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2015.07.02
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カテゴリ: 小説
蜜三郎と妻は鷹四と四国の谷間の村に行くと、鷹四がフットボールチームを率いて曽祖父の弟が起こした百年前の一揆を再現しようとして朝鮮人経営のスーパーを略奪したり蜜三郎の妻と性交したりするものの、村の女をレイプしようとして殺してしまい、蜜三郎に妹の自殺の真相を話して自殺したので、蜜三郎と妻はやりなおすことにする。

●各章のあらすじ
1 死者にみちびかれて
根所蜜三郎(蜜)は右目を投石でつぶされ、友人は顔を朱色に塗って尻にキュウリを刺して縊死し、妻の菜採子(菜採)は酔っ払い、赤ん坊の息子は障害があって養護施設に預けている。蜜の弟の鷹四(鷹)はアメリカで演劇をして学生運動家役を演じるものの劇団を抜け出そうとしていて、蜜の友人は鷹が梅毒の薬を買おうとしているところで声をかける。

2 一族再会
アメリカから戻る鷹の出迎えに蜜と妻は空港に行き、鷹を崇拝する星男(星)と桃子(桃)に会って鷹について議論する。やがて鷹がやってきて、蜜が障害児と現在の生活を話すと、鷹はスーパーマーケットチェーンのオーナーに倉屋敷を売って四国で新しい生活をしようと蜜にいう。

3 森の力
蜜と妻は故郷の森の谷間の村へのバスを途中下車して鷹に迎えに来てもらう。子守女のジンは大食病で太っていて、鷹は徴兵を逃れて森に住んだ狂人義一郎(隠遁者ギー)に会ったと話す。

4 見たり見えたりする一切有は夢の夢にすぎませぬか


5 スーパー・マーケットの天皇
青年グループが養鶏に失敗して、スーパーマーケットの天皇の指示で死んだ鶏を燃やす。蜜の東京の家では凍害で植物が腐っていたのを思い出す。妻はジンに「楽便器」をあげる。蜜の父の死因は不明。鷹は青年グループを鍛えるフットボールチーム(サッカーでなくアメフトのほう)を作るので蜜に寄付しろという。

6 百年後のフットボール
蜜は竹やりでアメリカと戦う夢を見る。妻はジンに教えてもらってチマキを作るものの、昔のやりかたと違っていて朝鮮人の影響で大蒜が入っていた。蜜は死んだ友人と共同で翻訳していた作業を始め、住職と万延元年の百姓一揆について話す。蜜の曽祖父は弟に万延元年の百姓一揆を起こす工作をさせて、倉屋敷で銃で応戦し、一揆をおこしたグループは殺されたが弟は生き延びた。住職はひとりだけ生き延びた曽祖父の弟を気にかけたS兄が一人だけ殺される役割を引き受けたと解釈する。蜜たちは鷹のフットボールの練習を見に行く。

7 念仏踊りの復興
谷間に人が住み始めてから孟蘭盆会では「御霊」をまつる念仏踊りが行われていたが、5年ほどやっていない。蜜は鷹のフットボールが新しい型の念仏踊りだという。大晦日の前日に鷹と青年グループは川に流された子供を救助していて、鷹の訓練が有効に役立っていた。蜜が助役と話すと、鷹が蜜をだまして家だけでなく土地も売っていたことがわかり、蜜は村に無関心なので東京に戻ることにするが、妻は残るという。雪が降り始めたせいで当分村を出れないので、蜜は雪がやむまでひとりで倉屋敷で暮らすことにする。

8 本当のことを云おうか
大晦日に鷹は青年たちに百姓一揆の様子を話して、青年たちは笑って聞いている。蜜は青年たちに馬鹿にされながらヤマドリの下ごしらえをして、焼かれている黒人を思い出す。死んだ友人がアメリカで鷹に声をかけたとき、鷹は焼き殺された黒人の写真が載った公民権運動のパンフレットを見ていた。鷹は自分が本当のことをいうときは蜜に証人になってほしいという。

