2009年01月31日
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Alexandre Dumas, fils : La Dame aux camélias (1848)

デュマ・フィス「椿姫」
新潮文庫

何の気なしに見た本屋の棚にあった椿姫。
バレエもオペラも知らないで読んだなら単なるメロドラマで終わる作品。
しかし思い入れが違うので読み進むにつれすぐに涙がにじんでくる。
ありえないぐらい悲しくなる。
それが椿姫。

ノイマイヤーの名作「椿姫」はこの小説を忠実に再現している。
想像を交えながら。

一方ヴェルディのオペラの「椿姫」(=ラ・トラヴィアータ=道を踏み外した女)はまったく異なる。
出てくる人物の名前も違う。
同じなのはガストンぐらいか。

この本を読んで思い描いたアルマン像とは、金髪で優しげな顔立ち、細くて背が高い男性、
黒い燕尾のスーツが似合う男性。
激情家でしかも泣き上戸。
髪色を除けば、まさにマチュー・ガニオかエルヴェ・モローだった。
育ちの良さではまさにマチュー。
ノイマイヤーの映像化されている椿姫がイヴァン・リスカなためか
やぱりアルマンは金髪じゃないの?という気がしてくる。
実際小説でも「金髪で背が高い」という記述がある。

マーシャ・ハイデそのままである。

+++

この小説を語る「私」は競売にかけられている亡きマルグリットの部屋に偶然入り込む。
そして、競売対象の小説「マノン・レスコー」を衝動的に購入してしまう。
後日男が彼のもとに現れる。

彼は遠くから来たので競売に間に合わなかったと語り、その本を売ってほしいと頼む。
その本には書き込みがあった。
この本はアルマンがマルグリットに贈ったものだったのだ。
私は同情し返すことにした。
私はアルマンとなぜか共感し、彼の長い物語を聞くことになる。
それを書き留めたのが小説の内容だ。
二人は墓場まで行ってマルグリットの墓を開き、遺体をほかの場所に移す。
うつろに穴の開いた眼窩、そんなおぞましい姿を見てアルマンは卒倒寸前になりながらも耐える。
アルマンは病に臥せりながらも私にマルグリットのことを語りだしたのだ。

マルグリットはいつも芝居の初日、桟敷席に座るのが恒例の女だった。
アルマンは一目ぼれするが、劇場でお近づきになろうとするが思いっきりばかにされてしまう。
アルマンは帰るマルグリットの馬車をつける。
一人で家の中に入っていくマルグリット。
なぜだか安心するアルマン。
数ヶ月たちアルマンはマルグリットの家の隣に住む、元高級娼婦、今はマルグリットの世話やき婆のような存在の女、プリュダンスと友人のガストンに手引きされ、マルグリットの部屋に行く。ガストンもマルグリットの元彼氏だったのだ。
彼女の病気を心配していた彼に、マルグリットはなぜか親しみを覚える。
今度いつ会えるのですか?
この椿がしおれたら
いつ?
あしたよ。
(ここは有名なオペラのシーンだが小説にそのまま書いてあるのだ)
彼と付き合っていてもマルグリットはほかのひいきの男たちとの付き合いをやめなかった。
G伯爵と夜を過ごしていたマルグリット。
世間知らずで若さゆえの傲慢、うぶなアルマンはそれが許せず、ひどい手紙を書いてしまう。
しかし誤解が解けた2人は田舎に家を借りる。
それは実は大金持ちのパトロンの老公爵のお金を散財していたのだった。
田舎で大騒ぎするマルグリットと取り巻き。
ついに老公爵は怒ってしまい、大盤振る舞いができなくなる。
田舎の家で二人は愛を深める。
二人は質素な暮らしをすることにし家を購入しようとする。
しかし、アルマンの父親が田舎から出てきて彼をいさめる。
アルマンは聞く耳を持っていない。
アルマンの父は戦法を変える。アルマンが知らない間に、マルグリットに身を引くようお願いしていたのだ。
アルマンを捨てたマルグリットは大嫌いだったN伯爵に身を預けていた。
アルマンは逆上し、オランプという別の高級娼婦をマルグリットの目の前で口説く。
女同士のいさかいがあり、
ある夜マルグリットはアルマンをいさめるため、彼のもとにやってくる。
アルマンは彼女を帰さず、二人は激しく愛し合う。
彼女が帰った後彼女の家に行ったアルマンはN伯爵が来ていることを知り、
腹立ち紛れに金を送りつけて侮辱してしまう。
彼と彼女の関係はここで途絶えてしまった。
彼が本当のことを知ったのは彼女が死んでからだった。
彼女の日記とその後看取ってくれた人の手記を読んだからである。
彼女の救いのない、苦しみに満ちた死がそこには書かれていた。
彼の父親のしたことと彼女がそれを受け入れたことも。
マルグリットは死ぬ前に劇場へ行きアルマンの姿を探し求めている。

アルマンは「私」に何かも打ち明けた。
こうしてこの小説は終わる。

+++

ノイマイヤーの「椿姫」では再三再四、マノンの舞台が表現される。
マルグリットはマノンと同じ高級娼婦なので自分の運命を見ているように悲観的である。
しかしどうなんだろう?
ノイマイヤーの考えは私には疑問だ。
マノン・レスコーは無邪気な悪女である。
金のために体を売って好きな男に貢ぐ。
そこはまったくマルグリットといっしょだ。
しかし彼女がマノンと同じだったら果たしてアルマンは彼女に魅かれただろうか?
彼はマルグリットの潜在的な善に魅かれていた。
その外面とのギャップに魅かれていたのだ。
マノン・レスコーはキリスト教的に堕落した女で救いようがない。
キリスト教的には死んでも当たり前の女なのである。
マルグリットはキリスト教的な愛のために肉欲の愛を捨てたのである。
彼女は聖女だ。
アルマンとの愛を無邪気に貫くことはキリスト教の世界では悪である。
肉欲は真の愛ではないからである。
ひとたび身を売った女は一生救われない。
タンホイザーの救済もだから得られない。
しかしマルグリットはアルマンの妹の清純な人生を守るために、
自分の愛を捨てたのである。そして孤独に死んでいった。
これはキリスト教的には一転聖女になるのである。
だからマルグリットは思うだろう。
マノンでさえ好きな男に抱かれて死んでいったのに
私は孤独で病に苦しみながら死んでいく。
たったひとつ神様の気に入る行為をした報いはこれね。
でもそれでもいい。
オペラの椿姫ではそこが終幕ではっきりと語られる。
彼女は救われなかったんじゃない。神に救われているのだ。キリスト教的には。
だからノイマイヤーの最後まで救いを与えなかったような描き方は悲しいかもしれない。


+++

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最終更新日  2009年01月31日 21時07分00秒


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