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第 二百六十一 回 目 爺もの の試作としてそくら爺さん奮闘記 子供のように無邪気に振る舞い、様々な分野で天狗になっている権威をなで切りにする、痛快な喜劇。 「 田舎政談 」 自らを理想の政治研究家と自惚れている相手との言葉バトル 登場人物:著名な政治評論家・大学教授 と そくら爺 場所:教授の研究室 時:現代 ジジ「こんにちは。或るお人の御紹介を受けてやってまいりました」 教授「はい、連絡を受けておりましたので、時間を割いてお待ちして居りました」 ジジ「政治のことに関しては、少なくとも日本で一番、国内外の事情に精通されていらっしゃる、とても有名な先生とお聞きして、政治の いろは について、色々とお教えを頂きたいと、青森県からやって参りました」 教授「それは、遠路ご苦労様で御座いました。何なりと私の知識の及ぶ範囲でお答えいたしましょう」 ジジ「有難う存じます。早速ですが、私が一番に疑問に思っていることから、質問致します。政治の本質と申しますか、最も大切な点は何でしょうか?」 教授「古代ギリシャの哲学者・アリストテレスによれば、政治とは善い社会を実現させるためのマスターサイエンス。つまり、総合的で、合理的な人間の営みと定義出来ますから、大勢の人々にとって善い社会、住み易い世の中を実現させること、でしょうか」 ジジ「成程。それでは善い社会とは一体どういう社会をいうのでしょう?」 教授「一般的に申せば、平和で安定した、誰もが安心して暮らせる社会ということになりましょうね」 ジジ「誰もが安心して暮らせる、平和で安定した世の中ですか」 教授「その通りです」 ジジ「それは具体的に何処の国の、どの時代に実現した社会なのでしょうか?」 教授「中国の大昔に堯(ぎょう)と舜(しゅん)が統治した伝説の時代が、その典型的な例でしょう」 ジジ「我が国、日本では何時の時代を言うのでしょうか?」 教授「記録された資料が限定されていますので、正確なことは言えませんが、古代では天皇を中心とした支配階級だけが、政治の担い手であり、また対象でありましたから、聖代と呼ばれる時代は幾つか挙げられるでしょうが、現代でいう庶民・市民・国民の隅々にまで恩恵が及んでいたとは、考えにくいので、強いて挙げれば江戸期の比較的安定した時代を、その様に呼ぶことは可能でしょうね」 ジジ「そうですか。江戸時代にも色々と問題があったわけですから、理想的な時代と呼ぶわけにはいかないでしょう」 教授「現代でも超大国のアメリカ合衆国を始め、EUなどの先進諸国も様々な課題を抱えているので、理想社会と呼ぶことはできない。高福祉国家の先駆けと称される北欧の国々がありますが、何も問題がないわけではない。これは飽くまでも他との比較の上での、現実を踏まえた上での仮の話なのですが、現代の日本などはある意味では “理想社会” に最も近い状態なのかも、知れませんよ」 ジジ「えっ、何ですって今の我が国が目指すべき理想の社会だと、仰るのですか」 教授「ええ、まあ事実上はと、条件付きでその様に申し上げているわけです」 ジジ「これは驚いた。吃驚仰天とはこの事ですわ」 教授「裏を返して申し上げれば、政治や政治家に余り多くを期待してはいけない。過大な期待は、根拠のない幻想の如くに、予期しない危険を呼び込んでしまうから、と申し添えましょうか」 ジジ「益々、びっくりの連続で、何が何だか訳が分からなくなってしまう」 教授「現実と理想とは裏腹と申しますか、両立は不可能なこと。人間の習性で理想を追求する、こう在りたい、斯くもなりたい。そう望むこと自体をとやかく言うつもりはないのですが、人間存在というものは中々に厄介な代物でして、完璧な理想追求には向いていない。適してはいないのです、残念ながら」 ジジ「と、仰っしゃる心は?」 教授「過度な理想を追うなと申し上げたい。度を過ごすということは、どの様な場合でも慎まなくてはいけないのですが、とりわけ政治を執り行う際には、最も注意する必要があるのです。何しろ大勢の人々の生命と財産とが、危険に晒される恐れが出てくるのですから」 ジジ「仰せご尤も。