9 追放された者の自由
蜜はジンに元旦の挨拶をする。村では男たちが殴り合っていた。村では何か異常なことが起きていて、鷹が関わっていると蜜は推測する。スーパーでは一人一品無料で商品を配っていたが、鷹がそこに酒をまぎれこませて混乱と略奪を引き起こしていた。深夜にフットボールチームの若者が桃を誘惑しようとして、鷹に殴られて森に逃げて隠遁者ギーに救助された。鷹は百年前の先祖の一揆を谷間に呼び戻して再現したいという。

10 想像力の暴動


11 蠅の力。蠅は我々の魂の活動を妨げ、我々の体を食ひ、かくして戦いに打ち勝つ。
翌朝、スーパーマーケットの天皇は谷間を逃げ出して暴力団を呼びに行き、鷹たちは応戦するために武装する。星は鷹が菜採と性交するのを止めようとして規則違反で追放されたと蜜に話し、「御霊」に扮した念仏踊りの一段が倉屋敷にやってきて、鷹は菜採と結婚するから干渉するなという。蜜は鷹の暴動が成功するかもしれないと思うものの、その夜鷹が谷間の女の子をレイプしようとして殺してフットボールチームは鷹を見捨てたと妻が知らせに来る。

12 絶望のうちにあって死ぬ。諸君はいまでも、この言葉の意味を理解することができるであろうか。それは決してたんに死ぬことではない。それは生まれでたことを後悔しつつ恥辱と憎悪と恐怖のうちに死ぬことである、というべきではなかろうか。
蜜たちが母屋に行くと、返り血を浴びた鷹がレイプしようとして殺したいきさつを説明して隠遁者ギーが目撃者だというが、蜜と星は鷹はレイプしていなくて事故だと言う。妻は鷹が言う事を信じて、鷹がリンチで殺されるか死刑になるかを望んでいるように見えるという。鷹と蜜は倉屋敷でふたりきりになり、鷹は白痴の妹の自殺について本当のことを話しはじめる。鷹は妹と習慣的に性交していて妊娠させて、妹は知らない男にレイプされたと鷹の指示どおりのうそをついて堕胎して、堕胎直後に性交を求めてきたのを鷹が拒んで殴ったら妹が自殺したという。蜜は鷹が死んだら角膜をくれるというのを拒み、逃げ道を用意しているから死なないはずだと言って鷹のヒロイックな幻想を壊すと、鷹は「オレハ本当ノ事ヲイッタ」と書いて銃で自殺する。

