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2012.10.16
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カテゴリ: 読書案内
【ミステリーの系譜/松本清張】
20121016


◆人は気付かぬうちに誰かを傷つけている

ちまたの推理小説家の中でも、群を抜いて優れているのが松本清張である。松本清張の緻密な資料集めと分析能力、それに現場百ぺんの徹底したリアリズムは、たいていのミステリー好きな読者の度肝を抜く。
頭の中でちょこちょこっとこしらえた非現実的なドラマとは、まるで違うものだ。だから事件を大げさに煽る修飾的な言葉もなければ、余計な主観を読者に植え付ける描写もない。とにかく淡々と冷静に、時系列に沿った文体なのだ。
犯罪は犯罪であり、同情をかってはならず、それ以上でもそれ以下でもいけないということなのだろう。

『ミステリーの系譜』は、「闇に駆ける猟銃」「肉鍋を食う女」「二人の真犯人」の3篇が収められているが、3つとも大正、昭和史に残る犯罪実話である。
「闇に駆ける猟銃」は、映画『八つ墓村』のもとになったもので、無論、ノンフィクションだ。昭和13年の岡山県津山で起きた、いわゆる“津山事件”で、当時21歳の犯人が、その日のうちに村人の28人を死に至らしめ、他に重傷死2人、重軽傷2人という大量殺人行為をはたらいたものだ。
犯人は健康上の悩みを抱えていたようだが、どうやら本人の被害妄想、自意識過剰から来るもののようで、医学的にはさほどのことはなかったようだ。性格はいわゆるネクラタイプで、対人関係が苦手だった。とはいえ、農村にはこの手の晩生な青年は珍しくもなく、これといった異常性を見出すことはできない。学業は優秀で、容姿も悪くなく、むしろ色白の美青年だったようだ。
松本清張の着眼点がスゴイと思うのは、このようにどこにでもいそうな、平凡でありふれた青年が短時間でこれほどの大惨事を引き起こす可能性があるのだという事実に注目したことだ。
犯人に前科があるわけでもなく、田舎の農村を舞台に、ある日突然、降ってわくのだ。

この日常生活に潜む、どうしようもない不気味な現実は、過去のことではなく、現在を生きる我々にも同様の危険が孕んでいることをうかがわせる。

私たちは知らない間に誰かを傷つけ、苦しませているのかもしれない。だとしたら自分の言葉に責任を持つことで、無用な噂話や無駄口は慎むべきだろう。誰かの耳に入った時、あるいは復讐に燃え滾るその人物から、腹部と乳房に貫通銃創を受けるかもしれないので・・・。

『ミステリーの系譜』松本清張・著


~読書案内~   その他

■No. 1 取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ
■No. 2 複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!
■No. 3 雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!
■No. 4 完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する
青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ
■No. 6 しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる
■No. 7 白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す

新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!





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最終更新日  2012.10.18 14:47:33
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