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2014年02月02日
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テーマ: 本日の1冊(3697)
カテゴリ: 水滸伝

「史記 武帝紀5」北方謙三 ハルキ文庫

北方版「李陵」であることは公表されているので、そのつもりで読んでいる。だとすれば、この巻がクライマックスになるはずである。どうしてあとニ巻も残っているのか不思議なくらいである。

李陵は遂に匈奴と全面対決をして捕らえられ「族滅」(武帝の逆鱗に触れ一族皆殺し)を受けて、慟哭する。

司馬遷は李陵を擁言し宮刑(睾丸を抜き取られる刑)を受け、慟哭する。

匈奴に捕らえられた蘇武はバイカル湖の畔で哭くことなく独り三冬を越す。

漢(おとこ)は、それでも立ち上がる。どのように立ち上がるのか。それがこの小説の最大の見せ場である。


男らしく生きたかっただけだ。そのために、幼いころから武技を磨き、軍人になった。もっとも男らしく生きられる場所は、そこだと思ったからだ。
戦に出るのは、死ぬことだ、と教えてくれたのは、祖父の李広だった。祖父は自裁というかたちで死んだが、それもまた戦だったのだ、と衛青は言った。
男らしく生きられる場所が、いまはもう、ここしかなくなった。(356p)

日々は過ぎていく。
なぜ死ねないのか、ということも、少しずつわかってきた。男ではなくされた。しかし、心の男まで失っていない。心の中の男は、志を持っていた。憤りの中で死んでいった、父から受け継いだ志である。
(略)父が記述したものを、再び読み返した。自分が記述したものも、読んだ。
なにかが、足りない。そう感じた。
それからは、足りないものがなにかを、見つけようとする日々になった。
もっと、いいものが、書ける。書けるはずだ。ただ記述すれば、人は感情に左右される。思いこみたい、という欲求もある。しかし、それは歴史の記述ではない。(184p)

「生き延びたのか、蘇武」
「ああ」
「羊も、食わなかったのだな?」
「食わない。あれが仔を産んだら、俺は帰れるのだから」
「雄が仔を産むかよ」
「産むさ、いつか」
捜牙支は、呆れたような顔をしていた。(略)
それから捜牙支は穹盧の中を見回した。
「こりゃ、大したもんだ。これだけできるとはな。まあ、俺は望みはない、と思っていたんだが」
「運がよかった」
「運だけじゃねぇさ」(164p)


そして、武帝は独り老いてゆくのである。

2014年1月20日読了





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最終更新日  2014年02月04日 16時14分28秒
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