13 再審


●感想
主人公根所蜜三郎の一人称。各章が30ページくらいでひとつの場面を書くという構成で、物語が整理されていて状況を理解しやすい。これは群像の連載小説だったようで、それゆえ各章のページ数が似た分量で区切りのいい場面だけを書くという形式なのだろう。章の終わりごろになにか事件が起きて、読者に次の章への期待を持たせるやりかたは連載形式としてはよい。
文章は自意識を掘り下げていくいかにも純文学な凝った言い回しの文体。夢や記憶を効果的に使って物語内の現実を異化している。平易な表現にならない詩情はあるものの、そのぶん読みにくい。物語はあちこちが重層的で、蜜三郎の曽祖父と弟の万延元年の百姓一揆と、蜜三郎と鷹四の反目は二つの時代の似たような兄弟関係が書かれていて、顔を朱色に染めて縊死した友人と、赤鉛筆で顔を書いて自殺した鷹四の死に方も似た部分がある。しかし何でもかんでも重層的になれば面白いというものでもなく、曽祖父の兄弟と蜜三郎と鷹四の兄弟を重ね合わせるだけでも大掛かりなのに、そのうえ友人の死と鷹四の死を重ねるのは作為的すぎてやりすぎな感じ。白痴の妹と障害児の息子もキャラ被り気味で、白痴の妹と性交した鷹四の子供が障害児の息子の弟か妹になるというあたりも将来の禍根になりそうな仄めかし。
田舎の土地柄、社会からの疎外、没落する家系、血族の諍い、暴力、黒人、白痴、レイプ、リンチといったフォークナー的な要素に加えて、第二次世界大戦、学生運動、朝鮮人、障害児という左翼的大江健三郎要素もあり、大江健三郎的テーマがてんこもりになっている。しかしラーメンのトッピングの全部乗せが一番うまいというわけでもないように、盛り込みすぎで舞台設定に文章を費やしてプロットがごちゃごちゃしてわかりにくくて中途半端になってしまうのはよくない。白痴やインセストなどのフォークナー的な要素が大江的要素よりも強くなって、大江のオリジナル小説というよりもフォークナーのパスティーシュっぽい。Amazonでこの小説を大絶賛している人は元ネタのフォークナーを読んでいないんだろうし、フォークナーの真似で絶賛されるなら褒められるべき作家は真似されたフォークナーである。
メインのプロットである蜜三郎と鷹四の反目と、百年前の百姓一揆の曽祖父の弟の行方についてはちゃんとオチがついているものの、派生的なプロットである蜜三郎と菜採子の夫婦関係については根所家について詳細に説明される反面、菜採子の素性や思考がよくわからず、菜採子と鷹四の不倫の場面でも菜採子がどうやって性的なものの不可能な感覚を克服したのか不明。というかなんで結婚したの?菜採子は仕事もしないで普段何やってんの?と情報不足で疑問だらけで、本来ならば悲劇からの再生という感動のラストシーンなのだろうけれど、菜採子は鷹四と結婚するつもりで鷹四を自殺に追いつめた蜜を恨んでいるくせに、ちょっと考えただけで蜜とやりなおそうとした所で都合のいい寄生先を探しているように見えてしらける。
鷹四が女をレイプしようとして殺したのか、あるいは事故だったのかという最終的な結論も出ていない。鷹四が「オレハ本当ノ事ヲイッタ」と書き残して死んだので、妹の自殺のことだけでなく女をレイプしようとしたというのも本当のことを言ったと鷹四が主張していると解釈できる。ここで科学的な死因を特定しまうとヒロイックな幻想が壊れるからあいまいなままにしておいて解釈の多様性を残しておくのは味のあるやり方で、普通の小説ならそれでよい。しかしそもそも鷹四のヒロイックな幻想を壊して自殺まで追い詰めたのは蜜三郎なので、やるなら徹底して幻想を壊して検死結果を出してほしかった。被害者の女の家族が出てこないのも不自然で、殺人事件として捜査が始まってないのもおかしい。なんで鷹四の葬式やって一件落着みたいになってんの。
鷹四と青年グループがスーパーマーケットを略奪する村人対朝鮮人のプロットのほうでは、青年グループの人数や年齢がはっきりせずモブ扱いなのは雑でよくないし、鷹四の自殺でこっちのプロットはあっさり終了してしまって消化不良気味。表題になっているフットボールチームよりも鷹四のインセスト告白自殺がクライマックスになってしまい、あちらを立てればこちらが立たずというちぐはぐな感じ。星男はプロット上の役割があったから存在意義があったものの、桃子は単なるお色気要因で存在意義がない。村人以外での鷹四の崇拝者という点で星男と桃子は独自の立場を持ちえただろうに、結局は思想らしいものもなく鷹四に付きまとう脇役でしかなかった。
プロットが多様な割に人物描写が追いついておらず、もう100-200ページくらい増やして妻や脇役たちの背景や思想もちゃんと書けていればもっといい小説になったかもしれないけれど、蜜が他人に興味を持たないまま大掛かりな兄弟喧嘩で終わってしまった。

★★★★☆





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最終更新日  2015.07.04 18:52:45
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