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囈語山村暮鳥窃盗金魚強盜喇叭恐喝胡弓賭博ねこ詐欺更紗涜職天鵞絨姦淫林檎傷害雲雀殺人ちゆりつぷ堕胎陰影騷擾ゆき放火まるめろ誘拐かすてえら。人を食ったような詩ですが、山村暮鳥は結構前衛的な詩を書いています。「げいご」と題したこの作品も、彼の手によるものと聞かされれば、なるほどと思ってしまいます。「発見」では、浅学にして不具がそれまで知らなかった詩作品の中から、へえっと感心したものばかりをその都度紹介してきました。この詩も、『悪人の物語』というアンソロジーの冒頭にあったのを、たまたま見つけたのでした。余計な解説は野暮なことを承知で、ひとつだけ。日本語の文法では、「窃盗金魚」と書くと金魚が窃盗をしたことになります。つまり下手人は金魚というわけです。以下同様。するとこの詩は非常に奇妙な味の作品となるわけで、何じゃアこりゃあと思いつつ、目をそらすことができない。そんな不思議な魅力があります。【中古】 中学生までに読んでおきたい日本文学(1) 悪人の物語 /松田哲夫【編】 【中古】afb
2020.05.28
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「たそがれ ――私の自画像 」趙炳華(チョウピョンファ)捨てるべきものは捨ててきました捨ててはいけないものまで捨てて来ましたそして御覧のとうりです『韓国現代詩選』より。1990年の本です。当時は心に響くものがありませんでした。2400円も出して買っただけあって、不満たらたらでした。若かったのでしょう。今こうして書棚の奥からとりだしてみると、不満がないでもありません。でもそれは、日本語と文法的に近い韓国語の、それでも日本語に翻訳したときに感じる祖語の問題であって、詩自体にそんなに問題はないだろうと。「恨」を感じる詩作品が多いとは思いますが――。その中でこの人は飄々としていました。「とおり」が正しいのですがここは編訳者の茨木のり子さんの表記のとうりに。短いだけに、想像力を掻き立てられる一篇です。
2019.08.31
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「狐女子高生」文月悠光つむぎたいのは、その不規則な体温。手肌をつらぬく つむじ風。プロセスは机の隅に押しやって唇に海を満たす、吐く。たおやかに 狂いだす血潮。この学校ができる前はねここで狐を育ててたんだって。そう告げて、振り向いたあの子の唇は、とっても青い狐火だったね 覚えてる。(狐女子高生、養狐場で九尾を振り回す。(狐女子高生、スカートを折る。(短きゃなお良い至上主義。(十八歳は成人である由、聞きつけて(選挙に行った受験生。(単語帳の陰から盗み見立候補者、(あいつ尻尾がないぜ。(ごまかすね、襟巻き税。はじめからあらゆる脈絡と絶交していたけれどついに教室の窓を叩き割り、夕陽の破片を左胸に食い込ませる/深々と!鼓動が血に濡れているなんていつ どこで だれが決めたの。わだかまる窓という窓を吹き飛ばしたら、カーテンだけが私の翻る顔になった。壁に抱きついたまま、風を装い、”私”は踊る。ネクタイ結んであげる、の一声で化かされる新卒教師はものたりない。おかげで停学処分を免れて、青い口紅 倒れたほうへいらんかね いらんかね油揚げを売り歩く放課後。最後の一行が笑いを誘いますが、そこに至るプロセスはアルチュール・ランボーの詩を思い起こさせます。若さゆえの怒りの詩にこれほどまでに惹かれるのは、鑑賞している当人が、すでに失ってしまった若さに、郷愁を感じているせいでしょうか。二度と再び見ることのない故郷に。大人になるまでに読みたい15歳の詩 6
2019.08.29
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「動物園の珍しい動物」天野忠セネガルの動物園に珍しい動物がきた「人嫌い」と貼札が出た背中を見せてその動物は椅子にかけていたじいっと天井をみてばかりいた一日中そうしていた夜になって動物園の客が帰ると「人嫌い」は内から鍵をはずしソッと家へ帰って行った朝は客の来る前に来て内から鍵をかけた「人嫌い」は背中を見せて椅子にかけじいっと青天井を見てばかりいた一日中そうしていた昼食は奥さんがミルクとパンを差し入れた雨の日はコーモリ傘をもってきた。最後に句点があるということは物語ということです。ばかばかしいお話のようですが、なぜ「上野」ではなく「セネガル」なのか。セネガルはどんな国で何の象徴なのか。考えさせられる詩です。最後の二行から、「人嫌い」が単なる変人ではなく、奥さんという協力者がいることが分かります。動物園だって、「人嫌い」を追い出さないわけですから、協力者です。ということはこれは抗議行動なのかもしれません。セネガルは独立以来安定した国のようですので、この抗議行動は外の世界に向けられたものかもしれません。いや、日本だって独立以来おおむね政情は安定していますから、やはり国内に向けたものだと考えることもできます。「天井」は人間が作った高みの限界、すなわち現実。「青天井」は神の定めたもうた果てなき限界、すなわち理想。ということでしょうか。それとも、「おっとせい」(金子光晴)かな?大人になるまでに読みたい15歳の詩 6
2019.08.27
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「企て」池井昌樹さんぐらすしているとはいえあぶないものではありませんちかごろめっきりめがよわりますくをつけているとはいえあやしいものではありませんかふんにまいっているだけでこのずたぶくろのなかですかこれはおひるのおむすびですふしんなものなどなにひとつわたしはこれからつとめにでかけよもふけまさるころかえってくるただそれだけのじいさんなのにそれでもあぶないあやしいとそれほどいぶかしまれるならあなたへこっそりうちあけるばすつくまでのつかのまにほんとうはこんなあぶないくわだてをそれがなにかはいえないけれどほんとうにこんなあやしいたくらみをたったいまあなたへおめにかけましょうささやかなこのことのはで笑いながら思わず引き込まれてしまう詩です。この物語にはいかなる結末が待っているのでしょうか、いないのでしょうか。想像力をかき立てられます。大人になるまでに読みたい15歳の詩 6
2019.08.25
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「鴨」会田綱雄鴨にはなるなとあのとき鴨は言ったかノオ羽をむしり毛を焼き肉をあぶって食いちらしたおれたちがくちびるをなめなめゆうもやの立ちこめてきた沼のほとりからひきあげようとしたときだ「まだまだ 骨がしゃぶれるよ」おれたちはふりかえり鴨の笑いと光る龍骨を見たコワい詩です。鴨と言えば鴨葱の鴨。鴨にしたつもりが…そんな馬鹿な、と思う向きは、たとえば殉教者の歴史を紐解くがよろし。一つの解釈。大人になるまでに読みたい15歳の詩 6
2019.08.23
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「喫茶店で」吉原幸子だまってゐないとき わらってゐるがだまってゐるとき とてもかなしさうだ何でもない 壁とか コップみたいなものをとてもかなしさうに みてゐる疲れてしまった黒レースのカーテンをゆする 遠い風だ切れかけてまたたく 蛍光燈のやうに音たてて 一生けんめい 生きてゐるもう少し もう少し とでも時を 費ひはたした肝ざうを 費ひはたしたお金を 手足を 乳母車のしゃしんを失くした何故 こころがこころだけがまだ のこってゐるのだらう小さなさいふのなかに 最後に吉原さんの詩を最初にこのブログで紹介したのは、ずっと以前でした。今回また紹介するとは思っていませんでしたが、それだけ自分が衰えてきた、疲れやすくなってきた、老いてきた、ということなのだろう、と思います。◆◆大人になるまでに読みたい15歳の詩 6 / ゆまに書房
2019.08.21
