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最近売り出し中のドミンゴ・インドヤンの指揮するロイヤル・リバプール・フィルの演奏するラテン・アルバムを聴く。ドミンゴ・インドヤン(1980-)は2021年からこの楽団の常任になり、これまで数枚のアルバムをリリースしている。彼は有名なエル・システマというベネズエラの音楽教育プログラムで教育を受けた一人。代表的な演奏家としてはグスターボ・ドゥダメルが有名だが、そのほかにも今売り出し中のカナダのモントリオール交響楽団の指揮者ラファエル・パヤーレ(1980-)もベネズエラ出身で、奇しくも同い年だ。優秀な指揮者が輩出しているのはベネズエラだけではなく、数十年前からフィンランドで優秀な指揮者が輩出されている(現在も進行中)ことも有名だ。どちらの国も教育のシステムが優れているのだろう。ドミンゴ・インドヤンはアルメニア系のベネズエラ人で今回はお国の音楽を特集している。筆者は髭ずらで眼光鋭い風貌を覚えているだけで、音楽を聴くのは初めて。ベネズエラの管弦楽曲がまとまって聴けるアルバムは寡聞にして知らないが、今回のアルバムは貴重なアルバムとなるだろう。全て知らない作曲家ばかりだが、ベネズエラでは重要な位置を占めている作曲家たちのようだ。20世紀半ばまでの音楽が5曲と2000年代の曲が1曲という構成。どの曲も映画音楽を聴いているようなカラフルで壮大な音楽で、ベネズエラの風土を感じさせる民族的な香りがあり、とても楽しめる。南米の作曲家たちの音楽と言えば暑苦しさを連想することが多いが、ここで取り上げられている作品にはその暑苦しさを感じない。むしろ、そよ風が吹いているような爽やかさを感じる。これは国民性なのだろうか。フアン・バウティスタ・プラザ(1898 - 1965)の「Vigilia(1928)」(夜警)はスペインの詩人フアン・ラモン・ヒメネスの詩「El dormir, ¡ay de mí! se me ha olvidado」から着想た、内面の深い孤独感と夜の静寂を描き出している音楽とのこと。最初こそ静かな曲調だが、途中から劇的な展開となり、おやっと思ってしまう。木管が多用され、涼やかな弦とのコントラストがまことに気持ちが良い。レスピーギのオーケストラ曲を聴いているような気分になったのは、彼がローマで音楽教育を受けたことと関係があるだろうか。エベンシオ・カステリャーノス(1915-1984)は2曲取り上げられている。「Santa Cuz de Pacairigua」は、グアイレ川沿いの町、グアレナスにあるSanta Cruz de Pacairigua教会で、地域の人々が、サン・ペドロの像を掲げながら、太鼓のリズムで踊り、盛大に祝う伝統的な祭りを描写した交響詩。ドゥダメルの演奏(DGG)で聴いている筈だが、記憶にない。宗教儀式や祭りの際に使われるアフロベネズエラの音楽的要素が色濃く表現された活気に満ちて明るい音楽だ。特に立ち上がりの速い、沸き立つようなリズムが実に素晴らしい。「El Río de las Siete Estrellas」(七つの星の川)はベネズエラの象徴的な川であるオリノコ川と、その流れに秘められた国の歴史を描写している。タイトルにある「七つの星」は、独立戦争時代に立ち上がった7植民地州を表す国旗の七つの星(現在は8個)を象徴し、各星がベネズエラの独立にまつわる異なる歴史的エピソードを表している。この曲は、詩人アンドレス・エロイ・ブランコの影響を受け、先住民の悲しみや征服、布教、新生共和国の誕生、敗北、闘争、そして自由の到達といった歴史のエピソードを描いた作品だそうだ。夜空を思わせる静かな導入から始まり、劇的な展開を経て勇壮なエンディングに至り、自由を得た喜びが溢れる感動的な音楽だ。イノセンテ・カレーニョはベネズエラの民族音楽を取り入れた作品で知られるそうだ。「マルガリテーニャ」は、1954年に作曲された交響詩で、カレーニョの故郷であるベネズエラのマルガリータ島の穏やかな海、砂浜、波の音、海風のそよぎが反映されている。主題は「マルガリータ島は涙が真珠に変わった」という民謡の一節から着想を得た陽気なテーマだ。映画音楽のようなストーリ性の感じられる雄大な音楽で、エンディングの剛直な持続力が迫力満点だ。生で聞いたら、興奮すること請け合い。アントニオ・エステベスの「Mediodía en el Llano」(草原の正午)は、ベネズエラの広大で静寂な草原地帯「リャノ」の熱さと静けさが支配する真昼の情景を描写した交響詩。澄み切った高弦の美しい旋律とそれに絡む木管のサウンドが絶妙だ。アルバムの中では6分ほどの短い曲だが、安らぎが感じられる佳曲だ。ユーリ・フンの「Kanaima」はベネズエラの先住民ピモン族の伝承に登場するスピリチュアルな存在や復讐の精霊を指し、古代の儀式的な踊りや呪文のような雰囲気の音楽だ。世界遺産のカナイマ国立公園などの情景もイメージしているとのこと。同じリズムが続き、旋律がやや粗野に感じられるため、他の曲に比べると幾分単調に思える。最後に驟雨のような音だけになるが、これはどうやって出だしているのか興味がある。インドヤン指揮のロイヤル・リバプール・フィルの演奏は、未知の作曲家たちの作品を躍動的で深みのある表現で描き出していて、実に素晴らしいということで、ベネズエラの作曲家の作品の素晴らしさを伝える稀有な名盤として、多くの方にぜひ聴いていただきたい。Domingo Hindoyan:Music From the Americas Vol. I(Onyx ONYX4251)24bit 96kHz Flac1.Juan Bautista Plaza(1898–1965):Vigilia(1928)2.Evencio Castellanos(1915–1984):Santa Cuz de Pacairigua(1954)3.Inocente Carreño( 1919–2016):Margariteña(1954)4.Evencio Castellanos:El Rio de las Siete Estrellas(1946)5.Antonio Estévez(1916–1988):Mediodía en el Llano(1950s)6.Yuri Hung(1968-):Kanaima(2004)Domingo Hindoyanthe Royal Liverpool Philharmonic OrchestraRecording: Liverpool Philharmonic Hall, 8–12 July 2023
2024年10月31日
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この季節に恒例の山中千尋の新作を聴く。今回はいつものPresto Musicからのリリースがなかったため、次に安い ProStudioMasters から税抜きC$13.49で入手した。彼女自身のコメントや演奏については、ユニバーサルのサイトにアップされているので、参考にしてみてはいかがだろうか。今回のテーマはピアニストのバド・パウエル(1924-1966)の生誕100周年と同じ年に生まれた作曲家のヘンリー・マンシーニ(1924-1994)の特集だ。マンシーニが亡くなったのはつい最近のことのように感じていたが、実際にはもう30年も経っているとは驚きだ。月日の経つ速さに、自分が年を取ったことを実感する。彼女のコメントによると、「最初は全編バド・パウエル作品集にすることも考えましたが、それならプレイリストやコンピレーションでパウエル本人の演奏を聴いたほうが良い。より自分らしさを打ち出すアルバムにしたいと考えた結果、この構成になりました」とのこと。また、パウエルを聴くようになったきっかけは、「私はイリアーヌが演奏する『Hallucinations』(アルバム『クロスカレンツ』)やジェリ・アレンが演奏する『Oblivion』(アルバム『イン・ザ・イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』)を通じてパウエルの曲作りに関心を持ち、晩年の演奏も含めて聴くようになりました」とのこと。多くのジャズファンがブルーノートやヴァーヴの作品から入る中、彼女のアプローチは非常にユニークだ。プログラムは、パウエルの曲が4曲、マンシーニの曲が2曲、オリジナルが3曲、そして坂本龍一の曲が1曲という構成だ。パウエルはブルーノートの代表的な2曲と、ヴァーヴの『The Genius Of Bud Powell』からのもので、後者は筆者には馴染みが薄い。「Tempus Fugit」と「Un Poco Loco」は、どちらも快速調でダイナミックな演奏ながら、重量感も感じられる。「Un Poco Loco」ではデイヴィスがカウベルを多用していて、少しうざいと感じる場面もある。「Hallucinations」はテンポを落とし、ニューオーリンズの喧騒を思い起こさせる陽気なマーチに変身していて、踊りだしたくなるような演奏だ。