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昭和二十三年の本。「南海の太陽児」と同じく秘境冒険小説であるにもかかわらず、作者が違うとはいえ、何たる様変わりだろう。誘拐された博士の足取りをたどって、主人公の少年たち一行が行きついた先は、南海の秘境だった。そこを支配していたのは蜘蛛とクモザルを合わせたような霊長類で、どうも世界を支配すべく、「頭脳」をさらってきたものらしい。よくよく読んでいくと、透明な巨人の皇帝がいて、幽閉されていた。皇帝は海神(ポセイドンのことかな)の息子で、ひそかに父親と連絡を取ろうとしたのだが、かなわず、そこへ海神からの遣いというふれこみでやってきたのが少年たち御一行だったから、皇帝を幽閉した方はヤバいとばかり立ち回り、逆に皇帝はおお、と期待していたりするのだが、なにぶん本物ではないものだからどことなくコミカルである。とはいっても、物語の構成と完成度において「南海の太陽児」には及ぶべくもなく、バロウズやハガードの秘境ものの雰囲気だけが売りの、大人になって初めて読むには少々辛いお話であった。【中古】 少年小説大系(第18巻) 少年SF傑作集 /月路行客(著者),會津信吾(編者),横田順彌(編者),尾崎秀樹 【中古】afb
2021.03.17
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昭和15年~16年にかけて書かれた海洋秘境冒険小説。主人公の少年には父親がいない。いやいたのだが、十七年前に亡くなってしまった。それも日本ではない。蘭印(オランダ領インドネシア)のどこかの島で亡くなったのだ。その島というのは不思議な島で、中世、倭寇の時代からの日本人の子孫が住み着いているらしい。天然の要害に守られて、よそ者はなかなか入って来れない。唯一の例外が主人公の父親だった。こう書くと、何だか『ワンピース』のワノ国のようだが、彼らにそんな気概はない。要害に守られて敵は来ないものと決めつけ、太平楽の平和ボケを決め込んでいる者が大半である。だが、欧米列強の触手はここにも伸びていた。この秘境にどうやら石油資源のある事を嗅ぎつけ、わがものにしようと画策、暗躍しているらしい。そこへ、父の愛した国の危機とばかりに主人公たち一行が彼らと対峙し…時局を反映してわかりやすい構図である。鬼畜米英、とは一言も言っていないが、このような物語なら、検閲されることもなく通ったであろう。もっとも今日読んでそんなにプロパガンダ臭があるわけではない。同胞を敵味方にして弱ったところを乗っ取るのが白人たちのいつもの手だ、みたいな記述はあるが、これはまことにその通りだと思う。だから戦後に書かれていたら、間違いなくGHQに検閲されていたはずだ。何が表現の自由なものか。名前は確か龍太郎というのだが、この少年、大変モテる。そのために生じるメロドラマとその結末が、このお話の白眉である。さすが横溝正史だと思った。【中古】 少年小説大系(第18巻) 少年SF傑作集 /月路行客(著者),會津信吾(編者),横田順彌(編者),尾崎秀樹 【中古】afb
2021.03.16
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これは正真正銘の子ども向け小説。タイトルを読むと「奇跡を起こした男」のような話かと思うが、途中から博士の研究を盗む国際スパイ団の話になってしまうのが興ざめ。昭和5年という時局を反映したものであり、また作者も「子どもの科学」のコンテストに応募したアマチュアだと考えられるので、致し方ないと言えばそれまでであるが。【中古】 少年小説大系(第18巻) 少年SF傑作集 /月路行客(著者),會津信吾(編者),横田順彌(編者),尾崎秀樹 【中古】afb
2021.03.10
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SFというより、宇宙旅行の形を借りた科学的啓蒙小説。大正15年作だから、今からおよそ1世紀前の作品であり、太陽系が銀河系の中心にあるとか、冥王星の記述がないとか些末な点をのぞけば、十分現在でも啓蒙的である。もっとも現代の読者はもっと最近の科学書を読めば事足りるので、興味を引くのは天の川の織姫彦星の話うんぬんよりも、むしろ金星火星の話の方である。金星が地球の始生代に当たるという話は勿論現在では間違いであるが書かれた当時はまじめだったのだろう。また、惑星のテラフォーマー計画を考えるとき、金星が格好のモデルであることは現在でも変わらないことを考えると、なかなか示唆に富んだ描写かもしれないと思う。もっとも興味深いのは火星探訪のくだりだろう。ここで一行は火星人に遭遇する。火星人たちはとても友好的で、この斜陽の惑星でいかに科学力を駆使し、原子力を平和利用し、高度な文明社会を維持しているかを地球人に開陳する。そこは一種のユートピアであった。キャラクターに人間味が感じられないのが、小説としては最大の欠点である。【中古】 少年小説大系(第18巻) 少年SF傑作集 /月路行客(著者),會津信吾(編者),横田順彌(編者),尾崎秀樹 【中古】afb