そこで、政治で最も肝要な点とは、どのあたりに見出したら宜しいのでしょう?」 教授「人々に、夢と希望を与えること。それも身の丈に合ったそれ」 ジジ「夢と希望。成程、口当たりのよい言葉ですね。具体的には、どういう事を言うのでしょうか。私の様に学も無く、頭の廻りもあまりよくない者にも、納得のいく表現でお願い致します」 教授「その時々の政治情勢によってまちまちですが、昨今の如く少子高齢化の著しい時代では、子育てがやりやすい。詰まり、子供を産み育てる将来の展望が見えている。安心できる、とか安定した生活基盤が築き易い環境の整備が基本でしょう。国作りの活力を生み出す若者に、意欲的な生活への活力を掻き立てる、将来にわたる魅力的なビジョンを提示する事こそ、政治家の、優秀な政治指導者の第一になさなければならないことです」 ジジ「ビジョンというのは遥か未来における理想・目的だと聞き齧っておりますが、最初にあまり理想に走ってはいけない。そういう貴重なご意見を拝聴致したばかりですが、そのへんの折り合いはどの様につけたら、宜しいのでしょう」 教授「ビジョンと現実との関係ですが、鶏が先か卵が先かという、一見合理的に見えてナンセンスな論の立て方は、ダメです。ビジョンと現実とはワンセットなのですね。つまりこうです。ビジョンは現実から演繹される。現実は常に徐々に理想に向って改善され、変革される必要がある。社会の成員全部が一時に満足するということは、理論上は有り得ない事。そして、理想から下に降りてくる形で、政策の順番が工夫され、実施される。そのプロセスで試行錯誤が当然発生する。その事は既に織り込済みの、謂わば想定内のブレとして「試行錯誤」は処理されなければならないのです。ビジョンと現実とがセットになっているとは、こうした意味合いを持っているのですね。お分かりでしょうか」 ジジ「幾分解りにくい所もありますが、要するに 理想 は政治にとって不可欠な物、という御主張と承りました。しかし、現実を無視、乃至は蔑ろに出来ないので、有能な政治家や貴男様のような頭の切れる、政治理論家が待望される」 教授「恐れ入ります。御老人は自身で謙遜されるほどには、頭の廻りがお悪くはない。一を聞いて十を知る、なかなかの知恵者でいらっしゃる」 ジジ「お褒めいただいて恐縮です。現実からビジョンへの道筋について、もう少し詳しい解説が頂けないでしょうか」 教授「結構です。現在の我が国の政治形態は、御案内の如くに議員内閣制。民主主義は愚衆政治の代名詞とも称される。それには確かな根拠・理由がある。国政選挙と言っても要するに、人気が有るか否かによって当落が決まるのですから、見られる通り大半が政治の素人ばかり。残りの大多数がこれまた政治哲学などとは縁が遠い 政治屋 の集まりと言ってよく、政権与党と野党との別は全く見られない。これが日本の政治の実情と言って間違いない」 ジジ「はい、そのようで御座います」 教授「愚衆、即ち愚か者の集団である国民の中から、エリート・優秀な政治指導者が選抜される道理がない。勝れた代議士を選ぶためには、国民そのものが先ず賢い選択が出来る、そしてまた優秀な選良・エリートを生む下地を陶冶育成する、不断の努力を続けなければなりませんよ。単なる愚か者の寄せ集めではなく、人間として立派な、幅広い視野と高い見識、そして豊かな教養を身につけた真の教養人が多数輩出する背景がない限り、本当の意味の政治指導者は出現しにくいで有りましょうから」 ジジ「成程、そういたしますと人間作りが先決と言うことになりそうですね」 教授「まさにその通りです。ですから、不肖私も僭越ながら教鞭をとる教職の末席を汚して、いささかながら微力を尽くして居るのであります」 ジジ「今の政治及び、政治家には何よりも教育が必要だと言う、非常に結構な結論を得たようで御座います。本日は誠に、有難う御座いました」 教授「どう致しまして」と言ったあとで、こんな筈ではなかったと困惑の体である。
2017年09月30日
