“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

2022.08.30
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立秋・処暑の連続講座 その13


人件費をどう考えるか ~“手間賃”を省いてコスパをあげる
 「見た目に綺麗な料理を提供すると、人手がかかる分、原価率を20%くらいに抑えないと経営していけなくなるんで、あまり凄い食材を使えなくなるんですよ」これは、「料理はとてもおいしかったんですが、1万円のランチなのにメインは鱈だったんですよ」と東京に進出した海外の三ツ星レストランのランチに行った時の感想に対するとあるオーナーシェフの感想だ。
シェフは12人満席に設定して、シェフを含めた料理人3人で店を運営している。
客単価はワインのチョイスにもよるが3万円~5万円くらいが平均だろう。
そのため、メニューの説明、料理の説明などの接客もシェフを主体に料理人で行う。
三人で運営しているからと言って、料理の皿数は少なくなく、小ポーションのアミューズ4~6種類、前菜2~3品、メイン2品、デザート2品で、どの料理もかなり手の込んだ料理だ。しかも、驚くべきことに、どこのレストランよりも提供はスムーズだ。
こちらのお店、最近ミシュランの一ツ星に格付けされたのだが、その内容が型破りだ。
まず、店舗が地階一階にある。ミシュランガイドでは地階にある店舗は減点材料だと言われている。
そして、フレンチレストランにも関わらず、ギャルソンもソムリエもいない。

 シェフはなぜこのような選択をしたのだろうか?実は値付けが大きく関わっている。
今回は原価以外の人件費などの費用が及ぼす売価への影響を検証しよう。
私たちはかかった原価をベースに値付けをすることが多いし、“激安”を論じるときに原価だけをクローズアップして論じることが多い。しかし、飲食店の原価率は多くの場合、そんなに突出して高いわけでなく、原価率、人件費比率、初期条件比率(※初期条件=家賃+減価償却費+支払金利)率で、売上のかなりの割合を分け合っているというのが現実だ。
例えば、原価率35%・人件費25%・初期条件20%とか原価率20%、人件費率40%、初期条件比率20%のような感じだ。
 つまり、人手(人件費)をかけるビジネスモデル、良い場所に店を作るビジネスモデル、お金をかけた店を作るビジネスモデルで原価率は大きく変わり、自ずと売価設定は大きく変わる。

グラスワイン1,000円のわけ
 この夏、在籍していたソムリエが独立して店舗を持つことになり、最初は後任としてワインの勉強したい若いソムリエを募集していたようだが、途中で考えが翻ったようだ。そして、いきついたのがグラス一杯ワイン1,000円だ。
もともとラインナップしているワインはシェフが10年以上のフランス修業時代に人間関係を築いたドメーヌのワインばかりをおいている。夜通し、ドメーヌでワインを酌み交わすほど人間関係を築いているので、料理とペアリングをして出たお客様の感想をドメーヌにメールで直接伝えているほどだ。
ソムリエが独立した後、シェフは「ソムリエをおかない分、人件費の分をワインの売価に反映したらワインを飲むお客様は嬉しいのではないだろうか」という考えにいきついた。
確かに、多皿のコース構成でいろいろな料理が出るスタイルのこちらのような店は、料理に合わせていろいろなワインを楽しみたいというのがワイン好きのお客様の要望だ。
そして、お酒を飲まない人が増えた今、相手のことを気にせず飲みたいワインをチョイスできるのもいい。
こんなことから、ソムリエを置かずに運営すること、その人件費分売価に反映して有名なグラン・クリュやプルミエ・クリュのグラスワインを一杯1,000円にした。一例を出すと、“2007Meursault Clos de la Barre Domaine des Comtes Lafone”, “2011 Engelgarten Domaine Marsel Deiss”, “2012 Condru Pirre Gaillard”, “2006 Grand Cru Wineck Schlassberg”, “2011 Lafon Volnay”

これだけのことを考えれば、他の高級フレンチで飲めばグラスワイン一杯2000円~3000円の値付けになるだろう。割安のフランス料理店でも1500円の売価をつけるだろう。

 ところで、「これだけグラスワインが出たら洗い物が大変そうだ」ということも聞こえてきそうだ。実はこの質問はとても重要で、格安の売価の課題となる“多売したときの裏付け”に関わる問題だ。多くの店がコストパフォーマンスを追求した場合、なんら多売の裏打ちがなく、人的な部分に負荷をかけていてスタッフが疲弊しているケースが多い。もちろん、シェフは違う。
シェフはウインターハルターの高性能な洗浄機を入れている。その洗浄機は下洗いの必要がない。ただ、洗浄機に入れるだけ。拭き取りも要らないという触れ込みだ。當店ではまとめてグラスを洗い、水滴の拭き取りだけ行いグラスは極力いじらない。確かに、洗浄機を稼働させるのに500円かかるが、どんなにうまく扱ってもある程度の破損率になることを考えれば、一脚数万円するリーデルブラックを使っていることを考えれば合理的である。
考え抜かれた末のワイン1000円なので、とても評判がいい。
 グラスワイン一杯2500円なら多くの人は注文を恐る恐るするだろう。したがって、一杯を売るのはとてもたいへんだ。しかし、一杯1,000円でワインも明確に違えば飲みたいだけ飲んでしまい、三杯売るのはそんなに難しくない。一杯2500円のワインならがぶがぶ飲む人はいないだろうが、1,000円のなら残量を気にせず次々に楽しめる。

原材料費は最大の販促費という。
売価を見直すとき、店全体のコスト変更も頭に入れるべきである。


2015年2月号「日経レストラン」より





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Last updated  2022.08.30 15:55:49


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