2021.03.09
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作者は市井のアマチュア考古学者らしく、日本列島に元から住んでいたのはアイヌかコロボックルかという当時の論争を踏まえた小説である。コロボックル派の著者は、大和民族に圧されて北へ北へと追われていくコロボックルの姿を、架空の敗北のヒーローになぞらえて、哀切極まりなく描き出している。平家物語の平家一族あるいは義経記の義経かくあらんという感じもする。特筆すべきは空想の物語に注釈がついていて、その注釈がまたいかにももっともらしい。だが今日ではチャーチワードの著作と同じく、学問的には全く価値がない。疑似科学的と言えないこともないので、ここに分類した次第である。【中古】 少年小説大系(第18巻) 少年SF傑作集 /月路行客(著者),會津信吾(編者),横田順彌(編者),尾崎秀樹 【中古】afb
2020.04.24
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年齢的に、ジュブナイルというより今日でいうヤング・アダルト向けの小説だが、もちろん明治の世にそんな言葉はない。内容的にはおそらく『海底二万里』の影響を受けたと思われるが、もっと通俗的である。一言に要約すれば太平洋の海底を横断したという話で、大蛇の上に乗ったりアカエイの上に乗ったり、二度あることは三度あるでちっとも懲りないことやあれやれ、という感じ。ささやかな恋物語もあるけれども、なあなんともじれったい。興味深い下りとしては、・日本の文明は幼稚だが、米国少しも恐れるに足りず、ただ軍資金だけは閉口だ。・米国帰りというだけで飯が食えるのが情けない、きざなスタイルばかり覚えてどうする・世界の海国日本は昔から海賊の経歴がたくさんある・榎本武揚が海賊になれば、今ごろブラジルに徳川共和国だ・軍備を充実するのhすなわち平和の保障・日米いよいよ戦わばいずれが多く利益を失うか、向こうが兵士を二人出せば、こちらは三人…などなど、このような趣旨の言葉が登場人物の口を借りて語られている箇所であり、日露戦争に勝利して高揚している国民の意識を感じるものの、のちの歴史と合わせて鑑みれば、果たしてどうか。夢破れて山河あり、時の流れは残酷である。【中古】 少年小説大系(第18巻) 少年SF傑作集 /月路行客(著者),會津信吾(編者),横田順彌(編者),尾崎秀樹 【中古】afb
2020.04.17
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タイトルは「日本革命的共産主義者同盟」のもじりで、そういう時代に書かれた、平井和正にしては珍しいハチャメチャSF。何しろ平井和正と言えば「ウルフガイ」か「幻魔大戦」かというお人である。個人的には、そのどちらにも属さない単行本や短編集の方が哀愁があってすきなのだが、それももう昭和の話だ。平成の末世に、電子書籍で発行されていようとは思わなかった。確かに一度読んだら忘れられない毒のある本だが、いわゆる「差別用語」もそのまま載っているのだろうか。エピローグは見事だと今読んでも思う。【中古】 超革命的中学生集団 / 平井 和正 / KADOKAWA [文庫]【メール便送料無料】超革命的中学生集団【電子書籍】[ 平井和正 ]
2019.02.15
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ロボットが無人島に漂着した。他にも「仲間」がいたが、海の底か、壊れて浜辺に流れついたかで、無事だったのはたった一体だけ。ラッコたちが好奇心からボタンを押して、「彼女」は目覚めた。ロボットに性別はないのだけれど、ひょんなことから、野生のガンの母親になったので。実は親鳥が死んだのはそのロボットの過失致死なので、人間ならロボットを憎んでも仕方ないような状況だけど、卵から孵って最初に見たのがそのロボットで、刷り込みされちゃったから。動物たちの楽園で、ロボットはとても孤独だった。それが図らずも「母親」になってから、少しずつみんなの見る目も変わってくる。仲間ができる。そんなある日。野生のロボットを狩りに、ロボットたちがやってきた。動物たちとロボットは一致団結して、彼らを撃退、やっつけた。でも野生のロボットも、動物たちの手に負えないくらい、深手を負ってしまった。そこで「彼女」が下した決断は――「●●は、こうあるべきだ」という固定観念に抗うすべての人に読んでほしい本。野生のロボット 世界傑作童話シリーズ / ピーター・ブラウン (作家) 【本】
2018.11.26