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第 二百六十 回 目 今回は、婆もの の会話劇で、「目には目を」を創作して御目に掛けたいと思います。 時と場所は現代の或る場所で、登場人物はババと中年の女性 誰か人を待っているらしい中年の女性が、時折周囲に視線を向けながら立っている。そこへ急いでババ登場 ― ババ 「これはこれは、大変お待たせして申し訳ありません」 女性 「(ババを全く無視して、横を向いてしまう)」 ババ 「(益々恐縮の体で)お怒りはご尤も…、どうかお許しを」 女性 「(無言のままで、ババを無視したまま、手振りであっちへ行けと示す)」 ババ 「本当に、三時間もお待たせしたのでは、お怒りは無理もないことで」 女性 「あッ。このクソ婆あ、とっとと消えてしまいな」 ババ 「あーよかった、言葉が喋れるのですね」 女性 「何だと、あー良かった、言葉が喋れるだって。ちょームカつくよ」 ババ 「あの、私、佐藤さんから大切な品物をお預かりして来たのですが…」 女性 「あれー、何だ。そうだったのですか。これは、これは、ご苦労様で御座いました(手の裏を返したように態度が変化している)」 ババ 「やっぱり佐藤さんが言っていたように、優しいお方だった。私は又てっきり人違いをしてしまったかと」 女性 「私ですよ、この私。間違いないのですから、早くその品物をこっちに寄越しなさい。余計なお喋りは止めて(と手を出して催促する)」 ババ 「はぁー、何でしょうか一体、このお手々の意味は?」 女性 「佐藤さん、あの爺さんから預かった物が有るのでしょ。それを早く出しなさいと言うのですよ」 ババ 「ああ、その事ですか。あなた様は急に優しい言葉を使ったかと思うと、また急に乱暴な、邪険な態度をとる。私は根が臆病なものですから、高飛車な態度をとられると、身が竦んでしまって、わけが分からなくなってしまうのです。どうぞお手柔らかにお願い致したいものです」 女性 「(精一杯のお愛想笑いを浮かべながら)これはこれは、私としたことが、気持ちが急いているものだから、つい乱暴な言葉や態度になってしまって。本当に御免なさい、優しいお婆さん」 ババ 「いえいえ、そう素直に受け入れて頂くと、とても恐縮してしまいます。貴女は私が考えていた程の悪人では、ないかもしれませんね、本当は」 女性 「私が悪人ですって。誰がそんなことをお婆さんに言ったのですか、この私が、悪人だなんて」 ババ 「いえね、こうして目の前に貴女を置いて親しくお話をさせていただいていると、そんな考えは何処かに吹き飛んでしまうのですが、あの善人のお年寄り、佐藤さんのお話を伺っていると、随分と酷いことをする人非人・冷血漢も、この世の中には居るものだと、随分と腹が立ったのですが。全部が誤解だったと分かりました」 女性 「(ええ、その通り、と大きく頷いた後で)所で、あれは、大切な品物は何処ですか?お婆さんは手には何もお持ちでは無いようですが…」 ババ 「(指で背中にしょっているランドセルの様なカバンを示して)ここに入れてありますよ、何しろ大金ですからね」 女性 「(ニンマリとして)お婆さん、ご苦労様でした。そのお金を早くこちらに渡して下さい。後は私が良き様に取り計らいますからね」 ババ 「ところが、そうは問屋が卸さないのですよ。(横を向いて独り言を言う)この極悪人が、地獄に落ちろ!」 女性 「極悪人って、一体誰のことですか、お婆さん」 ババ 「こっちのことですよ、わたしゃそんな猫なで声には騙されませんよ。ああ、胸糞が悪くなった、もう我慢の限界だわ」 女性 「さっきから何を言っているのか、本当に理解に苦しんでしまう…。兎に角、預かってきた物をこっちに寄越しなさい。それは私が受け取る権利のある物なのだから」と、無理やりババからランドセルを奪い取ろうとする。それに抵抗しながら、 ババ 「(首に巻いていたスカーフを手に取って)これを三回振って合図すると、向こうに待機しているお巡りさんが、私を助けてくれる手筈になっているのですよ…」 その言葉を聴いて、忽ちに固まってしまう女性。 女性 「お巡りがいる。やばいッ、いつの間にババア、じゃなかったお婆さん、そんな準備がしてあったのですか、手回しよく」 ババ 「悪質な詐欺だって、わたし佐藤さんのお話を聞き終わった瞬間に、ピンと来たんですよ。第六感てやつですかね、ピンピーンとね」 女性 「(警戒するように周囲を見回しながら)何処に居るのですか、お巡り、いえ、警察のお方は?」 