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「着物」石垣りん犬に着物をきせるのはよいことではありません。犬に着物をきせるのはわるいことでもありません。犬に着物をきせるのはさしあたってコッケイです。人間が着物をきることはコッケイではありません。古い習慣古い歴史人間が犬に着物をきせたときはじめて着物がみえてくる着せきれない部分が見えてくる。からだに合わせてこしらえた合わせきれない獣のつじつま。そのオカシサの首に鎖をつけて気どりながら引かれてゆくのは人間です。------------------犬に服を着せて歩く人は珍しくなくなりました。そういう人は、この詩を読んで憤るかもしれません。でもまあ、これは犬だけど犬の話ではないし、着物だけど着物の話でもない。どちらも「隠喩」として読めるものです。「伝統」と「正統」と「保守」について。「逸脱」と「異端」と「革新」について。人間のオロカサについて。多分この人は、谷川俊太郎以外で、最も愛されている現代詩人のひとりです。◆◆石垣りん詩集 / 石垣りん/著 / 角川春樹事務所【中古】表札など 石垣りん詩集【中古】 私の前にある鍋とお釜と燃える火と 石垣りん詩集 /石垣りん(その他) 【中古】afb略歴 (石垣りん詩集) [ 石垣りん ]石垣りん詩集 (岩波文庫) [ 石垣りん ]日本語を味わう名詩入門 15 石垣りん石垣りん詩集 挨拶 原爆の写真によせて 豊かなことば 現代日本の詩 / 石垣りん 【全集・双書】大人になるまでに読みたい15歳の詩 6【1000円以上送料無料】
2019.08.19
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「鳩の歌」大島博光わたしは鳩だから どこへでも飛んでゆく風のように 世界じゅう 飛びまわっている私の巣立った巣は ヒロシマ ナガサキゲルニカ アウシュヴィッツ オラドゥールわたしはそこで焼かれて 灰のなかから不死鳥のように また 生まれてきたのだそこで焼かれた人たちが 血と涙の中から仰ぎ見た あの空の虹が わたしなのだわたしは大きな不幸の中から生まれてきたからわたしのほんとうの名は幸福(しあわせ)というのだわたしの名を呼んでいるところ どこへでもわたしは三つ葉の小枝を咬えて 飛んでゆく赤ん坊に乳をふくませている母親の胸のなか新しい朝を迎えた 若い恋人たちのところへごらんなさい ボンで ローマで ロンドンでうねっているわたしの波を 「人間の鎖」を地獄の敷居にすっくと立って叫んでいる人たちを白いミサイルも赤いミサイルも まっぴらだこの地球がまるごと ヒロシマのように焼かれて 殺されて 瓦礫とならぬようにどんな毒矢も わたしを撃ち落とせはしないわたしは生そのもの 人類そのものだからどんな絶望もわたしの翼を折ることはできないわたしは 大きな死と闘うためにやって来たわたしの またの名を 希望というのだわたしは大きな春と未来のためにやって来たのだから-----------------これは詩という形式をとった宣言だと思います。やや甘いと思われる個所(全面核戦争になれば人類滅亡なのに)もあります。しかしその高らかな調べは買いでしょう。【中古】 老いたるオルフェの歌 大島博光詩集 /宝文館出版/大島博光 /【中古】 冬の歌 大島博光詩集 / 大島博光 / 青磁社(千代田区) [単行本]【宅配便出荷】大人になるまでに読みたい15歳の詩 5[本/雑誌] / 谷川 俊太郎 巻頭文
2019.08.17
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「桔梗」金井直ぼくは匍匐していた ぼくはぼくの外で苦痛のようにのたうちまわっていたなぜなら ぼくは兵隊だったから そしてぼくの夏は死ぬかもしれなかったから夏はぼくの肱のところで水蜜の皮のようにむけた なぜなら匍匐していたから夏はぼくの肱のところでかさぶたのようにはがれた なぜなら匍匐していたから夏はぼくの肱のところでうんでいた そして砂利がくいこんだ地面のように夏はぼくの肱にくいこんでごつごつした なぜならぼくは匍匐していたから そして夏はぼくの中でのたうちまわりぼくの傷口から血うみのように流れでていたなぜなら ぼくは死ぬことをそして殺すことを教えられた兵隊だったからそして ぼくは貧乏な みじめな兵隊だっただから夏は飢え 渇いていたそして ホームシックのない絶望のない夏だったそして ぼくはどこにもいなかったなぜなら 世界は戦争だったからそして ぼくは疲労だった 疲労と眠気だっただから 太陽も空もなかったなぜなら ぼくは匍匐だったから 匍匐そのものだったから匍匐しながら一輪の桔梗をみつけたみつけたのはぼくではなかったなぜなら ぼくは兵隊だったから そしていつか彼女にほほえみかけていたほほえみかけていたのもぼくではなかったなぜなら ぼくは兵隊であり ぼくの夏は死にかかっていたからそして 彼女にだまって別れた別れたのは一人の兵隊だったなぜなら 戦争だったからけれども 彼女を忘れないぼく死なない彼女の夏 戦争のない夏彼女の太陽 彼女の空を持っているのはぼく兵隊ではないぼくだった--------------本当は、今日八月十五日は『主戦場』の感想を書くつもりでした。しかし、やる気がでないので別の機会にします。代わりに紹介するのはこの詩。非常にリアルですが、桔梗(帰郷)のくだりはフィクションかもしれません。しかし、それでもいいのです。『中古』金井直の詩—金子光晴・村野四郎の系譜大人になるまでに読みたい15歳の詩 5[本/雑誌] / 谷川 俊太郎 巻頭文
2019.08.15
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「白い花」秋山清アッツの酷寒は私らの想像のむこうにある。アッツの悪天候は私らの想像のさらにむこうにある。ツンドラにみじかい春がきて草が萌えヒメエゾコザクラの花が咲きその五弁の白に見入って妻と子や故郷の思いを君はひそめていた。やがて十倍の敵に突入し兵として心のこりなくたたかいつくしたと私はかたくそう思う。君の名を誰もしらない。私は十一月になって君のことを知った。君の区民葬の日であった。-------------------これも、作者の意図にかかわらず、「大白道」や「戦友」と同じように、左右どちらからでも評価できる詩ですね。みなさんはどう評価しますか?【中古】 秋山清詩集 現代詩文庫1046/秋山清(著者) 【中古】afb【中古】大人になるまでに読みたい15歳の詩 5 /ゆまに書房/和合亮一 (単行本)
2019.08.13
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「灰燼」丸山薫全市が火につつまれたとき遠ざかりゆく爆音の下ではげしくD教授のこころを噛んだものは英文学をめぐる夥しい愛書の安否であつた一夜にして家を失ひ 炎に追はれてカラァもカフスも焦しながら余燼をくぐつて氏の足は大学へとんだ学内の建物はところどころ焼け落ち並木の緑からまだ煙を噴いてゐただが荒廃を跨いで 一歩 壕にふみ入ったときなんといふ荘厳が氏の胸を打つたらう万巻の書籍は昨日にかはりなく整然と書架に立ち列んでゐる――教授は歓喜した思はずその一冊に触れようとしたとたんに音もなくそれらは灰となって崩れた-------------本好きには堪らない詩です。焦燥から歓喜へ、そして失望へ。いや、一度持ち上げられただけにそれは絶望に近かったかもしれません。それでも、本の立場からすれば、あなたが来るまで持ちこたえたのですよ、ということかもしれません。「浅茅が宿」の世界です。大人になるまでに読みたい15歳の詩5 たたかう [ 谷川俊太郎 ]【中古】文庫 ≪政治・経済・社会≫ 雨月物語 / 上田秋成【タイムセール】【中古】afb
2019.08.11
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「黄金分割」石原吉郎重大な責任をとったというときに重大でない部分は各自の責任に移されるそこからかろうじて一歩を踏み出さねばならぬわれらをうごかしたのはいわば運命であり国家もまた運命である だが運命もまた信ずべきなにかであるだまされた ですむはずがない信じ切った部分と見捨てられた部分もはや信じえない部分とを詩人であるかぎり整合しなければならないのだ黄金の分割のために-----------------石原吉郎の詩はこれまでも紹介してきました。「葬式列車」は『大人になるまでに読みたい15歳の詩⑤』にも載っています。「位置」もありましたが、個人的に「発見」とは呼べないので紹介しませんでした。この作品は石原にしてはかなり率直な詩だと思います。石原吉郎詩集 (現代詩文庫) [ 石原吉郎 ]◆◆石原吉郎詩集 続 / 石原吉郎/著 / 思潮社【中古】大人になるまでに読みたい15歳の詩 5 /ゆまに書房/和合亮一 (単行本)
2019.08.09
