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一番の問題は、日本の戦争責任について日本人自身がいまだに総括していないことです。 中国や韓国が反発するから、米国が何か言ってくるから、何とかしないと、という問題ではないのです。
退官後の2006年、小泉純一郎首相が靖国に参拝する少し前に、私は首相の参拝を「一時停止」し、A級戦犯合祀(ごうし)を始めとした問題を解決した上で再開すべきだと提言しました。しかし、その後7年、議論らしい議論もないまま、安倍晋三首相は参拝しました。極めて残念です。
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<戦争責任直視を>
そもそも、日本人全体の戦争責任をどう考えるのか。
日本による満州国の建設、盧溝橋事件に始まる日中戦争、中国南部への進出など、徐々に広がっていく過程を国民は見ていました。知らなかったとは言えません。
しかも 日本人の中に、赤紙一枚で召集された兵と、それを指揮した人を同列に扱うのかという根深い対立がある。 靖国問題とは、まず私たち日本人の問題なのです。
自前の歴史認識を作る代わりに、日本は中国製の歴史認識を受け入れたと言われても仕方のない行動をとりました。1972年の日中国交正常化の時に当時の周恩来・中国首相が出した 「日本軍国主義は日中人民の共通の敵」 という「周恩来テーゼ」です。悪いのは日本の一部の軍人や軍国主義者たちで、大多数の日本国民は被害者だったというものです。
当時の田中角栄首相は反論しなかったし、歴代首相もとりたてて反論はしませんでした。国際社会では反論しなければ受け入れたとみなされます。A級戦犯は国際的に日本軍国主義の象徴とされてしまった以上、反論するにはよほどの覚悟が必要です。
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<不信深める挑発>
06年の小泉参拝当時に比べて国際情勢は大きく変わり、事態はさらに深刻です。
昨年9月の国有化以降、尖閣諸島の周辺で日本と中国の間で戦争が始まるかもしれないという危険な状態が続いています。
首相の責務は、尖閣が日本の領土だという筋を通しつつ、中国との戦争を回避することにあります。方法は抑止と対話の二つ。抑止は重要ですが、装備を増強するだけでは危険度が逆に増してしまう。対話は不可欠です。
対話を成功させるためには、不信感が生じるようなことは一切差し控えるべきでした。中国は靖国を、首脳会談が困難になるくらい重大な問題ととらえている。それを承知して参拝したことで、中国からの日本の首相への不信感は増幅します。限りなく危険です。
米国は靖国問題で中国を挑発するな、という意味のメッセージを送り続けていました。にもかかわらず、参拝してしまった。
万が一、中国との間で戦争状態になった時に、米国は本当に助けに来るのか。米国世論はどう出るか。 中国を挑発するような愚かな国 のために血を流す必要があるのか、ともなりかねません。
同盟国に対して「失望した」と言うことの恐ろしさを知ってほしい。外交の世界で同盟国にこんなにはっきり言うのは異例です。
韓国にとって靖国は主要問題ではないと私は考えています。しかし、韓国が反発するのは明らかです。理由なく悪化している日韓関係の立て直しこそ首相の重大な職責にもかかわらず、また一つ不信の要因を作ってしまった。
北方領土をめぐり、プーチン大統領との間で、かつてない打開の機会があると見られたロシアからも批判の声があがり、日本との関係を進めようという力を大きく減らしてしまいました。
安倍首相は、靖国参拝というたった一つの行動によって、米中韓ロの歴史認識に関する包囲網を作らせてしまった。安倍さんの周りには優れたアドバイザーがたくさんいるのに、どうしてこういう行動になってしまったのか。日本人として極めて悲しい。
日本人自身としての歴史認識と、外交の優先順位の原点に戻って考え直す必要があると思います。 (聞き手・編集委員 刀祢館正明)
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とうごうかずひこ 45年生まれ。外務省条約局長、欧州局長などを歴任。元外相でA級戦犯の東郷茂徳は祖父。著書に「歴史認識を問い直す」「歴史と外交」など。
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