ババ 「それは言えませんよ、何しろあんたは質(たち)の悪い悪党ですからね。人の善いご老人を色仕掛けで罠にかけて、大切な老後の生活資金を欺し取ろうと言うのですからね」 女性 「お婆さん、滅相もないことです。私が、この私が悪人だなんて、とんだ誤解です。何かの間違いですよ、親切なお婆さん」 ババ 「(デレデレとだらしなくニヤけてしまい)親切だなんて、そんな本当の事を言われると、私、本当に困ってしまう…」 女性 「ここはお互いに、一人の品位ある女性、つまり淑女・レディーとしてゆっくりとお話し合いを致しましょうよ、ねっ、お婆さん」 ババ 「はい、はい、はい。話し合いは大切ですからね。私にも異存はございません、はい」 女性 「お婆さんは私に対して何か大きな誤解をなさっている。そこを先ず解決しておかないと、話が先に進みませんので…」 ババ 「お言葉ですが、わたしゃ何も誤解などしておりませんよ。悪い事をする酷い人間を 悪党 と呼んでいるだけのことですから」 女性 「さあ、そこがそもそもの大間違いなので、私は世にも稀なほどの大善人を自認する、大和撫子の代表の様な素晴らしい女性。まあ、謂わば真の意味のファーストレディの見本そのもの」 ババ 「(横を向いて、独り言の如くに言い放つ)大和撫子、ファーストレディ。ふん、開いた口が塞がらないとはこの事だわ。全く世も末の末、呆れた悪の怪物が出現したもんだ、こりゃ」 女性 「これ、婆さん、じゃなかったお婆さん。誰のことを言っているのですか、何か聞き捨てには出来ないセリフ、悪口雑言ですが…」 ババ 「聞こえましたか、当然あんたのことですよ。当たり前でしょう」 女性 「それじゃあ言わせてもらいますが、私は何も悪いことはしていませんよ、何も」 ババ 「ふん、盗人猛々しいとはこの事だわ。全く呆れ返って、開いた口が塞がらないよ」 女性 「そんなに無責任なことを口からでまかせに言うのだったら、警察に名誉毀損で訴えてやりますよ、聞き捨てにならない」 ババ 「警察に訴える。寅さんだったら言ったでしょうよ、結構毛だらけ、猫灰だらけってね」 女性 「一体、何のことです。古臭いことを持ち出して…」 ババ 「どうせ私は女の古くなった、成れの果ですから、言うことも古いですよ。でもね、あんたの様な悪事だけは働いたためしが無いのが、自慢なのさ」 女性 「言わせておけば付け上がって、もう我慢ができない」と握り拳を振り上げて婆を打とうとする。ババはさっきのハンカチーフを相手の目の前に示し、 ババ 「警察、警察。お巡りさんを呼ぶよ」 女性 「(忽ちに固まってしまう)」 ババ 「(勝ち誇った如くに)へん、どんなもんだい。因果応報ってね、悪いことをするということは、天に向って唾を吐きかけるような行為ですからね、結局は自分の所に報いが来るのですよ。様(ざま)を見ろっ言うの」と、溜飲を下げたようなババに対して、歯噛みして悔しがる女性。 ババ 「念の為に最後に教えてあげますが、お巡りさんの事以外は、全部嘘ですよ。詰まり、佐藤さんから大切な物を預かってなど来ていません。第一に、佐藤さん自体があんたの話を信じてはいませんから。私は暇つぶしに、あんたをからかってやっただけの事。あー、清々した」とババは意気揚々と退場。ギャフンとなる女性。
2017年09月22日
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( 神慮に依る「野辺地ものがたり」の番外編の 3 として )コクセイさん、と 悲しみが突然、声を掛けて来た、 コクセイさんですよね、あなたは 「ええ、そうですが」、私は素直に、頷いていた、何の躊躇いも無く 「そう言う、あなたは何方でしょうか?」、私は又もや、何の深い考えも無しに そう訊ねていた、直感的に先方が 悲しみ であることを了解していながら そう誰何(すいか)し反問していた、深い考えもなく。相手は「私ですよ、ほら」と、如何にも親しげに近づいて来た、親しげに、ザックバランに…。親しげに、懐かしげに…、ずんずんと私に近づいて来るのだ。 ある日、街角でふと擦れ違った声と姿は、しみじみと懐かしい 悲しみ との再会であり、初めての出会いだった、生まれて始めての 再会だった、確かに…。 