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2007年02月23日
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永島慎二の「黄色い涙」が 映画になるという


永島慎二の絵はしかし、意外にも私たちの世代には馴染み深いものになっている。彼が「柔道一直線」の絵を描いていたからだ。(原作は梶原一騎)私はそのマンガが最高潮の頃、中学校に入り柔道を始めた。当然二段投げ、地獄車、大噴火投げは試してみた。テレビの影響もあり、つま先でピアノを弾くということも話題にはなったが、さすがにこれは試したものはいない。(二段投げ等、試してみてわかったのは、「あんた、担いだ時点で勝っているがな」ということ)

永島慎二の真骨頂はしかし、柔道マンガではなく、「漫画家残酷物語」や「フーテン」など、貧しい青年群像を描くことにあった。

この作品にこんな場面がある。
一間三畳の下宿に五人の若者が住んでいる。詩人を目指す井上はめかしこんで近くの喫茶店に出かける。残ったものは貴重な食費を削ってまで毎日喫茶店の女の子に逢いに行く彼を感心してこんな会話を交わす。「あすこはその昔ならコーヒー一杯50円だった。安かったなあ。」「今は80円だからな」「我々の食事代の二回分に当たる。」
井上君の恋は、哀れ、ご想像の通り。一日の食事代120円というのは、60年代初めでもおそらく最低の生活だったと思われる。彼らには金がなく、仕事も時々にしかなく、将来の展望はほとんどなかった。けれども、現代のワーキングプアーと決定的に違うのは、楽天的であるということだ。彼らには「若さ」と「夢」があり、しかも60年代の始めの時代は彼らに全く「シンクロ」していた。

この映画が現代に作られる意義はなんだろう。現代と変わっているここと変わっていないことは何だろう。「若さ」と「夢」は今の若者にもあるだろう。しかしそれを取り巻く「現実」は変わっている。60年代の初め、雇用は上向き、社会保障は年々充実していった。現代はその全く反対だ。このマンガには社会情勢は一切描かれていない。描く必要がなかったからである。同時代を描いていたので、すべては自明のことであった。村岡栄がセキと井上に出会ったとき、こんな感想を抱く。「二人とももう何日もまともなものも食べてなく‥‥‥自分の好きなものを推し進めるために満足にメシが食えないことがあってもまったくあたりまえなのだという顔つきだ。」彼らの顔つきには根拠があった。「夢」を犠牲にすれば「正社員」になれたのだ。そんな社会情勢を、現代との違いを明確に描かなかったらならば、この映画は「昔のワーキングプアには夢があった」などというかえって有害な映画になるだろう。





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最終更新日  2007年02月24日 10時39分30秒
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