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「傷ひらく」三井ふたばこ昼休みのビルの屋上からはここかしこ まばゆい桜のさざなみうきうきと談笑しながら見物している人は瞬間 ふと緊張したおももちになるあれは刑務所の石べいの桜むこうは混血児ホームの桜あちらは精神病院の奥庭の桜あでやかにも桜がひらいたので疲れきったこの都のさまざまの傷口がふたたびそこにあらわれたのだすると人びとの心にも忘れえぬいきぐるしい記憶がうずきだしたひらひらと 花たちは深いきずぐちにあてたガーゼのようにいたいたしくゆれていた-----------------作者は西條八十の娘さんだそうです。そういえば西條八十も野口雨情も紹介していませんね。でも今読むと、金子みすゞほどの力を感じないんですよねあ。この詩も「混血児ホーム」で時代背景がわかりますが、現代にも通じる言葉ですよね。やまゆり園の悲劇だって、つい昨日のことですし。【中古】 光村ライブラリー(第18巻) おさるがふねをかきました ほか /樺島忠夫,宮地裕,渡辺実【監修】,まどみちお,三井ふたばこ,阪田寛夫,川崎洋,河井酔茗【ほか 【中古】afb大人になるまでに読みたい15歳の詩5 たたかう [ 谷川俊太郎 ]
2019.08.03
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「大股びらきに堪えてさまよえ」岡田隆彦道を急ぐことはない。あやまちを怖れる者はつねにほろびる。明日をおびやかすその価値は幻影だ。風を影に凍てつかせるなら 俗悪さにひるみ道を急ぐことはない。けれども垂直に現実とまじわるがいい。厳粛な大股びらきに堪えて非在の荒野をさまよいつづけろ。せっかちに薔薇を求めて安くあがるな。秘匿されるべきものの現前に立ちあい引き裂かれる樹木の股に堪えて涙なくこだまする胸の痛みが深まるに任せよう。そしてあの孤独の深淵をひとり降りてゆく。死の河だから進むことができる。堪えてすべてを失ったなら 語るな。蒼穹のごとき沈黙に飛ぶ鳥を見よ。求める約束にみずからあざむかれ道を急ぐことはない。---------------この方も初登場。初めて聞く名前です。この年になると「非在の荒野」なんて気取ってらあ、と思ってしまいますが、全体を流れる訣別と孤高の精神は買います。大人になるまでに読みたい15歳の詩 5[本/雑誌] / 谷川 俊太郎 巻頭文零へ 岡田隆彦詩集【中古】
2019.08.01
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「鳥よ」安永稔和鳥よ。疲れただろう。血は走りに走り今お前の体からほとばしりでるだろう。おもうに自由な条件がおまえの毒となったにちがいない。自由な条件が自由意志をはばんだにちがいない。おもうにおまえがやさしい歌をうたうとは恋人たちの偏見にちがいない。おまえがの身であるとはまぎれもなく人間の偏見にちがいない。鳥よ。今こそ私の手にとまれ。私はおまえを愛しそのはてこの指先でおまえの首に鋭いくびれを与えよう。----------------------男性が女性を口説くときに使う詩です(笑)。【中古】大人になるまでに読みたい15歳の詩 5 /ゆまに書房/和合亮一 (単行本)
2019.07.30
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「絶望」谷川俊太郎絶望していると君は言うだが君は生きている絶望が終点ではないときみの命は知っているから絶望とは裸の生の現実に傷つくこと世界が錯綜する欲望の網の目に囚われていると納得すること絶望からしか本当の現実は見えない本当の希望は生れない君はいま出発点に立っている--------------------東京っ子谷川俊太郎の語り口はだいたいいつも無色透明だ。これが茨木のり子「敵について」になると偏見かもしれないがいかにも大阪のおばちゃんという感じがする。吉野弘「父」には山形のやさしさがある。川崎洋は永遠のいたずらっ子だ。紹介したい詩はたくさんあるのだが、またその1から始めなければならない。絶望。大人になるまでに読みたい15歳の詩5 たたかう [ 谷川俊太郎 ]
2019.07.28
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「なぜぼくの手が」鮎川信夫なぜぼくの手がふと君の肩にかけられたのかどちらかが死にかけているような不吉なやさしさをこめてさりげない僕の微笑もどうしてきみの涙をとめることができようぼくのものでもきみのものでもないさらに多くの涙があるのにながかった航海の短かさについて涙をながすほかにはなにも語ろうとするな言わねばならぬさらに多くのことがあってもきみの肩にかけられたぼくの手の不吉なやさしさのなかで虚しい文字のように消えてゆく血の骨よ血の肉よ血の花よこうして耐えているぼくのほうがむしろ泣きたいくらいだきみの青白い身体はみるみるうちにどんな後悔よりも細くなってしまったから----------------------鮎川信夫は今更なのですが、この端正な挽歌を素通りできなくて紹介しました。きみ、というのはもちろん、この詩人のことでありましょう。鮎川信夫詩集 (現代詩文庫) [ 鮎川信夫 ]【中古】 鮎川信夫詩集 続 / 鮎川 信夫 / 思潮社 [単行本]【宅配便出荷】【中古】 続続・鮎川信夫詩集 現代詩文庫154/鮎川信夫(著者) 【中古】afb大人になるまでに読みたい15歳の詩 5 たたかう / 谷川俊太郎 タニカワシュンタロウ 【全集・双書】
2019.07.26
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「ある願い」清岡卓行私は乾きたくない山の上に浮く魚の化石のようには。私は氷りたくない凍土帯に埋もれたマンモスのようには。私は潜みたくない、原始の住居の跡の穀物の粒のようには。わたしは狂いたいのだ海の底から噴きあがる焔のように。わたしは泣きたいのだ砂漠の中を動きまわる湖のように。私は消えていきたいのだ青空に羊雲を残す嵐のように。--------------------この方も初登場。ベタなテクニックに、自分の心情をアフォリズムに乗せて率直に語るシンプルな詩を好むようになりました。齢をとってしまったのでしょう。大人になるまでに読みたい15歳の詩5 たたかう [ 谷川俊太郎 ]
2019.07.24
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「炎のうた」大岡信わたしに触れると人は恐怖の叫びをあげるでもわたしは知らない自分が熱いのか冷たいのかをわたしは片時も同じ位置にとどまらず一瞬前のわたしはもう存在しないからだわたしは燃えることによってつねに立ち去るわたしは闇と敵対するがわたしが帰っていくところは闇のなかにしかない人間がわたしを恐れるのはわたしがわたしの知らない理由によって木や紙やひとの肉体に好んで近づき実をすり寄せて愛撫し呑みつくしわたし自身もまたそれらの灰の上で滅びさる無欲さに徹しているからだわたしに触れたひとがあげる叫びはわたしが人間にいだいている友情がいかに彼らの驚きのまとであるかを教えてくれる--------------------『大人になるまでに読みたい15歳の詩⑤ たたかう』より。作品について語る前に、アンソロジーからの抽出について。この『15歳の詩』シリーズには、今までの「百人一詩」「新百人一詩」ですでに紹介した詩も多く含まれています。そういうのは重複になるので選びませんでした。また、なるだけ今まで紹介したことのない詩人をと思っていますが、一人一詩に限定するとこの人にはこんないい詩もあるのに、となり、「発見」に至るまで繰り返し紹介してきた詩人もいます。一方で、名前は挙げませんが、上手いけれどどうもなあ、という詩人もいました。今回初めて紹介する大岡信もそうです。しかし、この「炎のうた」はいい。まるで谷川俊太郎か高野喜久雄の作品のようです。それはまあ冗談ですが、吉本隆明の詩につながる姿勢があります。これもまた「たたかい」なのでしょう。【中古】大人になるまでに読みたい15歳の詩 5 /ゆまに書房/和合亮一 (単行本)
2019.07.22
