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2025年05月22日

雪月花～また、あの場所で～第３話

テーマ：二次創作小説(1163)

カテゴリ：相棒腐向け和風ファンタジー転生パラレル二次創作小説：雪月花～また、あの場所で～

出演者様·制作会社様·放送局様とは一切関係ありません。

両性具有・男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

「何の騒ぎじゃ！」
「嫌～、離してっ！」
守と梓が尊の部屋に入ると、そこでは屈強な男達から逃げて泣き叫ぶ尊の姿があった。
「嫌、好きでもない男に抱かれたくないっ！」
「わがままを言うでない。」
尊の頬を平手で打ちながら、梓はそう言って彼を睨んだ。
「そなたには、一族の血を絶やさぬよう、健康な男子を産む義務がある。」
「母様・・」

「わかった。では、今妾の前で尊を抱いてみせよ、守。」
「それは・・」
「出来ぬというのか？」
「尊様・・」
守は尊を抱き締め、耳元で彼にこう囁いた。
「痛かったら、やめますから。」
梓に命じられるがままに、守は尊を抱いた。
「尊様、これを。」
守が鬼灯の粉末を入れた薬湯を尊に差し出すと、尊はそれを手で払い除けた。
「ひとりにして。」
「わかりました。」

そして、帝を惑わせて殺そうとしたのだが、あと一歩のところで尊は陰陽師に襲われ、瀕死の重傷を負った。
（痛い、苦しい・・）
荒い息を吐き、尊は全身血だらけになりながら京の街を彷徨っていた。
後少しで、上手くいったのに―そんな事を思った尊は、力尽きてある屋敷の前で倒れ、意識を失った。
同じ頃、牛車に揺られながら大河内春樹は仕事の疲れを取る為に仮眠を取っていると、突然牛車が激しく揺れた。