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カナダの作家さんである。ケベック州だからフランス語だ。カナダ児童文学賞を受賞されたそうである。といっても、もう半世紀以上前の話だ。時代は31世紀。破滅的な大戦争から千年後の世界である。主人公の少年は地底都市で暮らしている。彼らは男も女もみなつるっぱげである。とくれば誰しも『続 猿の惑星』を連想する。【クリーニング・研磨・ケース入替済】【今なら着後レビューを書いて次回3%割引クーポン配布中!】続 猿の惑星 「猿の惑星」第2弾【DVD】チャールトン・ヘストン ジェームズ・フランシスカス リンダ・ハリソン モーリス・エバンス キム・ハンター ロディ・マ[DVD] 続 猿の惑星<テレビ吹替音声収録>HDリマスター版::映画プレス [続猿の惑星] 初版 劇場用非買プレスシート確かに設定的には似たところがある――だが映画と違って人々はかなり友好的だ。地上に住む人々は神を信じる素朴な生活をしている。原始キリスト教の共同体のようである。ただ伝染病に弱い。ワクチンがないからである。そこへ好奇心旺盛なわれらが主人公が地底から地上に顔を出し…。というわけで、上記の映画と違って、悪意は地上からはやってこない。地底都市を悩ませるのは彼らが予想だにしなかったもうひとつの地底都市だった。物語的にその辺をもう少しふくらませた方が、より完成度の高い作品に仕上がっただろうと思うのだが、墓の下の作者に言っても詮ないことだ。墓と言えば、地底都市の少年の一人がこんな詩を作っている。最後に紹介して筆を擱こう(児童文学の翻訳のため、もとの日本語はひらがなが多いが、適宜漢字に変換した。悪しからず)。君はいる。君はいつでもそこにいる。ぼくもまた、そこにいる。が、けっして出ることはできない。ぼくはそこにいる――誰が、ぼくを連れ出してくれるだろう?ぼくは、そこにいつまでも、とどまっていなければならばいのだろう、なぜって、ぼくの墓があるのだから。
2016.08.24
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アメリカでもっともすぐれた作品に与えられる児童文学賞、ニューベリー賞に輝いたファミリーSF。といっても半世紀以上前の話である。コンピュータがテープ式でいかにも古臭いし、大人がノスタルジーで読むならまだしも、今どきの子どもが手にとってみる代物ではないだろう。五次元運動とか時間のしわとか異星人とかじゃなくて、ファンタジーにしてしまえばもっと長く生きられたかもしれないのに。
2016.08.12
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分類に迷ったけど、主要登場人物が19~20歳であることと、作者十代の作ということでジュブナイルに。まあ、内容的にはあれだ、5レンジャーならぬ6レンジャーが活躍して、地球の命運を左右する戦争を阻止し、あまつさえ…というやつで、『ほら男爵』の末裔ともいえそうな冒険譚。まあ『あたしの中の・・・』に次ぐ第2作にしてはよくできていると思う。いい大人が読むと、多少気恥ずかしいシーンが多々あるにせよ。それにしてもオチが独我論まがいとはねえ…【新品】【2500円以上購入で送料無料】【新品】【本】【2500円以上購入で送料無料】いつか猫になる日まで 新井素子/著
2014.01.30
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子供たちは秘密を拾い、大人たちは秘密を探し、秘密は高度二万に潜む。人々はそれを裏切って、子供は戻れぬ道を進み、誰も彼もが未来に惑う。混沌は不意に訪れるも、秩序の戻る兆しはそこ、最後に救われるのは誰か。多分、著者の「SF」としては最高傑作。クライマックスの対決シーンまでのもって行き方も見事なら、フェイクの瞬への果てしなき「愛情」は涙を誘わずにいられない。デビュー二作目にしてこんな物語が紡ぎだせる作者の才能には驚嘆するばかりである。なお、主たる主人公が未成年なのでジュブナイルとしたが、普通にSFの範疇に入れてもおかしくない作品だと思う。 【中古】afb【古本】空の中/有川浩
2013.11.05
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高等教育を受けるためローエル・アカデミーの寄宿舎に入ったジムとフランクは、火星カンパニーの悪辣な計画を偶然耳にする。親に知らせるべくぬけだして、極寒の火星の荒野を逃避行。地下に住む火星人の力を借りて、やっと家にたどり着いた二人の口から計画を聞いた開拓者たちは憤った。銃をとって立ち上がるが、カンパニー側の対応も素早く、決起隊は学校の建物に追い込まれ、包囲されてしまう。果たして局面を打開する策はあるか?…てなもんだ。ハインラインのことだ、もちろん策はある。ジュブナイルというふれこみだが、後半3分の1は大人たちの物語、といってもいいだろう。鍵を握るのはウィリスと火星人。惜しむらくは最終章がやや性急な感じがすることか。処分本No249。《東京創元社創元推理文庫》R.A.ハインライン 山田順子訳レッド・プラネット 【中古】afb
2013.10.15
