関本洋司のblog

2004年10月25日
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テーマ: 戦争反対(1190)
カテゴリ: コラム
 第九条を含む日本の憲法を扱った本のなかで僕が最も重要だと思う本に『日本国憲法を生んだ密室の中の九日間』(鈴木昭典著、創元社)があります。題名が誤解を招くかも知れませんが、これは歴史上「密室」であった部屋のドアを後続者である私たちに開いてくれる本です。


第一生命ビル
有楽町、皇居前の第一生命ビル

 この本に見取り図まで記載されていますが、その記念室と反対側にある帝国劇場側の大きな部屋(集会場)で憲法は起草されたそうです。そうした憲法起草者にはアメリカ人とはいえ様々なタイプの人間が参加しました(この本で彼らがインタビューに答えているのは歴史に証言を残すべきだという意志が彼らに大きいからでしょう)。この辺の事情に関しては、評論家の鶴見俊輔さんも語っている通りです。

参考: 鶴見俊輔さんインタビュー

 ちなみに鶴見さんは憲法9条が日本人に選ばれなくても、自分が選ぶと言っている、筋金入りのアナーキストです(鶴見さんのアナーキズムはプルードンではなくクロポトキン経由ですが)。
 本の内容に戻るなら、2/1の毎日新聞のスクープをきっかけにして、彼らが憲法を作り上げて行く9日間(1945.2/4~2/13)の興亡にはすさまじいものがあります。印象批評をさせてもらうなら、彼らが作戦と期日を決めて集団でものごとに取りかかる様子は、アメリカンフットボールを思わせます(それに対して松本試案に代表される日本の保守的なグループは既に存在しない土俵の上で相撲を取ろうとしているようなものかも知れません)。
 一応アメリカ国籍である彼らは現在過去を問わず様々な国の憲法を参照し、そうした理想を日本国憲法に託しました。ただし、章立てに関しては明治憲法と変わらないように工夫したところが、当時の日本の民衆の理解力に配慮しているところだと思います。
 この計画は「真珠の首飾り」計画と呼ばれ、同名の舞台にもなっており、最近でも演じられ好評を得ました。


参考: 横浜放送ライブラリーHP  、 ドキュメンタリー工房HP

 本書の中で、細かいが興味深い部分を追記させていただくなら、それは「象徴<シンボル>」という言葉が選び取られたいきさつが書かれている箇所です。以下引用します。

  ~問題の「象徴」という言葉は、一九三一年制定ウェストミンスター憲章前文に出てくる。
~「そうです。<シンボル>という言葉は、(中略)アメリカ人ならば十人が十人とも、<精神的な要素も含んだ高い地位>という意味を、すぐ理解する言葉です。<シンボル>というのはよい表現だと思いました。」~(同書p118、当時起草に関わったプール元少尉の言葉より)

 天皇の扱いに関してもこうしても当時、憲法草案の起草に直接関わった人々の意見が率直に語られており、この本は貴重な証言集となっています(ちなみに現在の天皇制は単に人権侵害だと思いますが・・・)。
 こうした憲法作成のプロセスを身近なものにした書物としては、これ以上の本は考えられないし、また事実存在しないでしょう。(憲法創設委員には、当時22歳のべアテ・シロタという女性も参加しており、主に女性の権利条項において活躍しています。そのいきさつはさらに『1945年のクリスマス』という本にもなっています。こちらも魅力的な本です。)

 今後再び、第一生命ビル六階のマッカーサー記念室のみならず集会場(ボールルーム)が一般に公開される日が来ることを願っています。





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最終更新日  2004年10月25日 00時24分12秒


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