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「こどもたち」茨木のり子こどもたちの視るものはいつも断片それだけではなんの意味もなさない断片たとえ視られてもおとなたちは安心しているなんにもわかりはしないさ あれだけじゃしかしそれら一つ一つとの出会いはすばらしく新鮮なのでこどもたちは永く記憶にとどめているよろこびであったもの 驚いたもの神秘なもの 醜いものなどを青春が嵐のようにどっと襲ってくるとこどもたちはなぎ倒されながらふいにすべての記憶を紡ぎはじめるかれらはかれらのゴブラン織を織りはじめるその時に父や母 教師や祖国などが海蛇や毒草 こわれた甕 ゆがんだ顔のイメージで ちいさくかたどられるとしたらそれはやはり哀しいことではないのかおとなたちにとってゆめゆめ油断のならないのはなによりもまずこどもたち今はお菓子ばかりをねらいにかかっているこの栗鼠どもなのである-----------------------これも『大人になるまでに読みたい15歳の詩④ あそぶ』からです。職業柄、どきんとしてしまいました。選ぶ基準なんてそんなものです。【新品】【本】大人になるまでに読みたい15歳の詩 4 あそぶ
2019.07.20
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「或る筆記通話」高村光太郎おほかみのお――レントゲンのれ――はやぶさのは――まむしのま――駝鳥のだ――うしうまのう――ゴリラのご――河童のか――ヌルミのぬ――うしうまのう――ゴリラのご――くじらのく――とかげのと――きりんのき――はやぶさのは――獅子のし――ヌルミのぬ――とかげのと――きりんのき――をはり-----------------------人を食ったような詩ですが、あの高村光太郎がこんなのを書いていたんだ、へええ、と思って紹介しました。これもちょっとした「発見」ですね。アイディアが浮かびました。(オレハマダウゴカヌウゴクトキハシヌトキ)大人になるまでに読みたい15歳の詩4 あそぶ [ 谷川俊太郎 ]
2019.07.18
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「競馬」上林猷夫スターターの右手の赤旗が高く上がった出発のファンファーレが競馬場に鳴り渡りスタンドの観衆は一斉に立ち上がる黄色いテープが挟められ旗手と馬は少しずつゲートの枠に追い込まれたサッ! とゲートが開くと十六頭のサラブレッドが同時に飛び出す第一コーナーから第二コーナーを廻り第三コーナーを一団となって駆け去った時ピンクの帽子を被った一人の騎手が地面にたたきつけられていた騎手のいない馬はなおも両脇の馬を抜こうと栗色の尻尾を長くなび かせながら一生懸命走ったどの騎手もはげしく馬に鞭を当てた一団となって走っている馬の間に一瞬微かなためらいが起きたそしてそのままゴールへ雪崩れ込んだ一分三十秒の勝負は終った騎手のいない馬は場内のどよめきの声を聞きながら勝馬と同じように馬場をゆるく走っていたがちらと後方に担架で運ばれて行く騎手の姿を見た離ればなれになった馬と騎手の上に小さくちぎられた馬券の花吹雪がしばらく散りかかった-------------------------『大人になるまでに読みたい15歳の詩④ あそぶ』より。遊ぶのはだいたい子どもが多く、このアンソロジーも例外ではないのですが、その中にあって大人の遊びを扱った異色なものを発見したので紹介する次第です。上林猷夫という詩人の名も初めて聞きました。大人の遊びって、大人のおもちゃと同じくらい、わびしいですね。大人になるまでに読みたい15歳の詩 4上林猷夫詩集 /思潮社/上林猷夫 / 上林猷夫 / 現代詩文庫【中古】afb
2019.07.16
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「ちいさな遺書」中桐雅夫わが子よ、わたしが死んだ時には思い出しておくれ、酔いしれて何もかもわからなくなりながら、涙を浮べて、お前の名を高く呼んだことを、また思い出しておくれ、恥辱の悔恨の三十年に堪えてきたのはただお前のためだったことを。わが子よ、わたしが死んだ時には忘れないでおくれ、二人の恐怖も希望も、慰めも目的も、みなひとつ、二人でそれをわけあってきたことを、胸にはおなじあざを持ち、またおなじ薄い眉をしていたことを忘れないでおくれ。わが子よ、わたしが死んだ時には泣かないでおくれ、私の死はちいさな死であり、四千年も昔からずっと死んでいた人がいるのだから、泣かないで考えておくれ、引出しのなかに忘れられた古い一個のボタンの意味を。わが子よ、わたしが死んだ時には微笑んでおくれ、私の肉体は夢の中でしか眠れなかった、わたしは死ぬまでは存在しなかったのだから、わたしの屍体は影の短い土地に運んで天日にさらし、飢えて死んだ兵士のように骨だけを光らせておくれ。-----------------------------すみません、またもや饒舌系です。若い時は雄弁な人も、齢を取ると饒舌になります。雄弁と饒舌の違いは何か。雄弁は何よりも自己の存在証明です。相手に向かて高らかに自己の正当性をまくしたてる。饒舌は違います。彼にはもはや、自己の正当性など主張はしません。あまりに長く生き過ぎてしまったので、うつりゆく世の中に対するそこはかとない不安と新しい世代に対するすがるような希望からついついおしゃべりになってしまうのです。若い人たち、どうか聞く耳を持たなくても耳を傾けるふりをしてください。そうして記録だけをしておいて、歳をとったときに、そっと開いてみてください。大人になるまでに読みたい15歳の詩 3
2019.07.11
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「あまのがわ」三角みづ紀わたしには世界が足りないと示された午後錠剤が友達でしたお母さん、それが毒だとあなたは何故云えるのかおいてかれたくないんだって呟いたサカイメのひとわたしもって云えなかったのは別の船を選択していたからお母さん、あなたは何色の船に乗るのかお母さん、あなたが隠したヒントはいまでも島に埋まっていることを知っていますかあなたの娘はインクに血液を忍ばせているわたしの意志ではない血がそうさせるのだお母さん、わたしはもう果ての果てまできてしまってあなたの織りかけの布だけが到達しているのだとおもうわたしには世界が足りない世界が足りうないことを生まれながらに知ったわたしには錠剤が必要でそれが毒だと手足ができるより先に知ってはいたのだ------------------三角みづ紀さんの名前を見たのは、もう10年以上前、ケータイの画面が最初でした。今でいうメンヘラ的な戦慄とともに、なぜか引き込まれるものを感じたのは、自身もまた「アウトサイダー」だと思っていたからかもしれません。短歌でいえばこれは鳥居さんの世界でしょう。彼女たちの詩歌を読むとき、人はこちら側の窓からあちら側の風景を眺めつつ、いつの間にか足もとがおぼつかなくなっていることに気がつく、のかもしれません。この本で三角さんがまだ自殺していなかったと知り、安堵したものでした。大人になるまでに読みたい15歳の詩 3
2019.07.09
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「汽車は二度と来ない」高見順わずかばかりの黙りこくった客をぬぐい去るように全部乗せて暗い汽車は出ていったすでに売店は片づけられツバメの巣さえからっぽのがらんとした夜のプラットホーム電灯が消え駅員ものこらず姿を消したなぜか私ひとりがそこにいる乾いた風が吹いてきてまっくらなホームのほこりが舞いあがる汽車はもう二度と来ないのだいくら待っても無駄なのだ永久に来ないのだそれを私は知っている知っていて立ち去れない死を知っておく必要があるのだ死よりもいやな空虚のなかに私は立っているレールが刃物のように光っているしかし汽車はもう来ないのであるからレールに身を投げて死ぬことはできない------------------------今日は七夕です。しかし、追い詰められた高見順は、織姫と会えない牽牛よりもずっとずっと孤独でした。たとえ七月七日が雨であっても、牽牛には来年があります。しかし彼には…最後の三行が鬼気迫ります。【中古】 詩集死の淵より / 高見 順 / 講談社 [文庫]【宅配便出荷】高見順詩集 現代詩文庫 / 高見順 【全集・双書】ー
2019.07.07