中間部ではそれまでのムードを引き継いだドシャメシャなドラムソロが入る。「Oblivion」も速いテンポで一気呵成に進む。バップ・イディオムの息もつかせぬピアノ・ソロが見事で、カーターのドラム・ソロも曲調に合わせたエネルギッシュなものだ。坂本龍一の「Ai Shiteru, Ai Shitenai」は、坂本の追悼のために入れたのだろうか。愁いを帯びたメロディーがエレクトリック・ピアノの上で進行するスタイリッシュな曲で、こうしたポップな曲を演奏させたらジャズ界では彼女の右に出る者はいないだろう。オリジナルの「Carry On」は、『今回が26枚目のアルバムということで、クオーター(25)という節目を終えて、新たなフェーズに入るという決意を込めて書きました』とのこと。バックでシンセが鳴っており、本来は中間部の3拍子のメロディーがメインテーマだったそうだ。スタイリッシュなメロディーがなかなか良いのに、出来上がったテーマがいまいちでスイッチした理由を知りたいところだ。「Horizon」はブラジル音楽の影響を受けたリズミックかつ抒情的な曲で、暗いところから夜が明けていく情景を描写している。騒がしい曲が多い中で、爽やかな気分を感じさせる1曲だ。マンシーニの「ムーン・リバー」と「ひまわり」は彼の代表作で、聴き手がよく知っているだけに、演奏者にとってはやりにくいのではないかと感じたが、山中の演奏は一切のてらいがなく、重量感がある堂々たるジャズに仕上がっていた。ドラムスの激しい打ち込みから始まる「ムーン・リバー」は、曲のイメージとは異なる硬質でエネルギッシュな演奏で、ハードなピアノのアドリブもぐいぐい進む。「ひまわり」ではテーマの一部音を変えているが、その理由は不明だ。ドラムが忙しなく、ラッセル・カーターは少し叩きすぎている印象がある。録音は先鋭さには欠けるが、厚みと重量感のあるサウンドで悪くはない。オーバーレンジ気味で、ところどころピアノの歪みが聞こえるが、その理由は不明だ。山中千尋:Carry On(Universal Music)24bit 96kHz Flac1.Chihiro Yamanaka:Carry On2. Henry Mancini:Moon River3. Bud Powell:Tempus Fugit4. Ryuichi Sakamoto:Ai Shiteru, Ai Shitenai5. Bud Powell:Hallucinations6. Chihiro Yamanaka:The Horizon7. Bud Powell:Un Poco Loco8. Henry Mancini:Sunflower9. Chihiro Yamanaka:Stride10. Bud Powell:OblivionChihiro Yamanaka(p,key)Yoshi Waki(b)John Davis(ds except track 1,10) )Russell Carter(ds track 1,10)
2024年10月28日
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デビュー20周年を迎えたピアニスト河村尚子の記念アルバムは、大作ではなく彼女が愛する小品を集めたアルバムだった。購入を迷っていたが、Presto Musicからリリースされて、ついふらふらと購入してしまった。ディストリビューターは「河村が大きな影響を受け、繰り返し愛奏してきた宝物のようなミニアチュール集」としており、プログラムには名曲やポピュラーな作品、河村の個性的な選曲が並び、バラエティ豊かな構成となっている。このような小品集には演奏者の人生観や趣味が色濃く反映されるものなので、ブックレットが付いてないのは痛い。特に注目したのは「エリーゼのために」や「熊蜂の飛行」が収録されている点。河村は「エリーゼのために」を内省的に解釈しており、メロディーのぎこちなさやためらいが独特の味わいを生んでいる。八代秋雄や武満徹、メシアンなどの新しい作品も収録されている。八代秋雄の「夢の舟」は連弾用の曲を岡田博美が二手用に編曲してもので、日本の童謡のような素朴な味わいが印象的である。メシアン関連で、メシアンの「夢の触れられない音」と武満徹の「雨の樹素描 II」も取り上げられており、それぞれに透明感と鮮やかなピアニズムが光る。プロコフィエフの前奏曲 ハ長調『ハープ』は柔らかく鮮やかなアルペジオと中間部の活気ある表情がいい。ナディア・ブーランジェの「新たな人生に向かって」は陰鬱な曲で、低音のドローンが執拗に迫り、聴き手に異様な緊張感を感じさせる。フランスの作曲家ギョーム・コネッソン(1970-)の「F.K.ダンス」は、速いテンポとダイナミックな展開が鮮烈。坂本龍一の「Saraband」は少し前に取り上げた坂本の「Opus」でも取り上げられていた曲。録音の関係もあるだろうが、河村の演奏は作曲者に比べると弱音が美しくデリケートなピアノだ。あまり重くならないところもいい。坂本の演奏はノイズっぽく、圧迫感もあり、曲の美しさが若干損なわれている。録音は「世界屈指の音響効果を誇るドイツ・ノイマルクトのライトシュターデルでのセッション録音」とされ、柔らかく溶けるような音色が心地よい。初めは直線的なアプローチと感じたが、聴き込むうちに奥深さが感じられるようになった。特にテンポやダイナミックスに極端な特徴はないが、「中庸の美学」と呼ぶべき演奏になっている。デビュー30周年を迎える頃、河村がどのように進化しているのか期待して待ちたい。河村尚子:-Twenty-(Sony Music)24bit 96kHz Flac1. シューマン:献呈 Op.25-1(歌曲集『ミルテの花』 Op.25~第1曲、クララ・シューマン編)2. R.シュトラウス:さびしい泉のほとり Op.9-2(4つの情緒ある風景 Op.9~第2曲)3. シューベルト:楽興の時 第3番ヘ短調 D.780-3, Op.94-34. バルトーク:スケルツォ Sz.71-5, BB.79-5(15のハンガリーの農民の歌 Sz.71, BB.79~第5曲)5. ベートーヴェン:エリーゼのために WoO596. リムスキー=コルサコフ:熊蜂は飛ぶ(歌劇『皇帝サルタンの物語』第3幕第2場~間奏曲、ラフマニノフ編)7. スカルラッティ:ソナタ ロ短調 K.2708. プロコフィエフ:前奏曲 ハ長調『ハープ』 Op.12-7(10の小品 Op.12~第7曲)9. ブーランジェ:新たな人生に向かって10. 矢代秋雄:夢の舟(岡田博美編)11. ブラームス:間奏曲 ハ長調 Op.119-3(4つの小品 Op.119~第3曲)12. リスト:愛の夢 S.541-3(3つのノットゥルノ S.541~第3曲)13. ショパン:即興曲 第3番変ト長調 Op.5114. ラフマニノフ:エレジー(幻想的小曲集 Op.4~第1曲)15. バッハ:羊は安らかに草を食み(カンタータ第208番『楽しき狩こそわが悦び』~第9曲、エゴン・ペトリ編)16. プーランク:バッハの名による即興的ワルツ ホ短調 FP.6217. フォーレ:即興 Op.84-5(8つの小品 Op.84~第5曲)18. メシアン:夢の触れられない音…(8つの前奏曲集~第5曲)19. 武満 徹:雨の樹素描 II - オリヴィエ・メシアンの追憶に -20. コネッソン:F.K.ダンス(イニシャルズ・ダンシズ~第3曲)21. ドビュッシー:夢想22. 坂本龍一:20220302サラバンド河村尚子(ピアノ/ベーゼンドルファー280VC)録音:2024年6月3-5日、ドイツ、ノイマルクト、ライトシュターデル
2024年10月26日
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川上さとみの久々の録音が出ていることを知り、購入した一枚。今年の初めにダイレクト・カッティングの2曲にDSDで録音された2曲を収録した限定発売されたレコードの4曲に、その時にDSDで録音していた4曲(track1,2,7,8)を追加しての発売。ハイレゾも発売されていて、モーラではハイレゾが3種類で、flacは192kHz(¥3500)と96kHz(¥3000)があり、音質的にそれほど変わらない筈なので、¥3000のファイルを購入した。ハイブリッドとはいえ、CDは¥4000するので、だいぶお買い得だ。筆者は、昔、彼女の「バレリーナ」(2015)というアルバムを聴いたのがきっかけで、他のアルバムも集中して聴いていた頃がある。今回のアルバムは「バレリーナ」以来のアルバムだから10年ぶりということになる。彼女の女性らしい優しく気品のあるピアノは健在だった。筆者は、女性らしさを売りにするミュージシャンがあまり好きではないが、彼女の場合はそれが嫌味にならず、聴き手を優しい気持ちにさせるところが何とも魅力的だ。プログラムは全曲彼女の作曲。特に驚きはないが、非常に緊張感のあるセッションでありながらも、どこか日常のセッションの一コマのような雰囲気が漂っている。