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2023.03.22
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第1話

…九重の天の上
仙界に天仙と地仙が誕生した
厳格に秩序を守る天仙に引き換え、しばしば禁を犯す地仙
そんな掟を破る者たちを教化するのが天仙の精鋭・御霊師(ギョレイシ)だ
天仙の世界では地仙との恋は御法度、中でも南方の万花谷(バンカコク)ではこの禁令が遵守されていた

私の名は紀雲禾(ジーユンファ)、運命は信じていない
かつて心から愛した人に言われたことがある

あの人の言葉は全て胸に刻まれている
彼は鮫人(コウジン)の長意(チャンイー)

『長意、私の命はもう尽きる、最後の数日だけでも私を自由にさせて』

思いもしなかった
心から愛した人にとらわれて自由を奪われ、死を待つことになろうとは

『以前のように私を騙せるとでも?そうはいかぬ、はっきり告げておく
 天下広しと言えど、君の居場所は私の目の届く範囲のみ!』

なぜこんなことになったのか
それはあの頃にさかのぼり語らなくてはならない…


万花谷の御霊師・紀雲禾は犬猿の仲である兄弟子・林昊青(リンコウセイ)と護法(ゴホウ)の座を競っていた。
その日、雲禾が追っていたのは凶暴な地仙の姑獲鳥(コカクチョウ)、そこで雛鳥を盾にして降参するよう説得する。

「子を思う親心ね…でもこの雛は阿音じゃない」
実は天庭の記録によれば阿音は120年前の西南の大火で命を落としていた。
姑獲鳥は自分の起こした火事で雛を失った自責の念から、灌灌鳥(カンカンチョウ)の雛を奪って阿音の身代わりにしたのだろう。
そこで雲禾は阿音が上仙に助けられ人間に転生したと教え、司命星君から借りたという法器で現在の阿音を見せた。
姑獲鳥は元気な我が子の姿に涙、雛鳥を親元に帰すと決める。

 素直に霊丹を出して、仙師府で罪を償えば再起できる」
姑獲鳥はようやく執着を捨て、自ら霊丹を差し出しておとなしく仙師府へ向かった。



瞿暁星(クギョウセイ)は姐弟子が姑獲鳥に見せた術に驚き、今の技を学びたいと頼んだ。
しかし雲禾は御霊の秘術を学びたければ霊石と引き換えだという。
「雲禾…俺から霊石を取ると?」
その時、張(チョウ)仙使が現れ、灌灌鳥を奪った。
「この羽毛は極上の飾りになる…順徳(ジュントク)仙姫に献上しよう!」
張仙使は雛と引き換えに希少な″禁言の符″を雲禾に渡す。
すると雲禾はその符を張仙使に使って口を封じ、雛を取り返した。
「私では禁を解けませんので仙姫の元へお帰りください」

雲禾は瞿暁星に雛を託し、故郷へ帰すよう頼んだ。
「雲禾…順徳仙姫は天君の姉で仙師の寵を受ける直弟子
 張仙使はその順徳仙姫の側近だぞ?恨みを買うのはまずい…」
「我慢して従う必要なんかないわ」

その頃、林昊青はひと足先に歴風堂(レキフウドウ)に戻っていた。
父で万花谷谷主・林滄瀾(リンソウラン)は足を悪くして車椅子だが、その威厳は少しも衰えていない。
すると昊青は暴れ犀(サイ)の霊丹を見せた。
「若いのに凶暴な地仙を馴らすとは!かつての谷主を思い出させますな」
東濂(トウレン)長老はこれで護法の座は少谷主のものだと喜んだが、木沢(ボクタク)長老は前回の比武で勝利したのは紀雲禾だと指摘する。
「刻限まではまだありますぞ」
その時、雲禾が現れた。
「まさか早い者勝ちで決着をつけるおつもりですか?」



雲禾は姑獲鳥の霊丹を持っていた。
あの凶暴な姑獲鳥を手名付けたと知った長老たちは騒然、しかし昊青は雲禾が御霊の際に張仙使ともめたと知っている。
万花谷は先師府に統括されていた。
仙師の直弟子・順徳仙姫は御霊師に命を下す権利を持ち、怒りを買えば大変なことになる。
すると雲禾は昊青に暴れ犀をどう始末したのか聞いた。
「凶暴で手に負えぬ、殺すしかない」
「万花谷では仙師府の命は絶対です、罪を犯した者は仙師府で天規に照らし裁かれる
 しかし師兄は独断で処刑したと?…罪を問われるのは私ではなく師兄では?」
その時、黙って聞いていた谷主が口を開いた。
「世界は天と地に分かたれた
 我ら御霊師は天仙・帝俊(テイシュン)の後裔(コウエイ)、古(イニシエ)より禁を犯す地仙どもの御霊を担ってきた
 殺さずに戒めて御する、御するに当たっては悪行を改めさせ、善に導かなくてはならぬ
 つまり地仙の教化を御霊の上策とする」
谷主は暴れ犀を仕留めただけでは修行が足りないと息子を諭し、雲禾に褒美として私蔵の宝を2つ与えると決めた。
「護法に昇格した祝いの品を授よう…雲禾、今日は″技を伝える日″だったな」

