヒロインの活躍も重要なはずです。 そもそもが「三国志演義」は小説であり、史実とはちがったフィクションが盛り込まれている。それを映画化したものに対して、史実がどうの、このシーンは嘘だ、とか言うのはまったくの的外れであり、ナンセンスな意見です。 映画「レッドクリフ」は近年の歴史活劇戦争映画としては一級品だと思います。 ラストで曹操を見逃す場面が特に不評なようですが、原作でも史実でもここで曹操の生命を絶ってはいないし、もしも曹操を滅ぼしてしまえば、今度は劉備と孫権が敵対することになります。 この時点での劉備は孫権の呉に勝てる勢力をもっていない。なのでここでは曹操を生かしておくことでバランスを保たせる、ということでしょう。
2013年09月28日
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