見た目に反して、かなりの度胸があるのだろう。2曲目の『True Intention』と4曲目の『All Sence』は、テンポが速いバップ調の曲で、強い打鍵によってぐいぐいとドライブする。それが一辺倒ではなく、ダイナミクスの変化があり、途中で弱音をさらっと聞かせる部分は、彼女の真骨頂だろう。『True Intention』のエンディングの不協和音は意図的なものだろうか。『All Sence』は、ハンプトン・ホーズを思い起こさせる進行だ。時折入る強めの和音が良いアクセントになっていて、悪くない。途中で『キャラバン』のフレーズが少し出てくるが、何か関連があるのだろうか。透明感のある美しいカデンツァから始まる『Beautiful Solitude』は、静けさの中でゆったりと流れる、少し陰のある優しさに満ちたメロディーに心を奪われる。「Perspective」はごつごつしたリズムに対し、流れるようなアドリブのコントラストが面白い。「Everlasting 」は殆どがピアノ単独での演奏。中間部でテンポが少し上がり、他のメンバーはこの部分で短時間のみ加わる。静かで耽美的な曲で、彼女の美しい音色に酔いしれる。『Perceptions』はダークなムードながらも、スピーディーな進行が印象的だ。ベースとドラムスの刻みがサスペンス・ムードを醸し出している。予測不可能で奔放なピアノのアドリブも素晴らしい。ピアノの長いカデンツァから始まる「Sensibility」エコーのたっぷり聞いたサウンド空間が堪らなくいい。ベースとドラムスが入ってからは多少リズム感が感じられるが、基本的にはピアノのモノローグ的な静謐なムードが支配する。後半もピアノだけになり静寂が訪れる。僅かに感傷的な要素が彼女らしい作風を際立たせ、聴き手の心の襞にしみ込むような感動を生み出す。総じてベース、ドラムスとも申し分ないサポートで、たびたび出てくるソロも悪くない。特に、ドラムの歯切れの良いシンバル・ワークが印象に残った。DSD11.2MHz/1bitのマスターからコンバートされた音は、ノイズが全く聞こえない。多少粘っこいが、潤いのあるサウンド。彼女の芸風に相応しい美しい音に仕上がっている。久々の川上さとみとの再会で、彼女のワンアンドオンリーの魅力が全開となり、その健在ぶりを確認できて大満足だった。 川上さとみ:Sensibility(ポニーキャニオン PCCY-60012)24bit 96kHz Flac川上さとみ:1:Essence2:True Intention3:Beautiful Solitude4:All Senses5:Perspective6:Everlasting7:Perceptions8:Sensibility川上さとみ(p)ブレント・ナッシー(b)田鹿雅裕(ds) 録音:2023年9月13 東京・キング関口台スタジオ
2024年10月23日
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ヨナス・カウフマンのプッチーニ没後100年を記念したアルバム「プッチーニ: 愛のデュエット&アリア集」(原題 Puccini Love Affairs)を聴く。いつものpresto musicからのダウンロードだが、現在はカタログからはなくなっている。このアルバムでは6人のソプラノ歌手との共演でプッチーニのオペラのナンバーを歌っている。最後の2曲の独唱で締めくくられている。その中に、ウクライナ戦争に関する発言により干されていたと思っていたアンナ・ネトレプコの名前があったのはびっくりした。このトラックは古い録音かと思って調べたら、すべて新録音で、ネトレプコも現在は世界各地で活躍していることが確認できた。まことに目出度いことだが、同じような境遇だったゲルギエフはプーチンの助力もあり、早々とボリショイ歌劇場のポストも兼任しているようだ。ただし、新たな録音はリリースされていないようだ。あれほど録音に精力的だった指揮者がメディアに露出できなくなったということで、芸術家の処遇は政治的な圧力から逃れられないことを改めて感じたものだ。閑話休題ネトレプコ以外は知らない名前ばかりだが、概ね実力のある若手が起用されている。どの歌手もリリコスピントの少し重めの声質なのは、意図的かどうかは分からない。華やかさよりも、中身重視といったところだろうか。カウフマンといえども、このような夢のようなキャスティングができる歌手は少ないだろう。実際、カウフマン自身「本当に魅力的だったのは、異なるパートナーとこれらの非常に異なる二重唱を録音することでした」と語っている。カウフマンはこのアルバムではホスト役に徹し、女性歌手たちとの共演を楽しんでいるようだ。南アフリカ出身のコロラチューラソプラノプリティ・イェンデ(1985-)以外は、実演で共演したことがあるそうだ。各トラックの演奏時間は概ね長く、満足度は高い。こういう名曲集みたいな企画は、細切れで印象が散漫になりがちだが、このアルバムは選曲に工夫があり、満足度は高い。ボエームからは第1幕のエンディングの二重唱。演奏時間が3分半ほどで物足りない。プリティ・イェンデのミミは清純な声で役にぴったりだ最後のハイCも決まっている。カウフマンのロドルフォは凄味があって、個人的には優男のロドルフォには似つかわしくない。ネトレプコとのマノンレスコーの第2幕の二重唱はネトレプコの声が重く、筆者のイメージとは違う。カウフマンは悪くない。「トスカ」からは2曲。ブルガリア出身のソーニャ・ヨンチェヴァ(1981-)がトスカを歌っている。筆者も知っている歌手でモンテヴェルディのポッペア(Harmoina Munndi)や「リバース」(DECCA)というアリア集を聞いたことがある。うまいなとは思ったが、それほど聞きこんでいないので、あまり強い印象はない。可憐な声だが、若干重いのが筆者の好みに合わない。カウフマンのカヴァラドッシは悪くない。「ああ、この瞳!…世界中のどんな瞳も」はアルバム中最も感銘を受けた。「西部の娘」はスエーデンのリリック・ソプラノマリン・ビストレム(1973-)との共演。「ジョンソンさん、あなたは私と一緒にいてくれるためにのこったの?」でのカウフマンの声色がコミカルだ。このオペラは馴染みがないが、両者の出来が良く、楽しめた。オーケストラも雄弁だ。リトアニア出身のアスミク・グリゴリアン(1981-)は、今年来日しているらしい。個人的には「Dissonance」というアルバムで注目し始めた歌手だ。「外套」からのナンバーは深刻なムードが出ている。エンディングのカウフマンも熱唱だった。最後はイタリア出身のマリア・アグレスタ(1978-)。蝶々夫人の第1幕の愛の二重唱を歌っている。蝶々夫人の清楚な感じがよく出ていた。カウフマンはここでも凄味があり、能天気なピンカートンのイメージとはちょっと違う。ソット・ヴォーチェは悪人が猫なで声を出しているようで、気持ちが悪い。「愛の二重唱」はトラックは分かれているが、続けて演奏されるので、聞きごたえ充分。過剰なルバートもなくすっきりしていて、クライマックスはテンポをぐっと落として、感動的だ。最後はカウフマンの独唱で2曲。「ボエーム」第1幕の「冷たい手を」はかしこまった感じで、音楽に乗り切れていない。「トスカ」の「星は光りぬ」は悪くなかった。アッシャー・フィッシュ指揮ボローニャ市立歌劇場管弦楽団はもう少し突っ込んでほしいところもあるが、しなやかな伴奏ぶりで悪くない。あまり馴染みのないナンバーもあったが、プッチーニのメロディー・メーカーとしての才能や劇的な才能を堪能できる。旬のソプラノ歌手の歌唱が堪能できる好アルバムで、今後、彼女たちの歌をチェックしていきたい。カウフマン プッチーニ: 愛のデュエット&アリア集(Sonyu Classical 19802806712)24bit 96kHz Flac1. 歌劇「ボエーム」第1幕より「おお、うるわしい乙女よ」(ロドルフォ、ミミ)2. 歌劇「マノン・レスコー」第2幕より「あなたなの、あなたなのね、愛する人?」(マノン、デ・グリュー)3. 歌劇「トスカ」第1幕より「マリオ!」~「ここだよ!」(トスカ、カヴァラドッシ)~4. 歌劇「トスカ」第1幕より「ああ、この瞳!…世界中のどんな瞳も」(トスカ、カヴァラドッシ)5. 歌劇「西部の娘」第1幕:「ジョンソンさん、あなたは私と一緒にいてくれるためにのこったの?」(ミニー、ジョンソン)6. 歌劇「西部の娘」第1幕:「あなたが黙っていても」(ジョンソン、ミニー)7. 歌劇「外套」より「ね。ルイージ!ルイージ!」(ジョルジェッタ、ルイージ)歌劇「蝶々夫人」第1幕(愛の二重唱):8. 「夜になった」(ピンカートン、蝶々夫人)9. 「魅惑のまなざしに満ちた少女よ」(ピンカートン、蝶々夫人)10. 「私を可愛がってくださいね」(蝶々夫人、ピンカートン)11. 歌劇「ボエーム」第1幕:より「冷たい手を」(ロドルフォ)12.歌劇「トスカ」第3幕より 「星は光りぬ」(カヴァラドッシ)ヨナス・カウフマン(テノール)プリティ・イェンデ(s track1)アンナ・ネトレプコ(s track2)ソーニャ・ヨンチェヴァ(s track3、4)マリン・ビストレム(s track5、6)アスミク・グリゴリアン(s track7)マリア・アグレスタ(s track8-10)ボローニャ市立歌劇場管弦楽団指揮:アッシャー・フィッシュ録音 2024年2月9日~11日 イタリア、ボローニャ、テアトロ・コムナーレ