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「怖ろしいのは」高橋睦郎ほんとうに怖ろしいのは 白昼飛行機の旅客機が奪われることではない強奪機に突込まれた摩天楼が炎上することではない炎の柱を後ろに逃げ惑う顔たちが くりかえし映し出され湯気の立つカップ片手に ぼんやりそれを見ていることお茶を飲みながら クッキーを抓みながら私たち自身の崩壊は確実に進んでいる何事もなかったように また日常がつづき指はキー・ボードを打ちつづける時間の分解は進み 空間の崩壊は進み打ち出される文字はあらかじめ壊死私の仕事着のパジャマは音もなく燃え私は燃え焦げ 輪郭から燃え落ちそのことに気付かない-----------------田村隆一の詩に始まったこの「発見」シリーズですが、どうも齢のせいか饒舌なものを多く選ぶ傾向があるようです。この詩も、14行のソネットの約束を最低限果たしながら、なんと饒舌なことでしょう。肉体の老化は、世界の崩壊を予見するのかもしれません。たとえそれが幻視であっても。大人になるまでに読みたい15歳の詩 3[本/雑誌] (単行本・ムック) / 蜂飼耳/編【新品】【本】高橋睦郎詩集 続続 高橋睦郎/著高橋睦郎詩集 続 現代詩文庫 / 高橋睦郎 【全集・双書】高橋睦郎詩集 現代詩文庫 / 高橋睦郎 【全集・双書】
2019.07.05
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「馬の胴体の中で考えてゐたい」小熊秀雄おお私のふるさとの馬よお前の傍のゆりかごの中で私は言葉を覚えたすべての村民と同じだけの言葉を村をでてきて、私は詩人になつたところで言葉が、たくさん必要となった人民の言ひ現はせない言葉をたくさん、たくさん知って人民の意志の代弁者たらんとしたのろのろとした戦車のやうな言葉からすばらしい稲妻のやうな言葉まで言葉の自由は私のものだ誰の所有(もの)でもない突然大泥棒奴に、――静かにしろ声をたてるな――と私は鼻先に短刀をつきつけられた、かつてあのやうに強く語つた私が、勇敢と力とを失ってしだいに沈黙勝にならうとしてゐる私はながらの啞でなかつたのをむしろ不幸に思ひだしたもう人間の姿も嫌になつたふるさとの馬よお前の胴体の中でじつと考えこんでゐたくなつたよ『自由』といふたつた二語も満足にしやべらして貰へない位なら凍つた夜、馬よ、お前のやうに鼻から白い呼吸を吐きにわたしは寒い郷里にかへりたくなつたよ-----------------------谷川雁と同じプロレタリア詩人ですが、中盤までキリストの面影があります。しかし評価すべきはその後の展開でしょう。これこそ、人間の叫びであります。【中古】 小熊秀雄詩集 岩波文庫/小熊秀雄(著者),岩田宏(編者) 【中古】afb
2019.07.03
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「やさしい魚」川崎洋やさしい魚のやさしいうろこが月曜日に一枚火曜日に二枚剥がれた剥がれたうろこは銀色にひかりながら海の中見えない底へ沈んでいくやさしい魚のやさしいうろこが水曜日に三枚木曜日に五枚剥がれたうろこが剥がれてやさしい魚はひりひり痛いやさしい魚のやさしいうろこが金曜日に十四枚土曜日に三十八枚剥がれた日曜日 歌おうと海に来てみれば砂に終止符のようなやさしい魚のなきがら--------------------『大人になるまでに読みたい15歳の詩③ なやむ』より。読んで連想したのは、「夕焼け」であり、「動物の受難」であり、香川紘子の詩でした。皆さんは何を連想しましたか?大人になるまでに読みたい15歳の詩 3
2019.07.01
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〔日暮に近い部屋のなかで〕立原道造 日暮に近い部屋のなかで、鉛筆が僕を傷つけた。色褪せた紙に、僕は詩を書いてゐた。乱れた心に復讐をするために。 詩が書ける日、平和は僕をとめた 弱さがお前に書かすのだと、強くなれと。 詩が書けない日、言葉は僕を妨げた そこにお前はゐないのだ、町へ行けと。 夕日が窓を消えて行つた。 九つの星に僕はたづねよう。生きるといふことを。そのなかで歌ふといふことを。-----------------立原道造と言えば、誰でも思い出すのがソネット形式の抒情詩ですが、『大人になるまでに読みたい15歳の詩② 生きる』でこの詩に出会って、何よりこれが好きになりました。夭逝した詩人の絶唱が耳に響きます。大人になるまでに読みたい15歳の詩 2[本/雑誌] (単行本・ムック) / 和合亮一/編
2019.06.29
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「宿題」辻征夫すぐにしなければならなかったのにあそびほうけてときだけがこんなにたってしまったいまならたやすくできてあしたのあさにははいできましたとさしだすことができるのにせんせいはせんねんとしおいてなくなってしまわれてもうわたくしのしゅくだいをみてはくださらないわかきひに ただいちどあそんでいるわたしのあたまにてをおいてげんきがいいなとほほえんでくださったばっかりにわたくしはいっしょうをゆめのようにすごしてしまった---------------------------挽歌です。ある程度の齢になるとこういう詩が心にしみます。余計な解説はしません。また、いりません。【中古】 辻征夫詩集 岩波文庫/辻征夫(著者),谷川俊太郎(編者) 【中古】afb大人になるまでに読みたい15歳の詩 2[本/雑誌] (単行本・ムック) / 和合亮一/編
2019.06.27
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「木」高良留美子一本の木のなかにまだない一本の木があってその梢がいま風にふるえている。一枚の蒼空のなかにまだない一枚の青空があってその地平をいま一羽の鳥が突っ切ってゆく。一つの肉体のなかにまだない一つの肉体があってその宮がいま新しい血を溜めている。一つの街のなかにまだない一つの街があってその広場がいまわたしの行く手で揺れている。------------------ベタな詩です。新聞の投稿欄に載っていても不思議でではない作品ですが、発想がいい。こういうのは早い者勝ちです。その栄誉をたたえ、作者をたたえましょう。ちなみに最初、高橋留美子と間違えました。ベタです。高良留美子詩集 (現代詩文庫) [ 高良留美子 ]続・高良留美子詩集 (現代詩文庫 224) [ 高良留美子 ]大人になるまでに読みたい15歳の詩 2[本/雑誌] (単行本・ムック) / 和合亮一/編
2019.06.25
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「ふたりのおかあさん」「必ず迎えにくるから」と言われ五歳のとき 施設に預けられた六歳の誕生日に お母さんからカードが届いた七歳の誕生日に お母さんからカードが届いた八歳の誕生日に お母さんからカードが届いた「お誕生日 おめでとう」手書きのカードが 何よりうれしかった一年に一度の楽しみだった十歳の誕生日 カードは届かなかった次の年も その次の年もわたしはひとり 部屋で泣いたずっとずっと 泣いていたすると 先生が来て無視するわたしを 抱きしめてくれたやさしい声で こういってくれた「わたしは ここにいるよずっとずっと ここにいるよどこへも 行かないからずっとずっと 守ってあげるからだから 泣かないでわたしが お母さんになってあげるから」二十四歳になったいまでも わたしのお母さんは二人一人のお母さんとは 十九年 会えていないけどお母さんは二人いつまでも いつまでも 二人-----------------------『奈良少年刑務所詩集』より。作者は誰だかわかりません。でもどうしても紹介したくてここに挙げました。二三、手を加えたいところもありますが、そんなことは問題じゃありません。読む者の胸を打ちます。しかしそれは、お話の真実性に裏打ちされた、確かな技術があるからです。それを忘れてはならないと思います。空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集/寮美千子【合計3000円以上で送料無料】【新品】【本】世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集 受刑者/詩 寮美千子/編
2019.06.23
