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2014.12.25
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カテゴリ: 小説
孤児院で堕胎手術を教わった孤児ホーマーが堕胎手術をやりたがらず農園で働くものの、結局はルールをやぶって孤児院の跡継ぎになって堕胎手術をする話。

●あらすじ
メイン州の田舎町セント・クラウズの孤児ホーマー・ウェルズは四度養父母の元から戻ってきて孤児院に居ついてウィルバー・ラーチ医師の手伝いをするようになり、あらくれ者メロニィと一緒に孤児院に残る約束をして情事をしながら成長していき、ホーマーは優秀な助手となって15歳のときに一人で急患に対処してラーチと父と息子のような信頼ができあがるものの、堕胎手術は殺人だと考えて自分が堕胎手術をやることは拒む。第二次世界大戦前の194X年、ホーマーが20歳になるころにリンゴ農園の跡取り息子ウォリー・ワージントンと恋人のキャンディ・ケンドルが堕胎しに来ると、ホーマーは彼らの友人になってリンゴ農園で働きはじめ、はじめてドライブイン式映画をみながらデートしたりして楽しく過ごし、そのころ25歳のメロニィは孤児院を脱走してホーマーを探して果樹園を渡り歩き、70歳を過ぎたラーチは違法な堕胎手術で職を罷免されないために亡くなった孤児ファズィ・ストーンの架空の成長記をでっちあげたりホーマーの心臓病をでっちあげたりしていずれ孤児院の後任にホーマーを据えようと画策していた。やがてリンゴの収穫期になると黒人の季節労働者がやってきてサイダー・ハウスでリンゴの汁を絞り始める。映画を見に行ったホーマーがキャンディに告白したとき、メロニィがニアミスして仕事仲間ローナや孤児院仲間カーニィを使ってホーマー捜索を強化する。やがてパールハーバーが爆撃されて戦争になると、ウォリーは戦争に行き、ホーマーとキャンディは看護助手となり、キャンディがウォリーとホーマーのどっちを選ぶか決めかねて三角関係の恋はなりゆきまかせなるものの、ウォリーの飛行機がビルマで撃墜されてしまって生存が絶望的だったので、ホーマーとキャンディがセックスしたら避妊に失敗して子供ができてしまい、孤児院にいって息子のエインジェルを産んだときにウォーリーの生存が明らかになり、ウォーリーは種無し障害者になるもののキャンディと結婚して、ホーマーはエインジェルを養子と偽ってウォーリーたちと同居してときどきキャンディと隠れてセックスしながらエインジェルを育てた。15年後にローナとレズ生活をしていたメロニィがホーマーのところにやってきて、ホーマーがラーチ医師のようにならなかったことを罵倒して去っていくと、ホーマーはウォーリーとエインジェルに真実を話す決意をする。その後エインジェルが好きになったローズ・ローズが堕胎したがるものの、ラーチが死んだのでホーマーが堕胎手術をして、堕胎賛成派に考え方を変えてファズィ医師としてセント・クラウズの孤児院の後任になると、感電死したメロニィの死体が送られてきたので埋める。

三人称。冒頭で主要登場人物であるホーマーとラーチの生い立ちを一章づつ書いて、主要人物の人物像を固めてから物語をじっくり展開させていて、長編としてしっかりした構成になっていて内容がわかりやすくてよい。一行空きがあまりなく、ある話題から関連する別の話題への場面転換がうまく、複数の人物が入り乱れる場面も整理されてわかりやすく書かれていてよい。
農園の労働者や駅長などの脇役の生い立ちもある程度説明することで、セント・クラウズ周辺の空間的なリアリティが出ていているのはよい。個性的な脇役の描写を増やすことが全体の面白さの肉付けに寄与しているものの、そのぶん物語の展開は遅くなって、脇役たちのサイドストーリーが複線になるわけでもなく脱線気味になっていて、登場人物が死ぬことでプロットのけりをつけようとする点はご都合主義的で不満が残る。
医学の知識については細部にリアリティがあり、物語内でラーチの日記が引用されることで語りの重層性が出ることでリアリティが確保され、誇張気味のエピソードでもリアリティを保ちつつ展開していて、実際あるかもしれないと思わせるような現実離れしたエピソードを展開するリアリティとユーモアのバランス感覚がよい。しかし堕胎が善か悪かという点についてのホーマーの思想の根拠や議論が掘り下げられておらず、そのうえプロット上の都合で15年を一気にすっとばしてしまって大人になったホーマーの思考の変遷を十分に描けてなく、堕胎は殺人だと思っていたホーマーがローズ・ローズの子供をあっさり堕胎する気になるのも唐突。ホーマーが堕胎や孤児院について真剣に考えていたらもっと早く堕胎賛成者側に回ってもよさそうなものだろうに、15年たってメロニィに罵倒されてラーチの死に直面しないと決断しないというのでは遅すぎて不自然で、リアリティよりも息子を絡めたプロットを優先したように見える。
描写にむらがなく全編をとおして場面を濃密に描写しているのは良し悪しがあって、描写ペースが安定していて読みやすく、平坦な日常の場面にさらっとユーモアや言葉遊びを混ぜ込むのには成功しているものの、全体が均質でのっぺりしていて描写にリズム感や躍動感がなくて、悲劇や感動の演出には向いていない。よくいえば長編小説のお手本のような完成されて安定した文体で、悪く言えば物語の演出手法が地味。
それからタイトルが原題「The Cider House Rules」のカタカナ化でしかないというのが残念。こういうカタカナのタイトルの小説は内容が想像しにくいし、面白くなさそうだし、個人的な体験としてはずれが多いのでなかなか読む気がおきない。それに本文では「サイダー・ハウス規則表(ルールズ)」複数形のルールズになっているのに、タイトルは単数形のルールになっているのはなぜなのかよくわからない。サイダーハウスといわれてもリンゴ絞りの作業場兼季節労働者の寮になっている建物だと知ってる人はまずいないだろうし、中盤まで読み進めないと意味を理解できないようなわかりにくいタイトルで損をしている。
それから些細な瑕疵としては、上巻415ページに「ホーマーはそれまで酔っ払いを見たことがなかったので」シニアの認識力の低下がアツルハイマーによるものでなくアルコール中毒だと思ったという記述があるものの、ホーマーは10歳頃に3度目に養父母に引き取られた際の感謝祭で酔っ払った大人たちを見たことがあるので、この点で描写が矛盾している。


★★★★☆






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最終更新日  2014.12.26 01:48:15
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