2024年10月21日
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エリック・アレキサンダー(1968-)のセーラー・ライブから出ているワンホーン・カルテットの録音を聴く。2017年以来のスタジオ録音で、ルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音だ。以前はビーナス・レコードの作品でよく耳にしていたが、最近はしばらく遠ざかっていた。少し前にレビューした3管編成のグループ「One For All」の「One For All:Big George」で彼の演奏を再び聴いたばかりだ。かつての「テナー・サイボーグ」のような迫力は感じられなかったが、安定した技巧とパワフルな演奏は健在だった。今回のリーダー・アルバムもその印象は変わらない。アルバムの最初の曲はコルトレーンの「After The Rain」。アレキサンダーのサウンドとフレージングには、録音当時のコルトレーンの演奏を思い起こさせる雰囲気がある。リック・ジャーマンソンのピアノも、タイナーのピアノを彷彿とさせる。原曲は瞑想的な演奏だが、ここではドラムの細かいリズムに乗り、よりリズミカルな演奏になっている。「But Beautiful」は、華麗なピアノのカデンツァから始まる堂々としたバラードで、悠然たるテンポが印象的。ただし、テナーソロは細かい装飾音が多く、やや煩わしさを感じる部分もあった。ローランド・カークの「Serenade To A Cuckoo」では、途中で再生が止まるというトラブルがあったが、再ダウンロードして無事に聴けた。軽やかなメロディーが楽しいナンバーで、このトラックにだけ参加しているレイル・ミシックのスウィンギーなギターソロが秀逸だ。フルートも参加しているが、少し違和感がある。ジョージ・コールマンの「Big G's Monk」では、Stan Weteringのテナーがが加わった2ホーンの演奏だ。Stan Weteringは特定できなかったが、おそらくロッテルダム在住のStan van de Weteringのことだろう。音が少し太く、輪郭がぼやけたテナーの方が彼だと思う。演奏自体は悪くないが、2人のサウンドが似通っていて区別がつかないのが惜しい。火花を散らすほどではないが、アップテンポで進む、勢いのある演奏だった。2テナーはユニゾンが多く、絡みが少ない点が物足りなさを感じる。「Sasquatch」はラテンリズムに乗った軽快な曲で、テナーの流れるようなアドリブが展開されるが、ドラムの音が多すぎて少し落ち着かない。その中で、ピアノが涼しい顔でソロを弾くのが面白い。ガーナーの「Misty」は、テナーの短いカデンツァで始まり、落ち着いたテンポだが、音数が多く、この曲本来のしっとり感が薄れてしまっている。2分過ぎからはラテン調の快速テンポに変わり、テナーの爆発的なソロが展開されるが、饒舌すぎて少し飽きが来る。タイトル曲の「Timing Is Everything」は、快適なテンポのブルース調の明るい曲で、アルバムの中ではお気に入りのトラックの一つだ。異色なのは、バーブラ・ストライサンドの「Evergreen」がヴォーカル入りで収録されている点だ。セルビア・モンテネグロ出身のアルマ・ミチッチのヴォーカルは悪くないが、ここでも手癖フレーズのテナーがムードを壊していると感じた。最後はエル・デバージのヒット曲「Someone」が軽快に演奏される。テナーのアドリブはこれまでの曲に比べて控えめで、さらっと吹かれていて嫌味がない。できれば、他のトラックもこの路線で演奏してほしかった。全体的に、出来は普通といったところだろう。アレキサンダーのソロは音数が多く、手癖のフレーズが目立ち、気に入らない部分がある。「沈黙は饒舌に勝る」という言葉を思い出した。Eric Alexander:Timing Is Everythig(Cellar Live CM070423)24bit 96kHz Flac1.John Coltrane:After The Rain2.Jimmy Van Heusen:But Beautiful3.R.Kirk:Serenade To A Cuckoo4.George Coleman:Big G's Monk5.Eric Alexander:Sasquatch6.Erole Garner:Misty7.Eric Alexander:Timing Is Everything8.Barbra Streisand:Evergreen9.Jay Graydon, Mark Mueller, Robbie Nevil:SomeoneEric Alexander(ts)Rick Germanson(p)Alexander Claffy(b)Jason Tiemann(ds)Stan Wetering(ts track4)Jed Paradies(fl track 3)Rale Micic(g track 3)Alma Micic(vo track 8)
2024年10月19日
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チェロの宮田大のリサイタルを聴いた。昨年も花巻で聴いていたので、今回は見送ろうと思っていたが、N響のコンサートマスターに就任した郷古廉氏のリサイタルとの抱き合わせでディスカウントがあると知り、聴きに行くことにした。宮田は盛岡では今回で3回目で、ピアノとの共演も初めてだ。前の2回は筆者も聴いており、良い演奏会だったことを覚えている。今回は、過去に3枚のアルバムで共演しているベルギー出身のピアニストのジュリアン・ジェルネとの共演。宮田は知名度が高いが、地味な演奏会で350席余りが完売していることは誠に喜ばしい。彼らは共演を始めてから来年で15年を迎えるそうで、息の合った共演ぶりが感じられた。テーマは「時代を超えて」で、1700年代初頭のマルチェッロのオーボエ協奏曲から現代の村松までの音楽を俯瞰するというコンセプトだ。最初のマルチェッロの音を聴いたとき、音が大きく、響きが少し締まりがない。PAを使っているのかと思ったが、確認したところ、それは気のせいだった。いつもならもう少し前の方で聴いているので、直接音と残響のブレンド具合が良かったのかもしれない。閑話休題。個人的には今回の演奏会の目玉はカプースチンのチェロ・ソナタ第2番だ。会場の入り口に掲示されていたポスターでカプースチンの名前を見て驚いた。この曲は初めて聴いたが、カプースチンの音楽だとすぐにわかる特徴的なサウンドで、なかなか楽しい曲だった。ピアノの比重が大きく、ピアニストの馬力とテクニックが試される曲だと思った。ジェルネの実力が発揮された素晴らしい演奏だった。宮田も頑張っていたが、どうしてもピアノに耳が行き、チェロは分が悪い。また、ピアノとチェロが溶け合うことが少なく、最後までそれぞれがすれ違っているように聴こえたのはスコアのせいだろうか。それでもかなりの技巧を要すると思われる第3楽章は、なかなか白熱した演奏だった。参考までに、Christine Rauhというチェリストの演奏を聴いた.テクニックは宮田の方が上だが、ラウ盤はカロリーが高く、チェロとピアノの一体感が感じられた。ストラヴィンスキーの「イタリア組曲」のチェロ版を聴くのは初めてだった。解説を見たら、有名なヴァイオリン版は次の年に編曲されているのは意外だった。ヴァイオリン版とは一部異なり、ヴァイオリン版の方が1曲多い。チェロは音域が低いためか、ヴァイオリンに比べるとイタリア的な明るさが不足しており、いかにも地味に感じられた。そのため、ヴァイオリン版で感じられるのんびりしたムードはチェロ版ではあまり感じられず、楽しめなかった。マルチェッロの後の3曲は歌曲やオペラからの編曲で、宮田の最新作「voce」にはドヴォルザークとサンサーンスが収録されていたが、それほど聴いていなかったため、全く記憶に残っていなかった。宮田氏のMCによると、ドヴォルザークの「私にかまわないで」はチェロ協奏曲の第2楽章に使われているとのことだったが、メロディーが生のまま使われているわけではなく、雰囲気が感じられる程度で、具体的にどこで使われていたかはわからなかった。筆者の好きなR・シュトラウスの「明日」は、原曲のしっとりとしたデリケートな表現がうまく再現されていた。サン=サーンスは歌劇「サムソンとデリラ」第2幕のデリラのアリア「あなたの声に私の心は開く」。端正な表情は悪くないが、原曲の持つ情熱があまり感じられず、もう少し突っ込んだ表現が欲しくなる。エンディングでデリラのパートがピアノに移り、チェロがサムソンのパートを演奏しているが、個人的にはあまりピンとこなかった。アンコールは2曲。1曲目はラフマニノフのパガニーニ狂詩曲から有名な第18変奏。2曲目は宮田と親交の深い村松崇継(1978-)の「紙について思う僕のいくつかのこと」のピアノとチェロ用編曲版。村松崇継の曲は、彼が高校の時に作曲した軽快な曲で、アニメの音楽を聴いているような気分にさせてくれる、楽しい作品だった。宮田大:チェロ・リサイタル 時代を超えて前半:1.マルチェッロ:オーボエ協奏曲 ニ短調より第二楽章2.ドヴォルザーク:私にかまわないで~4つの歌曲作品82 第1曲3.R.シュトラウス:「明日」op.27-44.サン=サーンス:「あなたの声に私の心は開く」~歌劇《サムソンとデリラ》5.ストラヴィンスキー:イタリア組曲後半1.カプースチン :チェロソナタ第2番アンコール1.ラフマニノフ:パガニーニの主題による変奏曲から第18変奏2.村松崇継:紙について思う僕のいくつかのこと宮田大(チェロ)ジュリアン・ジェルネ(p)2024年10月14日盛岡市民文化ホールマリオス中ホール 8列5番で鑑賞