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『月は無慈悲な夜の女王』のジュブナイル版後日譚。といっても、月が地球から独立した時まだ子供だったヘイゼルが、双子の主人公カスターとポルックスの祖母というだけの話で、それ以上のつながりはありません。上記の他に、おませな姉君ミード、テレパシストの赤ん坊ローウェル、パパのストーン氏、医学博士の妻イーディスが家族全員。たくましいヘイゼルばあさんはさしずめドクター・くれは。ワンピース ONE PIECE 組立式ワールドコレクタブルフィギュア Vol.13 ドクトリーヌ・くれはジュブナイルなので主人公はあくまで双子たちですが、彼女の存在感が物語の屋台骨を支えています。双子の提案で家族は宇宙に出ることになります。行先は火星、それから成り行きで小惑星帯。目的は? 一応商売。ところがやることなすことうまくいかないんですね。自転車の販売も、フラットキャットの売りつけも。裁判、税金、在庫管理。あげくの果てには双子のミスでヘイゼルばあさん、命を落としそうになりますが、そこはそれ、海千山千のくれは彼女のことですから。さて、言い忘れましたがこの小説、原題は『ローリング・ストーン』。となれば彼らが小惑星帯からどこへ向かったか、ここに書くだけ野暮というものでございます。処分本NO.221。
2012.08.01
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モーリス・ジーは戦後ニュージーランド文学の旗手だったそうで、児童文学も三冊書いています。人間は善か悪だけの存在(ハーフ)ではなく、ミックスの状態で完全なのだ、という東洋的な陰陽思想がテーマになった本書は、一応ジュブナイルSFの形をとっていますが、FictionというよりFantasy、Fable(寓話)に近いものです。それでいて説教くさくないのは、ジブリ映画的な展開のせいでしょうか。廃坑からワープして異星に連れ去られたスーザン。彼女こそ惑星O、ひいては地球を救う救世主でしたが…惑星Oの冒険価格:2,100円(税込、送料別)
2010.08.01
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ハインラインのジュブナイルで唯一未読だった小説。内容は少年版『月は無慈悲な夜の女王』という感じだが、月ではなく金星であり、味方につくのはアイザック・ニュートンである。鍵となるSF的アイディアもさることながら、例によって一種の成長小説となっており、原題に一番近い邦訳は『惑星と惑星の間で』もしくは『太陽系市民』だろうが、これはこれでいいと思う。処分本NO.177。
2010.03.08
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巨匠の傑作ジュブナイルSF。すべての宇宙空間全体を外側から眺められる「超宇宙空間」という思考実験は、大人が読んでも感心させられる。余談だが、本書を再読してあらためて赤方変位について復習することができ、なぜ朝日や夕日が赤く見えるのかもわかったと思う。もっとも、なぜ大きく見えるのかはまだわからないのだが…処分本NO.176。
2010.03.07
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いい意味でのアメリカニズムと青年期の通過儀礼とをうまく組み合わせた佳作。先住民のいない可住惑星という設定は甘いといえば甘いが、ジュブナイルSFならでは、という風にも言えよう。ルナ・ゲートの彼方
2009.09.25
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異星人の侵略テーマSFは数多いが、戦争になると大味のものが多い。だが本書は少年向き小説ではあるが佳作である。成功の原因のひとつは、地球人に味方する異星人の少年を主人公に据えたことだろう。いわば外部から見た客観性が保証されたところで、戦争と平和と自由と統治の問題が語られる。一日本人として戦国時代の天下統一物語を読むような興奮を覚えた。地球人のバイタリティについてはクラークの『太陽系最後の日』を持ち出すまでもなくSFでは使いふるされたテーマだが、そのために一度地球人が滅ぼされたというのは考えさせられる。考えさせられるといえば、銀河系の征服者が「マスターズ人」だというのも暗示的だ。
2009.08.17
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『テミスの無人都市』と同じ少年少女SFシリーズの1巻。質量をエネルギーに変える質量爆弾を製造するためにサイボーグにされた科学者たちも、地球の完全平和で用済みになった。科学者たちは復讐のために土星の衛星チタンで質量爆弾を製造し、地球に落とそうと考える…という、海野十三を現代的にしたような「変格推理小説」としても読めるが、同時にこれは、感情を失ったはずのサイボーグに復讐心が芽生えるというように「人間的」な物語でもある。
2009.08.14
