近代日本文学史メジャーのマイナー

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2025.06.28
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『アンソーシャル ディスタンス』金原ひとみ(新潮社)

 以前何かで読んだんですがね、と、またもや今回も出所不明の無責任文から始まって申し訳ありません。とにかく、そんな話なんですが、安部公房のエピソードなんです。

 安部公房の担当の編集者が(話の内容からして、公房との付き合いが長く親しく、割と何でも言える間柄という感じの方でしょうか)、「先生、女性の裸の場面をもっと書けませんかね、そうすればもっと売れるのに」とか何とか言ったという話であります。

 それだけの話なんですがね。
 いえ、公房が答えたのは、「そんなことできないよー」といったものだったと思います。でも、それだけの話です。

 私が何を言い出そうとしているかといいますと、一言でいえば、純文学作家の読者サービス意識、ということなんですね。
 昔は、純文学作家が読者サービスを考えるなんてとてもあり得ないものだった、……といっても、その「昔」とは、明治大正そして昭和の初年くらいまでの話でありますが。

 やはり今の時代、いくら純文学作家でも(「純文学作家」なんてカテゴリー自体が実際は消滅していることは、私でも少しは認識しています。この語の使用は一種のアイロニーであります)、読者サービスくらいするでしょう。ましてや、文芸雑誌の編集者ならば。

 とすると、本短編小説の初出誌「新潮」は、そしてやはり筆者は、どんな読者層を想定して、どのくらい読者サービスしようと考えたのでしょうかね。

 まー、仮にも「新潮」といえば、押しも押されもせぬ文芸誌の大老舗でありましょう。
 純文学文芸誌としての自負も、相当なものがあると思います。

 そんなことを思うのは、私がこの短編小説たちは、20代から30代の女性向けだけの娯楽作品だとしか思えないからであります。
 すぐれた作品は読者の世代を超越するとはよく言われることですが、超越された感が私にないのは、半分は、私の読解能力不足もあるかもしれませんが、でも、もともとそんな話だろうと、つい同意を求めてしまう気持ちが大いにあります。

 というのも、本書の5つの話は、ざくっと、アル中女話、美容整形マニア女話、男乗り換えゲーム話、心中未遂話、そして自慰中毒女話と、いかにもいかにもではありませんか。
 主人公はすべて20代後半から30代の女性の一人称で、「私」「私」ばかりの強烈なナルシスト、他責的理屈っぽさ、死の安売り、そんな人物の意見と生き方がふんだんに描かれていて、そこには他者の存在が全くなく、すさまじいまでの自己肯定とその裏腹の「生きづらさ」しか描かれていません。これって、控え目に言っても、若者の特権だから、みたいな話ではありませんか。

 何より、ストーリーが、ルックスと食欲と男=セックスがらみのものしか書かれてないって、これは、ある特定の読者層(20代から30代の女性、実は、この層の方たちが、現在一番たくさん書籍を購入なさっているってことは、「本屋大賞」という賞の受賞作が如実に示していますね)に、サービスをしているお話だとしか思えないじゃありませんか……って、いつもながら、かなりバイアスが掛かりすぎですかね。

 ……という感じで、あー、このお話は、わたくしはちょっと苦手だなあなどと思いながら(また一方では、文章は読みやすくっていいな、ドライブ感があるな、アル中女話が一番出来がいいんじゃないか、でも好みでいえば、美容整形マニア女話かな、などとも思いながら)、第4話まで読んでいました。

 そして、第5話に入ったのですが、しばらく読んでいて、はっとこのお話はこれまでと違うぞと思ったんですね。少なくともこの話は、表面的にも(内容的にはもちろん)筆者は全く主人公の思考や行動に寄り添ってはいないと感じました。
 そして、最終盤のいかにも喜劇的なエンディングを読んで、私は少し戸惑いました。

 それは、この5つ目の話は、1つ目から4つ目の話のすべての否定の話なのか、という思いであります。

 第5話は、主人公の設定がそもそも今までとは異なった感じで、その理屈のあり方も含め戯画的な極端な描かれ方をしていました。そして、エンディングの崩壊のさせ方が、コミカルさを十分に発揮しつつかなり客観性を保証している、つまり、これが筆者の本当の意図ならば、第4話までの内容は、すべてがここに至るための否定的エピソードになっているのではないか、と。

 第5話になって、初めて筆者はここで種明かしをしたのか、……と、考えると、本短編集に溢れているのは読者サービスなどではなくて、俄然がっちりとした重層性のある作品群ではないかと、私は大いに関心をしました。

 ……が、実は今に至って、そんな私の読みが本当に正しいのか、かなり自信がありません。やはり、若者向けエンタメ小説に近いものなのでしょうか。第5話の展開は、単にバリエーションの一つに過ぎないのでありましょうか。

 うーん、いかがしたものでありましょう……。
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Last updated  2025.06.28 20:00:00
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analog純文 @ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
analog純文 @ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03)  おや、今猿人さん、ご無沙汰しています…
今猿人@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03) この件は、私よく覚えておりますよ。何故…
analog純文 @ Re:漱石は「I love you」をどう訳したのか、それとも、、、(08/25) 今猿人さんへ コメントありがとうございま…

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