2024年10月17日
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e-onkyoからメールが来て、qobuzがやっと使えるようになるらしい。その前にe-onkyo登録会員向けに10/23からプレオープンされるようだ。ただし、一般に公開される日時は記されていなかった。プレオープンで様子を見て、不具合がないかを確かめるのだろう。e-onkyoのライブラリーとqobuzの整合をとるに予想外に手間取ったのだろうと思うが、qobuzに移行するとアナウンスされてからほぼ一年も遅れたのは、何ともみっともない。心配なのは、現在登録されているqobuzのアカウントがうまく使えるかだ。筆者はqobuzのストリーミングでダウンロードが割安になるプランに加入するつもりだが、しばらく様子を見てからの方がいいかもしれない。e-onkyoからメールが来て、qobuzがついに利用可能になるらしい。それに先駆けて、e-onkyo登録会員向けに10月23日からプレオープンされるとのことだ。ただし、一般公開の日程は明記されていなかった。プレオープンの段階で、不具合がないかを確認するのだろう。e-onkyoのライブラリーとqobuzとの整合に予想以上の手間がかかったのだと思うが、qobuzへの移行を発表してからほぼ1年も遅れたのは、正直なところ残念だ。気がかりなのは、現在登録しているqobuzのアカウントが問題なく使えるかどうかだ。筆者はqobuzのストリーミングでダウンロードが割安になるプランを利用するつもりだが、しばらく様子を見たほうが良いかもしれない。追記 11/27その後、e-onkyoからQobuzへの統合方法は判明した。しかし、筆者の場合、e-onkyoと同じメールアドレスでQobuz USのアカウントを持っているため、このアカウントを破棄するかメールアドレスを変更しないと、e-onkyoからQobuz JPへの移行ができないことが分かった。このアカウントは破棄できないので、メールアドレスを変更するしかないが、現時点ではその手続きが面倒に感じられるため、移行は見送っている。また、他の国で提供されている「Subline」というプランは日本では利用できないことが分かった。そのため、Sublineのプランを利用してハイレゾ音源を割引価格でダウンロード購入することもできない。さらに、通常のハイレゾ音源の価格も国内の相場に準じているようで、特にお得感は感じられない。筆者にとっては、期待が大きかっただけに、非常に残念な結果に終わったようだ。
2024年10月15日
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ロンドン在住のサックス奏者ヌバイヤ・ガルシアの新譜を聴く。以前「Source」(2021)というアルバムを取り上げたことがある。以後リミックスを含めいろいろな録音が出たが、アルバムとしては多分、今度の「オデッセイ」が2作目だろう。「Source」は最近あまり耳にしていなかったが、今回のアルバムは前作と比べて大幅に作風が変化している。ガルシアの太いサウンドはそのままだが、スケールが超巨大になっているのだ。ディストリビューターによれば、彼女は「このアルバムは、自分自身の道を真に歩むこと、そして、こうあるべきだ、あああるべきだという外部の雑音をすべて捨て去ることを表現しています。それはまた、常に変化し続ける人生の冒険や生きることの紆余曲折にもインスパイアされています」とコメントしている。分かりにくい表現だが、このコメントに拘泥することなく楽しむのが正しい?聴き方だろう。アルバム・タイトルに相応しく、壮大なスケールを感じさせる作品だが、個人的にはあまり同意できる音楽ではないというか、そのような音楽なのだろう。なので彼女のやる気は感じられるものの、それが空回りしているという印象だ。手を加えすぎて演奏を難しくしているように思う。アルバム全体が、彼女が好きなダブ(ジャマイカア発祥の音楽ジャンルで、特にレゲエから派生したサウンドのこと)のサウンドを取り入れている。具体的には『重低音のベースラインやエコー、リバーブなどの音響効果、ボーカルや楽器のパートを極端に加工することで、スペースを感じさせる独特な雰囲気を生み出している』とのこと。インタビューより。なのでドラムの細かいビートが前面に出すぎて、全体的に騒がしい印象を与えてしまっていると感じるが、そのような音楽だということだろう。新たに加えられた弦も表に出すぎていて、曲のバランスが悪かったり、サックスの音が生音ではなく、加工されているように感じられ、印象が悪いという筆者の感想も、ダブの音楽だと思えば納得できる。理解が進んでいないということもあり、筆者は現時点では同意できる音楽ではない。最初の「Dawn」ではエスペランサ・スポルディングのヴォーカルが加わっている。やたらと騒がしい音楽で、スポルディングのヴォーカルもいいのかどうかわからない。ドラムスが煩いのも原因の一つだ。タイトルチューンの「Odyssey」はアルバム中最も長い7分ほどの曲。ガルシアの骨太で豪快なテナーが炸裂する。ここでもバックがうるさすぎる。後半にも同名曲が出るが、一分に満たない演奏で、間奏曲的な位置づけだろう。ただ、空間を埋めるシンセのサウンドが途方もないスケールを感じさせる。「The Seer」はマッコイタイナー風の四度和音を使っているが、ダブを取り入れてるので、やかましい。現代のニーナ・シモンといわれるジョージア・アン・マルドロウのヴォーカルが入る「We Walk In Gold」は素朴な民謡風の曲で、サウンドこそ、ごった煮だが、比較的素直に聴くことが出来る。「Water's Path」弦の細かいピチカートにのって、ジェイムズ・ダグラスのチェロのソロが入る。サックスの出番はない。「Clarity」はラテン系の穏やかな曲で、比較的落ち着いた曲。ピアノやテナーのソロは悪くないが、弦が表に出すぎてうるさい。11曲目も同じ曲だが、1分半ほどの短いバージョン。弦とシンセにテナーで、響きが薄いため割と落ち着いた雰囲気になっている。最後の「Triumphance」は「Triumph」に「ance」という接尾辞をつけた造語のようで、意味は「勝利すること」や「成功すること」だろうか。この曲を持って彼女の長い旅が終わったということかもしれない。タイトル通り希望を感じさせるリズミックな曲。kokorokoのSheila Maurice-Greyがヴォーカルで加わっている。メンバーの中ではジョセフ・アーモン・ジョーンズがいい。周りが騒がしいだけに、彼の端正なピアノ・プレイが余計光って見える。ベースのサム・ジョーンズは一瞬ベースの名手のことを思い出してしまったが、彼は1981年に亡くなっていて、このアルバムのドラマーはニュージーランド出身だそうだ。筆者の興味を惹いたのは、弦が加わっているトラックが8曲あり、オーケストラがクラシック・ファンの間では今話題の「チネッケ・オーケストラ」だということだ。このオーケストラはヨーロッパ初の黒人と少数民族によるオーケストラで、デッカから数枚のアルバムを出している、なかなか特徴のあるオーケストラだ。録音している曲目も黒人の作曲家の作品が取り上げられている。弦の編曲はヌバイア自身が手掛けている。どうやらヌバイアは意識高い系のミュージシャンで、チネッケ・オーケストラを起用した理由もその意識からの選択だったと思うのは、穿ちすぎだろうか。 ということで、現在の彼女の嗜好する音楽が全開の力作であることは間違いないが、中身を詰め込み過ぎていて、しつこくなっているので、好き嫌いが出る音楽だろうと思う。UKでは受けるのだろうが、日本のジャズ・ファンに受けるかどうかは、はなはだ疑問だ。