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自分の星に住めなくなった宇宙人が地球に移住してくるという侵略テーマSFのジュブナイル版。元祖の『宇宙戦争』と比べると話のわかる宇宙人だったり、殺すのではなく眠らせたりと年少の読者に配慮して書かれてはいるけれども、過程も結末も元祖をなぞったようで新味がない。というか、そもそもウェルズの『宇宙戦争』は火星人=白人、地球人=有色人種(日本人を除く)というアナロジーの成立するがゆえに文明批評的でもあったのだけれど、本作にはそのカケラもない。何でも業界ではハヤカワ、創元が出てくるまでSFでは食えない、というジンクスがあったそうな。確かに、これじゃあSFが子供だましの物語と言われても仕方なかったろう。昭和31年の翻訳だから大目に見るとしても、「だるま」とか「陣羽織」とか、もとの英語は何だろうと首をかしげるような単語があったり、逆に、陣羽織が出てくるなら「チキンフライ」も唐揚げと訳せばいいじゃないかと思うような表現もあったり…。
2009.08.13
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エジプト人の先祖は宇宙人で、そのころから犬は人類の友だった、という設定が草川さんはことさらお好きらしい。この小説では当初犬やロボット犬が人間を襲ったり家畜化したりするからおや勝手が違うぞ、と思うのだが、主人公たちがシリウスに連れて行かれると、結局それが手違いであったことが判明し、めでたしめでたしのハッピーエンド。
2009.08.09
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テミスは幻の土星の衛星。20世紀初頭に観測されたが、のちに見間違いだとわかったいわくつきの星である。『消えた土星探検隊』では、テミスは消滅したことになっているが、本書では宇宙のどこからか流れてきた人たちがテミスに住みつき、さらに地球へ飛び立ってエジプト人の先祖になったという設定になっている。200年前にいなくなったテミス人がどうして紀元前の地球にたどり着いたのかという根本的な疑問は残るけれども、犬とロボットが競い合うように少年少女たちに奉仕する様子は微笑ましくもある。
2009.08.09
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さすがツィオルコフスキーを生んだお国柄だけあって、ソ連のこの手のSFは科学的というか啓蒙的というか、少年よ宇宙飛行士になれ! という内容の本。その背景には冷戦があって、米ソが宇宙開発競争にしのぎを削っていた影響が本書にもあらわれている。常に「アメリカに勝つ」というスタンスは多少辟易しないでもないけれど、少年向きの本なのでそれほどいやみではない。ただあくまで当時の科学的推測に基づいて書いてあるので、金星の大森林や火星のウサギや凶暴なトカゲについてはご愛嬌。愛嬌といえば、どっかで見たことのある絵のタッチだなあと思ったら、ポプラ社から出ていた昔の怪人20面相シリーズでお世話になった小松崎茂さんの挿絵だった。それにしても、いくら絶版本とはいえこんな本が4500円以上もするのか。馬鹿らしい。
2009.08.08
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某ハンバーガーチェーン店とは何の関係もない夢の話。種明かしをすると、現在の地球人は、実は死につつある遠い惑星からの移民の子孫だったという設定で、ただその死につつある惑星の住民は、全員を移住させるのは危険だと考えた。全滅してしまうかもしれないからだ。また逆に殖民がうまくいったとしても、文明が発達して宇宙船を開発したりすると、母星に向かって反乱し、戦争を起こすかもしれない…そこで彼らが考え出したのが「監視人」制度だ。これは自分の星にいながらにしてテレパシーで地球人を遠隔操作する方法で、経費もかからず経済的だった。しかし星の住環境はますます厳しくなり、人々はますます劣化し…「夢見る宇宙人」とは、かつて地球を夢見た星の先祖と、宇宙を夢見る現在の地球人と、地球を夢見る今の星の若者たちと、いろいろな意味が重ね合わせられていると思う。また、地球と遠い惑星の様子が交互に描かれ、まるで映画を観ているような展開は圧巻である。最後のせりふも、この少年SF文庫を締めくくるにふさわしい。「諸君、夢を見ることはもうできない。夢は終わってしまったのだ」
2009.08.01
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不時着した宇宙船からおりてきたのは異星の少年だった。果たして彼は敵か味方か?映画『E.T.』を先どりしたようなジュブナイルSF。事態はもっと緊迫しているけどね。
2009.07.31
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ウェルズの『タイム・マシン』と諸星の漫画『失楽園』を足してサイバー管理社会体制の風味で味付けしたようなジュブナイルSF。結末はエドモン・クーパーの『アンドロイド』に近いか。サイボーグのベンが『残された人々』(『未来少年コナン』の原作)の老科学者のようで痛々しかった。果たしてモーロックとは何であったか?
