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2007年09月26日
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カテゴリ: 水滸伝

「水滸伝12 炳乎の章」(集英社文庫 北方謙三)

聞煥章は青蓮寺の優秀なブレーンである。政策を立て、実際に実戦部隊に近いところで活躍するから、若手の政治家の役割をもする。しかし、彼には梁山泊のような「志」は無い。聞煥章は言う。
「私は、どんな手段を使っても、梁山泊を潰したいと思っている。国がどうとか、そういうことではない。私は、宋と言う国の、青蓮寺と言う組織で、仕事をすることになった。その仕事を全うすることで、歴史が動くとも思っている。だから、今直面しているものが全てなのだ。」
「国家観など無駄な御託と言うことか?」
「王安石が、何をなしえた。自分の理想とする国家を作ろうとしたために、逆に混乱を招いた。新法党と旧法党の対立は、開封府のみならず、地方の隅々まである。」
「しかし王安石は」
「よせ、李富。この国の、二百年、三百年さきのことまで考えても、わずか十数年でこの混乱ではないか。国家のありようを標榜するものを、私は信じない。」


確かに、「自民党をぶっ壊す」と登場した某首相の掛け声はたった6年前の出来事であったけれども、いまは純粋派閥内閣と言うべきものが出来上がり、「美しい国」のありようを形だけでも唱えた前首相は神経衰弱に陥り、政治を投げ出した。「祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。」(ホホエミさんからコピーさせていただきました^_^;)けれども、聞煥章の言葉は、私には霞ヶ関でシュプレヒコールを上げていたときに、まるで聞こえないかのごとくに談笑しながら省庁の中に消えていった背広姿を思い浮かべる。日本の政治だけではない。日本のあらゆる『長』は優秀な人で五年先、少し優秀な人で三年先、多くの人間は一年先の自分の人事のことしか考えていない。聞煥章の中には未来を変える発想は無い。悪しき現実の中での改革でしかない。
私は聞煥章に反対する。王安石のことはよく知らない。けれども、たった一人の王安石ではなく、全ての『長』が国家百年先のことを考えるような国だったならば、目先の利益のために外国の軍隊を自国に置き、国内自給率が40%を切るような国にはしなかっただろう。大国に褒められたいために嬉々として海上ガソリンスタンドを買って出るようなことはしなかっただろう。
梁山泊は小説の中の架空の国である。だからこそ、『志』を『理想』を託すことが出来る。

「そうだ。男は借りなど作らぬものだ。饅頭ひとつ返すために、俺は梁山泊に行くのだからな。」
「それはいい。それぐらいの気持ちで、人生を決めることなど、関勝殿ぐらいしか出来ないだろう。」
「軽くなった。」
「なにがです?」
「軍人でなくなったら、すべてが。」
関勝は声を上げて笑った。
城外にある民家もなくなり、行く手には原野が拡がっていた。


22年間つとめた仕事場をやめたきっかけは、今から思えば単なるきっかけだった。もうずっと前から、そう10年ほど前から自分の思う人生とその仕事とが合わなくなっていたのだろう。「軽くなった」そう思う瞬間は私にもあった。つい最近も前の仕事場の同僚から「顔が前よりも生き生きしている」といわれた。
けれども関勝と同じく、行く手に原野は拡がる。小説とは違う、現実との闘いがある。決して美しくはないけれども、男の決断のひとつの姿だろう。





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最終更新日  2007年09月26日 22時38分57秒
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