MIKIKINubya Garcia:Odyssey(Concord 7261435)24bit 96kHz Flac1.Nubya Garcia:Dawn2.Nubya Garcia:Odyssey3.Nubya Garcia:Solstice4.Nubya Garcia:Set It Free5.Nubya Garcia:The Seer6.Nubya Garcia:Odyssey7.Nubya Garcia, Georgia Anne Muldrow:We Walk In Gold8.Nubya Garcia:Water's Path9.Nubya Garcia:Clarity10.Nubya Garcia:In Other Words, Living11.Nubya Garcia:Clarity12.Nubya Garcia:TriumphanceAll composed by Nubya Garcia except track 7(Garcia and Georgia Anne Muldrow)Nubya Garcia(ts except track8))Chineke! Orchestra(track1-2,6-11)Joe Armon-Jones(key track 1-5,7,9,12)Daniel Casimir(b track 1-5,7,9,10,12)Sam Jones(ds track 1-5,7,9,10)Jansen Santana( perc. track 1,7,10)Esperanza Spalding (vo track1)Georgia Anne Muldrow (vo track 7)
2024年10月13日
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エベーヌ弦楽四重奏団の久々のジャズ・アルバムがリリースされた。今回は、チェロのラファエル・メルランが退団する前の最後のアルバムであり、アレンジは彼が担当している。ブックレットには、メンバーからメルランに対する感謝の言葉が記されている。「アレンジや手書き譜をPC入力するためのソフトウェアの習得など、メルランの貢献に対する感謝の気持ちがこのアルバムに込められている。このアルバムには、これまで録音していなかったが、ミニコンサート『ジャズセット』で演奏していたすべてのアレンジが収録されている」とのこと。ミニコンサート用のアレンジなので、どの曲も短めだ。仕方がないとはいえ、この倍くらいの長さは欲しいところだ。ヴァイオリンとチェロのメンバーは大学でジャズを専攻しており、他のクラシック音楽家とは一味違うジャズを聴くことが出来る。プログラムには、ジャズ・ミュージシャンによる有名なオリジナル曲が並び、フランスの香り漂うジャズを存分に楽しむことができる。代表的な曲は、トゥーツ・シールマンスの「ブルーゼット」だろうか。もともと洒落たフランス風のテイストを持つこの曲は、さらに濃厚なアレンジが加わり、一層の説得力を持つようになっている。ヴァイオリンの絡み合うフレーズは聴く者をぞくぞくさせる。タイトルチューンの「Milestones」は凄まじい高速演奏が展開され、見事なヴァイオリン・ソロが繰り広げられる。また、高速でリズムを刻むチェロはまさに鳥肌ものだ。鮮やかな演奏だが、ワンコーラスで終わってしまうのがもったいない。ガーナーの「ミスティ」はゆったりとしたテンポで演奏され、濃厚なテイストを保ちながら聴き手の心をつかむ。ワンコーラスのみという点は少し物足りないが、秀逸な演奏であることに変わりはない。ショーターの「アナ・マリア」は編成が少し異なるものの、再録と言って差し支えないだろう。原曲の持つブラジル風のテイストは薄れているが、ヴァイオリンのグラマラスで妖しいサウンドが聴き手を引き込む。中間部でのヴァイオリンとチェロの掛け合いはジャズ的な雰囲気が漂っていて悪くない。マイルスの「オール・ブルース」では、ヴァイオリンソロに続いてチェロのピチカートのソロが披露される。アルフレッド・ピーウィー・エリスの「ザ・チキン」はジャコ・パストリアスの演奏で有名らしいが、筆者は初めて聴いた。原曲はアーシーなジャズ・ファンクだが、ここでは速いテンポでバリバリと弾いている。泥臭さがすっかり消えてしまっているので、原曲を知る人には物足りないかもしれない。珍しい点は、ミンガスの代表的なオリジナルが2曲収録されていることだろう。「フォーバス知事の寓話」は、原曲の持つ風刺性はほとんど感じられないが、美しい演奏が聴き手の心を捉える。この曲で美しさを感じるとは予想外だった。最後の「グッドバイ・ポーク・パイ・ハット」は、ゆったりとしたテンポで、レスター・ヤングを悼む雰囲気が表れている。途中からの盛り上がりが、この曲にふさわしいかどうかは疑問だが、ユニークな演奏であることに間違いない。総じて、彼らが考えるジャズが今回も見事に再現され、大満足の内容だった。ヴィオラが交代した際には少し不安を感じたが、彼らの音楽は変わらなかった。今年からチェロが日本人の岡本侑也(1994-)に交代したが、彼らの音楽がどのように進化していくのか、期待と不安?が入り混じる中で、今後の新作を待ちたい。Quatuor Ebene:mliestones(Warner Classics 5419789789)24bit 88.1kHz Flac1.ケニー・カークランド:ディエンダ2.マイルス・デイヴィス:マイルストーン3.トゥーツ・シールマンス:ブルーゼット4.エロル・ルイ・ガーナー:ミスティ5.チャールズ・ミンガス:フォーバス知事の寓話6.ウェイン・ショーター:アナ・マリア7.セロニアス・モンク:ラウンド・ミッドナイト8.マイルス・デイヴィス:オール・ブルース9.ピー・ウィー・エリス:ザ・チキン10.チャールズ・ミンガス:グッドバイ・ポーク・パイ・ハットarranged for string quartet by raphaël merlinエベーヌ弦楽四重奏団:ピエール・コロンベ(vn)ガブリエル・ル・マガデュール(vn)マリー・シレム(va)ラファエル・メルラン(vc)録音:2023年5月9-12日、フランス、クレルモン=フェラン、Chapelle du Bon Pasteur
2024年10月11日
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いつものPresto Musicで紹介されていた、アメリカ人ヴォーカリストのマイケル・マヨ(1992年生)のアルバムを聴く。今回の「FLY」は、彼にとって2枚目のリーダー・アルバムだ。Presto Musicは高価なので、ProStudioMastersのセールでC$13.39で購入した。デビュー作はジャズ、R&B、ヒップホップが混じった作品だったが、今回はそれとは異なり、ジャズ・スタンダードを歌っている。一聴してボビー・マクファーリンを彷彿とさせるスキャットを得意とするジャズ・ヴォーカリストという印象だ。それだけではなく、声に甘さがあり、クルーナーとしての実力も感じさせる。ディストリビューターによると「母はビヨンセやダイアナ・ロス、ルーサー・ヴァンドロス、ホイットニー・ヒューストンらのバック・ヴォーカリストを務め、父はアース・ウィンド・アンド・ファイアーのサクソフォン奏者、セルジオ・メンデスのバンドでホーン奏者として活躍した」とのこと。このアルバムはピアノ・トリオとの共演で、ピアノはシャイ・マエストロ、ベースはリンダ・メイ・ハン・オー、ドラムはネイト・スミスという豪華な布陣。ピアノの気の利いたソロとバッキング、安定感のあるベース、そして多彩なドラムスが素晴らしいサポートを展開している。プログラムは5曲がオリジナルで、その他はスタンダードやジャズ・メンのオリジナル曲が中心。マヨのヴォーカル技術が存分に発揮されており、それがくどくならず、魅力的に響くのが彼の強みだ。軽めの声で美しいディクション、滑らかで疲れない声質、そして美しいファルセットが特徴。オリジナル曲は軽快で明るいものが多く、楽しめる内容だ。「Bag of Bones」(骨の袋)は、タイトルとは裏腹に明るく力強い曲で、静かな部分やフォーク調のパートもあり、変化に富んでいる。「Wish」も同様に前向きなエネルギーを感じさせ、心地よく進む演奏だ。タイトルチューン「FLY」はダンサブルでノリが良く、スコット・マヨのアルトサックスとスキャットとのユニゾンが洒落ていて、バレリー・ピンクストンのバックコーラスが鳥肌もの。スタンダード曲「Just Friends」は、8ビートでモダンなアレンジが効いており、エレクトリック・ピアノとエレキベースのバウンス感がたまらない。「I Didn't Know What Time It Was」はマヨが一人で多重録音し、コーラスやヴォイスパーカッション、スナップまでこなしている。ノリノリの演奏で、聴き手も楽しくなる仕上がりだ。「Frenzy」はロックテイストのダンサブルな楽曲で、エレキベースが効いている。「It Could Happen to You」では、マヨのクルーナーとしての実力が発揮され、彼の幅広い表現力が際立つ。