2009.07.31
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原題は『凍った惑星』。具体的には海王星のこと。あるいは心理的な暗示。土星の外に出て行った探険隊は、なぜかみな気がくるってしまう。そのうちに、土星のこちら側にいてもおかしくなる要人が出始めた。これはいかんと真相究明に乗り出す主人公たち。だがそこには恐るべき陰謀があった…。挿絵はまたもや武部本一郎さん。やっぱりという感じですね。
2009.07.29
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ラジオドラマのノベライゼーション。そのせいか、大人が読んでも堪能できる、おそらくは福島正実さんの最高傑作だと思う。冒頭のパニックから結末の種明かしまで、息もつかせぬ怒涛の展開。核兵器廃絶をモチーフにするあたりはやはり日本SFである。
2009.07.28
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『宇宙の密航少年』と同じ作者のジュブナイルSF。火星に向かうはずが隕石にニアミスして月に不時着。火星では金色クマをペットにしたり、火星熱にかかったり、ドームの空気がもれて危機一髪だったり。ハラハラドキドキワクワク路線は第二部でも継承され、修学旅行の途中で事故に遭い不時着したところでたこの木やゾウアリに襲われたり、火星人の古代都市を発見したりとあきさせない展開だ。ところで挿絵はあの火星シリーズの武部本一郎さん。やっぱり縁があったのでしょうか。
2009.07.25
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密航というより事故でエレベーターに閉じ込められた2少年。あやうく宇宙の人工衛星になりかけるところを、宇宙船のんき号に救われる。さてそれからの冒険と事件と危機一髪。お約束どおりの展開ではあるけれど、少年少女が読めばわくわくすること間違いなし。さあお立会いお立会い…
2009.07.21
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四等航空士ビッグスが乗った宇宙船もおんぼろだったが、デイルが乗船したアルバトロス号も負けず劣らずひどかった。乗組員は出発してから目的地を知らされる。はるか昔に消えた土星探検隊の足跡を追うのだ、と――。山椒魚に似た土星人が出てきたりしてチャペック風かなと思ったら、意外に退廃的だったり。もちろん、青少年はこんな世界から背を向けるだろう。
2009.07.19
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これは今から40年程前に、半世紀後の近未来を描いた海洋SFとして発表されたものだ。残念ながら、悪いほうの「予言」はよくあたっている。乱獲による魚介類の減少、お化けくらげやヒトデの増殖、海水の蒸発を妨げる化学物質…現実の世界では、そのような化学物質はまだ存在しないが、たとえば重油という被膜で覆われた海を想像してみるといいだろう。海水が蒸発しなければ、雲ができない。雲ができなければ、雨が降らない。雨が降らなければ…今後50年、いい方の「予言」だけが当たってくれることを祈りたい。
2009.07.17
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チンパンジーのような、と言って悪ければジョージ・ブッシュとミスター・スポックと江川卓とイチローを掛け合わせて4で割ったような四等航空士ビッグスが船長に出世するまでのドタバタ喜劇。しかもこのビックスのファーストネームがランスロットというのだからとんだ騎士物語である。なおここでいう宇宙人とは宇宙飛行士の意味で、『宇宙人アダム・トロイ』と事情は変わらない。
2009.07.14
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現実の生活にまったく不満のない人などいないだろう。ましてや本書の小説が掲載された中高生の学習雑誌の読者ならなおさらだ。では、もうひとつの現実がすぐそばに見つかったら、あなたはどうしますか? というのがこの3編のテーマだ。「まぼろしのペンフレンド」ペンフレンドの彼女は、実は地球征服をたくらむ無機生命体によって造られたオリジナルタイプのアンドロイドだった。しかしそのアンドロイドは人間の少年に恋してしまい…エドモンド・クーパーの『アンドロイド』を思わせる佳作。「テスト」文学の才能は現実の生活への不満からほとばしることが多い。漱石も、芥川も、太宰もそうだった。小市民的に満足した生活から、永遠の文学は生まれないだろう。「時間戦士」ドラえもんによくあるタイムパラドックステーマの短編。未来の安楽と現実との戦い、あなたならどちらを選びますか?
