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2026.04.10
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カテゴリ: I feel
人が「幸せだ」と感じる瞬間は千差万別。

年齢、生きている環境、仕事、趣味、体調……
さまざまな要因によって、
同じ人生でも折々に違った幸福感が出現するものだ。


若い頃なら、目標を達成した瞬間、
推しのコンサートに参加できた瞬間、
好きなものを食べた瞬間、
新しい光景に出会えた瞬間、
好きな人から言葉をかけられた瞬間…。



しかし、年を重ねるとその機会が激減する。

一度経験したことのある感動の瞬間には、
あまり幸福感を得られないからだろうか。
それとも、感性が鈍るからだろうか。
はたまた、幸福とは流動的であり、
実に儚いものだと悟るからだろうか。


虫けらは、最近とても幸福だと感じる瞬間がある。

それは湯船に体を沈めたときだ。


大きな病気をした人なら実感できるかもしれない。

「風呂に入る」というのは、
人間の体にとって、とても負担のかかる行為なのだ。


入院当初、「2〜3日が峠」と父が医師から告げられるほど
大変な状態だったようだ(そのことは後で知った)。

とはいえ、虫けらも覚悟はできていた。

万が一死んでも家族が困らないように、
会社の登記簿や賃貸契約書、預金通帳等をまとめて


それを告げたときの父の表情は
未だに忘れることができない。
申し訳ないことをしたものだ。



そのときに医師に告げられたことの一つに
「入浴禁止」というものがあった。

若い虫けらにとって、
入浴禁止の意味がよくわからなかった。

が、従うより仕方ないので、
自分で体を拭くだけの日々を1週間ほど過ごしたとき、
頭髪の気持ち悪さに耐えられなくなった。
折しも、祝日で看護師や医師が手薄になるのをいいことに、
病院を抜け出し、美容室に駆け込んでシャンプーを
してもらった。

そのころは長髪だったので、
きれいにブローしてもらってさっぱりし、
病院に戻った。

すると、みるみる体温が上がり、
39℃近くになった。
検温に来た看護師に理由を聞かれたので、
「祝日で見舞客が多かったから、疲れたのかも」
と嘘を言った。

このときは、大ごとにならなかったが、
もっと熱が出たり、ほかの症状が出ていたら、
緊急の処置が必要になったかもしれない。

髪を洗っただけなのに。。


その病院は一時入院(診察を受けた病院が満床だったので)
した小さな病院だったのだが、
転院した大きな病院では、厳格な指示が出た。
「1ヵ月の入浴禁止」である。

ひと月間風呂に入らないなど、
かつての人生で経験したことがない。
どうなるのか全くわからなかった。

日を重ねるごとに足(主にかかとからくるぶし)は
乾燥でひび割れしてくるし、
体は乾燥で粉が吹く。

髪は1週間に一度程度看護師さんが洗ってくれたが、
長髪の洗髪に四苦八苦し、洗い上がりはいつも
鳥の巣状態で、梳かすのに苦労した。

ようやく喪が明けて入浴許可が出て、
初めて風呂に入ったときは驚いた。

乾燥してひび割れていた足に湯をかけると、
もろもろと皮膚が剥がれる。
体も同じで、湯をかけたところをこすると
大きな消しゴムのカスが出る。

全て厚くなった角質だったのだ。

その量は、驚くべきものだった。


一緒に入浴している患者に気づかれぬようそっと処理し、
浴室を出るのに30分ほどかかっただろうか。

やはりその日の夜は熱が出た。


ことほどさように、入浴は体力を使う。

病人にはご法度の行為なのだ。


寒さが和らぎ、体を温めるという
入浴の一つの目的は薄れてきているのだが、
「入浴できる」ということに
この上ない幸せを感じるので、
しばらくの間はシャワーに切り替えずに
湯を溜めたいと思う。


病院には湯船はない。

事故があったのか、どうかはわからないが、
浴室の中に浴槽があるものの、使用不可で
シャワーのみとなっているので、
緩和ケア病棟に入院をしてしまったら、
もう湯船に身を沈めることができない。

あと少しの間、
自宅で風呂を楽しめることに幸福感を噛み締めよう。


小さな幸せである。

しかし、間もなく霧消する幸せに
執着することもまた、人間らしい感情だと思う。


しかし……

酒も飲んでいるし、食べ物をおいしいと思う。

ちょっとした運動をして筋肉を維持し、
桜の下を歩くこともできる。


そうした贅沢な状況を顧みず、
湯船のみに幸せを感じるとは、げにわがままな。


これから仕事である。

お客さんと楽しく話して酒を飲み、
歩いて帰路につける元気さにもまた
幸福を感じるべきことである。


あー、幸せだ。


                  感 涙





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Last updated  2026.04.11 00:14:55
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