「Spring Can Really Hang You Up the Most」は端正な歌声と共に感動的な演奏が繰り広げられている。最後のショーターの「Speak No Evil」は全編スキャットで、ジャズだけでなくヒップホップの要素も感じさせる。16ビートの高速リズムで驀進する部分は興奮させられる。2分足らずで終わってしまうのが、実に惜しい。録音はヴォーカルとバックのバランスが良く、ビロードのような滑らかさがある。近年、男性ジャズヴォーカリストの数が少ない中で、これほど才能ある歌手の登場は非常に嬉しい。聴いていてウキウキするようなヴォーカル・アルバムに出会うのも久しぶりだ。グラミー賞へのノミネートは間違いないだろう。Michael Mayo:FLY(Artistry Music ART7086)24bit 96kHz Flac1.Michael Mayo:Bag of Bones2.John Klenner & Sam M. Lewis:Just Friends3.Michael Mayo:I Wish4.Michael Mayo:Silence5.Michael Mayo:Fly (feat. Scott Mayo, Valerie Pinkston)6.Richard Rodgers & Lorenz Hart:I Didn't Know What Time It Was7.Michael Mayo:Frenzy8.Jimmy Van Heusen:It Could Happen to You9.Tommy Wolf & Fran Landesman:Spring Can Really Hang You Up the Most10.Miles Davis:Four11.Wayne Shorter:Speak No EvilMichael Mayo: lead vocals (all tracks), backing vocals (all tracks except 8, 9, 10), chorale (track 4),claps (track 5), shaker (track 6), snaps (track 6), vocal percussion (track 6), guitar (track 7)Shai Maestro(p all tracks except 6, Rhodes tracks 1, 2, 4, 11, synth tracks 2, 5, 7, 11, snaps track 2, claps track 5)Linda May Han Oh: upright bass all tracks except 2, 6, 7, 11, e-b tracks 2, 7, 11, claps track 5)Nate Smith(ds all tracks except 6, 11, shaker track 5, tambourine tracks 5, 10, snaps tracks 2, 10,claps track 5, hand drums track 10, clap stack track 10)Scott Mayo(backing vocals track 5, as track 5, ss track 11)Valerie Pinkston(backing vocals track 5)
2024年10月09日
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この前bandcampでガラティの新譜が出ていないかチェックしていたら、以前リリースされていた寺島レコードの「Skyness」がJAzZMUDのラインナップに載っていた。CDは持っているので、ダウンロードしようとしたら、何と無料なことが分かり、即ダウンロード。24bit48kHzだったが、ダウンロードして192kHzにアップコンバートして試聴。比較のためにNASに入っているリッピング後192kHzにアップコンバートした無圧縮のファイルも聴いてみた。これがかなり音がいい。今回のファイルも192kHzにアップコンバートして、比較したところほとんど違いが分からなかった。なぜこんなことになったのか理由は不明だが、カタログからすぐ消えてしまうかもしれないので、このCDを持っていない方は是非ダウンロードして聴いてみてほしい。「無料ダウンロード」という語句にリンクが貼られている。多分登録等は必要ないはずだ。Alessandro Garati:Skyness (jazzmud)24bit 96kHzFlacAlessandro Galati(p)Mats Eilertsen(b)Paolo Vinaccia(ds)
2024年10月07日
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今年度のグラモフォン・アワードの合唱部門にノミネートされた、チャールズ・ヒューバート・パリー (1848–1918) のあまり知られていない合唱曲を聴いた。パリーは「近代イギリス音楽の父」と呼ばれ、教え子にはヴォーン・ウィリアムズ、グスターヴ・ホルスト、フランク・ブリッジ、ジョン・アイアランドがいる。『鎖を解かれたプロメテウスからの情景』はパリーの初期作品で、今回のアルバムが世界初録音だ。原作は、パーシー・ビッシュ・シェリーによるギリシャ神話を題材にした4幕の劇詩(1820年頃)に基づいている。Wikiによれば、物語は、プロメテウスが火を人間に与えたことでジュピターの怒りをかい、インドのコーカサスで鎖に縛られ永遠の苦痛を受けるが、ジュピター失脚後、ゼウスの息子ハーキュリーズによって解放されるという内容だ。Presto Musicで紹介されており、Spotifyで試聴したところ、なかなかいい。ちょうどPresto MusicでChandosのセールがあったので、このアルバムと交響曲第4番のアルバムをダウンロードした。この作品はカンタータに分類されるだろうが、分かりやすい音楽で親しみやすく、清々しい作品だ。しかも劇的で、言葉が分からなくても十分に楽しめる。この曲は、多くのイギリス作曲家に感じられる「イギリス風のサウンド」ではなく、むしろシェーンベルクの「グレの歌」を思い出させる。独唱も合唱も、初録音にふさわしい仕上がりだ。エンディングも華やかで、爽やかさがあり、悪くない。「恵みを受けし二人のセイレーン」はイギリスではよく知られている約9分の合唱曲で、ウィリアム王子の結婚式でも演奏されたそうだ。ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲を思わせる、華やかで祝賀ムードに満ちた曲で、イギリス特有の宮廷音楽の格調高い雰囲気を持っている。ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズという団体は初めて知ったが、1949年にモーツァルトやハイドンの演奏を目的に設立された。2管編成程度の室内楽団だが、通常のオーケストラに引けを取らないサウンドを持ち、非常にレベルが高い。艶やかな音色で、聴いていて気持ちが良い。指揮のウィリアム・ヴァンは、ChandosやSOMM Recordingsでイギリス作曲家の作品を7、8枚ほど録音している。Parry: Scenes from Shelley's 'Prometheus Unbound'(Chandos CHSA5317)24bit 96kHz Flac1.Scenes from Shelley’s ‘Prometheus Unbound’ (1880) Part I. Introduction Part II19.Blest Pair of Sirens (1887) Sarah Fox (s)Dame Sarah Connolly (ms)David Butt Philip (t)Neal Davies (bar)Crouch End Festival ChorusLondon Mozart PlayersWilliam VannRecording venue Church of St Jude-on-the-Hill, Hampstead Garden Suburb, London NW11; 9 and 10 Septembe
2024年10月05日