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「世界はうつくしいと」長田弘うつくしいものの話をしよう。いつからだろう。ふと気がつくと、うつくしいということばを、ためらわず口にすることを、誰もしなくなった。そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。うつくしいものをうつくしいと言おう。風のにおいはうつくしいと。渓谷の石を伝わってゆく流れはうつくしいと。午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。きらめく川辺の光はうつくしいと。おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。太い枝を空いっぱいにひろげる晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。冬がくるまえの、曇り日の、南天の、小さな朱い実はうつくしいと。コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。過ぎてゆく季節はうつくしいと。さらりと老いてゆく人の姿はうつくしいと。一体、ニュースとよばれる日々の破片が、わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。うつくしいものをうつくしいと言おう。幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。何ひとつ永遠なんてなく、いつかすべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。-----------------こういう詩は評価が分かれるかもしれません。まるで散文じゃないかと。まあしかし、外国の詩の翻訳には時折こうしたものが見られますし、ある程度の齢になると、こういう内容に共感を覚えるものです。「うつくしい」をひらがなにしてリフレインさせているのも効いています。これはやっぱり、韻文ですね。【中古】 世界はうつくしいと /長田弘【著】 【中古】afb大人になるまでに読みたい15歳の詩 2 いきる / 谷川俊太郎 タニカワシュンタロウ 【全集・双書】
2019.06.21
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「蠟燭」高野喜久雄揺れる焔となり頭から次第に 燃え尽きてゆくお前は おまえ自身の生贄だがもう誰もおまえに 問うてはならぬ焔は何故 天を指しつつ焔は何故 下へと燃え移るのか誰もお前に 問うてはならぬただお前が お前を無にかえしつつお前はお前の 影に近づくもの言わぬお前の狂気必敗の そのきびしさのみをわたしは見つめる------------------------『大人になるまでに読みたい15歳の詩② 生きる』より。高野さんはこういう「定義集」みたいなものに独特の味わいがありますね。そういえば今日は桜桃忌です。これ以上の解説は野暮。大人になるまでに読みたい15歳の詩 2 いきる / 谷川俊太郎 タニカワシュンタロウ 【全集・双書】高野喜久雄詩集 (現代詩文庫) [ 高野喜久雄 ]は
2019.06.19
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「林檎畑」金子みすゞ七つの星のそのしたの、誰も知らない雪国に、林檎ばたけがありました。垣もむすばず、人もいず、なかの古樹の大枝に、鐘がかかつてゐるばかり。 ひとつ林檎をもいだ子は、 ひとつお鐘をならします。 ひとつお鐘がひびくとき、 ひとつお花がひらきます。七つの星のしたを行く、馬橇の上の旅びとは、とほいお鐘をききました。とおいその音をきくときに、凍つたこころはとけました、みんな泪になりました。-------------『大人になるまでに読みたい15歳の詩① 愛する』より。林檎畑と言えば日本人なら真っ先に藤村の「初恋」を思い浮かべるところを、金子みすゞは祈りの詩に変えました。祈りという点では笹井宏之も同じで、ただ時代が違うために表現方法が異なるのだと思っています。【中古】こだまでしょうか、いいえ、誰でも。 金子みすゞ詩集百選 /ミヤオビパブリッシング/金子みすゞ (新書)金子みすゞ名詩集/金子みすゞ/彩図社文芸部【合計3000円以上で送料無料】金子みすゞ心の詩集 (単行本・ムック) / 金子みすゞ/〔著〕 よしだみどり/編<英訳・絵>
2019.06.17
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「あるるかんの死」森川義信眠れ やはらかに青む化粧鏡のまへでもはやおまへのために鼓動する音はなくあの帽子の尖塔もしぼみ煌めく七色の床は消えた哀しく魂の溶けてゆくなかではとび歩く軽い足どりも不意に身をひるがへすこともあるまいにじんだ頬紅のほとりから血のいろが失せて疲れのやうに羞んだままおまへは何も語らないあるるかんよ空しい喝采を想ひださぬがいいいつまでも耳や肩にのこるものがあつただらうかやはらかに青む化粧鏡のなかに死んだおまへの姿を誰かがぢつと見てゐるだらう-----------------森川義信は鮎川信夫の戦友。ここにあるように有り余る才能がありながら戦死した夭逝の詩人です。あるるかんとはフランス語で、アルレッキーノのこと。『絵のない絵本』の、あのアルレッキーノです。これも『大人になるまでに読みたい15歳の詩① 愛する』より。【中古】絵のない絵本 / ハンス・クリスチャン・アンデルセン
2019.06.15
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「ふゆのさくら」新川和江おとことおんながわれなべにとじぶたしきにむすばれてつぎのひからはやぬかみそくさくなっていくのはいやなのですあなたがしゅろうのかねであるならわたしはそのひびきでありたいあなたがうたのひとふしであるならわたしはそのついくでありたいあなたがいっこのれもんであるならわたくしはかがみのなかのれもんそのようにあなたとしずかにむかいあいたいたましいのせかいではわたくしもあなたもえいえんのわらべでそうしたおままごともゆるされてあるでしょうしめったふとんのにおいのするまぶたのようにおもたくひさしのたれさがるひとつやねのしたにすめないからといってなにをかなしむひつようがありましょうごらんなさいだいりびなのようにわたくしたちがならんですわったござのうえそこだけあかるくくれなずんでたえまなくさくらのはなびらがちりかかる-----------------『大人になるまでに読みたい15歳の詩① 愛する』から。先ほどの菅原さんの詩は夫から妻へのラブレターでしたが、文面から察するに、これは妻から夫への恋文、というより妻子ある男性へあてた若い女性の手紙のようですね。わたしとあなたはたましいでむすばれたえいえんのこいびとどうしです、とでも言わんばかり。これが虚構か現実かはわかりませんが、受け取った男性の反応はどうだったでしょうか。彼女が編んだ『愛の詩集』には、昔お世話になりましたが、その作品は一部を除いてあまり好きではありませんでした。しかしこうして見ると、なかなかいいものですね。【中古】 愛の詩集 / 新川 和江 / 集英社 [文庫]【宅配便出荷】新川和江詩集いつもどこかで 新川和江詩集新川和江詩集 続続/新川和江【合計3000円以上で送料無料】それから光がきた 新川和江詩集【中古】海と愛 新川和江詩集/新川和江 山梨シルクセンター出版部 昭和48.2 A5変判/カバー背イタミ有 [管理番号]小説3100
2019.06.12
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「光子」菅原克己二十年前の唱歌のうまい幼女は十二年前おれのお嫁さんになつた。あの桃色のセルをきた明るい少女よ。お前は今でも肥って明るい。まるで運命がお前を素通りするように。どんな失敗があってもお前の善意が帳消しにする。どんなに困ることが起きても必ず解決されるとお前は信ずる。未来への肯定、その明るさがお前の身上。それが、われわれの、ながい貧乏ぐらしの灯となった。何のためにそんなに明るいのか。おれを信ずるのか。この生活をか。ときどきおれはふしぎそうにお前を見るが肥った身體はやはりゆっくり道をあるき、笑いは何時までもあの桃色のセルを着た娘のようだ。-----------------『大人になるまでに読みたい15歳の詩① 愛する』から、これは妻恋の詩。この詩人の名は、不具にとっても初耳です。しかし、読んでみると「あなたも単に」に見られるような自己韜晦めいた照れ隠しより、ずっと素直で好感が持てました。【中古】菅原克己全詩集 /西田書店/菅原克己 (単行本)陽気な引っ越し 菅原克己のちいさな詩集 文明の庫双書 / 菅原克己 【本】