「人が倒れているだと、それはまことか？」
牛車から出た春樹は、牛車の前に一人の少年が倒れている事に気づいた。
「おい、しっかりしろ！」
春樹は少年の華奢な身体を揺さぶったが、ビクともしなかった。
「春樹様、いかがなさいますか？」
このまま傷ついた者を放っておくなど出来なかった春樹は、そのまま少年を自宅まで連れて帰った。
「お帰りなさいませ、春樹様。まぁ、その子は？」
「道端に倒れていた。後でわたしの部屋へ薬師を呼ぶように。」
「はい、わかりました・・」
女房達は春樹が見知らぬ少年を抱いて帰宅した事に気づいて皆怪訝そうな表情を浮かべていたが、すぐに春樹の命に従った。
「う・・」
「目が覚めたか？」
「あなたは・・」
「わたしは大河内春樹、陰陽師だ。」
「陰陽師・・」
尊の脳裏に、自分を襲った陰陽師の顔が浮かび、彼は思わず悲鳴を上げた。
「嫌、来ないで！」
「落ち着け、わたしは味方だ！」
「嫌～！」
春樹は、薬師が来るまで尊を落ち着かせた。
「一月経てば、怪我は治りましょう。」
「そうか。」
尊の怪我が治るまで、春樹は彼を看病することにした。
「なに、春樹が？」
「如何致しましょうか？」
「放っておけ。」
「は・・」
春樹の父・直樹は、そう言うと溜息を吐いた。
―おい、まだ“アレ”は見つからないのか？
―あれから数日も経っているぞ・・
―陰陽寮は一体何をしているのやら・・
春樹が出仕すると、宮中では帝を惑わした妖狐の事で持ちきりとなっていた。
「春樹殿、おはようございます。」
「おはよう。何やら宮中が騒がしいようだが・・」
「昨夜、帝を惑わした妖狐が宮中に現れ、始末しようとしたのですが、後少しの所で逃げられました。」
「そうか・・」
「早く、見つかると良いのですが・・」
その時、春樹は昨夜の事を思い出していた。
昨夜、自分が拾った少年は、もしかして、帝を惑わした妖狐なのではないか―そんな事を春樹が思っていると、そこへ春樹の師匠である杉下右京がやって来た。
「何か浮かない顔をしていますね。」
「いいえ、何でもありません・・」
「顔色が悪いようですが、休んだ方が良いですよ。」
「わかりました。」
仕事を終え、春樹は尊をこれからどうしようかと思いながら牛車に揺られていると、女の悲鳴が聞こえて来た。
「助けて下さいまし、そこの方！」
牛車から降りた春樹に、一人の女が抱き着いてきた。
「一体、何があったのですか？」
「かかったな。」
女はニヤリと笑いながら春樹を見ると、鋭い爪で顔を引っ掻いた。
「春樹様！」
「お前、どうしてここへ？」
「誰かと思うたら帝を惑わした化け狐ではないか。妖の癖に、何故人を助ける？」
「お前には、わからないだろう。」
尊は冷たい口調でそう吐き捨てるように言った後、女に向かって炎を投げた。
その炎はたちまち女の全身を包んだ。
「何故、わたしを助けた？わたしは・・」
「あなたが好きだからです。」
尊は祭文を唱えた後、そっと春樹の頬を撫でた。
「そうか・・」
「あの、僕を殺さないんですか？」
「何故、そう思うんだ？」
「僕は、帝を惑わした妖狐ですよ。」
「あの女を、お前の身代わりにすればいい。ここに居るのは、お前とわたしの二人だけだ。」
「そんな事をして、大丈夫なんですか？」
「あぁ。」
その日から、尊は春樹と共に暮らし始めた。
尊は春樹と共に過ごす日々の中で、幸せを感じていた。
やがて彼は、春樹との子を産み、その子を春樹と共に大切に育てた。
そんな幸せに満ちた日々は、長く続かなかった。
帝に、春樹が尊を匿っていた事が知れ、終わりのない逃亡生活が始まったのだった。
「僕が、この子を連れて妖狐界へ帰れと？本気で言っているんですか？」
「あぁ、本気だ。せめて、お前と子供だけでも安全な所へ・・」
「嫌です、ずっとあなたと一緒に居たいです！」
尊と春樹が今後の事について話し合っていた時、屋敷の外が急に騒がしくなった。
「居たぞ！」
「妖は殺せ、陰陽師は生け捕りにしろ、いいな！」
「春樹様・・」
「早く子供を連れて、逃げろ！」
「あなたを置いて逃げられません！」
尊と子供を春樹が安全な場所へと避難させようとした時、帝が放った追手の兵が、尊たちに向けて矢を放った。
「尊、危ない！」
「春樹様！」
追手が放った矢は、春樹の胸に深々と突き刺さった。
そこで彼は、長い夢から目を覚ました。
（また、あの夢か・・）
眠い目を擦りながら春樹がデスクの上に置かれている時計を見ると、それは11時をさしていた。
今日は色々と仕事が立て込み、定時に上がるつもりだったのだが、溜まった仕事を片付けてゆく内に、こんな時間になってしまった。
パソコンの電源を切り、部屋の電気を消した春樹は、誰も居ない廊下を歩いていた。
エレベーターを待っていると、何処かで鈴の音が響いたような気がした。
（気の所為か・・）
春樹がエレベーターに乗り込んだ後、また何処かで鈴の音が響いた。
疲れが溜まっている所為で、幻聴に襲われているのだろう―春樹がそんな事を考えながら地下駐車場へと向かうと、愛車の前に一人の青年が腰掛けている事に気づいた。
細身のスーツを着て、シャツの胸元をはだけさせた彼は、琥珀色の瞳で春樹を睨んでいた。
「何だ、貴様？」
「お前が、俺の恋敵か？」
「その汚い手を車から退けろ。」
「フン、つまらん男だな。」
青年は、そう言って舌打ちすると、春樹の前から煙のようにその姿を搔き消した。
「何だったんだ・・」
愛車を自宅まで走らせながら、春樹がそんな事を思っていると、道の向こうから黒い影のようなものがやって来て、さぁっと春樹の横を通り過ぎた。
―春樹さん・・
黒い影が横切った時、春樹の耳元で若い男のような声が聞こえて来たような気がした。
その若い男の声に、春樹は聞き覚えがあった。
（あの声は、まさか・・）
「お帰りなさい、春樹様！」
春樹が自宅マンションのリビングに入ると、そこには何故か着物に割烹着姿の尊がアイランドキッチンで料理をしていた。
「もうすぐご飯、出来ますからね。」
「何故、お前がここに居る？」
「春樹様、そちらの方はどなたです？」
尊は完成した料理を皿に載せながらそう言うと、春樹の背後に立つ男を見た。
男は三十代位で、虚ろな瞳で尊を睨みつけていた。
「誰も居ないが？」
「そうですか。」
尊はそう言って、出来上がった料理をダイニングテーブルの上に置いた。
「いただきます。」
ダイニングテーブルの上に並べられていたのは、鯖の塩焼きと味噌汁、ご飯というオーソドックスなメニューだった。
「美味い。」
「良かったぁ。初めて料理したので、上手くできているかどうか不安だったんです。」
「そうか。」
夕食を食べ終えた春樹が浴室へと入ってゆくのを見届けた後、尊は自分を睨みつけている男を見た。
「あなた、いい加減成仏なさったら如何です？未練がましい男は嫌われますよ？」
「うるさい、春樹さんは俺のものだ！」
「あなた、既婚者だった癖に女の愛人と奥さんを不幸にした挙句、自害までしたのに春樹様にまとわりつくなんて、図々しいにも程がありますよ。」
「うるさいっ！」
尊に苛立った男は彼に向かって“念”を飛ばして来たが、尊は結界を張ってそれを防いだ。
「ここから立ち去れ！」
「ぎゃぁぁ～！」
尊の攻撃を受けた男は、そのまま消えた。
「何か今、音がしなかったか？」
「いいえ、気の所為でしょう？」