悲しみ は 苦 を親として生まれ、苦は 生きる の同義語。苦は元、サンスクリット語でドゥッカと発音され、周囲と同調していない事を、意味した。 ― 苦しみは、周囲とぴったり一致しない故に、何物かが欠乏し、充たされていない 状態を指す。だから、それ故に、生きとし活ける者は、この 苦 = 悲しみ = 満たされない思い で、繋がっている。同類意識を保持しているのだ。 で、それからというもの、 悲しみ は私の最大の人生伴侶者となった、密接な。 悲しみ から私が、こんなにも愛され、愛しく思われていただなんて…本当に信じられなかった、迂闊にも。しかし考えてみれば、それも道理なので、私と言わず、人は真に大切な何かを失って始めて、その対象の大事さに思い至るのを常としてきた。これからも、それは恐らく永遠に変わることはあるまいと、思われる。 悲しみよ、本当にありがとう、有難う…。僕の人生に彩を、輝きを与えてくれて…。 悲しみを心に憶う時に、私は何よりもまず、白いイメージを連想する、確かに。 白い心、しかし、その際の白は、寒さや冷たい感触ではないのだ。冷たさ、 寒さとはまるで無縁なのさ、全然。純粋で、無垢そのもの、さながら 汚泥の中から咲きでたばかりの、純白の蓮華。その蓮華の花弁を思わせて、 一途に懐かしく、慕わしく、そして限りもなく香(かぐわ)しい、また際限もなく ゆかしさを誘う…。 時には又、悲しみは紅(くれない)の心を、鮮やかに浮き上がらせて、 強く、激しく印象附ける、人の気持ちを躍動させずには、おかない、そう、嬉しくも 戦慄させる、強烈な電磁波の如くに。 ―― ひたすらに、直向きに、そして 真一文字に押してくる、情熱のほとばしり…。決して騒々しくも、けたたましくも ない、まるで静寂のよう。まったりと、御淑(おしと)やか、それでいて何処までも 堂々として居る……、愛情一本、愛一筋に。 またある時には、パステルトーンの黄色い想念 ― 混じり気の無い、澄み切った 感情の塊、気高いけれど、取り澄ました尊大さや、相手を威圧する傲慢さは 微塵も含まない。只々、透明な風が遥かの彼方から、静かに、音もなく 寄せてくる風情、雰囲気の波動。それがまたもや、純にして澄明、月の世界の 清浄さを匂わせて、そこはかとなく、何気なくも…。 唯唯、只只、ひたすらに高貴であり、純一に優しく、そして又香(かぐわ)しい。純白の大空というキャンパスに、あたかも弘法大師 空海 が健筆を揮った如くに、紅の、混じりけのまるでない純一なる色彩の限りを尽くして、健気にも、いとしげに、それでいて「 幽(かそけ)く震えている 」……。そう、限りもなく繊細にして奥ゆかしい 哀しみ の極みの存在者、ああ、嗚呼。
2017年09月17日
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第 二百五十九 回 目 今回は、私たちと 芝居 との深いつながりについて、会話劇の形式で表現してみたいと思います。 時代 : 現代 場所 : ある家の部屋の中 人物 : 役者 と 観客の代表(性別は、二人共に演じる人に応じて自由) 二人はつい最近知り合ったばかりで、お互いの事を余りよく知らない間柄であるらしい。 役者 「形式的な挨拶は抜きにして、話の核心に入ろうと考えますが、それで宜しいですか? そうですか、有難うございます。ちょっとした自己紹介から始めさせて頂きますよ。これでも私は、ある種理想的な役者であると、自分自身を高く評価しているのです」 観客代表 「それでは、私の方も、これでも観客としては立派な部類に属すると自負している人間であります」 役者 「それは好都合でした。此処に全くの偶然でもないのですが、不思議なご縁で出会うことが出来た、芝居に関する理想のカップルである二人の人間が、私たちにとって最も関心の深いテーマについて、親しく語り合う本当に素晴らしいチャンスを手にしたわけです。どうぞ宜しく」 観客 「こちらこそ、どうぞ宜しく。また、何卒お手柔らかにお願い申し上げます。なにしろ、あなたに張り合う形で、つい大きなことを口にしてしまったものですから…」 役者 「それはお互い様、ということにして話を続けましょうか…。