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2007.07.06
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カテゴリ: I experienced
(11)家出かあちゃんの言い分

清貧一家の母は27歳のときに大病を患い、以後、
74歳の現在に至るまで、毎日欠かさず常用薬を飲んで
いる。それだけで、悲惨なイメージを描くし、
実際、子ども心に「かわいそうな人」と思ったことが
何度もある。

そんな、悲しき清貧一家の哀れな母は、突拍子もない
所業を繰り広げる癖がある。これは、ある意味では
悲惨な状況を生むが、ある意味では見事なまでの


そんな母の所業を徐々に公開していく(実は、その11
でも登場しているのだが)。

~~~~~~~~~~

私が小学3年生のとき、ある日曜の朝、母が言った。
「ニチイに行こか」
私はびっくりした。清貧一家が住んでいる場所から
ニチイまでは、電車で30分以上かかる。
「何で?」
私はおそるおそる聞いた。
「ええやん。行こ」

不安な気持ちを抱きながら、私は母と兄と三人で

“ニチイ”に近づくのが恐かった。何があるのか
何が起こるのか、想像するだけで体の芯が震えた。

ニチイに到着すると、母は最上階へ直行しようとした。
「どこ行くの?」
母に声をかける。

「ご飯、家帰って食べよ」
「……ご飯は家で食べるよ」
そう言いながら母は歩調を緩めることなく最上階を目指す。
私は言いようのない恐怖を感じ、目を伏せながら
母の後をついて歩いた。ふと横を見ると、兄はいたいけな、
痛いような無邪気さで母について歩いている。

最上階についた。レストランの前に立ち、
「何でも好きなもん、選び」
母が言った。私は全身に恐怖が貫くのを感じた。
貧乏な一家に属する子どもたちに、スーパーといえど、
レストランで好きなものを食べるような機会を与えて
くれるとは、何か深い理由があるに違いない。
レストランに入り、客席に座ったとき、兄が言った。
「プリンアラモード」
デザートの中で最高級品である。
プリンの横にアイスクリームが添えてあり、
バナナ、メロン、オレンジが周囲を飾っている。
しかも、プリンのてっぺんにはくるくると絞り出された
生クリームがのっかっているというものだ。
値段も半端じゃない。
〈こんなときに、なんでそんなものが食べられるの!〉
と私は心の中で叫んだ。
「アイスクリーム」
私は言った。
兄:600円、私:170円という世界だ。

幼い兄弟が食べていると、母がおもむろに言った。
「味わって食べや。おかあちゃん明日出ていくから、
もう食べられへんで」

私はゲンナリした。その後の行動の記憶はない。

次の記憶は次の日の朝。
「行ってきます」
私は、学校に行く私を見送ってくれる母の顔を
見ることができなかった。
“学校から帰ったら、母はもういない”
そう思うと、いたたまれない気持ちになった。

学校では茫然と過ごした。それを気遣ってくれる
友達がいたが、何を言われても耳から先に入っては
こなかった。

暗く、寂しい気持ちを抱きながら家に帰った。
無理とはわかっていながら、カギを開けずに
玄関の引き戸を引いた。すると、不思議なことに
戸が開いた。さらに驚いたことに、母が玄関先に
座っていた。きちんと化粧をし、よそ行きの服を着て。

「どうしたん、おかあちゃん!」
「上田のおっさんがきたんや」
“上田のおっさん”というのは、おやじより10歳ほど
年上の同僚で、社宅の中で最もおやじが親しく
していた人物だ。
「え、上田さんが来たん?」
私は不思議だった。そう言った後視線を送った先に
おやじを見つけて納得した。
「おとうちゃん、いてるの?」
珍しかった。おやじは、独特の嗅覚で、母が家出
するのを察知したのだろう。しかも、「上田さん」
という他人を使って家出を阻止した。

あれほどの思いをしたのに、と思うほど、
あっけない結末だった。子どもとしては、母の家出の
予告は、生きる力を奪うほどのものだった。

しかし、私は覚悟した。母の家出は一度や二度では
なかったので、家出を予感すると、毎日が
気が気ではなかった。

という状況であり、覚悟した後ではあったが、母が
家出をしなかったことは、子どもたちにとっては
願ってもない福音だった。

「上田のおっさん」様々である。

                   撃沈






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Last updated  2007.07.06 23:58:32
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