2019.06.10
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「悲歌」金子光晴恋愛が手術であらうとはおもひもかけないことだつた。すつ裸で、僕は手術台の上に横たはる。水銀のやうな冷たさが僕のからだをはしる。恋愛が熱いなどとはなんたるたはごとぞ。白いきものをきてメスをもつてるのも僕の分身。しやがの花のやうに蒼ざめてふるへて、ねてゐる方も、僕なのだ。レントゲン写真には恋人の姿がうつすりでてゐた。ガラス板にのつてるのは盲腸に似た血のかたまり。不幸にも、僕にとつては恋愛とは一つの腫瘤なのだ。それを剔出しなければ僕のからだは保てないのだ。覆面の看護婦たちが僕の血でたぷたぷゆれる重さうなバケツを提げて廊下を、どこかへ捨てにゆく。------------------これも『大人になるまでに読みたい15歳の詩① 愛する』からですが、黒田喜夫に劣らず異色です。作者の恋愛観が述べられているとはいえ、これはどう見ても病院です。面白いのは、すべての連が起承転結になっていることでしょう。最後の二連が、この詩の白眉であります。大人になるまでに読みたい15歳の詩 1
2019.06.08
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「みちでバッタリ」岡真史みちでバッタリ出会ったヨなにげなく出会ったヨそして両方とも知らんかおでとおりすぎたヨでもぼくにとってこれは世の中がひっくりかえることだヨあれからなんべんもこの道を歩いたヨでももう一ども会わなかったよ--------------------これも『大人になるまでに読みたい15歳の詩① 愛する』より。岡君は12歳で自ら命を絶った。その詩篇は『ぼくは12歳』として刊行された。これが何歳くらいのかわからないのだけれど、小学生にしては高度だ。作者は実は辻往夫なんだよ、とささやかれれば信じ込んでしまうかもしれない。この詩が虚構か現実かはわからない。だが、恋へのあこがれがあらわれているのは間違いないだろう。そして、下世話なことながら、もし岡君の初恋が成就していたら、彼は自殺しなかったんじゃないだろうか、と思ってしまうと、余計にこの詩が痛ましく感じられるのである。【中古】 新編 ぼくは12歳 ちくま文庫/岡真史【著】 【中古】afb大人になるまでに読みたい15歳の詩 1[本/雑誌] (単行本・ムック) / 青木健/編
2019.06.06
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「音楽家の友への五つの詩」黒田喜夫<楽団のない若い指揮者に音をひとつあげる>誰もいない音楽堂(ホール)からでてきみは街の沈黙のパノラマの前に佇つ指をあげきみは指のタクトで切るにわとりの腹を裂くようにきみの前の沈黙の壁を切るきみは入ってゆく一人で壁のめざめる深さのなかへいま斜めに足もとから空に走った断面のおくへ入ってゆくそして手で顔を覆い目を閉じる一秒前襲いかかる建築や樹の円錐のあいだにこらえきれぬきみの頭骨の砕ける音を聴く誰もきかないきみの始まりの音を聴く-----------------------『大人になるまでに読みたい15歳の詩① 愛する』より。黒田三郎は好きでしたが黒田喜夫はそうでもありませんでした。しかし愛だの恋だのが花盛りの章で、このような異色な詩を見つけると、不思議と惹かれるものです。大人になるまでに読みたい15歳の詩 1詩と反詩 黒田喜夫全詩集・全評論集 / 黒田 喜夫 【中古】
2019.06.04
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「鋏」笹井宏之あなたをきりひらいて春の風をとりだす春の風はとりだされたとたん私の頬をかすめ空の高みへと消えてゆくあなたをきりひらいて夜の吐息をとりだす夜の吐息はとりだされたとたんただの吐息となり世界の果てへと吸われてしまうあなたを、きりひらく銀の指輪を凍った薔薇をひどくあかるい手紙をいくつもいくつもとりだすそれらが刹那のうちに消えてゆくものだとしてもあなたからとりだされたというまぎれもない事実がわたしを少し、安堵させるいつか、もうひとつのいのちがあなたに宿るとききりひらく必要のないものがあなたの重みとなったとき私はその手をやすめるだろうそして途絶えることのない春風とひそやかな夜の吐息の中あなたとともにほほえむだろう----------------------『えーえんとくちから』(ちくま文庫)所収。たしかなことは、「春の風」も「夜の吐息」もとりださなければならないものだということ。「銀の指輪」「凍った薔薇」「ひどくあかるい手紙」もおしなべて「刹那のうちに消えてゆくもの」。何の比喩かは、ここでは問うまい。反対に、「きりひらく必要のないもの」は「もうひとつのいのち」。「妊娠」を連想させるが、それだけではあるまい。「刹那」の反対は?そう、永遠である。えーえんとくちから ちくま文庫 / 笹井宏之 【文庫】
2019.01.30
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「後悔」サマー私は 今日においつけたのだろうか-------------『姉ちゃんの詩集』より。10代の少女がこんな詩を書くんだねえ。だけどこういうのは、おじさんのように初老を迎えた男性の胸にこそ響くものなんだよ。今まで何をやってきたんだろう。これでよかったんだろうか、ってね。【中古】 姉ちゃんの詩集 /サマー【著】 【中古】afb姉ちゃんの詩集【電子書籍】[ サマー ]
2018.08.07
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「人の値うち」江口いと何時かもんぺをはいてバスに乗ったら隣座席の人は私をおばはんと呼んだ戦時中よくはいたこの活動的なものをどうやらこのひとは年寄りの着物とおもっているらしいよそ行きの着物に羽織を着て汽車に乗ったら人は私を奥さんと呼んだどうやら人の値うちは着物で決まるらしい講演がある何々大学の先生だと言えば内容が悪くても人々は耳をすませて聴き良かったと言うどうやら人の値うちは肩書きで決まるらしい名も無い人の講演には人々はそわそわして帰りを急ぐどうやら人の値うちは学歴で決まるらしい立派な家のお嫁さんが部落にお嫁に来るでも生まれた子はやっぱり部落の子だと言われるどうやら人の値うちは生まれた所によって決まるらしい人々はいつの日このあやまちに気付くであろうか------------------ごく最近、こういう詩があることを知りました。「招かれなかったお茶会」というのもありますが、こちらの方は感情過多で鑑賞に値しません。「人の値うち」は、知らない人に茨木のり子さんの詩だよ、と言っても通じるでしょう。当事者にとってそれがどんなに切実なことであっても、共感と感動を生むためには別の仕掛けが必要です。自戒を込めて。
2018.08.05
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「告別」宮澤賢治おまへのバスの三連音がどんなぐあいに鳴つてゐたかをおそらくおまへはわかつてゐまいその純朴さ希みに充ちたたのしさはほとんどおれを草葉のやうに顫はせたもしもおまへがそれらの音の特性や立派な無数の順列をはつきり知つて自由にいつでも使へるならばおまへは辛くてそしてかがやく天の仕事もするだらう泰西著明の楽人たちが幼齢 弦や鍵器をとつてすでに一家をなしたがやうにおまへはそのころこの国にある皮革の鼓器と竹でつくつた管とをとつたけれどもいまごろちゃうどおまへの年ごろでおまへの素質と力をもつてゐるものは町と村の一万人のなかにならおそらく五人はあるだらうそれらのひとのどの人もまたどのひとも五年のあひだにそれを大抵無くすのだ生活のためにけづられたり自分でそれをなくすのだすべての才や力や材といふものはひとにとどまるものではない(ひとさへひとにとどまらぬ)云はなかつたがおれは四月にはもう学校に居ないのだ恐らく暗くけはしいみちをあるくだらうそのあとでおまへのいまのちからがにぶりきれいな音が正しい調子とその明るさを失つてふたたび回復できないならばおれはおまへをもう見ないなぜならおれはすこしぐらゐの仕事ができてそいつに腰をかけてるやうなそんな多数をいちばんいやにおもふのだもしもおまへがよくきいてくれひとりのやさしい娘をおもふやうになるそのときおまへに無数の影と光の像があらはれるおまへはそれを音にするのだみんなが町で暮したり一日あそんでゐるときにおまへはひとりであの石原の草を刈るそのさびしさでおまへは音をつくるのだ多くの侮辱や窮乏のそれらを噛んで歌ふのだもしも楽器がなかつたらいいかおまへはおれの弟子なのだちからのかぎりそらいつぱいの光でできたパイプオルガンを弾くがいい-------------------------------------卒業式の季節です。だから選んだ、というわけではありません。とある店で、ぱらぱらと読んだ漫画に引用してあったのです。勿論全文ではなく、後半部分の、それも呼びかけの部分は省略して、作品の趣旨に合うようにという形でした。呼びかけられた相手の学生がその後どうなったかはわかりませんが、志高く生きようとする全ての人の魂を鼓舞する詩だと思います。春と修羅 完全版(宮沢賢治詩集)【電子書籍】[ 宮沢賢治(Kenji Miyazawa) ]【中古】 宮沢賢治詩集 / 宮沢 賢治 / 新潮社 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】