そう、こういう言い方をしてみましょう。人は皆、生まれながらにして役者である。そして、例外なく『 自分自身を演じること、表現することにかけては、無類の名優である 』と。そのことは、各自が自身を顧み、又周囲の人々を注意して観察すれば、直ぐ納得のに行くことですよね。あなたも私も過不足なく、自己を演じ出していますからね」 観客 「成る程、その様にズバリと指摘されてみれば、実際にその通りかもしれませんね。人は生まれながらにして、役者、それも無類の名優である、か」 役者 「そして、我々を人生という舞台で演出しているのは、姿なき、無論声も無い存在者。つまり、神であるわけですね」 観客 「成程、成程、実に正確なご指摘です。感心しました」 役者 「ですから、何なに流の演出とか言って、過度に演出が目立ったり、持て囃されたりする現象は、理想の芝居からすれば矢張り邪道であり、好ましからざるあり方だと言わざるを得ない」 観客 「成程、仰せいちいちご尤も。あなたの発言は素晴らしさを通り越して、鳥肌が立つ程に素晴らしい」 役者 「有難うございます。調子に乗って言うのではありませんが、人間がする活動の中で芝居の持つ役割が、余りにも本筋を外れ、あらぬ方向に脱線し過ぎている。それが、私にとって最も残念で仕方ないことなのです。余りにもショー化され過ぎてしまった、と言うか、私たちにとって最も大切な芝居の機能が、すっかり忘れ去られて、不当に無視され続けている。ショー化されたり、興行として、ビジネスの一種として大衆受けだけを専らとする在り方が、幅を利かす現象は、ある程度までは仕方のないこと。確かに、そうではあるのですが、芝居の何物にも代え難い重要な役割が、誰からも顧みられず、黙殺されている現状には、とても我慢がならないのですよ」 観客 「あなたがおっしゃりたいことを、先取りするようで恐縮ですが、芝居が本来持つ最重要な機能とは、観客の心の中で行なわれる、浄化作用・カタルシスの事だと思いますが、如何でしょうか?」 役者 「その通りです、そのものズバリ」 観客 「ついでと言っては何ですが、もうひとつ先取り的な発言を、どうかお許し下さい。つまり、芝居小屋における真の主役は、舞台上には実は居ない。平土間、即ち客席に座っている観客こそが、真実の 主役 なのだ、と」 役者 「素晴らしい、実に見事な御発言です。感心を通り越して、感激の極みです、実際」 観客 「私達相互の理解が、細部まで一致しているのかを確認する意味で、もう少し具体的に、噛み砕いて表現してみようと考えますが、宜しいでしょうか?」 役者 「私にとっても有難いことです。どうぞ、お願い致します」 観客 「実に嬉しい限りです。この様な絶好の機会に巡り会えたなんて…。ズバリ申し上げましょう。芝居小屋とは本質的に、何らかの医療や治療行為が行なわれる、非常に大切な場所なのですね。つまり、観客の心の中で、舞台で演じられるドラマに触発される形で、ある種の葛藤・対立が行なわれる。そして日常生活の中で知らず知らずのうちに蓄積されていたストレスや疲労、不必要になった老廃物・澱(おり)などが排泄される。この観客自身が自己に施す治療行為こそ、芝居に与えられている最も重要な役割なのです、言うなれば」 役者 「完璧です、実に素晴らしい」 観客 「未病という言葉があります。未だ病ならず、つまり医者にかかるほどではないが、そうかと言って完全なる 健康状態 でもない。殆どの人、大半のお方が病気と健康体の中間の範囲に、入っている。そうした人々の病的状態への移行を、早めに食い止め、心身の健康を維持・増進させる。そうした予防医療の役割を果たすのが、芝居の本質的な機能なのだと言える」 役者 「実にその通りでして、視点や見方を変えれば、普通に行われている医療行為よりも遥かに身近で、私たちの生活に必要な事柄だと、言うことになりましょうか…」 観客 「(黙って頷く)」 役者 「人々が賞賛を惜しまない最新の医療でも、病名がつかないケースが頻発している。