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待望のジョン・ウィルソンによるオリジナル・スコアのミュージカル第2弾「回転木馬」(1945)がリリースされた。いつも使っているPresto Musicでは3割引きで3,450円。頼みのeClassicalは19.27ドルだったが、ディスカウントコードが使えない。念のため、Prostudiomastersも調べてみたら、セール価格で税込みでも14.95カナダドル。円高もあって、1,600円を切る価格で購入できた。ジョン・ウィルソンはこの作品を「ロジャース&ハマースタインの最大の成果」と評価している。ちなみに、第2幕の「You'll Never Walk Alone」は大ヒットし、サッカーのリバプールやドルトムントなどのチームのアンセム(賛歌)となっているようだ。この経緯についてはこちらに詳しい。個人的には「If I Loved You」が好きなナンバーだ。ブックレットに掲載されているジョン・ウィルソンと、スティーブン・ソンドハイムの伝記で知られる評論家デイビッド・ベネディクトの対談で、ウィルソンはこう語っている。「本当は最初に『回転木馬』をやりたかったが、それには完全な録音が必要だった。しかし多くのナンバーが未録音だったため、あまり野心的でない『オクラホマ!』を最初に録音した。」今回の録音ではオリジナル・スコア(ノーカット)とドン・ウォーカー(1907–1989)によるオリジナルの35人編成のオーケストレーションが使用されている。実際、ブロードウェイや映画のサウンドトラックに比べ、今回の完全全曲版は約2倍のボリュームがあり、これまで聴けなかった音楽も非常に充実している。「ロジャースとハマースタインは『オクラホマ!』以来、従来のミュージカルのように脚本に無関係な音楽を入れるやり方を変え、『回転木馬』はその最大の成果で、オペラのようなスコアを創り出し、すべてがドラマの目的に仕えるようになっている」というウィルソンの指摘は納得できる。その観点から音楽を聴くと、確かにストーリーと音楽が密接に関係していることがよく分かり、オペラを聴いているような気分になるのも理解できる。第1幕の「June Is Bustin' Out All Over(6月は一斉に花開く)」のカラフルな音楽を聴いていると、「ボエーム」第2幕に通じる楽しさが感じられる。彼らがプッチーニのオペラを参考にしたというのも、あながち嘘ではないような気がする。前作「オクラホマ!」同様、さっぱりとしたサウンドでノスタルジーをかき立てる。これがオーケストレーションによるものであると理解できたのは、最近のことだ。セリフもすべて収録されており、聴き手がドラマに没入できる仕組みになっている。キャストは端役に至るまで非常に充実している。特に主役のナサニエル・ハックマン(ビリー)とミカエラ・ベネット(ジュリー)は素晴らしい。また、ジュリーの親友キャリー(シエラ・ボーゲス)のコケティッシュな歌唱もひときわ輝いている。キャリーの夫イノック(ジュリアン・オヴェンデン)のイギリス風のユーモアを感じさせる歌唱も良い。第2幕で歌われる、ジュリーの叔母ネティが歌う「You'll Never Walk Alone」は、クラシックの歌手フランチェスカ・チェジナが担当していて、格調高いパフォーマンスだ。合唱パートはロンドンのウエストエンドで活躍する24人の若手歌手が担当しているが、ピッチの微妙な違いがミュージカルらしさを感じさせる。くすんだサウンドのオーケストラは、初演当時の鄙びた雰囲気を醸し出しており、現代のシャープなサウンドでは味わえない魅力がある。ということで、この「回転木馬」の全貌が表現されたアルバムは、このミュージカルを愛好する人にとっては必聴の作品だろう。You’ll Never Walk AloneJohn Wilson Rodgers & Hammerstein’s Carousel(Chandos CHSA 5342(2))24bit 96kHz Flac 回転木馬の呼び込みを生業とする男ビリー・ビゲロウ…ナサニエル・ハックマンビリーの妻:ジュリー・ジョーダン…ミカエラ・ベネットジュリーの親友:キャリー…シエラ・ボーゲス漁師 キャリーの夫:イノック…ジュリアン・オヴェンデンジュリーの叔母ネティ…フランチェスカ・チェジナビリーを誘惑して窃盗をさせる水夫:ジガー…デイヴィッド・シードン=ヤング星守…マシュー・シードン=ヤング孤独に耐える少女:ルイーズ…Naomi Wakszlak、他カルーセル・アンサンブルシンフォニア・オブ・ロンドンジョン・ウィルソン(指揮)録音 2023年4月11-15日、Susie Sainsbury Theatre, Royal Academy of Music, London, UK
2024年10月03日
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bandcampで偶然見つけたOrchestre national de jazz de Montréal(モントリオール国立ジャズオーケストラ(ONJ)の昨年リリースされたショーター・トリビュートアルバムを聴いた。これが何とも凄まじいアルバムだった。タイトルや収録曲にショーターの作品が多かったため、てっきり彼へのトリビュートかと思ったが、実はそうではないらしい。ディストリビューターによると、このアルバムは「マイルス・デイヴィスがクインテットで作り上げた1965年から1968年にかけての至高の瞬間に敬意を表し、『E.S.P.』(1965)、『Miles Smiles』(1966)、『Nefertiti』(1967)からの楽曲を収録している」ということだった。具体的には、『Miles Smiles』から5曲と「E.S.P.」、「Nefertiti」の計7曲が収められている。編曲はバンドの芸術監督であるジャン=ニコラ・トロティエが担当している。バスクラリネットやフルートも使用されているが、サウンド全体はビッグバンドそのものだ。バンドの演奏は非常に高水準で、その圧倒的な熱量に引き込まれる。しかし、ビッグバンドジャズとして楽しめる一方で、その熱気が曲のもつクールで緻密な側面を弱めている点は否めない。アルバムはショーターの「Orbits」からスタートし、いきなりの激しいテュッティが聴き手を驚かせる。テンポは速く、12分という長尺にもかかわらず、曲があっという間に終わってしまう印象だ。特にソプラノサックスの激しいソロが際立っている。続くテナーサックスのアブストラクトなソロも、激しいドラムのリズムに乗って魅力的だ。「Dolores」では中間部に長いドラムソロがあり、後半のバリトンサックスのソロは圧巻だ。「Nefertiti」ではオスティナートに乗せたテナーサックスのソロが展開されるが、バックがやかましく、曲のもつ神秘的なムードが損なわれているのが残念だ。唯一、マレットを使ったドラミングがかろうじてエジプト的な雰囲気を醸し出しているが、バスクラリネットのサウンドは曲に合っている。「Footprints」ではリードミスが気になるものの、バスクラリネットの艶のあるサウンドが際立っており、続くトロンボーンソロも熱気に満ちている。この部分では、ショーター特有の静寂な空気感が感じられ、悪くない仕上がりだ。後半、ベースのオスティナートに重なるドラム・ソロから、不協和音を伴うテーマが管楽器で演奏される箇所は特に印象的で鳥肌ものだ。フルートとバス・クラリネットのアンサンブルで始まる「E.S.P.」は、テンポが遅く、ややもっさりとした印象を与える。しかしその後、熱のこもったギターソロと狂ったようなピアノソロが続き、曲は一気に勢いを取り戻す。とはいえ、バックが厚すぎてソロが埋没気味になるのが惜しい。後半にはビッグバンドでは珍しいトロンボーンアンサンブルのサウンドも楽しめる。最後の曲、エディー・ハリスの「Freedom Jazz Dance」はパンチが効いており、当夜のハイライトだ。多くのメンバーが交代でソロを取る場面は、会場の雰囲気を一気に盛り上げる。特に後半、ドラムスとトロンボーン、他の管楽器とのトレード・フォーや、テーマの断片が楽器を変えて演奏される部分はスリリングで、聴き手の興奮を最高潮に引き上げる。この曲はビッグバンド用の譜面が市販されており、ビッグバンドのレパートリーとして定着しているのかもしれない。終演後の観客の熱狂ぶりは凄まじく、力強く迫る演奏に圧倒されたのだろう。ショーターやマイルスの音楽はあまり開放的でないが、最後には解放感を味わえたのかもしれない。録音は普通で、分解能はいまいち。低音も物足りないが、ソロの受け渡しやアンサンブルのつながりは自然で、特に問題は感じられない。時折、拍手や歓声が聞こえるが、ホールノイズはほとんど気にならない。Orchestre national de jazz de Montréal:Miles Smiles | Wayne Shines(ONJ)24bit96kHz Flac1.Wayne Shorter:Orbits2.Miles Davis:Circle3.Wayne Shorter:Dolores4.Wayne Shorter:Nefertiti5.Wayne Shorter:Footprints6.Wayne Shorter:E.S.P.7.Eddie Harris:Freedom Jazz DanceOrchestre national de jazz de MontréalRecorded 14th Sep.2019
2024年10月01日
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