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2015.01.05
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『癌だましい』山内令南(文春文庫)

 いつものように、ふらりと入った大型古書チェーン店で見つけた108円本なんですけれどね。
 だいたい半月~一か月に1回くらい、わが家から半径10キロメートルくらいですかね、かなりアバウトな数字ですが、とにかくそのくらいの距離内に多分あるであろう3軒の大型古書チェーン店を、わたくし、回遊いたします。
 すると、時々おやっと思う本に出会うんですね。

 まず、タイトル、ですね。
 何を今さら、という気ももちろんするんですが、「癌」という漢字ね、本書の表紙に、だいたい2センチメートル角くらいの大きさで書いてあるんですが、こちらがそう思うからかもしれないですが、病だれの中の品と山の重なりの表記って、なんか、むずむずくちゃくちゃとっても気持ち悪くありませんか。

 とにかく、考えてみればよくできた漢字だなと思って、ちょっと漢字辞典を調べてみたんですね。
 病だれは病気関係の文字ですね、もちろん。中の品と山の重なりは、堅い固形物を表すってんで、ふーむ、良くできているものですよねー。そしてこの品+山は「巌」が元の字形である、と。
 なるほどねー。身体の中の巌のように堅い塊ですか、見事に言い表していますねー。
 これだから、漢字ってのはなかなか侮れないんですよねー。

 と、ひとつ賢くなったところで、私はぼちぼちと読み始めました。
 裏表紙に書いてある宣伝の文章を引用しますと、こんな内容であります。

人生初の病気が食道癌・ステージ4。(中略)治療を受けることなく半年後、家に一人横たわる麻美は死を恐れず、凄絶な食への欲求と闘い続けていた――。自ら末期癌を患いながら執筆し、残酷な傑作と賞された文学界新人賞受賞作。

 ……なかなか、さすがに、上手に書いてありますよね、宣伝文。どうですか、読んでみたくなるでしょ。で、私も読んだんですがね。(どうでもいいようなものですが、「賞された」ってのは、この漢字でいいんですかね。いいのかな。)

 で、読んで私が何を思ったかというと、この4名の方々の連想であります。

永山則夫・開高健・梶井基次郎・立原道造

 まず、永山則夫という人は、1968年に起こった四件の連続ピストル射殺事件犯人の永山則夫ですね。1997年に東京拘置所で死刑が執行されています。
 この人が留置所の中で、一念発起大いに勉強をしまして、何冊か本を出しました。特に晩年に自らの生い立ちをなぞった小説集を出しまして、その『木橋』(河出文庫)という短編小説集を、わたくし少し前に読んだもので、その連想で現れてきたのであります。

 何が言いたいかといいますと、永山則夫の小説を読むにあたって(この短編小説に描かれていたのは、家族と社会からほとんど完璧に守られることのなかった子供は一体どうなっていくかという話でありましたが)、やはり筆者の起こした実際の事件は、小説作品の理解と切り離せないだろうということで、それが今回の自ら末期癌を患った筆者とその作品とに重なってきたのでありました。

 でもね、一方でまた考えましたのは(これは永山則夫のケースとは違っていますが)、そう遠くない未来の自らの死を見つめながら作品を書いた文学者は、これは結構多いんではないかということで、上記後ろのお三方が、その時私の頭に浮かんだ方々でありました。(もちろんもっとしっかり調べたら他にもふさわしい方はたくさんいらっしゃるでしょうが。)

 そういえば、開高健も食道癌で亡くなったのではなかったですかね。
 かなり以前に読んだきりなので大分失念しているんですが、遺作となった短編集『珠玉』には、食道癌手術後の筆者の最晩年の思いが開高健らしいサービス精神と共に感動的に描かれていたという記憶があります。筆者は、間違いなく自らの死と正面から向き合っています。

 梶井基次郎については、全作おのれの死と向き合った小説群とまとめることができそうに思います。細かく挙げていくと切りがありませんが、『冬の蠅』の透徹した自然描写などは忘れがたいところであります。

 立原道造はどうでしょう。
 道造については、わたくし、通り一遍の文学青年的な知識と理解(それも今となっては半世紀近く昔の知識と理解)しか持ち合わせていませんが、室生犀星が道造の死を悼んだ文章に、あの痩せていた道造の顔がさらに小さくなって、そして喉に詰まった痰が自分で取れなくて死んでしまったと書いた切ない文章を思い出しました。

 ……えーっと、なんだか冒頭の小説とあまり関係のないことばかり書いているような気もしますが(でも本来このブログの基本的なコンセプトはそんなあたりにあるのであります、と、少し居直る私)、そんなわけでもありません。

 それは、死というものの文学に表わす姿の一つが、過去に同種の結実を数えさせながらも、ここに間違いなくまた一つ存在する、ということであります。


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Last updated  2015.01.05 13:57:20
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今猿人 さん
今年お初ということで。
またその内、みーちんぐ などせねばならぬとは思えども、強いてのテーマもなく。
こちらには時々訪問するも、相変わらずも「詩」は採り上げてもくだされず。
今回のテーマもなんとなーく、暗いし。
でもでも、その内、明るくなりますかぁ?

という訳で、何となく今年も宜しく! (2015.01.10 16:26:01)

Re:おはつ!(01/05)  
analog純文  さん
 今猿人さん、こんにちは。今年もよろしくお願いします。
 本ブログについての本年度のテーマは、といっても特に何もなく、たぶん今まで通りずるずると書くであろうという、少し情けない年頭所感であります。なさけない。ともあれ、よろしくお願いします。 (2015.01.11 09:25:29)

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七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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