現代の医学では病名がつかなければ、治癒行為、つまり内科的及び外科的な医療行為は施せないわけですが、芝居の持つ治癒力は 万能 であると言ってよく、どの様な症状に対しても治療の可能性を有している」 観客 「本当に芝居というものは、私たちにとって欠くべからざる非常に大切なものでありながら、その本質が今日では誰からも忘れ去られていて、一顧だにされない。まことに残念至極と申しますか、嘆かわしい事態でありますね」 役者 「同感です。言葉というものは私たちの心に強力に作用して、不可思議霊妙とでも形容するしかない、有難い恩恵を施してくれるもの。それというのも、ハムレットに見る如くに、言葉は最も行動的な性質を有しているから、なのですが、いや、本当に普通私たちは『単なる言葉にしか過ぎない』などと、言葉の持つ秘めたる爆発的な威力を、その驚異的な効能を過小に評価し過ぎているのです。言葉は、そうした意味で劇薬ともなれば、百薬の長とも働き得る。そうです、言葉は道具以上の素晴らしい万能の、魔法の道具とも変化する、実に形容すべからざる天与の宝物にほかならない」 観客 「傑作のセリフ劇ともなれば、その芝居が私たちに施す功徳の程は、いかばかりであるか、計り知れないものがあるというもの」 役者 「本当に、私とあなたとは前世からの赤い糸で結ばれた、不思議な御縁で繋がっているせいでしょうか、呼吸が絶妙に合い、じつに愉快そのものです」 観客 「私も同感です。異論がありません」 役者 「そして、舞台の上と平土間、観客の心が通い合う、呼吸、息が合う、ということが芝居ではもっと肝要な要素、これを欠いては芝居をする意味が無い、と言って良いほどに大切なことなのです」 観客 「スターやアイドルをあたかも教祖様の如く崇め、鑽仰する堕落した商業主義の極み。その流行にもそれなりの意味があるのでしょうが、それだけでは、矢張り寂しい限りですね」 役者 「そうです。理想の観客、見巧者があってこそ、芝居は最高度の高みへと達することが可能なのですからね」 観客 「見た目、ヴィジュアルも勿論大事だけれど、芝居で一番大切なのは、想像力、イマジネーションの世界なのですよ」 役者と観客 「お互いに理想を目指して、切磋琢磨して、精進を続けて参りましょう」と、固く握手する。
2017年09月14日
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第 二百五十八 回 目 ババもの 「 褒め殺し 」 場所 : ある場所 時代 : 現代 人物 : 婆 と 二人の男 場面 : 二人の男が、すごい剣幕で喧嘩口論している。このままで放置しておくと、取っ組み合いのケンカになりそうな気配が濃厚である。 男 A 「何だと、もういっぺん言ってみろよ」 男 B 「あぁ、何遍でも言ってやるよ。このド阿呆!」 ババ 「(突然に二人の間に割って入り)わ、のことですか?どうも、どうも申し訳ないことでして…」 男二人は、少しの間、何が起こったのか、理解に苦しむようにしていたが、 A 「お婆さん、あんたには関係ないことなので、ちょっと其処をどいてくれませんか」 ババ 「(Bに向って)あらっ、いやだ、あなたは横浜の佐藤さんじゃありませんか…」 B 「(唖然として)俺は佐藤じゃありませんよ」 ババ 「(悪びれずに、今度はAの方を向き)あら、あら、こちらは山田さんでしたね。ご無沙汰致して相済まんことです」 A 「(呆れたように首を横に振る)」 ババ 「あらまあ、私としたことがとんだ早とちりをしてしまって。御免なさいね、人違いでした。私はてっきり佐藤さんと山田さんが私のことで、熱心に意見を交換して下さっているのだとばかり思って、大変失礼をいたしました」 B 「そうと解ったら婆さん、早くそこをどいてくれないか」 ババ 「まあ、まあ、何て素晴らしいお声なのでしょう。私、堪らないわ、痺れてしまう…」 A も B もともに呆れたというように、天を振り仰ぐ様なポーズ。 B 「とにかく、お婆さん、そこを退(ど)いてくれないかな。俺たち話があるのでね」と、両手でババの肩のあたりを静かに押して、押しのけようとする。 ババ 「まあ、何て優しくて、暖かなお手の感触ですこと。うっとりして、今すぐ天国に登ってしまうような良い心持ちにさせられてしまう」 B 「(何か腑に落ちない様子で、ババから手を離して、反対側で自分に何か言いたそうにしている A の様子に気づき)ウン?