2009.07.13
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画家と少年少女がある日UFOにさらわれる。さらわれた先にはもう一人文豪とは赤の他人のシェークスピアというおじさんがいた。なんでもかれらを誘拐したのは火星の衛星フォボスで、フォボス自体が生きているロボット星なのだという。まるで999の「好奇心という名の星」で、物語もほとんど同じような結末をたどる。もっともフォボスにあったのは知的好奇心だけで、人間の感情を理解できたかどうかについては疑わしいのだが…
2009.07.11
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『月ロケットの少年』と同じアポロシリーズの一冊。短編集。表題作は、月植民地の地球からの独立を小道具にしていて、なんだか出だしは『月は無慈悲な夜の女王』っぽいが、新型インフルエンザならぬ月インフルエンザが発生したり、月震で原子力発電所がチェルノブイリ化したのを地球人と一緒に直しに行くとか、だんだん毛色が変わってくるあたりはやはりジュブナイル。「月への転校」「SOSセレーヌ号」は表題作と同じ世界設定、「執念」「奇跡の小惑星」は木星付近の話、「金星あらし」「金星からきたロボ」は金星の話、「救助はまだか」はシェイクリイ張りのショートショート。
2009.07.02
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頭上に水爆を落とされた都市。だが幸いにも住民に異常はなかった。その代わり、太陽と地球が滅びつつある百万年後の地球にタイムスリップしてしまった…という設定。ウェルズの『タイム・マシン』の後裔であり、梅図まことの『漂流教室』の先祖のようなSFだが、ここにはモーロックも奇形の地球人の子孫も存在しない。代わりに人々はSOS信号を受けてやってきた宇宙連合の宇宙人に助けられるのである。しかも彼らの多くは、地球人そっくりの顔立ちをしていた。それもそのはず、彼らはとっくの昔に死にかけた故郷を見捨てて銀河に旅立った地球人の子孫だったのだ!どうやっても地球は死んでいく。生き残る道は銀河のどこかの星に引っ越すか、地球がばらばらになる危険を承知で、地熱エネルギーを復活させる爆弾を仕込むか。古代から来た地球人が選んだ道は…もうわかるよね。印象に残ったのは、古代人に協力したのが地球人の子孫ではなくて、熊やこうもり型の知的宇宙人だったということ。故郷って、なんだろう。友情って、なんだろう。正義って、なんだろう。
2009.07.01
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『宇宙の勝利者』に出てくる宇宙人は友好的だったが、本書では、宇宙征服をたくらむゲルン人と地球人との血みどろの戦いが描かれる。といっても、ゲルン人は役に立つ地球人の技術者だけを適格者として奴隷にし、残る不適格者をすべて、熱病と野獣が支配する不毛の惑星ラクナログに星流しにしてしまうのだが…確かに自然は過酷だった。地球の1.5倍の重力。地獄熱、欠乏症、過酷な暑さ、寒さ。狼虎に一角獣。それでも地球人、否ラクナログ人は不屈の精神をもってそれら運命と闘い、野獣と友情を結びあるいは飼いならし、来るべき日に備えた。そして、ついに逆襲の日がやって来た。…
2009.06.27
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理系の技術者が書いたのだろうと思われるプロパーSF。1927年に上梓された。一読して、ジュール・ヴェルヌの路線を踏襲していることがよくわかる作品。月から地球への帰還についてはウェルズの影響も見られるかもしれない。もっとも『冷たい方程式』のゴドウィンなら、ハンスたちがとった密航者の新聞記者に対する処置を、言下に「甘い」と切り捨てるかもしれない。
2009.06.25
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故郷の星の崩壊に際して、宇宙船で脱出した人々が、2000年くらい前の地球にたどり着き、その周りをまわる「人工衛星」になった。場所は弥生時代の日本。宇宙人たちは神々の服装をし、原始地球から宇宙船に必要なウランを採りに「下界」へ時々降りていく…大人が読んでも楽しめるジュブナイル日本SF。ただ欧米人が書けば、キリストの生誕がらみのお話になると思われる。似たようなジャンルの作品としてとしてはマイケル・ムアコックの『この人を見よ』が有名だが、そんな話を書いた人がどこかにいないものだろうか。
2009.06.24
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国語の先生としてはこういう機会に太宰治の書評でもすべきなのだろうが、気力がない。本書は、福島正実が編んだ日本SF短編集である。「遠くはるかに」福島正実版「この世を離れて」。「少女」眉村卓:娘が若いころの父親に会いに行くという、ドラえもんなどでおなじみの設定。「あばよ! 明日の由紀」光瀬龍版『おれがあいつであいつがおれで』。「無抵抗人間」石原藤夫:このひとの「IF」SFはいつも科学的なのだが…。「色盲の町」中尾明:光化学スモッグで一億総色盲になってしまった日本。「わたしたちの愛する星の未来は」北川幸比古:せりふだけで構成され、話者が地球人だか異星人だかわからないように書いているのがミソ。「サイボーグ」矢野徹:サイボーグはサイボーグの哀しみを知る。「白いラプソディ」福島正実:過去の事件を変えてしまったら、その事件がなかったことになってしまい…やはりドラえもんによくある設定。「ぼくたちは見た!」眉村卓流『作戦NACL』だがもっと深刻。「悪魔の国から来た少女」福島正実:『オッド・ジョン』を連想させつつ、普通人と超人の恋愛でめでたしめでたしとなるジュブナイル。