2018.03.03
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「ことのねたつな」三好達治いとけなきなれがをゆびにかいならすねはつたなけれそらにみつやまとことうたひとふしのしらべはさやけつまづきとだえつするをおいらくのちちはききつついはれなきなみだをおぼゆかかるひのあさなあさなやもののふはよものいくさをたたかはすときとはいへどそらにみつやまとのくににをとめらのことのねたつな----------------試みに現代仮名遣いにして漢字かな交じりで表してみましょう。「琴の音絶つな」三好達治いとけなき汝がを指にかい鳴らす音は拙けれ空に満つ大和琴歌一節の調べは清けつまづき途絶えつするを老いらくの父は聴きつついわれなき涙を思ゆかかる日の浅な浅なや武士は四方の戦を戦わす時とはいえど空に満つ大和の国に乙女らの琴の音絶つな達治の詩はこれまでも「甃のうへ」、「雪」、「灰が降る」と紹介してきましたが、本作品は『寒柝』という戦時詩集に収められています。達治の戦争詩についてはこういう意見もありますが、少なくとも「日本の子供」(『寒柝』収録)などは、今日の目で見ても冗漫で冗長でおよそプロパガンダにしか思えないものでした。書くならもっと簡潔に、寸鉄人を刺すようにすべきです。この点、高村光太郎の『十二月八日』とは別物だと思っています。どうも、達治は光太郎と違って、体質的に「ますらをぶり」より「たをやめぶり」の詩が似合うように思えてなりません。さて件の詩についてですが、戦時詩集『寒柝』に収められている作品が、すべて冗漫な戦争詩というわけではありません。「さくら」や「桃の花」などは、曇りなき目で見れば、技術的にも、また愛国の詩としても再評価に耐えうるものです。まして「ことのねたつな」は詩集の掉尾を飾るものであり、それまでの主旋律であった「ますらをぶり」に対する「たをやめぶり」の抵抗詩として今日読むことが可能な作品だと思うのです。そういう意味で、草野心平の「大白道」と同じ価値を、この詩に見出すのは意義あることではないでしょうか。最後に、本詩にはやまとことばと漢詩の幸福な結婚が見られることを指摘して、筆を擱きたいと思います。【中古】 三好達治詩集 岩波文庫/三好達治(著者) 【中古】afb
2017.12.09
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「きみに似た人間」ルネ・フィロンペぼくはきみの家の戸をたたいたぼくはきみの心をノックした暖かいベッドを求め暖まる火を求めてなぜぼくを追い返すの?戸を開けてくれ 兄弟よ!……なぜぼくに聞くのぼくがアフリカの人かとぼくがアメリカの人かとぼくがアジアの人かとぼくがヨーロッパの人かと?戸を開けてくれ 兄弟よなぜぼくに聞くのぼくの華の高さをぼくの唇の厚さをぼくの肌の色をそして ぼくの神々の名を?戸を開けてくれ 兄弟よ!……ぼくは黒人じゃないぼくはインディアンじゃないぼくは黄色人種じゃないぼくは白人じゃないじゃなくて ぼくはただの人間なんだ戸を開けてくれ 兄弟よ!……きみの家の戸を開けてくれきみの心を開いてくれだって ぼくは人間なんだものいつの世にもいる人間どこにでもいる人間きみに似た人間なんだもの!……-----------------『ブラックアフリカ詩集』(彌生書房)をぱらぱらとめくっていて見つけました。邦訳すると素朴な作品のようですが、原詩はもっと緊密に韻を踏んであるのかもしれません。リフレインなど基本的な修辞は日本語でもわかります。こういうのを読むと、ついつい人種差別にばかり目が行きがちですが、「神々の名」をも問われていることにも注目したいと思います。21世紀になっても、宗教紛争は根深い病。イスラム教やキリスト教やヒンズー教ばかりではなく、仏教もそうであることをわすれてはなりません。作者は中央アフリカ地方のカメルーン出身です。国旗ステッカー・2S カメルーン <スーツケースや車・屋外にも貼れる世界の国旗シール> _kokkisロヒンギャ族、群馬に200人 日本に生きる無国籍者たち【電子書籍】[ 朝日新聞 ]ナフ川の向こうに バングラデシュで生き抜くロヒンギャ民族[本/雑誌] / 狩新那生助/著
2017.08.29
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「一枚の写真」シャムシュル・ラーマン――ああ、いらっしゃい、その後いかがでしたか?お元気でしたか? お子さんたちは?――としばらく話したあとで白壁にかかった物言わぬ写真を見せながらわたしは言った、もの問いたげな客に――――これはわたしの下の息子です、今はもういないんですが、石のかけらのように沈んでしまいました、わたしたちの村の池で、三年以上も前のことです、鴉の啼く夏の昼でした――こう話すのがなんとたやすくなってしまったことか、声が震えるでもなく、これっぽっちも胸が裂けて溜息が漏れるでもなく目に涙が溢れるでもなく、自分の声を聞きながら自分で驚いてしまう、なんと淡々とした冷たい声。三年、たった三年、どれほその蜘蛛の糸を張りめぐらせ、時を過ごしたことか、それでもこの間なんとも無慈悲なだれかがわたしの悲しみの河を干上がらせ、いつの間にか中州を作ったようだった。客が別れを告げるとわたしはまた写真と向きあって立つ、問いかけるような目で色褪せてゆく悲しみとともに。額縁のなかからわたしの息子はまばたきもせずにみつめかえす、その目には怒りも悲しみもない。------------------『バングラディッシュ詩選集』最後の一人。正直言って、この人から一篇選ぶのは難しい作業でした。「同伴者」「一度も私の母が」「独立よ、おまえは」「鴉」「一編の詩のために」「トンネルでひとり」「真夜中の郵便配達」「街灯」「落ち葉」「聞き手」「鹿の骨」…どれにしようか迷いましたが、世界中どこの国の人が読んでもわかる一篇を選びました。中原中也の「また来ん春…」と比べて読むと面白いかもしれません。なお、訳詩では「フレーム」とあるところを、「額縁」に変えました。そこだけ外来語になるからです。丹羽京子さん、勝手にすみません。また来ん春… [ 中原中也 ]
2017.07.31
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「冬の風」ショヒド・カドリ風よ、吹け、冬の風よ、記憶の実りは失われた、今日こそ墓参りにふさわしい。風よ、吹け、冬の風よ、おまえの力でヒマラヤ杉の老木も裸の乞食となりひどく震えている、彼を横たえよ、とだれかが言ったような。風よ、吹け、冬の風よ、友よ、おまえはかつて恵みの風となり、死者の額をざらついた指でなぞり、汗を拭いたはず、偶然かはわからぬが。風よ、吹け、冬の風よ、見たことはなかったか、渦巻く風のなかを巻き上げられていく羽の数々を、鸚鵡の群れは土まみれで洞のなか。風よ、吹け、冬の風よ、------------------『バングラディッシュ詩選集』より。ショヒド・カドリは早熟でしたが、若くして詩の女神と別れました。他に「雨、雨」「窓から」「どうして行きたいのだろう」「待っていろ、わたしが行くから」など。日本人なら、高村光太郎のあくまで個人的な「冬が来た」と比べて読むと、面白いかもしれません。【中古】新選 名著復刻全集 近代文学館道程 抒情詩社版高村幸太郎著 日本近代文学館
2017.07.29
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