やはりあれかな(と右手で耳のあたりでクルクルパーとやり)やっぱり」 A 「(大きく頷き)いかれてるんだ、間違いない」 ババ 「(聞こえない振りをして)えっ、何かおっしゃいましたか?」 A 「いや何、こっちの事で。兎に角、お婆さん何か用事があって、何処かへ行く途中なのでしょう。どうぞ、我々にはお構いなく、行ってください」 ババ 「これはまあ、御親切に有難う御座います。ところで、私の行くところはどこなのでしょう。ご親切ついでに教えては頂けないでしょうか」 B 「(うんざりして)私の行く所は、何処なのでしょうか、だって?」 ババ 「ええ、どうか教えてください。お願いです」 B 「(無言で後ろを向いてしまう)」 ババ 「(今度は A の方を向き)ご親切な貴方、後生です、私の行く先を教えてください」 A 「(ゲンナリしながらも)あのね、お婆さん、あなたは一体どこから来たのですか?それなら分かるでしょう…」 ババ 「ええ、ええ、分かりますとも。私は青森県から参りました。上北郡の野辺地町です」 A 「それで、どこに行く予定だったのですか?」 ババ 「それが問題なのです、よくお尋ね下さいました。それをうっかり失念してしまったのです、実は」 A 「(すこし勢いづいて)誰かに会いに行く為ですか?」 ババ 「ええ、そうです、そうです。知り合いの女性の家に行くところだったのですが…」 B 「(つい、言葉を発してしまった)婆さん、それだけ思い出したら、もう大丈夫だろ、なッ、なッ、なッ!」 ババ 「(嬉しそうに)あなた様、本当にセクシーなお声で、私、本当に心の底から痺れてしまう。どうしようかしら」 B 「(半信半疑だが、満更でもない)えーっ、俺生まれてからそんな事言われた経験がないので、困ってしまう」 ババ 「ほら、ほら、その低音が、バスが婆の女性心を強く揺さぶるのだわ」 A 「(もう既に本気で照れている B のデレデレした態度に呆れながら)お婆さん、あなたの行くところの話を続けましょうよ」 ババ 「はい、はい、ご親切に有難う存じます。それで、私は何処に行ったらよろしいのですか?」 A 「いいですか、落ち着いて下さいね。知り合いの女性のお名前は何というのですか。それは解りますでしょ」 ババ 「はいはい、分かりますとも。昔からの知り合いですからね。その人の息子さんが又、母親に輪をかけてような性格の良い人で、ああ、そうそう、丁度貴男様のように紳士で、女性や年寄りに親切で…。でも、貴方は特別にジェントルマンです、比べようもないくらいに」 B 「(婆の気を引くように)俺だって別に、意地が悪いわけではないよ、婆さん、じゃなかった、お婆さん」 ババ 「そうですよ、あなたのように素晴らしい声の持ち主が、意地が悪いわけがありませんからね」 B 「それで、その知り合いは、何処に、どんな場所に住んでいるの? えっ、その、お婆さん」 ババ 「それが分からないので、困っているのよ。あんたさん、親切ついでに教えてくださいな、お願いします。この通りですから(と、深々と頭を下げて哀願する)」 A 「何かヒントになるようなものは無いのですか」 B 「そう、そう、何かちょっとした手掛かりのようなものでもあれば、我々にもお手伝いの仕様も、あるのですがね」 ババ 「まあ、まあ、お二人共偶然にこんなにお優しいお方に巡り会えたなんて、観音様のお引合せに相違ありません。有難い、有難い(と、交互に A と B を見て両手を摺り合わせては、伏し拝む)」 A と B 「(共に、大いに照れて、先程まで激しくいがみ合っていた事をまるで忘れてしまった)」 A 「お婆さん、観音様と言えば、浅草の雷門のある、あそこが有名だけど…」 ババ 「あら、まあ、そこですよ、私が行きたかったのは。これはまたお二人さん大変にお世話様でした。ほんとにアリガトさん」と、何事もなかった如くに行ってしまう婆。残された二人は、顔を見合わせて何だかバツが悪い。そのままどちらからともなく、反対方向に歩き去る……。 《 終わり 》
2017年09月04日
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