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2008年09月30日
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カテゴリ: 邦画(08)
「そんな権威、捨てちゃえっ」

トウキョウソナタ.jpg
総務課長の佐々木さんは一回り年下の上司との面接で「中国大連に支店を作るのであなたの仕事はなくなります」といわれ、その上で「あなたはどういう仕事をして会社に貢献してくれますか?」と突然に聞かれる。「それとも辞められますか?どちらもあなたの自由です。」とも言われる。実質的リストラ勧告である。総務一筋に働いてきて、電車騒音はあるけれども郊外に一軒家を買い、妻と大学生と小学生の息子を育ててきたのだと自負している佐々木さんは、衝動的に辞めてしまう。もちろん会社側としては思う壺である。それまで一方的に上からの命令で機械のように働かせて、「どのように貢献してくれますか?」と突然そう言って中年男を追い詰めるのが、まあリストラ担当の常とう手段なのだろう。

佐々木さんは見事に偽装会社勤め人になる。家族には何も言わずに出勤し、背広姿で黙々とハローワークに並び、公園の炊き出しに並ぶ。そこで同じくリストラされた高校の同級生に出会う。そしてもう二度と前の生活に戻れないことを思い知らされるわけだ。前に 湯浅誠の「反貧困」 の記事でも書いた。現代は一度落ち始めると途中で止まることができない「滑り台社会」なのである。まず「正社員」というセーフティネットから外れる。その次に助けてくれるはずの社会保険のネットも、生活保護のネットも、「穴」がたくさんあいているのだ。ある日、自負心から会社を辞めた男はそうやってやすやすと浮浪者になるかもしれない道に足を踏み出すのである。

……ここまでが導入部。

監督・脚本 : 黒沢清
出演 : 香川照之 、 小泉今日子 、 小柳友 、 井之脇海 、 井川遥 、 津田寛治 、 役所広司

「行っちゃったな救命ボート。女と子供と若者だけがあそこに乗っている。」リストラされた同級生がぽつりと言う。
大学生の長男は生きている実感がわかない生活にイライラしている。「家族の幸せしか考えない、そんなんだから親父はだめなんだ。世界の幸せを考えないと。日本を守っているのはアメリカの軍隊だ。それならば僕がアメリカの志願兵になってどうして悪い。」現代日本には実際は制度はないが、米軍志願兵試験を受けて長男は米軍に入隊する。そしてすぐに戦地の中東に送られる。
次男は本音で先生の悪口を言ったら、クラス全員が先生をいじめるモードに入って戸惑ってしまう。学校逃避として美人のいるピアノ教室へ給食費をくすねて通う。


ずっと描き出されるのは、「崩壊する家族」寸前の物語である。浮浪者、戦死、登校拒否、家出。「CURE」や「回路」でもおなじみ、「その次に来るであろう恐怖」をじっくりと見せる。もし佐々木さんが浮浪者にならないで、何とか苦労しながら生きていく道を選ぶことができるのだとしたら、それは曲がりなりにも彼が築いてきた「家族」という貯金のおかげなのだろう。この貯金は足し算ではない。時々引き算も割り算もあるけれども、時々サプライズ的な掛け算もあるのである。





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最終更新日  2008年09月30日 07時41分47秒
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