雲禾は″技を伝える日″に谷主から薬をもらい、寒霜(カンソウ)の発作を抑えなければならなかった。
しかし今日は張仙使を怒らせたせいで厳しい罰を与えられてしまう。
雲禾は骨の髄まで凍りそうな痛みに襲われながら、これも師兄のためだったと釈明した。
実は雲禾は昊青を一人前に成長させるための研磨石のようなもの、自分が張仙使に嫌われることで昊青の味方をするよう仕向けたという。
「…私の命は谷主の手中にあります、早く薬をください」

雲禾は護法の令牌と薬を受け取り、洛洛(ルォルォ)が待っている花園まで何とかたどり着いた。
洛洛こと洛錦桑(ルオジンサン)は蝶々の精で紀雲禾の仙侍であり盟友でもある。
2人の夢は霊石を貯めて仙島と交換し、万花谷を脱出して気ままに暮らすことだった。
「洛洛、北の地はどう?雪の降る清らかな世界、毒の花が咲き乱れる…
 この万花谷とは真逆の場所よ?」
「いいわね!…でも寒霜の発作が出たらどうする?薬を盗もうか?」
「だめよ、とにかく機が熟すまで待つの」

雲禾が護法となって1ヶ月が経った。
洛洛は簡単に服従しそうな地仙を準備しては弟子たちに霊石を払わせ、紀護法の御霊術を見学させる。
今や護法として風格も出て来た雲禾、そんな雲禾の唯一の楽しみは読書だった。
洛洛は偶然、拾った作者不明の古書をなぜ大事にするのか分からなかったが、雲禾は本の中にある絶景や美食に思いを馳せて気分転換するという。
「美しいものを愛でたい…誰か谷主を制する者がいれば…」
その時、張仙使が雲禾を訪ねてきた。

張仙使は雲禾に凶暴な地仙の御霊を頼んだ。
地仙の箱が呪詛を込めた仙師府の金符で封印されていることから、相当やっかいなのだろう。
実は仙姫が権力を握ってから仙界は混乱し、もう長いこと九天に平和はなかった。
瞿暁星は張仙使の報復だと分かったが、雲禾は危険を承知で箱を開けることにする。
その様子を思語が遠目から見ていた。
思語は法力の高い紀雲禾が万が一にも御霊に成功すれば、主が水をあけられてしまうと心配し、密かに術を放って金符を解いてしまう。
そのせいで雲禾が箱に触れただけで突然、蓋が壊れ、鮫人が飛び出した。



鮫人は近くの池に飛び込んだ。
初めて美しい尾ひれを見た雲禾は興味津々、しかし鮫人は敵意剥き出しで雄叫びを上げる。
そこで雲禾は戦部の弟子たちと陣を敷こうとしたが、鮫人の凄まじい力に跳ね飛ばされた。
すると駆けつけた昊青が矢を放ち、鮫人は尾ひれを射抜かれ、拘束されてしまう。
「兄長!尾ひれを傷つけないで!」
その時、万花谷に順徳仙姫の輿が到着した。
「期待通りだったわ~このあとも期待を裏切らないで欲しいものね」



捕縛された鮫人は数日前、仙姫が東海へ出かけた際、弟子たちに怪我を負わせていた。
そこで鮫人の教化を命じたが、望みがあるという。
1つは口を開かせて仙姫に臣服させることだったが、2つ目は永遠に海に戻れなくなるよう尾を断つことだった。
鮫人にとって鮫尾と鮫珠は命も同然、木沢長老はさすがに奪うのは困難だと訴えたが、仙姫の顔色が一変する。
緊張に包まれる歴風堂、しかし仙姫が突然、高笑いした。
「あははは~!何をそんなに焦っているの?私は何事も半端なことはしたくないだけ
 役に立たぬのなら生かしておく必要もない…谷主もそう思うでしょう?」
すると仙姫は自分の望みを叶えた者にはいかなる褒美も出すと約束した。
その時、雲禾がやって来る。
「護法の紀雲禾がお望みを叶えるべく教化を行いましょう」

つづく


( ๑≧ꇴ≦)ディリラバ登場!
ショートカットと師兄のアゴは見なかったことにして





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最終更新日  2023.04.03 23:17:24
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