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2025.09.07
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カテゴリ: 昭和期・後半男性
​   『神の子どもたちはみな踊る』村上春樹(新潮社)

 さて、本書はもう25年も前になる村上春樹の短編集であります。
 私としては、再読か、あるいは3回目くらいの読書であります。(ただし、内容はほぼ忘れています。)
 時々、村上春樹の短編小説が妙に読みたくなるのは、これはどういうことでしょうねえ。

 長編に手を出すのは少し厄介だし、村上春樹本人は自分は長編小説作家だとおっしゃっているようですが、周りの評価では、短編小説も優れている、いや、短編小説こそが優れている、などの評価もありそうです。そのせいかなと思います。

 本書の中に、小説家が主人公の作品が一つあって(「蜂蜜パイ」この小説家の主人公・淳平は、別の短編小説集の作品にも出てきますが)、そのせいもあって、短編小説について、いろいろ面白い説明やセリフがあります。こんな感じ。

 (略)淳平は言った。「でもそれはそれして、短篇小説という形式は、あの気の毒な計算尺みたいに着々と時代遅れになりつつある。(略)

 (略)どれも好評だった。彼は自分の文体を持っていたし、音の深い響きや光の微妙な色合いを、簡潔で説得力のある文章に置き換えることができた。

 いかがですか。二つ目の引用文は、村上春樹自身の短編小説論のようですよね。だって、こんな文章を書いてるんですよ。

​ そのとき順子は、焚き火の炎を見ていて、そこに何かをふと感じることになった。何か深いものだった。気持ちのかたまりとでも言えばいいのだろうか、観念と呼ぶにはあまりに生々しく、現実的な重みを持ったものだった。それは彼女の体の中をゆっくりと駆け抜け、懐かしいような、胸をしめつけるような、不思議な感触だけを残してどこかに消えていった。 (「アイロンのある風景」)​

 焚き火の「深い響きや光の微妙な色合い」そのものの見事な描写であります。

 と、そんなわけで、我が本棚にも何冊かある村上春樹短編小説集の中から、冒頭の本書を取りだしました。
 しかし、本書を読み始める前に、私は、何か読書のテーマとでもいいますか、とにかくそんなものが本書読書にはあると考えました。それは、この連作小説が、阪神淡路大震災をモチーフにしているということから確認できることであります。

 ちょっと調べてみましたので、年譜を確認してみますね。
  1995年 1月・阪神淡路大震災、3月・地下鉄サリン事件
  1997年 『アンダーグラウンド』出版
  1998年 『約束された場所で』出版
  1999年 『スプートニクの恋人』出版
  2000年 『神の子どもたちはみな踊る』出版

 出版された作品群の詳しい説明は省きますが、今回の本書は、筆者が阪神淡路大震災に数年しか間を置かず向き合って作った連作短編集であります。
 そして、本書の6つのお話はすべて、1995年2月という、大震災とサリン事件の間の世情不安定な一ケ月を舞台にしています。

 と、すると、この連作のテーマは、具体的な形はともかく、何らかの「癒し」や「希望」めいたものを描いたものにならざるを得ないのではないか、と。
 ただその時、仮にも現代日本の純文学の第一人者の村上春樹が、この混とんとする世相の中で、読者にいかにリアリティを伴った「癒し」「希望」を示してくれるのか、これが、我々読者にとっての、本書読書の最大の「きも」でありましょう。

 ……で、読み終えました。
 やはり、おもしろかったですねー。時々ふと村上短編集が読みたくなるはずだなー、と思いました。
 そして、読書前に考えていた読書テーマについて、考えてみました。(本当は、もう、そんな教訓めいたものは、ちょっとどうでもよかったのですが。)
 なんとなくそれなりのまとめができそうなので、さらっと書いてみますね。
 ただ、そもそもが「オープンエンド」と呼ばれて、読者の多様な解釈を許す村上作品ですので、以下の文章はわたくしの、勝手気ままな解釈となります。

 6つの作品に大小のウェイトで描かれる地震ですが、まずそれは圧倒的なエネルギー装置と位置づけられるようです。その特質には善悪、白黒はなく、ただ力が圧倒的な分、周囲には結果として理不尽な暴力破壊をもたらします。

 本連作は、結局のところそんな地震のメタファーを絶えず意識しつつも、実際に地震に立ち向かうという話は一つだけ(「かえるくん、東京を救う」最もメタファーの強い作品)で、そのほかの5作は、個人の人生に降りかかってくる巨大な力や理不尽さに抵抗する人びとの、その個々人ばらばらの抵抗の仕方(または抵抗できないでいる実体)を描いています。

 それは、作品順に、ほぼ抵抗できない実体から始まり、実は巨大な圧力とは自分の中にあるものだ、あるいはそれこそが世界の様相だという分析であったりしながら、そして連作の最終話においては、巨大な圧力に対して新たな一歩を決意する主人公の誠実な姿が描かれます。

 そんな読み方を、今回わたくしはしました。
 少しエンタメっぼく安易だったかなー(いつもはもっと心の闇の部分を深くえぐって終わる村上作品なのに―)という気もしつつ、しかしそれとは別に、この一作ごとの実にオリジナルな設定と展開がある限り、少なくとも村上短編小説は、そう簡単には「気の毒な計算尺」にはならないだろうと思いました。
​​​
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Last updated  2025.09.07 17:35:49
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analog純文 @ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
analog純文 @ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03)  おや、今猿人さん、ご無沙汰しています…
今猿人@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03) この件は、私よく覚えておりますよ。何故…
analog純文 @ Re:漱石は「I love you」をどう訳したのか、それとも、、、(08/25) 今猿人さんへ コメントありがとうございま…

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