2009.06.19
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アポロ11号の月着陸に刺激された福島正実責任編集のアポロ・シリーズの一巻。人類が月に着陸する前にすでに地球に照準を定めた火星人が前線基地を造っていた…という設定はややクラシカルで、筆致もSFというより空想科学小説と言った方が適切なくらいだけれど、昭和40年代の少年向きの翻訳読み物としては価値があったろうと思われる。なお、著者は『宇宙人アダム・トロイ』のパチェットで、火星人はタコではなく鳥人である。もっとも空は飛べないらしいが。
2009.06.18
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核戦争で世界中の文明が滅びた500年後の社会。簡単に言えば『北斗の拳』の環境設定を思い浮かべればよい。もっともモチーフはハインラインの『宇宙の孤児』に近い。科学は人を不幸せにした。けれども科学は闇ばかりではない。福音であり、光でもあるのだ、というテーマ。
2009.06.16
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ラッキー・スターシリーズのひとつ。多分シリーズの初期に属するもので、シリウス人が悪役候補として「登場」するものの、真犯人は別にいた、というお話。大人が読むと例によって途中で真犯人の見当がついてしまうが、熱を食べる水星の生き物や、ロボットと人間の知恵比べなど、今読んでも楽しめる個所も少なくない。ただ、SFというより空想科学小説という感じの読み物ではある。
2009.06.15
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『太陽系の侵入者』と同じシリーズに属する作品。敵はまたもやシリウス人。地球の宇宙航法の技術を盗むべく、スパイを送りこむ。どうやらスパイがロボットであることはわかったが、いったい誰が該当者なのか?ミステリ仕立てを好むアシモフらしいジュブナイル。あいにく「盲点」が見え見えなので大人の読者には「誰」がスパイでロボットだか途中で見当がついてしまうのだが、それでもよくできていることに変わりない。
2009.06.14
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侵略テーマSFのジュブナイル。NACLというのは化学式で、塩化ナトリウムのこと。塩に弱いといえばナメクジ型宇宙人を連想してしまうが、作者がハインラインの『人形つかい』の影響を受けたのかどうかは、よくわからない。
2009.06.13
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つらいことやいやなことがあるとSFに逃避するのが不具の習慣である。マンモスの牙を友人と採りに行った少年が、遭難して眠ってしまい、目が覚めたらそこは50年後の世界だった、というお話。ヴェルヌばりのなかなかリアルな科学小説だが、現実のソビエトがこの本が書かれて半世紀も経たないうちに崩壊してしまったのは皮肉である。また、一昔前の漫画によくあった「夢オチ」というのも安易な結末だと思う。まあ戦前の子供向けSFにけちをつけても仕方ないけれども。
2009.06.12
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接触テーマSFの佳作。百万倍の競争率を突破して宇宙への留学生に選ばれた三人の地球人の少年少女。ところが宇宙船が故障してしまい、未知の惑星へ不時着。だが、実はこれは仕組まれた試験だったのだ。地球の15世紀程度の文明の星に、3つの知的種族がそれぞれ生活している。だが近頃このバランスに微妙な影響が出てきたらしい。果たして三人はこの星の「将来」のために、介入をするべきか否か。さて、留学生たちが出した「答え」は?そしてそれは「正解」だったのか?正解は、自分で読んで確かめられてください。
2009.06.07
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未来の地球は、再び訪れた氷河期のために氷づけにされていた。ニューヨークの地下市民たちは何とか地下ロンドンと連絡をつけようとして反逆罪に問われ、地上に追放されてしまう。一同は氷の上を橇で滑ってロンドンまで行こうとするが、行く手は無人の世界ではなかった。敵意に満ちた白人族がゾロゾロでてくる。おまけに苦労してたどり着いたロンドンの市民たちも、友好的というには程遠かった。…結末の味気無さを除けば、まあまあ楽しめるジュブナイルSFではある。たとえ地球破滅テーマの作品であっても、ハッピーエンドで終わってほしいものだから。
2009.06.04
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